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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1331197
異議申立番号 異議2016-700262  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-30 
確定日 2017-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5785307号発明「音響低減ポリマー中間層」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5785307号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5785307号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 特許第5785307号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5785307号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成18年3月16日(パリ条約による優先権主張 2005年3月17日 米国)を国際出願日とする出願である特願2008-502082号出願の一部を新たに平成26年6月2日に特許出願したものであって、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?7に係る特許について、特許異議申立人株式会社クラレ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年5月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年8月22日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年9月30日に申立人から意見書が提出された。
その後、平成28年12月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、本件訂正請求に対して平成29年4月21日に申立人から意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア.?ス.のとおりである。
なお、訂正事項13に関して、本件訂正請求書の「7.イ(ス)」では、明細書段落【0069】の【表2】中「シート1および2の3GEH含有量の測定された量(phr)*」の列の右に「シート1および2の3GEH含有量の差(phr)」を追加し、「中間層番号7」の「シート1および2の3GEH含有量の差(phr)」の計算結果を「32.9」と訂正するとなっているが、本件訂正請求書に添付された訂正明細書の段落【0069】の【表2】では、当該箇所は「34.9」となっているので、「34.9」として判断する。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「当該第2層における可塑剤の量は、当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも12部多く」とあるのを
「当該第2層における可塑剤の量は、当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多く」に訂正する。(下線部が訂正箇所を示す。以下、同じ)

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正し、引用する請求項を「請求項1に記載の」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正し、引用する請求項を「請求項1に記載の」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正し、引用する請求項を「請求項1、3?4のいずれか1に記載の」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正し、引用する請求項を「請求項1、3?5のいずれか1に記載の」に訂正する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に
「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを
「共押出ポリマー中間層」に訂正し、引用する請求項を「請求項1、3?5のいずれか1に記載の」に訂正する。

ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ケ.訂正事項9
明細書段落【0069】の【表2】中「中間層番号7」の「多重シートにおいて配合された3GEH含有量」の欄に「75」とあるのを「72.9」と訂正する。

コ.訂正事項10
明細書段落【0069】の【表2】中「中間層番号7」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「37.6」とあるのを「37.8」と訂正する。

サ.訂正事項11
明細書段落【0069】の【表2】中「中間層番号8」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「37.8」とあるのを「37.6」と訂正する。

シ.訂正事項12
明細書段落【0069】の【表2】中「中間層番号9」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「36.0」とあるのを「38.0」と訂正する。

ス.訂正事項13
明細書段落【0069】の【表2】中「シート1および2の3GEH含有量の測定された量(phr)*」の列の右に「シート1および2の3GEH含有量の差(phr)」を追加し、「中間層番号」の「1」?「9」の「シート1および2の3GEH含有量の差(phr)」の計算結果「-」 「-」 「16.0」 「14.0」 「13.0」 「35.7」 「34.9」 「37.9」 「37.9」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
事案に鑑み、明細書段落【0069】の【表2】に関する訂正事項9?13について、まず検討する。
また、本件特許に係る出願は、外国語書面出願であるので、必要に応じて、外国語書面(以下、「本件外国語書面」という。)の対応する表を括弧内に示す。

ア.訂正事項9について
訂正前の明細書段落【0069】の表2(本件外国語書面Table2)中「中間層番号7」の「多重シートを有する中間層の構成」の「シート2」には、「PVB10」と記載されている。表1(本件外国語書面Table1)によれば、「PVB10」の「3GEH含有量(phr)」は「72.9」で、表1中「3GEH含有量(phr)」の欄に「75」なる値は記載されていないから、表2中「多重シートにおいて配合された3GEH含有量」の欄に「75」とあるのは誤記と認める。訂正事項9は、誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項9は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ.訂正事項10について
訂正前の明細書段落【0069】の表2(本件外国語書面Table2)中「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」は、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」の「シート1」と「シート2」との値の差であるから、「中間層番号7」については、75.6(シート2)-37.8(シート1)=37.8が正しく、明細書段落【0069】の表2中「中間層番号7」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「37.6」とあるのは誤記と認める。訂正事項10は、誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項10は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ.訂正事項11について
訂正前の明細書段落【0069】の表2(本件外国語書面Table2)中「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」は、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」の「シート1」と「シート2」との値の差であるから、「中間層番号8」については、72.7(シート2)-35.1(シート1)=37.6が正しく、明細書段落【0069】の表2中「中間層番号8」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「37.8」とあるのは誤記と認める。訂正事項11は、誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項11は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ.訂正事項12について
訂正前の明細書段落【0069】の表2(本件外国語書面Table2)中「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」は、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」の「シート1」と「シート2」との値の差であるから、「中間層番号9」については、73.0(シート2)-35.0(シート1)=38.0が正しく、明細書段落【0069】の表2中「中間層番号9」の「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に「36.0」とあるのは誤記と認める。訂正事項12は、誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項12は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ.訂正事項13について
訂正前の請求項1の第1層(第3層)と第2層との「可塑剤の量」の差の求め方に関連して、明細書段落【0010】に「本明細書全体を通して、ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合、この特定のシートの可塑剤含有量は、この特定のシートを製造するために使用された溶融物中の可塑剤のphrを参照して規定される。」と記載されているが、訂正前の明細書段落【0069】の表2の場合は、「ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合」(表1参照)に該当するが、訂正前の表2に、段落【0010】の記載に基づく第1層(第3層)と第2層との「可塑剤の量」の差が記載されていなかった。訂正事項13は、段落【0010】の記載と表2との整合をとるためにされたもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項13は、明細書段落【0010】の記載、表1及び表2に基づき、シート1とシート2の配合された3GEH含有量を、単純に減算して求めたもので、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ.訂正事項1について
訂正事項1は、「当該第2層における可塑剤の量」について、訂正前の請求項1の「当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも12部多く」を、「当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多く」と限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、明細書段落【0010】の記載、【0068】の表1及び【0069】の表2(中間層番号6、8、9)に基づくもので、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

キ.訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1に 「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを「共押出ポリマー中間層」に訂正するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ク.訂正事項3?7について
訂正事項3?7のうち、特許請求の範囲の請求項3?7に 「共押し出しされたポリマー中間層」とあるのを「共押出ポリマー中間層」に訂正する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3?7のうち、特許請求の範囲の請求項3?7で、引用する請求項から請求項2を削除する訂正は、訂正事項8により請求項2を削除することに伴い、整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3?7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ケ.訂正事項8について
訂正事項8は、請求項2を削除するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2?7とを対象とするものであるから、本件訂正は、請求項1?7について、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正を認める。

3.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?7に係る発明(以下、「本件訂正発明1?7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第1層;
当該第1層に直接接触して配置されており、可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第2層;及び
当該第2層に直接接触して配置されており、可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第3層を含み、
当該第2層における可塑剤の量は、当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多く、
当該第2層が、当該第1層及び当該第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも2%少ない残留ヒドロキシル含有量を有し、
当該第1層および当該第2層は、それぞれ5mol%未満の残留アセテート含有量を有する;
共押出ポリマー中間層。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも4%少ない残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項4】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも8%少ない残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項5】
前記第2層は17%未満の残留ヒドロキシル含有量を有し、前記第1層は20%未満の残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1、3?4のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項6】
前記第1層及び前記第2層はそれぞれ3mol%未満の残留アセテート含有量を有する、請求項1、3?5のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項7】
前記第1層及び前記第2層はそれぞれ1mol%未満の残留アセテート含有量を有する、請求項1、3?5のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。」

