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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1334110
審判番号 不服2016-17810  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-29 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2012-122294「光学シートおよび表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 9日出願公開、特開2013-246407〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2012-122294号(以下、「本件出願」という。)は、平成24年5月29日の特許出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。

平成28年 1月27日付け:拒絶理由通知書
平成28年 3月10日提出:意見書
平成28年 3月10日提出:手続補正書
(以下、「本件手続補正書」という。)
平成28年 8月24日付け:拒絶査定
(以下、「原査定」という。)
平成28年11月29日請求:審判請求書

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「平面画像および裸眼で視認され得る立体画像を切り換え可能に表示する表示装置に用いられ、光の偏光状態に応じて当該光の進行方向を制御する光学シートであって、
熱可塑性樹脂を含む光学異方性の第1層と、
前記第1層に積層され、一方の偏光成分の光の進行方向を変化させる光学界面を前記第1層との間に形成する第2層と、を備え、
前記光学界面は、一方向に配列された複数の単位光学面を有し、各単位光学面は前記一方向と直交する他方向に延び、
前記第1層の前記一方向での屈折率と前記第1層の前記他方向での屈折率との差は、0.13以上である、光学シート。」

3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:特開2010-78653号公報
引用文献2:特表2008-521042号公報
引用文献3:特開2010-224510号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2011-126181号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2003-7072号公報(周知技術を示す文献)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付したものである。以下、同様。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元画像および3次元画像のうちの一方の画像が表示されているときに、他方の画像を部分的に表示することが可能な立体画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の視差画像を表示するインテグラルフォトグラフィー法(以下、IP法)あるいは光線再生法と呼ばれる、立体像を何らかの方法で記録しこれを立体像として再生する方法が知られている。左右の眼から物体を見たときに、近い距離にあるA点をみた時の左右の眼と成す角度をα、遠い距離にあるB点をみた時の左右の眼となす角度をβとすると、αとβはその物体と観察者の位置関係に応じて異なる。この(α?β)を両眼視差と呼び、人はこの両眼視差に敏感で立体視をすることができる。
【0003】
近年、眼鏡無しの立体画像表示装置の開発が進んでいる。これらの多くは通常の2次元の平面表示装置を用いるが、その平面表示装置の前面、あるいは背面に何らかの光線制御素子を置くことにより、先に述べた両眼視差を利用し、観察者から見た時、あたかも平面表示装置から前後数cmの距離の物体から光線が出ているように平面表示装置からの光線の角度を制御することにより可能となる。これは、平面表示装置の高精細化により、平面表示装置の光線を数種類の角度(視差と呼ぶ)に振り分けても、ある程度高精細の画像を得ることができるようになったためである。
【0004】
このように、IP法を立体画像表示装置に適用した3次元画像表示方法をII(インテグラルイメージング)方式と呼ぶ。II方式において、一つのレンズから射出される光線は要素画像群の数に相当する。通常、視差数と呼び、それぞれのレンズにおいて、視差光線は平行に射出される。このII方式は、観測者の位置、あるいは観測者の見る角度によって、1視差の画像、2視差の画像、3視差の画像という異なる画像を見ることになる。そのため、観測者は右目と左目に入る視差により、立体を知覚する。レンチキュラーレンズを光線制御素子として用いた場合、スリットに比べて、光の利用効率が高いため表示が明るいというメリットがある。また、レンズアレイと画素間のギャップはレンズの略焦点距離ほど離した方が良く、そうすると一つの画素を一つの方向に射出することができ、見る角度によって異なる視差画像を見ることができる。
【0005】
複屈折性をもつ物質として最も良く知られているものが方解石である。また、複屈折の光学的な応用として、位相差フィルムに使用される延伸フィルムがある。具体的にはアートン(JSR(株))、ポリカーボネート(日東電工(株))などがよく知られている。
【0006】
また、液晶も複屈折性をもつ。液晶は分子が細長い形をしており、その分子の長手方向のダイレクタと呼ばれる分子の方向に屈折率の異方性が生じる。例えば、ネマティック液晶の分子の多くは細長い分子であり、その長軸方向をそろえて配向しているが、分子の位置関係はランダムである。分子の配向方向がそろっているといっても、使用する雰囲気が絶対零度ではないので完全に平行ではなく、ある程度ゆらぎ(オーダーパラメータSで表す)があるが、局所領域をみればほぼ一方向を向いているといえる。そこで、巨視的には十分小さいが、液晶分子の大きさに比べれば十分に大きな領域を考えた時、その中での平均的な分子の配向方向は単位ベクトルnを用いて表され、それをダイレクタまたは配向ベクトルという。ダイレクタが基板にほぼ平行となる配向をホモジニアス配向という。液晶の最大の特徴の一つが光学的な異方性にある。特に、結晶などの他の異方性媒質に比べて分子の配列の自由度が高いため、複屈折性の目安である長軸と短軸の屈折率の差が大きい。
【0007】
この液晶を駆動する駆動方式の一つである単純マトリックス駆動は、1列に並んだ行電極Xnと列電極Ymで液晶層を挟んだ構成をしており、これらの電極の交わった部分(画素)に選択的に電圧を印可して液晶を動作させるものである。この駆動方法においては、電極を透明電極で構成し、個々の画素には個別にON、OFFを制御するトランジスタは設けられていない。そのため、配線を隠すためのブラックマトリックスは存在しないため、輝度を明るくできるというメリットがある。
【0008】
