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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1333141
審判番号 不服2016-17600  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-25 
確定日 2017-10-24 
事件の表示 特願2012-209137「軸受装置の潤滑構造」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月10日出願公開、特開2014- 62618、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年9月24日の出願であって、平成28年2月29日付けで拒絶理由が通知され、同年4月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年8月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)され、これに対し、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、その後、当審において、平成29年5月22日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2.原査定の概要
本願の平成28年4月19日の手続補正により補正された請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・刊行物AないしC
刊行物Aには、軸方向に並ぶ複数の玉軸受7の外輪8間及び内輪9a間に、外輪間座47並びに第一の内輪間座38及び第2の内輪間座39をそれぞれ介在させ、外輪8及び外輪間座47がハウジング1に設置され、内輪9a、第一の内輪間座38及び第2の内輪間座39が主軸2に嵌合される転がり軸受装置において、外輪間座47に、第一の内輪間座38の外周面に対して液状、オイルミスト又はオイルエアからなる潤滑油を吹き付けて玉軸受7に供給するノズル孔19を設けた転がり軸受装置用潤滑装置が記載されている(特に段落【0005】、【0020】、【図1】を参照。)。
刊行物Bには、ノズル63の吐出口側を主軸の回転方向の前方へ傾斜させている点、内輪に対して潤滑油を吹き付ける点が記載されている(特に段落【0039】、【0040】、【図7】を参照。)。
刊行物Cには、ノズル部材6の吐出口8aを、内輪2の外周面における転走面2aに対して内輪間座11側に続く斜面部2bにすきまを持って対向させた点が記載されている(特に段落【0013】ないし【0017】、【図1】を参照。)。
よって、請求項1に係る発明は、刊行物Aに記載の発明並びに刊行物B及びCに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項2ないし6
・刊行物AないしD
刊行物Cには、斜面部2bが転走面2aから離れるほど外径が小さくなる点が記載されている。
刊行物Dには、内輪間座6の外周面における軸方向外側端の外径が転がり軸受1の内輪2における内輪間座6側端の外径と比べて大きい点が記載されている(段落【0042】、【図7】を参照。)。
よって、請求項2及び3に係る発明は、刊行物Aに記載された発明並びに刊行物B及びCに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項4ないし7に記載の発明は、刊行物Aに記載された発明及び引用文献BないしDに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

刊行物等一覧
A.特開平10-299784号公報
B.特開2007-92886号公報
C.特開2002-54643号公報
D.特開2006-125485号公報

第3.当審拒絶理由の概要
1.本願の平成28年11月25日の手続補正により補正された請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)理由1について
請求項1ないし7に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)理由2について
特許請求の範囲の記載が以下の各点で明確でない。
ア.請求項1における「前記内輪または前記内輪間座の外周面に対して」との選択的な記載は、請求項1における「前記ノズルの前記吐出口を、前記内輪の外周面における軌道面に対して」との記載と整合しないため、明確であるとはいえない。

イ.上記ア.の理由により、請求項1を直接的もしくは間接的に引用する形式で記載された請求項2ないし7の記載も明確でない。

ウ.請求項5及び6は、請求項1を間接的に引用する形式で記載されたものであるが、請求項5及び6における「軸受装置の冷却構造」との記載は、請求項1における「軸受装置の潤滑構造」の記載と整合しないため、明確であるとはいえない。

刊行物等一覧
1.特開2002-54643号公報(原査定の刊行物C)
2.特開2007-92886号公報(原査定の刊行物B)

第4.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年7月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在され、前記外輪および前記外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および前記内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、
前記外輪間座に、前記転がり軸受内に突出する突出部が設けられ、この突出部における内周面に開口して、前記内輪の外周面に対して、エアにより液状の油を搬送するエアオイルを潤滑および冷却用に吹き付けて前記転がり軸受に供給するノズルが設けられ、このノズルは吐出口側を前記主軸の回転方向の前方へ傾斜させて設けられ、前記ノズルの前記吐出口が、前記内輪の外周面における軌道面に対して前記内輪間座側に続く肩面に対向し、前記突出部の内周面は、前記内輪の前記肩面にすきまδaを介して対向し、前記肩面は、前記軌道面から離れるほど外径が小さくなる傾斜面であり、前記肩面と前記突出部の内周面との前記すきまδaの大きさは、前記ノズルの口径の1/2以下であり、前記突出部の先端の内周に凸条が設けられ、前記凸条と前記内輪の肩面のすきまδbは、(すきまδbの径方向の寸法)×(すきまδbのノズル位置での円周方向長さ)がノズルの総孔径面積の10倍であり、前記ノズルは、直線状であって、前記外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向に前記内輪の外径寸法Dの0.4?0.5倍オフセットしたことを特徴とする軸受装置の潤滑構造。」

