• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1335691
審判番号 不服2015-22939  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-28 
確定日 2017-12-18 
事件の表示 特願2013-236912「血管内皮に特異的に送達するためのリポプレックス処方剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日出願公開、特開2014- 55167〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年4月20日(パリ条約による優先権主張 2006年4月20日 欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願(特願2009-505789号:「原出願」ということがある。)の一部を平成25年11月15日に新たな特許出願としたものであって、平成26年8月15日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月27日付けで拒絶査定されたのに対して、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成28年1月27日に審判請求書に係る手続補正書(方式)が提出され、更に同年6月1日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年12月28日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年12月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.平成27年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本願の請求項1を、補正前(平成27年2月19日提出の手続補正書参照)の
「【請求項1】
担体に含有される、および/または担体を含有する脂質組成物であって、
少なくとも第1の脂質成分と、ここで、前記第1の脂質成分が、下記の化学式(I)に記載された化合物であって、
【化1】

式中、R_(1)およびR_(2)がそれぞれ独立して、アルキルを含む基から選択され、
nが1から4までの任意の整数であり、
R_(3)が、下記の化学式(II)に記載のリシル、オルニチル、2,4-ジアミノブチリル、ヒスチジル、およびアシル部分であって、
【化2】

式中、mが1から3までの任意の整数であり、NH_(3)^(+)が、任意では存在しなくてもよく、また、
Y^(-)が薬学的に許容されるアニオンであり、
少なくとも第1のヘルパー脂質と、ここで、前記第1のヘルパー脂質が、リン脂質およびステロイドからなる群から選択され、
インビボ条件下において、脂質組成物から任意で除去することができる遮蔽化合物と、ここで、前記遮蔽化合物が、ポリエチレングリコール(PEG)、ヘキサエチレングリコール(HEG)、ポリヒドロキシエチルスターチ(ポリHES)、およびポリプロピレンからなる群から選択される、
を含む組成物であって、
前記担体を含有する前記脂質組成物が、50から600mosmole/kgのオスモル濃度を有し、かつ、
前記第1の脂質成分、および/または前記担体中の前記ヘルパー脂質および前記遮蔽化合物の一方または両方よって形成されるリポソームの粒子径が30から100nmである脂質組成物の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が核酸を含み、肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮に前記核酸を送達するためのものである、使用。」
から、
補正後の
「担体に含有される、および/または担体を含有する脂質組成物であって、
a)50モル%のβ-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミド三塩酸である、第1の脂質成分と、
b)48から49モル%の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンである、第1のヘルパー脂質と、
c)1から2モル%の1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンである、第2のヘルパー脂質/遮蔽化合物と
を含む組成物であって、
前記担体を含有する前記脂質組成物が、50から600mosmole/kgのオスモル濃度を有し、かつ、
前記第1の脂質成分、および/または前記担体中の前記ヘルパー脂質および前記遮蔽化合物の一方または両方よって形成されるリポソームの粒子径が30から100nmである脂質組成物の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が核酸を含み、肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮に前記核酸を送達するためのものである、使用。」
と補正することを含むものである。
(下線部は補正箇所。)

2 補正の適否
補正事項1は、「脂質組成物」に含まれる「第1の脂質成分」、「第1のヘルパー脂質」については特定の化合物に限定するものであるが、「遮蔽化合物」については、補正前の「前記遮蔽化合物が、ポリエチレングリコール(PEG)、ヘキサエチレングリコール(HEG)、ポリヒドロキシエチルスターチ(ポリHES)、およびポリプロピレンからなる群から選択される」との限定を省くものであるから、実質的な拡張となり、特許法第17条の2第6項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
また、補正前の請求項1に対して記載不備等の拒絶の理由が通知されているわけではないので、補正事項1が、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。そして、請求項の削除、あるいは、誤記の訂正を目的とするものに当たらないことも明らかである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?55に係る発明は、平成27年2月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?55に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
担体に含有される、および/または担体を含有する脂質組成物であって、
少なくとも第1の脂質成分と、ここで、前記第1の脂質成分が、下記の化学式(I)に記載された化合物であって、
【化1】

