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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1336127
異議申立番号 異議2017-700193  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2017-11-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5981065号発明「燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5981065号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第5981065号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5981065号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成28年6月8日(国内優先権主張 平成27年7月1日)の出願であって、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年5月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年8月4日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求に対して申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はされなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、明細書の段落【0025】の記載を、次のように訂正前から訂正後へと訂正するものである。

[訂正前]
「【0025】
空気極50は、主相と第二相のほか、一般式ABO_(3)で表され、主相とは異なるペロブスカイト型酸化物、及び主相の構成元素の酸化物などによって構成されるによって構成される第三相を含んでいてもよい。主相の構成元素の酸化物としては、例えば、SrO、(Co,Fe)_(3)O_(4)、及びCo_(3)O_(4)などが挙げられる。(Co,Fe)_(3)O_(4)には、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)、及びCoFe_(2)O_(4)などが含まれる。」

[訂正後]
「【0025】
空気極50は、主相と第二相のほか、一般式ABO_(3)で表され、主相とは異なるペロブスカイト型酸化物、及び主相の構成元素の酸化物などによって構成されるによって構成される第三相を含んでいてもよい。主相の構成元素の酸化物としては、例えば、(Co,Fe)_(3)O_(4)、及びCo_(3)O_(4)などが挙げられる。(Co,Fe)_(3)O_(4)には、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)、及びCoFe_(2)O_(4)などが含まれる。」(下線部は、訂正により変更された部分を示す。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、訂正前の明細書の段落【0025】の記載が、第三相にSrOが含まれ、第二相がSrOであるとの記載と整合していなかったものを、第三相に含まれるSrOを削除して整合を図ったものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の明細書について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、酸化ストロンチウムによって構成される第二相とを含む空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である、
燃料電池。
【請求項2】
前記空気極の断面における前記第二相の平均円相当径は、10nm以上500nm以下である、
請求項1に記載の燃料電池。」

2 特許異議申立理由の概要
(1)本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(2)本件発明1は明確ではなく、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(3)本件発明1、2は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第6号証に記載された発明および甲第7号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1、2に係る特許は取り消すべきものである。

(4)本件発明1は、その出願前日本国内または外国において公然知られた発明または公然実施された発明、および、甲第7-9号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る特許は取り消すべきものである。

(5)本件発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る特許は取り消すべきものである。

(6)本件発明1、2は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1、2に係る特許は取り消すべきものである。


甲第1号証:特開2012-74307号公報
甲第2号証:特開2010-80151号公報
甲第3号証:特開2014-129186号公報
甲第4号証:特許第5981065号公報
甲第5号証:特開2015-88442号公報
甲第6号証:特開2014-89816号公報
甲第7号証:特開2013-191570号公報
甲第8号証:ドンジョ・オー(Dongio Oh)、外2名、J.Mater.Res、マテリアル・リサーチ・ソサイヤティ2012(Materials Research Society 2012)、2012年8月14日、Volume27、No.15、p.1992-1999
甲第9号証:チェン・ヨンホン(Chen Yonghong)、外5名、JOURNAL OF RARE EARTHS、(中国)、2005年8月、Volume23、No.4、p.437-441
甲第10号証:特開2012-164500号公報
甲第11号証:特開2015-38856号公報

