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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1333148
審判番号 不服2016-16982  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-14 
確定日 2017-10-25 
事件の表示 特願2012- 81559「ハイブリッド電気自動車の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-209044、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日の出願であって、平成27年7月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年7月5日付けで拒絶査定がされたのに対し、平成28年11月14日に拒絶査定不服審判が請求(以下、単に「審判請求」という。)され、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成29年1月20日に前置報告がされ、平成29年7月13日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年7月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-105039号公報
2.特開2004-116748号公報
3.特開2006-298363号公報
4.特開2011-25838号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているとはいえない。
審判請求時の補正によって、特許請求の範囲の請求項1の「前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記電動機を用いてのクリープ走行を行い、前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記クラッチを半クラッチ状態としてエンジンのみを用いてのクリープ走行を行い且つアクセルが踏み込まれた際には前記クラッチを接続して当該エンジンを用いた走行を行うよう制御する発進制御手段と、を備え、」という事項を「クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記電動機を用いてのクリープ走行を行う一方、クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態では前記クラッチを半クラッチ状態としてエンジンのみを常に用いてのクリープ走行を行い、アクセルが踏み込まれると前記クラッチを接続して当該エンジンを用いた走行を行うよう制御する発進制御手段と、を備え、」という事項とする補正は、電動機使用判定手段による、電動機の使用が可能であるか否かの判定を行う時期について、「クリープ走行の開始前に」行うものであると限定し、エンジンのみを用いてのクリープ走行を行う時期について、「常に」行うものであると限定し、また、前後の2つの動作又は状態が並行して同時に存在することを表現する「且つ」という記載を用いて、「アクセルの踏み込みがない状態で」と「アクセルが踏み込まれた際には」という、同時には行い得ない2つの動作を接続していた記載を、アクセルの踏み込みの有無に応じた記載に改めるものであるから、請求項1についての補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるか、又は誤記の訂正を目的とするものである。
また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)には、段落【0020】に「以下、当該ECU22が行う車両発進時の走行制御について詳しく説明する。ここで図2を参照すると、当該ECU22が実行する車両発進時の走行制御ルーチンを示すフローチャートが示されており、以下同フローチャートに沿って説明する。なお、当該制御は、例えば車両1が停車した状態から実行される。まずステップS1として、ECU22は、モータトルクによるクリープ走行(以下、モータクリープ走行という)を行う条件を満たしているか否かを判別する。・・・(中略)・・・当該判別結果が真(Yes)である場合は、ステップS2に進む。」と、段落【0021】に「ステップS2において、ECU22は、モータクリープ走行を実行する。」と、段落【0026】に「上記ステップS1において、・・・(中略)・・・ECU22はモータクリープ走行条件を満たしていないとして、判別結果は偽(No)となり、ステップS7に進む。ステップS7において、ECU22は、エンジントルクによるクリープ走行(以下、エンジンクリープ走行という)を実行する。」それぞれ記載されているとおり、電動機使用判定手段による判定は、車両が停車した状態から実行されることが記載されている。
したがって、特許請求の範囲の請求項1の「クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合」及び「クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合」との事項は、当初明細書の段落【0020】に記載された事項であるといえるから、新規事項を追加するものではない。
また、当初明細書等の図2から、一旦「エンジンクリープ走行」を開始すると、アクセルONしてエンジン走行モードが実行されるまでエンジンクリープ走行を維持することが看取できる。そうすると、特許請求の範囲の請求項1の「エンジンのみを常に用いてのクリープ走行を行い」との事項は、図2に記載された事項であるといえるから、新規事項を追加するものではない。
また、明細書の補正は、特許請求の範囲の補正に合わせて文言の整合を図るものであるから、特許請求の範囲の補正と同様に、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年11月14日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりの発明である。
「【請求項1】
走行用の駆動源としてエンジン及び電動機を備えたハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
前記エンジン及び前記電動機との間に設けられ、当該エンジンから当該電動機を介して駆動輪へと伝達される当該エンジンの駆動力の接続及び遮断を行うクラッチと、
前記電動機を車両発進時の駆動源として使用可能であるか否かを判定する電動機使用判定手段と、
クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記電動機を用いてのクリープ走行を行う一方、クリープ走行の開始前に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態では前記クラッチを半クラッチ状態としてエンジンのみを常に用いてのクリープ走行を行い、アクセルが踏み込まれると前記クラッチを接続して当該エンジンを用いた走行を行うよう制御する発進制御手段と、を備え、
前記電動機使用判定手段は、少なくとも前記電動機に電力を供給するバッテリの蓄電量が所定の蓄電量より小である場合は、電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定することを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。」

第5 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2011-105039号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「ハイブリッド式車両の駆動制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は、クリープ走行時におけるエンジンと電動機との駆動源を切替えるハイブリッド式車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、アクセルペダルを放した状態でも車両を発進させたり、緩やかに走行させたりするクリープ走行があるが、この時の車両の駆動トルク、いわゆるクリープトルクが変動すると、不安定なクリープトルク走行状態となるので、このクリープトルクを安定させるクリープ走行制御が開発されている。駆動源として、エンジンと走行用モータとを備えたハイブリッド式車両においても、クリープ走行制御が開発されている。」(段落【0001】及び【0002】)

