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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1331859
審判番号 不服2016-9023  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-17 
確定日 2017-08-24 
事件の表示 特願2013-513273「ベンゾキノロン系VMAT2阻害剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月8日国際公開、WO2011/153157、平成25年6月27日国内公表、特表2013-527237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月1日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月29日に手続補正書が提出され、平成27年2月9日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書、手続補正書及び手続補足書が提出されたが、平成28年2月10日付けで拒絶査定がされ、同年6月17日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年7月20日に審判請求書を補正する手続補正書及び手続補足書が提出されたものである。
なお、平成28年6月17日に特願2016-120365号が分割出願されている。

第2 平成28年6月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成28年6月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1(平成25年1月29日付けの手続補正により補正されたものである。)が
「構造式I

(式中:R_(1)?R_(19) 及びR_(21)?_(29) は、水素及び重水素からなる群より独立して選択され;
R_(20) は、水素、重水素、-C(O)O-アルキル、及び-C(O)-C_(1-6) アルキルからなる群より選択され、前記アルキル又はC_(1-6) アルキルは、-NH-C(NH)NH_(2)、-CO_(2)H、-CO_(2) アルキル、-SH、-C(O)NH_(2)、-NH_(2)、フェニル、-OH、4-ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、及びインドリルからなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、R_(20) の置換基は、いずれもさらに重水素によって置換されていてもよく;
R_(1)?R_(29) の少なくとも1つは重水素であるか、又は重水素を含み;そして、
R_(23)?R_(29) が重水素である場合、R_(1)?R_(22) の少なくとも1つは重水素である)で表される化合物又はその塩若しくは立体異性体。」
であったものを、
「以下:

の構造式で表される化合物又はその塩若しくは立体異性体であって、
Dで表される各部位が10%以上の重水素濃縮度を有する、前記化合物又はその塩若しくは立体異性体。」
とする補正を含んでいる(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
この補正は、請求項1に係る発明について、
構造式Iで表される化合物におけるR_(1)?R_(6) について、補正前は「水素及び重水素からなる群より独立して選択され」とされ、 ^(2)Hの同位体存在度が特定されていなかったものを、補正後は「D」で表示するとともに「10%以上の重水素濃縮度を有する」として、その ^(2)Hの同位体存在度を限定し、
同じくR_(7)?R_(19) 及びR_(21)?R_(29) について、補正前は「水素及び重水素からなる群より独立して選択され」であったものを、補正後は水素に限定し、
同じくR_(20) について、補正前は「水素、重水素、-C(O)O-アルキル、及び-C(O)-C_(1-6) アルキルからなる群より選択され、前記アルキル又はC_(1-6) アルキルは、-NH-C(NH)NH_(2)、-CO_(2)H、-CO_(2) アルキル、-SH、-C(O)NH_(2)、-NH_(2)、フェニル、-OH、4-ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、及びインドリルからなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、R_(20) の置換基は、いずれもさらに重水素によって置換されていてもよく」であったものを、補正後は水素に限定する、
ものであるから、上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項を限定するものであって、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)そこで、上記補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物
刊行物1:特表2007-522193号公報(原審における引用文献2)
刊行物2:国際公開第2010/044981号(原審における引用文献3)

イ 刊行物の記載事項

(ア)刊行物1
(1a)「【請求項1】3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジン。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項7】下式(Ia)を有する3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bR異性体:

【請求項8】下式(Ib)を有する3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジンの2R,3R,11bS異性体:

【請求項9】下式(Ic)を有する3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bR異性体:

【請求項10】下式(Id)を有する3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bS異性体:


(1b)「【0001】発明の分野
本発明は、新規なジヒドロテトラベナジン(dihydrotetrabenazine)異性体、それらを含有する医薬組成物、それらの製造方法およびそれらの治療的使用に関する。
【0002】背景技術
テトラベナジン(tetrabenazine)(化学名:1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-3-(2-メチルプロピル)-2H-ベンゾ(a)キノリジン-2-オン)は、1950年代の終盤以来、医薬として用いられてきた。テトラベナジンは、当初は抗精神病薬として用いられたが、現在では、ハンチントン病、片側バリスム(hemiballismum)、老年舞踏病、チック(tic)、遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)およびトゥーレット症候群(Tourette's disease)などの運動亢進性運動障害(hyperkinetic movement disorders)を処置するために用いられている。例えば、Jankovic et al.,Am.J.Psychiatry.(1999)Aug;156(8):1279-81およびJankovic et al.,Neurology(1997)Feb;48(2):358-62参照。
【0003】テトラベナジンの主要な薬理作用は、ヒト小胞モノアミン輸送体イソ型2(hVMAT2)を阻害することにより中枢神経系におけるモノアミン類の(例えば、ドーパミン、セロトニンおよびノルエピネフリン)の供給量を減らすことである。この薬物はまた、シナプス後ドーパミン受容体を遮断する。
【0004】テトラベナジンは、種々の運動亢進性運動障害の処置に効果的かつ安全な薬物であり、典型的な神経抑制薬とは対照的に、遅発性ジスキネジアを引き起こすことは示されていない。しかしながらやはり、テトラベナジンは、鬱病、パーキンソン病、傾眠、神経質または不安、不眠症、およびまれにではあるが神経抑制悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)をはじめとするいくつかの用量関連の副作用を示す。
【0005】テトラベナジンの中心的作用はレセルピンの場合とよく似ているが、VMAT1輸送体における活性を欠いているという点でレセルピンとは異なる。VMAT1輸送体における活性の欠如とは、テトラベナジンはレセルピンよりも末梢活性が低く、結果として、低血圧症などのVMAT1関連副作用を生じないことを意味する。
テトラベナジンの化学構造は下記Fig.1に示す通りである。

Fig.1 テトラベナジンの構造
【0006】この化合物は3位と11b位の炭素原子にキラル中心を持ち、ゆえに、理論的には、下記Fig.2に示すように全部で4種類の異性体型で存在し得る。

Fig.2 存在し得るテトラベナジン異性体
【0007】前記Fig.2において、各異性体の立体化学は、Cahn,Ingold and Prelogにより開発された「RおよびS」命名法を用いて定義される(Advanced Organic Chemistry by Jerry March,4th Edition,John Wiley & Sons,New York,1992,pages 109-114参照)。Fig.2および本特許出願の他所において、「R」または「S」の表示は炭素原子の位置番号の順に示されている。従って、例えば、RSは3R,11bSの省略表記である。同様に、下記のジヒドロテトラベナジンのようにキラル中心が3つ存在する場合には、「R」または「S」の表示は炭素原子2、3および11bの順に挙げられている。従って、2S,3R,11bR異性体は、省略形SRRで示されるなどである。
【0008】市販のテトラベナジンはRR異性体とSS異性体のラセミ混合物であり、RR異性体とSS異性体(以下、3位と11b位の水素原子がトランス相対配向を有することから、個々に、またはひとまとめにしてトランス-テトラベナジンと呼ぶ)は最も熱力学的に安定な異性体であることが明らかである。
【0009】テトラベナジンはやや不十分で変動のあるバイオアベイラビリティを有する。それは初回通過代謝により大部分代謝され、一般に尿では未変性のテトラベナジンはほとんど、またはまったく検出されない。主要な代謝産物は、テトラベナジンの2-ケト基の還元により生じるジヒドロテトラベナジン(化学名:2-ヒドロキシ-3-(2-メチルプロピル)-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-ベンゾ(a)キノリジン)であり、この薬物の活性を主として担うものと考えられている(Mehvar et al.,Drug Metab.Disp,15,250-255(1987)およびJ.Pharm.Sci.,76,No.6,461-465(1987)参照)。
【0010】これまでに4種類のジヒドロテトラベナジン異性体が確認および同定されており、その総てがより安定な本発明のテトラベナジンのRRおよびSS異性体に由来するものであり、3位と11b位の水素原子の間にトランス相対配向を有する(Kilbourn et al.,Chirality,9:59-62(1997)およびBrossi et al.,Helv.Chim.Acta.,vol.XLI,No.193,pp1793-1806(1958)参照)。これら4種類の異性体は、(+)-α-ジヒドロテトラベナジン、(-)-α-ジヒドロテトラベナジン、(+)-β-ジヒドロテトラベナジンおよび(-)-β-ジヒドロテトラベナジンである。これら4種類の既知のジヒドロテトラベナジン異性体の構造は、下記Fig.3に示されている通りと考えられる。

