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審決分類 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1333044
審判番号 不服2017-4625  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-03 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2015-540262「抗NOTCH3抗体および抗体-薬物コンジュゲート」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月15日国際公開、WO2014/072897、平成28年2月25日国内公表、特表2016-505513〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月4日(パリ条約による優先権主張 2012年11月7日 2013年10月11日 いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成28年11月24日付けで拒絶査定がされ、平成29年4月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし54に係る発明は、平成28年9月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし54に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、請求項1?54に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明54」といい、これらの発明をまとめて「本願発明」という場合がある。なお、【化1】?【化12】の化学構造式は省略し、また、下線は当審で付与した。)

【請求項1】
配列番号13で示される重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む、重鎖可変領域、ならびに配列番号25で示される軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む、軽鎖可変領域を含む、Notch3に結合する単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
(a)細胞内に内部移行する、
(b)Notch3シグナル伝達を阻害しない、または
(c)Notch3シグナル伝達を活性化しない、
請求項1に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
(a)Notch3 負調節領域(NRR)のLin 12/Notch反復(LNR-C)ドメインおよびヘテロ二量体化(HD)-1ドメインに結合する、
(b)Notch3 NRRを自己阻害性コンホメーションに維持しない、または
(c)S2切断を阻害しない、
請求項1に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
(a)配列番号15または16を含む重鎖CDR1、
(b)配列番号19または20を含む重鎖CDR2、
(c)配列番号23を含む重鎖CDR3、
(d)配列番号27を含む軽鎖CDR1、
(e)配列番号29を含む軽鎖CDR2、および
(f)配列番号31を含む軽鎖CDR3
を含む、Notch3に結合する請求項1から3のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
配列番号13に少なくとも90%同一な重鎖可変領域アミノ酸配列または配列番号25に少なくとも90%同一な軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項5に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
配列番号25の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項5または6に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
配列番号33の重鎖アミノ酸配列を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
配列番号35の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
配列番号37で示される重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号49で示される軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
(a)配列番号39または40を含む重鎖CDR1、
(b)配列番号43または44を含む重鎖CDR2、
(c)配列番号47を含む重鎖CDR3、
(d)配列番号51を含む軽鎖CDR1、
(e)配列番号53を含む軽鎖CDR2、および
(f)配列番号55を含む軽鎖CDR3
を含む、請求項10に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
配列番号37に少なくとも90%同一な重鎖可変領域アミノ酸配列、または配列番号49に少なくとも90%同一な軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項10または11に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項12に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項14】
配列番号49の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項12または13に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項15】
配列番号57の重鎖アミノ酸配列を含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項16】
配列番号59の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項10から15のいずれか一項に記載の単離抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片にコンジュゲートされた細胞傷害性剤を含む抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項18】
式:Ab-(L-D)p
の抗体-薬物コンジュゲートまたはその薬学的に許容できる塩であって、
式中、
(a)Abは、Notch3に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり、
(b)L-Dは、リンカー-薬物部分であり、
式中、Lはリンカーであり、
マレイミドカプロニック-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(vc)、マレイミドカプロイル(mc)、マレイミド-ヘプタノイル(me)、およびマレイミド-Peg6C2(MalPeg6C2)からなる群から選択される、
Dは薬物であり、
(i)式:【化1】を有する0101、
(ii)式:【化2】を有する6780、
(iii)式:【化3】を有する0131、
(iv)式:【化4】を有する3377、
および
(v)式:【化5】を有する8261
からなる群から選択される、
(c)pは、1から12の整数である、
抗体-薬物コンジュゲートまたはその薬学的に許容できる塩。
【請求項19】
式:Ab-(L-D)p
の抗体-薬物コンジュゲートまたはその薬学的に許容できる塩であって、
式中、
(a)Abは、請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片であり、
(b)L-Dは、リンカー-薬物部分であり、式中、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、
(c)pは、1から12の整数である、
抗体-薬物コンジュゲートまたはその薬学的に許容できる塩。
【請求項20】
Lが、マレイミドカプロニック-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(vc)、マレイミドカプロイル(mc)、マレイミド-ヘプタノイル(me)、およびマレイミド-Peg6C2(MalPeg6C2)からなる群から選択される、請求項19に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項21】
Dが、
(a)式:【化6】を有する0101、
(b)式:【化7】を有する6780、
(c)式:【化8】を有する0131、
(d)式:【化9】を有する3377、
および
(e)式:【化10】を有する8261
からなる群から選択される、請求項19に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項22】
L-Dが、
式:【化11】を有するvc0101、
および式:【化12】を有するvc6780
からなる群から選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項23】
Abが、(a)配列番号13で示される重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに(b)配列番号25で示される軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、請求項18に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項24】
Abが、(a)配列番号15の配列を含む重鎖CDR1、(b)配列番号19の配列を含む重鎖CDR2、(c)配列番号23の配列を含む重鎖CDR3、(d)配列番号27の配列を含む軽鎖CDR1、(e)配列番号29の配列を含む軽鎖CDR2、および(f)配列番号31の配列を含む軽鎖CDR3を含む、請求項18または23のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項25】
Abが、配列番号13と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域あるいは配列番号25と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項18、23または24のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項26】
Abが配列番号13の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または23から25のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項27】
Abが配列番号25の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または23から26のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項28】
Abが配列番号33の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または23から27のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項29】
Abが配列番号35の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または23から28のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項30】
Abが、(a)配列番号37で示される重鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに(b)配列番号49で示される軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、請求項18に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項31】
Abが、(a)配列番号39の配列を含む重鎖CDR1、(b)配列番号43の配列を含む重鎖CDR2、(c)配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、(d)配列番号51の配列を含む軽鎖CDR1、(e)配列番号53の配列を含む軽鎖CDR2、および(f)配列番号55の配列を含む軽鎖CDR3を含む、請求項18または30のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項32】
Abが、配列番号37と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域あるいは配列番号49と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項18、30または31のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項33】
Abが配列番号37の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または30から32のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項34】
Abが配列番号49の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または30から33のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項35】
Abが配列番号57の重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または30から34のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項36】
Abが配列番号59の軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項18または30から35のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項37】
Abが、KabatのEUインデックスによる、(a)配列番号61で示されるL443位での1つのアミノ酸置換、ならびに(b)配列番号65で示されるL443位およびK392位での2つのアミノ酸置換からなる群から選択される、改変されたヒトIgG1重鎖定常ドメイン(Cy)ポリペプチドを含む、請求項18から24のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項38】
Abが、KabatのEUインデックスによる、配列番号63で示されるκK183位での1つのアミノ酸置換を有する、改変されたヒトカッパ軽鎖定常ドメイン(CK)ポリペプチドを含む、請求項18から24のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項39】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性断片、または請求項17から38のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート、および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項40】
Notch3の発現に関連する状態を処置するための、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
状態ががんである、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
がんが固形腫瘍がんである、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
固形腫瘍がんが、肺がん、乳がん、卵巣がん、胃がん、食道がん、子宮頚がん、頭頚部がん、膀胱がん、肝臓がん、皮膚がん、および肉腫からなる群から選択される、請求項42に記載の医薬組成物。
【請求項44】
がんが、T細胞悪性腫瘍、T細胞白血病、T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽性白血病、多発性骨髄腫、B細胞悪性腫瘍、骨髄性悪性腫瘍、急性骨髄性白血病、および慢性骨髄性白血病からなる群から選択される血液がんである、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
療法で使用するための、請求項17から38のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲートまたは請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項46】
療法用医薬の製造における、請求項17から38のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲートの使用。
【請求項47】
療法がNotch3発現がんを処置するためのものである、請求項45または46に記載の抗体-薬物コンジュゲート、医薬組成物または使用。
【請求項48】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片をコードする核酸。
【請求項49】
請求項48に記載の核酸を含むベクター。
【請求項50】
請求項49に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項51】
請求項50に記載の宿主細胞を培養するステップと、培養物から抗体を回収するステップとを含む、抗体を生産するための方法。
【請求項52】
請求項18から38のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲートを生産するための方法であって、
(a)LをDに連結するステップと、
(b)L-Dを請求項51に記載の培養物から回収した抗体にコンジュゲートするステップと、
(c)抗体-薬物コンジュゲートを精製するステップと
を含む、方法。
【請求項53】
がんを有する対象が請求項17から38のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲートに応答するか否かを予測するための方法であって、対象に由来する生体試料がNotch3を発現するか否かを判定するステップを含む、方法。
【請求項54】
生体試料中のNotch3のレベルを判定する方法であって、
(a)がんを有すると疑われる対象に由来する試料を請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合性断片と接触させるステップと、
(b)試料中のNotch3の細胞表面レベルを判定するステップと、
(c)Notch3の細胞表面レベルを参照対象または標準物質のものと比較するステップと
を含む、方法。