イ 「【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、走行用モータによるクリープ走行時にバッテリ充電量SOCが低下し、駆動源を走行用モータからエンジンへ切替える場合、伝達されるトルクが急変することにより車両に引起されるショック(トルクショック)等の運転性悪化を低減できるものの、トルクを徐々に伝達させる方式では、動力源の切替えに時間を要するため、更なるバッテリ充電量SOCの低下や、バッテリ温度の上昇を招くといった課題がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成でクリープ走行時の駆動源の切替えを速やかに行うようにして、トルクショック(運転性悪化)の発生を抑制しながら、バッテリ充電量SOCの低下を抑制しつつ、燃費を改善できるようにした、ハイブリッド式車両の駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド式車両の駆動制御装置は、エンジン及び電動機のトルクを駆動源として駆動輪に伝達可能なハイブリッド式車両の駆動制御装置であって、前記エンジンと前記電動機との間に介装され、前記エンジンから前記電動機を介して前記駆動輪に伝達されるトルクの伝達状態をストローク量に応じて断接調整可能なクラッチ装置と、前記クラッチ装置の前記ストローク量を検出するクラッチストローク量検出手段と、前記駆動源として前記電動機のみを使用して走行する電動機走行モードと、前記駆動源として前記エンジンのみを使用して走行するエンジン走行モードと、を含む走行モードの中から1つの走行モードを選択する走行モード選択手段と、前記エンジン,前記電動機及び前記クラッチ装置の作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、走行モード選択手段により前記電動機走行モードと前記エンジン走行モードとの間で切替える走行モード切替え時に、前記エンジントルクの変化率を、前記ストローク量が前記クラッチ装置の半クラッチ状態に対応して設定された基準ストローク量よりもクラッチ切断状態側にある場合には、前記ストローク量が前記基準ストローク量よりもクラッチ接続状態側にある場合よりも大きくなるように、前記エンジントルクを変化させることを特徴とする。
【0009】
また、前記制御手段は、前記制御手段は、目標クリープトルクを算出する目標クリープトルク算出手段とをさらに備え、前記走行モード切替えは、前記ハイブリッド式車両のクリープ走行中における前記電動機走行モードから前記エンジン走行モードへの切替えであって、前記エンジントルクの変化は、前記クラッチ装置を切断状態から接続状態にストロークさせながら前記エンジンのトルクを増加させるものであって、前記制御手段は、前記エンジンのトルク増加に対応させて前記電動機のトルクを減少させ、前記エンジントルクと前記電動機トルクとの総和が前記目標クリープトルク算出手段により算出された前記目標クリープトルクとなるように制御するようにしてもよい。
【0010】
また、前記電動機に電力を供給するバッテリと、前記バッテリの充電量を演算するバッテリ充電量演算手段とをさらに備え、前記走行モード選択手段は、電動機走行モードによる前記クリープ走行中に、前記バッテリ充電量演算手段によって演算されたバッテリ充電量が予め設定された下限値まで減少したら、前記電動機走行モードから前記エンジン走行モードに切替えるようにしてもよい。」(段落【0006】ないし【0010】)

ウ 「【0015】
以下、図面により、本発明の実施形態について説明する。
図1?5は本発明の一実施形態を説明するもので、図1はそのハイブリッド式車両の駆動系と駆動制御装置を示すブロック図、図2はその動力切替え時におけるトルク変化量を示すグラフ、図3はそのクラッチ装置によるトルク伝達率を示すグラフ、図4,5はその駆動制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0016】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係るハイブリッド式車両の駆動系から説明する。
[ハイブリッド式車両の駆動系の詳細]
本実施形態にかかるハイブリッド式車両(以下、車両という)1の駆動系は、図1に示すように、走行用エンジン(エンジン)2と、クラッチ装置3と、走行用モータ(電動機)4と、機械式自動変速機(変速機)5と、プロペラシャフト20と、差動装置21と、左右の駆動輪22R,22Lと、インバータ10と、バッテリ11とを備えている。
【0017】
エンジン2は、詳細を後述する駆動制御ECU(制御手段)30のエンジン制御部31によって、車両の運転状態に応じたエンジントルクを発生させるように燃焼を制御される。また、エンジン2の出力軸(図示せず)は、クラッチ装置3によって走行用モータ4の回転軸(図示せず)の入力側と断接可能に構成されている。
クラッチ装置3には、油圧により作動する摩擦クラッチ板 が 備えられ、図示しない油圧シリンダ装置によってクラッチストローク量が調整されることにより、エンジン2の出力軸と走行用モータ4の回転軸とを断接制御するよう構成されている。この断接制御は、駆動制御ECU30のクラッチ装置制御部38から作動信号が出力されることによって行なわれる。」(段落【0015】ないし【0017】)

