ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N |
---|---|
管理番号 | 1333004 |
審判番号 | 不服2015-414 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-08 |
確定日 | 2017-10-04 |
事件の表示 | 特願2012-517672「光活性化抗菌性物品及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月20日国際公開、WO2011/008441、平成24年12月13日国内公表、特表2012-532103〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2010年6月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年6月30日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月4日付けで手続補正書が提出され、平成26年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書が提出され、同年9月4日付けで拒絶査定がされ、平成27年1月8日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成28年3月22日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年8月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月26日付けで当審から拒絶理由が通知され、平成29年4月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 特許請求の範囲の記載 この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年4月3日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジンイエローGから本質的になる、光活性化抗菌性物品。」 第3 当審が通知した拒絶理由の概要 平成28年10月26日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、以下の理由1及び3を含むものである。 理由1:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の(ア)及び(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 記 (ア)本願発明1の「連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジン色素から本質的になる、光活性化抗菌性物品」について、本願発明1は、ナイロン材料に対してアクリジン色素が連結基なしで共有結合したものであればよいから、アクリジン色素がたとえ1カ所でもナイロン材料と共有結合したものも含まれるといえるところ、米国特許出願公開2007-0238660号明細書には、色素をナイロン6,6に結合させる場合、ナイロン6,6に2個の色素しか結合できず、一重項酸素の発生が少ないことが記載されていることからすると、本願発明1のうち、ナイロン材料にアクリジン色素が2分子共有結合した場合には、菌の増殖を抑制できるといえないから、光活性化抗菌性物品を提供するという本願発明1の課題が解決できたとはいえない。 (イ)アクリジン色素が連結基なしでナイロン材料に共有結合したことについて、本願の発明の詳細な説明には、アクリジン色素が連結基なしでナイロン材料に共有結合したことについて記載されているとはいえないから、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 理由3:この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物1:米国特許出願公開2007-0238660号明細書(原審における引用文献2) 第4 当審の判断 当審は、当審拒絶理由のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断し、また、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。 それらの理由は以下のとおりである。 1 理由1について (1)特許法第36条第6項第1号の考え方について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決) 以下、この観点に立って検討する。 (2)特許請求の範囲の記載について 上記「第2」に記載したとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載について 本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (a)「【背景技術】 【0002】 感染症は、細菌、真菌、及びウイルスを含む病原性微生物の体内への侵入によって発症することが多い。長年にわたって、抗生物質、抗ウイルス剤、及び酸化剤の開発及び使用を含む、病原性微生物を殺傷又は増殖を阻害するための多くの化学及び方法が開発されてきた。多くの波長の電磁放射線放射も用いられている。病原性微生物は、酸素及び特定の感光剤の存在下で微生物を光に曝露することによって殺傷又は増殖が阻害され得ることが知られている。 【発明の概要】 【課題を解決するための手段】 【0003】 光活性化抗菌性物品が本明細書に開示される。光活性化抗菌性物品は、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジン色素から本質的になる。光活性化抗菌性物品は、ナイロン材料上に配置されたアクリジン色素からなる感光性ナイロン材料を用意し、感光性ナイロン材料を電子ビームで処理することによって作製することができる。 【0004】 微生物の増殖を阻害する方法も本明細書に開示される。有用な方法は、ナイロン材料上に配置されたアクリジン色素から本質的になる感光性ナイロン材料を用意する工程と、感光性ナイロン材料を微生物に曝露する工程と、光源を用意する工程と、光源によって発せられる光がアクリジン色素によって吸収されるように光源を稼働させる工程とを含んでもよい。別の有用な方法は、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジン色素を含む光活性化抗菌性物品を用意する工程と、光活性化抗菌性物品を微生物に曝露する工程と、光源を用意する工程と、光源によって発せられる光がアクリジン色素によって吸収されるように光源を稼働させる工程とを含んでもよい。」 (b)「【0010】 光活性化抗菌性物品及び物品を使用する方法が本明細書に開示される。「光活性化」とは、光動力作用を誘導する物品又は方法の能力を指す。この意味では、光活性化されるとは、感光剤が存在し、光からエネルギーを移動させて、一重項酸素、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドラジカルアニオン、感光剤ラジカル、及び感光剤の特定の環境に依存して形成され得る多くの他のラジカル等の反応性種を生じさせることを意味する。したがって、本明細書に開示される物品及び方法は、光にさらされたときに抗菌性になり得るという意味でも「光活性化」される。 【0011】 「抗菌性」とは、細菌、真菌、及びウイルス等の微生物を殺傷するか又は増殖を阻害する物品又は方法の能力を指す。「殺傷するか又は増殖を阻害する」とは、少なくとも1つのウイルス、少なくとも1つの細菌、少なくとも1つの真菌、又はこれらの組み合わせの存在を制限することを含む。「殺傷するか又は増殖を阻害する」とは、微生物を不活化し複製を妨げるか、又は微生物の数を減少させることも含む。異なる微生物に対して異なる用語を用いてもよい。 【0012】 光源が稼働され光を発したとき、物品が幾つかの影響を受けた微生物を殺傷するか又は増殖を阻害するように、その物品が光源に光学的に結合することができる場合、その物品は「光活性化抗菌性」であるとみなされる。様々なインキュベート及び試験方法を用いて、影響を受けた微生物のサンプル当たりのコロニー形成単位数を測定することができる。物品によって殺傷又は阻害されるコロニー形成単位数は、同一又はほぼ同一のインキュベート及び試験方法を用いる限り、物品がある場合及びない場合に、別々のサンプルを光にさらすことによって測定することができる。「光活性化抗菌性」物品は、例えば、約80?100%又は約90?99.99%の量、コロニー形成単位数を減少させる。」 (c)「【0020】 本明細書に開示される光活性化抗菌性物品では、アクリジン色素は、連結基なしでナイロン材料に共有結合する。本明細書で使用するとき、「連結基なしで共有結合する」とは、アクリジン色素が、共有結合する色素とナイロン材料のポリアミドとの間が0又は1原子で、ポリアミド鎖又はかつての(former)ポリアミド鎖に直接結合することを意味する。アクリジン色素が0原子でナイロン材料に共有結合する場合、その色素は、介在する原子が存在することなく、ナイロン材料の主鎖又はかつての主鎖に直接結合する。アクリジン色素が1原子でナイロン材料に共有結合する場合、その原子は、炭素、酸素、又は窒素を含み得る。本明細書に開示される物品は、アクリル酸等の連結基でナイロンが官能化され、次いで、最終的にナイロンの主鎖ポリアミドのペンダント基となる反応性種で処理されているグラフト化ナイロンポリマーとは区別できる。本明細書で使用するとき、「連結基」は、1超の原子を有する基を指す。」 (d)「【0025】 電子ビーム処理又は照射は、約10^(-6)トール(1.3×10^(-7)kPa)に維持された真空チャンバ内のリペラープレートと抽出装置グリッドとの間に保持されたタングステン線フィラメントに高電圧を印加することによる電子ビームの発生を伴う。