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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B43K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B43K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B43K
管理番号 1333180
異議申立番号 異議2016-701170  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-22 
確定日 2017-08-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5945019号発明「熱変色性筆記具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5945019号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3、5-8〕について訂正することを認める。 特許第5945019号の請求項1、2及び4ないし8に係る特許を維持する。 特許第5945019号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5945019号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成20年2月8日(優先権主張 平成19年2月26日、同年7月21日及び平成20年1月15日(以下「優先日」という。)、日本)を国際出願日とする特願2009-501165号(以下「原々出願」という。)の一部を、平成25年5月1日に新たな特許出願とした特願2013-96396号(以下「原出願」という。)の一部を、さらに平成27年2月5日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人久門享により特許異議の申立てがされ、平成29年3月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月28日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人久門享から同年6月14日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4」とあるのを、「請求項1、2又は4」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1ないし5」とあるのを、「請求項1、2、4又は5」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1ないし6」とあるのを、「請求項1、2、4、5又は6」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1ないし7」とあるのを、「請求項1、2、4、5、6又は7」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2ないし5について
上記訂正事項2ないし5は、請求項3の削除に伴って、請求項5ないし8が引用する請求項から請求項3を除外するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正事項1ないし5に係る訂正前の請求項3及び5ないし8は、請求項5ないし8がそれぞれ請求項3を引用するものであるから、一群の請求項である。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔3、5?8〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし8に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具であって、軸筒内に筆記体を前後方向に移動可能、且つ弾発体によって後方に付勢して収容し、前記軸筒の外面に操作部を設け、前記操作部を操作することにより前記筆記体のペン先を前記軸筒の前端孔から出没可能に構成し、前記軸筒又は前記操作部の外面にクリップを備え、前記筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記操作部の後端外面に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な低摩耗性の摩擦部を2色成形により一体に形成又は固着するとともに、前記摩擦部の外面に凸曲面を設け、ペン先の突出状態、ペン先の没入状態の何れの状態でも、前記摩擦部による前記筆跡の熱変色が可能であることを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
前記操作部を前記軸筒の後端部に設け、前記操作部を前方に押圧操作することによりペン先没入状態からペン先突出状態にする出没機構を備える請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記軸筒の後部に前記操作部を設け、前記操作部を前記軸筒の前部に対して回転操作することによりペン先を出没させる出没機構を備える請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項5】
前記操作部の外周面に、前記摩擦部を用いて摩擦する際に把持可能な把持部を設けた請求項1、2又は4の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項6】
前記熱変色性インキが、低温側変色点(完全発色温度t1)が-30℃?-10℃の範囲の任意の温度に設定され、高温側変色点(完全消色温度t4)が60℃?80℃の範囲の任意の温度に設定され、ヒステリシス幅ΔHが40℃?60℃の範囲を示す可逆熱変色性組成物であり、前記摩擦部の摩擦によって生じる摩擦熱で前記筆跡の熱変色を可能とした請求項1、2、4又は5の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項7】
前記筆記体のペン先がボールペンチップであり、ペン先乾燥防止機構として、ボールを前方に付勢する弾発体が、圧縮コイルスプリングの前端にロッド部を備え、前記ボールペンチップの前端縁部を内向きにかしめて、その内面に前記ボールを圧接させた請求項1、2、4、5又は6の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項8】
前記軸筒が、少なくとも前軸と該前軸の後端に着脱自在に螺着される後軸とからなり、前記軸筒内から前記筆記体を取り出して交換することが可能である請求項1、2、4、5、6又は7の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3及び5ないし8に係る特許に対して平成29年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)訂正前の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、訂正前の請求項1ないし3及び5ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)本件の特許請求の範囲は、本願の原々出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下併せて「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内ではない事項を含んでおり、特許法第44条第1項に規定する分割の要件を満たしていないから、その出願日は、本件特許に係る出願の現実の出願日である。
そして、請求項1、2及び4ないし8に係る発明は、本件特許に係る出願の現実の出願日前に頒布された本件特許の原々出願の国際公開である甲第1号証(国際公開第2008/105227号)に記載された発明である。
よって、請求項1、2及び4ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