式中、R_(1)およびR_(2)がそれぞれ独立して、アルキルを含む基から選択され、
nが1から4までの任意の整数であり、
R_(3)が、下記の化学式(II)に記載のリシル、オルニチル、2,4-ジアミノブチリル、ヒスチジル、およびアシル部分であって、
【化2】

式中、mが1から3までの任意の整数であり、NH_(3)^(+)が、任意では存在しなくてもよく、また、
Y^(-)が薬学的に許容されるアニオンであり、
少なくとも第1のヘルパー脂質と、ここで、前記第1のヘルパー脂質が、リン脂質およびステロイドからなる群から選択され、
インビボ条件下において、脂質組成物から任意で除去することができる遮蔽化合物と、ここで、前記遮蔽化合物が、ポリエチレングリコール(PEG)、ヘキサエチレングリコール(HEG)、ポリヒドロキシエチルスターチ(ポリHES)、およびポリプロピレンからなる群から選択される、
を含む組成物であって、
前記担体を含有する前記脂質組成物が、50から600mosmole/kgのオスモル濃度を有し、かつ、
前記第1の脂質成分、および/または前記担体中の前記ヘルパー脂質および前記遮蔽化合物の一方または両方よって形成されるリポソームの粒子径が30から100nmである脂質組成物の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が核酸を含み、肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮に前記核酸を送達するためのものである、使用。」

2 原査定における拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由は、要するに、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるので特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:国際公開第2005/105152号

3 当審の判断
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第2005/105152号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 なお、刊行物1は英語で記載されているため、対応する日本語公報(特表2007-536324号公報)の記載に基づく訳文で記す。(記載箇所を示す括弧内には当該日本語公報における記載箇所を併せ示す。)

(刊1a)「7.化合物が、
- β-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド
……
と、
- β-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-ラウリル-N-ミリスチル-アミドトリヒドロクロリド
……
と、
- ε-アルギニル-リシン-N-ラウリル-N-ミリスチル-アミドトリヒドロクロリド
……
とを含む群より選択される、請求項1から6のいずれか記載の化合物。
……
10. 請求項1から7のいずれか記載の化合物と、薬学的活性化合物と、好ましくは薬学的に許容されうる担体とを含む薬学的組成物。
11. 薬学的活性化合物および/またはさらなる構成成分が、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドおよび核酸を含む群より選択される、請求項8から10のいずれか記載の組成物。
……
14. 核酸が機能的核酸であり、好ましくは該機能的核酸が、RNAi、siRNA、siNA、アンチセンス核酸、リボザイム、アプタマーおよびシュピーゲルマーを含む群より選択される、請求項11または13のいずれか記載の組成物。
15. さらに少なくとも一つのヘルパー脂質構成要素を含み、好ましくは該ヘルパー脂質構成要素が、リン脂質およびステロイドを含む群より選択される、請求項8から14のいずれか記載の組成物。
……
21. 組成物が少なくとも二つのヘルパー脂質を含有する、請求項8から20のいずれか記載の組成物。
……
28. a)50mol%のβ-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、
48mol%の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと、
2mol%の1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-PEG2000と、または
b)50mol%のβ-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、
49mol%の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと、
1mol%のN(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、好ましくはそのナトリウム塩と
を含有する、請求項21から27のいずれか記載の組成物。
……
36. 薬剤の製造のための、好ましくは癌および/または心血管関連疾患の処置のための、請求項1から7のいずれか記載の化合物または請求項8から35のいずれか記載の組成物の使用。
……
39. 薬剤が、内皮細胞、上皮細胞、および腫瘍細胞を含む群より選択される細胞に核酸を投与するためのものであり、好ましくは該細胞が内皮細胞である、請求項36記載の使用。
40. 内皮細胞が脈管構造の内皮細胞である、請求項39記載の使用。
……
42. 脈管構造が、肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される、請求項40記載の使用。」
」(59?64頁:特許請求の範囲【請求項7】?【請求項42】)

