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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C03C |
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管理番号 | 1331267 |
異議申立番号 | 異議2017-700626 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-20 |
確定日 | 2017-08-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6050321号発明「電磁調理器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6050321号の請求項1?13に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6050321号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2012年4月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月29日 フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その全ての特許に対し、特許異議申立人 ショット アクチエンゲゼルシャフトにより特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6050321号の請求項1?13に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 熱強化ガラスプレートの下に位置する少なくとも1つのインダクターを含む電磁調理器具の製造方法であって、前記ガラスプレートの組成がアルミノケイ酸リチウムタイプのものでなく、ガラスプレートを熱強化することを含み、かつ前記ガラスプレートが、以下の特性を有することを特徴とする電磁調理器具の製造方法: - 厚みが、最大で4.5mmであり、 - 強化前の前記ガラスプレートのc/a比が、1kgの荷重下でのビッカース押込みの後、最大で3.0であり、ここでcは半径方向亀裂の長さであり、かつaはビッカースくぼみの半対角線であり、 - σ/(e・E・α)比が、少なくとも20K.mm^(-1)であり、ここでσは、熱強化によってガラスプレートのコアにおいて生成された、光弾性によって測定されたPa単位の最大引張応力であり、eは、mm単位のガラスプレートの厚みであり、Eは、Pa単位のヤング率であり、かつαは、K^(-1)単位のガラスプレートの線熱膨張係数であり、 前記ガラスプレートの組成が、 以下に構成成分を含むホウケイ酸塩タイプのものであるか: SiO_(2) 70%?85%、 B_(2)O_(3) 8%?16%、 Al_(2)O_(3) 0%?5%、 K_(2)O 0%?2%、 Na_(2)O 1%?8% 又は 以下の構成成分を含むアルミノホウケイ酸塩タイプのものである: SiO_(2) 45%?68%、 Al_(2)O_(3) 8%?20%、 B_(2)O_(3) 4%?18%、 RO 5%?30%、 R_(2)O 最大でも10%、 ここで「RO」という表現は、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO及びBaOを表わし、「R_(2)O」という表現は、アルカリ金属酸化物を表わしている。 【請求項2】 前記プレートの厚みが、最大で4mmである、請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 前記ガラスプレートが、少なくとも0.5mの横方向寸法を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。 【請求項4】 前記ガラスのヤング率と線熱膨張係数との積E・αが、0.1?0.8MPa.K^(-1)である、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項5】 前記ガラスの比較的低い徐冷点が、少なくとも500℃である、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項6】 前記ガラスの線熱膨張係数が、最大で50×10^(-7)K^(-1)である、請求項1?5のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項7】 前記強化前のガラスのc/a比が、最大で2.8である、請求項1?6のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項8】 前記熱強化によってガラスのコアにおいて生成された最大引張応力が、少なくとも20MPaである、請求項1?7のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項9】 前記ガラスの組成が、ホウケイ酸塩タイプのものであり、前記ホウケイ酸塩ガラスの化学組成が、以下に規定した重量範囲内の構成成分を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の製造方法: SiO_(2) 75%?85%、 B_(2)O_(3) 10%?15%、 Al_(2)O_(3) 0%?3%、 K_(2)O 0%?1%、 Na_(2)O 2%?6%。 