液晶を駆動するもう一つの駆動方式であるアクティブマトリックス駆動は、液晶の電気光学効果自身にメモリー性を付与し、例えば、いったんON状態からOFF状態に切り換えたときに、フレーム周期の間に定常的に電圧が加わっているならば、表示容量を大幅に増やしても原理的に高品位の表示が可能となる。このようなメモリー性を持った素子としては、トランジスタやダイオードなどの能動素子があり、アクティブマトリックス方式は、この能動素子を画素毎を付加した構成となっている。このアクティブマトリックス方式のメリットとしては、クロストークの心配がなく、高精細でかつ、波長依存性のない偏光切り換えが可能であることである(非特許文献1参照)。
【0009】
また、フレーム応答を抑制する方法は、単純マトリックス駆動において、選択パルスと非選択パルスとの電位差を小さくすることである。パルス幅を小さくせずに選択パルス間隔を短くする方法として、従来の線順次走査ではなく、複数の走査線を同時に選択する複数ライン同時選択法(MLS: Multi-Line Selection)がある(非特許文献2参照)。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
立体画像表示装置においては、光線制御素子の背面にある平面表示装置の画像情報はそれぞれの視差画像に割り振られるため、背面にある元の平面表示装置に比較し、解像度が低下する。そこで、同一立体表示装置において、高精細な2次元画像表示と立体感のある3次元画像表示を切り替えられる機能が望まれている。さらに、同一表示面において、高精細な2次元画像表示、3次元画像表示が混在する機能、すなわち部分的に2次元画像と3次元画像の切り換えを行うことの可能な機能への要望も高い。部分的に、2次元画像と3次元画像との切り換えを実現するためには、偏光可変セルを設け、この偏光可変セルの液晶に電圧をかける電極をX座標分およびY座標分、分割し、それぞれの領域に応じて個別の電圧をかけなければならない。
【0011】
偏光可変セルの駆動方法には大きく分けて、次の3種類がある。
(1)セグメント駆動
(2)単純マトリックス駆動
(3)アクティブマトリックス駆動
【0012】
(1)は時計、電卓などに良く用いられている駆動方法で、個々の表示部分(光スイッチ)が独立した電極で構成されたもので、マトリックス駆動を行うと、表示部分に配線による表示妨害が起きるため、部分的に2次元画像と3次元画像との切り換えを行う駆動方法には向いていない。
【0013】
(2)は、上述したように、マトリックス駆動を行うことが可能である。しかし、同一行、同一列に入力した信号は同様にかかるため、選択した時のみ画素にしきい値以上の電圧がかかるようにし、非選択時には電圧をしきい値以下に抑えなければならない。偏光可変セルの解像度(すなわち、垂直方向のアドレス線数)が多くなればなるほど、選択時と非選択時の液晶にかかる電圧比が1に近付くため、2次元画像表示モードと3次元画像表示モードの選択比が小さくなる。具体的な劣化現象としては、3次元画像表示モード時に、2次元画像表示モードが混在して、光線の指向性が劣化するので、飛び出しまたは奥行き表示において、ノイズが混入することである。単純マトリックス駆動において、ネマティック液晶を90度ねじったTN(Twisted Nematic)液晶を用いると、しきい値特性を十分に急峻にすることができないため、アドレス数が制限されるという問題点がある。
【0014】
そのため、TN液晶の代わりに、ねじれ角度270度程度であって、しきい値特性が急峻なSTN(Super Twisted Nematic)を用いると電圧比が1に近付いても、コントラストを維持することができる。しかし、STN液晶は偏光特性の波長依存性が大きいため、使用時には波長依存性を補償するフィルムを用いる必要があり、複雑な光学設計と位相差フィルム材料が必要となる。
【0015】
(3)は、上述したように、1フレーム区間において、画素一つ一つを個別に駆動するため、TN液晶を用いることが可能である。しかし、デメリットとしては、ブラックマトリックスによる開口率が低下すること(すなわち、輝度が低下すること)、および偏光可変セルのブラックマトリックスと表示画素用LCDのブラックマトリックスとの干渉によるモアレが発生することが挙げられる。また、TFT(Thin Film Transistor)の製造工程による製造プロセスの複雑化とコスト高が挙げられる。
【0016】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、輝度の低下およびモアレの発生を防止することができるとともに、部分的に2次元画像と3次元画像の切り換えを行うことの可能な機能を備えた立体画像表示装置の駆動方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様による立体画像表示装置の駆動方法は、表示面に複数の画素が配列された平面表示装置と、
前記平面表示装置の前面に設けられ、n(≧1)本の透明な第1電極が平行に配置された第1電極基板およびm(≧1)本の透明な第2電極が前記第1電極の配置された方向と略直交する方向に配置された第2電極基板ならびに前記第1電極基板と前記第2電極基板との間に挟持された液晶を有し、前記第1および第2電極基板間に印加する電圧に応じて前記平面表示装置からの光線の偏光方向を可変にする偏光可変セルと、
前記偏光可変セルに対して前記平面表示装置と反対側に設けられ、透明基板および複数の円筒状のレンズのそれぞれの長軸が同一方向に並んで配列されたレンズ基板ならびに前記透明基板と前記レンズ基板との間に挿入された複屈折性物質を有し、前記複屈折性物質の長軸方向が前記レンズ基板の各レンズの長軸方向に略平行でありかつ前記複屈折性物質の短軸方向が前記レンズ基板の各レンズの長軸方向に略垂直であって、前記偏光可変セルを介して得られる前記画素からの光線を所定の角度に振り分ける光線制御素子と、
を備え、3次元画像と2次元画像とを切り換えて表示することが可能な立体画像表示装置の駆動方法であって、
背景が3次元画像および2次元画像のうちの一方の画像で表示し、第1乃至第p(p≧1)のウィンドウが他方の画像で表示するときに、
第i(1≦i≦p)のウィンドウが前記第1電極と重なるか否かを示す前記第1電極に関する第iのフラグビットを立てるとともに前記第iのウィンドウが前記第2電極と重なるか否かを示す前記第2電極に関する第iのフラグビットを立てるステップと、
前記第1および第2電極にそれぞれ印加する第1および第2パルスとして、前記平面表示装置の1フレーム期間をp個の区間に分割し、この分割された区間で前記第1および第2パルスの少なくとも一方の値が異なる2のp乗種類の波形をそれぞれ用意して、前記第1および第2電極に関する第1乃至第pのフラグビットの値の組に対応付けるステップと、
前記n本の第1電極および前記m本の第2電極からそれぞれ、1本の第1および第2電極を選択するステップと、
選択された前記第1および第2電極に関する前記第1乃至第pのフラグビットの値の組に対応する前記第1および第2パルスを、選択された前記第1および第2電極に印加するステップと、
を備えていることを特徴とする。」