第5.刊行物
1.刊行物1
当審拒絶理由及び原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物1(特開2002-54643号公報(原査定の刊行物C))には、「転がり軸受のエアオイル潤滑構造」に関して、図面(特に、【図1】及び【図2】参照。)とともに、以下の事項が記載されている。

ア.「【0013】
【発明の実施の形態】この発明の第1の実施形態を図1,図2と共に説明する。転がり軸受1は、内輪2と外輪3の転走面2a,3a間に複数の転動体4を介在させたものである。転動体4は、例えばボールからなり、保持器5のポケット(図示せず)内に保持される。この転がり軸受1の内輪2の外径面に、転走面2aに続く斜面部2bを設け、この斜面部2bに隙間δを持って沿うノズル部材6を設ける。斜面部2bは、内輪2の幅面から転走面2aに続いて設け、また内輪2の反負荷側(軸受背面側)の外径面に設ける。転がり軸受1がアンギュラ玉軸受である場合、内輪2のステップ面を設ける部分の外径面が上記斜面部2bとされる。
【0014】ノズル部材6は、その先端部6aaを保持器5の内径面と内輪2の外径面の間における転動体4の近傍に位置させる。ノズル部材6は、リング状の部材であって、転がり軸受1に軸方向に隣接して設けられ、側面の内径部から軸方向に伸びる鍔状部6aを有している。この鍔状部6aは、平坦な内径面が内輪2の斜面部2bと同一角度の傾斜面に形成されて、保持器5の直下まで伸び、その先端がノズル部材6の上記先端部6aaとなる。ノズル部材6の鍔状部6aと内輪2の斜面部2bとの間の隙間δは、内輪2と軸との嵌合、および内輪2の温度上昇と遠心力による膨張とを考慮し、運転中に接触しない範囲で出来るだけ小さな寸法に設定される。
【0015】内輪2の斜面部2bには、円周溝7が設けられている。円周溝7は円周方向に延びて環状に形成されており、断面がV字状に形成されている。ノズル部材6は、内輪斜面部2bの円周溝7に対面して吐出口8aが開口する吐出孔8が設けられている。吐出孔8は、ノズル部材6の円周方向の1か所または複数箇所に設けられている。吐出孔8は、吐出したエアオイルが内輪斜面部2bの円周溝7に直接に吹き付け可能なように、吐出口8aの吐出方向を円周溝7に向け、かつ斜面部2bに対して吐出方向が傾斜角度βを持つように設けられている。断面V字状の円周溝7の転走面2a寄りの側壁斜面7aの軸心に対する傾斜角度は、内輪2の斜面部2bの傾斜角度よりも大きくなる。
【0016】ノズル部材6は、軸受1の外輪3を取付けたハウジング9に取付けられる。ノズル部材6のハウジング9への取付けは、外輪間座10を介して行っても、直接に行っても良い。図1の例は、外輪間座10を介して取付けた例であり、外輪間座10の一側面の内径部に形成した環状の切欠凹部10aに、ノズル部材6を嵌合状態に設けてある。ノズル部材6の軸受外の部分の内径面は、内輪間座11に対して接触しない程度に近接している。なお、ノズル部材6をハウジング9に直接に取付ける場合は、例えば図5に示すように設けられ、ノズル部材6が外輪間座を兼ねるものとできる。
【0017】ノズル部材6の吐出孔8は、その吐出口8aの近傍部8bが一般部よりも小径の絞り孔に形成されている。吐出孔8の入口は、ハウジング9からノズル部材6にわたって設けられたエアオイル供給路13に連通している。エアオイル供給路13は、ハウジング9にエアオイル供給口13aを有し、ハウジング9の内面にハウジング部出口13bを有している。ハウジング部出口13bは、外輪間座10の外径面に設けられた環状の連通溝13cに連通し、連通溝13cから、径方向に貫通した個別経路13dを介して、ノズル部材6の各吐出孔8に連通している。エアオイル供給口13aは、圧縮した搬送エアに潤滑油を混合させたエアオイルの供給源(図示せず)に接続されている。