【請求項10】 前記ガラスの組成が、アルカリ金属酸化物を含まないアルミノホウケイ酸塩タイプのものである、請求項1?8のいずれか一項に記載の製造方法。 【請求項11】 前記ガラスの化学組成が、以下に規定した重量範囲内の構成成分を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の製造方法: SiO_(2) 55%?65%、 Al_(2)O_(3) 14%?18%、 B_(2)O_(3) 5%?10%、 RO 5%?17%、 R_(2)O 最大でも1%、 ここで「RO」という表現は、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO及びBaOを表わし、「R_(2)O」という表現は、アルカリ金属酸化物を表わしている。 【請求項12】 プレートの表面の一部分に不透明な若しくは実質的に不透明なコーティングを有しているか、又は不透明な材料がプレートと器具との内部要素の間に位置している、請求項1?11の一項に記載の製造方法。 【請求項13】 熱強化ガラスプレートの下に位置する少なくとも1つのインダクターを含む電磁調理器具であって、前記ガラスプレートの組成がアルミノケイ酸リチウムタイプのものでなく、前記ガラスプレートが、以下の特性を有することを特徴とする電磁調理器具: -厚みが、最大で4.5mmであること; -前記ガラスプレートの組成が、 以下に構成成分を含むホウケイ酸塩タイプのものであるか: SiO_(2) 70%?85%、 B_(2)O_(3) 8%?16%、 Al_(2)O_(3) 0%?5%、 K_(2)O 0%?2%、 Na_(2)O 1%?8% 又は 以下の構成成分を含むアルミノホウケイ酸塩タイプのものであること: SiO_(2) 45%?68%、 Al_(2)O_(3) 8%?20%、 B_(2)O_(3) 4%?18%、 RO 5%?30%、 R_(2)O 最大でも10%、 (ここで「RO」という表現は、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO及びBaOを表わし、「R_(2)O」という表現は、アルカリ金属酸化物を表わしている);及び -前記ガラスプレートが、以下のステップを連続して含む試験サイクルに付した場合に破損せずに耐えること: - 3.9g/cm^(2)の荷重での2回のサンドがけ、 - プレートが破損しなかった場合には、次に空ソースパン試験、 - 1kg/cm^(2)の荷重下で、Scotch Brite Green(商標)の名称で販売されている研磨パッドがけ5回、 - プレートが破損しなかった場合には、次に空ソースパン試験、 - 4.5kgのステンレス鋼3重底ソースパンの10回のパス、 - 空ソースパン試験。 ここで、前記空ソースパン試験は、プレートの縁部を挟持することなく、E.G.O.社のA2という照会番号(商標)のインダクターを備えた誘導レンジの加熱要素上に、プレートの中心を位置づけし、直径20cmのLagostina Pandora(商標)ソースパン内で、最大出力で200ミリリットルの水を沸騰させ、全ての水が完全に蒸発したならば、ソースパンが空の状態になってから10?15分後に初めてレンジをオフにし、下部面でのプレートの最高到達温度を、390℃にする。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1?13号証を提出し、下記(a)?(c)の理由を申し立てた。 (a)本件請求項1?13に係る発明は、甲第1?13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきである。 (b)本件請求項1、3、5、8に係る発明には、下限だけを示すような数値範囲限定があり、発明の範囲が不明確であるから、その特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである。 (c)本件請求項1、2、5、7、8に係る発明は、発明の詳細な説明において、その発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、その特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、また、本件の発明の詳細な説明は、実施例に開示された数値範囲外について、当業者がその実施をできるように記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消されるべきである。 甲第1号証:英国特許出願公開第2079119号明細書 甲第2号証:特開2005-55005号公報 甲第3号証:特開2008-226608号公報 甲第4号証:独国特許出願公開2952045号明細書 甲第5号証:"TECHNISCHE GLASER", SCHOTT GLASWERKE, 1990 甲第6号証:"BRITISH STANDARD BS EN 1748-1-1:2004", 2004 甲第7号証:Technical Info (Raw Borosilicate Glass Data), 掲載日:2007年2月7日, 検索日:2017年6月8日, Ace Glass Incorporated, 甲第8号証:鈴木勲ら、「光学ガラスの押し込みかたさ」、窯業協会誌、1972年、第80巻、第10号、第388?394ページ 甲第9号証:特表2010-520144号公報 甲第10号証:特開2006-125645号公報 甲第11号証:実験成績証明書("Generation of cracks in Boro33 float glass by indentation with a Vickers indenter") 甲第12号証:SCHOTT Borofloat(R)33/SCHOTT Duran(R), 掲載年:2010年, 検索日:2017年6月8日, Abrisa Industrial Glass Inc, 甲第13号証:特開平8-67529号公報 第4 当審の判断 1.