エ 「【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、輝度の低下およびモアレの発生を防止することができるとともに、部分的に2次元画像と3次元画像の切り換えを行うことができる。」

オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による立体画像表示装置の駆動方法を説明する。本実施形態の駆動方法によって駆動される立体画像表示装置の概略の構成を図1に示す。この立体画像表示装置は、例えば、液晶表示装置である平面表示装置2と、この平面表示装置2の前面に設けられた偏光可変セル4と、この偏光可変セル4に対して平面表示装置2と反対側に設けられた光線制御素子6とを備えている。
【0022】
平面表示装置は、それぞれがR(赤)、G(緑)、B(青)のサブピクセル2a1、2a2、2a3を有する画素2aがマトリクス状に配列された表示面を備えている。この表示面の前面に偏光可変セル4が設けられている。この偏光可変セル4は、対向する透明な電極基板4a、4bを有し、これらの電極基板4a、4b間に例えば、TN(Twisted Nematic)液晶が挟持されている。これらの電極基板4a、4b間に印加する電圧を変化させることにより、平面表示装置2の画素から出射された光は偏光方向が変化される。
【0023】
光線制御素子6は、偏光可変セル4側に設けられた平坦かつ透明な基板6aと、この透明基板6aを覆い、平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行な長軸を有する円筒形状のレンズが複数個並列に配置されたレンズ基板6bと、基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された複屈折性物質6cとを備えている。すなわち、基板6aと、レンズ基板6bとは、レンズ型枠を構成し、このレンズ型枠6a、6b内に複屈折性物質6cが格納される。また、複屈折性物質6cの長軸方向は、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行であり、複屈折性物質6cの短軸方向は、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交する。そして、複屈折性物質6cの長軸方向の屈折率は短軸方向の屈折率に比べて高い。また、レンズ型枠6a、6bは、等方性の屈折率を有しており、複屈折性物質6cの短軸方向の屈折率と略等しくなるように設定されている。そして、光線制御素子6は、平面表示装置2の画素からの光線を所定の角度に振り分ける。
【0024】
本実施形態の駆動方法は、このような構成の立体画像表示装置を用いて、部分的に2次元画像と3次元画像の切り換えを行うように構成されている。部分的に2次元画像と3次元画像の切り換えを行う方法を以下に説明する。
【0025】
偏光可変セル4は、液晶4cとしてTN液晶を用い、電極基板4a、4b間に印加する電圧を飽和電圧Vonとすることによって、光の偏光方向を回転させないで3次元画像表示モードとし、電圧Voffとすることによって光の偏光方向を90度回転させて2次元画像表示モードとしている。
【0026】
2次元画像表示モードでは、偏光可変セル4によって、基板6aおよびレンズ基板6bに挟持された複屈折性物質6cの短軸方向に偏光方向(矢印11の方向)が一致するように調整される。そして、レンズ型枠6a、6bの屈折率は等方性で、複屈折性物質6cの短軸方向の屈折率と略等しくなるように設定されているため、偏光可変セル4と、光線制御素子6との界面で光は曲がらず、背面にある、平面表示装置2の高精細な2次元画像をそのまま見ることができる。
【0027】
一方、3次元画像表示モードでは、偏光可変セル4によって、複屈折性物質6cの長軸方向に偏光方向(矢印12の方向)が一致するように調整される。そして、レンズ型枠6a、6bの屈折率よりも、複屈折性物質6cの長軸方向の屈折率が高いため、偏光可変セル4と、光線制御素子6との界面で光は屈折し、レンズ効果が現れる。これにより、平面表示装置2のそれぞれの画素からの光を、それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出するため、指向性のある3次元画像を見ることができる。」