【0018】図2は、図1の実施形態にかかる転がり軸受のエアオイル潤滑構造を応用したスピンドル装置の一例を示す。このスピンドル装置は、工作機械に応用されるものであり、主軸15の端部に工具またはワークのチャックが取付けられる。主軸15は、軸方向に離れた複数の転がり軸受1により支持されており、これらの転がり軸受1に、図1の例のエアオイル潤滑構造が採用されている。同図では、転がり軸受1は、一対のものが背面を向き合うように配置されている。各転がり軸受1の内輪2は主軸15の外径面に嵌合し、外輪3はハウジング9の内径面に嵌合している。これら内外輪2,3は、内輪押さえ25および外輪押さえ26により、主軸15およびハウジング9にそれぞれ固定されている。ハウジング9は、内周ハウジング9Aと外周ハウジング9Bの二重構造とされ、内外のハウジング9A,9B間に冷却媒体流路16が形成されている。内周ハウジング9Aは、その一部を図1に示したものであり、上記エアオイル供給路13およびそのエアオイル供給口13aが設けられている。ハウジング9は、支持台17に設置され、ボルト18で固定されている。スピンドル装置に応用する場合、外輪間座10と内輪間座11間の径方向隙間部が、内輪斜面部2bの負圧吸引作用で負圧とならないように、大気開放孔をハウジング9に設けることが好ましい。また、ハウジング9には、内径面における軸受1の設置部近傍にエアオイル排気溝22が設けられ、このエアオイル排気溝22から大気に開放されるエアオイル排気路23が設けられる。
【0019】上記構成のエアオイル潤滑構造の作用を説明する。図1のエアオイル供給口13aより供給されたエアオイルは、ノズル部材6の吐出孔8を経て内輪斜面部2bの円周溝7の側壁斜面7aに噴射される。側壁斜面7aの傾斜角度は、内輪2の斜面部2bよりも大きくなるため、側壁斜面7aに付着した油は、遠心力の作用により、確実に内輪斜面部2bに導かれ、軸受内に潤滑油として流入する。また、供給エア量が少量となって円周上で流れが不均一になった場合においても、内輪斜面部2bとノズル部材6との隙間δで生じる負圧吸引力のために、軸受側に流れ、転動体4または保持器5の内径面に付着し、軸受の潤滑油として機能することができる。このため、少量エアにおける油の滞留が防止され、油の滞留による軸受温度の変動を防止することができる。
【0020】このように、内輪斜面部2bの円周溝7にエアオイルを供給し、転動体4の転走経路へは直接にエアオイルを噴出させないため、転動体4の公転による風切り音の発生がなく、騒音が低下する。また、エアの噴射によるオイル供給ではなく、内輪斜面部2bの円周溝7に供給されたエアオイルを内輪2の回転で軸受1内に導くようにしたため、使用するエアは、内輪2の円周溝7までオイルを搬送する役目で良く、使用量を減らせる。そのためエア量削減による省エネ効果も期待できる。また、吐出孔8の出口部8aが細径である場合、流速が増し、吐出エア温度が下がる。この低温エアが近距離より内輪2に吹き付けられるため、より一層の内輪温度の低減が期待できる。この実施形態の場合、このように、エア量を減じた場合においても少量エアにおける油の滞留による軸受温度の変動を防止できて、運転可能であり、騒音の低減効果と共に、エアオイル量のさらなる削減効果が期待できる。」

イ.上記ア.の段落【0020】の「また、吐出孔8の出口部8aが細径である場合、流速が増し、吐出エア温度が下がる。この低温エアが近距離より内輪2に吹き付けられるため、より一層の内輪温度の低減が期待できる。」との記載から、エアオイルは、冷却のためにも用いられることが分かる。