3 判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件の請求項4で特定される熱変色性筆記具は開示されていると認められるが、それ以外の、「操作部の後端外面に・・・摩擦部を・・・形成又は固着」した熱変色性筆記具(例えば、いわゆる「後端ノック式」の操作部(ノック部)の後端外面に摩擦部を形成した熱変色性筆記具、など)については記載も示唆もされていない。本件の請求項1ないし3及び5ないし8は、そのような熱変色性筆記具を含むものである。よって、本件の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」と主張している。

イ.本件特許明細書の記載について
本件特許明細書には、「前記従来の熱変色性筆記具は、キャップ式であるため、キャップの着脱動作を両手で行なう必要があり、片手しか使用できない場合、迅速に筆記可能状態または保管状態にすることが困難である。また、前記従来の熱変色性筆記具は、摩擦体を軸胴の後端に設ける構成の場合、筆記後、筆跡を摩擦変色する際に、軸胴の把持箇所をペン先側から後端側に反転させ、軸胴を大きく持ち替える必要あり、迅速に摩擦変色作業に移行できない。」(段落【0004】)、及び、「本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、熱変色性筆跡を容易に摩擦変色することができるとともに、片手しか使用できない場合でも、迅速に筆記可能状態(ペン先突出状態)または保管状態(ペン先没入状態)にすることができる、熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具を提供しようとするものである。」(段落【0005】)と記載されているから、本件発明が解決しようとする課題は、「熱変色性筆跡を容易に摩擦変色することができるとともに、片手しか使用できない場合でも、迅速に筆記可能状態(ペン先突出状態)または保管状態(ペン先没入状態)にすることができる、熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具を提供」することであるといえる。

また、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0007】
前記第1の発明の熱変色性筆記具1は、操作部5の操作によって筆記体8のペン先81を軸筒2の前端孔31から出没可能に構成したことにより、片手で迅速に筆記可能状態(ペン先突出状態)または保管状態(ペン先没入状態)にすることができる。さらに、前記第1の発明は、軸筒2の外面に摩擦部4を設けたことにより、軸筒2を片手に把持した状態のまま、熱変色性インキ83による筆跡を容易に摩擦変色させることができる。尚、前記第1の発明において、前記摩擦部4は、軸筒2の外面(即ち熱変色性筆記具1の外面)の少なくとも一部に設けられればよく、前記摩擦部4の設ける箇所は、例えば、軸筒2の前端部外面、軸筒2の後端部外面、軸筒2の側壁外面、軸筒2の外面より突出するクリップの外面、またはペン先81を出没作動させるために軸筒2の外面より突出する操作部5の外面等が挙げられる。尚、本発明は、少なくとも1本の筆記体8が軸筒2内に前後方向に移動可能に収容される構成であればよく、例えば、1本の筆記体8が軸筒2内に前後方向に移動可能に収容される構成、または複数本の筆記体8が軸筒2内に前後方向に移動可能に収容される構成が挙げられる。」

ウ.判断
そうすると、本件特許明細書に記載されたものは、上記課題を解決する手段として、操作部の操作によって筆記体のペン先を軸筒の前端孔から出没可能に構成したことを採用して、片手で迅速に筆記可能状態(ペン先突出状態)または保管状態(ペン先没入状態)にすることができるようにしたとともに、ペン先を出没作動させるために軸筒の外面より突出する操作部の外面に摩擦部を設けたことを採用して、軸筒を片手に把持した状態のまま、熱変色性インキによる筆跡を容易に摩擦変色させることができるようにしたものである。

一方、本件発明1は、上記課題を解決する手段として、「前記操作部を操作することにより前記筆記体のペン先を前記軸筒の前端孔から出没可能に構成し」、かつ、「軸筒の外面に操作部を設け、……前記操作部の後端外面に、……摩擦部を……形成又は固着する」との技術事項を備えるものである。

してみると、本件発明1の上記課題を解決する手段と本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された上記課題を解決する手段とは実質的に対応しているといえる。

また、本件発明2及び5ないし8は、請求項1を引用して記載されたものであるから、本件発明1の上記課題を解決する手段を備えるものである。

なお、以上の通り、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段は、本件発明1の「操作部の後端外面に……摩擦部を……形成又は固着」することに実質的に対応するから、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

