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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1332788
審判番号 不服2016-19638  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-28 
確定日 2017-10-13 
事件の表示 特願2011-206738「ロール及び洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日出願公開、特開2013- 68266、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月22日の出願であって、平成26年9月19日に手続補正がされ、平成27年7月27日付けで拒絶理由が通知され、同年9月28日に手続補正がされ、平成28年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日に手続補正がされ、同年9月28日付け(発送日:同年9月30日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年3月30日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の刊行物1-3に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物
1.特開2009-280883号公報
2.特開平3-191379号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平10-293513号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1及び2に「前記ロール部の表面と前記対象物との密着性を向上させ、摩擦係数が大となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接した場合と比較して、前記対象物との接触面積を広くする」という事項(以下、「補正事項」という。)を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、また、上記補正事項は、当初明細書に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないかについて検討する。
この補正により、「繊維は、対象物に対して傾倒する方向に傾斜させているもの」において「摩擦係数が小となる表面状態の回転方向」で「対象物に当接した場合」に、「摩擦係数が大となる表面状態の回転方向」で「対象物に当接した場合」と比べて、「ロール部の表面と対象物との密着性が向上」したもの及び「対象物との接触面積を広くする」ものに限定されるから、上記補正事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、出願当初の明細書の段落【0007】の「繊維が対象物にたいして傾倒する方向は、一般的に順目と呼ばれ、ロールが回転してロール部が対象物に当接する際、摩擦係数は小さく、摩擦抵抗は軽減される。一方、繊維が対象物にたいして起立する方向は、一般的に逆目と呼ばれ、ロールが回転してロール部が対象物に当接する際、摩擦係数は大きく、摩擦抵抗は増幅される。」との記載及び段落【0008】の「本発明のロールは、摩擦係数が小となる表面状態の回転方向にてロール部が対象物に当接する。すなわち、順目が対象物に当接するよう洗浄装置に設置される。従って、ロール部の表面に位置する繊維が対象物にたいして傾倒して当接するので、繊維が起立する逆目が対象物に当接する場合に比べて、ロール部の表面と対象物の密着性が向上し、接触面積が広くなる。」との記載から、上記補正事項は、当初明細書に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成28年12月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状の対象物に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記台座は前記ロール部が外周に形成される本体部、及び前記本体部の両端に回転支持部を有し、前記ロール部は不織布にて形成されてあると共に、前記不織布を構成する繊維は、対象物に対して傾倒する方向に傾斜させているものであって、外周面の表面状態は、前記ロールを前記対象物に当接させた時に回転方向によって摩擦係数が大となる表面状態と、摩擦係数が小となる表面状態を有しており、前記ロール部は前記対象物の搬送方向にたいして、摩擦係数が小となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接して、前記ロール部の表面と前記対象物との密着性を向上させ、摩擦係数が大となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接した場合と比較して、前記対象物との接触面積を広くすると共に、弾性変形して前記不織布を構成する繊維の毛細管現象により液体を吸い上げることを特徴とするロール。
【請求項2】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状の対象物に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールであって、前記ロールは、対象物に向かって圧力が加えられて使用される前記ロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記台座は前記ロール部が外周に形成される本体部、及び前記本体部の両端に回転支持部を有し、前記ロール部は不織布にて形成されてあると共に、前記不織布を構成する繊維は、対象物に対して傾倒する方向に傾斜させているものであって、外周面の表面状態は、前記ロールを前記対象物に当接させた時に回転方向によって摩擦係数が大となる表面状態と、摩擦係数が小となる表面状態を有しており、前記ロール部は前記対象物の搬送方向にたいして、摩擦係数が小となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接して、前記ロール部の表面と前記対象物との密着性を向上させ、摩擦係数が大となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接した場合と比較して、前記対象物との接触面積を広くすると共に、表面硬度が40°?90°の範囲にあることを特徴とするロール。
【請求項3】
請求項1又は2記載の構成よりなるロールにおいて、台座の本体部には、開口部が形成されてあると共に、外周に前記開口部に連通する孔部が開設されてあり、少なくとも一端の回転支持部は中空部が形成され、前記中空部は前記開口部と連通されてあると共に、端部に接続部が形成されてあることを特徴とするロール。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたロールと、前記ロールを回転駆動する駆動手段を少なくとも有する洗浄装置。」