エ 「【0030】
クリープトルク演算部34は、図示しない車速センサ等の情報に基づいて、車両1のクリープ走行における目標クリープトルク量(Ct)を演算するものである。また、この演算された目標クリープトルク量(Ct)は、詳細を後述するトルク変化量制御部37に出力される。
走行モード選択部35には、車両1のクリープ走行時における駆動源として、走行用モータ4のみを使用して走行する「電動機走行モード」と、エンジン2のみを使用して走行する「エンジン走行モード」とが予め記憶されている。また、バッテリ充電量SOCについて予め定めた所定の下限値としてSOC下限値45%と、バッテリ11の温度について予め定めた所定の上限温度としてバッテリ上限温度値であるTb-max(例えば50℃)と、走行用モータ3の温度について予め定めた所定の上限温度としてモータ上限温度値であるTm-max(例えば80℃)とが記憶されている。
【0031】
そして、このSOC下限値45%とバッテリ制御部33から取込まれたバッテリ充電量SOCの演算値、バッテリ上限温度(Tb-max)とバッテリ制御部33から取込まれたバッテリ11の温度演算値(Tb)、モータ上限温度(Tm-max)とインバータ制御部32から取込まれた走行用モータ4の温度演算値(Tm)とを比較することで、適宜、クリープ走行時におけるバッテリ充電量SOCとバッテリ温度とモータ温度とに応じた、最適な走行モードの選択を行うようになっている。
【0032】
なお、ここで最適な走行モードの選択とは、車両1が走行用モータ4のトルクのみでクリープ走行している場合において、バッテリ充電量SOCが所定の下限値45%未満、バッテリ11の温度演算値(Tb)が所定のバッテリ上限温度(Tb-max)以上若しくは、走行用モータ4の温度(Tm)が所定のモータ上限温度(Tm-max)以上の、少なくともいずれか一つの条件を満たす場合には、駆動源を走行用モータ4からエンジン2へと切替える「エンジン走行モード」を選択することをいう。
【0033】
また、車両1がエンジン2のトルクのみでクリープ走行している場合において、バッテリ充電量SOCが所定の下限値45%以上、バッテリ11の温度演算値(Tb)が所定のバテリ上限温度(Tb-max)未満及び、走行用モータ4の温度(Tm)が所定のモータ上限温度(Tm-max)未満の、いずれの条件をも満たす場合には、駆動源をエンジン2から走行用モータ4へと切替える「電動機走行モード」を選択することをいう。
【0034】
この走行モード選択部35によって選択された走行モードは、詳細を後述する回転合わせ制御部36とトルク変化量制御部37とに出力されるようになっている。
回転合わせ制御部(回転合わせ制御手段)36は、走行モード選択部35によって「エンジン走行モード」が選択された場合は、クラッチ装置3の接続制御が開始される前に、エンジン2の回転数と走行用モータ4の回転数とを同期させるものである。具体的には、走行用モータ4の図示しない回転センサから、走行用モータ4の回転数を検出し、エンジン2の回転数がこの検出された走行用モータ4の回転数となるように、エンジン制御部31に制御信号を出力することで、回転合わせ制御が実行されるようになっている。
【0035】
トルク変化量制御部37には、ストローク量(L)をパラメータとするトルク伝達率(α)のマップ(図3) が 予め記憶されている。また、このマップ上には、エンジン2のトルク(Et)の約半分(約50%)を走行用モータ4の回転軸に伝達するストローク量が「基準ストローク量」として設定されている(トルク半伝達状態)。なお、本実施形態において、クラッチ装置3の最大ストローク量のインデックスを100,最小ストローク量のインデックスを0とすると、この基準ストローク量のインデックスは30となる(図3)。
【0036】
そして、トルク変化量制御部37は、走行モード選択部35によって「エンジン走行モード」が選択された場合は、図2(a)に示すように、ストローク量が、最小ストローク量(0)から基準ストローク量(30)に達するまでの間におけるエンジン2のトルク増加率を、ストローク量が基準ストローク量(30)から最大ストローク量(100)に達するまでの間におけるエンジン2のトルク増加率よりも大きくなるように、エンジン制御部31に制御信号を出力する。
【0037】
なお、本実施形態におけるエンジントルクは、ストローク量が基準ストローク量よりも小さい場合(切断側)及び、基準ストローク量よりも大きい場合(接続側)のいずれにおいても線形にトルクを増加させている。
また、ストローク量が最小ストローク量(0)から、最大ストローク量(100)に達するまでの間における走行用モータ4のトルク(Mt)を、クリープトルク演算部35によって演算された目標クリープトルク量(Ct)から、ストローク量に応じて増加させるエンジン2のトルク(Et)と、図3のマップのトルク伝達率(α)とを乗じた値を差し引くことで得られるトルク量(Mt=Ct-Et×α)となるように、インバータ制御部32に制御信号を出力する。
【0038】
一方、走行モード選択部35によって「電動機走行モード」が設定された場合は、図2(b)に示すように、ストローク量が、最大ストローク量(100)から基準ストローク量(30)に減少するまでの間におけるエンジン2のトルク減少率を、ストローク量が基準ストローク量(30)から最小ストローク量(0)に減少するまでの間におけるエンジン2のトルク減少率よりも小さくなるように、エンジン制御部31に制御信号を出力する。
【0039】
また、ストローク量が最大ストローク量(100)から、最小ストローク量(0)に達するまでの間における走行用モータ4のトルク(Mt)を、クリープトルク演算部35によって演算された目標クリープトルク量(Ct)から、ストローク量に応じて減少させるエンジン2のトルク(Et)と、図3のマップのトルク伝達率(α)とを乗じた値を差し引くことで得られるトルク量(Mt=Ct-Et×α)となるように、インバータ制御部32に制御信号を出力する。
【0040】
クラッチ装置制御部38は、走行モード選択部35による走行モードの選択に応じて、クラッチ装置3を断接制御するものである。すなわち、走行モード選択部35によって、「エンジン走行モード」が設定された場合は、クラッチ装置3に接続信号を出力することで、エンジン2のトルクが伝達されるトルク伝達状態に制御する。
一方、「電動機走行モード」が選択された場合は、クラッチ装置3に切断信号を出力することで、エンジン2のトルクが伝達されないトルク非伝達状態に制御する。」(段落【0030】ないし【0040】)