第3 当審の判断
1 特許法第37条について
(1) 特許法第37条には、「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。」と規定されており、上記経済産業省令に相当する特許法施行規則第25条の8には、
「特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。」(第1項)
「前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。」(第2項)
と規定されている。
そうしてみると、一の願書で特許出願された一群の発明が、「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有さない場合、特許法第37条に規定する要件を満たさないことになる。

(2) 本願発明は、前記第2に記載したとおりのものであるところ、これは、抗体又はその抗原結合性断片(以下、「抗体又はその抗原結合性断片」のことを単に「抗体」という場合がある。)についての発明である本願発明1?16、抗体-薬物コンジュゲートについての発明である本願発明17?38、及びこれらの発明を直接又は間接的に引用して記載されたその余の発明である本願発明39?54に大別することができることから、これら一群の発明の中で、本願発明1?16における抗体と、本願発明17?38の抗体-薬物コンジュゲートを構成する抗体が、「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有しているかについてを検討する。
本願発明1は重鎖及び軽鎖のCDR1?3のアミノ酸配列で特定されたNotch3に結合する抗体についての発明であり、本願発明2?9は、本願発明1を直接又は間接的に引用する発明である。また、本願発明10は重鎖及び軽鎖のCDR1?3のアミノ酸配列で特定された抗体についての発明であり、本願発明11?16は、本願発明10を直接又は間接的に引用する発明である。このように、本願発明1?16における抗体は、特定のアミノ酸配列を有するものである。
一方、本願発明17及び19を構成する抗体は、本願発明1?16のいずれか一つと特定されているのに対して、本願発明18を構成する抗体は、Notch3に結合する抗体と特定されている。なお、本願発明20?38は本願発明18又は19を直接又は間接的に引用する発明である。このように、本願発明17?38の抗体-薬物コンジュゲートを構成する抗体には、本願発明1又は10において特定された抗体である場合(本願発明17及び19)と、本願発明1又は10において特定された抗体以外の抗体を含む場合(本願発明18)の2つの場合がある。
ここで、先行技術調査の結果、特定のアミノ酸配列を有する本願発明1及び10の抗体は新規な抗体であることから、前記(1)の特許法施行規則第25条の8第2項によれば、これらの抗体は、「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」、すなわち、「特別な技術的特徴」ということができ、また、本願発明17及び19の抗体-薬物コンジュゲートを構成する抗体も、「同一の・・・特別な技術的特徴」を有しているということができる。これに対して、Notch3に結合する抗体は、以下の2(2)アで認定した引用発明がそうであるように、本願の出願時において既に公知の抗体であることから、Notch3に結合する抗体、すなわち、本願発明18の抗体-薬物コンジュゲートを構成する抗体を「特別な技術的特徴」ということはできない。
そうしてみると、本願発明1?16と、抗体を本願発明1?16のいずれか一つと特定する本願発明17及び19は、「同一の・・・特別な技術的特徴」を有していることから、特許法第37条に規定する要件を満たし、一の願書で特許出願することができるが、本願発明1又は10において特定された抗体以外の抗体を抗体-薬物コンジュゲートを構成する抗体として含む本願発明18は、本願発明1?16と「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有しているということができず、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願の一群の発明は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

