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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G05B |
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管理番号 | 1332044 |
審判番号 | 不服2016-8114 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-02 |
確定日 | 2017-09-07 |
事件の表示 | 特願2013-210142「状態診断方法および状態診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月20日出願公開,特開2015-75821〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成25年10月7日の出願であって,その主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 9月 1日付け:拒絶理由の通知 平成27年10月 9日 :意見書,手続補正書の提出 平成28年 3月 7日付け:拒絶査定(謄本送達日同年3月9日) 平成28年 6月 2日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出 第2 平成28年6月2日にされた手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年6月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正により,特許請求の範囲の記載は,次のとおり補正された(以下,請求項1に係る発明から順に「補正後発明1」,「補正後発明2」,「補正後発明3」,・・・という。)。 【請求項1】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断方法において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得するステップと、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形との類似度を算出するステップと、 前記算出するステップにより算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定するステップと、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記類似度を算出するステップでは、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出し、 前記類似度を算出するステップでは、前記類似度を前記対象波形および前記参照波形の間のユークリッド距離として算出することを特徴とする状態診断方法。 【請求項2】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断方法において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得するステップと、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形との類似度を算出するステップと、 前記算出するステップにより算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定するステップと、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記類似度を算出するステップでは、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出し、 前記類似度を算出するステップでは、前記類似度を前記対象波形および前記参照波形の間の相関関数として算出することを特徴とする状態診断方法。 【請求項3】 前記算出ステップにおける前記類似度の算出に先立って、前記対象波形または前記参照波形に対し、異常値の除去、平滑化、または変動幅の正規化を行なう前処理ステップを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の状態診断方法。 【請求項4】 前記参照波形として複数の波形が用いられ、前記判定するステップでは、前記診断対象の状態は、前記算出するステップにおいても最も高い類似度が得られた参照波形に対応する状態であると判定することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の状態診断方法。 【請求項5】 前記算出するステップでは、前記参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形を前記値を示す軸方向へシフトまたは伸縮させた波形と、を比較することで前記類似度を算出することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の状態診断方法。 