オ 「【0046】
ステップA70では、走行モードが「エンジン走行モード」に設定されたこと及び、回転合わせ制御が完了したことを受けて、トルク変化量制御部37が、クラッチ装置3の接続制御が完了するまでの間の、エンジン2と走行用モータ4とのトルク変化量の制御を行う。
すなわち、エンジン2のトルク変化量の制御は、ストローク量が、最小ストローク量(0)から基準ストローク量(30)に達するまでの間におけるトルク増加率を、ストローク量が基準ストローク量(30)から最大ストローク量(100)に達するまでの間におけるトルク増加率よりも大きくなるように、エンジン制御部31に制御信号を出力することで実行される。
【0047】
また、走行用モータ4のトルク変化量の制御は、ストローク量が最小ストローク量(0)から、最大ストローク量(100)に達するまでの間におけるトルク(Mt)を、クリープトルク演算部35によって演算された目標クリープトルク量(Ct)から、ストローク量に応じて増加させるエンジン2のトルク(Et)と、図3のマップのトルク伝達率(α)とを乗じた値を差し引くことで得られるトルク量(Mt=Ct-Et×α)となるように、インバータ制御部32に制御信号を出力することで実行される。
【0048】
その後、ステップA80では、クラッチ装置3の接続制御が完了したことを確認し、本駆動制御はリターンされる。
一方、ステップA10で、クラッチ装置制御部38がクラッチ装置3を接続制御している場合、すなわち車両1がエンジン2の動力のみでクリープ走行している場合は、図4に示すステップB10へと進む。」(段落【0046】ないし【0048】

(2)引用文献1記載の事項
ア 上記(1)エから、引用文献1記載のハイブリッド式車両の駆動制御装置は、車両1のクリープ走行時における駆動源として、走行用モータのみを使用して走行する「電動機走行モード」と、エンジン2のみを使用して走行する「エンジン走行モード」とが予め記憶されている走行モード選択部35を備え、走行モード選択部35は、車両1が走行用モータ4のトルクのみでクリープ走行時、駆動源を走行用モータ4からエンジン2へと切替える「エンジン走行モード」を選択すること、及びエンジン2のトルクのみで走行している場合において、駆動源をエンジン2から走行用モータ4へ切り替える「電動機走行モード」を選択することを含む「最適な走行モードの選択」を行うことが分かる。

イ 上記(1)アの段落【0002】並びに上記(1)エの、特に段落【0032】及び【0033】から、引用文献1記載のハイブリッド式車両の駆動制御装置は、エンジン2のトルクのみによるクリープ走行時に前記走行モード選択部35により電動機走行モードが選択された場合は、アクセルペダルを放した状態で前記走行用モータ4を用いてのクリープ走行に切替える一方、走行用モータ4のトルクのみによるクリープ走行時に前記走行モード選択部35によりエンジン走行モードが選択された場合は、アクセルペダルを放した状態ではエンジン2のみを用いてのクリープ走行に切替える、よう制御を行う駆動制御ECU30を備えることが分かる。

ウ 上記(1)エから、引用文献1記載のハイブリッド式車両の駆動制御装置は、少なくとも走行用モータ4ヘ電力を供給するバッテリ充電量SOCが所定の下限値未満である場合には、駆動源を走行用モータ4からエンジン2へと切替える「エンジン走行モード」を選択することが分かる。

エ 上記(1)オから、引用文献1記載のハイブリッド式車両の駆動制御装置は、「エンジン走行モード」では、クラッチ装置3を接続してエンジン2のみを用いてクリープ走行することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

<引用発明>
「走行用の駆動源としてエンジン2及び走行用モータ4を備えたハイブリッド車両の駆動制御装置であって、
前記エンジン2及び前記走行用モータ4との間に設けられ、当該エンジン2から当該走行用モータ4を介して駆動輪22R及び22Lへと伝達される当該エンジン2の駆動力の接続及び遮断を行うクラッチ装置3と、
バッテリ充電量SOC、バッテリ温度及びモータ温度に応じて電動機走行モード又はエンジン走行モードのいずれかを選択する走行モード選択部35と、
エンジン2のトルクのみによるクリープ走行時に前記走行モード選択部35により電動機走行モードが選択された場合は、アクセルペダルを放した状態で前記走行用モータ4を用いてのクリープ走行に切替える一方、走行用モータ4のトルクのみによるクリープ走行時に前記走行モード選択部35によりエンジン走行モードが選択された場合は、アクセルペダルを放した状態ではクラッチ装置3を接続してエンジン2のみを用いてのクリープ走行に切替える、よう制御する駆動制御ECU30と、を備え、
前記走行モード選択部35は、少なくとも前記走行用モータ4に電力を供給するバッテリ11のバッテリ充電量SOCが所定の下限値未満である場合は、走行モード選択部35により前記走行用モータ4からエンジン2へと切替えるエンジン走行モードを選択し、バッテリ充電量SOCが所定の下限値以上、バッテリ11の温度演算値が所定の上限温度未満及び走行用モータ4の温度が所定のモータ上限温度未満である場合には、駆動源をエンジン2から走行用モータ4へと切替える電動機走行モードを選択する、ハイブリッド車両の駆動制御装置。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2004-116748号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「クリープトルク制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