3 平成29年5月31日付け取消理由通知の要旨
本件発明1、2が備える「空気極」は、「酸化ストロンチウムによって構成される第二相」を含むものである。
この点に関し、発明の詳細な説明の段落【0025】には、「空気極50は、主相と第二相のほか、一般式ABO_(3)で表され、主相とは異なるペロブスカイト型酸化物、及び主相の構成元素の酸化物などによって構成されるによって構成される第三相を含んでいてもよい。主相の構成元素の酸化物としては、例えば、SrO、(Co,Fe)_(3)O_(4)、及びCo_(3)O_(4)などが挙げられる。」と記載されている。
この記載において、空気極が、主相および第二相のほか、SrO(酸化ストロンチウム)によって構成される第三相を含む場合があるが、本件発明1、2における「酸化ストロンチウムによって構成される第二相」は、この場合における第三相を含むのか否か不明であり、本件発明1、2における「酸化ストロンチウムによって構成される第二相」は明確でない。
また、第三相を構成するSrOは、主相を構成するペロブスカイト型酸化物から後発的に生成したSrOだけを意味し、第二相を構成するSrOは、意図的に混合されたSrOだけを意味するとも考えられるが、空気極の解析画像から抽出されたSrOがどちらのSrOなのかを判別することは困難であり、その結果、本件発明の技術的範囲が不明確である。
したがって、本件発明1、2は明確でなく、請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正により、発明の詳細な説明の段落【0025】において、第三相を構成する酸化物の例示としてSrOが削除された。
したがって、発明の詳細な説明で、空気極が、主相および第二相のほか、SrO(酸化ストロンチウム)によって構成される第三相を含む場合はなくなり、本件発明1、2における「酸化ストロンチウムによって構成される第二相」は明確でないとはいえなくなった。
よって、“請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである”ということはできない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項1号)について

ア 第二相の面積占有率について(特許異議申立書第10頁第12行目-第13頁第9行目)
申立人は、空気極の劣化の抑制という課題を解決するためには、第二相と主相との反応を抑制する必要があるから、第二相の面積占有率のみでなく主相の面積占有率と気相の面積占有率も考慮する必要があり、請求項1のように「第二相の面積占有率」を「3%以下」と特定するのみでは空気極の劣化を抑制できない態様を含んでいるから、本件発明1、2の範囲まで発明の詳細な説明において開示されている内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。

しかしながら、第二相に比べてその反応相手である主相の量は十分大きく、反応するのは主に両者が接している部分のみであるから、全体の3%程度である第二相にとっては、主相や気相の面積占有率が、“該反応が抑制されるか否か”に及ぼす影響は限定的であり、本件発明1が空気極の劣化を抑制できない態様を含んでいるとは必ずしもいえない。本件発明2についても同様である。
よって、申立人の上記主張は当を得ないものであり、“請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである”ということはできない。

イ 空気極の断面における第二相の面積占有率について(特許異議申立書第13頁第10行目-第15頁第14行目)
申立人は、本件発明1、2における「空気極の断面」は、任意の断面を意味しているのか、それとも特定の1つの断面だけを意味しているのか不明であるから、請求項1に記載の「空気極の断面における第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である」ことには、空気極の全領域において、第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である「全領域態様」と、空気極の一部領域だけにおいて、第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である「一部領域態様」との2つの態様が含まれる。この2つの態様について、発明の詳細な説明には、全領域態様を前提とした記載があるのみであり、一部領域態様については具体的な記載が全くなく、一部領域態様については、本件発明の課題を解決できるか否かが不明であるから、本件発明1、2の範囲まで発明の詳細な説明において開示されている内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。

しかしながら、本件明細書記載の実施例において、空気極は領域を区別せず均一に作られているものである(明細書の段落【0043】?【0047】を参照)から、「空気極の断面」は任意の断面を意味していることは明らかであり、申立人も主張するように、発明の詳細な説明には、全領域態様を前提とした記載があるのみであり、一部領域態様については具体的な記載は全くないから、本件発明1、2は、全領域態様を前提とした、一部領域態様を含まない発明であるといえる。したがって、仮に、一部領域態様が本件発明の課題を解決できるか否かが不明であるとしたとしても、本件発明1、2が本件発明の課題を解決できるか否かが不明であるとはいえない。本件発明2についても同様である。
よって、申立人の上記主張は当を得ないものであり、“請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである”ということはできない。

