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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81B
管理番号 1333643
審判番号 不服2015-21842  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-09 
確定日 2017-10-11 
事件の表示 特願2013-257638「マイクロエレクトロニクス、マイクロオプトエレクトロニクスまたはマイクロメカニクスのデバイスのための支持体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日出願公開、特開2014-58040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2002年7月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月20日 イタリア、2002年4月3日 イタリア)を国際出願日とする特願2003-514572号の一部を平成19年11月14日に新たな出願(特願2007-295918号)とし、これを更に平成23年10月19日に新たな出願(特願2011-229923号)としたものの一部を更に引き続き平成25年12月13日に新たな出願としたものであって、
平成25年12月26日付けで審査請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、
平成27年1月27日付けで拒絶理由通知(同年2月3日発送)がなされ、
これに対して平成27年5月1日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成27年8月14日付けで上記平成27年1月27日付けの拒絶理由通知書に記載した理由(第29条第2項)によって拒絶査定(平成27年8月18日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成27年12月9日付けで審判請求がなされ、
平成28年8月31日付けで合議体により拒絶理由通知(同年9月6日発送)がなされ、
これに対して平成28年12月5日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成29年1月16日付けで合議体により最後の拒絶理由通知(同年同月17日発送)がなされ、
これに対して平成29年4月14日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成29年4月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成29年4月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成28年12月5日付けの手続補正により補正された、以下に示す特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2の記載

「 【請求項1】
基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造(91)を収容する空間を画定するマイクロマシーン(90)において、前記被覆要素の前記空洞が、前記被覆要素の近くに存在する雰囲気に少なくとも部分的に露出された気体吸収材料の堆積物(63)をも収容し、かつ前記被覆要素が前記マイクロマシーンの最終封止のための半田を実施できる材料で作られたものであり、前記被覆要素はシリコンで作られており、前記気体吸収材料は、金属Zr、Ti、Nb、Ta、V、これらの金属の間の合金、並びに、これらの金属とCr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Y、La及び希土類の中から選ばれる1種以上の元素との間の合金からなる群から選択される材料であることを特徴とする、マイクロマシーン。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロマシーン(90)であって、前記基板(92)と前記被覆要素(61)が、気体吸収材料の堆積物(63)と可動構造(91)との両者を収容するただ一つの空洞(65)の空間を規定する、マイクロマシーン。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造(91)を収容する空間を画定するマイクロマシーン(90)において、前記被覆要素の前記空洞が、前記被覆要素の近くに存在する雰囲気に少なくとも部分的に露出された気体吸収材料の堆積物(63)をも収容し、かつ前記被覆要素が前記マイクロマシーンの最終封止のための半田を実施できる材料で作られたものであり、前記基板と前記被覆要素は直接の半田付けによって相互に固定されており、前記被覆要素はシリコンで作られており、前記気体吸収材料は、金属Zr、Ti、Nb、Ta、V、これらの金属の間の合金、並びに、これらの金属とCr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Y、La及び希土類の中から選ばれる1種以上の元素との間の合金からなる群から選択される材料であることを特徴とする、マイクロマシーン。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロマシーン(90)であって、前記基板(92)と前記被覆要素(61)が、気体吸収材料の堆積物(63)と可動構造(91)との両者を収容するただ一つの空洞(65)の空間を規定する、マイクロマシーン。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。(下線は、請求人が附加したものである。)

2.補正の適否

本件補正は、補正前の請求項1に記載された「前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて」に対する更なる特定事項として、「前記基板と前記被覆要素は直接の半田付けによって相互に固定されており」を追加すること、を内容とするものである。