第5 刊行物、引用発明等
1 刊行物1について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2009-280883号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。)

(1)「【請求項1】
鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状からなる被洗浄面に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記台座は開口部が形成された本体部、及び前記本体部の両端に連接される継ぎ手部A及び継ぎ手部Bを有し、前記継ぎ手部A及び/又は前記継ぎ手部Bは中空部が形成され、前記中空部は前記開口部と連通されてあり、前記本体部の外周には前記開口部に連通する孔部が開設されてあると共に、前記ロール部が形成され、前記ロール部は不織布からなる概円環状の複数のロール片が積層されると共に、内周に切欠き部が設けられた前記ロール片を有し、前記切欠き部が前記本体部の長手方向に連なることにより複数の流体拡散溝部が形成され、前記孔部の前記ロール部側に前記流体拡散溝部が位置することを特徴とするロール。」

(2)「【0003】
(省略)前記ダム機能はゴムロール等にも発現する機能であるが、前記吸排機能は不織布ロールに特有の機能である。すなわち、不織布に充填された高分子弾性体が弾性変形する為、ロール部の空隙率が前記圧縮ゾーンで0%となり、前記開放ゾーンで元の空隙率に復元することにより発現する。(省略)」

(3)「【0039】
(省略)。次に、所定時間放置することにより、重ね合わせた複数のロール片4a、4bの内部応力を均一化させ、側縁部19を切削加工及び研磨加工し、台座3を構成する本体部7の外周にロール部2を形成してロール1が製作される。」

(4)「【0057】
(省略)次に、ロール片4a、4bの側縁部19を、片肉5mmずつ切削加工、及び研磨加工して、外径が120mm、内径が50mm、全長が190mmのロール部2を有するロール1を1本製作した。なお、ロール部2の表面部の硬度は78°に設定した。」

(5)「【0088】
ロール61a、61bは、特に図示しないが、箱型の洗浄装置60に上下一対で設置され、コンプレッサー67から配管65を介して圧縮流体が、上部に位置するロール61aの台座63の両端部、すなわち継ぎ手部A68、及び継ぎ手部B69に設置されたシリンダー(図示せず)に送出され、一定の圧力が加えられ、駆動手段64により矢印の方向に回転駆動し、上部のロール61aと下部のロール61bの間を、両面に油分が付着した鋼板70が白抜き矢印の方向に送出される。なお、圧縮流体は、ロール61a、61bの稼動時には、前記シリンダーに送出されるよう設定されている。ロール61a、61bは、台座63の外周にロール部62が形成されてあり、上記第1の実施例におけるロール1と同一である。継ぎ手部A68にはロータリージョイント66が連接され、コンプレッサー67から延設された配管65が接続されている。なお、本実施例では継ぎ手部A68側のみにロータリージョイント66、配管65が連接された形態を図示したが、上記第2、あるいは第3の実施例に示したロール21のように、継ぎ手部A28、48、及び継ぎ手部B29、49の両方から圧縮流体が噴射できる形態においては、継ぎ手部A68、及び継ぎ手部B69の両方にロータリージョイント66、配管65を連接すればよい。上部に位置するロール61aは鋼板70の表面から油分(図示せず)を除去し、下部に位置するロール61bは鋼板70の裏面から油分を除去する。油分が付着した鋼板70は、ロール部62と接触し、ロール部62を構成する不織布17の有する繊維の毛細管現象により、油分がロール部62に吸い上げられると共に、ロール部62の空隙部に放出される。前記の如くの動作を繰り返す内に、ロール部62は、吸排機能が低下すると共に、内部には徐々に油分が溜まり、吸液飽和状態に近づき、油分除去性能が低下することになる。」

(6)上記記載事項(5)の「台座63の両端部、すなわち継ぎ手部A68、及び継ぎ手部B69に設置されたシリンダー(図示せず)に送出され、一定の圧力が加えられ、駆動手段64により矢印の方向に回転駆動し、」との記載及び「継ぎ手部A68にはロータリージョイント66が連接され、」との記載並びに図9の図示内容から、「継ぎ手部A68及び継ぎ手部B69」は、回転駆動できるように、「駆動手段64」及び「ロータリージョイント66」によって支持されていると認められる。