【請求項6】 前記算出するステップでは、前記参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形を時間軸方向へシフトまたは伸縮させた波形と、を比較することで前記類似度を算出することを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の状態診断方法。 【請求項7】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断装置において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得する取得手段と、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得手段により取得された前記対象波形との類似度を算出する算出手段と、 前記算出手段により算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定する判定手段と、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記算出手段は、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出し、 前記算出手段は、前記類似度を前記対象波形および前記参照波形の間のユークリッド距離として算出することを特徴とする状態診断装置。 【請求項8】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断装置において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得する取得手段と、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得手段により取得された前記対象波形との類似度を算出する算出手段と、 前記算出手段により算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定する判定手段と、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記算出手段は、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出し、 前記算出手段は、前記類似度を前記対象波形および前記参照波形の間の相関関数として算出することを特徴とする状態診断装置。 【請求項9】 前記算出手段による前記類似度の算出に先立って、前記対象波形または前記参照波形に対し、異常値の除去、平滑化、または変動幅の正規化を行なう前処理手段を備えることを特徴とする請求項7または8に記載の状態診断装置。 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,平成27年10月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下,請求項1に係る発明から順に「補正前発明1」,「補正前発明2」,「補正前発明3」,・・・という。)。 【請求項1】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断方法において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得するステップと、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形との類似度を算出するステップと、 前記算出するステップにより算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定するステップと、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記類似度を算出するステップでは、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出することを特徴とする状態診断方法。 【請求項2】 前記参照波形として複数の波形が用いられ、前記判定するステップでは、前記診断対象の状態は、前記算出するステップにおいても最も高い類似度が得られた参照波形に対応する状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の状態診断方法。 【請求項3】 前記算出するステップでは、前記参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形を前記値を示す軸方向へシフトまたは伸縮させた波形と、を比較することで前記類似度を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の状態診断方法。 【請求項4】 前記算出するステップでは、前記参照波形と、前記取得するステップにより取得された前記対象波形を時間軸方向へシフトまたは伸縮させた波形と、を比較することで前記類似度を算出することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の状態診断方法。 