Fig.3 ジヒドロテトラベナンの既知異性体の構造
【0011】Kilbourn et al.,(Eur.J.Pharmacol.,278:249-252(1995)およびMed.Chem.Res.,5:113-126(1994)参照)は、意識のあるラットの脳において個々に放射性標識したジヒドロテトラベナジン異性体の特異的結合を検討した。彼らは、(+)-α-[^(11)C]ジヒドロテトラベナジン(2R,3R,11bR)異性体が、高濃度の神経膜ドーパミン輸送体(DAT)および胞モノアミン輸送体(VMAT2)と関連のある脳領域に蓄積することを見出した。しかしながら、本質的に不活性な(-)-α-[^(11)C]ジヒドロテトラベナジン異性体は脳内にほぼ一様に分布しており、このことはDATおよびVMAT2との特異的結合が起こっていなかったことを示唆する。これらのin vivo研究は、(+)-α-[^(11)C]ジヒドロテトラベナジン異性体が、(-)-α-[^(11)C]ジヒドロテトラベナジン異性体のK_(i) よりも2000倍を超えて高い、[^(3)H]メトキシテトラベナジンに対するKiを示すことを実証したin vitro研究と関連づけられた。
【0012】これらの出願が認識する限り、これまでに、テトラベナジンの不安定なRSおよびSR異性体(以下、3位と11b位の水素原子がシス相対配向を有することから、個々に、またはひとまとめにしてシス-テトラベナジンと呼ぶ)に由来するジヒドロテトラベナジン異性体が単離および同定されたことはなく、これらの化合物の生物活性はこれまでに公表されたことはない。
【発明の概要】
【0013】今般、テトラベナジンの不安定なRSおよびSR異性体(「シス異性体」)に由来するジヒドロテトラベナジン異性体が安定なばかりか、予期しないほど良好な生物特性を有することが見出された。特に、これらの異性体のうち特定のものは、現行使用のRR/SSテトラベナジンに優るいくつかの利点を示す受容体活性特性を有する。例えば、これらの異性体のいくつかのものは、VMAT2に高い親和性を有するが、ドーパミン受容体の結合の著しい低下を示すか、または無視できるほどのドーパミン受容体の結合しか示さず、このことは、それらがテトラベナジンで出くわすドーパミン作動性の副作用を生じにくいことを示す。これらの異性体の中でドーパミン輸送体(DAT)の阻害を示したものはなかった。さらに、ラットにおけるこれらの異性体のいくつかに対する研究では、それらにテトラベナジンに関連する望ましくない鎮静副作用がないことが示された。鎮痛活性がないのは、これらの異性体のいくつかのものの、アドレナリン受容体に対する極めて低い親和性によるためであり得る。さらに、テトラベナジンの副作用の1つが抑鬱であるが、これらのジヒドロテトラベナジン異性体のいくつかのものは、セロトニン輸送体(SERT)タンパク質に対して親和性を示し、このことは、それらが抗鬱活性を持ち得ることを示す。
【0014】よって、第1の態様において、本発明は、3,11b-シス-ジヒドロテトラベナジンを提供する。」
(1c)「【0036】ジヒドロテトラベナジン異性体の製造方法
さらなる態様において、本発明のジヒドロテトラベナジンを製造する方法(方法A)が提供され、その方法は、式(II):

の化合物を、式(II)の化合物の2,3-二重結合を水和するのに好適な試薬と反応させ、その後必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含んでなる。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0038】式(II)の化合物は、テトラベナジンを還元してジヒドロテトラベナジンを得た後、そのジヒドロテトラベナジンの脱水を行うことにより製造することができる。テトラベナジンの還元は、水素化リチウムアルミニウムなどの水素化アルミニウム試薬、または水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムもしくは水素化ホウ素誘導体、例えば、トリ-sec-ブチル水素化ホウ素リチウムなどの水素化ホウ素アルキルといった水素化ホウ素試薬を用いて達成できる。あるいは、この反応工程は、例えば、ラネーニッケルまたは酸化白金触媒などの触媒的水素化を用いて行うこともできる。この反応工程を行うのに好適な条件は下記でよりさらに詳しく記載され、あるいは米国特許第2,843,591号(Hoffmann-La Roche)およびBrossi et al.,Helv.Chim.Acta.,vol.XLI,No.193,pp1793-1806(1958)に見出せる。
【0039】この還元反応の出発材料として用いられるテトラベナジンは一般にRR異性体とSS異性体の混合物(すなわち、トランス-テトラベナジン)であるので、この還元工程により生じるジヒドロテトラベナジンは3位および11b位について同じトランス配置を有し、上記Fig.3に示されている既知のジヒドロテトラベナジン異性体の1以上の形態をとる。よって、プロセスAは、ジヒドロテトラベナジンの既知の異性体を考慮して、それらを脱水してアルケン(II)を形成した後、必要な本発明の新規なシスジヒドロテトラベナジン異性体を得る条件を用いて、そのアルケン(II)を「再水和する」ことを含み得る。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0041】ジヒドロテトラベナジンを得るための還元の出発材料として用いるテトラベナジンは、商業的に入手可能であるか、または米国特許第2,830,993号(Hoffmann-La Roche)に記載の方法によって合成することができる。
【0042】本発明はまた、本発明のジヒドロテトラベナジンを製造する方法(方法B)を提供し、その方法は式(III):

の化合物を、式(III)の化合物の2,3-エポキシド基を開環する条件下に置いた後、必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含む。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0044】式(III)のエポキシド化合物は、上記式(II)のアルケンのエポキシド化によって製造できる。・・・
【0045】上記方法AおよびBの出発材料が鏡像異性体混合物である場合には、それらの方法の生成物は一般に、鏡像異性体対、例えば、ジアステレオ異性体不純物を伴うラセミ混合物となる。望まないジアステレオ異性体はクロマトグラフィー(例えば、HPLC)などの技術によって除去することができ、個々の鏡像異性体は、熟練の化学者に知られている種々の方法によって分離することができる。・・・
【0046】方法AおよびBの各々から得られ、特に有効であることが分かった鏡像異性体を分離する1つの方法として、以下に示すR(+)異性体などの光学的に活性な形態のモッシャー(Mosher)の酸、またはその活性型を用いてジヒドロテトラベナジンのヒドロキシル基をエステル化するものがある。

【0047】得られたこのジヒドロベナジンの2つの鏡像異性体のエステルは、次に、クロマトグラフィー(例えば、HPLC)により分離することができ、分離されたエステルを、メタノールなどの極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)などの塩基を用いて加水分解して個々のジヒドロベナジン異性体を得ることができる。
【0048】方法AおよびBの出発材料として鏡像異性体混合物を用い、その後、鏡像異性体の分離を行う代わりに、方法AおよびBを各々、単一の鏡像異性体出発材料で行い、単一の鏡像異性体が優勢となる生成物を得ることもできる。アルケン(II)の単一の鏡像異性体は、RR/SSテトラベナジンに対して、トリ-sec-ブチル水素化ホウ素リチウムを用いて立体選択的還元を行ってジヒドロテトラベナジンのSRRおよびRSS鏡像異性体の混合物を得、これらの鏡像異性体を分離し(例えば、分別結晶による)、その後、分離されたジヒドロテトラベナジンの単一の鏡像異性体を脱水して、式(II)の化合物の単一の鏡像異性体を優先的または排他的に製造することができる。」
(1d)「【0048】・・・・・・・・・