カ 「【図1】




(2)引用発明
ア 上記(1)オの段落【0021】の記載によれば、引用文献1に記載された「立体画像表示装置」は、「液晶表示装置である平面表示装置2と、この平面表示装置2の前面に設けられた偏光可変セル4と、この偏光可変セル4に対して平面表示装置2と反対側に設けられた光線制御素子6とを備え」ている。
そうすると、引用文献1の「光線制御素子6」は、「液晶表示装置である平面表示装置2と、この平面表示装置2の前面に設けられた偏光可変セル4と、この偏光可変セル4に対して平面表示装置2と反対側に設けられた光線制御素子6とを備え」た「立体画像表示装置」に用いられるものである。

イ 上記(1)オの段落【0022】の記載によれば、「偏光可変セル4は」、「印加する電圧を変化させることにより、平面表示装置2の画素から出射された光は偏光方向が変化される」ものである。

ウ 上記(1)オの段落【0024】の記載によれば、「立体画像表示装置を用いて」、「2次元画像と3次元画像の切り換えを行う」のであるから、
「立体画像表示装置」は、「2次元画像と3次元画像の切り換えを行う」ことができるものである。

エ 上記ア?ウをまとめるとともに、上記(1)全体からみて、引用文献1には、「立体画像表示装置」に用いられる「光線制御素子6」として、次のものが記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「液晶表示装置である平面表示装置2と、この平面表示装置2の前面に設けられた偏光可変セル4と、この偏光可変セル4に対して平面表示装置2と反対側に設けられた光線制御素子6とを備えた立体画像表示装置であって、偏光可変セル4は、印加する電圧を変化させることにより、平面表示装置2の画素から出射された光は偏光方向が変化され、2次元画像と3次元画像の切り換えを行う立体画像表示装置に用いられる光線制御素子6であって、
光線制御素子6は、偏光可変セル4側に設けられた平坦かつ透明な基板6aと、この透明基板6aを覆い、平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行な長軸を有する円筒形状のレンズが複数個並列に配置されたレンズ基板6bと、基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された複屈折性物質6cとを備え、基板6aと、レンズ基板6bとは、レンズ型枠を構成し、このレンズ型枠6a、6b内に複屈折性物質6cが格納され、複屈折性物質6cの長軸方向は、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行であり、複屈折性物質6cの短軸方向は、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交し、複屈折性物質6cの長軸方向の屈折率は短軸方向の屈折率に比べて高く、レンズ型枠6a、6bは、等方性の屈折率を有しており、複屈折性物質6cの短軸方向の屈折率と略等しくなるように設定され、
立体画像表示装置は、2次元画像表示モードでは、偏光可変セル4によって、複屈折性物質6cの短軸方向に偏光方向が一致するように調整され、レンズ型枠6a、6bの屈折率は等方性で、複屈折性物質6cの短軸方向の屈折率と略等しくなるように設定されているため、偏光可変セル4と、光線制御素子6との界面で光は曲がらず、背面にある、平面表示装置2の高精細な2次元画像をそのまま見ることができ、
立体画像表示装置は、3次元画像表示モードでは、偏光可変セル4によって、複屈折性物質6cの長軸方向に偏光方向が一致するように調整され、レンズ型枠6a、6bの屈折率よりも、複屈折性物質6cの長軸方向の屈折率が高いため、偏光可変セル4と、光線制御素子6との界面で光は屈折し、レンズ効果が現れ、平面表示装置2のそれぞれの画素からの光を、それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出するため、指向性のある3次元画像を見ることができる、
光線制御素子6。」