【請求項5】 波形データに基づいて動作の状態を診断する状態診断装置において、 診断対象における動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形を対象波形として取得する取得手段と、 正常または異常を示す参照波形と、前記取得手段により取得された前記対象波形との類似度を算出する算出手段と、 前記算出手段により算出された類似度に基づいて、前記診断対象の状態を判定する判定手段と、 を備え、 前記参照波形は、前記診断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形、または、前記診断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であり、 前記算出手段は、前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出することを特徴とする状態診断装置。 2 補正の適否 本件補正の適否を検討するにあたり,まず,本件補正の目的を検討する。 (1)特許法第17条の2第5項第2号について 本件補正前の請求項の数は5であり,本件補正後の請求項の数は9であることから,本件補正によって請求項の数は4増加しており,本件補正はいわゆる増項補正である。 特許法第17条の2第5項第2号の規定は,請求項の発明特定事項を限定して,これを減縮補正することによって,当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって,当該一つの請求項を削除して新たな請求項をたてるとか,当該一つの請求項に係る発明を複数の請求項に分割して新たな請求項を追加するというような態様による補正を予定しているものではないから,補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。そうであってみれば,増項補正は,補正後の各請求項の記載により特定される各発明が,全体として,補正前の請求項の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても,上述したような一対一又はこれに準ずるような対応関係がない限り,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しないというべきである。 また,本件補正には,n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更する補正や,発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項についてその択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正は含まれていない。そして,審判請求書には,補正の目的についての記載はない。 そこで,本件補正後の各請求項について,本件補正前の請求項との対応関係等を,以下確認する。 ア 補正後発明1及び2について 補正後発明1及び2はそれぞれ,補正前発明1の「類似度を算出する」という事項をさらに限定したものであるといえ,補正前発明1を2つに分割したものであるといえる。 したがって,補正前発明1と補正後発明1及び2とは,本件補正の前後において一対一又はこれに準ずるような対応関係にない。 イ 補正後発明3について 「方法」カテゴリーの発明である補正後発明3は「前処理ステップ」を発明特定事項とするものであるが,「方法」カテゴリーの発明である補正前発明1ないし4はいずれも,「前処理ステップ」を発明特定事項として有さない。 そうすると,補正後発明3は,補正前発明1ないし4のいずれの発明特定事項を限定するものでもない。 したがって,補正後発明3に対応する補正前発明は存在しない。 ウ 補正後発明4ないし6について 補正後発明4ないし6が従属する請求項に付加する発明特定事項は,補正前発明2ないし4がそれぞれの従属する請求項に付加する発明特定事項と同じものであるから,補正後発明4ないし6は補正前発明2ないし4に対応するものであるといえる。 エ 補正後発明7及び8について 補正後発明7及び8はそれぞれ,補正前発明5の「類似度を算出する」という事項をさらに限定したものであるといえ,補正前発明5を2つに分割したものであるといえる。 したがって,補正前発明5と補正後発明7及び8とは,本件補正の前後において一対一又はこれに準ずるような対応関係にない。 オ 補正後発明9について 「物」のカテゴリーの発明である補正後発明9は「前処理手段」を発明特定事項として付加するものであるが,「物」のカテゴリーの発明である補正前発明5は「前処理手段」を発明特定事項として有さない。 そうすると,補正後発明9は,補正前発明5の発明特定事項を限定するものでもない。 したがって,補正後発明9に対応する補正前発明は存在しない。 カ 特許法第17条の2第5項第2号についてのまとめ 上記ア,イ,エ,オのとおり,本件補正は,補正前後において一対一の対応関係を維持しつつその対応関係にある一つの補正前請求項の発明特定事項を限定的に補正するものとはいえないことから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号でいう「限定的減縮」を目的とするものではない。 (2)特許法第17条の2第5項第1号,第3号及び第4号について 本件補正が,特許法第17条の2第5項第1号でいう「請求項の削除」,同条第3号でいう「誤記の訂正」,同条第4号でいう「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」のいずれを目的とするものでないことは明らかである。 (3)補正の適否についてのまとめ 以上のように,本件補正は特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成27年10月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,すなわち,上記第2[理由]1(2)【請求項1】で摘記したとおりの補正前発明1(以下,「本願発明」という。)である。 2 刊行物の記載及び引用発明 (1)原査定の拒絶の理由で引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2012-2176号公報(平成24年1月5日出願公開。以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 「【0001】 本発明は、内燃機関の燃料噴射弁から燃料を噴射させることに伴い生じる燃料圧力の変化を燃圧センサで検出し、検出した圧力波形に基づき燃料噴射状態を推定する燃料噴射状態検出装置に関する。」 「【0014】 上記発明は要するに、噴孔からの燃料噴射状態を表すよう設定された複数種類のモデル波形を予め記憶させておき、これらのモデル波形の中から検出波形に最も類似するモデル波形を選択し、その選択したモデル波形に基づき実際の噴射状態を推定する。これによれば、上述した脈動Pmやノイズ等の噴射以外の影響が除外されたモデル波形に基づき噴射状態を推定するので、実際の噴射状態を高精度で検出(推定)できる。」 「【0040】 図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、車両に搭載された電子制御装置であるECU30、等を示す模式図である。燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムでは、燃料タンク40内の燃料は、高圧ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、高圧配管43を通じて各気筒の燃料噴射弁10へ分配供給される。 【0041】 燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル12(弁体)及び電磁ソレノイド13(アクチュエータ)等を備えて構成されている。ボデー11の内部には高圧通路11aが形成されており、コモンレール42から燃料噴射弁10へ供給される燃料は、高圧通路11aを通じて噴孔11bから噴射される。また、高圧通路11a内の燃料の一部は、ボデー11内部に形成された背圧室11cへ流通する。背圧室11cのリーク孔11dは制御弁14により開閉され、その制御弁14は電磁ソレノイド13により開閉作動する。ニードル12には、スプリング15の弾性力及び背圧室11cの燃料圧力が閉弁側へ付与されるとともに、高圧通路11aに形成された燃料溜まり部11fの燃料圧力が開弁側へ付与される。 【0042】 コモンレール42から噴孔11bに至るまでの燃料供給経路(例えば高圧配管43又は高圧通路11a)には、燃料圧力を検出する燃圧センサ20が取り付けられている。図1の例では、高圧配管43とボデー11との接続部分に取り付けられている。或いは、図1中の一点鎖線に示すようにボデー11に取り付けてもよい。また、燃圧センサ20は、複数の燃料噴射弁10(#1)?(#4)の各々に対して設けられている。 【0043】 次に、上記構成による燃料噴射弁10の作動を説明する。電磁ソレノイド13へ通電していない時には、制御弁14はスプリング16の弾性力により閉弁作動する。すると、背圧室11c内の燃料圧力が上昇してニードル12は閉弁作動し、噴孔11bからの燃料噴射が停止されることとなる。一方、電磁ソレノイド13へ通電すると、制御弁14はスプリング16の弾性力に抗して開弁作動する。すると、背圧室11c内の燃料圧力が下降してニードル12は開弁作動し、噴孔11bから燃料が噴射されることとなる。 【0044】 ちなみに、電磁ソレノイド13へ通電して燃料噴射させている時には、高圧通路11aから背圧室11cへ流入した燃料はリーク孔11dから11eへ排出される(リークする)。つまり、燃料の噴射期間中には、高圧通路11aの燃料は、背圧室11cを通じて低圧通路11eへ常時リークすることとなる。」 「【0054】 図4(a)は、図3のステップS13にて燃料噴射弁10に出力される噴射指令信号を示しており、この指令信号のパルスオンにより電磁ソレノイド13が作動して噴孔11bが開弁する。つまり、噴射指令信号のパルスオン時期Isにより噴射開始が指令され、パルスオフ時期Ieにより噴射終了が指令される。よって、指令信号のパルスオン期間(噴射指令期間)により噴孔11bの開弁時間Tqを制御することで、噴射量Qを制御している。図4(b)は、上記噴射指令に伴い生じる噴孔11bからの燃料噴射率の変化(推移)を示し、図4(c)は、噴射率の変化に伴い生じる燃圧センサ20の出力値(検出圧力)の変化(圧力波形)を示す。なお、図4は噴孔11bを1回開閉させた場合の各種変化の一例である。 【0055】 そしてECU30は、図3の処理とは別のサブルーチン処理により、燃圧センサ20の出力値を検出しており、そのサブルーチン処理では燃圧センサ20の出力値を、該センサ出力で圧力推移波形の軌跡(図4(c)にて例示される軌跡)が描かれる程度に短い間隔(図3の処理周期よりも短い間隔)にて逐次取得している。