ア 「【0002】
【従来の技術】
従来、車両用自動変速機においては、エンジンの作動時でシフトレバー、車速及びアクセルペダルの踏み込み量などが所定の条件であれば、エンジンの動力が駆動輪につながった状態となり、アクセルペダルを踏まなくても車両がゆっくり動き出す、所謂クリープ現象が生じることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)
また、近年、既存のマニュアルトランスミッションにアクチュエータを取り付け、運転者の意志若しくは車両状態により一連の変速操作(クラッチの断接、ギアシフト、セレクト)を自動的に行うオートメイティッドマニュアルトランスミッションシステム(AMTシステム)が本出願人により提案されている。
【0003】
このAMTシステムにおいては、車両が所定の条件にあればクラッチディスクをフライホイールに圧着制御することによって、意図的にクラッチトルク(クリープトルク)を駆動輪に伝達し、車両走行(クリープ走行)させるクリープ制御が行われている。従って、運転者はアクセルペダルを踏み込まなくても車両を駆動することができ、ブレーキペダルを踏み込んだり離したりするのみで車両を駆動制御することができる。」(段落【0002】及び【0003】)

イ 「【0024】
自動クラッチ20は、機械式(乾燥単板式)の摩擦クラッチ21と、クラッチレバー22と、クラッチレバー22を介して摩擦クラッチ21による回転伝達を操作するクラッチ用アクチュエータ23とを備えている。
【0025】
摩擦クラッチ21は、自動変速機30の入力軸31と一体的に回転するクラッチディスク21aを備えている。摩擦クラッチ21は、上記フライホイール10aに対するクラッチディスク21aの圧着荷重が変化されることで、フライホイール10a及びクラッチディスク21a間の回転伝達(以下、「クラッチトルク(Tcl)」という)を変化させる。そして、入力軸31はクラッチトルクTclの大きさに従って駆動されている。
【0026】
クラッチ用アクチュエータ23は、その駆動源として直流電動モータ24を備え、同モータ24の駆動によりロッド25を前方又は後方に移動(進退)させてクラッチレバー22を動かす。これにより、クラッチレバー22を介してレリーズベアリング27を押動し、これに弾接するダイヤフラムスプリング28を変形させてプレッシャプレート29に圧着荷重を生ぜしめる。クラッチ用アクチュエータ23は、ロッド25を介してクラッチレバー22を動かすことで、上述の態様でプレッシャプレート29を介して上記フライホイール10aに対するクラッチディスク21aの圧着荷重を変化させ、摩擦クラッチ21による回転伝達を操作する。」(段落【0024】ないし【0026】)

ウ 「【0042】
図3は、車両の走行開始時における制御全体の流れを示すフローチャートである。尚、この処理は所定時間毎の定時割り込みによって行われている。
処理がこのルーチンに移行すると、ECU50はステップ61においてクリープトルクTcrを発生するための条件が全て整っているかどうかを判断する。具体的には、ECU50は入力軸31の駆動力の伝達に選択されているギアが1速、2速またはR(リバースギア)のいずれかで、且つ車速が所定値以内で、且つアクセルペダル14及びブレーキペダル51の踏み込み量が所定値以内で、且つサイドブレーキ53の作動がオフされているかどうかを判断する。」(段落【0042】)

エ 「【0051】
一方、ステップ63においてECU50が、制動力が働いていないと判断すると、ECU50は処理をステップ64に移行し、アクセルペダル14の踏み込み量に応じて発進トルクを演算する発進制御を行う。発進トルクはアクセルペダル14の踏み込み量に応じて車速を上げる際に必要なトルクを表しており、アクセルペダル14の踏み込み量の増加に伴ってその値は大きくなる。ステップ64において発進トルクを演算すると、ECU50は処理をステップ80のサブルーチンに移行する。
【0052】
処理がステップ80のサブルーチンに移行されると、ECU50はステップ70のサブルーチンで演算されたクリープトルクTcr或いはステップ64で演算された発進トルクに応じてロッド25のストロークを制御するクラッチ制御を行う。」(段落【0051】及び【0052】)

(2)引用文献2記載技術
「車両用自動変速機において、アクセルペダル14及びブレーキペダル51の操作に応じてクリープトルクTcrを駆動輪に伝達してクリープ走行させるとともに、アクセルペダル14の踏み込み量に応じて発進トルクを演算し、演算された発進トルクに応じて自動クラッチ20のクラッチ用アクチュエータ23のロッド25のストロークを制御するクラッチ制御を行う技術。」

3 引用文献3
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開2006-298363号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「ハイブリッド駆動装置における発進制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

ア 「【0054】
まず、図8に示すメインフローについて説明するに、イグニションスイッチIGがONにあって(S1)、かつ車速が0即ち車輌停止状態にある場合(S2)、バッテリ残存容量(SOC)センサ76からの信号に基づきSOCが所定容量SOCL(例えば40%)と比較される(S3)。
【0055】
そして、SOCが所定容量SOCL以上の場合(YES)、モータジェネレータ2を主体とする制御により発進が可能であると判断し、後述するモータジェネレータ主体発進制御が機能し(S4)、またSOCが所定容量SOCL以下の場合(NO)、モータジェネレータ2を主体とする制御は不可と判断して、後述するエンジン主体発進制御が機能する(S5)。なお、上記メインフローは、シフトレバーがP又はNレンジでない走行レンジ(D又はR)にあり、かつロークラッチCLが接続状態にあることを前提としている。また、車輌停止状態(車速0)にあっても、SOCが極めて小さい場合を除いて、モータジェネレータ2が通電されて回転しており、プライマリシャフト(入力軸)8を回転し、これによりオイルポンプ10が駆動されると共に、伝達装置42を介して補機39が駆動される。この際、入力クラッチ6は切断状態にあると共に、無限変速機構(IVT)18はギヤニュートラル(GN)状態にあって、プライマリシャフト8は、補機39及びオイルポンプ10のみを駆動するだけの軽負荷状態にある。
【0056】
なお、ハイブリット駆動装置にあっては、バッテリとしてニッカド電池、ニッケル-水素電池等が用いられるが、車輌重量及び価格等によりその最大容量は、所定量に制限される。本制御装置にあっては、該バッテリの残存容量(SOC)により、発進時にモータジェネレータ2が主体となるか内燃エンジン1が主体となるか選択される。」(段落【0054】ないし【0056】)