したがって、本件の請求項1、2及び5ないし8の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明1、2及び5ないし8の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

また、本件請求項3に係る特許は訂正により削除されたため、対象となる請求項が存在しない。

(2)特許法第36条第4項第1号について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「本件の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件の請求項4で特定される熱変色性筆記具以外の熱変色性筆記具(例えば、いわゆる「後端ノック式」の操作部(ノック部)の後端外面に摩擦部を形成した熱変色性筆記具)を含むものであるが、そのような熱変色性筆記具については、「ペン先の突出状態、ペン先の没入状態の何れの状態でも、前記摩擦部による前記筆跡の熱変色が可能である」ことを実現する手段が本件特許明細書に記載されておらず、技術常識を考慮しても当業者に不明である。よって、本件の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」と主張している。

イ.本件特許明細書の記載について
本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【0116】
<第6の実施の形態>
本発明の熱変色性筆記具の第6の実施の形態を図12に示す。
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、第2の実施の形態の変形例であり、操作部5の後端外面に軟質材料(例えば、SBS樹脂、SEBS樹脂等の低摩耗性の弾性材料)よりなる摩擦部4を設けた点が、前記第2の実施の形態と異なる。
【0117】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、前記操作部5の外周面に、前記摩擦部4を用いて摩擦する際に把持可能な把持部51が設けられる。それにより、摩擦変色時、安定した把持が可能となる。前記把持部51は、軸方向の長さが10mm以上(好ましくは15mm以上)に設定される。また、本実施の形態の熱変色性筆記具1は、操作部5の後端外面に軟質材料よりなる摩擦部4を設けることにより、操作部5を前方に押圧操作する際の指との滑り止めがなされる。
【0118】
本実施の形態の熱変色性筆記具1を用いて筆記した後、前記熱変色性筆記具1の操作部5の把持部51を把持し、摩擦部4で、被筆記面に形成された前記熱変色性インキ83による筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記筆跡を熱変色させることができる。それにより、本実施の形態の熱変色性筆記具1は、前記摩擦変色する際、ペン先81を軸筒2内に没入させることが不要となり、ペン先突出状態、ペン先没入状態の何れの状態でも摩擦変色可能である。
【0119】
尚、前記第6の実施の形態において、他の構成及び作用効果については、第1及び第2の実施の形態と共通であるため説明を省略する。」

また、上記段落【0119】の記載によれば、第6の実施の形態の他の構成は第1及び第2の実施の形態と共通するものであるところ、本件特許明細書には、第1及び第2の実施の形態に関して段落【0071】ないし【0090】に具体的に記載されている。

ウ.判断
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に係る「熱変色性筆記具」の構造が具体的に記載されており、段落【0118】には、そのような構造を備える「熱変色性筆記具」について、「本実施の形態の熱変色性筆記具1を用いて筆記した後、……摩擦部4で、……筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記筆跡を熱変色させることができる。それにより、本実施の形態の熱変色性筆記具1は、……ペン先突出状態、ペン先没入状態の何れの状態でも摩擦変色可能である。」ことが記載されている。

また、本件発明2及び5ないし8についても同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2及び5ないし8に係る「熱変色性筆記具」の構造が具体的に記載されている。

なお、本件発明1、2及び5ないし8は、それぞれ請求項1、2及び5ないし8に記載された事項によって特定されるものであって、それらの事項以外に、特許異議申立人が主張するような「本件の請求項4で特定される熱変色性筆記具以外の熱変色性筆記具(例えば、いわゆる「後端ノック式」の操作部(ノック部)の後端外面に摩擦部を形成した熱変色性筆記具)に係る事項を発明特定事項とするものではないから、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、2及び5ないし8について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものである。