(3)引用文献2の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0016】
その第二の層は、好適な実施形態においては、複屈折性のもの、即ち、光学的に異方性のものであることもある。しかしながら、その第二の層は、他の実施形態において、その第一の層及びその第三の層の両方の屈折率よりも、高いもの、例.顕著に高い屈折率を有することもある。これは、それが、製造することが、容易なもの、及び、よって、高価でないものであるという点で、好都合なものである。
【0017】
好適な実施形態において、その第一の層及びその第二の層は、単一の層へと接合される。これは、それが、そのバックライトを大きさにおいて小型なものにするという点で、好都合なものである。
【0018】
好ましくは、そのレリーフ構造は、そのレリーフ構造化された表面の中へ延在する溝を含むと共に、それら溝の断面は、好ましくは、それら溝の延在の方向に垂直な方向に関して、対称的なもの、例えば、三角形のものである。
【0019】
好適な実施形態において、その複屈折性の第二の層は、ポリエチレンナフタラート(PolyEthyleneNaphthalate)(PEN)の箔を含む。別の好適な実施形態においては、その複屈折性の第二の層は、ポリエチレンテレフタラート(PolyEthyleneTerephthalate)(PET)の箔を含む。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好適な実施形態の記載は、偏光させられたバックライト100の簡単な説明と共に、図1を参照することから、開始する。偏光させられたバックライト100は、二つの異なる偏光の方向、S及びP、の光120を、一つの偏光方向のみ(S)の光へと、転換することが可能なものであるが、その光は、ディスプレイパネル、例.(図1に示されてない)LCDパネルに向かった方向124において放出される。
【0023】
バックライト100は、光学的な異方性の材料の層102、即ち、複屈折性のもの、及び、光学的な等方性の材料の層104から作られる。それら二つの層の屈折率は、図1に指し示される。等方性の層104の屈折率は、noであると共に、異方性の層102の主方向x、y、及びzに沿った屈折率は、それぞれ、ne、no、及びnoである。
【0024】
異方性の層102において、ミクロ溝(microgroove)106の形態におけるレリーフ構造は、機械加工、エンボス加工、又は他のパターニングの技術によって、製作される。これらの溝106は、ライトガイドを形成するために等方性の材料104で覆われると共に、ポリ(メチル=メタクリラート)(poly(methyl methacrylate)、即ち、PMMAの、裏当て層110によって支持されるが、その層は、光源118、即ち、ランプからの光120を受光する。
【0025】
所望の偏光の方向(S)の光を含む光120は、溝106に当たると共に、二つの界面となる層102及び104の屈折率が、不整合な状態にあるという事実のおかげで、方向125においてSの光124として外部へ反射させられる。他方の偏光方向(P)の光126について、それら屈折率は、調和すると共に、よって、Pの光126は、内部全反射によって捕捉されたままである。このように、Pの光126を、それが、反射/衝突を通じて偏光方向をひっくり返すまで、バックライト100において再利用することができる。よって、放出されたSの光124の強度は、従来のバックライトのものよりも二倍と同程度に大きいこともある。
【0026】
偏光するバックライト100の重要な特徴は、それの溝106である。図1に示されるように、放出された偏光した光124は、与えられた角度125の下で、バックライト100を出ると共に、内部全反射のモードにおける浅い入射角度の理由のために、放出された光124は、また、ある一定の程度までコリメートされる、すなわち、Sの光124は、15-20度ぐらいに及ぶ角度的な区間128にわたって分布させられる。放出されたコリメートされた光124の角度的な分布128が、変化することが困難(即ち、狭い)であるとはいえ、放出の角度125は、相当に容易に変化させられることもある。これを、異方性の材料102における溝の角度108を変動させることによって、単純に、することができる。このように、その光は、ほとんどいずれの(予め固定された)角度でも放出されることもある。その放出された光の溝の角度の依存性が、探査されるコンピューターのモデリングからの結果は、以下に与えられることになる。
【0027】
今、図2a及び2bへ戻ると、本発明に従ったディスプレイデバイス200の好適な実施形態のブロック図を、記載することにする。ディスプレイデバイス200は、マトリックスのLCDパネル230を含むが、そのパネルには、多数の画素240が、指し示される。LCDパネル230は、バックライト201によって照明される。
【0028】
制御ユニット232は、情報、例.外部の源238からインターフェース234を介して、LCDパネル230に受けられた情報の表示を制御する。制御ユニット232は、また、ライトガイド210において、対向する方向、それぞれz及び-zに光を放出するバックライト201における第一の光源218及び第二の光源219を制御する。図1と関連してすでに上に記載したように、光源218、219からの光は、ライトガイド210を介して伝わると共に、等方性の層204及び複数の平行なV字に形作られた溝206を含む複屈折性の(異方性の)層202における反射及び屈折にさらされる。」

ウ 「【0035】
今、偏光した光の放出されたビームの溝の角度の依存性を例示するコンピューターのモデリングの結果を、図5から7までを参照して、与えることにする。図5は、バックライトシステム500の断面図を概略的に例示する。図1に例示されたシステムに類似して、システム500は、ライトガイド510を含むが、そのライトガイドの上に位置させられるものは、光学的に等方性の材料504及び複屈折性の層、即ち、光学的に異方性の材料502である。複屈折性の層502は、x方向に延在する平行な溝506を含む。溝506は、溝の角度508を定義する幅及び深さを有する。光源518は、ライトガイド510の中へ光を放出すると共に、その放出された光は、上で議論したような内部の反射にさらされると共にそのバックライトの外へ且つ光の検出器532の上へ、偏光層530を介して、放出される光のビーム560に帰着する。偏光層530は、S偏光した光のみが通過するように、構成される。光のビーム560は、第一のビームの縁561及び第二のビームの縁562によって定義されるような空間的な範囲を有する。ビームの幅は、角度566によって定義されると共に、ビームの方向の角度564は、y軸を参照して定義される。
【0036】
第一のコンピューターのモデリングからの結果は、図6に与えられる。ここで、そのコンピューターのモデリングのセットアップは、ライトガイド510の屈折率が1.49であると共にコーティング層504の屈折率が1.56であるというようなものである。溝のある複屈折性の層502は、屈折率no=1.56及びne=1.86を有するPENの箔である。溝506の深さは、56.5μmであり、溝のピッチは、200μmであると共に、溝の角度は、30度と90度との間で変動させられる。
・・・(中略)・・・
【0039】
第二のコンピューターのモデリングの実験からの結果は、図7に与えられる。ここで、そのコンピューターのモデリングのセットアップは、ライトガイド510の屈折率が1.49であると共にコーティング層504の屈折率が1.53であるというようなものである。溝のある複屈折性の層502は、屈折率no=1.53及びne=1.71を有するPETの箔である。溝506の深さは、56.5μmであり、溝のピッチは、200μmであると共に、溝の角度は、30度と90度との間で変動させられる。」