4.取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して平成28年5月20日付け及び平成28年12月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、すべて通知した。

[理由1].本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2].本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由3].本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


[理由1](36条第4項第1号)
(1)段落【0069】の【表2】の右端の欄「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の、中間層7?9についての値(中間層7は37.6、中間層8は37.8、中間層9は36.0)の算出根拠が不明である。(誤記であれば、算出の根拠を説明されたい。)(中間層3?6の値についても同様。)
(2)ポリマーシートの可塑剤含有量について、段落【0010】に「・・・本明細書全体を通して、ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合、この特定のシートの可塑剤含有量は、この特定のシートを製造するために使用された溶融物中の可塑剤のphrを参照して規定される。」と記載されているが、表2の段落【0069】の【表2】の右端の欄「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」は、この定義に反するのではないか。
(3)段落【0069】の【表2】の「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」の欄及び「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の欄に関して、「*中間層は、低温、通常10℃、または室温、通常20から23℃において貯蔵される。」とあるが、中間層の貯蔵を「低温、通常10℃」と「室温、通常20から23℃」とのいずれの条件で行ったのかが不明である。(中間層の貯蔵条件が、「低温、通常10℃」と「室温、通常20から23℃」とでは、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」が異なるのではないか。)

[理由2](29条第2項)
甲第1号証:特開2001-48600号公報
甲第2号証:特開平6-115980号公報
甲第3号証:国際公開第97/24230号

請求項1?4、6?7に係る発明は、甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載のものに基づき、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得た程度のものである。
請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載の発明および甲第2号証、甲第3号証に記載のものに基づき、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得た程度のものである。

[理由3](36条第6項第2号)
請求項1?7は、「ポリマー中間層」という物の発明であるが、請求項1?7の「共押し出しされた」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項1?7に係る発明は明確でない。

5.甲号証の記載
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)(特開2001-48600号公報)
甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている(特に、【請求項1】、【0001】、【0021】、【0063】、【0065】、【0074】、【0078】、【0082】、【0083】、【0091】、【0093】の【表1】の実施例3参照)。
「可塑化されたポリビニルブチラール樹脂を含む樹脂層A;
当該樹脂層Aに直接接触して配置されており、可塑化されたポリビニルブチラール樹脂を含む樹脂層B;及び
当該樹脂層Bに直接接触して配置されており、可塑化されたポリビニルブチラール樹脂を含む樹脂層Aを含み、
当該樹脂層Aにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し39部であり、当該樹脂層Bにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し60部であり、
当該樹脂層Aがブチラール化度68.9モル%、アセチル基量0.9モル%であり、当該樹脂層Bが、ブチラール化度64.5モル%、アセチル基量13.0モル%であり、
多層成形機を用いて一体成形された三層中間膜」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)(特開平6-115980号公報 )
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0027】他方、ポリビニルアセタール樹脂(B) において、アセタール基が結合しているエチレン基とアセチル基が結合しているエチレン基との和の、主鎖の全エチレン基に対するモル分率は、樹脂(A) の対応する値より5モル%以上低い値に限定される。その理由は、この値が樹脂(A) の対応する値より5モル%以上低くないと、ポリビニルアセタール樹脂(A) と樹脂(B) の各動的粘弾性的特性が近似しているため、広い温度領域において良好な遮音性能を得ることができないからである。・・・」
「【0028】ポリビニルアセタール樹脂(A) および樹脂(B) において、アセチル基が結合しているエチレン基の、主鎖の全エチレン基に対するモル分率は4モル%以下に限定される。その理由は、この量が4モル%以上では耐熱性、耐候性等が十分に発揮されないからである。ポリビニルアセタール樹脂において、アセチル基が結合しているエチレン基の、主鎖の全エチレン基に対するモル分率の特に好ましい値は、0?2モル%である。」
「【0095】
【表1】



(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)(国際公開第97/24230号)
甲3には、以下の事項が記載されている(訳文は、申立人の提出したとおり。)。
「可塑剤と樹脂の相溶性は、安全積層品および中間層が使用に付され得る様々なあらゆる条件に曝された際に、安全積層品においてガラス層の間の中間層として適用されているシートの一体性を維持する上で重要である。」(2頁24行?29行)
「重量に基づいて、PVBは典型的には、19.5%未満、好ましくは約17?19%の、ポリビニルアルコール(PVOH)として計算されたヒドロキシル基、0?10%、好ましくは0?3%の、ポリビニルエステル(例えばアセテート)として計算された残留エステル基を有する。」(3頁3行?8行)

6.当審の判断
事案に鑑み、36条の理由1及び理由3をまず判断する。
(1)理由1(36条第4項第1号)
ア.「訂正前の段落【0069】の【表2】の右端の欄「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」の、中間層7?9についての値(中間層7は37.6、中間層8は37.8、中間層9は36.0)の算出根拠が不明である。(誤記であれば、算出の根拠を説明されたい。)(中間層3?6の値についても同様。)」については、訂正事項10?12で、訂正されており、算出根拠は、明確になっている。

イ.「ポリマーシートの可塑剤含有量について、段落【0010】に「・・・本明細書全体を通して、ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合、この特定のシートの可塑剤含有量は、この特定のシートを製造するために使用された溶融物中の可塑剤のphrを参照して規定される。」と記載されているが、表2の段落【0069】の【表2】の右端の欄「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)*」は、この定義に反するのではないか。」については、訂正事項13で訂正されており、段落【0010】の記載と表2とは整合するものとなっている。

ウ.訂正された表2から、配合量から求めた「シート1および2の3GEH含有量の差(phr)」と、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」から求めた「シート1および2の3GEH含有量の測定された差(phr)」とは、差が小さく(中間層番号6、8、9参照)、中間層の貯蔵条件が、「低温、通常10℃」と「室温、通常20から23℃」とでは、「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」が影響を受けることがあっても、その影響は小さいことがわかる。
そうすると、中間層の貯蔵条件は、当業者は「低温、通常10℃」と「室温、通常20から23℃」とのいずれかを選ぶことにより「4週間後の各シートにおける測定された3GEH含有量(phr)*」を求められることは容易に理解できる。

エ.小括
以上のとおりであるから、理由1については理由がない。

(2)理由3(36条第6項第2号)
本件訂正請求により、請求項1、3?7の「共押し出しされたポリマー中間層」との記載は、「共押出ポリマー中間層」と訂正された。「共押出ポリマー中間層」の記載は、ポリマー中間層の状態を表すものであり、また、「共押出」の用語は、フィルムの技術分野で通常使われている技術用語である。
したがって、請求項1、3?7に係る発明は明確でないとはいえない。

