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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01B
管理番号 1333881
審判番号 不服2017-3755  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-14 
確定日 2017-11-17 
事件の表示 特願2016-197213「形状測定装置及び形状測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日出願公開、特開2017- 40661、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する特許出願(以下、「本願」という。)は、平成27年3月31日にされた特許出願(特願2015-72601)の一部を平成28年5月19日に新たな特許出願(特願2016-100699)とし、さらにその一部を平成28年10月5日に新たな特許出願としたものである。
本願は、平成28年10月21日付けで拒絶理由が通知され、平成28年11月24日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされ、平成28年12月9日付けで拒絶査定がされ、同年12月14日に査定の謄本が送達された。
これに対して、平成29年3月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。

第2 原査定の概要
本願の請求項1ないし請求項5に係る発明は、いずれも、下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014-137339号公報
引用文献2:特開2012-108143号公報

第3 本件補正について
本件補正は、以下に述べるとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たすものである。

1.本件補正の目的について
本件補正は、請求項1に記載された「前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している」という事項に「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、」という事項を追加して、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している」という事項に限定するものである。
また、本件補正は、請求項5に記載された「前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している」という事項に「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、」という事項を追加して、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している」という事項に限定するものである。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。

2.新規事項の追加について
本件補正によって請求項1及び請求項5の記載に追加された「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、」という事項は、本願の願書に最初に添付した明細書の「これによれば、図14(A)、図14(B)に示されているように、測定データの取得中に外乱(ワークWの揺れなど)が発生した場合に、ワークWの中心軸周りに180度異なる2方向に対応する真円度測定の測定データと表面粗さ測定の測定データとに変位方向が反対(径方向の外向きと内向き)となる外乱信号V1、V2が現れる。」という記載(段落0119)及び「したがって、図14(C)のように真円度測定の測定データと表面粗さ測定の測定データとを比較した場合に、真円度測定の測定データと表面粗さ測定の測定データとの180度の位相差を有する位置に変位方向が反対の同形態の信号が発生したときには、それらは外乱による外乱信号V1、V2と判断することができる。」という記載(段落0120)並びに本願の願書に最初に添付した図面の図14(A)ないし(C)の記載に基づくものである。
したがって、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」といい、これらを総称して「本願各発明」という。)は、後記のとおり、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、本件補正は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願各発明
本願発明1ないし本願発明5は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
円柱状又は円筒状の測定対象物を測定する形状測定装置において、
前記測定対象物を相対的に回転する回転移動部と、
前記回転する前記測定対象物の真円度測定を行う第1測定部と、
前記回転する前記測定対象物の表面粗さ測定を行う第2測定部と、
を備え、
外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している形状測定装置。
【請求項2】
前記測定対象物の回転角度を検出する回転角度検出手段を備える請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記回転角度検出手段の検出結果に基づき、前記第1測定部による測定結果の取得と、前記第2測定部による測定結果の取得とを並行して行う請求項2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記第1測定部と前記第2測定部は、前記中心軸を中心として180°対向する位置に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載の形状測定装置。
【請求項5】
円柱状又は円筒状の測定対象物を測定する形状測定方法において、
前記測定対象物を相対的に回転する回転移動ステップと、
前記回転する前記測定対象物の真円度測定を第1測定部により行う第1測定ステップと、
前記回転する前記測定対象物の表面粗さ測定を第2測定部により行う第2測定ステップと、
前記測定対象物の回転角度を検出する回転角度検出ステップと、
を有し、
外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している形状測定方法。」

なお、本願発明2ないし本願発明4は、いずれも本願発明1の構成を全て含むものであり、本願発明5は、本願発明1に係る形状測定装置の動作を方法の発明として表現したものである。