(刊1b)「実施例18:陽イオン性リポソームおよびsiRNAから成る複合体(リポプレックス)の製造
脂質フィルム/ケーキ再水和、エタノール注入法、逆相蒸発または界面活性剤透析法のような当技術分野で公知の標準的な技法を用いて、陽イオン性リポソームおよびsiRNAからなるリポプレックスを製造した[……]。

本明細書においてリポプレックスとも呼ばれる、siRNAのような核酸と組み合わせた、このように得られたリポソームは、脂質としてβ-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、追加的に1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンまたは1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンのいずれかを含み、ここで、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンの使用が好ましい。当該リポソームおよびリポプレックスそれぞれの脂質画分は、50mol%ベータ-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、50mol%1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンまたは50mol%1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンのいずれかであった。

50mol%β-アルギニル-2,3-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、50mol%1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンとの組合せは、本明細書においてatuFectとも呼ばれる。

本明細書に開示された他の任意の脂質および脂質組成物は、原則として以前に言及された技法およびさらなる加工工程を用いて製造できるものとする。

リポソームおよびリポプレックスそれぞれは、粒径、多分散度、およびラメラ性に関して調節するためにさらなる加工工程に供される。これらの性質を超音波処理、多孔質膜を通過するような押出し、および均質化、好ましくは高圧均質化によって調整できる。

このように形成したリポソームまたはリポプレックスをBeckman-Coulter N5サブミクロン粒子分析装置を用いた光子相関分光法によって特徴づけ、押出しまたは高圧均質化のいずれかによって粒径を調節した当該リポソームの結果を図12Aおよび12Bにそれぞれ示す。

図12Aから、異なるサイズ排除を有する異なる膜、この場合は1000nmおよび400nmの膜をそれぞれ用いて、リポソームの粒径分布を修正できると解釈できる。両方の場合で、押出し工程を21回繰り返した。しかし、本発明の範囲内でサイズ排除は約50から5000nmのことがあり、押出し工程を10から50回繰り返すことができる。

図12Bから解釈できるように、高圧均質化もリポソームの粒径分布を修正する適切な手段であり、ここで、当該高圧均質化を適用した場合に、リポソームの粒径はリポソームが供された均質化のサイクル数に依存する。典型的な圧範囲は100?2500barであり、ここで、この場合は適用された圧は1500barであった。」(35頁12行?36頁24行:【0144】?【0151】)

(刊1c)「実施例23: 実施例24から27についての材料および方法
siRNA-リポプレックスの調製
陽イオン性脂質β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド、中性リン脂質1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(Avanti Polar Lipids Inc., Alabaster, AL)、およびPEG化脂質N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩(Lipoid GmbH, Ludwigshafen, Germany)をモル比50/49/1で含む陽イオン性リポソームを、300mM無RNアーゼ滅菌スクロース溶液中での脂質フィルム再水和により総脂質濃度4.34mg/mlとなるように調製した。続いて、EmulsiFlex C3装置(Avestin, Inc., Ottawa, Canada)を用いた高圧均質化(750barで22サイクルおよび1000barで5サイクル)により、多ラメラ分散体をさらに加工した。得られたリポソーム分散体を等体積の0.5625mg/ml siRNAの300mMスクロース溶液と混合して、核酸主鎖ホスフェート対陽イオン性脂質窒素原子の電荷比の計算値を約1対4とした。リポプレックス分散体の粒径は、Quasi Elastic Light Scattering(N5サブミクロン粒子径分析装置、Beckman Coulter, Inc., Miami, FL)により決定された約120nmであった。インビトロ実験には、この分散体を10%血清含有細胞培地に5?20nM siRNAの濃度にさらに希釈した。」(42頁21行?43頁11行:【0187】)

(刊1d)「
図12A


図12B

」(13/29頁?14/29頁:【図12A】?【図12B】)