エ 「【図1】


オ 「【図5】



2 対比及び判断
(1)対比
ア 引用発明の「2次元画像」は、本願発明の「平面画像」に相当する。

イ 引用発明の「3次元画像」は、「3次元画像表示モード」時の「レンズ効果が現れ」、「平面表示装置2のそれぞれの画素からの光」が「それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出」された「指向性のある3次元画像」である。
ここで、「それぞれの画素からの光」が「それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出」された「指向性のある3次元画像」は、右目、左目にそれぞれ入射されて、偏光メガネ等を利用することなく、直接裸眼で視認することができる立体画像であることは、当業者にとって明らかなことである。
そうすると、引用発明の「3次元画像」は、本願発明の「裸眼で視認され得る立体画像」に相当する。

ウ 引用発明における「立体画像表示装置」は、「2次元画像と3次元画像の切り換えを行う」ものである。
引用発明の「立体画像表示装置」は、本願発明の「表示装置」に相当する。
そうすると、上記アとイより、引用発明の「立体画像表示装置」は、本願発明の「平面画像および裸眼で視認され得る立体画像を切り換え可能に表示する表示装置」という事項を備えている。

エ 引用発明においては、「偏光可変セル4」により「平面表示装置2の画素から出射された光は偏光方向が変化され」るところ、「光線制御素子6」は、「複屈折性物質6cの短軸方向に偏光方向が一致するように調整され」た時には、「光」を「曲」げず、「複屈折性物質6cの長軸方向に偏光方向が一致するように調整され」た時には、「レンズ効果が現れ、平面表示装置2のそれぞれの画素からの光を、それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出する」。
そうすると、「光線制御素子6」は、光の偏光状態(偏光方向)に応じて光の進行方向を制御しているということができる。

オ 引用発明の「光線制御素子6」は、「平坦かつ透明な基板6a」と、「この透明基板6aを覆い、平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行な長軸を有する円筒形状のレンズが複数個並列に配置されたレンズ基板6b」と、「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された複屈折性物質6c」とを備えたものであり、「偏光可変セル4に対して平面表示装置2と反対側に設けられた」ものであるから、引用発明の「光線制御素子6」は、板状あるいはシート状の光学部材であることは明らかである。
また、本件出願の明細書段落【0040】の「本明細書において、「シート」、「フィルム」、「板」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「フィルム」はシートや板と呼ばれ得るような部材も含む概念であり、したがって、「光学シート」は、「光学フィルム」や「光学板」と呼ばれる部材と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。」という記載によれば、本願発明においては、「シート」、「フィルム」、「板」は区別されないものである。
そうすると、引用発明の「光線制御素子6」は、本願発明の「光学シート」に相当する。

カ 引用発明の「光線制御素子6」が備える「透明な基板6a」、「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された複屈折性物質6c」、及び「レンズ基板6b」は、「液晶表示装置である平面表示装置2」と同程度の大きさを有することは明らかである。
そうすると、これらの「基板6a」、「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された」「複屈折性物質6c」及び「レンズ基板6b」は、それぞれ「層」をなし、また、この順で積層されていることが把握できる。
引用発明の「複屈折性物質6c」は、「光学異方性」であるから、引用発明の「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された」「複屈折性物質6c」は、本願発明の「光学異方性の第1層」に相当する。
また、引用発明の「レンズ基板6b」は、本願発明の「前記第1層に積層され」た「第2層」に相当する。

キ 引用発明の「偏光可変セル4によって、複屈折性物質6cの長軸方向に偏光方向が一致するように調整され」た「光」は、本願発明の「一方の偏光成分の光」に相当する。

ク 引用発明において、「レンズ効果」は、「レンズ型枠6a、6bの屈折率よりも、複屈折性物質6cの長軸方向の屈折率が高いため」生じるから、「光」の「屈折」は、「複屈折性物質6c」と「レンズ基板6b」との間に形成された光学界面で主に生じていることは、光学的に明らかなことである。
そして、引用発明においては、「レンズ効果」によって、「平面表示装置2のそれぞれの画素からの光」を、「それぞれの位置に応じた方向にレンズ面全体に拡大して射出する」のであるから、「複屈折性物質6c」と「レンズ基板6b」との光学界面は、「平面表示装置2のそれぞれの画素からの光」の進行方向を変化させているということができる。
そうすると、上記カとキより、引用発明の「レンズ基板6b」は、本願発明の「第2層」の「一方の偏光成分の光の進行方向を変化させる光学界面を前記第1層との間に形成する」という事項を備えている。

ケ 引用発明における「レンズ基板6b」は、「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行な長軸を有する円筒形状のレンズが複数個並列に配置された」ものであるところ、これは、複数個の「円筒形状のレンズ」が、「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行」な方向と垂直な方向に配列され、「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行」な方向に延びているといい換えることができる。
上記クの「複屈折性物質6c」と「レンズ基板6b」との間に形成された前記光学界面は、複数個の「円筒形状のレンズ」に対応して形成されるものであるから、引用発明の前記光学界面は、複数個の単位光学面を有し、各単位光学面は「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行」な方向に延びているといえる。
ここで、引用発明の「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行」な方向に垂直な方向、及び、「平面表示装置2の画素2aの縦の配列方向に略平行」な方向は、それぞれ、本願発明の「一方向」及び「前記一方向と直交する他方向」に対応させることができる。
そうすると、引用発明は、本願発明の「光学界面は、一方向に配列された複数の単位光学面を有し、各単位光学面は前記一方向と直交する他方向に延び」ているという事項を備えている。