(3) 審判請求人は、抗体-薬物コンジュゲートについての発明である本願発明18は、そこで特定された薬物(D)が新規の薬物であることから、本願発明18もまとめて審査する方が効率的である旨を主張する。しかし、本願発明18において特定された薬物が新規であるか否かは、当該薬物についての先行技術調査を行わなければ確定しない事項であるところ、その調査を行い、当該薬物が新規の薬物であることを認定する責務は特許庁に属する事項であって、請求人による当該薬物が新規の薬物であるとの主張により確定するものではない。したがって、請求人の主張は失当である。また、本願発明1等で特定された抗体と、本願発明18において特定された薬物は、まったく異なる物質であることから、これらについて、まとめて審査を行うことが効率的などということはできない。以上のとおりであるから、請求人の主張はこれを採用することはできない。
また、仮に、請求人の主張のとおり、本願発明18で特定された薬物が新規の薬物であったとしても、その場合に本願の特許請求の範囲に記載された発明は、本願発明1?17及び19における抗体に関する「技術的特徴」と本願発明18における薬物に関する「技術的特徴」という2種の異なる「技術的特徴」を有することとなり、本願発明1?19が「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有しているということができない点には変わりがない。
なお、請求人は、薬物に基づく判断は、単一性違反と指摘されていない補正前(平成28年4月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲)の請求項22に係る発明においてなされているので、本願発明18の判断において新たな負担をかけるものではないとも主張する。しかし、前審の平成28年6月23日付け拒絶理由通知書では、「D(薬物)は当業者が適宜選択し得たものである」(項目(C)・備考の第4パラグラフ)と述べられていることから、前審の審査官は薬物についての先行技術を示すことなく、補正前の請求項22に係る発明について、進歩性を欠く旨の判断を示している(但し、拒絶理由通知書、項目(A)の「したがって、・・・審査対象としない。」のパラグラフに記載されたように、単一性違反を指摘した補正前の請求項19に係る発明を間接的に引用する部分については、進歩性の判断は示されていない。)のであって、本願の審査においては、本願発明18において特定された薬物の先行技術調査は終了していないと認められる。そうしてみると、本願発明18において特定された薬物を含む請求項についての判断がなされていることをもって、本願発明18の判断に新たな負担が生じないなどということもできない。

2 特許法第29条第2項について
(1) 平成28年6月23日付け拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された特表2010-512796号公報(以下、「引用例A」という。)には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

ア 発明の概要
「本発明は、LIN12ドメイン及びヘテロ二量体形成ドメインを含むエピトープであるヒトNotch3レセプターの立体構造のエピトープに特異的に結合する新規な抗体とその断片を提供する。」(【0013】)

イ 図面の簡単な説明(【0019】)
(ア) 図1
「図1はNotch3のアミノ酸配列を示す。EGFリピート領域はアミノ酸残基43から1383まで伸長している;LIN12ドメインはアミノ酸残基1384から1503まで伸長している;二量体形成ドメインはアミノ酸残基1504から1640まで伸長している。」
(イ) 図4A
「抗Notch3モノクローナル抗体MAb256A-4(配列番号2)の重鎖可変領域を示し、CDR領域には下線を付す。」
(ウ) 図4B
「抗Notch3モノクローナル抗体MAb256A-4(配列番号2)の軽鎖可変領域を示し、CDR領域には下線を付す。」
(エ) 図5A
「抗Notch3モノクローナル抗体MAb256A-8(配列番号4)の重鎖可変領域を示し、CDR領域には下線を付す。」
(オ) 図5B
「抗Notch3モノクローナル抗体MAb256A-8(配列番号2)の軽鎖可変領域を示し、CDR領域には下線を付す。」