フィラメントは、大電流で加熱されて電子を生成する。電子は、リペラープレート及び抽出装置グリッドにより金属箔の薄い窓に向かって導かれ、加速される。10^(7)メートル/秒(m/秒)を超える速度で進行し、約10?300キロ電子ボルト(keV)を有する加速電子は、真空チャンバから箔の窓を通過し、いかなる物質が配置されていても直ちに箔の窓を超えて透過する。」 (e)「【0027】 光活性化抗菌性物品は、ナイロン材料をアミン官能化感光剤の溶液にさらすことによって作製することができる。ナイロン材料は、浴から取り出され、濡れた状態のサンプルが電子ビーム照射にさらされる。物品は、更なる成分からなってもよいが、光活性化抗菌性物品の形成には寄与しないもののみである。更なる成分は、微量、例えば、ナイロン材料上の乾燥コーティング材料の総重量の5重量%未満存在してもよい。光活性化抗菌性物品は、感光剤とナイロンポリアミド鎖との間の反応によって作製され、この反応は、電子ビーム処理によって実施される。 ・・・ 【0029】 抗菌性色素でコーティングされたナイロン不織布ウェブの電子ビーム照射によって、ヘルスケア製品及び消費者製品で様々な用途を有する非浸出抗菌性基材が作製される。光活性化抗菌性物品の使用は、多くの有益な特性をもたらす。抗菌活性は、ウェブ上の光の量を制御することによって有効にしたり無効にしたりすることができる。また、色素は、美しい色をもたらし、市場性を高める。ナイロン、光活性化抗菌性色素、及び任意の電子ビーム照射処理の組み合わせは、非浸出特性を高めるので、濡れているとき他の表面上に色素がにじまず、かつナイロンは、長期間使用した後でさえも同量の抗菌性色素を維持する。」 (f)「【実施例1】 【0037】 サンプルの調製 8”×11”(20.3cm×27.9cm)のナイロン不織布材料をより大きなPETフィルムのシート上に置いた。次いで、アクリジンイエローGの0.05重量%水溶液をピペットでナイロン上に置き、別の同一PETフィルムシートをサンプル上に置いた。紙タオルをこの構成体の下に置き、ローラを用いてナイロン全体にわたって均一に色素溶液を押し付けた。過剰の溶液をロールプレスによって紙タオルに取り除いた。溶液が均一に分布したら、サンプルを半分に切断し、片方のPETフィルムを取り除いた。 【0038】 サンプルの片方を以下の通り電子ビーム照射に供した:電子ビーム処理機、CB-300「Electrocurtain」(Energy Sciences,Inc.)を用いた。この処理機は、幅12”(30.5cm)のPETウェブを用いて、サンプルを搬送して幅12”(30.5cm)のカーテン状電子ビームに通した。サンプル構成体をウェブにテープで貼り付け、20fpm(0.10m/s)の速度で処理機に通した。ビーム電圧は300kVに設定し、十分な電流をカソードに印加して、40kGyの線量をサンプルに送達した。PETフィルムを取り除き、電子ビーム照射されたサンプルを並べて乾燥させた。 【0039】 浸出試験 浸出試験の結果:電子ビーム処理された及び電子ビーム処理されていない、ナイロン上のアクリジンイエローGの1”×2”(2.5cm×5.1cm)のサンプルを、20mLのバイアル瓶に入れ、それぞれに5mLの蒸留水を添加した。バイアル瓶を30分間振盪器上に置き、次いで、36日間実験台上に放置した。UV-Vis分光光度計を用いて、浸出した水を色素について分析した。既知の濃度のアクリジンイエローGの希釈液もUV-Vis分光光度計で分析して、検量線を作成した。 【0040】 電子ビーム照射されたサンプルからの浸出液の濃度は0.741ppmであり、電子ビーム照射されていないサンプルからの浸出液の濃度は2.11ppmであった。電子ビーム照射されたサンプルは、ほぼ3倍の濃度低下を示す。これら濃度は、両方共、ナイロンを処理するために用いられた初期0.05重量%(500ppm)溶液に比べて非常に低かった。これは、色素が非常に強くナイロンに結合していることを示す。」 (4)刊行物の記載 ア 刊行物1:米国特許出願公開2007-0238660号明細書 刊行物1は、当審拒絶理由の理由3で引用した刊行物1であり、下記「2(2)」で提示する刊行物1でもあり、原審における引用文献2でもある(以下「刊行物1」という。)。刊行物1に記載された事項を訳文で示す。 刊行物1の段落[0067]には、「色素をポリマーに付着させる際、一般に多くのポリマーの表面は一重項酸素発生色素を付着させるには反応性基が少なすぎることが見いだされた。この難点を克服するためには、多数の反応性部位を含む表面部位仲介または増幅ポリマーを付着させることができる。たとえば、ナイロン6,6は分子当たり2個の反応性基、アミノ基およびカルボン酸基を含むにすぎない。色素をナイロン6,6の表面に直接結合させると、有効であるには色素分子が少なすぎるであろう。」ことが記載されている。 イ 刊行物2:社団法人 有機合成化学協会編、「有機化合物辞典」、株式会社講談社、1991年8月1日第2刷発行、第6頁 刊行物2には、アクリジンイエローGが下記の化学構造で示される化合物であることが記載されている。 (5)本願発明の課題について 発明の詳細な説明の段落【0002】?【0004】の記載及び明細書全体の記載からみて、本願発明の課題は、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジンイエローGからなる光活性化抗菌性物品を提供することであると認められる。 (6)検討 本願発明における、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジンイエローGから本質的になるとは、ナイロン材料に対してアクリジンイエローGが連結基なしで共有結合したものでありさえすればよいから、ナイロン分子の末端に存在するカルボン酸基に、1分子のアクリジンイエローGのNH_(2)基がアミド結合により共有結合したという、1分子のアクリジンイエローGがナイロン分子と共有結合したものも含まれるといえる。 また、本願発明における「光活性化抗菌性物品」とは、本願の明細書の段落【0010】に、「「光活性化」とは、光動力作用を誘導する物品又は方法の能力を指す。この意味では、光活性化されるとは、感光剤が存在し、光からエネルギーを移動させて、一重項酸素、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドラジカルアニオン、感光剤ラジカル、及び感光剤の特定の環境に依存して形成され得る多くの他のラジカル等の反応性種を生じさせることを意味する。」と記載され(摘記(b))、同じく【0011】に、「「抗菌性」とは、細菌、真菌、及びウイルス等の微生物を殺傷するか又は増殖を阻害する物品又は方法の能力を指す。」と記載されている(摘記(b))から、光からエネルギーを移動させて、一重項酸素、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドラジカルアニオン、感光剤ラジカル等の反応性種を生じさせて、細菌、真菌、及びウイルス等の微生物を殺傷するか又は増殖を阻害することができる物品と解することができる。 しかしながら、刊行物1には、ナイロン分子当たり2個のアクリジンイエローGが結合した場合には、光を照射しても一重項酸素の発生が有効とまではいえず、菌の増殖を抑制することができないことが記載され、これが技術常識といえるから、1分子のアクリジンイエローGがナイロン分子と共有結合したものも含まれる本願発明の「光活性化抗菌性物品」は、そのすべての範囲にわたって、光のエネルギーにより微生物を殺傷又は増殖を阻害することができるという光活性化抗菌性物品を提供することができるとはいえず、本願発明の課題を解決できたとはいえない。 したがって、特許請求の範囲に記載された本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 仮に、アクリジンイエローGがナイロン分子の末端にあるカルボン酸基以外に共有結合するとして、この場合におけるサポート要件について以下に検討する。 本願の発明の詳細な説明には、アクリジンイエローGがナイロン材料に連結基なしで共有結合したことに関する一般的な記載として、段落【0020】には、「「連結基なしで共有結合する」とは、アクリジン色素が、共有結合する色素とナイロン材料のポリアミドとの間が0又は1原子で、ポリアミド鎖又はかつての(former)ポリアミド鎖に直接結合することを意味する。アクリジン色素が0原子でナイロン材料に共有結合する場合、その色素は、介在する原子が存在することなく、ナイロン材料の主鎖又はかつての主鎖に直接結合する。」ことが記載され(摘記(c))、その方法としては、段落【0027】には、「光活性化抗菌性物品は、ナイロン材料をアミン官能化感光剤の溶液にさらすことによって作製することができる。ナイロン材料は、浴から取り出され、濡れた状態のサンプルが電子ビーム照射にさらされる。・・・光活性化抗菌性物品は、感光剤とナイロンポリアミド鎖との間の反応によって作製され、この反応は、電子ビーム処理によって実施される。」ことが記載され(摘記(e))、実施例において、ナイロン不織布材料に、アクリジンイエローGの0.05重量%水溶液を均一に色素溶液分布させ、電子ビームを照射し、乾燥させたことが記載され(摘記(f))、このサンプルを、20mLのバイアル瓶に入れ、それぞれに5mLの蒸留水を添加し、放置し、UV-Vis分光光度計を用いて、浸出した水を色素について分析したことが記載され(摘記(f))、浸出液中のアクリジン色素の濃度が、電子ビームで照射したサンプルは、0.741ppmであり、電子ビームで照射していないサンプルは、2.11ppmであり、これらの値は、初期濃度である500ppmよりも非常に低く、色素が非常に強くナイロンに結合していることを示すとの記載がされている(摘記(f))。 