本件補正は、本件補正と同日で提出された意見書によると、追加事項の根拠として当初明細書の【0017】に記載された
「基板11の表面の領域12、12’、…には、気体吸収物質の別個の堆積物13、13’、…が得られる。次にこれらの堆積物は、ICもしくはMMの製造プロセスと適合性の物質の層14で覆われる。この層14は、IC、マイクロオプトエレクトロニクスデバイスもしくはMMを構成するために次にその上に置かれる層のためのアンカーの責務を果たすか、またはそれ自体これらのデバイスが構成される層であることすらできる(例えば、マイクロマシーンの可動部を、その一部を除去することによって、この層に得ることができる)。その上、最終的なデバイスのはんだ付けを、あるいは層14の端に直接行なうことができる。」
が挙げられているが、この記載箇所で開示する内容は、図1に図示した態様、すなわち、基板上に被覆要素が堆積される構造を前提として説明したもの(当該記載箇所の直前の【0016】を参照)とされるため、本件補正に係る請求項1の特定事項とされた、「基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造(91)を収容する空間を画定するマイクロマシーン(90)において」とする構造と前提を異にするものである。
更に、根拠として示された箇所は、「最終的なデバイスのはんだ付け」が、「層14の端」に形成され得ることを示しており、同一段落内で「デバイス」という語が指す具体的な対象は、「これらのデバイス」が、「IC、マイクロオプトエレクトロニクスデバイスもしくはMM」を意味するところから判断すると、デバイスとは扱われていない「基板」と「被覆要素」との間の「固定」を説明した内容ではない。
また、他に「基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造(91)を収容する空間を画定するマイクロマシーン(90)において」を前提として、「基板」と「被覆要素」との固定に対して、補正事項のとおりの内容を示した箇所は見当たらない。
そうすると、当該補正は本件の当初明細書に記載されていない事項であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定を満足する補正とは認められない。

3.補正却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1. 本願発明の認定
平成29年4月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件で審理の対象とする発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「 基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造(91)を収容する空間を画定するマイクロマシーン(90)において、前記被覆要素の前記空洞が、前記被覆要素の近くに存在する雰囲気に少なくとも部分的に露出された気体吸収材料の堆積物(63)をも収容し、かつ前記被覆要素が前記マイクロマシーンの最終封止のための半田を実施できる材料で作られたものであり、前記被覆要素はシリコンで作られており、前記気体吸収材料は、金属Zr、Ti、Nb、Ta、V、これらの金属の間の合金、並びに、これらの金属とCr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Y、La及び希土類の中から選ばれる1種以上の元素との間の合金からなる群から選択される材料であることを特徴とする、マイクロマシーン。」

2. 先行技術・引用発明の認定
当審で平成29年1月16日付けで通知した最後の拒絶理由に引用した、本件優先日前に公知とされた文献である、特開平10-38677号公報(以下、「引用文献1」という。)及び特表平9-506712号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)引用文献1の記載事項ないし看取事項、引用発明
記載事項ア.
「【0077】内部陰つきパッケージの好適実施例
図56?図58は、赤外線透過パッケージ蓋2410の内部の赤外線阻止膜(陰)つきの赤外線検出器2401?2404の真空パッケージ2x2配列2400の好適実施例の平面および縦断面図を示す。蓋2410上の狭帯域光学フィルター2411?2414が対応する検出器2401?2404および陰2406内の開口上に位置する。図57,図58に示すように、陰2406は、対応する重複フィルターの通過を除き、全ての入射赤外線放射を検出器から阻止する。開口の目的は、その下部の検出器への(垂直)軸光を制限し、そしてパッケージ内で内部反射する光が別の検出器に当たることを防止する。内部陰(外部陰に対する)は検出器により近く、したがって目的の検出器への光に制限する。実際、陰2406の開口は本質的に、図57,図58の光線のトレースで示される検出器の(小さい)活性範囲と光学フィルターの(大きい)範囲間の大きさの相違を内挿する。図57は、検出器2401が図56の水平方向に直角な方向から26°および 41°の開口角を有するコーンに入射する放射を受けることを示しており、そして図58は、垂直方向に50°の開口角を示している。この角度は適用例に依存して変化する。また、図57の光線2450は検出器2401とフィルター2412間の通路を阻止する陰2406を示し、そして図58の光線2451はフィルター2411と検出器2403間の通路を阻止する陰2406を示す。
【0078】各検出器2401?2404は、単一のボロメータまたはボロメータ配列と回路を備えそして約1. 5mm角のシリコン集積回路であり、陰2406の対応開口は約2mmx2. 5mmである。隣接する検出器はおおよそ5mmまたは10mm離れている。蓋2410は約9mmx17mmであり、セラミックパッケージベース2430は約10mmx25mmx3mm厚である。セラミックパッケージベース2430は、ニッケル上に金のシールバンド(蓋取り付け用)を備えた焼結アルミニウム酸化物から成る。検出器2401?2404はセラミックパッケージベース2430にハンダ付けされた金:錫(80%:20%)である。検出器およびパッケージリードフレームおよびリード間の結合ワイヤは全般的に示されておらず、分離前のリードの外部部分のみが図58に示される。蓋2410は赤外線透過性であり、ゲルマニウムの(または他の)反射防止被覆を備えた0. 5mm厚のシリコン(またはゲルマニウム)から形成される。陰2406は金/ニッケル/クロムの0.5(lm)厚の積層である。検出器2401?2404は蓋2410から約0. 25mm離れている。フィルター2411?2414は約4mmx7mmx0. 25mm厚の多層干渉フィルターであり、それらの周囲に沿ってエポキシ接着剤で蓋2410に取り付けられる。
【0079】真空パッケージの好適実施例
検出器2401?2404は熱的絶縁を備えたボロメータを採用しており、検出器2401?2404に対する充分なガス圧力が熱的導電通路を提供することによってそれらの感度を制限する。実際、蓋2410とセラミックパッケージベース2430間の空隙内のガス圧力は200mTorr以下に、好ましくは50-100mTorrに維持されるべきである。金:錫共晶が蓋2410をセラミックパッケージベース2430に取り付け、そして検出器2401?2404をパッケージベースに取り付ける。取り付けのためにエポキシに代えて金:錫を使用することで、有機エポキシからの排出ガスが空隙中に入ることを避けている。金/ニッケル/クロムの陰2406は、ガストラップを避ける金の付着により形成される。チタン/パラジウム/金の金属系も使用できる。クロムはシリコン蓋2410への接着を提供し、そしてニッケルはクロムと金間の拡散障壁を提供する。陰2406は、検出器上の開口を画定するパターン化されたホトレジスト上に付着させた金/ニッケル/クロムを上昇させることによって形成できる。金/ニッケル/クロムは蓋周辺まで延在し、そして金:錫が蓋上の金/ニッケル/クロムをパッケージベース内のニッケルシールバンド上の金に接続することに注意されたい。金:錫は始めは約50?75(lm)の厚みを有するが、シールの間に圧縮される。シール方法の好適実施例についての以下の説明を参照。」

