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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C12Q
管理番号 1331230
異議申立番号 異議2017-700575  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-07 
確定日 2017-08-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6037515号発明「喘息の治療及び診断のための組成物及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6037515号の請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6037515号の請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成21年3月31日(パリ条約による優先権主張 2008年3月31日 2008年4月1日 2008年5月20日 2009年1月16日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-503115号の一部を平成26年5月23日に新たな特許出願としたものであって、平成28年11月11日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人折原政人により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
【請求項1】 患者のPOSTNの遺伝子発現を測定することを含み、POSTNの上昇した発現レベルが気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを示す、喘息患者の気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを検出する方法。
【請求項2】 患者が更にCST1、CST2、CCL26、CLCA1、PRR4、PRB4、セルピンB2、CEACAM5、iNOS、セルピンB4、CST4、及びセルピンB10からなる群から選択される遺伝子の何れか又はその組み合わせの上昇した発現レベルを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 遺伝子発現がタンパク質又はmRNAレベルのアッセイによって測定される、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】 mRNAレベルがPCR法又はマイクロアレイチップを用いることにより測定される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】 前記患者の試料中の血清ペリオスチンレベルを測定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】 (1)遺伝子にハイブリダイズする1又は複数の核酸分子又はタンパク質に結合する1又は複数のタンパク質分子であって、遺伝子又はタンパク質がPOSTNである、核酸分子又はタンパク質分子;
(2)患者の試料の遺伝子又はタンパク質の発現レベルを測定するための指示書であって、前記遺伝子又はタンパク質の何れか、組み合わせ又は全ての上昇した発現レベルが気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを示す、指示書
を含む、喘息患者の気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを診断するためのキット。
【請求項11】 CST1、CST2、CCL26、CLCA1、PRR4、PRB4、セルピンB2、CEACAM5、iNOS、セルピンB4、CST4、セルピンB10、TPSD1、TPSG1、MFSD2、CPA3、GPR105、CDH26、GSN、C2ORF32、TRACH2000196(TMEM71)、DNAJC12、RGS13、SLC18A2、SH3RF2、FCER1B、RUNX2、PTGS1、及びALOX15からなる群から選択される遺伝子又はタンパク質を更に含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】 前記患者の試料中の血清ペリオスチンレベルを測定するための、請求項10又は11に記載のキット。
【請求項13】 遺伝子発現がmRNAレベルのアッセイによって測定される、請求項10から12の何れか一項に記載のキット。
【請求項14】 アッセイがPCR法又はマイクロアレイチップの使用を含む、請求項13に記載のキット。
【請求項17】 アッセイがタンパク質分子を含むマイクロアレイチップの使用を含む、請求項10に記載のキット。
【請求項20】 喘息を有する患者のPOSTNレベルを測定し、上昇したPOSTNレベルを有する喘息患者を治療薬の対象となる患者として同定することを含む、TH2誘導喘息経路の標的に結合する治療薬の対象となる喘息のサブタイプの患者を同定するための方法。
【請求項31】 POSTNの遺伝子発現を測定することを含む、喘息患者の試料における気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを同定する方法であって、POSTNの上昇した発現レベルが気管支上皮でIL-13の発現が高い喘息のサブタイプを示し、前記喘息のサブタイプがIL-9、IL-5、IL-13、IL-4、OX40L、TSLP、IL-25、IL-33、IgE、IL-9レセプター、IL-5レセプター、IL-4レセプターα、IL-13レセプターα1、IL-13レセプターα2、OX40、TSLP-R、IL-7Rα(TSLPのコレセプター)、IL17RB(IL-25のレセプター)、ST2(IL-33のレセプター)、CCR3、CCR4、CRTH2、FcεRI、又はFcεRII/CD23(IgEのレセプター)である標的に結合する薬剤に反応する可能性が高い、方法。
【請求項32】 IL-9、IL-5、IL-13、IL-4、OX40L、TSLP、IL-25、IL-33、IgE、IL-9レセプター、IL-5レセプター、IL-4レセプターα、IL-13レセプターα1、IL-13レセプターα2、OX40、TSLP-R、IL-7Rα(TSLPのコレセプター)、IL17RB(IL-25のレセプター)、ST2(IL-33のレセプター)、CCR3、CCR4、CRTH2、FcεRI、又はFcεRII/CD23(IgEのレセプター)である標的に結合する薬剤の対象となる喘息のサブタイプの患者を同定する方法であって、喘息を有する患者の試料のPOSTNの発現レベルを測定し、POSTNの上昇したレベルを有する喘息患者を薬剤の対象となる患者として同定することを含む、方法。
【請求項36】 喘息患者が血清ペリオスチンの上昇したレベルを発現する、請求項32に記載の方法。
【請求項39】 患者が更にCST1、CST2、CCL26、CLCA1、PRR4、PRB4、セルピンB2、CEACAM5、iNOS、セルピンB4、CST4、及びセルピンB10からなる群から選択される遺伝子の何れか又は組み合わせの上昇した発現レベルを発現する、請求項32に記載の方法。
【請求項41】 遺伝子発現がタンパク質又はmRNAレベルのアッセイによって測定される、請求項32に記載の方法。
【請求項42】 mRNAレベルがPCR法又はマイクロアレイチップを用いることにより測定される、請求項41に記載の方法。
【請求項45】 前記患者の試料における血清ペリオスチンレベルの、免疫アッセイによる測定を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項46】 血清ペリオスチンレベルが免疫アッセイにより測定される、請求項45に記載の方法。
(以下、これらの請求項に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件発明1」、「本件発明2」、・・・「本件発明46」といい、また、これらの発明をまとめて「本件発明」という場合がある。)