イ 「【0067】
ついで、前記エンジン主体発進制御(S5)について、図13ないし図16に沿って説明する。該エンジン主体発進制御は、SOCがモータジェネレータを使用するに足りるだけ充分でない場合であって、まず、内燃エンジン1が始動される(S25)。この際、該エンジンの始動は、補機39のオルタネータに基づくスタータモータにより行なわれるが、前記モータジェネレータ2により行ってもよい。また、該エンジン主体発進制御にあっては、入力クラッチ6は接続状態に保持される。」(段落【0067】)

(2)引用文献3記載技術
上記(1)から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認める。

<引用文献3記載技術>
「ハイブリッド駆動装置において、車輌停止状態にある場合に、SOCが所定容量SOCLと比較され、SOCが所定容量SOCL以上の場合、モータジェネレータ2を主体とする制御により発進が可能であると判断し、モータジェネレータ主体発進制御を行い、SOCが所定容量SOCL以下の場合、モータジェネレータ2を主体とする制御は不可と判断して、エンジン主体発進制御を行う、技術。」

4 引用文献4
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開2011-25838号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「動力出力装置の制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

ア 「【0028】
以下、本発明の動力出力装置の制御装置の実施形態ついて図面を参照しながら説明する。 図1はハイブリッド車両の駆動系の概略構成図である。
動力出力装置1は、図1に示すように、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、冷媒圧縮機8と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、変速機20の一部を構成する差動式減速機30と、を備えている。」(段落【0028】)

イ 「【0047】
図3は、ECU5の概略構成図である。ECU5は、バッテリ3のSOCからモータ7による車両の発進の可否を判断するEV発進判定手段55を備え、ECU5には加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOC、斜度などが入力される一方、ECU5からは、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、後進用シフター53を制御する信号、シンクロ機構61のロックを制御する信号、A/C用クラッチ65を制御する信号などが出力される。
」(段落【0047】)

ウ 「【0082】
図27は、車両の停車(アイドリング)中、且つエンジン6の停止中にモータ7の動力で冷媒圧縮機8を駆動している状態を示している。モータ7は第1主軸11に常時接続しているため、初期状態からモータ7のトルクをあげることで、モータ7の動力が、第1主軸11、後進用ギヤ列28、伝達部材29を介して冷媒圧縮機8に伝達されている。このときも、シンクロ機構61のロックが解除されているため、リングギヤ35が空転しキャリア36にトルクが伝達されることはない。
【0083】
この状態から車両の発進までの制御について図28のフローチャートに従って説明する。モータ7で冷媒圧縮機8を駆動している間、SOC検出手段4は、所定のタイミングでバッテリ3のSOC量を検出する(ステップS11)。このとき、SOC量がEV発進するために十分なSOC量を有していれば発進要求を待って、運転者がシフトポジションを走行ポジションに変更するなど発進要求があれば(ステップS12)、EV発進の準備を行なう。EV発進する場合、図19に示した1stEVモードでの発進を例にとると、図29で示すように、先ず、モータ7をゼロ回転に制御した後(ステップS13)、シンクロ機構61をロック状態にし(ステップS14)、モータ7のトルクをあげることで図19に示す1stEVモードでのEV発進を行うことができる。なお、斜度検出手段56により、走行路の斜度が所定の閾値を越えた場合、冷媒圧縮機8の駆動を停止してもよい。これにより、EV発進時のモータ7の負荷を低減し、上り坂であっても確実にEV発進をすることができる。」(段落【0082】及び【0083】)

(2)引用文献4記載技術
上記(1)から、引用文献4には、次の技術(以下、「引用文献4記載技術」という。)が記載されていると認める。

<引用文献4記載技術>
「ハイブリッド車両において、バッテリ3のSOCからモータ7による車両の発進の可否を判断するEV発進判定手段55を備え、車両の停車中、且つエンジン6の停止中に、SOC検出手段4は、所定のタイミングでバッテリ3のSOC量を検出し、SOC量がEV発進するために十分なSOC量を有していれば発進要求を待ち、発進要求があれば、EV発進の準備を行なう、技術。」

5 その他の文献について
(1)引用文献5の記載
前置報告において周知技術を示す文献として引用された、本願出願前に頒布された特開平9-193676号公報(以下、「引用文献5」という。)には、「ハイブリッド駆動装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