記載事項イ.
「【0080】低温ゲッターが空隙中に挿入され、活性化されてもよい。パッケージフロアに取り付けられたワイヤ結合2472によって維持されたゲッター2470を示す図59および図60を参照。ゲッターはまた適所にスポット溶接またはハンダ付けされてもよい。ゲッター2470はジルコニウム-バナジウム-鉄または同様のガス吸着材料から成る。」

記載事項ウ.
「【0082】パッケージ2400は別の材料から作られてもよく、その真空性能を維持する。特に、蓋は低い多孔質の焼結セラミックまたは非金属(多)結晶材料、またはガス抜きガラスまたはVAR金属であってもよく、そしてこれら全ての材料のガス排出がかなり制限されているので、パッケージベースはこれらの同一材料のいずれかで作られてよい。別の方法は便利な材料を用い、そして空洞面にガス拡散障壁(例えば、シリコン窒化物)を適用することである。実際、パッケージベースは、シールバンドとして、そして空洞の底部においては蓋および検出器それぞれの金:錫ハンダに接続するために、好ましくはニッケル上に金被覆を有している。シール用の金:錫は、他の低ガス排出ハンダまたは低温度シール用インジウムによって置き換えられる。
【0083】別のパッケージおよび組み立て方法は、蓋取り付け後に空洞が排気されるように、真空にしないで蓋2410をセラミックパッケージベース2430にハンダ付けし、セラミックパッケージベース2430にポートを提供することである。排気の後、低温度インジウムハンダシール(熔融または冷間プレスのいずれか)がポートをふさぐ。または、空洞へのポートが、熔融による排気の後に容易にシールされるガラス管であってもよい。
【0084】真空パッケージの別の形は、マイクロメカニカル共振器のような種々のマイクロマシーンまたは他の構造用に使用でき、そして蓋は透明である必要がない。金:錫シールと蓋上の蒸発またはイオンメッキ外側金層の使用により、他の蓋では見られるガス排出を除外し、真空を維持する。」

図面看取事項
記載事項ア.が参照する図56?図58、及び、記載事項イ.が参照する図59?図60には、「蓋2410とセラミックパッケージベース2430間の空隙」が、パッケージベース2430側の断面凹部により形成されている様が見てとれるとともに、当該空隙内には、検出器2401と検出器2403の間、検出器2402と検出器2404の間に各々挟まれて配置されたゲッター2470が見てとれる。