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の証拠を提出し、請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、これら請求項に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証 特許第4155561号(2008年9月24日発行)
甲第2号証 J Asthma, 2001, Vol.38, pp.665-671.
甲第3号証 臨床病理, 2006, Vol.54, pp.738-743.
甲第4号証 臨床病理, 2007, Vol.55, pp.369-374.

4 証拠の記載
(1) 甲第1号証
ア 特許請求の範囲
(ア) 請求項1
「次の工程を含む、アレルギー性疾患の検査方法。
a)被検者の生体試料における、配列番号:32の塩基配列もしくは配列番号:33のアミノ酸配列で特定される骨芽細胞特異因子2(ペリオスチン)遺伝子の発現レベルを測定する工程
b)健常者の生体試料における前記遺伝子の発現レベルと比較する工程」(1ページ3?7行)
(イ) 請求項5
「配列番号:32に記載された骨芽細胞特異因子2(ペリオスチン)遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも21塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アレルギー性疾患検査用試薬。」(1ページ16?18行)
(ウ) 請求項6
「配列番号:33に記載された骨芽細胞特異因子2(ペリオスチン)蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、アレルギー性疾患検査用試薬。」(1ページ20行?2ページ1行)
イ 発明の詳細な説明
(ア) 発明の開示
a 「本発明において、指標遺伝子の発現レベルとは、これらの遺伝子のmRNAへの転写、並びに蛋白質への翻訳を含む。したがって本発明によるアレルギー性疾患の検査方法は、前記遺伝子に対応するmRNAの発現強度、あるいは前記遺伝子によってコードされる蛋白質の発現レベルの比較に基づいて行われる。」(7ページ14?17行)
b 「ハイブリダイゼーション技術を利用したアレルギー性疾患の検査は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などを使用して行うことができる。さらには、RT-PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT-PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、本発明の遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。」(8ページ18?23行)
c 「・・・本発明のアレルギー性疾患の検査方法は、前記指標遺伝子によりコードされる蛋白質を検出することにより行うこともできる。以下、本明細書において、前記指標遺伝子によりコードされる蛋白質を指標蛋白質と記載する。このような検査方法としては、例えば、これら指標蛋白質に結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA法などを利用することができる。」(8ページ38?42行)
d 「骨芽細胞特異因子2(OSF2os;・・・)は、90kDaのタンパク質である。・・・現在はperiostinと呼ばれている。」(10ページ4?14行)
e 「本発明の検査方法においては、通常、被検者の生体試料を試料とする。生体試料としては、気道上皮細胞等を用いることができる。気道上皮細胞を得る方法は公知である。すなわち、気管支鏡下において、かんしを用いて物理的に剥離させ採取することができる。得られた試料は、凍結させたり、ホルマリン固定させたり、培地に入れて培養することによって調製できる。また本発明における生体試料としては、血液、喀痰、鼻粘膜分泌物、気管支肺胞洗浄液、肺擦が細胞などを用いることもできる。」(10ページ38?43行)
f 「本発明における指標遺伝子は、IL-4あるいはIL-13で刺激された複数の気道上皮細胞株において発現量の増加を示した。従って、指標遺伝子の発現レベルを指標として、気管支喘息などのアレルギー性疾患の検査を行うことができる。」(11ページ8?10行)

(2) 甲第2号証
ア 「方法論(METHODOLOGY) 患者(Subject)」
「気管支喘息患者を、米国胸部疾患学会の基準(16)により特定した。急性喘息患者は、重症の又は中等度の喘息悪化のため7日以上入院し、米国胸部疾患学会の勧告に沿って処置された(17)。無症状喘息は、4週間の治療後に、発作性喘鳴、胸部絞扼感、呼吸困難といった症状のない安定な喘息と定義された。」(667ページ左欄4?13行)
イ 「結果(RESULT)」
「急性喘息患者と無症状喘息患者との間で、IL-4、IL-5、IL-13の血中濃度の間にも有意な差異はあったが、IFN-γにおける差異は有意ではなかった(図1及び2)。」(667ページ右欄27?31行)
ウ 図1C(668ページ)
図1Cには、健常者、無症状喘息患者及び急性喘息患者におけるIL-13の血中濃度が棒グラフにより示されている。

