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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L
管理番号 1333006
審判番号 不服2015-9785  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-26 
確定日 2017-10-04 
事件の表示 特願2013- 76822号「拡張制御ホース」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-177974号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年2月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年2月26日、米国(US))を国際出願日とする特願2010-548681号(以下、「原出願」という。)の一部を平成25年4月2日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成25年 4月 3日 上申書の提出
平成26年 3月27日付け 拒絶理由通知
8月 1日 意見書、手続補正書の提出
平成27年 1月22日付け 拒絶査定
5月26日 審判請求書の提出
平成28年 3月14日付け 拒絶理由通知
8月25日 意見書、手続補正書の提出
9月14日付け 拒絶理由通知
平成29年 2月14日 意見書、手続補正書の提出

2.本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成29年2月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
内側チューブ、繊維補強材及び外側被覆を備え、
前記補強材が、複数のナイロンヤーンのみからなる第1の編組層と、複数のポリエステルヤーンのみからなる第2の編組層とを備え、
前記第2の編組層が、前記第1の編組層に対して相対的に外側の層であり、前記編組層がそれらの間にゴム層を有し、
前記編組層各々が2オーバー2アンダーパターンまたは3オーバー3アンダーパターンで編組され、
前記編組層の各々の螺旋角度が、約47?60°の範囲にあり、
前記編組層の各々による被覆率が、約50%?約100%、又は約60%?約95%の範囲である
ことを特徴とする拡張ホース。」

3.引用文献
本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であり、平成28年9月14日付けで当審において通知した拒絶理由で引用した引用文献1?5は次のとおりである。
引用文献1:実願昭53-75777号(実開昭54-176113号)
のマイクロフィルム
引用文献2:特開平2-51686号公報
引用文献3:特開2006-226339号公報
引用文献4:特開2003-336772号公報
引用文献5:特開平3-277825号公報

(1)引用文献1に記載の事項及び引用発明
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。

「この考案は、加圧時の体積膨脹量を自由に制御できるようにしたホースに関するもので、特に補強層の改良に係る。」(明細書1頁9?11行)

「しかし、自動車のパワーステアリング装置等に用いられる所謂パワーステアリングホースではこの加圧時膨脹量の規定範囲が極めて狭く、ある一定のバンドに入れることは難しい。例えば、「ビニロン」では小さすぎ、「ナイロン」では大きすぎその中間に入れるためには材料の入手が困難な特殊な繊維を使う等の処理を採る外ないが、これではコストアップになるばかりか、期待の加圧時膨脹量が得られない心配もある。
この考案は、これらの欠点を解消するためになされたもので、ヤング率の異なる複数種の繊維を用いて期待する加圧時膨脹量を得んとするものである。」(明細書2頁7?19行)

「第1図は、内層チューブ1と外層チューブ5との間に、中間層3を介して二層の繊維編組補強層2,4を設けたホースに於いて、・・・」(明細書2頁20行?3頁2行)

「第2図は、補強層2を「ナイロン」6で構成し、補強層4を「ビニロン」7で構成した場合を示している。この場合、補強層2,4の形成に先立つ準備は先の例の場合に比べて容易である。
これらの例は、何れも補強層2,4が編組の場合であるが、・・・」(明細書3頁11?16行)

「従って、この考案のようにヤング率の異なる複数の繊維を組合わせれば、特殊な繊維を用いずとも任意の加圧時膨脹量をもつホースを得ることができる。
第3図のグラフは編組補強層として「ナイロン」と「ビニロン」を用いた場合の目標範囲との関係を示したもので、このグラフからも明らかなように、この考案に係るホースによれば、加圧時膨脹量を容易に目標範囲に到達させられることが判る。」(明細書4頁11?19行)