申立理由(a)について ア 甲1発明 甲第1号証は、誘導加熱要素を覆う耐熱ガラスシートを含む、ガラス質のクッキングホブに関する文献であって(請求項1)、実施例3には、重量%で以下の組成を有するボロシリケートガラスの5mm厚のシートを熱強化し、ホブに用いられる強化されたガラスシートを得ることが記載されている。 SiO_(2) 72.6% B_(2)O_(3) 12.38% Na_(2)O 6.60% K_(2)O 0.47% Al_(2)O_(3) 1.08% CaO 4.00% MgO 2.58% 不純物 0.29% したがって、これを本件請求項1の記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、 「誘導加熱要素を覆う耐熱ガラスシートを含む、ガラス質のクッキングホブの製造方法であって、SiO_(2) 72.6%、B_(2)O_(3) 12.38%、Na_(2)O 6.60%、K_(2)O 0.47%、Al_(2)O_(3) 1.08%、CaO 4.00%、MgO 2.58%、不純物 0.29%の組成を有するボロシリケートガラスの5mm厚のシートを熱強化することを含む方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)、及び該方法により製造されたクッキングホブ(以下、「甲1物発明」という。)が記載されていると認められる。 イ 請求項1について 請求項1に係る本件特許発明と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明の「誘導加熱要素」、「熱強化」された「耐熱ガラスシート」、及び「ガラス質のクッキングホブ」は、それぞれ本件特許発明の「少なくとも1つのインダクター」、「熱強化ガラスプレート」、及び「電磁調理器具」に相当し、甲1方法発明の「誘導加熱要素」が、「熱強化」された「耐熱ガラスシート」の「下に位置する」ことは、技術常識から明らかである。 また、甲1方法発明のボロシリケートガラスの組成は、本件特許発明のホウケイ酸塩タイプのガラス組成に相当する。 したがって、請求項1に係る本件特許発明と甲1方法発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 一致点:「熱強化ガラスプレートの下に位置する少なくとも1つのインダクターを含む電磁調理器具の製造方法であって、前記ガラスプレートの組成がアルミノケイ酸リチウムタイプのものでなく、ガラスプレートを熱強化することを含み、かつ前記ガラスプレートが、以下の特性を有することを特徴とする電磁調理器具の製造方法: 前記ガラスプレートの組成が、 以下に構成成分を含むホウケイ酸塩タイプのものであるか: SiO_(2) 70%?85%、 B_(2)O_(3) 8%?16%、 Al_(2)O_(3) 0%?5%、 K_(2)O 0%?2%、 Na_(2)O 1%?8% 又は 以下の構成成分を含むアルミノホウケイ酸塩タイプのものである: SiO_(2) 45%?68%、 Al_(2)O_(3) 8%?20%、 B_(2)O_(3) 4%?18%、 RO 5%?30%、 R_(2)O 最大でも10%、 ここで「RO」という表現は、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO及びBaOを表わし、「R_(2)O」という表現は、アルカリ金属酸化物を表わしている。」 相違点1:本件特許発明は、ガラスプレートの「厚みが、最大で4.5mm」であるのに対し、甲1方法発明は「5mm厚のシート」である点 相違点2:本件特許発明は、「強化前の前記ガラスプレートのc/a比が、1kgの荷重下でのビッカース押込みの後、最大で3.0であり、ここでcは半径方向亀裂の長さであり、かつaはビッカースくぼみの半対角線」であるのに対し、甲1方法発明は前記「c/a比」が不明である点 相違点3:本件特許発明は、「σ/(e・E・α)比が、少なくとも20K.mm^(-1)であり、ここでσは、熱強化によってガラスプレートのコアにおいて生成された、光弾性によって測定されたPa単位の最大引張応力であり、eは、mm単位のガラスプレートの厚みであり、Eは、Pa単位のヤング率であり、かつαは、K^(-1)単位のガラスプレートの線熱膨張係数」であるのに対し、甲1方法発明は前記「σ/(e・E・α)比」が不明である点 上記相違点1、3について検討するに、特許異議申立人は、甲第4号証の実施例2(表2)には、ガラス厚が3.5mmの「ボロシリケートガラス8330」を、760℃の加熱炉内で加熱し、2つの2流体ノズルを用いて急冷すると、75N/mm^(2)(=75MPa)の応力がかかることが記載されており、甲第5号証に記載された「DURAN 8330」の線熱膨張係数α_(20/300)及び弾性率を組み合わせると、甲第4号証には、厚みが3.5mmで、σ/(e・E・α)比が約103.1K.mm^(-1)であるボロシリケートガラスが実質的に記載されていると主張し、甲1方法発明のボロシリケートガラスとして、該甲第4号証に記載された「ボロシリケートガラス8330」を選択、適用することは当業者であれば適宜なし得ることであると主張する。