ウ.【図1】から、斜面部2bは、転走面2aから離れるほど外径が小さくなる傾斜面であることが見て取れる。

これらの記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「軸方向に並ぶ複数の転がり軸受1の外輪3間および内輪2間に外輪間座10および内輪間座11がそれぞれ介在され、前記外輪3および前記外輪間座10がハウジング9に設置され、前記内輪2および前記内輪間座11が主軸15に嵌合される軸受装置において、
前記外輪間座10に、前記転がり軸受1内に突出するノズル部材6が設けられ、このノズル部材6における内周面に開口して、前記内輪2の外周面に対して、エアにより液状の油を搬送するエアオイルを潤滑および冷却用に吹き付けて前記転がり軸受1に供給する吐出孔8が設けられ、前記吐出孔8の吐出口8aが、前記内輪2の外周面における転走面2aに対して前記内輪間座11側に続く斜面部2bに対向し、前記ノズル部材6の内周面は、前記内輪2の前記斜面部2bに隙間δを介して対向し、前記斜面部2bは、前記転走面2aから離れるほど外径が小さくなる傾斜面である軸受装置の潤滑構造。」

2.刊行物2
当審拒絶理由及び原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物2(特開2007-92886号公報(原査定の刊行物B))には、「転がり軸受装置」に関して、図面(特に、【図4】及び【図7】参照。)とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「【0018】
この転がり軸受装置は、微量の潤滑油を保守作業回数を少なくして長時間供給することが望まれる工作機械(特に、回転数が例えば1万回転以上の高速回転のもの)のスピンドル用軸受として好適に使用することができる。この転がり軸受装置の潤滑は、工作機械で使用されている潤滑油・エア潤滑に比べると、低騒音化が可能であり、排出される潤滑油量が減るので、環境にもよいものとなる。また、この転がり軸受装置の潤滑は、グリース潤滑に比べて、低トルク化が可能で高速回転に適しており、グリース潤滑に比べて取り扱い性が劣るという理由で潤滑油を使用できなかった種々の装置の軸受装置としても使用することができる。」

イ.「【0031】
しかしながら、ノズルがストレート状であると、特に、高速回転で使用された場合に、適切な箇所に潤滑油を供給することができないという問題が生じる。図4および図5は、ノズル(73)がストレート状で、その開口方向が回転中心軸方向に対して回転方向側に傾けられていない従来のもの(図4(a))を使用した給油ユニット(72)と、上記第1実施形態のノズル(23)(図4(b))を使用した給油ユニット(2)とを比較するもので、ノズル(23)(73)先端の負圧に関して、図5に示すように、従来のもの(記号(a)で示す)では、回転速度の増加に伴って、大幅に増加しており、これに対し、第1実施形態のもの(記号(b)で示す)では、その増加率は極めて小さく、特に、高速回転で使用される場合に、極めて有用であることが分かる。また、図4(a)に示すように、従来のものでは、矢印で示す回転方向に対して軸方向が直交しているノズル(73)から吐出された油滴(D)がノズル(73)を伝ってその根元側に移行するという現象が見られるのに対し、上記第1実施形態のものでは、図4(b)に示すように、矢印で示す回転方向に対してノズル(23)の吐出部(26)の軸方向が同じ方向を向いており、回転によって生じる風によってノズル(23)の吐出部(26)先端に油滴(D)が保持され、この結果、確実に潤滑が行われる。」

ウ.「【0039】
なお、第1および第2実施形態のノズル(23)(53)については、水平なノズル本体(25)(55)に対し、吐出部(26)(56)も水平として描いているが、吐出部(26)(56)は、回転方向を向いた状態で、水平よりも傾斜させられてもよい。すなわち、図7(a)が上記各実施形態のノズル(23)(53)として、図7(b)に示すように、ノズル本体(65)と吐出部(66)とのなす角は直角のまま(ノズル(63)の形状は同じのまま)、吐出部(66)を水平に対して下向きに傾斜させてもよい。ここで、吐出部(66)が水平となす角αは、回転数を考慮して決定することができ、相対的に低速回転の場合には、垂直(真下)に近く、相対的に高速回転の場合には、水平(図7(a))に近いものとされる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物2には、次の技術事項(以下、「刊行物2に記載された事項」という。)が記載されている。

「ノズルの吐出部66側はスピンドルの回転方向の前方へ傾斜させて設けられること。」

3.刊行物3
原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物3(特開平10-299784号公報(原査定の刊行物A))には、「転がり軸受装置用潤滑装置」に関して、図面(特に、【図1】参照。)とともに、以下の事項が記載されている(以下、「刊行物3に記載された事項」という。)。