第2図から、補強層4は、補強層2に対して相対的に外側にあり、それらの間に中間層3があることを看取しうる。

なお、明細書中の「コストアツプ」、「チユーブ」、「従つて」との記載は、「コストアップ」、「チューブ」、「従って」として上記ア、イ、オに記載した。

上記ア?カの事項及び第2図、第3図の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「内層チューブ1、補強層2、4及び外層チューブ5を備え、
補強層2、4が、ヤング率の異なる複数種の繊維にて構成してなるものであって、ナイロン6の繊維を編組して構成した補強層2と、ビニロン7の繊維を編組して構成した補強層4とからなり、
補強層4は、補強層2に対して相対的に外側にあり、それらの間に中間層3を有する
パワーステアリングホース。」

(2)引用文献2に記載の事項
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「一般にホースは、例えば、第1図(A),(B)に示すように構成される。第1図(A)において、内面ゴム層1の上に繊維補強層2が積層され、その上に外面ゴム層3が積層されている。また、第1図(B)においては、内面ゴム層1と外面ゴム層3との間に、中間ゴム層4を介して2層の繊維補強層2が積層されている。繊維補強層2は、繊維をブレード状又はスパイラル状に編組してゴム引きしたものである。
従来、このような繊維補強層の繊維としては、レーヨン繊維、ビニロン繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維などが一般に用いられている。しかし、これらの繊維は、当該ホースに要求される初期高モジュラス、接着性、耐湿熱性、耐疲労性、寸法安定性等を全て満足することができない。レーヨン繊維、ビニロン繊維は、耐疲労性、耐湿熱性に劣る。
ナイロン6繊維やナイロン66繊維に代表されるポリアミド系繊維の場合には、ゴムに対する接着性、耐屈曲疲労性、耐湿熱性がよいのでホースの耐久寿命は向上するが、モジュラスが小さいためホースの使用時の寸法変化が大きいという欠点がある。
これらの問題点を解消するために、モジュラスが高くて耐疲労性の比較的よいポリエステル系繊維を繊維補強層の繊維として用いることが提案されている。また、上述した特性に加えて、近年、耐熱性が強く要求されることもあって、ポリエステル系繊維の使用が増加している。」(1頁左下欄16行?2頁左上欄4行)

(3)引用文献3に記載の事項
引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0002】
従来の車両のパワーステアリング装置等では、耐圧性・耐久性・耐熱性に優れた補強ホース(パワーステアリングホース)が用いられる。この補強ホース20は、図2に示すように、管状の内ゴム層21と、この内ゴム層21の外周を覆う第1補強糸層22と、この第1補強糸層22の外周を覆う中間ゴム層23と、この中間ゴム層23の外周を覆う第2補強糸層24と、この第2補強糸層24の外周を覆う外ゴム層25とを有しており、この端部には接続金具30が固着される。
【0003】
内ゴム層21は、水素化ニトリルゴム、ニトリルゴム、またはクロロスルホン化ポリエチレンゴムで形成されている。中間ゴム層23は、クロロスルホン化ポリエチレンゴムで形成されている。外ゴム層25は、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレン、またはクロロプレンゴムで形成されている。第1及び第2補強糸層22,24は、ポリアミド系合成繊維で形成されている。」

「【0020】
内ゴム層1は、例えば、水素化ニトリルゴムおよびフッ素ゴムなどで形成される。中間ゴム層2は、例えばテープ巻きの水素化ニトリルゴムおよびゴム糊のフッ素ゴムなどで形成される。外ゴム層3は、例えば、塩素化ポリエチレンおよびエピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴムなどで形成される。」

(4)引用文献4に記載の事項
引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0016】補強層8は、金属ファイバ、ポリエステルファイバ、ナイロンファイバ、アラミドファイバ、木綿ファイバ、またはその他の合成または天然繊維、またはこれらのいずれかの組合せなどの、ホースの形成に使用される周知の従来のどの繊維材料によっても形成される。補強層は、ファイバを組むか、らせん状にするか、または編むことによって形成される。」

「【0017】適当な接着層6、10は、クロロプレンゴム(CR)、NBR、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、CSM、またはCPEによって形成される。
・・・
【0019】図2は、パワーステアリングホースの第2実施形態を示す。接着層10の外側に第2補強層14がある。第2補強層14とカバー層12との間に他の接着層がある。様々な接着層6、10、16も接着層として知られている。」