【0049】スキーム1は、2位と3位に結合している水素原子がトランス相対配向にある2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の製法を示している。この反応スキームは、上記で定義した方法Aを含む。
【0050】スキーム1の一連の反応の出発点は、テトラベナジンのRRおよびSS光学異性体のラセミ混合物である市販のテトラベナジン(IV)である。RRおよびSS異性体の各々において、3位および11b位の水素原子はトランス相対配向にある。市販の化合物を用いる代わりに、テトラベナジンは、米国特許第2,830,993号に記載の手順に従って合成することができる・・・。
【0051】RRおよびSSテトラベナジンのラセミ混合物を、水素化ホウ素還元剤であるトリ-sec-ブチル水素化ホウ素リチウム(「L-セレクトリド」)を用いて還元し、ジヒドロテトラベナジンの既知の2S,3R,11bR異性体と2R,3S,11bS異性体の混合物(V)を得るが、簡略化して、このうちの2S,3R,11bR異性体のみを示す。水素化ホウ素還元剤として水素化ホウ素ナトリウムよりもより立体要求性の高いL-セレクトリドを用いることで、ジヒドロテトラベナジンのRRRおよびSSS異性体の形成が最小限となるか、または抑制される。
【0052】ジヒドロテトラベナジン異性体(V)を、塩素化炭化水素(例えば、クロロホルムまたはジクロロメタン、好ましくは、ジクロロメタン)などのプロトン性溶媒中、五塩化リンなどの脱水剤と反応させ、鏡像異性体対として不飽和化合物(II)を形成するが、このスキームではそのうちR-鏡像異性体のみを示す。この脱水反応は一般に、室温より低い温度、例えば、0?5℃前後で行う。
【0053】次に、この不飽和化合物(II)に対して立体選択的再水和を行って、3位と11b位の水素原子がシス相対配向にあり、2位と3位の水素原子がトランス相対配向にあるジヒドロテトラベナジン(VI)およびその鏡像または対掌体(示されていない)を生成する。立体選択的再水和は、テトラヒドロフラン(THF)中ボラン-THFを用いたヒドロホウ素化を行って中間体ボラン複合体(示されていない)を形成した後、これを水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下、過酸化水素で酸化することによって達成される。
【0054】その後、最初の精製工程(例えば、HPLCによる)を行って、この一連の再水和反応の生成物(V)を、その2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS異性体の混合物として得、2S,3S,11bR異性体のみ示した。これらの異性体を分離するため、この混合物を、ジクロロメタン中、塩化オキサリルおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でR(+)モッシャーの酸で処理し、ジアステレオ異性体エステル(VII)対を得(そのうち1つのジアステレオ異性体のみを示す)、次に、これをHPLCにより分離することができる。次に、この個々のエステルを、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解し、単一の異性体(VI)を得ることができる。
【0055】スキーム1で示した一連の工程のバリエーションでは、RR/SSテトラベナジンの還元の後、得られたジヒドロテトラベナジン(V)の鏡像異性体混合物を分離して、個々の鏡像異性体を分離することができる。分離は、(+)または(-)カンファースルホン酸などのキラル酸で塩を形成し、得られたジアステレオ異性体を分別結晶により分離して単一の鏡像異性体の塩を得た後、その塩から遊離の塩基を遊離させることによって行うことができる。
【0056】分離されたジヒドロテトラベナジン鏡像異性体を脱水して、アルケン(II)の単一の鏡像異性体を得ることができる。次に、アルケン(II)の再水和を行い、優先的または排他的にシス-ジヒドロテトラベナジン(VI)の単一の鏡像異性体を得ることができる。
本発明の利点は、モッシャーの酸エステルの形成を含まず、従って、モッシャーの酸エステルの分離に一般に用いられるクロマトグラフィー的分離を避けられるということである。」
(1e)「【0057】スキーム2は、2位と3位に結合している水素原子がシス相対配向にある、2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の製造を示す。この反応スキームは、上記で定義された方法Bを含む。

【0058】スキーム2において、この不飽和化合物(II)は、テトラベナジンを還元してジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS異性体(V)を得、スキーム1で上記したようにPCl_(5) で脱水することにより製造される。しかしながら、化合物(II)をヒドロホウ素化する代わりに、2,3-二重結合は、メタ-クロロ過安息香酸(MCPBA)および過塩素酸との反応によりエポキシドに変換される。このエポキシ化反応は、一般に室温前後で、メタノールなどのアルコール溶媒中で行うのが便宜である。
【0059】次に、このエポキシド(VII)に対し、求電子還元剤としてボラン-THFを用いて還元的開環を行い、中間体ボラン複合体(示されていない)を得、次にこれを酸化し、水酸化ナトリウムなどのアルカリの存在下、過酸化水素で開裂させ、ジヒドロテトラベナジン(VIII)を2R,3S,11bR異性体と2S,3R,11bS異性体の混合物として得るが、簡略化して、このうちの2R,3S,11bRのみを示す。この異性体混合物(VIII)を、ジクロロメタン中、塩化オキサリルおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下、R(+)モッシャーの酸で処理し、エピマーエステル(IX)対を得(そのうち1つのエピマーのみ示す)、次にこれをクロマトグラフィーにより分離し、スキーム1に関して上記したように、水酸化ナトリウムで加水分解することができる。」
(1f)「【0086】実施例1
ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS異性体の製造
1A. RR/SSテトラベナジンの還元

【0087】0℃にて、エタノール(75ml)およびテトラヒドロフラン(75ml)中、テトラベナジンRR/SSラセミ化合物(15g,47mmol)の攪拌溶液に、テトラヒドロフラン中1MのL-セレクトリド(Selectride)(商標)(135ml,135mmol,2.87当量)を30分かけてゆっくり加えた。添加が完了した後、この混合物を0℃で30分間攪拌した後、室温まで温めた。
【0088】この混合物を砕氷(300g)に注ぎ、水(100ml)を加えた。この溶液をジエチルエーテル(2×200ml)で抽出し、合わせたエーテル抽出液を水(100ml)で洗浄し、無水炭酸カリウム上で部分乾燥した。無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥を完了させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し(遮光、浴温<20℃)、淡黄色固体を得た。
この固体を石油エーテル(30?40℃)でスラリーとし、白色粉末固体を得た(12g,80%)。
【0089】1B. 還元型テトラベナジンの脱水

【0090】0℃にて、ジクロロメタン(200ml)中、実施例1Aから得られた還元型のテトラベナジン生成物(20g,62.7mmol)の攪拌溶液に、五塩化リン(32.8g,157.5mmol,2.5当量)を30分かけて少量ずつ加えた。添加が完了した後、反応混合物を0℃でさらに30分間攪拌し、この溶液を砕氷(0℃)を含む2M炭酸ナトリウム水溶液にゆっくり注いだ。最初の酸素ガスの発生が終わったところで、この混合物を、固体炭酸ナトリウムを用いて塩基性とした(約pH12)。
【0091】このアルカリ溶液を、酢酸エチル(800ml)を用いて抽出し、合わせた有機抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下で溶媒を除去して褐色の油状物を得、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル)により精製し、半精製アルケンを黄色固体として得た(10.87g,58%)。
【0092】1C. 実施例1Bから得られた粗アルケンの水和

【0093】室温にて、乾燥THF(52ml)中、実施例1Bから得られた粗アルケン(10.87g,36.11mmol)の溶液を、1Mボラン-THF(155.6ml,155.6mmol,4.30当量)で滴下処理した。この反応物を2時間攪拌し、水(20ml)を加え、この溶液を30%水酸化ナトリウム水溶液でpH12まで塩基性化した。
【0094】このアルカリ性の攪拌反応混合物に30%過酸化水素水溶液(30ml)を加え、この溶液を1時間還流加熱した後、室温にした。水(100ml)を加え、この混合物を酢酸エチル(3×250ml)で抽出した。有機抽出液を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し、黄色油状物を得た(9g)。
【0095】この油状物を、分取HPLC(カラム:Lichrospher Si60,5μm,250×21.20mm,移動相:ヘキサン:エタノール:ジクロロメタン(85:15:5);UV254nm,流速:10ml/分)を用い、350mg/インジェクションで精製した後、真空下で目的画分を濃縮した。次に、この生成油状物をエーテルに溶解し、真空下で再び濃縮し、上記に示されるジヒドロテトラベナジンラセミ化合物を黄色泡沫として得た(5.76g,50%)。
【0096】1D. 12.モッシャーのエステル誘導体の製造

【0097】R-(+)-α-メトキシ-α-トリフルオロメチルフェニル酢酸(5g,21.35mmol)、塩化オキサリル(2.02ml)およびDMF(0.16ml)を無水ジクロロメタン(50ml)に加え、この溶液を室温で45分間攪拌した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をもう一度無水ジクロロメタン(50ml)に取った。得られた溶液を、氷水浴を用いて冷却し、ジメチルアミノピリジン(3.83g,31.34mmol)を加えた後、実施例1Cの固体生成物(5g,15.6mmol)の、無水ジクロロメタン中溶液を予め乾燥したもの(4オングストロームシーブス上)を加えた。室温で45分間攪拌した後、水(234ml)を加え、この混合物をエーテル(2×200ml)で抽出した。エーテル抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、シリカパッドを通し、エーテルを用いて生成物を溶出した。
【0098】回収したエーテル溶出液を減圧下で濃縮して油状物を得、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン:エーテル(10:1))を用いて精製した。回収した目的のカラム画分を蒸発させ、減圧下で溶媒を除去して固体を得、これを、カラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン:酢酸エチル(1:1))を用いてさらに精製して3種類の主成分を得、これをモッシャーのエステルピーク1と2に部分的に分解した。
【0099】これらの3成分について分取HPLC(カラム:2×Lichrospher Si60,5μm,250×21.20mm,移動相:ヘキサン:イソプロパノール(97:3),UV254nm;流速:10ml/分)をロード量300mgで行った後、目的画分を減圧下で濃縮し、純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1(3.89g,46.5%)
ピーク2(2.78g,33%)
【0100】これら2つのピークに相当する画分に対して加水分解を行い、異性体AおよびBと同定および特性決定される個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離させた。異性体AおよびBは各々、次の構造:

のうちの1つを有すると考えられる。
【0101】IE. ピーク1の加水分解による異性体Aの取得
メタノール(260ml)中、モッシャーのエステルピーク1(3.89g,7.27mmol)の溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(87.5ml)を加え、この混合物を攪拌し、150分間還流加熱した。室温まで冷却した後、水(200ml)を加え、この溶液をエーテル(600ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。
【0102】残渣を酢酸エチル(200ml)を用いて溶解し、この溶液を水(2×50ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮し、黄色泡沫を得た。この材料をカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル:ヘキサン(1:1)?酢酸エチルの勾配溶出)により精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を除去した。残渣をエーテルに取り、もう一度、減圧下で溶媒を除去し、異性体Aを灰白色泡沫として得た(1.1g,47%)。
【0103】異性体Aは2S,3S,11bRまたは2R,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、 ^(1)H-NMR、 ^(13)C-NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体AのIR、NMRおよびMSデータを表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表3に示す。
【0104】1F. ピーク2の加水分解による異性体Bの取得
メタノール(185ml)中、モッシャーのエステルピーク2(2.78g,5.19 mmol)の溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(62.5ml)を加え、この混合物を攪拌し、150分還流加熱した。室温まで冷却した後、水(142ml)を加え、この溶液をエーテル(440ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。
【0105】残渣を酢酸エチル(200ml)を用いて溶解し、この溶液を水(2×50ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。この残渣に石油エーテル(30?40℃)を加え、この溶液を、もう一度、真空下で濃縮し、異性体Bを白色泡沫として得た(1.34g,81%)。
【0106】異性体Bは2S,3S,11bRまたは2R,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、 ^(1)H-NMR、 ^(13)C-NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体BのIR、NMRおよびMSデータを表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表3に示す。
【0107】実施例2
ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体の製造
2A. 2,3-デヒドロテトラベナジンの製造
テトラヒドロフランにおいてRRおよびSSテトラベナジン鏡像異性体のラセミ混合物(15g,47mmol)を含有する溶液を、実施例1Aの方法により、L-セレクトリド(商標)で還元し、ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS鏡像異性体の混合物を白色粉末固体として得た(12g,80%)。次に、この部分精製されたジヒドロテトラベナジンを、実施例1Bの方法に従い、PCl_(5) を用いて脱水し、2,3-デヒドロテトラベナジンの11bRおよび11bS異性体の半純粋混合物(そのうち、11bR鏡像異性体を下記に示す)を黄色固体として得た(12.92g,68%)。

【0108】2B. 実施例2Aから得られた粗Eアルケンの酸化

【0109】メタノール(215ml)中、実施例2Aから得られた粗アルケン(12,92g,42.9mmol)の攪拌溶液に、メタノール(215ml)中、70%過塩素酸(3.70ml,43mmol)の溶液を加えた。この反応物に77%の3-クロロペルオキシ安息香酸(15.50g,65mmol)を加え、得られた混合物を遮光して室温で18時間攪拌した。
【0110】この反応混合物を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(200ml)に注ぎ、(200ml)を加えた。得られたエマルションにクロロホルム(300ml)を加え、この混合物を飽和重炭酸ナトリウム水溶液(400ml)で塩基性とした。
【0111】有機層を回収し、水相をさらなるクロロホルム(2×150ml)で洗浄した。合わせたクロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し、褐色の油状物を得た(14.35g,収率>100%-生成物中にはおそらく溶媒が残留)。この材料をさらに精製することなく用いた。
【0112】2C. 2Bから得られたエポキシドの還元的開環

【0113】乾燥THF(80ml)中、実施例2Bから得られた粗エポキシド(14.35g,42.9mmol,推定収率100%)の攪拌溶液を、15分かけて1Mボラン/THF(184.6ml,184.6mmol)でゆっくり処理した。反応物を2時間攪拌し、水(65ml)を加え、この溶液を30分間攪拌しながら還流加熱した。
【0114】冷却後、反応混合物に30%水酸化ナトリウム溶液(97ml)を加えた後、30%過酸化水素溶液(48.6ml)を加え、この反応物を攪拌し、さらに1時間する還流加熱した。
【0115】冷却した反応混合物を酢酸エチル(500ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去して油状物を得た。この油状物にヘキサン(230ml)を加え、この溶液を減圧下で再濃縮した。
【0116】この油状残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル)により精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を除去した。この残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン?エーテル勾配)を用いてもう一度精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を蒸発させ、淡黄色固体を得た(5.18g,38%)。
【0117】2D. ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体のモッシャーのエステル誘導体の製造

・・・・・・・・・・・・・・・
【0119】・・・ピンク色の固体を得た(6.53g)。
【0120】この固体に対して分取HPLC・・・純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1(2.37g,30%)
ピーク2(2.42g,30%)
【0121】これら2つのピークに相当する画分に対して加水分解を行い、異性体CおよびDと同定および特性決定される個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離させた。異性体CおよびDは各々、次の構造:

のうちの1つを有すると考えられる。
【0122】2F. ピーク1の加水分解による異性体Cの取得
・・・・・・・・・・・・・・・
【0123】・・・異性体Cを得た(1.0g,70%)。異性体Cは2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、
【0124】 ^(1)H-NMR、 ^(13)C-NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体CのIR、NMRおよびMSデータを表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表4に示す。
【0125】2G. ピーク2の加水分解による異性体Dの取得
・・・・・・・・・・・・・・・
【0126】・・・異性体Dを白色固体として得た(0.93g,64%)。
【0127】異性体Dは2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、 ^(1)H-NMR、 ^(13)C-NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体DのIR、NMRおよびMSデータを表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表4に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0129】表1および2-分光データ
・・・(審決注:表1は省略する。)・・・
【0130】・・・(審決注:表2は省略する。)・・・
【0131】表3および4-クロマトグラフィーおよびORDデータ
・・・(審決注:表3は省略する。)・・・
【0132】・・・(審決注:表4は省略する。)・・・」
(1g)「【0149】実施例4
[^(3)H]ジヒドロテトラベナジン結合アッセイを用いたVMAT-2結合活性のスクリーニング
ジヒドロテトラベナジンは極めて強力かつ選択性のあるVMAT-2の阻害剤であり、この小胞輸送体と高い親和性(nM範囲)で結合する。・・・
【0150】4種類のジヒドロテトラベナジン異性体A,B,CおよびDを・・・VMAT-2輸送体を阻害する能力に関して試験した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0154】表5-試験化合物に関する競合結合パラメーター
・・・(審決注:表5は省略する。)・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0157】実施例5
VMAT機能アッセイ
A. VMAT2機能アッセイ ・・・
【0160】B. VMAT1の機能アッセイ ・・・
【0162】・・・化合物Bおよび化合物Cは・・・VMAT-1に対して低い親和性を有することを示す。さらに、このデータは、この両化合物がVMAT-1よりもVMAT-2に対して少なくとも2オーダーの選択性を有することを示す。
【0163】実施例6
受容体および輸送体タンパク質結合研究 ・・・
【0174】表6
・・・(審決注:表6は結合の阻害率%の表である。省略する。)・・・
【0175】実施例7
酵素アッセイ ・・・
【0176】(a)カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害 ・・・
【0177】(b)モノアミンオキシダーゼMAO-A阻害 ・・・
【0178】(c)モノアミンオキシダーゼMAO-B阻害 ・・・
【0179】表7
・・・(審決注:表7は酵素活性の阻害率%の表である。省略する。)・・・
【0180】実施例8
細胞アッセイ
異性体BおよびCの、ヒト胎児腎細胞によるセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン)の取り込みを阻害する能力を・・・測定した。・・・
【0181】結果
化合物Bはアンタゴニストであることが示され・・・IC_(50) は7.53μMであった。
化合物Cはアンタゴニストであることが示され・・・IC_(50) は1.29μMであった。
【0182】実施例9
5-HT_(1D/1B) 結合アッセイ ・・・
【0183】化合物BおよびCは双方とも・・・5-HT_(1D/1B) 受容体に対して低い親和性しか持たないことを示唆する。
【0184】実施例10
Caco-2吸収アッセイを用いた、ジヒドロテトラベナジン異性体A、B、CおよびDの腸管浸透性の測定 ・・・
【0199】表8
・・・(表8は浸透性の指標のPapp値の表である。省略する。)・・・
【0200】化合物C、DおよびA・・・化合物Bの・・・結果は、これら4種類のジヒドロテトラベナジン異性体がin vivoにおいて腸管上皮からよく吸収されるはずであることを示唆する。
【0201】実施例11
テトラベナジンおよびジヒドロテトラベナジン異性体BおよびCの鎮静特性の比較 ・・・
【0210】結果
・・・(審決注:結果の表は省略する。)・・・
これらの結果は、テトラベナジンが投与後45分および3時間に用量依存性の鎮静作用をもたらし、一方、異性体Bおよび異性体Cはどの時点でも鎮静作用を示さないが、異性体Cは投与後3時間に、有意でない若干の運動亢進を示すことを実証する。」