ウ 発明を実施するための形態
(ア) 抗体生産
a 「本発明の抗体は、当該分野で周知のいかなる適切な方法により生産してもよい。・・・
本発明の抗体は、モノクローナル抗体を含む。モノクローナル抗体は、単一抗原部位を認識する抗体である。・・・モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、・・・組換えDNA法、又は当業者に周知の他の方法を用いて調製できる。・・・
ハイブリドーマモデルにおいて、宿主・・・は免疫化され、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を生産するか又は生産可能なリンパ球を誘導する。・・・リンパ球は次いで、ポリエチレングリコールといった適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞に融合され、ハイブリドーマ細胞を形成する(・・・)。
・・・ハイブリドーマ細胞は、・・・適切な培地において培養されうる。・・・
ハイブリドーマ細胞が増殖する培地が、Notch3に対するモノクローナル抗体の生産のためにアッセイされる。ハイブリドーマ細胞により生産されたモノクローナル抗体の結合特性は、免疫沈降又はインビトロ結合アッセイ・・・によって決定されうる。かかる技術は、当該分野及び当業者には周知である。・・・
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を生産するハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンは、限界希釈法によりサブクローニングされ、標準的な方法により増殖されうる(・・・)。」(【0047】?【0055】)
b 「モノクローナル抗体の生産のための様々な方法が当該分野に存在し、よって、本発明はハイブリドーマでの生産のみに限定されるものではない。例えば、モノクローナル抗体は、組換えDNA法、例えば米国特許第4816567号に記載のものによって作製されてよい。・・・本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(・・・)、容易に単離及び配列決定される。ハイブリドーマ細胞はかかるDNAの源として役立つ。一旦単離されると、DNAは発現ベクター内に挿入され、該ベクターは次いで宿主細胞・・・又はそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を生産しない骨髄腫細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を得る。」(【0057】)

(イ) 抗Notch3抗体の同定
「本発明は、Notch3の作用を阻害及び中和するアンタゴニストモノクローナル抗体を提供する。特に、本発明の抗体は、Notch3に結合し、その活性を阻害する。本発明の抗体は、ここに開示される、256A-4及び256A-8と命名する抗体を含む。
・・・
・・・本発明の抗体はまた、本発明のポリペプチドに対するそれらの結合親和性に関して説明又は特定されうる。好適な結合親和性は、10^(-8)から10^(-15)M、10^(-8)から10^(-12)M、10^(-8)から10^(-10)M、又は10^(-10)から10^(-12)MのK_(D)又は平衡解離定数を有するものを含む。」(【0078】、【0087】)

(ウ) 抗Notch3抗体の治療への使用
「加えて、本発明の抗体は、異種ポリペプチド、試薬、ラジオヌクレオチド、又は毒素といった様々なエフェクター分子にコンジュゲートすることができる。例えば、国際公開第92/08495号、同第91/14438号、同第89/12624号、米国特許第5314995号及び欧州特許第396387号を参照されたい。抗体又はその断片は、細胞毒(例えば、細胞分裂阻害剤又は細胞破壊剤)、治療剤、又は放射性金属イオン(例えば、213Biのようなα放射体)といった治療成分にコンジュゲートすることができる。細胞毒又は細胞障害性剤は、細胞に有害なあらゆる薬剤を含む。」(【0152】)

エ 実施例
(ア) 「実施例1:免疫原の生産:Notch3細胞外ドメイン-Fc融合タンパク質
ヒトNotch3のLIN12/二量体形成ドメイン(以降「LD」)に特異的に結合する抗Notch3モノクローナル抗体を、組換えNotch3-Fc融合タンパク質を、カルボキシ末端においてγ1Fc領域に融合したNotch3LDを含む免疫原として用いて生産した。特に、免疫原は、Notch3LDのアミノ酸残基1378から1640(図1参照)とヒトγ1Fc融合タンパク質とを含んだ。」(【0169】)

(イ) 「実施例2:抗Notch3 MAbの生成
8-12週齢の雄A/Jマウス(・・・)に、200μlのPBS中のフロイント完全アジュバント(・・・)中の25μgの・・・Notch3-LD/Fcを皮下的に注射した。注射の2週間後で屠殺の3日前に、マウスにまたPBS中の同じ抗原25μgを腹腔内注射した。各融合体について、単一の細胞懸濁液を免疫化細胞の脾臓から調製し、Sp2/0ミエローマ細胞との融合に使用した;5×10^(8)のSp2/0及び5×10^(8)の脾臓細胞を、50%のポリエチレングリコール(分子量1450) (・・・)及び5%のジメチルスルホキシド(・・・)を含む培地中で融合させた。ついで、細胞を、10%のウシ胎仔血清、100ユニット/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、及び16μMのチミジンを補填したIscove培地(・・・)中において200μlの懸濁液中1.5×10^(5)脾臓細胞の濃度まで調整した。200マイクロリットルの細胞懸濁液を約96ウェルプレートの各ウェルに加えた。約10日後、培養上清を、ELISAを使用するその抗原結合活性についてのスクリーニングのために取り出した。
・・・
単離し分析した185のハイブリドーマのうち、Notch3-LD/Fcで免疫したマウス由来の2つのハイブリドーマクローンがNotch3をアンタゴナイズする抗体を生産した。これについては後述で更に特徴付けする。MAb256A-4及び256A-8を生産する2つのハイブリドーマクローンの上清を使用したELISAにより、それが産生された精製Notch3LD/FC融合タンパク質に対する強い結合活性が示されたが、ヒトNotch1-LD/Fc(カルボキシル末端でFc領域に融合したLIN/二量体形成ドメイン)又はコントロールヒトFcタンパク質には結合しなかった(データは示さず)(表1)。機能アッセイを用いたその後の研究により、MAb256A-4及び256A-8が、Notch1及びNotch2と比較してNotch3を特異的にアンタゴナイズすることが更に実証された(データは示さず)。
表1.ハイブリドーマ上清を使用する抗Notch3MabのELISAのOD読み値