【図2】から、接着層10は、補強層8と第2補強層14との間に位置していることを看取しうる。

4.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「内層チューブ1」、「外層チューブ5」は、前者の「内側チューブ」、「外側被覆」にそれぞれ相当する。
後者の「補強層2、4」は、ナイロン繊維、ビニロン繊維からなるので、前者の「繊維補強材」に相当する。
後者の「ナイロン6の繊維を編組して構成した補強層2」は、前者の「複数のナイロンヤーンのみからなる第1の編組層」に相当する。
後者の「ビニロン7の繊維を編組して構成した補強層4」は、前者の「複数のポリエステルヤーンのみからなる第2の編組層」と、「複数の合成繊維のヤーンのみからなる第2の編組層」である限りにおいて一致する。
後者の「補強層4は、補強層2に対して相対的に外側にあり」は、前者の「第2の編組層が、第1の編組層に対して相対的に外側の層であり」に相当する。
後者の補強層2と補強層4の「間に中間層3を有する」ことは、前者の「前記編組層がそれらの間にゴム層を有する」ことと、「前記編組層がそれらの間に層を有する」限りにおいて一致する。
後者の「パワーステアリングホース」は、その機能からみて、前者の「拡張ホース」に相当する。
そうすると、両者は、
「内側チューブ、繊維補強材及び外側被覆を備え、
前記補強材が、複数のナイロンヤーンのみからなる第1の編組層と、複数の合成繊維のヤーンのみからなる第2の編組層とを備え、
前記第2の編組層が、前記第1の編組層に対して相対的に外側の層であり、前記編組層がそれらの間に層を有する
拡張ホース。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点1〕
「繊維補強材」の「第2の編組層」について、本願発明は、「複数のポリエステルヤーンのみからなる」ものであるのに対して、引用発明は、「ビニロン7の繊維を編組して構成した」ものである点。
〔相違点2〕
「編組層の間の層」について、本願発明は「ゴム層」であるのに対して、引用発明の中間層3はその材質が特定されていない点。
〔相違点3〕
本願発明は、「編組層各々が2オーバー2アンダーパターンまたは3オーバー3アンダーパターンで編組され、編組層の各々の螺旋角度が、約47?60°の範囲にあり」と特定されているのに対して、引用発明の「補強層2」及び「補強層4」は編組して構成されているものの、前記のような特定がなされていない点。
〔相違点4〕
本願発明は、「編組層の各々による被覆率が、約50%?約100%、又は約60%?約95%の範囲である」と特定されているのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
各相違点について以下検討する。
ア 相違点1について
(ア)
ナイロン繊維のヤング率がビニロン繊維のヤング率よりも小さいことは周知であるので、引用発明は、相対的にヤング率が小さいナイロン繊維を編組して構成した補強層2と、相対的にヤング率が大きいビニロン繊維を編組して構成した補強層4とを、補強層4が補強層2に対して相対的に外側に配するものであり、相対的に内側の補強層2を構成する繊維に相対的にヤング率の小さいものを用い、相対的に外側の補強層4を構成する繊維に相対的にヤング率の大きいものを用いることを前提としているといえる。
(イ)
引用文献2には、ホースの繊維補強層に用いる繊維に関して、
・ビニロン繊維はホースに要求される耐疲労性、耐湿熱性に劣る、
・ナイロン6繊維やナイロン66繊維に代表されるポリアミド系繊維は、モジュラスが小さいためホースの使用時の寸法変化が大きいという欠点がある、
・これらの問題点を解消するために、モジュラスが高くて耐疲労性の比較的よいポリエステル系繊維を用いる、
ことが記載されている(上記「3.(2)キ」を参照)。
また、ポリエステル繊維が拡張ホースに用いられることは周知の事項であるといえる(例えば、上記「3.(4)コ」の引用文献4の段落【0016】を参照)。
(ウ)
引用文献2に記載の事項及び周知の事項に接した当業者であれば、引用発明の補強層4を構成するビニロン繊維を、耐疲労性等の問題点に鑑み耐疲労性の比較的よいポリエステル系繊維に置換することは、容易に想到し得ることといえる。
そして、引用文献2にも記載されているとおり、ポリエステル系繊維のヤング率(モジュラス)はナイロン繊維のヤング率より大きいものであるので(上記「3.(2)キ」を参照)、引用発明の補強層4にポリエステル系繊維を用いることは、上記(ア)で述べた引用発明の前提である、補強層4を構成する繊維に、補強層2を構成する繊維であるナイロン繊維より、相対的にヤング率の大きいものを用いることに適合するものでもある。