また、本件請求項3に係る特許は訂正により削除されたため、対象となる請求項が存在しない。

(3)第29条第1項第3号について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、本件の請求項4で特定される熱変色性筆記具は開示されていると認められるが、それ以外の、「操作部の後端外面に・・・摩擦部を・・・形成又は固着」した熱変色性筆記具(例えば、上記イ(ア)○1(○1は、1を○で囲んだ丸数字を示す。以下同様。)?○3のような形態)については記載も示唆もされていない、本件の請求項1ないし3及び5ないし8は、そのような熱変色性筆記具を含むものである。以上のように、本件の特許請求の範囲は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内ではないものを含むから、分割は不適法である。よって、本件の出願日は、原出願の出願日に遡及せず、現実の出願日である「平成27年2月5日」である。」(特許異議申立書第17ページ第3?13行)と主張し、その結果、請求項1、2及び4ないし8に係る発明は、本件特許に係る出願の現実の出願日前に頒布された本件特許の原々出願の国際公開である甲第1号証(国際公開第2008/105227号)に記載された発明であると主張している。

イ.判断
上記(1)に示した通り、本件発明1、2及び5ないし8は発明の詳細な説明に記載されたものである。また、本件請求項3に係る特許は訂正により削除されている。
そして、本件特許明細書と、本件特許に係る出願の原出願の当初明細書及び本件特許に係る出願の原々出願の当初明細書とは、実質的に差異はない。
そうすると、訂正後の本件特許の特許請求の範囲は、本件特許に係る出願の原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また同様に、本件特許に係る出願の原々出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第44条第1項の規定を満たすものであると認められる。
してみると、甲第1号証は、本件特許出願の原々出願の優先日前に頒布された刊行物であるとは認められないから、請求項1、2及び4ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明ではない。

第4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、2及び4ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2及び4ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具であって、軸筒内に筆記体を前後方向に移動可能、且つ弾発体によって後方に付勢して収容し、前記軸筒の外面に操作部を設け、前記操作部を操作することにより前記筆記体のペン先を前記軸筒の前端孔から出没可能に構成し、前記軸筒又は前記操作部の外面にクリップを備え、前記筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記操作部の後端外面に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な低摩耗性の摩擦部を2色成形により一体に形成又は固着するとともに、前記摩擦部の外面に凸曲面を設け、ペン先の突出状態、ペン先の没入状態の何れの状態でも、前記摩擦部による前記筆跡の熱変色が可能であることを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
前記操作部を前記軸筒の後端部に設け、前記操作部を前方に押圧操作することによりペン先没入状態からペン先突出状態にする出没機構を備える請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記軸筒の後部に前記操作部を設け、前記操作部を前記軸筒の前部に対して回転操作することによりペン先を出没させる出没機構を備える請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項5】
前記操作部の外周面に、前記摩擦部を用いて摩擦する際に把持可能な把持部を設けた請求項1、2又は4の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項6】
前記熱変色性インキが、低温側変色点(完全発色温度t_(1))が-30℃?-10℃の範囲の任意の温度に設定され、高温側変色点(完全消色温度t_(4))が60℃?80℃の範囲の任意の温度に設定され、ヒステリシス幅ΔHが40℃?60℃の範囲を示す可逆熱変色性組成物であり、前記摩擦部の摩擦によって生じる摩擦熱で前記筆跡の熱変色を可能とした請求項1、2、4又は5の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項7】
前記筆記体のペン先がボールペンチップであり、ペン先乾燥防止機構として、ボールを前方に付勢する弾発体が、圧縮コイルスプリングの前端にロッド部を備え、前記ボールペンチップの前端縁部を内向きにかしめて、その内面に前記ボールを圧接させた請求項1、2、4、5又は6の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項8】
前記軸筒が、少なくとも前軸と該前軸の後端に着脱自在に螺着される後軸とからなり、前記軸筒内から前記筆記体を取り出して交換することが可能である請求項1、2、4、5、6又は7の何れか1項に記載の熱変色性筆記具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-08 
出願番号 特願2015-21166(P2015-21166)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B43K)
P 1 651・ 537- YAA (B43K)
P 1 651・ 113- YAA (B43K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青山 玲理  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 畑井 順一
森次 顕
登録日 2016-06-03 
登録番号 特許第5945019号(P5945019)
権利者 パイロットインキ株式会社 株式会社パイロットコーポレーション
発明の名称 熱変色性筆記具  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人津国  
代理人 特許業務法人 津国  

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