この一次ELISAスクリーニングからの陽性ハイブリドーマクローンを、単一コロニーピッキングによって更に単離し、上に記載した第二ELISAアッセイを実施して、選択された免疫原に対する特異的結合を証明した。確認されたハイブリドーマクローンを、より大きなスケールの培養で増量させた。モノクローナル抗体(MAb)をプロテインAアフィニティーカラムを使用してこれら大きなスケールの培養の培地から精製した。ついで、抗Notch3MAbを、細胞ベースアッセイ、顕微鏡、ウェスタンブロット、及びFACS分析を使用して特徴付けした。」(【0177】?【0181】)

(ウ) 「実施例3:抗Notch3MAbに対する細胞ベース結合アッセイ
・・・
細胞ベースの抗体結合は、製造者によって提供されたプロトコルに従ってFMAT(登録商標)(蛍光マクロ共焦点高ハイスループットスクリーニング)8100HTSシステム(・・・)を使用して評価した。・・・
細胞ベースの抗体結合はまた、内部的に生産した293T/Notch3安定細胞株と双方ともNotch3を天然に発現する(データは示さず)2つの癌細胞株であるヒトSup-T1及びA2780細胞株(・・・)を使用して、蛍光標示式細胞分取器(FACS)によっても評価した。・・・その結果は、両方のMAbが、培養された細胞中で組換えプラスミドコンストラクトから又は天然タンパク質として発現されたNotch3レセプターに結合することを示している(表2)。・・・
表2.平均蛍光強度として示した細胞ベースFACS分析における抗Notch3MAbの結合活性

細胞ベースのFMAT及びFACS分析では、培養された細胞中で組換えプラスミドコンストラクトから又は天然タンパク質として発現されるNotch3レセプターにMAb256A-4及び256A-8の両方が確かに結合する(表2及び表3)ことが確認された。
表3.細胞ベースFMATにおける抗Notch3MAb結合活性のまとめ

G3はネガティブコントロールヒトIgG1 Mabである。陽性の結合シグナルを、G3及び他の陰性ハイブリドーマクローンのものよりも有意に高い(p>0.01)FMATシグナルの読み取りに基づいて決定した。G3FMAT結合の陰性のシグナルの読み取りはバックグラウンドと考えた。」(【0182】?【0190】)

(エ) 「実施例4:抗Notch3MAb結合活性のウェスタンブロット解析
変性条件下でのNotch3に対する抗Notch3MAbの結合活性、並びにヒト細胞株中でのNotch3及び他のNotch関連タンパク質の発現レベルを評価するためにウェスタンブロットを実施した。・・・
ウェスタンブロット分析は、MAb256A-4及び256A-8が変性条件下でNotch3-LD/Fcに結合しないことを示した。このことは、Notch3LIN12/ヘテロ二量体形成ドメインが天然分子の立体構造中に維持されるELISA及びFACS分析とは完全に対照的であった。従って、MAb256A-4及び256A-8が、それらの天然立体構造中に維持されなければならないNotch3-LD中の複数のエピトープに結合すると結論付けられる。この結論は、後述の実施例8において説明するエピトープマッピングの結果によっても確認された。」(【0191】?【0192】)

(オ) 「実施例5:ルシフェラーゼレポーターアッセイによる抗Notch3 MAbの機能の評価
・・・
・・・ルシフェラーゼレポーターアッセイ及び抗体阻害アッセイは、上のセクションCにて説明したように、実施した。ルシフェラーゼレポーターアッセイは、LIN12/二量体化ドメインに対する256A-4及び256A-8の2つのMAbの結合は、Jagged1及びJagged2の誘導性ルシフェラーゼレポーター活性をほぼ完全に遮断したことを示す(図6及び7)。対照的に、コントロールとしてのNotch3-EGFドメイン(255A-79)に対するMAb特異的結合は、Jagged1誘導性ルシフェラーゼレポーター活性のみを阻害するが(およそ60%阻害、図6)、Jagged2誘導性ルシフェラーゼレポーター活性を阻害しない(図7)。DLL-4-誘導性ルシフェラーゼレポーター活性を遮断するMAb 256A-4及び256A-8の能力は、図8に示す。
更なる機能アッセイは、MAb 256A-4及び256A-8はNotch標的遺伝子のリガンド誘導性上方制御を阻害したことを示した。・・・(データは示さない)。
抗Notch3 MAbがヒト癌細胞に発現される天然のNotch3に結合し、レセプターシグナル伝達を遮断するか否かを確認するために、OV/CAR3及びA2780の2つの卵巣癌細胞株を用いてレポーターアッセイを行った。256A-4及び256A-8は、OV/CAR3細胞において天然のNotch3に媒介されるJagged1誘導性Notchシグナル伝達を有意に遮断した(図9a)。同様に、両MAbは、プレート上にコートしたDll4によって誘導されるおよそ50%のルシフェラーゼ活性を阻害した(図9b)。後の結果は、Notch1及びNotch3がA2780細胞において発現されるという事実と一致している。これらの結果は、抗Notch3 MAbが癌細胞における天然Notch3媒介性シグナル伝達を阻害しうることを示唆する。」(【0193】?【0200】)