(3)理由2(29条第2項)
ア.本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「多層成形機を用いて一体成形された三層中間膜」、「樹脂層A」、「樹脂層B」は、それぞれ、本件訂正発明1の「共押出ポリマー中間層」、「第1層」又は「第3層」、「第2層」に相当する。
両者は、少なくとも以下の相違点1及び2で相違する。
〈相違点1〉本件訂正発明1では、第2層における可塑剤の量は、第1層及び第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多いのに対して、甲1発明では、樹脂層Bにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し60部であり、樹脂層Aにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し39部であり、その差が21部である点。
〈相違点2〉本件訂正発明1では、第2層は、5mol%未満の残留アセテート含有量を有しているのに対して、甲1発明では、樹脂層Bのアセチル基量が13.0モル%である点。

相違点1を検討する。
甲1の【0093】の【表1】の実施例3において、樹脂層Bにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し60部であり、樹脂層Aにおける可塑剤の量は、ポリビニルブチラール樹脂100部に対し39部であり、その差が21部であり、本件訂正発明1の、「第2層における可塑剤の量は、第1層及び第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多い」とは、「第2層における可塑剤の量」の範囲が、明確に相違する。
また、甲2の【0095】の【表1】の実施例1?7及び比較例1?3にも、相違点1に係る事項である「第2層における可塑剤の量は、第1層及び第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多い」ものは記載されていない。
本件訂正発明1は、相違点1に係る事項を有することにより、「音響透過を減少させ、容易に取り扱われ、フロントガラスおよび建築用窓ガラスのための合せガラスパネルなどの、多層構造体中にすぐに組み込まれる、多層中間層を提供する」(本件特許明細書段落【0072】、【0070】の【表3】)との作用効果を奏するものである。
そうすると、相違点1に係る事項が、当業者が容易になし得たものではない。
よって、相違点2を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基づき、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