以上を総合すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
蓋2410とパッケージベース2430とがハンダ付けされ真空を保つ検出器またはマイクロマシーンパッケージ2400であって、内部にパッケージベース2430側の断面凹部により形成された収容空間が存在する構造体とされ、
前記収容空間には、ガス吸着材料からなるジルコニウム-バナジウム-鉄を代表とするゲッター2470が検出器またはマイクロマシーンの近傍に収容される
検出器またはマイクロマシーンパッケージ2400。

(2)引用文献2の記載事項
ア.
「 発明の概要
赤外線デバイスの形成方法及びそれによって形成される赤外線デバイスを開示する。赤外線デバイス(検出器でも放射素子でもよく、また単独型でもアレイ型でもよい)を有するウエハアセンブリが赤外線デバイスを安価にパッケージする方法を提供する。そのウエハは、これから半田ビードにより離された赤外線透過性材料のトップキャップによって覆われて真空に保たれ、いくつかの例ではウエハはトップキャップウエハよりさらに大きく離間して設けられる。
いずれの場合も、上記の結果として、トップキャップと赤外線デバイスとの間に熱伝導が非常に小さい空間が形成され、その空間は排気されるか、あるいは熱伝導が非常に小さい流体を満たされる。その空間は、一部または全部の半田ビード、トップキャップ中の凹部またはトップキャップの下面に別途付加した材料からなるスペーサ層によって形成することができる。
この実施形態においては、次にウエハアセンブリをダイシングして、各々個別に真空保全性を有する最終チップコンポーネントが形成される。各真空キャビティには、チップコンポーネントの真空寿命を延ばすために一体化されたゲッタを設けることが望ましい。」(第5ページ下から11行?第6ページ5行)

イ.
「もっとも安価にするためには、トップキャップ12は単結晶シリコンで形成し、赤外線検出または放射領域の吸収を低くすることが望ましい。」(第9ページ20行?21行)

3. 対比・判断
引用発明と本願発明とを対比する。

引用発明の「蓋2410とパッケージベース2430とがハンダ付けされ真空を保つ検出器パッケージ2400であって、内部に収容空間が存在する構造体」は、本願発明の「基板(92)と、空洞(65)を有する被覆要素(61)を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間に」「収容する空間を画定する」とした構造でありかつ「前記被覆要素が」「前記マイクロマシーンの最終封止のための半田を実施できる材料で作られた」に相当し、
また、引用発明の「ガス吸着材料からなるジルコニウム-バナジウム-鉄を代表とするゲッター2470」は、本願発明の「金属Zr、Ti、Nb、Ta、V、これらの金属の間の合金、並びに、これらの金属とCr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Y、La及び希土類の中から選ばれる1種以上の元素との間の合金からなる群から選択される材料である」とした「気体吸収材料の堆積物」に相当する。
更に、引用発明の「ゲッター2470」が、ガス吸着を果たす上で収容空間内に露出されていることは自明であるため、本願発明の「前記被覆要素の近くに存在する雰囲気に少なくとも部分的に露出された」を満足する。

よって、両者は以下の一致点で一致し、かつ以下の相違点で相違する。
[一致点]
基板と、空洞を有する被覆要素を有し、前記基板と前記被覆要素は相互に固定されて前記空洞がその間にマイクロマシーンの可動構造を収容する空間を画定するマイクロマシーンであって、
前記被覆要素の前記空洞が、前記被覆要素の近くに存在する雰囲気に少なくとも部分的に露出された気体吸収材料の堆積物をも収容し、
かつ前記被覆要素が前記マイクロマシーンの最終封止のための半田を実施できる材料で作られたものであり、
前記気体吸収材料は、金属Zr、Ti、Nb、Ta、V、これらの金属の間の合金、並びに、これらの金属とCr、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Y、La及び希土類の中から選ばれる1種以上の元素との間の合金からなる群から選択される材料であることを特徴とする、マイクロマシーン。

[相違点]
被覆要素の素材に関し、本願発明では「シリコンで作られており」としているのに対して、引用発明のゲッター2470が配されるパッケージベース2430はセラミックとされている点