(特許異議申立書第23ページ第26行?第24ページ第13行、第25ページ第9?14行) しかしながら、まず、甲第4号証の表2に記載された「Druckvorspannung」は「圧縮応力」であって、本件特許発明における、ガラスプレートのコアにおいて生成された最大引張応力σとは異なるものである。 したがって、甲第4号証の表2に記載された値と、甲第5号証に記載された「DURAN 8330」の線熱膨張係数α_(20/300)及び弾性率(E)を組み合わせても、本件特許発明の「σ/(e・E・α)比」を導くことはできない。 また、甲第4号証の翻訳部分には、熱強化されたガラスの用途について何ら記載も示唆もないし、甲第5号証には、「ラボ用品、化学技術装置および配管用のボロシリケートガラス」と記載されているが、甲1方法発明の「クッキングホブ」に用いることについては記載も示唆もない。 そして、甲第2、3、6?13号証をみても、本件特許発明の、厚みが最大で4.5mmであり、σ/(e・E・α)比が少なくとも20K.mm^(-1)である熱強化されたガラスプレートについて、記載又は示唆するものはない。 したがって、甲1方法発明において、相違点1に係る「厚み」、及び相違点3に係る「σ/(e・E・α)比」を、本件特許発明の範囲に限定し、電磁調理器具に用いられるガラスプレートの熱機械的耐性を高めることは、甲第2?13号証の記載から当業者が容易になし得るものではない。 上記のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、請求項1に係る本件特許発明は、甲1方法発明及び甲第2?13号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 請求項2?12について 請求項2?12に係る本件特許発明は、請求項1に係る本件特許発明を更に限定したものであるから、請求項2?12に係る本件特許発明は、甲1方法発明及び甲第2?13号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 請求項13について 請求項13に係る本件特許発明と甲1物発明とを対比すると、甲1物発明の「誘導加熱要素」、「熱強化」された「耐熱ガラスシート」、及び「ガラス質のクッキングホブ」は、それぞれ本件特許発明の「少なくとも1つのインダクター」、「熱強化ガラスプレート」、及び「電磁調理器具」に相当し、甲1物発明の「誘導加熱要素」が、「熱強化」された「耐熱ガラスシート」の「下に位置する」ことは、技術常識から明らかである。 また、甲1物発明のボロシリケートガラスの組成は、本件特許発明のホウケイ酸塩タイプのガラス組成に相当する。 したがって、請求項13に係る本件特許発明と甲1物発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 一致点:「熱強化ガラスプレートの下に位置する少なくとも1つのインダクターを含む電磁調理器具であって、前記ガラスプレートの組成がアルミノケイ酸リチウムタイプのものでなく、前記ガラスプレートが、以下の特性を有することを特徴とする電磁調理器具: -前記ガラスプレートの組成が、 以下に構成成分を含むホウケイ酸塩タイプのものであるか: SiO_(2) 70%?85%、 B_(2)O_(3) 8%?16%、 Al_(2)O_(3) 0%?5%、 K_(2)O 0%?2%、 Na_(2)O 1%?8% 又は 以下の構成成分を含むアルミノホウケイ酸塩タイプのものであること: SiO_(2) 45%?68%、 Al_(2)O_(3) 8%?20%、 B_(2)O_(3) 4%?18%、 RO 5%?30%、 R_(2)O 最大でも10%、 (ここで「RO」という表現は、アルカリ土類金属酸化物MgO、CaO、SrO及びBaOを表わし、「R_(2)O」という表現は、アルカリ金属酸化物を表わしている)」 相違点1:本件特許発明は、ガラスプレートの「厚みが、最大で4.5mm」であるのに対し、甲1物発明は「5mm厚のシート」である点 相違点2:本件特許発明は、「ガラスプレートが、以下のステップを連続して含む試験サイクルに付した場合に破損せずに耐えること: - 3.9g/cm^(2)の荷重での2回のサンドがけ、 - プレートが破損しなかった場合には、次に空ソースパン試験、 - 1kg/cm^(2)の荷重下で、Scotch Brite Green(商標)の名称で販売されている研磨パッドがけ5回、 - プレートが破損しなかった場合には、次に空ソースパン試験、 - 4.5kgのステンレス鋼3重底ソースパンの10回のパス、 - 空ソースパン試験。 ここで、前記空ソースパン試験は、プレートの縁部を挟持することなく、E.G.O.社のA2という照会番号(商標)のインダクターを備えた誘導レンジの加熱要素上に、プレートの中心を位置づけし、直径20cmのLagostina Pandora(商標)ソースパン内で、最大出力で200ミリリットルの水を沸騰させ、全ての水が完全に蒸発したならば、ソースパンが空の状態になってから10?15分後に初めてレンジをオフにし、下部面でのプレートの最高到達温度を、390℃にする。」を満たすのに対し、甲1物発明は、前記試験サイクルに付した場合に破損せずに耐えるものか不明である点 上記相違点2について検討するに、特許異議申立人は、調理器用トッププレートにホウケイ酸ガラスを使用することは当業者に周知であり、上記相違点2に係る構成は当業者に自明であり、記載されているのに等しいと主張している。