イ.本件訂正発明3?4、6?7
本件訂正発明3?4、6?7は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含むので、上記6.(3)ア.で述べた理由と同一の理由により、本件訂正発明3?4、6?7は、甲1発明及び甲2記載事項に基づき、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ.本件訂正発明5
本件訂正発明5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、甲3にも、相違点1に係る事項は記載されていないから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲2?甲3記載事項に基づき、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消理由の理由によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1、3?7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1、3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正請求による訂正後の請求項2に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、申立人の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
音響低減ポリマー中間層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー中間層およびポリマー中間層を備えた多層ガラスパネルの分野に存在し、より詳しくは、本発明は多重熱可塑性シートを含むポリマー中間層の分野に存在する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(ビニルブチラール)(PVB)は、安全ガラスまたはポリマー積層板などの光透過積層板における中間層として使用できる、ポリマーシートを製造する際に通常使用される。安全ガラスは、ガラスの2枚のシートの間に配置されたポリ(ビニルブチラール)シートを含む透明な積層板のことをしばしば意味する。安全ガラスは、建築および自動車の開口部における透明なバリアを提供するためにしばしば使用される。このバリアの主たる機能は、物体の衝撃によって引き起こされたエネルギーなどのエネルギーを、開口部またはガラス破片分散体を貫通させることなく吸収し、したがって、閉じ込められた領域内の物体および人物に与える損傷または怪我の程度を最小限にすることである。また、安全ガラスを使用して、音響雑音を減衰させ、紫外(UV)および/または赤外(IR)線透過を低減させ、および/または窓の開口部の外観および美的魅力を増強させることなどの、その他の有益な効果をもたらすことができる。
【0003】
安全ガラスに存在する熱可塑性ポリマーは、ガラスを通る音の透過率を低減させるために、1つまたはそれ以上の変更された物理特性を有している、ポリ(ビニルブチラール)などの、熱可塑性ポリマーの単一層からなりうる。このような音響減衰における従来の試みには、低いガラス転移温度を有する熱可塑性ポリマーを使用することが含まれている。この他の試みには、熱可塑性ポリマーの2つの隣接層を使用することが含まれており、このとき層は異なる特性を有する(例えば、米国特許第5340654号、および第5190826号および米国特許出願2003/0139520A1を参照されたい。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5340654号明細書
【特許文献2】米国特許第5190826号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0139520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
易しい加工処理ができるようにしながら、および光学的な品質に負の影響を与えることなく、多層ガラスパネル、特にポリ(ビニルブチラール)層を含む多層ガラスパネルの音響減衰特性を増強するためには、さらに改善された組成物および方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明は、パネルを貫通して透過される音の量を低減するために、多層ガラスパネルタイプの用途において使用することのできる、多層中間層を提供する。この効果は、一緒に単一の多層中間層にされている、2つ以上のポリマーシートにおいて可塑剤濃度の差異を維持することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
本発明によれば、多層中間層(この中間層は、異なる可塑剤濃度を有する2つのポリマーシートを有する。)を、パネル中に組み込むことによって、驚くべきことに、多層ガラスパネルに優れた音響抑制特性が付与できることがわかった。本明細書全体を通して詳細に記述されているように、異なる可塑剤濃度を安定的に含有するように、ポリマーシートを配合することによって、多層ガラスパネルを貫通する音響透過が、例えば、関心のある周波数または周波数領域において2デシベルを超えて低減できることが発見された。さらに、3つのポリマーシート層を有する実施形態は、取り扱いが容易で、従来法における従来の中間層の直接の代替品として使用されるように配合できるので、本発明の中間層は、適用分野において使用されている製造方法にいかなる変更も加えることなく、多くの適用分野において有用であるはずである。例えば、自動車のフロントガラス分野では、完成したフロントガラスを形成するために使用される積層工程を変更することなく、本発明の中間層によって代替できる、従来のポリマー中間層を使用することを含み得る。
【0008】
本明細書において使用される「中間層」は、フロントガラスおよび建築用窓ガラスにおける安全ガラスなどの、多層ガラス分野において使用できるあらゆる熱可塑性構造体であり、「多層」中間層は、通常積層工程を通じて、2つ以上の個々の層を一緒にして単一中間層にすることによって形成されるあらゆる中間層である。
【0009】
本発明の様々な実施形態において、多層中間層は、本明細書におけるどこか他の場所において詳述されているように、互いに接触して配置された2つのポリマーシートを含み、それぞれのポリマーシートは熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマーは、それぞれのシートが同じであるかまたは異なっていることができる。これらの実施形態において、音響減衰効果は、異なる可塑剤含有量を有するそれぞれのポリマーシートを製造し、次いで2つの層を一緒に積層し、単一の多層中間層を形成することによって、中間層に付与される。ポリマーシートの組成は、1つのポリマーシートから別のポリマーシートへの、可塑剤の正味の移動が無視できるかまたはゼロであり、これによって可塑剤の差を保持するようなものである。
【0010】
本明細書において使用される「可塑剤含有量」は、重量当たりの重量を基準として、樹脂100部当たり(phr)の部として測定できる。例えば、可塑剤の30gがポリマー樹脂の100gに添加された場合は、得られた可塑化ポリマーの可塑剤含有量は、30phrであることになる。本明細書全体を通して、ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合、この特定のシートの可塑剤含有量は、この特定のシートを製造するために使用された溶融物中の可塑剤のphrを参照して規定される。
【0011】
可塑剤含有量が未知のシートに関して、可塑剤含有量は、適切な溶媒または溶媒の混合物を用いて可塑剤をシートから抽出する湿式化学法により求めることができる。試料シートの重量および抽出されたシートの重量を知ることによって、phrで表された可塑剤含有量を計算することができる。2つのポリマーシート中間層の場合、ポリマーシートのそれぞれにおける可塑剤含有量を測定する前に、1つのポリマーシートを別のポリマーシートから物理的に分離することができる。
【0012】
本発明の様々な実施形態において、2つのポリマーシートの可塑剤含有量は少なくとも8phr、10phr、12phr、15phr、18phr、20phr、または25phrだけ、異なる。それぞれのシートは、例えば、30から100phr、40から90phr、または50から80phrを有することができる。
【0013】
本発明の様々な実施形態において、ポリマーシートの熱可塑性ポリマー成分の残留ヒドロキシル含有量は異なっており、安定した可塑剤の差を有するシートを製造することができる。本明細書において使用される残留ヒドロキシル含有量(ビニルヒドロキシル含有量またはポリ(ビニルアルコール)(PVOH)含有量として)は、加工処理が完了した後に、ポリマー鎖に側基として残留しているヒドロキシル基の量を指す。例えば、ポリ(ビニルブチラール)は、ポリ(酢酸ビニル)を加水分解してポリ(ビニルアルコール)とし、次いで、ポリ(ビニルアルコール)をブチルアルデヒドと反応させてポリ(ビニルブチラール)を形成することによって、製造することができる。ポリ(酢酸ビニル)を加水分解する工程において、通常、酢酸側基のすべてがヒドロキシル基へ変換されるわけではない。さらに、ブチルアルデヒドとの反応により、通常、すべてのヒドロキシル基がアセタール基へ変換されるわけではない。したがって、いかなる完成されたポリ(ビニルブチラール)においても、通常、残留酢酸基(酢酸ビニル基として)および残留ヒドロキシル基(ビニルヒドロキシル基として)が、ポリマー鎖の側基として存在することになる。本明細書において使用される残留ヒドロキシル含有量は、ASTM1396に従って重量パーセントに基づいて測定される。
【0014】
本発明の様々な実施形態において、2つの隣接するポリマーシートの残留ヒドロキシル含有量は、少なくとも1.8%、2.0%、2.2%、2.5%、3.0%、4.0%、5.0%、7.5%だけまたは少なくとも10%だけ異なることができる。この差は、より少ない残留ヒドロキシル含有量を有するシートの残留ヒドロキシル含有量を、より多い残留ヒドロキシル含有量を有するシートの残留ヒドロキシル含有量から引き算することによって、計算される。例えば、第1ポリマーシートが20重量%の残留ヒドロキシル含有量を有し、第2ポリマーシートが17重量%の残留ヒドロキシル含有量を有する場合は、2つのシートの残留ヒドロキシル含有量は、3重量%だけ異なる。
【0015】
可塑剤の所与の種類に関して、ポリ(ビニルブチラール)におけるこの可塑剤の相溶性は、ヒドロキシル含有量によって主に求められる。通常、ポリ(ビニルブチラール)の残留ヒドロキシル含有量が多い程、可塑剤の相溶性または収容力がより低減される。同様に、より少ない残留ヒドロキシル含有量を有するポリ(ビニルブチラール)は、可塑剤の相溶性または収容力を増大させることになる。これらの特性を用いて、それぞれのポリ(ビニルブチラール)ポリマーのヒドロキシル含有量を選択し、適切な可塑剤の充填ができるように、およびポリマーシート間の可塑剤含有量の差を安定的に維持するように、ポリマーシートのそれぞれを配合することができる。
【0016】
従来技術において知られているように、残留ヒドロキシル含有量を、反応時間、反応物濃度、および製造工程におけるその他の変数を制御することによって、制御することができる。様々な実施形態において、2つのシートの残留ヒドロキシル含有量は以下の通りである:25%未満の第1シートと23%未満の第2シート;23%未満の第1シートと21%未満の第2シート;21%未満の第1シートと19%未満の第2シート;20%未満の第1シートと17%未満の第2シート;18%未満の第1シートと15%未満の第2シート;15%未満の第1シートと12%未満の第2シート。これらの実施形態のいずれにおいても、2つの層の間のヒドロキシル含有量の差に関して、前のパラグラフにおいて与えられた数値のいずれでも、使用することができる。
【0017】
本明細書において使用されるポリマーシートの引張り破壊応力、または引張り強さは、JIS K6771に記載の方法に従って定義され、測定される。本発明の様々な実施形態において、2つのポリマーシートは以下に従う引張り破壊応力を有し、以下のリストにおける第1ポリマーシートは、より少ない可塑剤含有量を有するポリマーシートである:1平方センチメートルメートル当たり135キログラムを超える第1ポリマーシートと1平方センチメートル当たり120キログラム未満の第2ポリマーシート;1平方センチメートル当たり150キログラムを超える第1ポリマーシートと1平方センチメートル当たり135キログラム未満の第2ポリマーシート;1平方センチメートル当たり165キログラムを超える第1ポリマーシートと1平方センチメートル当たり150キログラム未満の第2ポリマーシート;または1平方センチメートル当たり180キログラムを超える第1ポリマーシートと1平方センチメートル当たり165キログラム未満の第2ポリマーシート;または一般に、2つのポリマーシートは、1平方センチメートルメートル当たり少なくとも15キログラムだけ、引張り破壊応力が異なる。
【0018】
本明細書において使用される従来の合せガラスは、従来の中間層を積層することにより形成され、今日では、通常、商業用合せガラスのために用いられており、従来の中間層は、1平方センチメートルメートル当たり200キログラムまたはそれ以上の引張り破壊応力を有する。本発明のために、従来の合せガラスを、「参照積層パネル」または「参照パネル」と呼ぶ。
【0019】
本発明の中間層からなるガラス積層板を特徴付けるために使用される防音材の改善は、前のパラグラフに記載の参照積層パネルを参照して求められる。ガラスの2つの外層を有する典型的な積層板において、「組み合わせガラス厚さ」は、ガラスの2つの層の厚さの合計であり;ガラスの3つ以上の層を有するより複雑な積層板においては、組み合わせガラス厚さは、ガラスの3つ以上の層の合計であることになる。
【0020】
本発明のために、「一致周波数」は、パネルが、「一致効果」のために音響透過損失において窪み(dip)を示す周波数のことをいう。参照パネルの一致周波数は、通常、2,000から6,000ヘルツの範囲にあり、参照パネルにおけるガラスの組み合わせガラス厚さに等しい厚さを有する一枚仕上げのガラスシートから、以下のアルゴリズムにより実験的に求めることができる:
【0021】
【数1】