コ 引用発明の「複屈折性物質6c」の「長軸方向」及び「短軸方向」は、それぞれ「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行」な方向及び「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交」する方向である。
上記ケより、引用発明の「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向」及び「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交」する方向は、それぞれ本願発明の「前記一方向と直交する他方向」及び「一方向」に相当する。
そうすると、引用発明の「複屈折性物質6c」の「長軸方向」及び「短軸方向」は、本願発明の「前記一方向と直交する他方向」及び「一方向」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。
「平面画像および裸眼で視認され得る立体画像を切り換え可能に表示する表示装置に用いられ、光の偏光状態に応じて当該光の進行方向を制御する光学シートであって、
光学異方性の第1層と、
前記第1層に積層され、一方の偏光成分の光の進行方向を変化させる光学界面を前記第1層との間に形成する第2層と、を備え、
前記光学界面は、一方向に配列された複数の単位光学面を有し、各単位光学面は前記一方向と直交する他方向に延びる、
光学シート。」

イ 相違点
本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
光学異方性の第1層に関し、
本願発明では、「熱可塑性樹脂を含む」のに対して、
引用発明では、熱可塑性樹脂を含むのか不明である点。

(相違点2)
本願発明では、第1層の一方向での屈折率と他方向での屈折率との差は、0.13以上であるのに対して、
引用発明では、複屈折性物質6c(第1層)の長軸方向(他方向)の屈折率は短軸方向(一方向)の屈折率に比べて高いものの、短軸方向(一方向)での屈折率と長軸方向(他方向)での屈折率との差が不明である点。

(3) 判断
事案に鑑み、上記相違点1及び相違点2をまとめて検討する。
ア 引用文献1に記載の「引用文献1における発明」は、その特許請求の範囲、【発明が解決しようとする課題】(上記1(1)イの段落【0010】?【0016】参照。)、【課題を解決するための手段】(上記1(1)ウの段落【0017】参照。)、【発明の効果】(上記1(1)エの段落【0019】参照。)及び実施の形態(上記1(1)オの段落【0020】?【0027】参照。)等の記載からみて、輝度の低下及びモアレの発生を防止することができるとともに、部分的に2次元画像と3次元画像との切り換えを行うことができるような「偏光可変セルの駆動方法」である。
そうすると、「光線制御素子6」の「複屈折性物質6c」は、上記「引用文献1における発明」の本質的・特徴的な部分ではなく、引用発明において、「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された」「複屈折性物質6c」(第1層)は、複屈折性(光学異方性)を有し、「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行な方向」の屈折率は、「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行な方向と直交する方向」の屈折率に比べて高く、「レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交する方向」の屈折率は、レンズ基板6bの等方性の屈折率と略等しいものでありさえすれば、どのような材料でもよいことは、当業者にとって明らかなことである。

イ また、引用文献1の段落【0005】には、複屈折性を有するものとして、方解石や液晶の他、アートン(JSR(株))、ポリカーボネート(日東電工(株))などの位相差フィルムに使用される延伸フィルムがあることが記載されている(なお、アートン(JSR(株))は、ノルボルネン系樹脂であることは、技術常識である。)。
また、複屈折性(光学異方性)を有する位相差フィルムに使用される延伸フィルムの材料として、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ノルボルネン系樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられることは、技術常識である(例えば、特開2004-4641号公報の段落【0023】?【0024】、特開2003-121642号公報の段落【0010】?【0011】、特開平10-300927号公報の段落【0010】、特開2009-58963号公報の段落【0007】?【0009】、特開2006-276675号公報の段落【0008】等を参照。)。

ウ そうすると、引用発明において、上記イの引用文献1の示唆及び技術常識に基づいて、「複屈折性物質6c」に代えて、位相差フィルムに使用される延伸フィルムとして用いられる熱可塑性樹脂であるポリエチレンナフタレート(PEN)、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)を採用して、その複屈折性(光学異方性)を、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行な方向の屈折率は、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略平行な方向と直交する方向の屈折率に比べて高く、レンズ基板6bの各レンズの長軸方向と略直交する方向の屈折率は、レンズ基板6bの等方性の屈折率と略等しいものとすること、すなわち、光学異方性の第1層が熱可塑性樹脂を含む構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、その際に、熱可塑性樹脂であるポリエチレンナフタレート(PEN)、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)の複屈折性(光学異方性)をどの程度とするかは、レンズ基板6bの円筒形状のレンズの曲率・ピッチ、等方性のレンズ基板6b(第2の層)の屈折率、画素と円筒形状のレンズとの距離、3次元画像の観察距離等の装置全体の光学的構成を考慮に入れた上で、3次元画像を正しく視認することができるように、幾何光学に基づき当業者が設定する技術的事項であり、また、引用文献2(段落【0019】、【0023】、【0036】及び【0039】等)に記載されているように、PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる層、あるいは、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる層が、それぞれ0.3程度(no=1.56及びne=1.86)、あるいは、0.18程度(no=1.53及びne=1.71)の複屈折性(光学異方性)を示すことも知られているから、第1層の一方向での屈折率と第1層の他方向での屈折率との差を0.13以上とすることも、当業者であれば容易になし得たことである。
してみると、引用発明において、引用文献1,2に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、上記相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 本願発明の効果について
本願発明の光学シートの熱的な安定性を改善できる、あるいは配置環境の制約を受けないという作用・効果は、耐熱性や寸法安定性が求められる位相差フィルムに用いられる熱可塑性樹脂の採用に伴って当然に奏される作用・効果である。あるいは、PEN(ポリエチレンナフタレート)は耐熱性や寸法安定性が高いことが知られている(例えば、引用文献5の段落【0039】、引用文献4の段落【0007】、【0036】?【0042】等参照。)ことから、当業者にとって予測可能な作用・効果であって、格別のものとは認められない。