しかしながら、これらの発明の詳細な説明の記載をみる限り、本願発明のアクリジンイエローGが連結基なしでナイロン材料に共有結合したとは、アクリジンイエローGを含む水溶液にナイロン材料を浸し、電子ビームで処理したとき、アクリジンイエローGの浸出量が少ないことを根拠にしていると解することができるが、アクリジン色素の浸出量が少ないとは、あくまで、アクリジンイエローGが何らかの形態でナイロン材料に保持されていることを示唆しているだけであり、アクリジンイエローGが連結基なしでナイロン材料に共有結合していることが明らかにされているとはいえない。 また、アクリジンイエローGを含む水溶液にナイロン材料を浸し、電子ビームで処理をするという方法により、アクリジンイエローGがナイロン材料に連結基なしで共有結合するという技術常識が示されているわけでもない。 そうすると、ナイロン分子末端に存在するカルボン酸基以外にアクリジンイエローGが共有結合した場合については、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できるものであるとはいえない。また、記載や示唆がなくとも当業者が課題を解決できると認識できる出願時の技術常識もない。 よって、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 (7)審判請求人の主張 審判請求人は、平成29年4月3日付け意見書の[3](2)において、本願の明細書の段落【0037】以降の実施例1では、アクリジンイエローGを用いた場合には、黄色ブドウ球菌の病原性微生物の増殖を抑制できることが実証されているから、補正後の本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、サポート要件を満たすと主張する(以下「主張a」という。)。 また、本願発明の課題は、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジンイエローGからなる光活性化抗菌性物品を提供することであるのに対し、当審拒絶理由で示した見解は、あたかも本願発明の課題が刊行物1記載の発明と同様に菌の増殖を抑制できることであるかのような認定に基づくものであり、本願明細書の記載に基づくものではないと主張する(以下「主張b」という。)。 (8)審判請求人の主張についての検討 a 主張aについて 本願明細書の実施例1では、アクリジンイエローGを含む水溶液にナイロン不織布材料を浸し電子ビームを照射し、このナイロン不織布材料を用いて黄色ブドウ球菌の増殖を抑える効果を示しているだけであり、上記(6)で述べたように、何らかの相互作用により、アクリジンイエローGがナイロン材料に保持されているといえるものの、アクリジンイエローGが連結基なしでナイロン材料に共有結合したものとまではいえないから、実施例1で示された効果が、本願発明の効果であるということは直ちにはいえない。 仮に、実施例1の効果が、アクリジンイエローGが連結基なしでナイロン材料に共有結合した物品を用いた場合の効果であったとしても、上記(6)で述べたとおり、本願発明は、1分子のアクリジンイエローGがナイロン分子に結合した場合も含む発明であり、この場合には、菌の増殖を抑制することができるとはいえないことは技術常識であるから、実施例1において効果を奏することが示されているからといって、本願発明の全般に渡り、同等の効果を奏するとはいえない。 よって、審判請求人の主張aは採用できない。 b 主張bについて 当審拒絶理由において刊行物1を引用したのは、ナイロン6,6に2個の色素しか結合しないと、殺菌に有効量の一重項酸素を発生させることができないという技術常識を示すためであって、この技術常識に照らせば、1分子のアクリジンイエローGがナイロン分子に共有結合する物品も含む本願発明は、本願発明は殺菌に有効量の一重項酸素を発生させることができず、課題を解決できないことを示すためである。 そして、本願発明の課題は、上記(5)で述べたように、本願明細書の記載から、連結基なしでナイロン材料に共有結合したアクリジンイエローGからなる光活性化抗菌性物品を提供することと認めており、審判請求人が主張するように、本願発明の課題を刊行物1記載をみた上で認定していない。 よって、審判請求人の主張bは採用できない。 (9)まとめ よって、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 2 理由3について (1)検討の前提 理由3については、1分子のアクリジンイエローGがナイロン分子と共有結合したものであっても、本願発明の課題が解決できる(即ち、光活性化抗菌性を示す。)ものと解して判断をする。 (2)刊行物 刊行物1:米国特許出願公開2007-0238660号明細書(原審における引用文献2) (3)刊行物の記載事項 (以下、訳文で示す。また、刊行物1の訳文については、日本国へのファミリー出願である特願2009-502759号の公表公報(特表2009-532084号公報)も参照のこと。) (1a)「1.