第5 引用文献1に記載された発明
1.引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当審が追加したものである。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、形状検出装置及び形状検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸受の転動体であるころ(円筒ころ、円すいころ、球面ころ等)は、軸受回転時の振動抑制や回転精度等を確保するために、外周面の形状が検査・管理されている。ころの外周面の形状測定としては、回転しているころの外周面上に触針を当てる接触式測定がよく知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-225816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ころの外周面の形状測定は、通常、真円度、ウェービネス(うねり)、表面粗さを測定項目としており、それぞれの測定項目においては、ころの外周面形状波形の周波数帯域が異なる。そして、測定対象とする周波数帯域が異なれば、測定に用いる触針の材質、先端形状、及び測定時のころ回転速度等も異なる。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の周面測定装置を適用した場合、ころの外周面の真円度、ウェービネス、表面粗さを測定するためには、それぞれの測定項目毎に触針を変更したり、或いは複数の周面測定装置で測定したり、複数回の測定を行う必要があるため、ころの周面精度を管理する上で測定時の作業性に問題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、測定対象物の円周面の形状測定について、その作業性を向上することが可能な形状測定装置及び形状検出方法を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明の形状検出装置によれば、測定対象物及び検出手段は、円周面の中心軸の周りで互いに相対回転可能とされており、検出手段は、測定対象物の円周面のうち、中心軸に沿う方向における同一位置の形状を検出する複数の検出器を有し、複数の検出器は、周波数帯域が互いに異なる複数の測定項目を測定する。したがって、測定対象物の円周面のうち、中心軸に沿う方向(軸方向)における同一位置形状について、周波数帯域が互いに異なる測定項目(例えば、真円度、ウェービネス、表面粗さ等)を単一の形状検出装置で検出することができ、作業性を向上することが可能である。」

「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る形状検出装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の形状検出装置1は、測定対象物である軸受の球面ころ3を支持する支持手段としての治具10と、治具10を回転駆動する回転装置16と、球面ころ3の外周面3a(円周面)の形状を検出する検出手段20と、を備える。
【0012】
治具10は、球面ころ3の下面と略同一の面積を有する底面12と、底面12の外周縁から上方に向かって延びる凸部14と、を備える有底筒状とされており、その内部には、上方から球面ころ3が挿入されて固定されている。凸部14は、球面ころ3の形状に対応して、上方に向かうにしたがって径方向外側に延在するように形成されており、その高さが球面ころ3の高さの半分よりも小さくなるように設定されている。
【0013】
また、治具10は、底面12の下部が回転装置16に固定されており、この回転装置16を駆動することにより、球面ころ3の外周面3aの中心軸Gの回りで、回転装置16、治具10、及び球面ころ3が一体回転可能とされている。
【0014】
検出手段20は、球面ころ3の外周面3aのうち、中心軸Gに沿う方向(軸方向)における同一位置、すなわち、同一円周3b上の形状を検出する複数(本実施形態では2つ)の検出器22A、22Bを有する。ここで、検出器22Aは、外周面3aの表面粗さを測定するための表面粗さ検出器であり、検出器22Bは、外周面3aのウェービネスを測定するためのウェービネス検出器である。
【0015】
表面粗さ検出器22A及びウェービネス検出器22Bは、その先端部が外周面3aの同一円周3b上に接触する接触式であり、表面情報を検出する表面粗さ検出用触針23A及びウェービネス検出用触針23Bと、表面粗さ検出用触針23A及びウェービネス検出用触針23Bを外周面3aに向かって(径方向に向かって)進退可能に駆動する駆動機構25A、25Bと、を有する。」

「【0022】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る形状検出装置について説明する。なお、本実施形態の形状検出装置は、第1実施形態の形状検出装置と基本的構成を同一とし、真円度検出器をさらに備える点で異なる。したがって、第1実施形態と同一部分には同一符号を付すことにより、その説明を省略又は簡略化する。
【0023】
本実施形態の形状検出装置1の検出手段20は、表面粗さ検出器22A及びウェービネス検出器22Bに加えて、球面ころ3の外周面3aの真円度を測定する真円度検出器22Cをさらに備える。これら表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B、及び真円度検出器22Cは、球面ころ3の外周面3aのうち、中心軸Gに沿う方向における同一位置(円周3b)の形状を検出する。
【0024】
真円度検出器22Cは、その先端部が外周面3aの円周3b上に接触する接触式であり、表面情報を検出する真円度検出用触針23Cと、真円度検出用触針23Cを外周面3aに向かって(径方向に向かって)進退可能に駆動する駆動機構25Cと、を有する。」