(2)引用発明
ア 刊行物1((刊1a))の請求項7を引用する場合の請求項10、請求項11、請求項14及び請求項15を引用する請求項21によれば、刊行物1には、特定の脂質化合物と、さらに少なくとも二つのヘルパー脂質と、薬学的活性化合物と、薬学的に許容されうる担体とを含む薬学的組成物であって、薬学的活性化合物がsiRNA等の核酸である薬学的組成物が記載され、この請求項21を引用する請求項28によれば、
脂質化合物と、二つのヘルパー脂質として、
50mol%のβ-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、
49mol%の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと、
1mol%のN(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンのナトリウム塩
を含むと共に、
siRNAである薬学的活性化合物、及び薬学的に許容されうる担体を含む、
薬学的組成物が記載されている。
更に、かかる請求項28を引用する請求項36、39、40、42によれば、このような薬学的組成物を、肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される脈管構造の内皮細胞に核酸を投与するための薬剤の製造において使用することが記載されている。
そして、その配合成分と配合比が一致していることからみて上記請求項28の薬学的組成物の具体的な実施例に対応するといえる、刊行物1の実施例23((刊1c))には、陽イオン性脂質であるβ-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド、中性リン脂質である1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、及びPEG化脂質であるN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩をモル比50/49/1で含む陽イオン性リポソームを、300mM滅菌スクロース溶液中での脂質フィルム再水和により調製し、続いて高圧均質化(750barで22サイクルおよび1000barで5サイクル)によりリポソーム分散体としたものと、siRNAの300mMスクロース溶液とを混合して、リポプレックス分散体を製造したこと、及びBeckman Coulter N5サブミクロン粒子径分析装置で決定されたリポプレックス分散体の粒径は約120nmであったことが記載されている。

イ そうすると、刊行物1には、
「肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される脈管構造の内皮細胞に核酸を投与するための薬剤の製造のための、薬学的組成物の使用であって、
当該薬学的組成物が、
脂質化合物と、二つのヘルパー脂質として、
50mol%のβ-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドと、
49mol%の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと、
1mol%のN(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンのナトリウム塩
を含むと共に、
siRNAである薬学的活性化合物、及び薬学的に許容されうる担体を含むものであり、
β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、及びN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩をモル比50/49/1で含む陽イオン性リポソームを、300mM滅菌スクロース溶液中での脂質フィルム再水和により調製し、続いて高圧均質化(750barで22サイクルおよび1000barで5サイクル)によりリポソーム分散体としたものと、siRNAの300mMスクロース溶液とを混合して、リポプレックス分散体とすることにより調製され、
Beckman Coulter N5サブミクロン粒子径分析装置で測定したリポプレックス分散体の粒径が約120nmである、
薬学的組成物の使用」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド」、「1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン」は、それぞれ本願発明の「第1の脂質成分」、「第1のヘルパー脂質」に相当する。

イ 本願発明の「遮蔽化合物」に関して、本願明細書【0101】に「従って、特に好ましい遮蔽化合物は、ポリエチレングリコール、……であるが、該化合物のいずれも、好ましくは約500?10000Da、より好ましくは約2000?5000Daの分子量を有する。」、【0103】に「特に、遮蔽剤がPEGである場合には、PEGを有する脂質処方剤を提供する (PEG化とも呼ばれる) 」、及び【0150】に「PEG化脂質であるN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩(DSPE-PEG)」と記載されていることから、引用発明の「N(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンのナトリウム塩」がPEG化脂質に該当し、そのうちの「ポリエチレングリコール-2000」の部分が、本願発明の「遮蔽化合物」に相当する。

ウ 引用発明の「薬学的に許容されうる担体」は、本願発明の「担体」に相当する。

エ 引用発明の「β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、及びN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩をモル比50/49/1で含む陽イオン性リポソーム」は、本願発明の「前記第1の脂質成分、および/または前記担体中の前記ヘルパー脂質および前記遮蔽化合物の一方または両方よって形成されるリポソーム」に相当する。

オ そして、引用発明の「β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリド、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、及びN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩をモル比50/49/1で含む陽イオン性リポソーム」を「スクロース溶液中で」「高圧均質化」して調製される「リポソーム分散体」は、本願発明の「担体を含有する」「脂質組成物」に相当するといえる。