なお、上記(イ)で述べたとおり、引用文献2には、ナイロン繊維のモジュラス不足からポリエステル系繊維への置換も指摘されているが、引用発明の補強層2を構成しているナイロン繊維は、相対的にヤング率の小さい繊維を用いるとの前提の下に採用されているので、引用文献2の前記指摘に基づく検討は要しない。

(エ)
以上のとおりであるので、引用発明の外側の補強層4を構成するビニロンの繊維をポリエステル繊維に置き換え、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、引用文献2に記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。


イ 相違点2について
パワーステアリングホースの2つの補強層の間の層をゴム層とすることは周知である(例えば、上記「3.(3)ク、ケ」の引用文献3の段落【0003】、【0020】に記載の「中間ゴム層」、上記「3.(4)サ、シ」の引用文献4の段落【0017】、【0019】、【図2】に記載のCSM、CPE、EPDMなどからなる「接着層10」を参照)。
そうしてみると、引用発明の中間層3をゴム層とし、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、周知の事項に基づいて当業者が容易になし得ることといえる。

ウ 相違点3について
ホースの補強層を編組層を「2オーバー2アンダーパターン」で構成することは周知の事項である(例えば、特開昭63-167186号公報の第1図、実願昭60-119271号(実開昭62-27276号)のマイクロフィルムの第1図?第3図を参照)。
また、ホースの補強層を編組層としたときに、その編組角を中立角度(静止角度、54°44′)に、あるいはその近辺にすることも周知の事項である(例えば、実公昭49-11053号公報の4欄8?10行、特開2006-97716号公報の段落【0015】?【0016】を参照)。
引用発明の「補強層2」及び「補強組4」はいずれも編組して構成されるものであるので、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、上記周知の事項から当業者が適宜になし得ることといえる。

エ 相違点4について
相違点4に係る本願発明の構成の、被覆率を「約50%?約100%、又は約60%?約95%の範囲」とする点について、明細書の発明の詳細な説明(段落【0039】)には、「概して、接着性のために良好なゴム含浸ができる十分な開口を可能にしつつ、可能な限り高い編組密度であることが望

ましい。」と記載されている。
当該記載によれば、前記の数値範囲は「ゴム含浸ができる十分な開口を可能にしつつ、可能な限り高い編組密度」として例示されているにすぎず、数値範囲を特定したことに伴い臨界的な作用効果を奏するとは認められない。
ホースの補強層を編組層としたものにおいて、編組層の被覆率(編組密度)、編組角度は、ホースに求める耐圧性、寸歩変化に応じて当業者が適宜に設定する設計事項といえ、また、編組層にゴム層が隣接したときに、編組層の隙間に隣接するゴム層が入り込むことは、その構造から明らかといえる。
そうしてみると、引用発明の「補強層2」及び「補強組4」の被覆率(編組密度)を、ホースに求める耐圧性、寸法変化を考慮して、相違点4に係る本件発明のようにすることは、当業者が適宜になし得る設計事項といえ、その結果得られたものは、「ゴム含浸ができる十分な開口を可能」にしているといえる。

オ 効果について
本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。

カ まとめ
よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載に事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-28 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2013-76822(P2013-76822)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
平田 信勝
発明の名称 拡張制御ホース  
代理人 松浦 孝  
代理人 小倉 洋樹  

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