式中、「d」はミリメートルで表された全ガラス厚さであり、「fc」はヘルツで表される。
【0022】
本発明のために、音響性能の改善を、参照パネルの一致周波数(参照周波数)における音響透過損失の増加によって測定することができる。
【0023】
固定された寸法の、本発明の積層板または従来の参照パネルの「音響透過損失」は、20℃の固定された温度において、ASTM E90(95)により求められる。
【0024】
本発明の様々な実施形態において、本発明の多層中間層は、ガラスシートの2枚の間に積層された場合、本発明の多層中間層の厚さに匹敵する厚さの単一の従来の中間層を有する比較参照パネルと比較して、合せガラスパネルを通る音響透過を、少なくとも2デシベル(dB)低減させる。
【0025】
本発明の様々な実施形態において、本発明の中間層は、ガラスの2枚のシートの間に積層された場合、比較参照パネルと比較して、参照周波数において、音響透過の減少を少なくとも2dB、より好ましくは4dB、さらにより好ましくは6dB以上、例えば8dB以上、改善させる。
【0026】
多層ガラスパネルを通る音響透過を低減させる隣接するポリマーシートを含む中間層を製造する従来技術の試みは、これらのシート間の様々な組成置換に頼ってきた。例には、異なる炭素長を有するアセタールの使用を教示している米国特許第5190826号、ならびに異なる重合度の使用を教示している日本特許出願3124441Aおよび米国特許出願2003/0139520A1がある。他の2つの特許出願、日本国特許第3377848号および米国特許第5340654号は、組成差として、2つの隣接シートの1つにおいて少なくとも5mol%の残留アセテート水準を用いることを教示している。
【0027】
本発明の、およびこれらの出願において使用されている方法とは明らかに異なる、様々な実施形態において、本発明の2つの隣接ポリマーシートは、前述のように異なる可塑剤含有量を有し、それぞれが5mol%未満、4mol%未満、3mol%未満、2mol%未満、または1mol%未満の、残留アセテート含有量をさらに有する。これらの残留アセテート濃度は、どの組み合わせにおいても、上で与えられた残留ヒドロキシル含有量と結合されて、可塑剤含有量および残留ヒドロキシル含有量において記述された差を有しながら、殆ど、ないし全く残留アセテート含有量を有しない、本発明の2つのポリマーシートを形成することができる。本発明の多層中間層のさらなる実施形態は、3つ以上のポリマーシートを有する中間層を含み、追加のポリマーシートの1つまたはそれ以上が、5mol%未満、4mol%未満、3mol%未満、2mol%未満、または1mol%未満の、残留アセテート含有量を有する。
【0028】
本発明のさらなる実施形態は、可塑剤含有量がより大きいポリマーシートと接触して配置された、第3ポリマーシートをさらに含む前述の実施形態のいずれをも含む。この第3ポリマーシート層の追加は、以下の構造を有する3層構造体をもたらす:可塑剤含有量の比較的少ない第1ポリマーシート||可塑剤含有量の比較的大きい第2ポリマーシート||第3ポリマーシート。この第3ポリマーシートは、第1ポリマーシートと同じ組成を有することができ、またはこの第3ポリマーシートは異なっていることもできる。
【0029】
様々な実施形態において、第3ポリマーシートは、第1ポリマーシートと同じ組成を有しており、取り扱いが比較的容易な2つのシートの間に積層された、取り扱いが比較的困難なポリマーシートを有する3層積層中間層を提供し、取り扱いが比較的容易であり、本発明の中間層の外側の2つのポリマーシートの組成、または類似の加工特性(例えば、ブロッキング傾向)をもたらす組成を有する単一のポリマーシートをこれまで使用していた、現存する工程に直接組み込まれうる、多層中間層をもたらす。
【0030】
単一中間層における3つのポリマーシートを利用する他の実施形態において、第3ポリマーシートは、第1ポリマーシートとは異なる組成を有し、第3ポリマーシートと第2ポリマーシートとの間の組成の差は、第1ポリマーシートと第2ポリマーシートとの間の差について上で与えられた差のどれにでもなることができる。例えば、1つの例示的な実施形態は、20%の残留ヒドロキシル含有量を有する第1のポリマー層||16%の残留ヒドロキシル含有量を有する第2ポリマーシート||18%の残留ヒドロキシル含有量を有する第3ポリマーシートであることになる。この例において、第3ポリマーシートは、少なくとも第3ポリマーシートが第2ポリマーシートのヒドロキシル含有量より2%多い残留ヒドロキシル含有量を有しているという点で、第2ポリマーシートとは異なっていることが注目されよう。勿論、本明細書全体を通して指摘されるその他の差異のいずれによっても、単独でまたは組み合わせ状態において、第3のポリマー層と第2のポリマー層が区別できる。
【0031】
本明細書に記載の3層実施形態に加えて、さらなる実施形態は、さらに少ない残留ヒドロキシルシートを使用できる、4層以上の層を有する中間層を含み、例えば、ポリマーシートの繰り返しは、交互に変わるヒドロキシル含有量および場合により少ないまたは無視しうる残留アセテート含有量とともに、交互に変わる可塑剤含有量を有する。このようなやり方で形成された中間層は、例えば、4、5、6、または10までの個々の層を有することができる。
【0032】
当技術分野において知られている他の従来の層を、本発明の中間層の中に組み入れることができる。例えば、金属化された層、赤外線反射積層(stack)、または上に堆積された他の性能(performance)層を有する、ポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリエステルなどの(本明細書のどこか他の場所において詳細に記述されている)ポリマーフィルムを、本発明のポリマーシートの任意の2つの層の間に含ませることができる。例えば、2層実施形態において、中間層を以下の構成によって製造することができる:比較的大きい可塑剤含有量を有するポリマーシート||性能層を有するポリエステルフィルム||比較的低い可塑剤含有量を有するポリマーシート。一般に、ポリ(ビニルブチラール)、ポリエステルフィルム、下塗層、およびハードコート層などの熱可塑性物質の追加層は、所望する結果および特定の用途に従って、本発明の多層中間層に追加することができる。
【0033】
本発明の様々な実施形態において、異なる可塑剤含有量を有する2つのポリマーシート中間層の特徴である同一の音響低減効果が、共押出法を使用することによって、単一のポリマーシートにおいて達成される。当技術分野において知られているように、共押出を用いて、シート内に領域を有する単一のポリマーシートを形成することができ、それぞれの領域は、多重シートが用いられた場合に、別々の層がそうなるはずの形にほぼ似た形をしている。別々の2つ以上のポリマーシートが互いに接触して配置され、次いで単一中間層に積層される、本発明のそれぞれの中間層実施形態に関して、共押し出しされたポリマーシートが、本発明の積層された中間層における個々の層に対応する、2つ以上の明確な領域を有する実施形態もまた存在する。さらに、別々のポリマーシートが一緒に積層されている本発明の多層ガラスパネル、中間層の製造方法、および多重多層ガラスパネルの製造方法のそれぞれに関して、多層中間層の代わりに共押し出しされたポリマーシートを使用する、類似の実施形態もまた存在している。
【0034】
本明細書において提供される中間層に加えて、本発明はまた、本発明の中間層のいずれかを含む多層ガラスパネルを開口部に配置するステップを含む、開口部を通る音響水準を低減させる方法を提供する。
【0035】
また、本発明は、2つのポリマーシートが、本明細書のどこか他の場所において記述されている通りの、異なる組成を有する、第1ポリマーシートおよび第2ポリマーシートを形成するステップおよび2つのポリマーシートを一緒に積層して中間層を形成させるステップを含む、中間層を製造する方法を含む。
【0036】
また、本発明は、3つのポリマーシートが、本明細書のどこか他の場所において記述されている通りの3層実施形態による組成を有している、第1ポリマーシート、第2ポリマーシートおよび第3ポリマーシートを形成するステップおよび3つのポリマーシートを一緒に積層して中間層を形成させるステップを含む、中間層を製造する方法を含む。
【0037】
また、本発明は、ガラスまたはアクリル層などの、当技術分野において知られている2つの、剛性で透明なパネルの間に、本発明の中間層のいずれかを積層することを含む、多層窓ガラスの製造方法を含む。
【0038】
また、本発明は、本発明の多層中間層を含む、フロントガラスおよび建築用窓ガラスなどの多層ガラスパネルを含む。
【0039】
また、本発明は、本発明の多層中間層を含む、フロントガラスおよび建築用窓ガラスなどの多層ガラスパネルを含む。また、ガラスパネルの代わりに、アクリルなどのプラスチック、または適切な他の材料を有する多層窓ガラスパネルも含まれる。
【0040】
(ポリマーフィルム)