ア.「【0005】上記外輪間座11にはノズル孔19、19を形成しており、これら各ノズル孔19、19を、上記外輪間座11の左右両側面に開口させている。上記外輪間座11の内側には通油孔20を設けており、この通油孔20を通じて上記各ノズル孔19、19を、上記ハウジング1内に設けられた給油通路21と連通させている。又、上記各スペーサ14、14の互いに対向する側面には、各スペーサ14、14の外周面に開口する凹部22、22を設けている。そして、上記ハウジング1の内周面で、各凹部22、22の外方に位置する部分に、それぞれ排油通路23、23の端部を開口させている。」

イ.「【0020】内輪9aは、外輪8に比べて軸方向(図1の左右方向)に亙る幅寸法を小さくする事により、上記内輪9aの軸方向一端面(図1の右端面)を、上記外輪8の軸方向一端面よりも、この外輪8の軸方向中央部に寄った位置に存在させている。又、上記内輪9aに隣接させて、特許請求の範囲に記載した内輪間座に対応する、第一の内輪間座38を配置し、更にこの第一の内輪間座38に隣接させて、第二の内輪間座39を配置している。」

4 刊行物4
原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物4(特開2006-125485号公報(原査定の刊行物D))には、「転がり軸の潤滑装置」に関して、図面(特に、【図7】参照。)とともに、以下の事項が記載されている(以下、「刊行物4に記載された事項」という。)。

「【0042】
図7および図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受の潤滑装置は、図1および図2に示す第1の実施形態において、内輪2の斜面部2bに隙間gを介して被さってこの隙間gから軌道面2aへ流入する潤滑油を案内する鍔状部10bを、外輪間座7の内輪2側に一体に設けたものである。鍔状部10bは、外輪間座7の全周に渡って設けられている。鍔状部10bは、転動体4を保持する保持器5の内径側まで延びるものとしている。この例においても、図5,図6に示す実施形態と同様に、外輪間座7は、外輪3側の縁部付近から内径側へ延びる環状の内径側突出部7aを有し、この内径側突出部7aの内径縁から鍔状部10bが軸方向に突出している。上記吐出口8の形成された突出部10は、内径側突出部7aの裏側で円周方向の一部に設けられている。
この場合の前記隙間gは、内輪2の斜面部2bに沿って軌道面2aへ流入する潤滑油を案内する作用を有する程度のものであって、図5および図6に示す実施形態の場合の隙間δに比べて広くても良い。また、この実施形態では、保持器5におけるポケットを挟んだ両側の内径面5aは、幅方向の中央側が大径となるテーパ状面とされているが、前記鍔状部10bが延びる側の内径面5aだけをテーパ状面としても良い。その他の構成は第1の実施形態の場合と同じである。」

第6.対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、引用発明における「転がり軸受1」は、本願発明における「転がり軸受」に相当し、以下同様に、「外輪3」は「外輪」に、「内輪2」は「内輪」に、「外輪間座10」は「外輪間座」に、「ハウジング9」は「ハウジング」に、「主軸15」は「主軸」に、「ノズル部材6」は「突出部」に、「吐出孔8」は「ノズル」に、「吐出口8a」は「吐出口」に、「転走面2a」は「軌道面」に、「斜面部2b」は「肩面」に、「隙間δ」は「すきまδa」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の外輪間および内輪間に外輪間座および内輪間座がそれぞれ介在され、前記外輪および前記外輪間座がハウジングに設置され、前記内輪および前記内輪間座が主軸に嵌合される軸受装置において、
前記外輪間座に、前記転がり軸受内に突出する突出部が設けられ、この突出部における内周面に開口して、前記内輪の外周面に対して、エアにより液状の油を搬送するエアオイルを潤滑および冷却用に吹き付けて前記転がり軸受に供給するノズルが設けられ、前記ノズルの吐出口が、前記内輪の外周面における軌道面に対して前記内輪間座側に続く肩面に対向し、前記突出部の内周面は、前記内輪の前記肩面にすきまδaを介して対向し、前記肩面は、前記軌道面から離れるほど外径が小さくなる傾斜面である軸受装置の潤滑構造。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明においては、「ノズルは吐出口側を前記主軸の回転方向の前方へ傾斜させて設けられ」るのに対し、引用発明においては、吐出孔8(本願発明における「ノズル」に相当。)」は吐出口8a側を前記主軸15の回転方向の前方へ傾斜させて設けられるものではない点。