ア 「【0122】図15のステップSA1では、車両の発進が要求されているか否かを、例えば車速Vが予め定められた一定の所定値V_(2) 以下であって、且つアクセルがONか否かすなわちアクセル操作量θ_(AC)が略零の所定値より大きいか否かを判断し、この判断が肯定された場合はステップSA2を実行し、この判断が否定された場合は図15の発進制御サブルーチンを終了する。ステップSA2では、蓄電装置258の蓄電量SOCが予め定められた蓄電量A′以上か否かを判断する。蓄電量A′は前記最低蓄電量Aと同程度の値であって、モータジェネレータ214を動力源として用いる場合に蓄電装置258から電気エネルギーを取り出すことが許容される最低の蓄電量であり、蓄電装置258の充放電効率などに基づいて設定されるが、最低蓄電量Aよりも少し大きめの値が設定されても良い。
【0123】このステップSA2の判断が否定された場合は、モータジェネレータ214を動力源にできないので、ステップSA3において運転モード5を選択する。運転モード5は、表4から明らかなように前記第1実施例と同じで、第1クラッチCE_(1 )を係合(ON)し、第2クラッチCE_(2 )を開放(OFF)し、エンジン212を運転状態とし、モータジェネレータ214を回生制御(発電制御)して回生制動トルクを制御することにより車両を発進させるものであり、請求項19に記載の第5運転モードに相当し、ハイブリッド制御用コントローラ250による一連の信号処理のうちステップSA3に従って運転モード5を実行する部分は第5運転モード制御手段に相当する。
【0124】ステップSA2の判断が肯定された場合は、モータジェネレータ214を動力源として用いることができるので、ステップSA4において、要求出力Pdが予め設定された所定値α以上か否かを判断する。所定値αとしては、例えばモータジェネレータ214のみを動力源として車両を良好に発進させることができる最大値に設定され、このステップSA4の判断が否定された場合はステップSA5で運転モード1を選択する。ハイブリッド制御用コントローラ250による一連の信号処理のうちステップSA5に従って運転モード1を実行する部分は第1運転モード制御手段に相当する。
【0125】ステップSA4の判断が肯定された場合は、モータジェネレータ214のみでは駆動力が不足して車両を良好に発進させることができないため、ステップSA6において、車速Vが予め定められた一定の所定値V_(1 )以下か否かを判断し、V≦V_(1 )であればステップSA7で運転モード11を選択する。所定値V_(1 )は、第1クラッチCE_(1 )を完全係合させてもエンジン212が適正に作動できる最低車速以上の車速で、前記所定値V_(2 )はこの所定値V_(1 )よりも大きな値である。運転モード11は、前記表4から明らかなように第1クラッチCE_(1 )を所定のスリップ状態で係合し、第2クラッチCE_(2 )を係合(ON)し、エンジン212およびモータジェネレータ214を所定の出力で回転駆動するもので、エンジン212およびモータジェネレータ214の両方を動力源として車両を高トルク発進させる。このステップSA7で選択される運転モード11は第11運転モードに相当し、ステップSA7に従って運転モード11を実行する部分は第11運転モード制御手段として機能している。
【0126】ここで、本実施例では車両発進時に蓄電装置258の蓄電量SOCが予め定められた蓄電量A′より少ない場合(ステップSA2の判断がNO)は、ステップSA3により運転モード5を選択し、エンジン212を作動させるとともにモータジェネレータ214を回生制御することにより車両を発進させるようになっているため、蓄電量SOCが更に低下して充放電効率等の性能を損なったり蓄電量不足で発進不能となったりすることを回避できる。」(段落【0122】ないし【0126】)

(2)引用文献5記載の事項
ア 上記(1)ア及び図15から、引用文献5記載のハイブリッド駆動装置において、ステップSA1の「発進要求あり?」の判断は、車速Vが所定値V_(2)以下であって、且つアクセル操作量が略零の所定値より大きいときに肯定されることが分かる。

イ 上記(1)ア及び表4から、引用文献5記載のハイブリッド駆動装置において、「発進要求あり?」の判断が肯定されたとき、蓄電装置258のSOCが予め定められた蓄電量A′以上か否かを判断し、この判断が否定されたときはエンジンを運転状態として車両を発進させ、肯定されたときは要求出力に応じてモータジェネレータ214のみ又はモータジェネレータとエンジンを併用して車両を発進させることが分かる。

(3)引用文献5記載技術
上記(1)及び(2)から、引用文献5には、次の技術(以下、「引用文献5記載技術」という。)が記載されていると認める。

<引用文献5記載技術>
「ハイブリッド駆動装置において、アクセル操作量θ_(AC)が略零の所定値より大きいとき、蓄電装置のSOCが予め定められた蓄電量A′以上か否かを判断し、SOCが蓄電量A′以下のときはエンジンを運転状態として車両を発進させ、SOCが蓄電量A′以上のときはモータジェネレータのみ、又はモータジェネレータとエンジンを併用して車両を発進させる技術。」