本明細書において使用される「ポリマーフィルム」は、性能強化層として機能する比較的薄い、剛性ポリマー層を意味する。ポリマーフィルムは、ポリマーフィルムがこれ自体で多層窓ガラス構造体に対して、必要な耐貫通性およびガラス保持特性を提供することはなく、赤外線吸収特性などの性能改善をもたらすという点で、本明細書において使用されるポリマーシートとは異なる。ポリ(エチレンテレフタレート)は、ポリマーフィルムとして最も普通に使用される。
【0041】
様々な実施形態において、ポリマーフィルム層は、0.013mmから0.20mm、好ましくは0.025mmから0.1mm、または0.04から0.06mmの厚さを有する。ポリマーフィルム層は、場合により表面処理または被覆されて、接着または赤外線反射などの、1つまたはそれ以上の特性を改善することができる。これらの機能性性能層には、例えば、太陽光に曝された場合、太陽赤外線を反射し、可視光を透過させる多層積層(multi-layer stack)が含まれる。この多層積層は、当技術分野において知られており(例えば、WO88/01230および米国特許第4799745号を参照されたい。)、例えば、1つまたはそれ以上のオングストローム厚さの金属層および1つまたはそれ以上の(例えば、2つの)順番に堆積された、光学的に協力する誘電体層を含むことができる。これもまた知られているように(例えば、米国特許第4017661号および第4786783号を参照されたい。)、金属層を、付随している任意のガラス層の除霜または防曇のために、場合により電気的に抵抗加熱することができる。
【0042】
本発明に用いることができるポリマーフィルムの追加の種類は、米国特許第6797396号に記載されており、金属層によって引き起こされうる干渉をもたらすことなく、赤外線を反射する機能を果たす、多くの非金属層を含む。
【0043】
ポリマーフィルム層は、いくつかの実施形態において、光学的に透明であり(すなわち、層の一方の側面に隣接する物体を、他方の側から層を通して見る特定の観察者の目が、心地よく見ることができる。)、通常、いずれかの隣接ポリマーシートよりも大きい、いくつかの実施形態においては著しく大きい、組成に無関係な引張り弾性率を有する。様々な実施形態において、ポリマーフィルム層は、熱可塑性材料を含む。適切な特性を有する熱可塑性材料の中には、ナイロン、ポリウレタン、アクリル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、酢酸セルロースおよび三酢酸セルロース、塩化ビニルポリマーおよびコポリマーなどがある。様々な実施形態において、ポリマーフィルム層は、よく知られた特性を有する再延伸熱可塑性フィルムなどのポリエステルを含む材料、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンテレフタレート)グリコール(PETG)を含む。様々な実施形態において、ポリ(エチレンテレフタレート)が使用され、様々な実施形態において、ポリ(エチレンテレフタレート)は、2軸方向に延伸されて強度を改善させ、高温に曝された際に熱的に安定化されて低収縮特性をもたらす(例えば、150℃で30分保持した後の収縮は、両方向とも2%未満)。
【0044】
本発明で使用できる、ポリ(エチレンテレフタレート)フィルム用の様々な被覆および表面処理技術は、公表された欧州特許出願番号0157030において開示されている。本発明のポリマーフィルムは、また、当技術分野において知られているハードコートおよび/またはおよび除霜層を含むことができる。
【0045】
(ポリマーシート)
本明細書において使用される「ポリマーシート」は、積層窓ガラスパネルに十分な耐貫通性およびガラス保持特性を付与する中間層として使用するのに、単独でまたは2層以上の層の積層状態において適している薄層に、適切ないずれかの方法によって形成される、いかなる熱可塑性ポリマー組成物をも意味する。可塑化ポリ(ビニルブチラール)は、ポリマーシートを形成するために最も一般に使用される。
【0046】
ポリマーシートは、適切ないかなるポリマーをも含むことができ、好ましい実施形態において、ポリマーシートはポリ(ビニルブチラール)を含む。ポリマーシートのポリマー成分としてポリ(ビニルブチラール)を含む、本明細書において与えられた本発明の実施形態のいずれにおいても、ポリマー成分が、ポリ(ビニルブチラール)からなるまたは本質的になる、別の実施形態が含まれている。これらの実施形態においては、本明細書において開示された添加物の変形形態のいずれをも、ポリ(ビニルブチラール)からなるまたは本質的になるポリマーを有するポリマーシートに使用することができる。
【0047】
一実施形態において、ポリマーシートは、部分的にアセタール化されたポリ(ビニルアルコール)をベースとするポリマーを含む。別の実施形態において、ポリマーシートは、ポリ(ビニルブチラール)、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、これらの組み合わせなどからなる群から選択されたポリマーを含む。別の実施形態において、ポリマーシートは、可塑化ポリ(ビニルブチラール)を含む。さらなる実施形態において、ポリマーシートは、ポリ(ビニルブチラール)および1種またはそれ以上の他のポリマーを含む。適切な可塑剤収容力を有する他のポリマーも、使用できる。特にポリ(ビニルブチラール)に関して、(例えば、これに限らないが、可塑剤、成分の百分率、厚さ、および特性強化添加物に関して)好ましい範囲、数値、および/または方法が与えられる本明細書におけるセクションのいずれにおいても、これらの範囲はまた、適用できる場合は、ポリマーシートにおける成分と同じくらい有用である、本明細書において開示された他のポリマーおよびポリマーブレンドに対しても適用される。
【0048】
ポリ(ビニルブチラール)を含む実施形態では、様々な実施形態において、残留ヒドロキシル含有量は制御されるという認識の下で、本明細書のどこか他の場所で記述されているように、ポリ(ビニルブチラール)は、酸触媒の存在下においてポリ(ビニルアルコール)をブチルアルデヒドと反応させ、次いで触媒の中和、分離、安定化、および樹脂の乾燥を含む、知られているアセタール化法により製造することができる。
【0049】
様々な実施形態において、ポリマーシートは、30,000、40,000、50,000、55,000、60,000、65,000、70,000、120,000、250,000、または350,000グラム/モル(g/molまたはダルトン)を超える分子量を有するポリ(ビニルブチラール)を含む。また、ジアルデヒドまたはトリアルデヒドの少量をアセタール化ステップの間に添加して、分子量を350ダルトン超に増大させることができる(例えば、米国特許第4874814号;第4814529号;および第4654179号を参照されたい。)。本明細書において使用される用語「分子量」は、重量平均分子量を意味する。
【0050】
前述の実施形態の任意のものに加えて、追加の従来のポリマーシートが、可塑剤含有量に差のあるものとして使用される場合は、これらの追加の、従来のポリマーシートは、樹脂の100部(phr)当たり20から60、25から60、20から80、または10から70部の可塑剤を含むことができる。勿論、特定の用途に適切な、他の量を使用することができる。いくつかの実施形態においては、可塑剤は、20個未満、15個未満、12個未満、または10個未満の炭素原子を有する炭化水素のセグメントを有する。
【0051】
適切な任意の可塑剤を本発明のポリマー樹脂に添加して、ポリマーシートを形成するようにすることができる。本発明のポリマーシートにおいて使用する可塑剤は、とりわけ、多塩基酸または多価アルコールのエステルを含むことができる。適切な可塑剤には、例えば、トリエチレングリコールジ-(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペートとノニルアジペートとの混合物、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート、ジブチルセバケート、油で改質されたセバシン酸アルキドなどのポリマー可塑剤、および米国特許第3841890号において開示されたものなどのホスフェートとアジペートとの混合物および米国特許第4144217号において開示されたものなどのアジペート、および前述したものの混合物および組み合わせが含まれる。使用することのできる他の可塑剤は、米国特許第5013779号に開示されたように、C_(4)からC_(9)のアルキルアルコールおよびC_(4)からC_(10)の環式アルコールから製造された混合アジペートおよびヘキシルアジペートなどのC_(6)からC_(8)のアジピン酸エステルである。好ましい実施形態において、可塑剤は、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート)である。
【0052】