カ 引用発明は、上記オのとおり脂質組成物に相当するリポソーム分散体を使用して、核酸であるsiRNAと共にリポプレックス分散体を調製するものであるから、このことは、本願発明が「脂質組成物の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が核酸を含」むことに相当するといえる。

キ 引用発明において核酸を投与する組織が「肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される脈管構造の内皮細胞」であることは、本願補正発明の核酸を送達する組織が「肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮」であることと、肺、心臓、膵臓、腎臓の内皮をターゲットとする点で共通する。

ク してみると、本願発明と引用発明とは、
「担体に含有される、および/または担体を含有する脂質組成物であって、
少なくとも第1の脂質成分と、ここで、前記第1の脂質成分が、下記の化学式(I)に記載された化合物であって、
【化1】

式中、R_(1)およびR_(2)がそれぞれ独立して、アルキルを含む基から選択され、
nが1から4までの任意の整数であり、
R_(3)が、下記の化学式(II)に記載のリシル、オルニチル、2,4-ジアミノブチリル、ヒスチジル、およびアシル部分であって、
【化2】

式中、mが1から3までの任意の整数であり、NH_(3)^(+)が、任意では存在しなくてもよく、また、
Y^(-)が薬学的に許容されるアニオンであり、
少なくとも第1のヘルパー脂質と、ここで、前記第1のヘルパー脂質が、リン脂質およびステロイドからなる群から選択され、
インビボ条件下において、脂質組成物から任意で除去することができる遮蔽化合物と、ここで、前記遮蔽化合物が、ポリエチレングリコール(PEG)、ヘキサエチレングリコール(HEG)、ポリヒドロキシエチルスターチ(ポリHES)、およびポリプロピレンからなる群から選択される、
を含む組成物であって、
かつ、
前記第1の脂質成分、および/または前記担体中の前記ヘルパー脂質および前記遮蔽化合物の一方または両方よって形成されるリポソームである脂質組成物の、医薬の製造のための使用であって、前記医薬が核酸を含み、肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮に前記核酸を送達するためのものである、使用。」の発明である点で一致し、
次の点で一応、相違する。

<相違点1>
本願発明は、担体を含有する前記脂質組成物が「50から600mosmole/kgのオスモル濃度を有」すると特定されているの対して、引用発明におけるリポソーム分散体はそのオスモル濃度が明らかではない点。

<相違点2>
本願発明は、「リポソームの粒子径が30から100nm」と特定されているのに対して、引用発明は、「リポプレックス分散体の粒径が約120nm」であるが、リポソームの粒子径は明らかではない点。

(4)相違点についての判断
ア <相違点1>について
引用発明において、リポソーム分散体は、300mMスクロース溶液中で調製されており、オスモル濃度に影響を与える因子は、300mMのスクロース(ショ糖)の他に陽イオン性脂質であるβ-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミドトリヒドロクロリドやPEG化脂質であるN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩に基づくイオンなどが考えられるが、刊行物1の実施例23((刊1c))の「300mM無RNアーゼ滅菌スクロース溶液中での脂質フィルム再水和により総脂質濃度4.34mg/mlとなるように調製した。」なる記載からみて、ショ糖の濃度に比べて、ショ糖以外にオスモル濃度に影響を与える因子の濃度は小さいといえるので、リポソーム分散体のオスモル濃度は、600mosmole/kgより小さい値であるといえる。
このことは、本願明細書【0096】の「オスモル濃度の調節するについては、糖または糖類の配合物が特に有用である。その限りにおいて、本発明の脂質組成物は、以下の糖類のうちの1つまたはいくつかを含むことができる。ショ糖、トレハロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、マルトース、ラクツロース、イヌリン、およびラフィトース、ただし、ショ糖、トレハロース、イヌリン、およびラフィトースが特に好ましい。特に好ましい実施形態において、主に糖の添加によって調節されるオスモル濃度は約300mosmole/kgであり、これは270mMのショ糖溶液または280mMのグルコース溶液に相当する。好ましくは、担体は、そのような脂質組成物が投与されることになる体液と等張である。本明細書において、主に糖の添加によって調節されるオスモル濃度という用語は、オスモル濃度の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%が、前記糖または前記糖類配合物によってもたらされることを意味する。」との記載や、本願明細書の実施例1(【0150】)では、上記刊行物1の実施例23と全く同一の成分と濃度でカチオン性リポソームを調製していることから、引用発明におけるリポソーム分散体のオスモル濃度と本願明細書の実施例1で調製されたリポソーム分散液のオスモル濃度とに格別差違がないことが推認されることからも首肯できるものである。
したがって、引用発明における、リポソーム分散体のオスモル濃度は、本願発明で特定されている範囲内の値であり、<相違点1>は実質的な相違点ではない。