(イ)刊行物2
訳文により示す。
(2a)「1.構造式Iの化合物

又はその塩であって、式中:
R_(1)-R_(27) は、独立して水素及び重水素よりなる群から選択され;
R_(1)-R_(27) のうちの少なくとも1つは重水素である、化合物又はその塩。
・・・・・・・・・・・・・・・
7.前記化合物は、

より成る群から選択される構造式を有する、請求項1に記載の化合物。
・・・・・・・・・・・・・・・
12.前記化合物は、構造式:

を有する、請求項7に記載の化合物。」(47?60頁、請求の範囲の請求項1、7、12)
(2b)「[0002]本明細書に開示されるのは、新規のベンゾキノリン化合物、それから作製される薬学的組成物であり、慢性多動性運動障害の治療のための、被験体の小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)活性を阻害するための方法もまた提供される。
[0003]テトラベナジン(Nitoman、Xenazine、Ro 1-9569)、1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-3-(2-メチルプロピル)-2H-ベンゾ[a]キノリンは、小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)阻害剤である。テトラベナジンは、一般的にハンチントン病の治療のために処方される(Savani et al.,Neurology 2007,68(10),797;及びKenney et al.,Expert Review of Neurotherapeutics 2006,6(1),7-17)。

テトラベナジン
[0004]生体内において、テトラベナジンは、その還元型である、3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2-オールへと迅速かつ広範に代謝され、次いで、VMAT2に特異的に結合する(Zhang et al.,AAPS Journal,2006,8(4),E682-692)。さらなる代謝経路には、メトキシ基のO-脱メチル化、並びにイソブチル基の水酸化が伴われる(Schwartz et al.,Biochem.Pharmacol.,1966,15,645-655)。テトラベナジンの投与に関連した有害作用には、神経弛緩薬性悪性症候群、眠気、疲労、神経過敏、不安、不眠症、激越、錯乱、起立性低血圧症、吐き気、眩暈、鬱病、及びパーキンソン症が含まれる。
重水素速度論的同位体効果
[0005]治療剤等の外来の基質を削除するために、動物の体は、シトクロムP_(450) 酵素(CYP)、エステラーゼ、プロテアーゼ、リダクターゼ、デヒドロゲナーゼ及びモノアミンオキシダーゼ等の種々の酵素を発現して、それらの外来基質と反応し、腎排出のために、より極性の中間体又は代謝物に変換する。かかる代謝反応はたびたび、炭素-酸素(C-O)-結合又は炭素-炭素(C-C)π-結合のいずれか一方への、炭素-水素(C-H)-結合の酸化が含まれる。結果として得られた代謝物は、生理学的条件下で、安定であるか、又は不安定であり、親化合物と比べて、実質的に異なる薬物動態学的、薬力学的、及び急性及び長期毒性特性を有し得る。ほとんどの薬物では、このような酸化は一般的に迅速であり、最終的に、複数回投与又は高い一日用量の投与をもたらす。
[0006]活性化エネルギーと反応の速度の間の関係は、アレニウスの式、k=Ae^(-Eact/RT) によって定量され得る。アレニウスの式は、所与の温度において、化学的反応の速度が指数関数的に活性化エネルギー(E_(act))依存することを提示する。
[0007]反応における遷移状態は、本来の結合がその制限まで伸長する反応経路にそった、短命の状態である。定義によって、反応に対する活性化エネルギーE_(act) は、その反応の遷移状態に達するために必要なエネルギーである。一旦遷移状態に達したならば、分子が本来の反応物に戻る、又は新規の結合を形成して反応生成物を生成し得る。触媒は、遷移状態をもたらす活性化エネルギーを低下させることによって、反応工程を促進する。酵素は、生物学的触媒の例である。
[0008]炭素-水素結合力は、結合の基底状態振動エネルギーの絶対値に直接比例する。この振動エネルギーは、その結合を形成する原子の質量に依存し、かつ結合を形成する1つ又は両方の原子の質量が増加するにつれて増加する。重水素(D)は、プロチウム(^(1)H)の二倍の質量であり、C-D結合は、相当するC-^(1)H結合よりも強い。C-^(1)H結合が、化学的反応における速度決定段階(すなわちもっとも高い遷移状態エネルギーをもつ段階)の間に破壊される場合、そのプロチウムを重水素に置換することによって、反応速度の減少が引き起こされ得る。本現象は、重水素速度論的同位体効果(DKIE)と呼ばれる。DKIEの大きさは、C-^(1)H結合が破壊される所与の反応の速度とプロチウムが重水素に置換される同一の反応の速度との間の比として表現され得る。DKIEは、約1(同位体効果なし)?50以上等の、非常に大きな数字の範囲であり得る。水素を三重水素で置換すると、重水素よりもまたさらに強い結合となり、非常に大きな同位体効果が得られる。
[0009]
重水素(^(2)H又はD)は、プロチウム(^(1)H)の約二倍の質量を有する水素の安定な、非放射性同位体であり、最も一般的な水素の同位体である。重水素酸化物(D_(2)O又は“重水”)は、H_(2)Oのように見え、かつH_(2)Oのような味がするが、異なる物理的特性をもつ。
[0010]純粋なD_(2)Oが齧歯類に与えられた場合、簡単に吸収される。毒性を誘導するのに必要な重水素の量は非常に高い。体内の水の0%?15%がD_(2)Oによって置換された場合、動物は健康であるが、対照(未処理)群と同様の速さで体重を増加することはできない。約15%?約20%の体内の水がD_(2)Oによって置換された場合、動物が興奮しやすくなる。約20%?25%の体内の水がD_(2)Oによって置換された場合、動物は刺激した時に、頻繁にけいれんを起こすようになるほど興奮する。皮膚病変、脚及び鼻口部における潰瘍、及び尾の壊死が発生する。これらの動物はまた、非常に攻撃的になる。約30%の体内の水がD_(2)Oに置換された場合、これらの動物は食べることを拒絶し、昏睡状態になる。これらの動物の体重は激しく減少し、その代謝速度は通常よりも非常に低下し、約30?約35%のD_(2)Oの置換にて、死亡する。D_(2)Oのために以前の体重の30%以上減少しない限り、効果は可逆的である。研究によってまた、D_(2)Oの利用が、癌細胞の増殖を遅延させ、特定の抗腫瘍剤の細胞傷害性を増強可能であることも示されている。
[0011]薬物動態(PK)、薬力学(PD)及び毒性特性を改善するために、医薬品の重水素化が、いくつかのクラスの薬物ですでに示されている。例えば、DKIEを利用して、塩化トリフルオロアセチル等の反応種の生成をおそらく制限することによって、ハロタンの肝毒性を減少させた。しかしながら、本方法は、すべての薬物クラスに適用可能であるわけではない。例えば、重水素取り込みは、代謝スイッチングを導き得る。代謝スイッチングは、異種物が、一時的に結合し、化学反応(例えば酸化)の前に、種々の立体配座にて再結合する場合に生じる。代謝スイッチングは、多くの第I相酵素における比較的大きなサイズの結合ポケットと、多くの代謝反応の混乱した特性によって可能となる。代謝スイッチングは、異なる割合の公知の代謝物、並びに全く新規の代謝物を導き得る。この新規代謝プロファイルは、程度の差はあるが毒性を与え得る。このような欠陥は、明らかでなく、任意の薬物クラスに関して先験的に予測可能ではない。
[0012]テトラベナジンは、VMAT2阻害剤である。テトラベナジンの炭素-水素結合は、天然に存在する分布の水素同位元素、特に ^(1)Hすなわちプロチウム(約99.9844%)、 ^(2)Hすなわち重水素(約0.0156%)、及び ^(3)Hすなわちトリチウム(10^(18) プロチウム原子当たり約0.5個から67個までのトリチウム原子)を含有する。重水素の取込みのレベルが増大されると、自然に生じるレベルの重水素を有するテトラベナジンと比較して、このようなシクロオキシゲナーゼ阻害剤の薬物動態学的、薬理学的及び/又はテトラベナジンの毒素学的プロファイルに影響を及ぼす可能性がある、検出可能な重水素速度論的同位体効果(DKIE)を生じ得る。
[0013]我々の研究所でなされた発見に基づいて、並びに文献を考慮して、テトラベナジンは、ヒトにおいてイソブチル基及びメトキシ基で、代謝される。現在のアプローチは、これらの部位で代謝を防ぐ可能性を有する。分子上の他の部位はまた、変換を受け、未知の薬理学/毒物学を有する代謝物をもたらし得る。これらの代謝物の生成を制限することは、このような薬物の投与の危険を減らす可能性があり、投与量を増大、及び/又は効力を増大することを可能とし得る。これらの変換の全ては、多型的に発現した酵素を介して生じ得、患者間の変動を悪化し得る。さらに、いくつかの疾患は、被験体が24時間体制又は長期間で投薬される場合、最善に治療される。全ての前述の理由のため、長期の半減期を伴う薬物はより大きな効力及びコスト削減をもたらし得る。種々の重水素化パターンは、多剤併用が計画的であってもなくても、a)不要な代謝物を減少又は排除するために、b)親薬剤の半減期を増大するために、c)所望の効果を達成するために必要とされる投与量を減らすために、d)所望の効果を達成するために必要とされる用量の量を減少するために、e)いずれかが形成された場合、活性代謝物の形成を増大するために、f)特定の組織での有害な代謝物の生成を減少するため、及び/又は(g)多剤併用のためにいっそう有効な薬剤及び/又は安全な薬剤を作製するために、使用し得る。重水素化アプローチは、テトラベナジンの代謝を遅らせ、患者間の変動を減衰させる強力な可能性がある。
[0014]新規化合物及び薬学的組成物、VMAT2を阻害することが認められた特定の新規化合物及び薬学的組成物は、本明細書に開示される化合物の投与による患者のVMAT2媒介性疾患の治療のための方法を含む、化合物の合成及び使用の方法と共に発見された。
[0015]本発明のある実施形態において、化合物は、構造式I:

又はその塩、溶媒和物、若しくはプロドラッグであって、式中、
R_(1)-R_(27) は、独立して水素及び重水素よりなる群から選択され、
R_(1)-R_(27) のうちの少なくとも1つが重水素である。」(1頁6行?5頁9行)
(2c)「[0099]・・・
実施例1
3-イソブチル-9,10-ビス(メチルアミノ)-3,4,6,7-テトラヒドロ-1H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2(11bH)-オン(テトラベナジン)

ステップ1

[00100]6,7-ジメトキシ-3,4-ジヒドロイソキノリン:酢酸/トリフルオロ酢酸(100mL)を2-(3,4-ジメトキシフェニル)エタンアミン(20g、110.38mmol、1.00等量)及びキサメチレンテトラミン(31g、221.11mmol、2.00等量)の溶液へ添加した。得られた溶液を、油浴で約5時間加熱還流した。水(100mL)を添加後、溶液をジクロロメタン(3×200mL)で抽出し、有機層を統合し、かつ無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体を、濾過により除去し、得られた濾液を、真空中で濃縮して、黄色の油(20g、収率=95%)として表題生成物を得た。LC-MS:m/z=192(MH)^(+).
ステップ2

[00101]3-((ジメチルアミノ)メチル)-5-メチル-ヘキサン-2-オン:パラホルムアルデヒド(5.5g、183.33mmol、1.60等量)及びジメチルアミン塩酸塩(10g、122.70mmol、1.00等量)を、5-メチルヘキサン-2-オン(50g、437.83mmol、3.00等量)及びメタノール(30mL)の溶液へ添加した。得られた溶液を、約16時間加熱還流し、次いで、pHを水酸化ナトリウム(10%)で約8に調製した。エーテル(3×100mL)での標準的な抽出ワークアップにより、黄色の油(12g、収率=57%)として表題生成物を得た。
ステップ3

[00102](2-アセチル-4-メチル-ペンチル)-トリメチル-ヨウ化アンモニウム:ヨードメタン(20g、140.94mmol、2.00等量)を、3-((ジメチルアミノ)メチル)-5-メチルヘキサン-2-オン(12g、70.05mmol、1.00等量)及び酢酸エチル(50mL)の溶液へ滴加した。溶液を、外気温で約16時間撹拌し、得られた沈殿物を濾過により収集し、表題生成物(15g、収率=68%)を得た。
ステップ4

[00103]3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-3,4,6,7-テトラヒドロ-1H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2(11bH)-オン:(2-アセチル-4-メチル-ペンチル)-トリメチル-ヨウ化アンモニウム(800mg、2.55mmol、1.00等量)を、6,7-ジメトキシ-3,4-ジヒドロイソキノリン(100mg、2.62mmol、1.00等量)及びエタノール(10mL)の溶液へ添加した。得られた溶液を、約5時間加熱還流し、次いで、水(20mL)を添加した。ジクロロメタン(3×50mL)での標準的な抽出ワークアップ後、粗残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/石油エーテル(1:4))により精製し、白色の固体として表題化合物(300mg、収率=36%)を得た。 ^(1)Η NMR・・・LC-MS:m/z=318(MH)^(+).
実施例2
3-イソブチル-9,10-d6-ジメトキシ-3,4,6,7-テトラヒドロ-1Η-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2(11bH)-オン(d_(6)-テトラベナジン)

ステップ1

[00104]4-(2-ニトロビニル)ベンゼン-1,2-ジオール:酢酸アンモニウム(5.6g、72.73mmol、1.00等量)を、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(10g、72.41mmol、1.00等量)及びニトロメタン(50mL)の溶液へ添加した。得られた混合物を、約16時間加熱還流し、次いで、真空中で濃縮した。得られた残渣を、次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/石油エーテル(1:5))により精製し、黄色の油(8g、収率=61%)として、表題化合物を得た。
ステップ2

[00105]d_(6)-(E)-1,2-ジメトキシ-4-(2-ニトロビニル)ベンゼン:d_(3)-ヨードメタン(4.3g、31mmol、1.10等量)を、(E)-4-(2-ニトロビニル)ベンゼン-1,2-ジオール(5g、28mmol、1.00等量)、ジメチルホルムアミド(50mL)、及び炭酸カリウム(20g、140mmol、5.00等量)の溶液へ、滴加した。得られた懸濁液を、約50℃で、約16時間撹拌した。懸濁液を濾過し、その濾過ケークを酢酸エチルで洗浄し、その洗浄液を濾液と混合した。得られた混合物を、次いで、酢酸エチル(200×3mL)で抽出し、ブラインで洗浄した。その混合物を、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮し、黄色の油(5g、収率=77%)として、表題生成物を得た。
ステップ3

[00106]2-(3,4-d_(6)-ジメトキシフェニル)エタンアミン:約0℃で、d_(6)-(E)-l,2-ジメトキシ-4-(2-ニトロビニル)ベンゼン(8g、44.17mmol、1.00等量)及びテトラヒドロフラン(20mL)の溶液を、水素化アルミニウムリチウム(1.6g、42.11mmol、1.00等量)及びテトラヒドロフラン(30mL)の溶液へ滴加した。得られた溶液を、約16時間加熱還流し、次いで、水(10mL)を添加した。濾過により固体を除去した後、その濾液を、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、真空中で濃縮し、黄色の固体(6g、収率=93%)として表題生成物を得た。LC-MS:m/z=188(MH)^(+).
ステップ4

[00107]6,7-d_(6)-ジメトキシ-3,4-ジヒドロイソキノリン:実施例1の手順、ステップ1に従ったが、2-(3,4-ジメトキシフェニル)エタンアミンを2-(3,4-d_(6)-ジメトキシフェニル)エタンアミンに置換した。表題生成物を、黄色の油(20g、収率=95%)として単離した。
ステップ5