また、接着制御剤(ACA)を本発明のポリマーシートに含ませて、所望の接着性を付与することができる。これらの作用剤は、例えば、3ポリマーシート実施形態において外側のシートに取り入れることができる。米国特許第5728472号において開示されているACAのどれでも使用することができる。加えて、残留酢酸ナトリウムおよび/または酢酸カリウムを、酸の中和において使用された、随伴している水酸化物の量を変化させることによって調節することができる。様々な実施形態において、本発明のポリマーシートは、酢酸ナトリウムに加えて、マグネシウムビス(2-エチルブチレート)(ケミカルアブストラクト番号79992-76-0)を含む。ポリマーシートのガラスに対する接着を制御するのに有効な量のマグネシウム塩を、含ませることができる。
【0053】
添加物を、ポリマーシートに取り入れて最終製品における性能を増強することができる。このような添加物には、これに限らないが、当技術分野において知られている、可塑剤、染料、顔料、安定剤(例えば、紫外線安定剤)、酸化防止剤、難燃剤、その他の赤外線吸収剤、ブロッキング防止剤、前記添加物の組み合わせなどが含まれる。
【0054】
可視または近赤外スペクトルにおける光を選択的に吸収する作用剤を、適切なポリマーシートのどれにでも添加することができる。使用することができる作用剤には、染料および顔料(インジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物または六ホウ化ランタン(LaB_(6))など)が含まれる。
【0055】
適切ないずれかの方法を使用して、本発明のポリマーシートおよび多層中間層を製造することができる。ポリ(ビニルブチラール)を製造するための適切な方法の詳細は、当業者に知られている(例えば、米国特許第2282057号および第2282026号を参照されたい。)。一実施形態においては、B.E.Wade(2003)による、Encyclopedia of Polymer Science & Technology、第3版、第8巻、381?399頁の、Vinyl Acetal Polymersに記載の溶媒法を使用することができる。別の実施形態においては、該文献に記載の水性法を使用することができる。ポリ(ビニルブチラール)は、例えば、ビューツバル(Butvar)(商標)樹脂としてSolutia Inc.、セントルイス、ミズーリ州から、様々な形態で商業的に入手することができる。
【0056】
本明細書において使用される「樹脂」は、酸触媒作用および続いて行われるポリマー前駆体の中和から得られる混合物から取り出されるポリマー(例えば、ポリ(ビニルブチラール))成分を指す。樹脂は一般に、ポリマー(例えば、ポリ(ビニルブチラール))に加えて、アセテート、塩、およびアルコールなどの他の成分を有する。本明細書において使用される「溶融物」は、樹脂と可塑剤および場合によりその他の添加物との混合物を指す。
【0057】
ポリ(ビニルブチラール)層を形成する1つの例示的な方法は、樹脂、可塑剤、および添加物を含む溶融ポリ(ビニルブチラール)を押し出しすること、次いで、溶融物をシートダイ(例えば、ある寸法の方が、垂直寸法より実質的に大きい開口部を有するダイ)に強制的に通すことを含む。ポリ(ビニルブチラール)層を形成する別の例示的な方法は、溶融物をダイからローラー上に流し出し、樹脂を凝固させ、次いで凝固した樹脂をシートとして取り出すことを含む。いずれの実施形態においても、層の片側または両側の表面組織は、ダイ開口部の表面を調節することによって、またはローラー表面に組織を提供することによって、制御することができる。層組織を制御するための他の技法は、材料のパラメータ(例えば、樹脂および/または可塑剤の水含有量、溶融物の温度、ポリ(ビニルブチラール)の分子量分布、または前記パラメータの組み合わせ)を変化させることを含む。さらにこの層を、積層工程中にこの層の脱気を容易にするために、一時的な表面の不規則性を規定する一定間隔で置かれた突起物を含むように配置することができ、その後で、積層工程の温度および圧力を高くして突起物を層の中に融解させ、これにより滑らかな仕上げをもたらすことになる。
【0058】
多層中間層の製造は、ポリマーシートの3つの層を個別に製造し、次いで、単一の多層中間層を生み出すのに適した条件(圧力および熱など)下において、3つのシートを一緒に積層するなどの、当技術分野において知られている技法を用いることにより、達成することができる。
【0059】
異なる可塑剤含有量を有する領域を含む、本発明のポリマーシートを、当技術分野において知られているいずれかの方法によって製造することができる。代表的な方法において、ポリマー樹脂、可塑剤および所望の添加物のいずれかを含む2つ以上の溶融物を、個別に形成し、共押し出しして、使用したそれぞれの溶融物に対応する領域を有する単一のポリマーシートを形成することができる。例えば、規定された可塑剤含有量を有する第1溶融物および第1溶融物の可塑剤含有量より20phr少ない可塑剤含有量を有する第2溶融物を、共押し出しして、それぞれが個々のシートの形状に似ている第1領域と第2領域を有するポリマーシートを形成することができ、前記第2領域は、前記第1溶融物の可塑剤含有量より、安定的に20phr少ない可塑剤含有量を有する。
【0060】
様々な実施形態において、本発明の中間層は、0.1から2.5ミリメートル、0.2から2.0ミリメートル、0.25から1.75ミリメートルおよび0.3から1.5ミリメートル(mm)の、全厚さを有することができる。多層中間層の個々のポリマーシートは、合計された場合上記で与えられた全厚さの範囲となる、例えばほぼ等しい厚さを有することができる。勿論、他の実施形態において層の厚さは異なることができ、上記で与えられた全厚さを、さらに増大させることができる。
【0061】
前述のポリマーシートのパラメータは、ポリ(ビニルブチラール)タイプの層である、本発明の多層構造体におけるいずれの層に対しても当てはまる。
【0062】
以下のパラグラフでは、ポリマーシートの特性を改善および/または測定するために使用することができる様々な技法について述べる。
【0063】
ポリマーシート、特にポリ(ビニルブチラール)層の透明性は、ヘーズ値(層を通過する際に入射光の方向から散乱された光の量を定量したもの)を測定することによって、求めることができる。ヘーズ%は、以下の技法に従って測定することができる。ヘーズの量を測定する装置、ヘーズメータ、型式D25(Hunter Associates(レストン、バージニア州)から入手可能である。)は、視野角2°でIlluminantCを用いて、ASTM D1003-61(再承認1977)-手順Aに従って使用することができる。本発明の様々な実施形態において、ヘーズ%は5%未満、3%未満、および1%未満である。
【0064】
可視透過率は、パーキンエルマーコーポレーション(Perkin Elmer Corp.)によって製造されたラムダ(Lambda)900などの紫外-可視-近赤外分光光度計を用いて、国際標準規格ISO9050:1990に記載の方法により、定量することができる。様々な実施形態において、本発明のポリマーシートを通過する透過率は、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%である。
【0065】
パメル(pummel)接着は、以下の技法に従って測定することができ、本明細書において「パメル」と記載されている場合は、ポリマーシートのガラスに対する接着性を定量化するためのものである。以下の技法を用いてパメルを求める。2層のガラス積層板試料を、標準のオートクレーブ積層条件によって作製する。積層板を、約-18℃(0°F)まで冷却し、ガラスを破壊するために、手を使用してハンマーで打ちつける(パメルする。)。次いで、ポリ(ビニルブチラール)層に接着されていないすべての破損ガラスを除去し、ポリ(ビニルブチラール)層に接着されている残りのガラスの量を、目視により標準のセットと比較する。標準は、様々な程度のガラスが、ポリ(ビニルブチラール)層に接着されたまま残っている尺度に対応する。特に、ゼロのパメル標準においては、ポリ(ビニルブチラール)層に接着されたまま残っているガラスは存在しない。10のパメル標準においては、ガラスの100%がポリ(ビニルブチラール)層に接着されたまま残っている。本発明のポリ(ビニルブチラール)層は、例えば、3から10の間のパメル値を有することができる。
【0066】
ポリマーシートの引張り破壊応力は、JIS K6771に記載の手順に従って求めることができる。
【0067】
実施例
3GEH(トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート))の様々な量を配合した、記録された残留ヒドロキシル含有量を有するポリ(ビニルブチラール)シートおよびこれらのシートの厚さを表1に列挙する。これらのシートは、本発明の中間層を構成するために使用するか、または参照パネルを製造するための従来の中間層として使用する。すべてのシートにおいて、残留アセテート含有量は無視することができ、1mol%未満である。
【0068】
【表1】