イ <相違点2>について
イ-1
(ア)ここで、本願明細書の実施例1及び2には、以下のとおり記載されている。
・「【0150】
<siRNA-リポプレックスの調製および特徴>
脂質膜を、RNaseフリーの300mM滅菌ショ糖溶液で、総脂質濃度4.34,g/ml(当審注:4.34mg/mlの誤記)の300mMショ糖、pH=4.5?6.0に再水和することによって、β-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸-N-パルミチル-N-オレイル-アミド三塩酸である新規のカチオン性脂質AtuFECT01(Atugen AG(Berlin))、中性/ヘルパー脂質リン脂質である1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPhyPE)(Avanti Polar Lipids Inc.,Alabaster,AL)、およびPEG化脂質であるN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩(DSPE-PEG)(Lipoid GmbH,Ludwigshafen,Germany)を50/49/1というモル比で含むカチオン性リポソームを調製した。そして、この多重膜分散液を、EmulsiFlex C3装置(Avestin,Inc.,Ottawa,Canada)を用いた高圧ホモジナイズ法(750バールにて22サイクル、そして1000バールにて5サイクル)によってさらに処理した。siRNA-リポプレックス(AtuPLEX)を生成させるために、得られたリポソーム分散液を、等量の300mMショ糖液中0.5625mg/mlのsiRNA溶液と混合したところ、核酸のリン酸骨格対カチオン性脂質の窒素原子の計算電荷比が約1:4となった。リポソームとリポプレックス分散物のサイズを、準弾性光散乱法(N5 Submicron Particle Size Analyzer,Beckman Coulter,Inc.,Miami,FL)によって決定し、Zetasizer Nano-ZS(Malvern Instruments,Worcestershire,UK)を用いてζ電位を測定した。」
・「【0160】
実施例2:インビトロにおけるsiRNA-リポプレックスの特性
本発明者らは、3’突出を持たない19重合体のsiRNA二重鎖であって、両鎖上を交互に2’-O-メチル糖修飾し、実施例1の表1に図示されているように、修飾されていないヌクレオチドが修飾されたヌクレオチドと反対鎖同士で向き合うようにすることによって化学的に安定化されている(Czauderna et al.,2003)siRNA二重鎖を用いた。
【0161】
これら特別に修飾された分子が、RNAi活性を保持しつつ、血清ヌクレアーゼに対する抵抗性を促進することが、これまでに細胞培養(エクスビボ)(Czauderna et al.,2003)において明らかにされている。まず、本発明者らは、これらの分子が、カチオン性リポソームと複合体を形成するか、あるいは非処方(「未修飾」)で、細胞培養においてRNAiをもたらすか否かを解析した。本目的のため、本発明者らは、新規に設計され、AtuFECT01と名付けられたカチオン性脂質を、市販されているヘルパー脂質であって、その構造を図1aに示した脂質と組み合わせて合成した。この新規の脂質は、高電荷の頭部基に特徴があり、他の市販されているカチオン性脂質、例えば、DOTAPやDOTMAに比べて効率のよいsiRNA結合ができるようになっている。以下の研究では、本発明者らは、正に荷電したリポソーム(50モル%カチオン性脂質AtuFECT01、49モル%中性/ヘルパー脂質DPhyPE、および1モル%DSPE-PEG)からなるsiRNA-リポプレックスを、様々な標的特異的siRNA分子と組み合わせて用いた。QELS(90°の角度における単一モード解析)およびζ電位測定によって、サイズと電荷について、リポソームおよびsiRNA-リポプレックスの特徴を調べた。その結果を図1cおよび1dに示す。代表的なカチオン性脂質処方剤のζ電位は+63mVであったが、本発明に係るリポプレックス処方剤は、+46mVというζ電位を示した。」
・【図1c】には、リポソーム及びsiRNA-リポプレックスの平均粒子サイズがそれぞれ、58.4nm及び117.8nmであることが図示されている。