(カ) 「実施例8:抗-NOTCH3 MAbの結合エピトープのマッピング
・・・
ドメイン-swapタンパク質に対するMAb 256A-4及び256A-8を用いたELISA結合実験は、第一LIN12ドメイン(L1)及び第二二量体化ドメイン(D2)のswapが3つすべてのMAb結合を完全に無効にするのに対して、第一二量体化ドメイン(D1)のswapはMAb 256A-4及び256A-8の結合を無効にしたことを示す(図13B及びC)。第三LIN12ドメイン(L3)のswapは有意に結合を弱めた。しかし、両MAbは、融合タンパク質と結合することが依然として可能であった。第二LIN12ドメインのswapは、MAbの結合を干渉しなかった(図13B及びC)。第一LIN12ドメインに結合することが既にマップされているポジティブクローン抗体は、L1以外のすべてのドメインswap融合タンパク質に結合した(図13D)。対照的に、アイソタイプコントロールネガティブ抗体であるG3は、ELISAアッセイにおいていずれのドメインswap融合タンパク質にも結合しない(データは示さない)。上記の実験から、第一LIN12ドメイン及び第二二量体化ドメインがMAb 256A-4及び256A-8結合に必要であると結論づけられた。
・・・
MAb 256A-4及び256A-8はL1及びD2を含む立体配置的エピトープに結合するアンタゴニスト抗体であるのに対して、L1のみに結合する他の抗体256A-13はアゴニスト性である(2007年10月18日に出願の同時係属米国特許出願番号第11/874682号を参照)。さらに、アゴニスト256A-13はL1内のエピトープについてアンタゴニスト256A-4と競合し、エピトープマッピング研究により、これらはL1上のオーバーラップするエピトープに結合することが示唆される。主な相違は、アンタゴニスト抗体もD2に結合するのに対して、アゴニスト抗体は結合しないことである。L1及びD2への同時結合が拮抗性活性の原因であるという仮説を試験するために、256A-4と類似のD2のエピトープに結合する256A-2を分析した。MAb 256A-2はアンタゴニストでもアゴニストでもない(データは示さない)。試験は、256A-2が256A-13と競合せず、同時にNotch3に結合しうることを示した。さらに、256A-2及び256A-13はそれぞれ256A-4と一部競合しているが、これら2つの抗体が組み合わさるとNotch3に対する256A-4の結合を完全に遮断する(データは示さない)。また、試験から、L1及びD2のエピトープに対して2つの抗体が別々に結合してもリガンド依存性Notch3活性化は阻害されないことを示した。このことから、アンタゴニスト抗体は、おそらくL1及びD2相互作用を固定して安定化し、リガンドが誘導する立体配位的変化を阻害する、ブリッジを形成することが示唆される。(図18を参照)。」(【0205】?【0212】)

(キ) 「実施例9:抗Notch3MABの配列決定
抗体結合特性は重鎖と軽鎖の双方の可変領域に依存するので、256A-4及び256A-8の可変配列をサブタイプ化し、配列決定した。・・・
MAb 256A-4は、重鎖及び軽鎖の可変領域にそれぞれ123及び116アミノ酸残基を含む(図4A及び4B)。MAb 256A-8は、それぞれ重鎖及び軽鎖の可変領域の122及び123のアミノ酸残基からなる(図5A及び5B)。」(【0213】)

(ク) 「実施例10:Notch3のメタロプロテアーゼ切断に対するNotch3アンタゴニスト抗体の影響
Notchレセプター活性化は膜近傍部位(S2)でのリガンド誘導メタロプロテアーゼ切断を含み、細胞外サブユニットを生じる。この切断は、活性化されたNotch細胞内領域を放出するためのS3切断に対する必須の条件である。・・・
・・・MAb 256A-4及び256A-8の存在下では、S2でのNotch3のJagged-1誘導性メタロプロテアーゼ切断は阻害された(データは示さない)。」(【0214】)

オ 図面
(ア) 図1

(イ) 図4A

(ウ) 図4B

(エ) 図5A

(オ) 図5B


(2) 判断
ア 引用発明
前記(1)より、引用例Aには、配列番号2で示される重鎖可変領域のCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む、重鎖可変領域、並びに配列番号3で示される軽鎖可変領域のCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む、軽鎖可変領域を含む、Notch3に結合するモノクローナル抗体256A-4、及び、配列番号4で示される重鎖可変領域のCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む、重鎖可変領域、並びに配列番号5で示される軽鎖可変領域のCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む、軽鎖可変領域を含む、Notch3に結合するモノクローナル抗体256A-8、が記載されている。(以下、モノクローナル抗体256A-4のことを「引用発明A4」、モノクローナル抗体256A-8のことを「引用発明A8」といい、これらの発明をまとめて「引用発明」という場合がある。)