そこで、上記相違点について検討する。
被覆要素の素材に関して、引用文献1の【0082】に「パッケージ2400は別の材料から作られてもよく」との示唆があり、また、パッケージで封止されるデバイスが可動式であるか否かに拘わらず、半導体製造技術を応用して作られるマイクロマシーンの基板及び封止筐体に、シリコンを用いる事項も、例えば引用文献2の上記記載事項イに示すように、トップキャップの材料をシリコンとするマイクロパッケージとして本件優先日前に当業者に知られた状況である。
そうすると、当該相違点は、引用文献1の示唆及び公知技術から容易に想致できたということができる。

したがって、本願発明は、引用発明及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張について
請求人は、上記第2の[理由]の「2.補正の適否」にて検討した補正事項と関連して、平成29年4月14日付け提出の意見書の「3.拒絶理由に対する意見」として、以下の点を主張している。

「しかしながら、上記「2.補正について」でご説明しましたとおり、補正後の請求項1に係る発明においては基板と被覆要素との相互の固定が直接の半田付けによってなされており、この点は、引用文献1、2のいずれにも記載がありません。したがって、この点においても本願発明と引用文献1に記載された発明とは明確に相違するものです。
すなわち引用文献1には、蓋2410とパッケージベース2430との間に存在する半田層2480が必要であることが明示されています(例えば同文献の段落0085-0088、及び図57、図61に記載される構成要素である「金:錫2480(Au:Sn2480)」等をご参照下さい。)。
このように、引用文献1によっては、基板と被覆要素を直接結合させることについての教示や示唆は見出せません。」

上記主張点は上記第2にて新規事項と結論されたものの、請求人が言う「直接の半田付け」による「固定」とはどのような内容を意味するのかについて、念のため追加的に検討する。
そもそも、請求人が上記第2で検討した補正事項の根拠は、明細書の【0017】とされているが、当該段落が示す内容は、「層14の端」に「最終的なデバイス」をはんだ付けすること、すなわち、基板や被覆要素を対象としたものでない内容を示している。
これに対応して明細書の【0028】には、図3を参照しつつ、層14上への要素/構造物30の製造、外部電気連絡のための接触の製造、支持体10および被覆要素40の互いの固定、固定後の切断による個々のマイクロマシーンの獲得、とした一連の製造工程の説明が記載されている。
【0017】の記載内容、及び、【0028】の記載内容の両者を見比べると、【0017】に記載された「最終的なデバイス」とは、【0028】の一連の製造工程の層14上への要素/構造物30の製造、外部電気連絡のための接触の製造、の最終段階でなされる、あるデバイスのはんだ付けと見るのが妥当であるから、当該段落【0028】に括弧書きで書かれた「外部電気連絡のための接触」(一般的には、接続端子、またはコンタクトと呼ばれるもの)をはんだ付けすることを指すと考えるのが相当である。
一方で、支持体10および被覆要素40の互いの固定に関しては、何で固定をなすとするかの直接の言及は見当たらないが、【0028】には「最後に、支持体10および被覆要素40からなる全体を、その接着領域に沿って切断することによって、図5に示されているような1個のマイクロマシーンが得られる。」と記載されていることから見ると、何を用いて固定を行っているかは不明なものの、その固定の状況は“接着(原文では、adhesion)”によりなされることを示したものと考えられる。
そうすると、一般的に接着は、粘着物によってなされるのであり、金属共晶物の半田は該当しないと思われる。
仮に、半田をも広義の接着に該当するとした立場を採ったとした場合を考えて見ても、引用発明の蓋2410とパッケージベース2430の固定は、はんだ付けでなされていることが明らかであるから、結局のところ請求人が主張する点は相違しないことになるのが明らかである。
以上総合すると、本件明細書で開示された支持体と被覆要素との固定は、接着により行われると解するのが相当であり、接着にははんだ付けが含まれると仮に解釈した場合であっても、引用発明の蓋2410とパッケージベース2430の固定との間に、なんら相違は発生しないこととなるから、係る主張をどのように解釈したとしても、本件の出願に係る請求項1の発明は特許性を有するとすべき余地がない。


第4. むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び公知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-10 
結審通知日 2017-05-16 
審決日 2017-05-29 
出願番号 特願2013-257638(P2013-257638)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B81B)
P 1 8・ 561- WZ (B81B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 長清 吉範
西村 泰英
発明の名称 マイクロエレクトロニクス、マイクロオプトエレクトロニクスまたはマイクロメカニクスのデバイスのための支持体  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 蛯谷 厚志  

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