具体的には、50μsecよりも短い間隔(より望ましくは20μsec)でセンサ出力を逐次取得し、このように逐次取得した値を上記ステップS10では取り込んでいる。 【0056】 燃圧センサ20により検出される圧力波形と噴射率の変化とは以下に説明する相関がある。図4(b)に示す噴射率の変化について説明すると、先ず、符号Isの時点で電磁ソレノイド13への通電を開始した後、噴孔11bから燃料が噴射開始されることに伴い、噴射率は変化点R3にて上昇を開始する。つまり実際の噴射が開始される。その後、変化点R4にて最大噴射率に到達し、噴射率の上昇は停止する。これは、R3の時点でニードル弁20cがリフトアップを開始してR4の時点でリフトアップ量が最大になったことに起因する。 【0057】 次に、符号Ieの時点で電磁ソレノイド13への通電を遮断した後、変化点R7にて噴射率は下降を開始する。その後、変化点R8にて噴射率はゼロとなり、実際の噴射が終了する。これは、R7の時点でニードル弁20cがリフトダウンを開始し、R8の時点で完全にリフトダウンして噴孔11bが閉弁されたことに起因する。 【0058】 図4(c)に示す燃圧センサ20の検出圧力の変化について説明すると、変化点P1以前の圧力P0は噴射指令開始時点Isでの燃料供給圧力であり、先ず、駆動電流が電磁ソレノイド13に流れた後、噴射率がR3の時点で上昇を開始する前に、検出圧力は変化点P1にて下降する。これは、P1の時点で制御弁14がリーク孔11dを開放し、背圧室11cが減圧処理されることに起因する。その後、背圧室11cが十分に減圧された時点で、変化点P2にてP1からの下降が一旦停止する。これは、リーク孔11dが完全に開放されたことで、リーク量がリーク孔11dの径に依存して一定となることに起因する。 【0059】 次に、R3の時点で噴射率が上昇を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P3にて下降を開始する。その後、R4の時点で噴射率が最大噴射率に到達したことに伴い、検出圧力の下降は変化点P4にて停止する。なお、変化点P3からP4までの降下量は、P1からP2までの降下量に比べて大きい。 【0060】 次に、検出圧力は変化点P5にて上昇する。これは、P5の時点で制御弁14がリーク孔11dを閉塞し、背圧室11cが増圧処理されることに起因する。その後、背圧室11cが十分に増圧された時点で、変化点P6にてP5からの上昇が一旦停止する。また、変化点P5,P6が現れる原因には、このような背圧室11cでの燃圧変化の他に、最大噴射率に達した時に噴孔11b近傍で生じた波動に起因した先述の脈動Pmも挙げられる。 【0061】 次に、R7の時点で噴射率が下降を開始したことに伴い、検出圧力は変化点P7にて上昇を開始する。その後、R8の時点で噴射率がゼロになり実際の噴射が終了したことに伴い、検出圧力の上昇は変化点P8にて停止する。なお、変化点P7から変化点P8までの上昇量はP5からP6までの上昇量に比べて大きい。P8以降の検出圧力は、一定の周期で下降と上昇を繰り返しながら減衰する。 【0062】 以上により、燃圧センサ20による検出波形W中に現れる変化点P3,P4,P7,P8と、噴射率の上昇開始時点R3(実噴射開始時期)、最大噴射率到達時点R4、噴射率下降開始時点R7及び下降終了時点R8(実噴射終了時期)とは相関があると言える。」 「【0067】 ここで、ECU30が有するメモリ31(モデル波形記憶手段)には、図5に例示する複数種類のモデル波形が予め記憶されている。これらのモデル波形は、噴孔11bからの燃料噴射状態を表した、検出波形Wの規範となる波形である。また、これらのモデル波形は、噴射以外の影響による波形成分(例えば先述の脈動Pm)は除外されている。したがって、モデル波形の形状は、基本的には図5(a)(b)に示す如く台形に設定されている。 【0068】 但し、噴射量が所定量未満である場合には、ニードル12が開弁作動を開始した後、最大リフト位置に達する前に閉弁作動を開始するので、噴射開始に伴い上昇する噴射率は、最大噴射率に達する前に下降を開始する。したがって、小噴射量の場合には噴射率の波形は三角形になるので、小噴射時用のモデル波形の形状は、図5(c)(d)に示す如く三角形に設定されている。 【0069】 また、先述の如く噴射量が異常状態になった場合には噴射率が低下するので、このような異常状態が発生している時用のモデル波形の形状は、図5(b)(d)に示す如く通常時に比べて高さが低い台形又は三角形に設定されている。 【0070】 これらのモデル波形は、例えば噴射開始時期R3、噴射終了時期R8、最大噴射率到達時期R4、噴射率下降開始時期R7、最大噴射率Rβ、噴射量Q等の噴射状態を表していると言える。メモリ31には、複数種類のモデル波形の各々に対応した噴射状態の値R3,R8,R4,R7,Rβ,Qが、モデル波形に関連付けて記憶されている。 【0071】 続くステップS50(モデル波形選択手段)では、図5(a)(c)に示す複数の通常時用モデル波形の中から、その波形の形状が検出波形Wに最も類似するものがいずれであるかを選択する。この選択手法について図6を参照しつつ以下に説明する。図6(c)中の実線は、図6(a)に示す噴射指令信号を出力した場合の検出波形Wを示す。したがって、噴射指令信号の出力タイミングと検出波形Wの位相とは関連付けられている。そして、図6(c)中の点線は検出波形Wに合わせ込んで関連付けた状態のモデル波形Mを示す。 