オ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「(3) 本願発明が特許されるべき理由」において、「補正後の請求項1に係る発明は、光の偏光状態に応じて当該光の進行方向を制御する光学シートの安定性を改善することを目的としており、この目的を達成するための手段として、次の特徴(a)及び(b)を有しております。
『(a)熱可塑性樹脂を含む光学異方性の第1層』
『(b)前記光学界面は、一方向に配列された複数の単位光学面を有し、各単位光学面は前記一方向と直交する他方向に延び、前記第1層の前記一方向での屈折率と前記第1層の前記他方向での屈折率との差は、0.13以上である』
このような特徴(a)及び(b)によれば、出願当初明細書の段落0033、0061、0085に記載されているように、光の偏光状態に応じて当該光の進行方向を制御する光学シートの安定性を改善することできます。」、「引用文献1では、液晶を含んだ複屈折レンズを開示しているに過ぎません。そして、本願発明が解決しようとする課題についても、引用文献1では何ら言及されておりません。引用文献1の段落0005では、複屈折性を持つ物質が記載されております。しかしながら、引用文献1の段落0005での記載は、複屈折レンズから離れて、単なる複屈折性を持つ物質として、ポリカーボネート等を例示しているに過ぎません。引用文献1では、複屈折レンズとして、ポリカーボネート等が例示されているのでは決してありません。この結果、引用文献1は、特徴(a)を開示していないだけでなく、複屈折性との関係で単位光学面の構成を規定した特徴(b)を示唆すらしておりません。」、「引用文献1の段落0005には、複屈折材料の例示としてポリカーボネートが方解石とともに上げられているに過ぎません。ポリカーボネートや方解石は、引用文献1に開示された複屈折レンズに用いられる複屈折材料として例示されているものではありません。この点は、方解石を用いて複屈折レンズを作製することが不可能と考えられることからも明らかです。すなわち、引用文献1に複屈折レンズを構成するポリカーボネートは記載されておりません。引用文献1の段落0005での記載に基づき、特徴(a)を容易想到とするのであれば、引用文献1の複屈折レンズにポリカーボネートを適用することの示唆や動機付けを説明する必要があります。ただし、そのような示唆や動機付けはどの引用文献にも存在せず、方解石と同様に、引用文献1にふれた当業者が、複屈折レンズに用いられる熱可塑性樹脂としてポリカーボネートを適用することは不可能です。」、「一方、引用文献2は、表示パネルを照明するバックライトであって、平面画像および裸眼で視認され得る立体画像を切り換え可能となっておりません。したがいまして、光学界面の形状は、引用文献1及び引用文献2で大きく異なっております。つまり、引用文献2は、引用文献1および本願発明から大きく離れた発明を開示しており、このため、特徴(a)及び(b)のいずれも開示しているとは言えませんし、引用文献2に開示された発明を引用文献1に適用することに如何に当業者であっても想到することはあり得ません。」、「本願の補正後の請求項1に関する発明は、引用文献に開示されていない特徴(a)及び(b)を有しております。また、特徴(a)又は(b)に想到するための示唆や動機付けも引用文献に存在しないことから、如何に当業者といえども、引用文献に基づいて特徴(a)及び(b)の組み会わせに想到することは不可能です。この点から、引用文献1及び2に基づいて、本願の補正後の請求項1に係る発明、並びに、補正後の請求項1を引用する請求項に係る発明の進歩性は否定され得ません。」旨主張している。
しかしながら、上記ア?ウのとおり、引用発明においては、「基板6aおよびレンズ基板6bに囲まれた領域に格納された」「複屈折性物質6c」は、複屈折性(光学異方性)を有するものであれば、その材料は限られるものではなく、また、引用文献1には、複屈折性を持つ材料として、位相差フィルムに使用される延伸フィルムがあるという示唆があることから、引用発明において、引用文献1,2に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、上記(a)及び(b)を備えた構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。また、上記エのとおり、本願発明の作用・効果も格別のものとは認められない。
そうすると、審判請求書における請求人の主張を採用することはできない。

カ 小括
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び技術常識に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-06 
結審通知日 2017-09-08 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2012-122294(P2012-122294)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
鉄 豊郎
発明の名称 光学シートおよび表示装置  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  
代理人 堀田 幸裕  

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