「【0026】
以上のように構成された形状検出装置1において、球面ころ3の外周面3aの表面粗さ、ウェービネス、及び真円度を測定する方法について以下説明する。
【0027】
先ず、球面ころ3の外周面3aの円周3b上のウェービネスを測定するため、駆動機構25Bによって、ウェービネス検出用触針23Bを外周面3aの円周3bに接触させる。その後、回転装置16を駆動することによって、治具10と共に球面ころ3を中心軸G周りに回転させる。このとき、球面ころ3の回転数は、ウェービネス検出器22Bが測定する測定項目であるウェービネスに合わせて変更され、より具体的には300min^(-1)に設定される。そして、ウェービネス検出器22Bが必要な測定距離の表面形状データを取得した後、当該表面形状データに基づいてウェービネスを算出する。
【0028】
先ず、球面ころ3の外周面3aの円周3b上の表面粗さ及び真円度を測定するため、駆動機構25A、25Cによって、表面粗さ検出用触針23A及び真円度検出用触針23Cを外周面3aの円周3bに接触させる。その後、回転装置16を駆動することによって、治具10と共に球面ころ3を中心軸G周りに回転させる。このとき、球面ころ3の回転数は、表面粗さ検出器22A及び真円度検出器22Cが測定する測定項目である表面粗さ及び真円度に合わせて設定されており、より具体的には1min^(-1)に設定される。そして、表面粗さ検出器22A及び真円度検出器22Cが必要な測定距離の表面形状データを取得した後、当該表面形状データに基づいて表面粗さ及び真円度を算出する。そして、球面ころ3の回転を停止すると共に、表面粗さ検出用触針23A及び真円度検出用触針23Cを球面ころ3の外周面3aから退避させる。
【0029】
このような工程により、球面ころ3の外周面3aの円周3b上の表面粗さ、ウェービネス、及び真円度を測定することが可能である。」

「【0031】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0032】
例えば、上述の実施形態では回転装置16を駆動することにより、球面ころ3の外周面3aの中心軸Gの回りで球面ころ3を回転可能としたが、球面ころ3と検出手段20(表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B、及び真円度検出器22C)とが、中心軸Gの周りで互いに相対回転可能である限り、その構成は限定されない。すなわち、球面ころ3を固定し、検出手段20を中心軸G周りに回転可能であるように構成してもよい。」

「【0036】
また、表面粗さ検出用触針23A、ウェービネス検出用触針23B、及び真円度検出用触針23Cの先端部の材質や、凸部24A、24B、24Cの形状寸法、球面ころ3の回転数を適宜設定することにより、表面粗さ検出用触針23A、ウェービネス検出用触針23B、及び真円度検出用触針23Cを同時に球面ころ3の外周面3aに接触させ、真円度、ウェービネス、表面粗さを算出するための表面形状データを一度に測定しても構わない。」