第6 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン2」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「走行用モータ4」は「電動機」に、「ハイブリッド車両の駆動制御装置」は「ハイブリッド電気自動車の制御装置」に、「駆動輪22R及び22L」は「駆動輪」に、「クラッチ装置3」は「クラッチ」に、「アクセルペダルを放した状態」は「アクセルの踏み込みがない状態」に、「アクセルペダル」は「アクセル」に、「駆動制御ECU30」は「発進制御手段」に、「バッテリ充電量SOC」は「蓄電量」に、「所定の下限値未満」は「所定の蓄電量より小」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「バッテリ充電量SOC、バッテリ温度及びモータ温度に応じて電動機走行モード又はエンジン走行モードのいずれかを選択する走行モード選択部35」は、バッテリ充電量SOC、バッテリ温度びモータ温度に応じて電動機が使用できるか否かを判断しているといえるから、本願発明における「前記電動機を」「駆動源として使用可能であるか否かを判定する電動機使用判定手段」に相当し、引用発明の「前記走行モード選択部35により電動機走行モードが選択された場合」は本願発明の「前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合」に、引用発明の「前記走行モード選択部35によりエンジン走行モードが選択された場合」は本願発明の「前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明における「走行用モータ4を用いてのクリープ走行」は本願発明における「電動機を用いてのクリープ走行」に相当し、引用発明における「エンジン2のみを用いてのクリープ走行」は、本願発明における「エンジンのみを」「用いてのクリープ走行」に相当する。
そして、引用発明における「前記走行モード選択部35は、少なくとも前記走行用モータ4に電力を供給するバッテリ11のバッテリ充電量SOCが所定の下限値未満である場合は、走行モード選択部35により前記走行用モータ4からエンジン2へと切替えるエンジン走行モードを選択」することは、本願発明における「前記電動機使用判定手段は、少なくとも前記電動機に電力を供給するバッテリの蓄電量が所定の蓄電量より小である場合は、電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定」することに相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、「走行用の駆動源としてエンジン及び電動機を備えたハイブリッド電気自動車の制御装置であって、前記エンジン及び前記電動機との間に設けられ、当該エンジンから当該電動機を介して駆動輪へと伝達される当該エンジンの駆動力の接続及び遮断を行うクラッチと、前記電動機を駆動源として使用可能であるか否かを判定する電動機使用判定手段と、前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記電動機を用いてのクリープ走行を行う一方、前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態ではエンジンのみを用いてのクリープ走行を行うよう制御する発進制御手段と、を備え、前記電動機使用判定手段は、少なくとも前記電動機に電力を供給するバッテリの蓄電量が所定の蓄電量より小である場合は、電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定するハイブリッド電気自動車の制御装置。」という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明においては、電動機使用判定手段は、「車両発進時の」駆動源として使用可能か否かを判定するものであり、「クリープ走行の開始前」に前記電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能であると判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態で前記電動機を用いてのクリープ走行を行う一方、「クリープ走行の開始前」に前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、エンジンのみを「常に」用いてのクリープ走行を行うのに対し、引用発明においては、走行モード選択部35が車両発進時に選択を行うものではなく、「エンジン2のトルクのみによるクリープ走行時」に走行モード選択部35により電動機走行モードを選択された場合は、アクセルペダルを放した状態で前記走行用モータ4を用いてのクリープ走行に切替える一方、「走行用モータ4のみによるクリープ走行時」にエンジン走行モードが選択された場合は、エンジン2のみを用いてのクリープ走行に切替える点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「クラッチ」に関し、本願発明においては、電動機使用判定手段により前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、アクセルの踏み込みがない状態では「クラッチを半クラッチ状態」とし、「アクセルが踏み込まれると前記クラッチを接続して当該エンジンを用いた走行を行うよう制御」するのに対し、引用発明においては、エンジン走行モードが選択された場合は、アクセルペダルを放した状態で「クラッチ装置3を接続して当該エンジンを用いた走行を行うよう」制御する点(以下、「相違点2」という。)。

2 判断
事案に鑑み、まず、相違点1について、引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術を検討する。

(1)引用文献2記載技術
引用文献2記載技術は、自動変速機において、アクセルペダル14及びブレーキペダル51の操作に応じてクリープトルクTcrを駆動輪に伝達してクリープ走行させるとともに、アクセルペダル14の踏み込み量に応じて発進トルクを演算し、演算された発進トルクに応じて自動クラッチ20のクラッチ用アクチュエータ23のロッド25のストロークを制御するクラッチ制御を行う技術であるが、引用文献2には、「クリープ走行の開始前に」電動機の使用が可能であることを判定することに関して記載も示唆もないから、引用文献2記載技術は、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

(2)引用文献3記載技術
引用文献3記載技術は、車輌停止状態にある場合に、SOCを所定容量SOCLとを比較し、SOCが所定容量SOCL以下の場合、エンジン主体発進制御を行う技術であるが、引用文献3には、エンジン主体制御が、「クリープ走行」を行うことに関して記載も示唆もないから、引用文献3記載技術は、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

(3)引用文献4記載技術
引用文献4記載技術は、車両の停車中、所定のタイミングでバッテリ3のSOC量を検出し、EV発進するための十分なSOC量を有していればEV発進の準備を行う技術であるが、引用文献4には、「クリープ走行の開始前」に前記電動機の使用が可能でないと判定された場合は、エンジンのみを「常に」用いてのクリープ走行を行うことについて記載も示唆もないから、引用文献4記載技術が相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

(4)引用文献5記載技術
引用文献5記載技術は、「アクセル操作量が略零の所定値より大きいとき」に行われるものであり、「アクセルの踏み込みなしで車両に駆動力を与える、いわゆるクリープ走行」(当初明細書の段落【0002】参照。)や「アクセルペダルを放した状態でも車両を発進させたり、緩やかに走行させたりするクリープ走行」(引用文献1の段落【0002】参照。)に行う技術ではないから、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

上記(1)ないし(4)のとおり、引用発明に引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術を適用しても、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。

してみると、相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第7 原査定について
1 拒絶の理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明は相違点1に係る発明特定事項を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし4に基づいて、容易に発明をすることができたものということはできない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2012-81559(P2012-81559)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼木 真顕  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 三島木 英宏
松下 聡
発明の名称 ハイブリッド電気自動車の制御装置  
代理人 長門 侃二  

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