(イ)上記(ア)のとおり、本願の実施例2は、実施例1と同一の配合成分を同一の配合割合で用い、実施例1において挙げられたsiRNA二重鎖を用いてsiRNA-リポプレックスを作製しているから、その調製条件も実施例1に従ったものと解するのが自然であり、本願の実施例1の調製条件で作製されるリポソームの平均粒子サイズは、58.4nm程度であると解される。

(ウ)一方、引用発明における「リポソーム分散体」の調製条件は、本願の実施例1と全く同一であり、その「リポソーム分散体」とsiRNAの300mMスクロース溶液とを混合して調製された「リポプレックス分散体の粒径が約120nm」であって、上記(ア)のとおりの本願実施例2のsiRNA-リポプレックスの平均粒子サイズの117.8nmに近似していることを勘案すれば、引用発明の「リポソーム分散体」の平均粒子サイズ(粒子径)は、58.4nm程度であるとみるのが自然である。

(エ)したがって、引用発明におけるリポソームの粒子径は、本願発明で特定されている範囲内のものであり、<相違点2>も実質的な相違点ではない。
そうすると、本願発明と引用発明とに差違はなく、両者は同一である。

イ-2
(オ)仮に、引用発明の「リポソーム分散体」の平均粒子サイズ(粒子径)は、58.4nm程度であるということはできない、すなわち、<相違点2>は実質的な相違点である、としても、刊行物1((刊1b))には、高圧均質化によって粒径を調節することができること、リポソームの粒径はリポソームが供された均質化のサイクル数に依存することが記載されており、図12B((刊1d))には、1500barで例えば4サイクル高圧均質化を行えば粒径(単峰分布の平均粒径)を80nmより小さく(横軸の対数目盛(粒径(nm)[log])で80よりは小さく)できることが示されている。
そうすると、刊行物1には、肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される脈管構造の内皮細胞に核酸を投与する薬剤の製造にあたり、高圧均質化を行うことによりリポソームの粒径を80nmより小さく調節するという技術が開示されているといえる。

(カ)そうであるところ、リポソーム等の微粒子を用いた薬剤送達システム(DDS)の研究開発において、リポソーム等の微粒子のサイズは効率よく薬物を送達させる上での重要な因子であって、微粒子のサイズを調節することは、本願優先日前に周知の技術事項である(必要であれば、原出願の拒絶の理由で引用された下記文献A、B等参照のこと。)。

文献A:特表2004-508012号公報(特に、【0106】参照。)
文献B:特表平11-507537号公報(特に、33頁12行?34頁24行参照。)

(キ)してみると、上記(カ)の周知事項の認識の下、引用発明において、刊行物1に開示されるリポソームの粒径の範囲内で、その最適化を図るべく、<相違点2>に係る数値範囲程度の粒径とすることは当業者が通常行う創作活動に過ぎず、当業者が容易になし得ることである。
そして、引用発明が、肝臓脈管構造のみならず、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造への核酸の送達も意図するものである以上、最適化された粒径のリポソームを用いることにより奏される効果は、刊行物1の記載及び周知事項から予測しうる範囲内のものである。
一方、本願明細書では、実施例4、5において心臓、肺の内皮細胞にsiRNAが取り込まれたことを確認したこと、及び同じような内皮細胞特異的siRNA取り込みが、肝臓、膵臓、腎臓、小腸、胃などでも観察されたことが記載されているが、本願明細書の記載を見る限り、リポソームの粒子径が100nmを境に、内皮細胞への送達効率が顕著に改善したとか、それより大きい粒子径を用いた場合には取り込まれなかったものが100nmを境に取り込まれるようになったといった効果を奏するものとは認められない。すなわち、リポソームの粒子径の100nmという上限値自体に臨界的意義があるものとは認められず、リポソームの粒子径の範囲を30から100nmと数値限定したことにより、その範囲を外れた場合に比べて当業者が予測できない異質な効果あるいは格別顕著な効果を奏すものとは認められない。