(特許異議申立書第30ページ第16?20行) しかしながら、調理器用トッププレートに用いられるホウケイ酸ガラスであれば、上記試験サイクルに付しても破損しない、ということが当業者に自明であるとする根拠が認められないから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 また、本件特許明細書【0009】に、「ガラスのσ/(e・E・α)比は少なくとも20K.mm^(-1)・・・である。・・・この特性は、調理器具の使用中のプレート破損の危険性を無くするために有意な影響を及ぼすことが判明した。」と記載され、同【0064】?【0087】に記載された実施例によれば、σ/(e・E・α)比が20K/mm以上であるガラスプレートB1、B2は、いずれも上記試験サイクル後に破損しないことが記載されていることに照らせば、ガラスのσ/(e・E・α)比が20K/mm以上であれば、上記試験サイクルに付した場合に破損せずに耐える、という条件を満たすものといえる。 しかしながら、上記「イ」にて指摘したとおり、甲第4号証に記載された「応力」は、本件特許発明における最大引張応力σとは異なるものであり、甲第5号証の記載と組み合わせても、本件特許発明の「σ/(e・E・α)比」を導くことはできない。 更に、甲第4、5号証には、甲1物発明の「クッキングホブ」に用いることについて、記載も示唆もない。 そして、甲第2、3、6?13号証をみても、上記相違点2に係る試験サイクルについて、記載又は示唆するものはない。 したがって、甲1物発明において、相違点2に係る試験サイクルを満たすものとすることは、甲第2?13号証の記載から当業者が容易になし得るものではない。 上記のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、請求項13に係る本件特許発明は、甲1物発明及び甲第2?13号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.申立理由(b)について (1)特許異議申立人は、請求項1において、σ/(e・E・α)比が下限値のみ特定されており、発明の範囲が不明確であると主張している。(特許異議申立書第31ページ(ア)) しかしながら、請求項1に記載されたガラスの組成及びガラスの熱強化に関する当業者の技術常識、並びに電磁調理器具に用いられるガラスの厚さからみて、σ/(e・E・α)比の上限値に限度があることは明らかであるから、これにより発明の範囲が不明確になるとはいえない。 (2)特許異議申立人は、請求項3において、ガラスプレートの横方向寸法が下限値のみ特定されており、発明の範囲が不明確であると主張している。(特許異議申立書第31ページ(イ)) しかしながら、請求項3が引用する請求項1に記載された電磁調理器具という用途からみて、ガラスプレートの横方向寸法の上限値に限度があることは明らかであるから、これにより発明の範囲が不明確になるとはいえない。 (3)特許異議申立人は、請求項5において、ガラスの徐冷点が下限値のみ特定されており、発明の範囲が不明確であると主張している。(特許異議申立書第31ページ(ウ)) しかしながら、請求項5が引用する請求項1に記載されたガラスの組成からみて、徐冷点の上限値に限度があることは明らかであるから、これにより発明の範囲が不明確になるとはいえない。 (4)特許異議申立人は、請求項8において、ガラスのコアにおいて生成された最大引張応力が下限値のみ特定されており、発明の範囲が不明確であると主張している。(特許異議申立書第31?32ページ(エ)) しかしながら、請求項8が引用する請求項1に記載されたガラスの組成及びガラスの熱強化に関する当業者の技術常識、並びに電磁調理器具に用いられるガラスの厚さからみて、最大引張応力の上限値に限度があることは明らかであるから、これにより発明の範囲が不明確になるとはいえない。 3.申立理由(c)について (1)特許異議申立人は、請求項1、2において、ガラスプレートの厚みが上限値のみしか特定されておらず、例えば厚みが0.01mmである場合のように、電磁調理器具のガラスプレートとして使用できないと推測されるものを含むから、本件特許発明はサポート要件及び実施可能要件を満たさないと主張している。(特許異議申立書第32ページ(オ)、第33?34ページ(ク)) しかしながら、本件特許明細書【0001】?【0005】第1パラグラフ、及び同【0008】の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、電磁調理器具内での実際の使用に役立ちうる熱機械的耐性を有する、薄い及び/又は横方向寸法の大きいプレートを形成することであるということができるから、当業者が該課題を解決したものと認識するために必要な発明特定事項は、ガラスプレートの厚みの上限値であって、下限値ではない。 また、当業者の技術常識に照らして電磁調理器具に使用できないほど厚みの小さいガラスプレートの製造は、本件特許発明の実施であるとはいえないから、本件特許発明の実施にあたり、ガラスプレートの厚みの下限値の開示や特定が必要であるとは認められない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件特許発明のサポート要件及び実施可能要件を満たすものであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (2)特許異議申立人は、請求項1、7において、強化前のガラスプレートのc/a比が上限値のみしか特定されておらず、0に限りなく近い数値範囲まで含むのに対し、本件特許明細書で開示されているのは、c/a比が1.7、1.9である場合のみであり、当該数値以外について同様の効果を奏することを確認できないから、サポート要件を満たさず、また、本件特許明細書は、当該数値以外について実施例と同様に実施しうる程度に記載されていないから、実施可能要件を満たさないと主張している。