[00108]3-イソブチル-9.10-d_(6)-ジメトキシ-3,4,6,7-テトラヒドロ-1H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2(11bH)-オン:実施例1の手順、ステップ4に従ったが、6,7-ジメトキシ-3,4-ジヒドロイソキノリンを、6,7-d_(6)-ジメトキシ-3,4-ジヒドロイソキノリンに置換した。表題生成物を、白色の固体(300mg、収率=35%)として単離した。 ^(1)H NMR・・・LC-MS:m/z=326(MH)^(+).」(28頁1行?32頁2行)
(2d)「[00110]・・・
生物活性アッセイ
生体外肝ミクロソーム安定性アッセイ
[00111]肝ミクロソーム安定性アッセイを、NADPH発生系を用いて2%重炭酸ナトリウム(2.2mM NADPH、25.6mMグルコース6-リン酸、mL当たり6単位のグルコース6-リン酸脱水素酵素、及び3.3mM塩化マグネシウム)中でmL当たり1mgの肝ミクロソームタンパク質で行った。試験化合物を、20%アセトミトリル‐水中の溶液として調製し、アッセイ混合液(最終アッセイ濃度が1mL当たり5マイクログラム)に添加し、37℃でインキュベートする。アッセイ中のアセトニトリルの最終濃度は、1%未満であるべきである。一定分量(50μL)を0、15、30、45、及び60分で取出し、氷冷アセトニトリル(200μL)で希釈して、反応を停止させる。サンプルを、10分間、12,000RPMで遠心分離して、タンパク質を沈殿させる。上清を微量遠心管に移し、そして試験化合物の崩壊半減期のLC/MS/MS分析のために保存する。したがって、このアッセイで試験された、本明細書に開示される特定の重水素濃縮化合物を、非同位体的に濃縮した薬物と比較した場合、崩壊半減期が増大することが認められた。実施例1及び2(テトラベナジン及びd_(6)-テトラベナジン)の崩壊半減期を、表1に示す。
生体外ヒト肝ミクロソーム(HLM)安定性アッセイの結果

ヒトシトクロムP_(450) 酵素を用いた生体外代謝
[00112]・・・上清をHPLC/MS/MSによって解析する。・・・
モノアミンオキシダーゼA阻害及び酸化ターンオーバー
[00113]・・・
モノアミンオキシダーゼB阻害及び酸化ターンオーバー
[00114]・・・
HPLCによるテトラベナジン及び活性代謝物の測定
[00115]・・・
ヒト及びラットにおけるテトラベナジン及びその主要な代謝物の薬物動態学的アッセイ
[00116]・・・
動物及びヒトにおけるテトラベナジン代謝物の検出
[00117]・・・
テトラベナジンの質量分析測定
[00118]・・・
生体外放射性リガンド結合アッセイ
[00119]・・・
生体外放射性リガンド結合アッセイ
[00120]・・・
生体外放射性リガンド結合アッセイ
[00121]・・・
^(3)Hヒスタミン輸送アッセイ
[00122]・・・」(43頁6行?46頁8行)

ウ 刊行物に記載された発明
刊行物1は、VMAT2阻害剤として有用な化合物であるジヒドロテトラベナジンについて記載した文献である(摘示(1a)?(1g))。ジヒドロテトラベナジンは、分子中に3個のキラル中心をもち(2位(ヒドロキシ基が置換した位置)、3位(イソブチル基が置換した位置)、11b位(3位の対角線上の位置))、そのため、それらの配置がR配置であるかS配置であるかに基づき、8種の立体異性体が存在する(以下、立体配置を「2R,3R,11bR」、「2S,3R,11bR」などで表すか、2位、3位、11b位の順に「RRR」、「SRR」などとして表す。)。
刊行物1には、請求項に係る発明として、SSR、RRS、RSR、SRSの4種のジヒドロテトラベナジン(これらは3位と11b位がシス形である。以下「シス形のジヒドロテトラベナジン」ということがある。)が記載されており(摘示(1a))、実際に製造してNMR、IR、質量分析を行い、薬理活性を調べたことが記載されている(摘示(1c)?(1g))。
また、刊行物1には、従来技術に係る発明として、RRR、SSS、SRR、RSSの4種のジヒドロテトラベナジン(これらは3位と11b位がトランス形である。以下「トランス形のジヒドロテトラベナジン」ということがある。)について、文献を引用して記載されており、これらが、医薬として既に用いられているテトラベナジンの主要な代謝産物であって医薬の活性を主として担うものであるとされている(摘示(1b))。また、この4種のトランス形のジヒドロテトラベナジンは、請求項に係るシス形のジヒドロテトラベナジンを製造するための中間体としても記載され、実施例ではSRRとRSSのジヒドロテトラベナジンを製造しているが(摘示(1f)の段落【0086】?【0088】)、還元剤の選択によりRRRとSSSも生成することが記載されている(摘示(1c)の段落【0038】【0051】)。
以上によれば、刊行物1には、
「ジヒドロテトラベナジン」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

エ 対比・判断

(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、本願補正発明の化合物は、ジヒドロテトラベナジンであって、その2つのメトキシ基における6個の水素原子について、「D」で表示して「10%以上の重水素濃縮度を有する」と特定したものであるから、両者は、
「ジヒドロテトラベナジン」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明においては、ジヒドロテトラベナジンが、その2つのメトキシ基における6個の水素原子のそれぞれが「10%以上の重水素濃縮度を有する」と特定される ^(2)Hの同位体存在度のものであるのに対し、引用発明のジヒドロテトラベナジンは、その2つのメトキシ基における6個の水素原子の ^(2)Hの同位体存在度がそのように特定されるものではない点

(イ)相違点についての検討

a ジヒドロテトラベナジンとテトラベナジンの関連について

(a)化学構造
ジヒドロテトラベナジンとテトラベナジンとは、その化学構造は、前者が

であり後者が

であって、2位の炭素の部分の構造が、前者は-[CH(OH)]-であるのに対し後者は>C=Oである点のみが異なり、他は同一である。

(b)代謝及び薬理作用
テトラベナジンの代謝及び薬理作用に関しては、刊行物1には、以下の記載がある。
「テトラベナジンは・・・初回通過代謝により大部分代謝され、一般に尿では未変性のテトラベナジンはほとんど、またはまったく検出されない。主要な代謝産物は、テトラベナジンの2-ケト基の還元により生じるジヒドロテトラベナジン(化学名:2-ヒドロキシ-3-(2-メチルプロピル)-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-9,10-ジメトキシ-ベンゾ(a)キノリジン)であり、この薬物の活性を主として担うものと考えられている」(摘示(1b)段落【0009】)
同じく刊行物2には、以下の記載がある。
「生体内において、テトラベナジンは、その還元型である、3-イソブチル-9,10-ジメトキシ-1,3,4,6,7,11b-ヘキサヒドロ-2H-ピリド[2,1-a]イソキノリン-2-オールへと迅速かつ広範に代謝され、次いで、VMAT2に特異的に結合する(Zhang et al.,AAPS Journal,2006,8(4),E682-692)。さらなる代謝経路には、メトキシ基のO-脱メチル化、並びにイソブチル基の水酸化が伴われる(Schwartz et al.,Biochem.Pharmacol.,1966,15,645-655)。テトラベナジンの投与に関連した有害作用には、神経弛緩薬性悪性症候群、眠気、疲労、神経過敏、不安、不眠症、激越、錯乱、起立性低血圧症、吐き気、眩暈、鬱病、及びパーキンソン症が含まれる。」(摘示(2b)段落[0004])
これらの記載によれば、ジヒドロテトラベナジンは、テトラベナジンの主要な代謝産物であって医薬の活性を主として担うものであり、何れを投与した場合でも、ジヒドロテトラベナジンが、薬理活性成分(又は親薬剤)といえるものと認められる。