2.引用文献1に記載された発明の認定
引用文献1の図2を参照すると、形状検出装置1の表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B及び真円度検出器22Cは、表面粗さ検出器22Aとウェービネス検出器22Bとが球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように設けられる一方、真円度検出器22Cが表面粗さ検出器22A及びウェービネス検出器22Bのいずれからも円周3b方向に90度離れた位置に設けられることが見て取れる。
そうすると、引用文献1の前記1.の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「球面ころ3の外周面(円周面)3aの形状検出装置1において、
前記球面ころ3の下面と略同一の面積を有する底面12と前記底面12の外周縁から上方に向かって延びる凸部14とを備え、前記球面ころ3が上方から挿入されて固定される有底筒状の治具10であって、前記底面12の下部が回転装置16に固定され、前記回転装置16を駆動することにより、前記球面ころ3の外周面3aの中心軸Gの回りで前記球面ころ3と一体に回転する治具10と、
前記球面ころ3の外周面3aのうち、前記中心軸Gに沿う方向(軸方向)における同一位置、すなわち、同一円周3b上において、前記外周面3aの表面粗さを測定する表面粗さ検出器22A、前記外周面3aのウェービネスを測定するウェービネス検出器22B、及び前記外周面3aの真円度を測定する真円度検出器22Cと、
を備え、
前記真円度検出器22Cは、前記球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように設けられる前記表面粗さ検出器22A及び前記ウェービネス検出器22Bのいずれからも前記同一円周3b方向に90度離れた位置に設けられる形状測定装置1。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア.引用発明の「球面ころ3」は、本願発明1の「円柱状」「の測定対象物」に相当し、引用発明の「球面ころ3の外周面(円周面)3aの形状検出装置1」は、本願発明1の「円柱状」「の測定対象物を測定する形状測定装置」に相当する。

イ.引用発明の「前記球面ころ3の下面と略同一の面積を有する底面12と前記底面12の外周縁から上方に向かって延びる凸部14とを備え、前記球面ころ3が上方から挿入されて固定される有底筒状の治具10であって、前記底面12の下部が回転装置16に固定され、前記回転装置16を駆動することにより、前記球面ころ3の外周面3aの中心軸Gの回りで前記球面ころ3と一体に回転する治具10」は、本願発明1の「前記測定対象物を相対的に回転する回転移動部」に相当する。

ウ.引用発明の「前記球面ころ3の外周面3aのうち、前記中心軸Gに沿う方向(軸方向)における同一位置、すなわち、同一円周3b上において、」「前記外周面3aの真円度を測定する真円度検出器22C」は、本願発明1の「前記回転する前記測定対象物の真円度測定を行う第1測定部」に相当する。

エ.引用発明の「前記球面ころ3の外周面3aのうち、前記中心軸Gに沿う方向(軸方向)における同一位置、すなわち、同一円周3b上において、前記外周面3aの表面粗さを測定する表面粗さ検出器22A」は、本願発明1の「前記回転する前記測定対象物の表面粗さ測定を行う第2測定部」に相当する。

オ.以上のことをまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(ア)一致点
「円柱状の測定対象物を測定する形状測定装置において、
前記測定対象物を相対的に回転する回転移動部と、
前記回転する前記測定対象物の真円度測定を行う第1測定部と、
前記回転する前記測定対象物の表面粗さ測定を行う第2測定部と、
を備える形状測定装置。」

(イ)相違点
本願発明1では、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断するために、前記第1測定部及び前記第2測定部は、前記測定対象物の回転の中心軸を中心として対向している」のに対し、引用発明では、「真円度検出器22C」が「前記球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように設けられる前記表面粗さ検出器22A及び前記ウェービネス検出器22Bのいずれからも前記同一円周3b方向に90度離れた位置に設けられる」結果、「真円度検出器22C」(本願発明1の「第1測定部」に相当する。)と「表面粗さ検出器22A」(本願発明1の「第2測定部」に相当する。)とが「球面ころ3」(本願発明1の「測定対象物」に相当する。)の「外周面3a」の「同一円周3b」方向に90度離れている点。