上記記載事項(1)、(2)及び(5)並びに認定事項(6)を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、上記刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「鋼板70に付着した油分を除去する為のロール61a、61bにおいて、前記ロール61a、61bはロール部62及び台座63を有し、前記台座63は前記ロール部62が外周に形成される本体部及び前記本体部の両端に回転駆動できるように支持されている継ぎ手部A68及び継ぎ手部B69を有し、前記ロール部62は不織布17にて形成されてあると共に、前記不織布17を構成する繊維は、弾性変形して前記不織布17を構成する繊維の毛細管現象により油分を吸い上げるロール。」

2 刊行物2について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開平3-191379号公報)には、図面(特に第1図参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「このように、ブラシ体3の各ループ5aの両脚部を、ブラシローラ4の円周方向に沿うように配列するためには、例えば、基布1へのループ状繊維5の織り込み時の方向を、ブラシローラ4へのブラシ体3の接着時(スパイラル巻の場合)のひねり量を考慮して、予め設定しておくことにより達成される。
上述のように、このクリーニングブラシによれば、その感光体への摺擦部Aがループ状繊維5で形成され、かつ、このループ状繊維5の各ループ5aが、ブラシローラ4の円周方向に傾斜されることにより、このループ状繊維5の初期における摺擦部Aの突出部がへこまされて、その外径が均一化されるので、この摺擦部Aの感光体への不均一な当りが解消され、感光体の引っ掻き傷の発生(画像上での白スジや黒スジムラの発生原因となる)の防止が可能となる。」(第4ページ左下欄第10行?右上欄第6行)


3 刊行物3について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物3(特開平10-293513号公報)には、図面(特に、【図3】及び【図9】参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0024】本実施例においては、図3(b)に示すように、回転ブラシ1を構成する毛体2を回転ブラシの円周方向に対して一方の方向に、図3(b)に示す例では、回転軸3の中心から外側に向かって右向きに湾曲するように傾斜させて回転ブラシ1の回転軸3に植立すると共に、図1(b)の説明図に示すように、毛体2が感光体4の表面に対して接触開始点において順目状態で摺接するように回転ブラシ1を回転駆動する。また、感光体4と回転ブラシ2の回転方向がその接触位置において同方向となるようにするとともに、回転ブラシ2の周速を感光体4の周速よりも速くする。たとえば、回転ブラシ1と感光体4の周速差は、10?200mm/s、望ましくは20?50mm/sに設定されている。」

(2)「【0028】本実施例においては、毛体2が感光体4の表面に対して順目状態で摺接するように回転ブラシ1を回転駆動しているので、回転ブラシ1が感光体4の表面に接触しながら回転するときに、回転ブラシ1の毛体2がたなびく方向に変形する。この変形方向は、毛体2自体が有している湾曲方向と同じであるため、変形した毛体2が元の状態に復帰しようとするときの感光体4に対する負荷が、放射状の毛体を有する回転ブラシや、逆目の毛体を有する回転ブラシを使用した場合に比べて小さくなる。これにより、回転ブラシから感光体に加えられる負荷の変動が減少し、感光体の回転速度の変動が防止される。したがって、感光体の回転速度の変動に起因するバンディングと呼ばれる用紙搬送方向に関して直角方向に伸延する帯状の濃度むらを防止することができる。特に、本発明を感光体の表面に対して複数色に相当するレーザービーム露光を順次行なうカラー画像形成装置に適用した場合には、出力画像の画質を大幅に劣化させる虹色のバンディングの発生を防止することができる。」

4 刊行物4について
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された特開2005-265905号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面(特に、【図3】及び【図4】参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0070】
なお、本実施形態に係るクリーニング装置10では、クリーニングブラシ16,18におけるブラシ毛36をそれぞれ回転方向(図3及び図4の矢印RB方向)後方(順目方向)へ向って所定の倒れ角θBだけ傾斜させている。これにより、ブラシ毛が回転方向(矢印RB方向)前方(逆目方向)へ向って倒れ角を有する場合と比較し、ブラシ毛36と像担持面14との接触面積を十分に確保しつつ、ブラシ毛36の感光体ドラム12の像担持面14に対する接触圧を低く設定できると共に、ブラシ毛36が像担持面14から離れる時にフリッキング(跳ね上り)がブラシ毛36に発生することを抑制できる。」