(c)副作用その他イソブチル基及びメトキシ基での代謝を抑制することの利点
刊行物2には、以下の記載がある。
「我々の研究所でなされた発見に基づいて、並びに文献を考慮して、テトラベナジンは、ヒトにおいてイソブチル基及びメトキシ基で、代謝される。現在のアプローチは、これらの部位で代謝を防ぐ可能性を有する。分子上の他の部位はまた、変換を受け、未知の薬理学/毒物学を有する代謝物をもたらし得る。これらの代謝物の生成を制限することは、このような薬物の投与の危険を減らす可能性があり、投与量を増大、及び/又は効力を増大することを可能とし得る。これらの変換の全ては、多型的に発現した酵素を介して生じ得、患者間の変動を悪化し得る。さらに、いくつかの疾患は、被験体が24時間体制又は長期間で投薬される場合、最善に治療される。全ての前述の理由のため、長期の半減期を伴う薬物はより大きな効力及びコスト削減をもたらし得る。種々の重水素化パターンは、多剤併用が計画的であってもなくても、a)不要な代謝物を減少又は排除するために、b)親薬剤の半減期を増大するために、c)所望の効果を達成するために必要とされる投与量を減らすために、d)所望の効果を達成するために必要とされる用量の量を減少するために、e)いずれかが形成された場合、活性代謝物の形成を増大するために、f)特定の組織での有害な代謝物の生成を減少するため、及び/又は(g)多剤併用のためにいっそう有効な薬剤及び/又は安全な薬剤を作製するために、使用し得る。重水素化アプローチは、テトラベナジンの代謝を遅らせ、患者間の変動を減衰させる強力な可能性がある。」(摘示(2b)段落[0013])
上記(b)の記載と併せ読むと、テトラベナジンの副作用は、テトラベナジンが還元されて活性を担うジヒドロテトラベナジンとなった後、さらにメトキシ基のO-脱メチル化、並びにイソブチル基の水酸化などの代謝により生じた有害な代謝物による可能性が示唆されている。そうすると、テトラベナジンで、薬理活性成分であるジヒドロテトラベナジンにおけるイソブチル基及びメトキシ基での代謝を抑制することの利点として薬剤の半減期が増大することや副作用の減少が期待できる以上、同様の利点は、ジヒドロテトラベナジンでも、期待できるといえる。

(d)以上によれば、引用発明のジヒドロテトラベナジンと、テトラベナジンとは、化学構造、代謝、薬理作用、副作用の点で、極めて密接に関連する化合物であるといえる。

b ジヒドロテトラベナジンの2つのメトキシ基における6個の水素原子を重水素化する動機付けについて
刊行物2には、テトラベナジンについて、重水素で置換した場合の速度論的同位体効果を期待して、その27個の水素の少なくとも1つを重水素とした発明が記載されている(摘示(2a)?(2d))。具体的には、上記a(b)及び(c)に述べた摘示(2b)のテトラベナジンの代謝、薬理作用、副作用(薬理活性成分であるジヒドロテトラベナジンからの、さらなる代謝はイソブチル基及びメトキシ基で起こる。)を勘案して、テトラベナジンの2つのメトキシ基の6個の水素を重水素化した化合物を製造し(摘示(2c)実施例2)、生体外肝ミクロソーム安定性アッセイを行い、試験化合物の崩壊半減期を測定して、重水素化していないテトラベナジン(摘示(2c)実施例1)と比較して、以下の結果から、崩壊半減期が増大することが認められたとしている(摘示(2d))。
「生体外ヒト肝ミクロソーム(HLM)安定性アッセイの結果


そして、引用発明のジヒドロテトラベナジンは、上記aに示したとおり、テトラベナジンとは、化学構造、代謝、薬理作用、副作用の点で、極めて密接に関連する化合物であるといえるのであるから、刊行物2の記載に接した当業者は、引用発明のジヒドロテトラベナジンについて、その崩壊半減期を増大させ、また副作用を減少させることを意図して、その2つのメトキシ基の6個の水素を重水素化した化合物としてみることを、十分に動機付けられるといえる。

c そして、上記bの動機付けに従って、当業者は、テトラベナジンの2つのメトキシ基の6個の水素を重水素化した化合物を製造し、これを常法により還元し、又は刊行物1に記載される方法により、ジヒドロテトラベナジンの2つのメトキシ基の6個の水素を重水素化した化合物を製造し得ると認められる。

d したがって、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願明細書の段落【0014】?【0015】に記載された、
「文献の検討や我々の実験室でなされた発見に基づくと、デヒドロテトラベナジンは、イソブチル基とメトキシ基の部分がヒト中で代謝される。現在行っているアプローチには、これらのサイトでの代謝を防ぐ可能性がある。その分子の他のサイトは、代謝に先立ち、現時点では不明の薬理学/毒性学に関する形質転換も受けてしまう。これらの代謝産物の生産を制限することにより、薬剤投与の危険性を減少させる可能性があり、服用量の増大および/または有効性の上昇を可能にする。これら全ての形質転換が、多形性発現の酵素を通じて発生して、患者間の変動を激化させる。さらに、患者が休みなく、あるいは長期間投薬を受けると、ある疾患が首尾良く治療される。前記の理由全てから、半減期の長い薬は有効性が大きくなり、費用節約につながる。各種の重水素化パターンは、(a)望ましくない代謝産物を減少させたり、除去したりするため、(b)親薬剤の半減期を増大させるため、(c)望ましい効果を得るための服用回数を減らすため、(d)望ましい効果
を得るための服用量を減らすため、(e)活性な代謝産物が発生する場合はそれを増やすため、(f)特定の組織に有害な代謝産物が発生するのを減少させるため、および/または(g)さらに有効な薬剤、および/または多剤投与を意識するしないに関わらず、多剤投与しても安全な薬剤を創成するために使用される。
VMAT2を阻害する新規化合物と医薬組成物が発見され、該化合物を患者に投与してVMAT2媒介の疾患を治療する方法も含め、それらの化合物の合成方法と使用方法が見出された。」
というものであり、より具体的には、実施例の表1?4に記載される、重水素化していないジヒドロテトラベナジンと比較しての、ジヒドロテトラベナジンの2つのメトキシ基の6個の水素を重水素化した化合物での、崩壊半減期の増加がその例であると認められる。

しかし、この程度の崩壊半減期の増加は、刊行物2に記載されたテトラベナジンについての重水素化の結果からみて、当業者の予測を超えるほど顕著なものであるとまではいえない。
しかも、本願補正発明は、「Dで表される各部位が10%以上の重水素濃縮度を有する」というものであり、上記実施例のものがほぼ100%の重水素濃縮度であるのと比べて低い重水素濃縮度のものも含むのである。それらについては、重水素化による同位体効果はそれなりに低いと解されるから、なおさら、本願補正発明の効果が顕著なものであるとはいえない。
したがって、本願補正発明が、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものであるとは認められない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成28年6月17日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成25年1月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「構造式I

(式中:R_(1)?R_(19) 及びR_(21)?_(29) は、水素及び重水素からなる群より独立して選択され;
R_(20) は、水素、重水素、-C(O)O-アルキル、及び-C(O)-C_(1-6) アルキルからなる群より選択され、前記アルキル又はC_(1-6) アルキルは、-NH-C(NH)NH_(2)、-CO_(2)H、-CO_(2) アルキル、-SH、-C(O)NH_(2)、-NH_(2)、フェニル、-OH、4-ヒドロキシフェニル、イミダゾリル、及びインドリルからなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、R_(20) の置換基は、いずれもさらに重水素によって置換されていてもよく;
R_(1)?R_(29) の少なくとも1つは重水素であるか、又は重水素を含み;そして、
R_(23)?R_(29) が重水素である場合、R_(1)?R_(22) の少なくとも1つは重水素である)で表される化合物又はその塩若しくは立体異性体。」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成27年2月9日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由の概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」には、引用文献2として特表2007-522193号公報(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)及び引用文献3として国際公開第2010/044981号(上記第2の2(2)アの刊行物2と同じ。以下「刊行物2」という。)が含まれる。その「下記の請求項」は、明示されていないが説示内容からみて化合物発明に係る請求項1?11であると認められる。
そして、拒絶査定は、本願発明が、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを、その理由に含むものである。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)ア、イ及びウに記載したとおりであり、刊行物2及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(1)で検討したとおり、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、ジヒドロテトラベナジンにおいて水素が重水素化される位置も重水素濃縮度の限定もなく、単にR_(1)?R_(29) の少なくとも1つが「重水素であるか、又は重水素を含み」と特定するものであり、下位の請求項である請求項6に「Dで表される各部位が、約50%以上の重水素濃縮度を有する」と記載されること、及び本願明細書の段落【0036】?【0037】に「1つの実施態様において、特定の位置における重水素濃縮は、約1%以上、別の実施態様では、約5%以上、他の実施態様では、約10%以上、さらに別の実施態様では、約20%以上、さらに他の実施態様では、約50%以上、さらに別の実施態様では、約70%以上、さらに他の実施態様では、約80%以上、さらに別の実施態様では、約90%以上、さらに他の実施態様では、約98%以上である」と記載されることを勘案すると、R_(1)?R_(29) について重水素濃縮度は任意の値であると認められる。
したがって、本願発明は、特定の位置の水素が特定の重水素濃縮度で重水素化されたものである本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が上記2の2(2)に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-28 
結審通知日 2017-03-29 
審決日 2017-04-14 
出願番号 特願2013-513273(P2013-513273)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 寛  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
発明の名称 ベンゾキノロン系VMAT2阻害剤  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  

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