(特許異議申立書第32?33ページ(カ)、第34ページ(コ)) 上記主張について検討するに、c/a比が大きいことは、ビッカースくぼみから長い亀裂が走ることを意味するものであり、本件特許明細書【0009】の4.の記載を併せてみれば、上記(1)に示す課題を解決するために必要なc/a比の値は上限値であって、下限値ではない。 また、本件特許明細書【0090】には、本件特許発明に使用可能なアルミノホウケイ酸塩ガラスA2として、c/a比が0.5であるガラスも開示されており、本件特許発明の実施にあたり、c/a比の下限値の開示や特定が必要であるとは認められない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件特許発明のサポート要件及び実施可能要件を満たすものであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (3)特許異議申立人は、請求項1において、σ/(e・E・α)比が下限値のみしか特定されておらず、無限に大きな数値をも含み得るものであるから、本件特許発明はサポート要件及び実施可能要件を満たさないと主張している。(特許異議申立書第33ページ(キ)) しかしながら、本件特許明細書【0009】の5.にも記載のとおり、上記(1)に示す本件特許発明が解決しようとする課題を解決するために必要な「σ/(e・E・α)比」の値は下限値であって、上限値ではない。 また、上記2.(1)にて説明したとおり、σ/(e・E・α)比の上限値に限度があることは明らかであり、無限に大きな数値を含むものとはいえないし、本件特許発明の実施にあたり、σ/(e・E・α)比の上限値の開示や特定が必要であるとも認められない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件特許発明のサポート要件及び実施可能要件を満たすものであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)特許異議申立人は、請求項5において、ガラスの徐冷点が下限値のみしか特定されておらず、無限に大きな数値をも含み得るものであるから、本件特許発明はサポート要件及び実施可能要件を満たさないと主張している。(特許異議申立書第34ページ(ケ)) しかしながら、本件特許明細書【0009】の2.にも記載のとおり、上記(1)に示す本件特許発明が解決しようとする課題を解決するために必要なガラスの徐冷点の値は下限値であって、上限値ではない。 また、上記2.(3)にて説明したとおり、徐冷点の上限値に限度があることは明らかであり、無限に大きな数値を含むものとはいえないし、本件特許発明の実施にあたり、徐冷点の上限値の開示や特定が必要であるとも認められない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件特許発明のサポート要件及び実施可能要件を満たすものであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)特許異議申立人は、請求項8において、ガラスのコアにおいて生成された最大引張応力が下限値のみしか特定されておらず、無限に大きな数値をも含み得るものであるから、本件特許発明はサポート要件及び実施可能要件を満たさないと主張している。(特許異議申立書第35ページ(サ)) しかしながら、本件特許明細書【0009】の6.にも記載のとおり、上記(1)に示す本件特許発明が解決しようとする課題を解決するために必要な最大引張応力の値は下限値であって、上限値ではない。 また、上記2.(4)にて説明したとおり、最大引張応力の上限値に限度があることは明らかであり、無限に大きな数値を含むものとはいえないし、本件特許発明の実施にあたり、最大引張応力の上限値の開示や特定が必要であるとも認められない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、本件特許発明のサポート要件及び実施可能要件を満たすものであり、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-08-18 |
出願番号 | 特願2014-506918(P2014-506918) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C03C)
P 1 651・ 536- Y (C03C) P 1 651・ 121- Y (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山崎 直也 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 永田 史泰 |
登録日 | 2016-12-02 |
登録番号 | 特許第6050321号(P6050321) |
権利者 | ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ |
発明の名称 | 電磁調理器具 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 塩川 和哉 |
代理人 | 関根 宣夫 |