【0072】 モデル波形Mを関連付けする手法について、詳細に説明すると、例えば、噴射開始指令信号の出力時期(噴射指令開始時点Is)から所定時間Tdel(応答遅れ時間)が経過した時点に、モデル波形Mの圧力低下開始ポイントM3(基準点)を一致させる。これにより、モデル波形Mの位相が検出波形Wの位相に関連付けられる。 【0073】 上記手法の変形例を以下に列挙する。例えば、噴射終了指令信号の出力時期(噴射指令終了時点Ie)から所定時間(応答遅れ時間)が経過した時点に、モデル波形Mの圧力上昇開始ポイントM7(基準点)を一致させる。例えば、検出波形Wに現れる所定の変化点P3,P4,P7,P8のいずれか1点を微分演算等により検出し、検出した変化点にモデル波形Mの基準点M3,M4,M7,M8を一致させる。 【0074】 次に、以上の如く関連付けされたモデル波形Mと検出波形Wとのずれ量を、ECU30(ずれ量算出手段)は演算する。例えば、所定位相毎におけるモデル波形Mと検出波形Wとの圧力差を算出し、その圧力差の総和をずれ量として演算すればよい。そして、以上の関連付け及びずれ量演算を、複数の通常時用モデル波形について実施し、ずれ量が最も小さいモデル波形を「検出波形Wに最も類似するモデル波形M」であるとして選択する。 【0075】 一方、ステップS60(モデル波形選択手段)では、図5(b)(d)に示す複数の異常時用モデル波形の中から、検出波形Wに最も類似する波形がいずれであるかを選択する。この選択手法はステップS50と同じである。図6(b)は、図6(c)に示すモデル波形Mに対応する噴射率変化の波形であり、続くステップS70では、ステップS50又はステップS60で選択したモデル波形Mに対応する噴射率変化を実際の噴射状態であるとみなして取得する。」 【図1】は,燃料噴射システムの概略を示す構成図であり,燃料供給経路に燃圧センサ20が取り付けられている事項が看取される。 【図1】 【図3】は,図1の燃圧センサの検出に基づき実噴射状態を検出(算出)する処理についてのフローチャートであり,当該フローチャートには,S10で検出波形を取り込んでおり,その後,S40において正常と判断された場合にはS50で通常時用モデル波形の中から,S40で異常と判断された場合にはS60で異常時用モデル波形の中から,検出波形に最も近い波形を選択し,その後S70で,選択したモデル波形から実噴射状態を取得するというステップが記載されている。 【図3】 【図4】は,図1の燃圧センサによる検出圧力の波形と実際の噴射率の波形との関係を示すタイミングチャートであり,(c)のP3で燃圧センサの検出圧力が大きく低下している事項が看取される。 【図4】 【図5】は,図4の選択処理で用いる複数種類のモデル波形を示す図である。 【図5】 【図6】は,複数のモデル波形の中から検出波形Wに最も類似する波形がいずれであるかを選択する処理の詳細を説明する図であり,図6(c)には図4(c)と同様のグラフが実線で示され,図4(c)のグラフのP3に対応する位置に,破線で示されるモデル波形MのM3が位置している事項が看取される。 【図6】 (2)上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されている。 ア 引用例1に記載された技術は,燃圧センサで検出した圧力波形に基づき燃料噴射状態を推定する燃料噴射状態検出装置であり(【0001】),噴孔からの燃料噴射状態を表すよう設定された複数種類のモデル波形を予め記憶させておき,これらのモデル波形の中から検出波形に最も類似するモデル波形を選択し,その選択したモデル波形に基づき実際の噴射状態を推定することで,実際の噴射状態を高精度で検出(推定)できるものである(【0014】)。 イ ECUは,燃圧センサの出力値を検出しており,50μsecよりも短い間隔でセンサ出力を逐次取得し,このように逐次取得した値をステップS10では取り込んでおり(【0055】),この燃圧センサによる検出波形W中に現れる変化点P3,P4,P7,P8と,噴射率の上昇開始時点R3(実噴射開始時期),最大噴射率到達時点R4,噴射率下降開始時点R7及び下降終了時点R8(実噴射終了時期)とは相関がある(【0062】)。 ウ ステップS50(モデル波形M選択手段)は,複数の通常時用モデル波形の中から,その波形の形状が検出波形Wに最も類似するものがいずれであるかを選択するステップであり(【0071】),関連付け及びずれ量演算を,複数の通常時用モデル波形について実施し,ずれ量が最も小さいモデル波形を「検出波形Wに最も類似するモデル波形M」であるとして選択する(【0074】)。 エ 一方,ステップS60(モデル波形M選択手段)では,複数の異常時用モデル波形の中から,検出波形Wに最も類似する波形がいずれであるかを,ステップS50と同様に選択する(【0075】)。 オ 続くステップS70では,ステップS50又はステップS60で選択したモデル波形Mに対応する噴射率変化を実際の噴射状態であるとみなして取得する(【0075】)。 カ ECUが有するメモリ(モデル波形記憶手段)には,複数種類のモデル波形が予め記憶されており,これらのモデル波形は,噴孔11bからの燃料噴射状態を表した,検出波形Wの規範となる波形である(【0067】)。ここで,異常状態が発生している時用のモデル波形の形状は,通常時に比べて高さが低い台形又は三角形に設定されている(【0069】)。