従来の中間層および本発明の中間層の実施例を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
従来の合せガラス、すなわち参照パネルおよび前記参照パネルと比較して音響性能の改善が目立つ中間層からなる合せガラスの実施例を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
本発明により、音響透過を減少させ、容易に取り扱われ、フロントガラスおよび建築用窓ガラスのための合せガラスパネルなどの、多層構造体中にすぐに組み込まれる、多層中間層を提供することが、今や可能である。
【0073】
本発明を例示的な実施形態を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更をなしうることおよび同等物を本発明の要素の代わりにすることができることは理解されよう。加えて、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、本発明の本質的な範囲を逸脱することなく、多くの変更をなしうる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲に当てはまるすべての実施形態を含むものであることが意図されている。
【0074】
さらに、本発明の単独成分のいずれかに与えられた範囲、数値または特性のいずれも、本発明の他の成分のいずれかに与えられた範囲、数値または特性のいずれかと交換可能な場合は交換して使用し得て、本明細書全体を通じて与えられたような、成分のそれぞれの数値を限定している実施形態を形成することができることが理解されよう。例えば、可塑剤に与えられた範囲のいずれかに加えて、与えられた範囲のいずれかの残留アセテート含有量を含むポリマーシートを形成し、必要に応じて、本発明の範囲内にあるが、列記するのが面倒な、多くの変形品を形成することができる。
【0075】
要約または請求項のいずれかにおいて与えられた、図の参照番号のいずれも、説明する目的だけのものであり、特許請求された発明を、図のいずれかに示すある特定の実施形態のいずれに限定するものであると解釈されるべきではない。
【0076】
図は、特段の指示がない限り、縮尺して描かれてはいない。
【0077】
本明細書において参照された、定期刊行物の論文、特許、特許出願および書籍を含むそれぞれの参考資料は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第1層;
当該第1層に直接接触して配置されており、可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第2層;及び
当該第2層に直接接触して配置されており、可塑化されたポリ(ビニルブチラール)を含む第3層を含み、
当該第2層における可塑剤の量は、当該第1層及び当該第3層における可塑剤の量より、100部当たり少なくとも35.7部多く、
当該第2層が、当該第1層及び当該第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも2%少ない残留ヒドロキシル含有量を有し、
当該第1層および当該第2層は、それぞれ5mol%未満の残留アセテート含有量を有する;
共押出ポリマー中間層。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも4%少ない残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項4】
前記第2層は、前記第1層及び前記第3層の重量%当たりの残留ヒドロキシル含有量より少なくとも8%少ない残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項5】
前記第2層は17%未満の残留ヒドロキシル含有量を有し、前記第1層は20%未満の残留ヒドロキシル含有量を有する、請求項1、3?4のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項6】
前記第1層及び前記第2層はそれぞれ3mol%未満の残留アセテート含有量を有する、請求項1、3?5のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。
【請求項7】
前記第1層及び前記第2層はそれぞれ1mol%未満の残留アセテート含有量を有する、請求項1、3?5のいずれか1に記載の共押出ポリマー中間層。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-30 
出願番号 特願2014-113886(P2014-113886)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 小野田 達志
蓮井 雅之
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5785307号(P5785307)
権利者 ソルティア・インコーポレーテッド
発明の名称 音響低減ポリマー中間層  
代理人 松山 美奈子  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 新井 規之  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 森住 憲一  
代理人 新井 規之  
代理人 松山 美奈子  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  

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