(3) 甲第3号証
ア 「III. 気管支喘息の診断マーカーとしてのSCCA」
「・・・気管支喘息患者と非喘息患者(アレルギー歴がなく、炎症所見も示していない患者)の血中SCCA[異議の決定注:扁平上皮細胞癌抗原(739ページ左欄2?3行)]レベルを測定したところ、気管支喘息患者では有意に血中SCCAレベルが上昇していた(Fig.2)。血中SCCAレベルは発作時に上昇しており、発作の改善により血中レベルは低下した。さらに、血中IL-13値と相関を示した。」(740ページ右欄12?18行)
イ 「V. SCCAの生体内での役割」
「SCCA1とSCCA2はともにセルピンと呼ばれるセリンプロテアーゼインヒビターであり、・・・」(741ページ左欄18?19行)

(4) 甲第4号証
ア 「IV. 気管支喘息の線維化におけるperiostinの関与」
「・・・この“慢性喘息モデルマウス”の上皮下組織においてperiostinの強い沈着が認められ、しかもIL-4あるいはIL-13欠損マウスではその沈着が著名に現弱していた。以上より、periostinはIL-4あるいはIL-13シグナルの下流に位置して気管支喘息における線維化に関与していることが明らかとなった(Fig.3)。」(372ページ左欄1?7行)
イ 「VI. 今後の展望」
「・・・IL-4やIL-13を標的とした気管支喘息治療薬が開発されている^(2)3))。線維化の存在、あるいはその程度は、気管支喘息患者の臨床重症度を決定する重要な要因であることから、将来このようなIL-4あるいはIL-13の阻害薬の投与が、気管支喘息患者における線維化の軽減につながることが期待される。
また、このような薬剤を投与する際に、アレルギー疾患の発症あるいは病態形成にIL-4やIL-13が強く関与している患者を選別する診断システムを確立し、そのような患者を対象に選択的に薬剤を投与することが重要であり、それによりアレルギー疾患におけるオーダーメイド医療の実現が可能となると考えられる(Fig.4)。」(372ページ右欄9?22行)
ウ 図
(ア) Figure 3の説明文(372ページ)
「気管支喘息の発症機序においてIL-4やIL-13などのTh2型サイトカインが重要であることを示している。さらに、IL-4あるいはIL-13の下流にperiostinが存在することも示している。」
(イ) Figure 4の説明文(373ページ)
「アレルギー疾患患者の中からIL-4/IL-13が優位に関与している患者を診断し、それらの患者を対象にIL-4/IL-13阻害剤を投与することで、オーダーメイド医療を実現することが可能となると考えられる。」

5 判断
(1) 異議申立人が本件発明の進歩性を否定するための主引用例として提出した甲第1号証は、本件特許の優先権主張日後に発行された特許公報であって、本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物ではなく、かつ、異議申立人は、本件特許の優先権主張の効果が認められないことを主張・立証していないことから、当該証拠により本件発明の進歩性を否定することはできない。したがって、異議申立人の主張する理由によっては、本件発明が特許法第29条第2項の規定に反してされたものということはできない。

(2) 仮に、甲第1号証の対応国際公開(2002年7月4日発行)、正常ヒト気管支上皮細胞をIL-13で刺激後にPOSTNの発現が上昇することが記載された甲第3号証、又は、正常ヒト気管支上皮細胞をIL-13で刺激後にPOSTNの発現が上昇することに加え、ペリオスチンがIL-4あるいはIL-13シグナルの下流に位置し喘息における線維化に関与していることが記載された甲第4号証を主引用例とした場合についても検討する。
本件発明1、10及び31、並びに、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、5、6及び9、本件発明10を直接又は間接的に引用する本件発明11ないし14及び17は、POSTN遺伝子の発現の上昇に基づき、喘息患者がIL-13の発現が高い喘息のサブタイプであるか否かを検出・同定する方法又はそのためのキットについての発明である。また、本件発明32に列記された標的は、本件特許明細書の段落【0016】の記載によれば、本件発明20における「TH2誘導喘息経路の標的」であることから、本件発明20及び32、並びに、本件発明32を直接又は間接的に引用する本件発明36、39、41、42、45及び46は、POSTN遺伝子の発現の上昇に基づき、IL-13等のTH2サイトカインが関与する喘息のサブタイプの患者を同定する発明ということができる。そして、上述のとおりに仮定した各主引用例からは、IL-13がPOSTN遺伝子の発現を上昇させるということは理解できるが、POSTN遺伝子の発現の上昇はIL-13等のTH2サイトカインによってのみ生じるということはできないことから、POSTN遺伝子の発現が上昇していれば、必ずIL-13が高発現しているか否かは不明であるし、POSTN遺伝子の発現が上昇している喘息患者であれば、必ずTH2サイトカインが関与する喘息であるか否かも不明である。そうしてみると、これら証拠を主引用例とした場合に、本件発明を容易に想到することができたということはできない。

6 むすび
以上に述べたとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、5、6、9ないし14、17、20、31、32、36、39、41、42、45及び46に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-24 
出願番号 特願2014-107421(P2014-107421)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 高堀 栄二
山本 匡子
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6037515号(P6037515)
権利者 ジェネンテック, インコーポレイテッド ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
発明の名称 喘息の治療及び診断のための組成物及び方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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