[相違点2]
本願発明においては、「前記肩面と前記突出部の内周面との前記すきまδaの大きさは、前記ノズルの口径の1/2以下であり、前記突出部の先端の内周に凸条が設けられ、前記凸条と前記内輪の肩面のすきまδbは、(すきまδbの径方向の寸法)×(すきまδbのノズル位置での円周方向長さ)がノズルの総孔径面積の10倍であり、前記ノズルは、直線状であって、前記外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向に前記内輪の外径寸法Dの0.4?0.5倍オフセットし」ているのに対し、引用発明においては係る構成を有しない点。

2.相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
刊行物2に記載された事項は、上述のように、「ノズルの吐出部66側はスピンドルの回転方向の前方へ傾斜させて設けられること。」であって、「前記肩面と前記突出部の内周面との前記すきまδaの大きさは、前記ノズルの口径の1/2以下であり、前記突出部の先端の内周に凸条が設けられ、前記凸条と前記内輪の肩面のすきまδbは、(すきまδbの径方向の寸法)×(すきまδbのノズル位置での円周方向長さ)がノズルの総孔径面積の10倍であり、前記ノズルは、直線状であって、前記外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向に前記内輪の外径寸法Dの0.4?0.5倍オフセットし」ている点については、刊行物2には、記載も示唆もない。
また、原査定に引用された刊行物3及び4にも、「前記肩面と前記突出部の内周面との前記すきまδaの大きさは、前記ノズルの口径の1/2以下であり、前記突出部の先端の内周に凸条が設けられ、前記凸条と前記内輪の肩面のすきまδbは、(すきまδbの径方向の寸法)×(すきまδbのノズル位置での円周方向長さ)がノズルの総孔径面積の10倍であり、前記ノズルは、直線状であって、前記外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向に前記内輪の外径寸法Dの0.4?0.5倍オフセットし」ている点については、記載も示唆もない。
また、本願発明は、相違点2に係る発明特定事項を具備することにより、本願明細書の段落【0029】に「前記すきまδaの大きさをノズル12の口径の1/2以下としたことにより、ノズル12から吐出されたエアオイルの圧力が急激に降下することがなく、騒音の発生を抑えることができる。」と記載され、同段落【0030】に「ノズル12のオフセット量OSを内輪3の外径寸法Dの0.4?0.5倍とすることにより、冷却効果が最も良好となることが、試験により確かめられている。」と記載され、及び同段落【0032】に「このようにすきまδbを決めることにより、凸条21が、ノズル12から吐出されるエアオイルの噴射音が転がり軸受1側へ漏れ出るのを防ぐ遮音壁として機能し、低騒音化が図れる。」と記載されるような効果を奏するものである。
したがって、相違点2に係る発明特定事項を具備する本願発明は、相違点1を検討するまでもなく、上記引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、当審では、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、平成29年7月24日の手続補正により請求項の記載は、前記「第4.」のとおり補正されたので、この拒絶の理由は解消した。

第7.原査定についての判断
平成29年7月24日の手続補正により補正された請求項1に係る発明は、「前記肩面と前記突出部の内周面との前記すきまδaの大きさは、前記ノズルの口径の1/2以下であり、前記突出部の先端の内周に凸条が設けられ、前記凸条と前記内輪の肩面のすきまδbは、(すきまδbの径方向の寸法)×(すきまδbのノズル位置での円周方向長さ)がノズルの総孔径面積の10倍であり、前記ノズルは、直線状であって、前記外輪間座の軸心に垂直な断面における任意の半径方向の直線L2から、この直線L2と直交する方向に前記内輪の外径寸法Dの0.4?0.5倍オフセットし」ているとの事項を備えるものとなっており、上記のとおり、当該事項は、原査定において引用された前記刊行物A、刊行物B(当審拒絶理由における刊行物2)、刊行物C(当審拒絶理由における刊行物1)及び刊行物Dに記載されていない。
よって、平成29年7月24日の手続補正により補正された請求項1に係る発明は、刊行物AないしDに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2012-209137(P2012-209137)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16C)
P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 尾形 元北中 忠  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小関 峰夫
中川 隆司
発明の名称 軸受装置の潤滑構造  
代理人 野田 雅士  
代理人 杉本 修司  

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