(2)相違点についての判断
引用発明では、真円度検出器22Cは、球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように設けられる表面粗さ検出器22A及びウェービネス検出器22Bのいずれからも同一円周3b方向に90度離れた位置に設けられる。
しかし、引用文献1には、表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B及び真円度検出器22Cをこのような位置に設ける理由は記載されていないし、このような位置に設けることに何らかの技術的意義があることも記載されていない。そもそも、引用文献1には、「検出手段20は、球面ころ3の外周面3aのうち、中心軸Gに沿う方向(軸方向)における同一位置、すなわち、同一円周3b上の形状を検出する複数(本実施形態では2つ)の検出器22A、22Bを有する。」(段落0014)と記載されているだけであり、表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B及び真円度検出器22Cは、球面ころ3の外周面3aの同一円周3b上に配置することとされているだけであるから、これらの検出器を同一円周3b上のどの位置に配置するかは、全くの任意である。すなわち、引用文献1には、これらの検出器を同一円周3b上の特定の位置に配置することに何らかの技術的意義があることは記載も示唆もされていない。
そうである以上、引用発明において、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断する」という特定の目的を達するために、互いに同一円周3b方向に90度離れている真円度検出器22Cと表面粗さ検出器22Aとを、球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように変更することは、引用文献1に記載又は示唆されているということはできず、したがって、そのような変更を行う動機付けが当業者にあるということはできない。
また、引用文献2は、被測定物を回転させながらその形状を測定する装置において、一定回転角度ごとに測定値を得ることは当業者が通常実施している技術事項であることを例示するために引用された文献にすぎず、引用発明の真円度検出器22Cと表面粗さ検出器22Aとを、球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように配置することを示唆するものではない。
さらに、引用発明において、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断する」という特定の目的を達するために、真円度検出器22Cと表面粗さ検出器22Aとを、球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するように配置することが、当業者にとって自明のことであると認めることもできない。
そして、本願発明1は、相違点に係る構成を備えることによって、「図14(A)、図14(B)に示されているように、測定データの取得中に外乱(ワークWの揺れなど)が発生した場合に、ワークWの中心軸周りに180度異なる2方向に対応する真円度測定の測定データと表面粗さ測定の測定データとに変位方向が反対(径方向の外向きと内向き)となる外乱信号V1、V2が現れる」(段落0119)という効果を奏するものであり、この効果は、引用文献1及び引用文献2の記載から当業者が予測し得るものではない。
そうすると、相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に思い付くことであるということはできない。
したがって、本願発明1は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本願発明2ないし本願発明4について
本願発明2ないし本願発明4は、本願発明1の構成を全て含むから、少なくとも本願発明1と引用発明との相違点(前記1.(1)オ.(イ))で引用発明と相違する。そして、前記1.(2)のとおり、相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に思い付くことであるということはできない。
したがって、本願発明2ないし本願発明4は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3.本願発明5について
本願発明5は、本願発明1に係る形状測定装置の動作を方法の発明として表現したものであり、本願発明1と引用発明との相違点(前記1.(1)オ.(イ))に係る本願発明1の構成に対応する構成を備えるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第7 原査定について
原査定は、引用発明において、表面用粗さ検出用触針23A、ウェービネス検出用触針23B及び真円度検出用触針23Cの配置は、引用文献1の図2に記載された配置に限るものではなく、様々な配置が可能であることは、当業者にとって自明な技術事項であるから、例えば、表面用粗さ検出用触針23A及び真円度検出用触針23Cを周方向の反対側に設置することは、当業者が通常なし得る技術事項であると判断し、また、そのように設置した発明は「外乱の発生を判断可能な真円度測定及び表面粗さ測定の測定結果を取得可能という効果」を有すると判断した。
しかし、引用文献1には、表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B及び真円度検出器22Cを球面ころ3の外周面3aの同一円周3b上に配置することとされているだけであり、これらの検出器を同一円周3b上の特定の位置に配置することに何らかの技術的意義があることは記載も示唆もされていない。そうすると、表面粗さ検出器22A、ウェービネス検出器22B及び真円度検出器22Cの配置として考えられる様々なものの中から、「外乱により生じた外乱信号の発生を判断する」という特定の目的を達するために、表面粗さ検出器22Aと真円度検出器22Cとが球面ころ3の中心軸Gを中心として対向するという特定の配置を選択する動機付けが当業者にあるということはできない。
したがって、原査定の理由は、維持することができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願は拒絶をするべきものであるということはできない。
また、他に、本願は拒絶をするべきものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2016-197213(P2016-197213)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 小林 紀史
須原 宏光
発明の名称 形状測定装置及び形状測定方法  
代理人 松浦 憲三  

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