ウイルスの増殖を抑制する方法であって、反応性色素および反応性官能基を含む色素のうちの1つから選択される有効量の色素を支持体に付着させ、色素組成物はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収し、これにより酸素含有雰囲気の存在下でこの予め定めたスペクトル範囲の光を吸収した際に一重項酸素と接触したウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力を有することを特徴とし;そして 不活性化すべきウイルスを、酸素ならびに前記の予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光の存在下で、前記組成物が付着した支持体と接触させることを含む方法。」(請求の範囲第1項) (1b)「7.色素が、キサンテン類、フェノチアジン類、フルオレセイン類、アクリジン色素、ポルフィリン類、フタロシアニン類、アントラセン誘導体、アントラキノン類、およびその組合わせのうち少なくとも1つから選択される、請求の範囲第1項の方法。 8.色素が、ローズベンガル、チオニン、アズレA、アクリジンイエローG、プロトポルフィリンIX、AlプロトポルフィリンIXおよびZnプロトポルフィリンIXのうち少なくとも1つである、請求の範囲第1項の方法。」(請求の範囲第7項及び第8項) (1c)「10.支持体が布帛である、請求の範囲第1項の方法。」(請求の範囲第10項) (1d)「発明の概要 [0012] 1観点において本発明は、不活性化によりウイルスの増殖を阻害する方法に関する。有効量の色素組成物を支持体に付着させる。色素は、反応性色素および反応性官能基を含む色素である。色素はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収して、酸素含有雰囲気の存在下でウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力をもつことを特徴とする。」 (1e)「[0031] 好ましい1観点においては、少なくとも2種類、好ましくは3種類の色素を用いる。色素は、近赤外からUV線までのスペクトルに及ぶことによりすべての光条件でウイルスに対して有効であるように選択される。1種類の色素のみを用いる場合、前記の基本構造をもつ色素が他の色素について見いだされていない高い予想外のレベルの有効性をウイルスに対してもつので、それらを使用する。最も好ましい観点において、この単一の色素はアクリジンイエローGである。もちろん、前記の全スペクトルに及ぶように、アクリジンイエローGを含めた前記式をもつ色素を他の色素と組み合わせることもできる。」 (1f)「[0038] 適切な色素は、露光された際に一重項酸素を発生させ、かつ色素を前記の表面または仲介ポリマーに化学的に結合させることができる化合物部分を含むものである。これらにはWilkinson, Helman and Ross (J. Physical Chem. Ref. Data, Vol 24, pp 663 - 1021)に挙げられた、下記を含めた色素の多くが含まれる:プロトポルフィリンIX、亜鉛プロトポルフィリンIX、ローズベンガル、チオニン(thionin)、アズレ(Azure)A、アズレB、アズレC、プロフラビン、アクリフラビン、ビニルアントラセン、l-アミノ-9,10-アントラキノン、1,5-ジアミノ-アントラキノン、1,8-ジアミノ-アントラキノン、l,8-ジヒドロキシ-9,10-アントラキノン、1-ヒドロキシ-9,10-アントラキノン、1,4,5,8-テトラアミノ-9,10-アントラキノン、l,4,5,8-テトラヒドロキシ-9,10-アントラキノン、エオシン(Eosin)B、エオシンY、フロキシンB(Phloxin B)、フルオレセイン、エリスロシン(Erythrosin)、トリブロモ-フルオレセイン、ヒペリシン、キヌレン酸、リボフラビン、クロロフィルa、クロロフィルb、コプロポルフィリンI、コプロポルフィリンII、コプロポルフィリンIII、GaプロトポルフィリンIX、クロリンe6(clorin e6)、プロフラビン、アクロフラビン、アクリジンイエローG、トルイジンブルー、アントラシン(anthracine)誘導体、アントラキノン類、テトラカルボキシフタロシアニン、Snテトラカルボキシフタロシアニン、Alテトラカルボキシフタロシアニン、Geテトラカルボキシフタロシアニン、5-アミノ-エチオポルフィリンI、クロリンe6、ならびに前記に挙げたポルフィリン誘導体およびフタロシアニン誘導体または他の色素の亜鉛およびアルミニウム誘導体:それらは当業者に自明であろう。さらに、照射された際に一重項酸素を発生する他の多くの色素を、それらが前記の表面または仲介ポリマーに付着可能であれば使用できる。」 (1g)「[0043] 被験体および生物学的試験法の選択: 試験はまず細菌およびポックスウイルスに焦点を当てた。枯草菌(Bacillus subtilis)をグラム陽性菌の除染モデルとして用いた。ポックスウイルスのモデルとしてはワクシニアウイルスを用いた。ワクシニアウイルスは普通の微生物実験室で安全に取り扱うことができ、何ら特殊な封じ込め施設を必要としない。 [0044] 本発明によれば、本発明はペスト菌(Yersinia pestis)、黄熱病ウイルス(フラビウイルス脳炎ウイルスについて)、シンドビスウイルス(sindbis virus)(アルファウイルス脳炎ウイルス)、鳥伝染性ウイルス(コロナウイルス疾患、たとえばSARS)およびパラインフルエンザウイルス(病原性の高いニパ(nipah)およびヘンドラ(hendra)ウイルス)に有効である。」 (1h)「[0058] 実施例3 Cerex Suprex HPナイロン不織布(DuPont);基礎重量45 g 分子量450,000のポリ(アクリル酸)2.0 gを500 mlの水に溶解した。この溶液に不織布を通し、含浸量が布帛の135% wt/wtになるまでパダーロール間で絞った。水の蒸発を防ぐために処理布帛をアルミニウム箔で覆って2日間静置し、次いで新鮮な水で6回すすいだ。次いで4-(4,6-ジメトキシ-l,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリン-4-イウムクロリド(DMTMM)の水溶液(水250 ml中、0.41 gのDMTMMからなる)を調製し、この溶液に処理布帛を通し、絞って過剰の溶液を除去した。この布帛をアルミニウム箔で覆って2時間静置し、6回すすいだ。 [0059] 実施例4 実施例3で調製した布帛の一部をアクリジンイエローGで下記に従って処理した。0.185 gのアクリジンイエローGおよび0.364 gのDMTMMを、250 mlの水に溶解した。実施例3の布帛をこの溶液に通し、過剰分をパダーロール間で絞り出した。布帛を24時間静置すると、強い黄色になった。すすぎ水に色が見えなくなるまですすぐことにより未反応色素を抽出した。」 (1i)「[0066] 一重項酸素発生色素が付着しうるポリマー布帛に関して、以下の考察によってさらに詳細を示す。 [0067] 色素をポリマーに付着させる際、一般に多くのポリマーの表面は一重項酸素発生色素を付着させるには反応性基が少なすぎることが見いだされた。この難点を克服するためには、多数の反応性部位を含む表面部位仲介または増幅ポリマーを付着させることができる。たとえば、ナイロン6,6は分子当たり2個の反応性基、アミノ基およびカルボン酸基を含むにすぎない。色素をナイロン6,6の表面に直接結合させると、有効であるには色素分子が少なすぎるであろう。しかし、ポリ(アクリル酸)をアミノ末端に共有結合させ、またはポリ(エチレンイミン)をカルボン酸基に結合させることができる。これらのポリマーは両方とも各反復単位中に反応性基を含む。したがって、ポリ(アクリル酸)を用いてそれをナイロン6,6表面に共有結合させると、反応性部位の数を数百倍ないし数千倍増加させることができる。次いで適切に選択した色素を、この表面部位増幅ポリマーの無いものよりはるかに高いレベルで表面に付着させることができる。」 (4)刊行物1に記載された発明 刊行物1の段落[0066][0067]には、色素が付着しうるポリマー布帛に関する考察として、ナイロン6,6の場合、分子当たり2個の反応性基であるアミノ基及びカルボン酸基があるだけであるから、色素をナイロン6,6の表面に直接結合させるには色素分子が少なすぎるため、ポリ(アクリル酸)をナイロン6,6のアミノ末端に共有結合させることで、色素との反応性部位の数を数百倍ないし数千倍増加させることができ、色素をはるかに高いレベルで表面に付着させることができる旨の記載がされている(摘記(1i))。 ここでは、より多くの色素をナイロン布帛に付着させるための方法が記載されているといえるが、その前提として、布帛を構成するナイロン6,6分子のアミノ基及びカルボン酸基に色素分子を直接結合することが記載されているといえる。 そうすると、刊行物1には、「ナイロン6,6のアミノ基及びカルボキシル基に色素分子を直接結合した布帛」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (5)対比・判断 ア 本願発明について 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ナイロン6,6」は本願発明の「ナイロン材料」に相当し、引用発明の「色素分子」は、本願発明の「アクリジンイエローG」は色素分子であることは明らかであるから、本願発明のアクリジンイエローGと色素分子である点において一致する。また、引用発明の「ナイロン6,6に色素分子を直接結合した」は、本願発明の「連結基なしでナイロン材料に共有結合した」に相当することは明らかであり、引用発明の「布帛」は、本願発明の「物品」に相当することは明らかである。 そうすると、本願発明と引用発明とでは、 「連結基なしでナイロン材料に共有結合した色素分子から本質的になる、物品」で一致し、次の点で相違する。 (相違点1)本願発明では、色素分子をアクリジンイエローGと特定しているが、引用発明では、色素分子をアクリジンイエローGと特定していない点 (相違点2)本願発明では、物品を光活性化抗菌性と特定しているが、引用発明では、そのような特定がされていない点 そこで、これらの相違点について検討する。 (ア)相違点1について 刊行物1の段落[0067]には、ナイロン6,6には、分子当たり2個のアミノ基およびカルボン酸基という反応性基を有し、一重項酸素を発生する色素をナイロン6,6の表面に直接結合させることが記載されており(摘記(i))、この記載をみた当業者であれば、この色素は、アミノ基又はカルボン酸基と反応する官能基を有する色素であって、具体的には、アミノ基を有する色素であれば、ナイロンのカルボン酸基と反応してアミド結合を形成することは容易に理解できることであるといえる。 また、刊行物1の段落[0038]には、適切な色素は、露光された際に一重項酸素を発生させ、色素を表面に化学的に結合させることができ部分を含むものであることが記載され(摘記(1f))、具体的な色素としてアクリジンイエローGが記載され(摘記(1f))、同[0031]には、予想外のレベルの有効性をウイルスに対して持つという観点において、アクリジンイエローGが唯一記載されている(摘記(1e))。 そして、上記「1(4)イ」で述べたように、アクリジンイエローGは、アミノ基を持つ色素分子であることは明らかであり、当業者であれば、ナイロンのカルボン酸基と反応してアミド結合を形成することは当然理解できることであるといえるから、刊行物1の上記記載をみた当業者であれば、引用発明において、ナイロン6,6に共有結合させる色素分子として、アクリジンイエローGを適用することに動機付けがあるといえ、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、容易に想到できたことであるといえる。 (イ)相違点2について 上記(1)で述べた検討の前提を踏まえて、刊行物1の段落[0067]をみれば、一重項酸素を発生する色素の一種であるアクリジンイエローGを用いれば、当然光活性が生じてウイルスの増殖が抑制される、即ち抗菌性を有するといえるから、引用発明において光活性化抗菌性物品とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 (ウ)効果について 効果について検討すると、刊行物1には、アクリジンイエローGは、露光されると一重項酸素を発生する色素であり、ウイルスに対して予想外の有効性を有することが記載されており(摘記(1e))、引用発明において、色素分子としてアクリジンイエローGを用いると、一定の抗ウイルス性を奏することは予測されるから、本願発明における抗菌性という効果が当業者の予測を超えた効果であるとすることはできない。 (エ)審判請求人の主張 審判請求人は、平成29年4月3日付け意見書の「3」(4)において、刊行物1には、ナイロン6,6の表面に色素分子を直接結合させた具体例は記載されてなく、また、アクリジンイエローGを用いることについては示唆がない旨を主張する。 (オ)審判請求人の主張についての検討 刊行物1の段落[0067]には、ナイロン6,6は分子当たり2個の反応性基であるアミノ基およびカルボン酸基を含み、直接結合させると色素分子が少なすぎると記載され(摘記(1i))、この記載をみた当業者であれば、例えば、アミノ基と直接結合するには、カルボン酸基を有する色素分子を用いればよいこと、カルボン酸基と直接結合するには、アミノ基を有する色素分子を用いれば良いこと、を容易に想定できるから、刊行物1にナイロン6,6の表面に色素分子を直接結合させた具体例が記載されていないとしても、刊行物1に引用発明が記載されていないとすることはできない。 また、確かに、刊行物1には、引用発明における色素分子として、アクリジンイエローGを用いた実施例は記載されていないが、上記(ア)で述べたように、刊行物1に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到できたといえる。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 (6)まとめ したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易に想到できたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、この出願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-04-28 |
結審通知日 | 2017-05-09 |
審決日 | 2017-05-22 |
出願番号 | 特願2012-517672(P2012-517672) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A01N)
P 1 8・ 537- WZ (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 千弥子 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 佐藤 健史 |
発明の名称 | 光活性化抗菌性物品及び使用方法 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 池田 正人 |