ウ 空気極の第二相(SrO)以外の成分について(特許異議申立書第15頁第15行目-第25行目、第34頁下から8行目-第35頁下から5行目)
申立人は、本件発明1、2は、甲第5号証の「空気極の断面におけるSrSO_(4)の面積占有率が10.2%以下」(甲第5号証の【請求項1】)という条件を満たさず、本件の課題である空気極の劣化を抑制できない態様を含んでいるから、本件発明1、2の範囲まで発明の詳細な説明において開示されている内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。

しかしながら、甲第5号証の上記条件は、甲第5号証の【0004】、【0005】の記載によれば、燃料電池の初期出力の低下の原因の1つが空気極内部に発生する不活性領域によるものであり、この不活性領域は空気極内部に導入される硫酸ストロンチウム(SrSO_(4))の割合に関係することを新たに見出したとの知見に基づくものであるが、本件発明1、2は、そもそも、SrSO_(4)を用いることについては全く想定していないものであり、SrSO_(4)の面積占有率は本件発明1、2に無関係な事項であるから、本件発明1、2が、本件の課題である空気極の劣化を抑制できない態様を含んでいるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は当を得ないものであり、“請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである”ということはできない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について

ア 甲第6号証を主たる証拠とした進歩性(特許異議申立書第19頁下から7行目-第21頁第12行目)
申立人は、燃料電池の空気極を構成する材料としてLaSrCoFe酸化物(ランタンクロマイトの一例)を使用する場合、焼結助剤としてSrOを用いることは従来周知の事項である(甲第7号証を参照)から、甲第6号証に記載された、空気極を構成する材料としてLaSrCoFe酸化物を用いた燃料電池の発明は、空気極がSrOを含むことは明らかであり、甲第6号証に記載された発明において、空気極の断面におけるSrO(本件発明でいう「第二相」)の面積占有率を0.05%以上3%以下とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明および甲第7号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

しかしながら、仮に、焼結助剤としてSrOを用いることが周知の事項であり、甲第6号証に記載された発明において、空気極にSrOを用いることが想定し得ることであるとしても、SrOを用いる量をどの程度にすればよいのか不明であり、特に、面積占有率について全く示唆されていない甲第6号証において、SrOの面積占有率を0.05%以上3%以下とする動機は他の証拠をみても全くなく、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、“本件発明1は、甲第6号証に記載された発明および甲第7号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである”ということはできない。
本件発明2は、本件発明1をさらに限定したものであるから、同じ理由により、“本件発明2は、甲第6号証に記載された発明および甲第7号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである”ということはできない。

イ 本件明細書等による自認発明に基づく進歩性(特許異議申立書第21頁第13行目-第23頁下から4行目)

申立人は、本件明細書等には、SrOを含む空気極を備える燃料電池が、本件出願前に公然知られていた発明、もしくは、公然実施されていた発明に該当することを自認する記載があり、本件発明1は、上記本件出願前に公然知られていた発明、もしくは、公然実施されていた発明(以下、「自認発明」という。)、および、甲第7、8、9号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

しかしながら、本件出願の願書に添付された本件明細書等に記載された事項によっては、本件出願前に公然知られた発明、もしくは、公然実施された発明を認定することはできないから、そのような認定を行う申立人の上記主張は当を得ないものである。
したがって、“本件発明1は、その出願前日本国内または外国において公然知られた発明または公然実施された発明、および、甲第7、8、9号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである”ということはできない。

(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第1項第3号)について

ア 甲第10号証を主たる証拠とした新規性(特許異議申立書第23頁下から2行目-第27頁下から9行目)
申立人は、甲第8号証も参酌すると、本件発明1は、甲第10号証に記載された発明である旨主張している。