イ 対比・検討
(ア) 本願発明10と引用発明を対比する。
本願の図5Aより、本願発明10の重鎖可変領域のCDR1のアミノ酸配列はDYWMT又はGYAFTDYであり、CDR2のアミノ酸配列はEISPNSGGTNFNEKFKG又はSPNSGGであり、CDR3のアミノ酸配列はGEIRYNWFAYであり、また、本願の図5Bより、本願発明10の軽鎖可変領域のCDR1のアミノ酸配列はKASQNVGNNIAであり、CDR2のアミノ酸配列はYASNRYTであり、CDR3のアミノ酸配列はQRLYNSPFTである。一方、前記(1)オ(イ)より、引用発明A4の重鎖可変領域のCDR-H1のアミノ酸配列はGFTFSHYYMSであり、CDR-H2のアミノ酸配列はISNGGGRTDYPDであり、CDR-H3のアミノ酸配列はRLDYFGGSPYFDYであり、前記(1)オ(ウ)より、引用発明A4の軽鎖可変領域のCDR-L1のアミノ酸配列はSASSSVSYMHであり、CDR-L2のアミノ酸配列はEISKLASであり、CDR-L3のアミノ酸配列はQQWNYPLITであり、また、前記(1)オ(エ)より、引用発明A8の重鎖可変領域のCDR-H1のアミノ酸配列はGFTFSHYYMSであり、CDR-H2のアミノ酸配列はYINSGGGRTDYPであり、CDR-H3のアミノ酸配列はLDYYGGSPYFDYであり、前記(1)オ(オ)より、引用発明A8の軽鎖可変領域のCDR-L1のアミノ酸配列はSASSSVSYMHであり、CDR-L2のアミノ酸配列はYEISKLASであり、CDR-L3のアミノ酸配列はQQWNYPLITである。
このように、本願発明10の抗体の各CDRのアミノ酸配列と引用発明の抗体の各CDRのアミノ酸配列は完全に一致するものではない。
(イ) しかし、抗体は「抗原と高度に特異的な反応をするタンパク質」である(長倉三郎ら編、岩波 理化学辞典 第5版、1998年、株式会社岩波書店発行、464ページ左欄、「抗体」の項参照)ことから、抗体に関する発明の進歩性の検討においては、抗体のCDRのアミノ酸配列のみならず、抗原との特異性、抗体の有する機能についても対比して検討する必要がある。
(ウ) 本願発明10の抗体は、配列番号37で示される重鎖可変領域のCDR及び配列番号49で示される軽鎖可変領域のCDRを有する抗体であるが、図5A及びBの記載より、配列番号37はhu75VH1.9というヒト化抗Notch3抗体の重鎖可変領域のバリアントのアミノ酸配列であり、また、配列番号49はhu75VL1.3というヒト化抗Notch3抗体の軽鎖可変領域のバリアントのアミノ酸配列である。そして、本願の発明の詳細な説明には、これらの重鎖及び軽鎖可変領域を有するバリアントの組合せを「hu75」と称する旨が記載されている(【0134】)ことから、本願発明10の抗体は、本願の発明の詳細な説明においてhu75と表記された抗体について、そのCDRのアミノ酸配列により特定した抗体であると認められる。そして、この抗体hu75は、本願の発明の詳細な説明の実施例の記載より、図2において配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するヒトNotch3 NRR_Avi_Hisタグタンパク質(以下、「Notch3 NRR_組換えタンパク質」という。)及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するマウスNotch3 NRR組換えタンパク質の混合物を抗原として(実施例1)、ラットを免疫することにより得られた脾細胞を骨髄腫細胞と融合することにより得たモノクローナル抗体(ラット抗体r75、実施例2)をヒト化する(実施例4)ことにより得られたものであるが、抗体hu75は、上記抗原混合物中のヒトNotch3と結合したが、マウスNotch3とは結合しなかった(実施例5、表3)ということから、hu75の抗原は、マウスNotch3 NRR組換えタンパク質とは異なるヒトNotch3 NRR組換えタンパク質に特有な部位と認められる。また、hu75のCDRを構成するアミノ酸配列は、軽鎖可変領域のCDR1の1箇所を除き上記ラット抗体と同一であり(実施例4、表2)、また、このラット抗体の重鎖及び軽鎖可変領域を有するラット-ヒトキメラ抗体ch75(実施例3)とhu75は、いずれも、マウスNotch3並びにヒトNotch1及び2とは結合せず、各種Notch3への特異性が同様である(実施例5、表3?5)ところ、ch75は、ヒトNotch3のLNR-Aドメイン、HD-1ドメイン及びHD-2ドメインに結合する(実施例6)ということから、hu75も、ch75と同様に、ヒトNotch3のLNR-Aドメイン、HD-1ドメイン及びHD-2ドメインに特異的に結合するものと認められる。なお、hu75のヒトNotch3 NRR_組換えタンパク質に対する親和性はK_(D)=9.76nMである(実施例5、表6)。
また、本願の実施例9の記載より、抗体hu75は、成熟Notch3ヘテロ二量体の部位S2での切断を阻止し(図9)、Notch3リガンドにより誘発されるNotch3シグナルの伝達を阻害する(表8)という、いわゆるNotch3アンタゴニスト抗体としての機能を有するものである。
なお、抗体hu75は、ヒトNotch3を細胞表面に発現するがん細胞と結合し、その後、細胞内に移行してリソソームに輸送される(実施例8)ものの、薬物とコンジュゲートしていないhu75は、がん細胞の生存能力に影響を与えない(実施例13、【0228】)。
(エ) 一方、引用発明は、ヒトNotch3のLIN12ドメイン及び二量体形成ドメイン(図1のアミノ酸残基1378?1640)を抗原として(前記(1)イ(ア)及びエ(ア))、マウスを免疫することにより得られた脾臓細胞をミエローマ細胞と融合することにより得たモノクローナル抗体(前記(1)エ(イ))であり、ヒトNotch1及び2とは結合せず(前記(1)エ(イ))、立体構造が維持されたヒトNotch3と結合する(前記(1)エ(イ)?(エ))抗体であるが、そのエピトープ(抗原結合部位)は、ヒトNotch3の第一LIN12ドメイン及び第二二量体化ドメインである(前記(1)エ(カ))。そして、上記抗原に対する親和性はおおむね10^(-8)?10^(-12)Mにあるものと認められる(前記(1)ウ(イ))。
また、引用発明の抗体は、Notch3のリガンド誘導メタロプロテアーゼ切断(部位S2での切断)を阻害し(前記(1)エ(ク))、Notch3リガンドにより誘発されるNotchシグナルの伝達を遮断するというNotch3アンタゴニスト抗体としての機能を有するものである(前記(1)エ(オ))。
(オ) 前記(ウ)で述べた本願発明10の抗体の抗原との特異性及び機能と、前記(エ)で述べた引用発明のそれを比較する。まず、抗体の作製において使用した抗原について、本願の配列番号1で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基1?263(これは、Notch3 NRR_組換えタンパク質からAvi_HisタグとそのN末端側の2アミノ酸を除く配列である)と、引用例Aの図1のアミノ酸残基1378?1640は完全に一致することから、本願発明10と引用発明の作製において使用した抗原はともに、ヒトNotch3の「3つのLin12/Notch反復(LNR-A、B、C)およびヘテロ二量体化(HD)ドメインからなる膜近傍の負調節領域(NRR)」(本願の【0004】、引用例Aでは「LIN12/二量体形成ドメイン」(前記(1)エ(ア)))である。また、本願発明10と引用発明の各種ヒトNotchタンパク質に対する特異性は、いずれも、ヒトNotch3とは結合するが、ヒトNotch1及び2とは結合しないという点において一致する。そして、両者の抗体はいずれも、Notch3アンタゴニスト抗体であり、Notch3のリガンドにより誘発される部位S2での切断を阻害し、Notchシグナルの伝達を阻害するという機能を有する点において一致する。
一方、本願発明10及び引用発明の抗体のヒトNotch3中の結合部位については、本願発明がLNR-Aドメイン、HD-1ドメイン及びHD-2ドメイン中に存在するのに対し、引用発明では、第一LIN12ドメイン及び第二二量体化ドメイン、すなわち、本願における表記では、LNR-Aドメイン及びHD-2ドメイン中に存在する。また、本願発明10はマウスNotch3とは結合しないが、引用例Aでは、引用発明の抗体のマウスNotch3に対する結合特性は記載されておらず、引用例Aには、引用発明の抗体の抗原に対する親和性の具体的な数値も記載されていない。
このように、本願発明10の抗体と引用発明の抗体は、その作製において使用した抗原が一致し、ヒトNotch1?3タンパク質に対する特異性が一致し、また、Notchシグナルの伝達を阻害するという機能を有する点でも一致するものであって、ヒトNotch3中の結合部位は、いずれも、LNR-Aドメイン及びHD-2ドメイン中に存在するが、HD-1ドメインに対する結合性の有無のみで相違するものである。
したがって、本願発明10の抗体と引用発明の抗体は、前記(ア)のとおり、それらのCDRのアミノ酸配列は完全に一致するものではないが、両者の抗原との特異性やその機能については、おおよそ、変わるところがなく、また、抗原に対する親和性もおおむね一致しているものと考えられる。そして、本願発明10の抗体が引用発明の抗体と比較して有利な効果を有することは推認できないし、請求人はこの点についての主張も立証もしていない。
ここで、ある特異性を有する抗体が公知であった場合、それとは特性の異なる抗体を得ようとすることは、当業者の通常の思考であるところ、本願発明10の抗体は引用発明の抗体とは、単にCDRのアミノ酸配列が異なるというのみで、この相違に基づく抗体の特性の変化は、ヒトNotch3中のHD-1ドメインに結合するか否かであり、その他の特性については、なんらの変わりもないものある。そうしてみると、当業者の通常の思考にしたがって得られた本願発明10の抗体に対して、発明の進歩性を認めることは相当ではない。