そして,これらのモデル波形は,噴射開始時期R3,噴射終了時期R8,最大噴射率到達時期R4,噴射率下降開始時期R7,最大噴射率Rβ,噴射量Q等の噴射状態を表しており,メモリ31には,複数種類のモデル波形の各々に対応した噴射状態の値R3,R8,R4,R7,Rβ,Qが,モデル波形に関連付けて記憶されており(【0070】),モデル波形の基準点M3は,燃圧センサによる検出波形Wの変化点P3に対応している(【0073】,【図6】)。 キ 噴射指令信号の出力タイミングと検出波形Wの位相とは関連付けられており,検出波形Wに合わせ込んでモデル波形Mは関連付けられている(【0071】)。そして,モデル波形Mを関連付けする手法について,詳細に説明すると,例えば,噴射開始指令信号の出力時期(噴射指令開始時点Is)から所定時間Tdel(応答遅れ時間)が経過した時点に,モデル波形Mの圧力低下開始ポイントM3(基準点)を一致させる。これにより,モデル波形Mの位相が検出波形Wの位相に関連付けられ【0072】,以上の如く関連付けされたモデル波形Mと検出波形Wとのずれ量を,ECU(ずれ量算出手段)は演算する(【0074】)。 (3)これらのことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 燃圧センサで検出した圧力波形に基づき燃料噴射状態を推定する燃料噴射状態推定方法において, 燃圧センサの出力値を逐次取得し,このように逐次取得した値を検出波形Wとして取得するステップ(S10)と, 通常時用モデル波形と,前記取得するステップにより取得された前記検出波形Wとの関連付け及びずれ量演算を実施するステップ(S50),並びに,異常時用モデル波形と,前記取得するステップにより取得された前記検出波形Wとの関連付け及びずれ量演算を実施するステップ(S60)と, 前記関連付け及びずれ量演算を実施するステップにより演算されたずれ量が最も小さいモデル波形を「検出波形Wに最も類似するモデル波形M」であるとして選択し,選択したモデル波形Mに対応する噴射率変化を実際の噴射状態であるとみなして取得するステップ(S70)と, を備え, 前記通常時用モデル波形及び異常時用モデル波形は,どちらも燃料噴射状態を表すものであり,実燃料噴射開始が検出波形Wに反映される変化点P3に対応した基準点M3を有しているモデル波形であって, 前記関連付け及びずれ量演算を実施するステップでは,検出波形Wに合わせ込んでモデル波形Mは関連付けられるものであって,噴射開始指令信号の出力時期(噴射指令開始時点Is)から所定時間Tdel(応答遅れ時間)が経過した時点に,モデル波形Mの圧力低下開始ポイントM3(基準点)を一致させることで,モデル波形Mの位相が検出波形Wの位相に関連付けられ,以上の如く関連付けされたモデル波形Mと検出波形Wとのずれ量を演算するものである,燃料噴射状態推定方法。 3 引用発明との対比 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明における「燃圧センサで検出した圧力波形」及び当該圧力波形に基づいて推定される「燃料噴射状態」はそれぞれ,本願発明における「波形データ」及び「動作の状態」に相当する。また,引用発明における「燃料噴射状態推定方法」は,本願発明における「状態診断方法」と対比して,対象が何らかの状態にあると判断する「状態判断方法」である点で一致する。 イ 引用発明における「燃圧センサの出力値を逐次取得し,このように逐次取得した値」及び「検出波形W」はそれぞれ,本願発明における「時系列データの値」及び「対象波形」に相当する。 ウ 引用発明における「通常時用モデル波形」や「異常時用モデル波形」は,本願発明における「正常または異常を示す参照波形」に相当し,引用発明の各モデル波形についての「関連付け及びずれ量演算を実施するステップ」において「ずれ量演算を実施する」事項は,本願発明において「類似度を算出する」事項に相当する。 エ 引用発明における「前記関連付け及びずれ量演算を実施するステップにより演算されたずれ量が最も小さいモデル波形を『検出波形Wに最も類似するモデル波形M』であるとして選択し,選択したモデル波形Mに対応する噴射率変化を実際の噴射状態であるとみなして取得する」事項は,「ずれ量演算」によって「検出波形Wに最も類似するモデル波形M」を選択するものであり,その選択結果である「モデル波形M」から対象の「噴射状態」を判断するものといえるから,本願発明における「前記算出するステップにより算出された類似度に基づいて,前記診断対象の状態を判定する」事項に相当する。 オ 引用発明の「前記通常時用モデル波形及び異常時用モデル波形は,どちらも燃料噴射状態を表すものであり,実燃料噴射開始が検出波形Wに反映される変化点P3に対応した基準点M3を有しているモデル波形」という事項における「実燃料噴射開始が検出波形Wに反映される変化点P3」は燃圧センサによって検出される「燃料噴射」という動作の開始時または「燃料噴射」という動作に切り替わる時点であるから,本願発明における「対象における動作の開始時または動作の切り替え時」に相当する。また,各モデル波形は,少なくとも「噴射開始時期P3」に対応する基準点M3を起点として,燃圧センサの時系列データから得られる対象波形に対応した波形であるから,各動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形であるといえる。 (2)以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 波形データに基づいて動作の状態を判断する状態判断方法において, 判断対象における時系列データの値の波形を対象波形として取得するステップと, 正常または異常を示す参照波形と,前記取得するステップにより取得された前記対象波形との類似度を算出するステップと, 前記算出するステップにより算出された類似度に基づいて,前記判断対象の状態を判定するステップと, を備え, 前記参照波形は,前記判断対象が正常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形,または,前記判断対象が異常なときにおける動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする時系列データの値の波形である状態判断方法。 <相違点1> 「状態判断方法」に関して,本願発明は,動作の状態を「診断」する「状態診断方法」であるのに対し,引用発明は,動作の状態を推定する「状態推定方法」であって,「診断」を行っているといえるかどうかが明らかでない点。 <相違点2> 本願発明は,対象波形が「動作の開始時または動作の切り替え時を時間軸の起点とする」時系列データであって,類似度を算出するステップは,「前記対象波形および前記参照波形において前記時間軸の起点を一致させた状態で」類似度を算出するものであるのに対し,引用発明は,検出波形(対象波形)が連続的に取得された時系列データであって,その対応する類似度の算出の条件は,検出波形(対象波形)の「噴射開始指令信号の出力時期(噴射指令開始時点Is)から所定時間Tdel(応答遅れ時間)が経過した時点に,モデル波形Mの圧力低下開始ポイントM3(基準点)を一致させ」た状態で類似度を算出するものである点。 4 判断 以下,相違点について検討する。 <相違点1について> 引用発明は,上記2(2)ウのとおり,正常なとき(通常時)には,対象がどのような通常時用モデル波形で示される状態に該当するのか,また,上記2(2)エのとおり,異常なときには,対象がどのような異常時用モデル波形で示される状態に該当するのか,を検出波形(対象波形)とモデル波形(参照波形)との類似度を用いて決定することを,「推定」と表現するものである。 そして,本願発明は,正常または異常を示す参照波形との類似度を用いて,対象がどの参照波形で示される状態に該当するのかを決定することを,「診断」と表現するものであるから,引用発明の「推定」と,本願発明の「診断」とは,その内容から見て,動作の状態を決定している点で何ら変わりがない。 したがって,相違点1は,表現上の微差であって,実質的な相違点ではない。 <相違点2について> 引用発明では,燃圧センサのデータにおいて燃料噴射開始を反映している時点(図4におけるP3)よりも早い時点からデータを取得しているが,モデル波形(参照波形)との対比は,Tdel経過後,すなわち,燃料噴射開始がセンサの値として反映されるP3を起点とした時系列データで行っている。そうすると,引用発明も,対象波形において燃料噴射開始に対応する点を起点とする時系列データと,モデル波形(参照波形)において基準点(燃料噴射開始に対応する点)を起点とするデータとを一致させた状態で類似度を判断しているものといえる。 したがって,相違点2は,表現上の微差であって,実質的な相違点ではない。 請求人は,平成27年10月9日提出の意見書における【意見の内容】(5)で「しかし、引用文献1には、対象波形および参照波形において時間軸の起点を一致させた状態で、類似度を算出する点(上記発明特定事項A)についての記載はありません。なお、引用文献1の段落『0071』?『0073』には、検出波形Wに現れる所定の変化点にモデル波形Mの基準点を一致させる点の記載がありますが、検出波形Wとモデル波形Mの位相を時刻情報ではなく、これらの波形に基づいて調整しており、時間軸の起点を一致させるものでないことは明らかです。」と主張している。 しかしながら,上記相違点2で検討したとおり,引用発明は検出波形Wにおいて燃料噴射開始に対応するP3と,モデル波形Mにおいて燃料噴射開始に対応するM3とを一致させた状態で類似度を判断しているものである。そして,類似度の判断における検出波形WのP3とモデル波形MのM3とはそれぞれ,本願発明の「前記対象波形」及び「前記参照波形」のそれぞれにおける「時間軸の起点」に相当するものであるから,類似度の算出は,引用発明も対象波形及び参照波形の起点を一致させた状態で行っているものといえ,本願発明と何ら変わりはない。 したがって,請求人の上記主張は採用の限りではない。 よって,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-05 |
結審通知日 | 2017-07-11 |
審決日 | 2017-07-24 |
出願番号 | 特願2013-210142(P2013-210142) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G05B)
P 1 8・ 572- Z (G05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 青山 純、影山 直洋 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
長清 吉範 西村 泰英 |
発明の名称 | 状態診断方法および状態診断装置 |