5 刊行物5について
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された実願昭46-55419号(実開昭48-14686号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物5」という。)には、図面(特に、第1図及び第2図参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「在来の研磨フアイバー束は円盤の中心線と同方向を指すように該盤周辺より真直に取付けた構造(第3図)であるに対し本案は研磨フアイバー束(3)はすべて円盤(1)の中心線に対し約10度其の他適宜の角度をなすよう傾斜しその傾斜方向はロールの回転方向と反対方向、即ち被加工板の進行方向に合致するように取付けた事を特徴とするものである。」(第1ページ第12行-第2ページ第2行)

(2)「そのフアイバーの先端を移行する金属板(A)に添当させ水をかけながら摺擦し油や汚れを摺り落すのである。」(第2ページ第8-10行)

(3)「フアイバー束(3)は被加工板(A)の進行方向(ロールの回転方向とは反対方向)に向つて傾斜して取付けられている」(第3ページ第8-10行)

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「鋼板70に付着した油分を除去する」ことは、本願発明1の「鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状の対象物に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する」ことに相当し、以下同様に、「ロール61a、61b」は「ロール」に、「ロール部62」は「ロール部」に、「台座63」は「台座63」に、「本体部」は「本体部」に、「回転駆動できるように支持されている継ぎ手部A68及び継ぎ手部B69」は「回転支持部」に、「不織布17」は「不織布」に、「油分を吸い上げる」ことは「液体を吸い上げる」ことに、それぞれ相当する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「鋼板、非鉄金属板、樹脂板、あるいはフィルム状の対象物に付着した水分、油分、あるいは薬品成分等の液体を除去、搾取、洗浄する為のロールにおいて、前記ロールはロール部及び台座を有し、前記台座は前記ロール部が外周に形成される本体部、及び前記本体部の両端に回転支持部を有し、前記ロール部は不織布にて形成されてあると共に、前記不織布を構成する繊維は、弾性変形して前記不織布を構成する繊維の毛細管現象により液体を吸い上げるロール。」

[相違点]
「不織布を構成する繊維」について、本願発明1は、「対象物に対して傾倒する方向に傾斜させているものであって、外周面の表面状態は、前記ロールを前記対象物に当接させた時に回転方向によって摩擦係数が大となる表面状態と、摩擦係数が小となる表面状態を有しており、前記ロール部は前記対象物の搬送方向にたいして、摩擦係数が小となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接して、前記ロール部の表面と前記対象物との密着性を向上させ、摩擦係数が大となる表面状態の回転方向にて前記対象物に当接した場合と比較して、前記対象物との接触面積を広くする」のに対し、引用発明は、このような構成を有しない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
刊行物1の記載事項(3)、(4)から、引用発明のロール部62の不織布17の外周側は、研磨加工されていることが理解できる。しかしながら、不織布の研磨加工の方法は各種存在しており、研磨加工されたロール部62の不織布17の繊維が、必ず特定の回転方向に対して傾倒する方向に傾斜するとはいえない。そして、研磨加工された不織布の繊維(の先端)が特定の方向に傾斜しているものを用いることが周知であることを示す証拠もない。

また、周知技術を示す文献として刊行物2-5が提示されているが、基布へ織り込んだループ状繊維から作った刊行物2のブラシ体、傾斜させて植立させた毛体よりなる刊行物3の回転ブラシ、倒れ角を有する刊行物4のブラシ毛及び円盤の中心線に対し傾斜するように取付けた刊行物5の研磨フアイバー束は、いずれも直毛状で、根元から傾斜した繊維を用いた構成となっており、不織布に関する技術ではない。
そうすると、刊行物2-5に記載された周知技術を引用発明に適用する動機付けはないから、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明及び周知技術から容易に想到しえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2-5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4は、上記相違点に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び刊行物2-5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-4は上記相違点に係る構成を有するものとなっており、引用発明及び刊行物2及び3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のように、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-03 
出願番号 特願2011-206738(P2011-206738)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 滝谷 亮一
内田 博之
発明の名称 ロール及び洗浄装置  
代理人 中村 繁元  

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