ウ 審判請求人の主張について
請求人は、本願発明10で特定されたCDRのアミノ酸配列の抗体を得ることは当業者といえども困難である旨を主張する。しかし、本願発明10の抗体の作製方法は、前記(1)ウ(ア)にも記載されているような本願の出願時における周知の方法により得られたものであって、作製の際に使用した抗原も、本願発明10と引用発明で一致するものであることから、たとえ、そこで得られた抗体のCDRのアミノ酸配列が公知の抗体のCDRとは異なるとしても、このことは、本願発明10が新規性を有しているという意味しかなく、単に、CDRのアミノ酸配列が異なるという理由のみで、本願発明10の抗体が発明の進歩性を有するということができない点は前記イ(オ)のとおりである。したがって、請求人の主張は、これを採用することはできない。

第4 まとめ
以上検討したところによれば、請求項1に係る発明と請求項18に係る発明を1の出願中に含む本願は特許法第37条に規定する要件を満たしておらず、また、請求項10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-02 
結審通知日 2017-05-08 
審決日 2017-05-19 
出願番号 特願2015-540262(P2015-540262)
審決分類 P 1 8・ 65- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大宅 郁治
山崎 利直
発明の名称 抗NOTCH3抗体および抗体-薬物コンジュゲート  
代理人 四本 能尚  

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