(5)平成28年6月1日受付の上申書における請求人の主張について
請求人は、上申書で次のとおり主張している。
「1)引用文献1(当審注:刊行物1)は、リポソーム粒子径を変更することにより、リポソームが送達される組織の特異性が変化することについては記載も示唆もなく、リポソームの粒子径を30から100nmに特定することに対し、何らの動機付けを与えるものではありません。
2)本願請求項1に係る発明は、リポソームの粒子径が30から100nmである脂質組成物の優れた効果を新規に見出したことに基づく選択発明です。
3)本出願に開示される脂質組成物は、引用文献1のリポソームよりも小さい30から100nmの粒子径を有することにより、血清中のタンパク質などの成分とともに凝集しにくく、より広範な組織の内皮細胞に取り込まれるという優れた効果を有します。」(1)?3)の項分けは当審による。)
しかし、上記主張はいずれも採用できない。理由は以下のとおりである。

1)について:
上記(カ)で述べたとおり、DDSにおいてリポソーム等の微粒子サイズが重要でサイズを調節することは周知事項であるから、刊行物1に高圧均質化によるリポソームの粒径の調節に関する記載があることからして、刊行物1では引用発明におけるリポソームの粒径の調節の可能性を示唆している(すなわち、粒径を変更する動機付けは十分に存在する)ものといえ、しかも、刊行物1の図12B「リポソームの粒径調節」の粒径範囲として100nm以下が示されている以上、リポソームの粒子径を特定することに対して何らの動機付けがないとの請求人の主張は採用できない。

2)及び3)について:
引用発明と本願発明との相違は数値限定の有無のみであるから、上位概念と下位概念の関係にあるとはいえないし、本願発明の「肺、心臓、膵臓、小腸、胃、腎臓および脾臓から選択される組織の内皮に前記核酸を送達するための」との特定事項と、引用発明の「肝臓脈管構造、心臓脈管構造、腎臓脈管構造、膵臓脈管構造、および肺脈管構造を含む群より選択される脈管構造の内皮細胞に核酸を投与するための」との特定事項とを比べると、その選択肢は、肝臓を含むか否かの点を除いて重複しており、選択肢の一部を発明特定事項として選択したものともいえないので、審査基準(第III部第2章第4節「7.選択発明」参照)でいう「選択発明」には当たらない。
そして、「数値範囲の選択」に基づく顕著な効果の主張については、本願発明の脂質組成物が刊行物1に記載されるリポソームより小さいとは直ちに断言できないことは、上記「(4)イ-1」で述べたとおりであり、「より広範な組織の内皮細胞に取り込まれるという優れた効果」については、上記「(4)イ-2」で述べたとおり、刊行物1の記載及び周知事項より予測可能なものである。また、「血清中のタンパク質などの成分とともに凝集しにくく」との効果の主張は、本願明細書の記載に基づくものとはいえないので、採用できない。

(6)小括
上記のとおり、本願発明は引用発明との対比において相違点が認められず、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、同刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-18 
結審通知日 2017-07-20 
審決日 2017-08-03 
出願番号 特願2013-236912(P2013-236912)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 直寛  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安川 聡
小川 慶子
発明の名称 血管内皮に特異的に送達するためのリポプレックス処方剤  
代理人 水島 亜希子  
代理人 中村 綾子  
代理人 森本 聡二  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 河村 英文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