甲第10号証には、酸素極に、La_(0.75)Sr_(0.25)MnO_(3)で表されるSrを固溶させたランタンマンガナイトを用いた固体酸化物型燃料電池(SOFC)(【0029】)が記載されており、このSOFCを、発電温度900℃、運転時間50時間で発電試験を行ったこと(【0060】)が記載されている。
また、甲第8号証には、固体酸化物型燃料電池の空気極に用いるLa_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(LSFC)を、800℃または900℃で50時間熱処理をすると、LSFCの表面にSr-Oをベースとした沈殿物が形成され、LSFCの表面における触媒活性の相当な劣化を引き起こすこと(第1993頁左欄下から3行目-第8行目、第1998頁左欄下から5行目-下から1行目)が記載されている。
甲第8号証の技術事項を参酌すると、甲第10号証に記載された固体酸化物型燃料電池の酸素極は、熱処理によって、表面にSr-Oをベースとした沈殿物が形成され、LSFCの表面における触媒活性の相当な劣化を引き起こしていると推測されるかも知れない。
しかしながら、甲第8号証における、LSFCの表面にSr-Oをベースとした沈殿物が形成され、LSFCの表面における触媒活性の相当な劣化を引き起こしたものは、「Sr-Oは、絶縁物であり、Srの凝集は遷移金属の欠乏を引き起こす」との記載から、Sr-Oが形成されることにより、LSCF(本発明でいう「主相」)は、すでに劣化してしまっており、主相の構成が異なるものとなっていると考えられ、甲第10号証に記載されたものについても同様に酸素極はすでに劣化してしまっていると考えられる。
したがって、甲第10号証に記載された、熱処理後の固体酸化物型燃料電池が、空気極の劣化を抑制できたとする本件発明1と同じものであるとはいえない。
よって、“本件発明1は、甲第10号証に記載された発明である”ということはできない。

イ 甲第5号証を主たる証拠とした新規性(特許異議申立書第27頁下から8行目-第34頁下から9行目)
申立人は、本件発明1、2は、甲第5号証に記載された発明である旨主張している。

甲第5号証には、「燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相と、含む空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、
燃料電池セル」(【請求項1】)が記載されている。
そして、試験評価を行うことにより、甲第5号証のものは、空気極の劣化率として、本件発明と同じ1.5パーセント以下との評価結果が得られること(【0065】-【0069】)が記載されている。
しかしながら、甲第5号証のものは、空気極の第二相が硫酸ストロンチウムを主成分とするものであって、その面積占有率を10.2%以下とすることにより課題を解決しているものであり、本件発明のような酸化ストロンチウムの面積占有率の値については全く示唆がないから、結果として劣化率が同一であるからといって、甲第5号証のものが空気極に酸化ストロンチウムを含んでいるとは断定できないし、ましてや、その面積占有率の範囲を導くことはできない。
よって、“本件発明1は、甲第5号証に記載された発明である”ということはできない。
本件発明2は、本件発明1をさらに限定したものであるから、同じ理由により、“本件発明2は、甲第5号証に記載された発明である”ということはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は適法なものである。
また、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に、本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
燃料電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備える燃料電池が知られている。空気極の材料としては、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物が好適である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-32132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発電を繰り返すうちに燃料電池の出力は低下する場合がある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に存在する酸化ストロンチウムの割合に関係することを新たに見出した。
【0005】
本発明は、このような新たな知見に基づくものであって、出力低下を抑制可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る燃料電池は、燃料極と、空気極と、燃料極および空気極の間に配置される固体電解質層とを備える。空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、酸化ストロンチウムによって構成される第二相とを含む。空気極の断面における第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力低下を抑制可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】燃料電池の構成を示す断面図
【図2】空気極の断面の反射電子像
【図3】図2の画像解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。
【0010】
(燃料電池10の構成)
燃料電池10の構成について、図面を参照しながら説明する。燃料電池10は、いわゆる固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型などの形態を取りうる。
【0011】
図1は、燃料電池10の構成を示す断面図である。燃料電池10は、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40、空気極50及び集電層60を備える。
【0012】
燃料極20は、燃料電池10のアノードとして機能する。燃料極20は、図1に示すように、燃料極集電層21と燃料極活性層22を有する。
【0013】
燃料極集電層21は、ガス透過性に優れる多孔質体である。燃料極集電層21を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極集電層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)やNiO‐Y_(2)O_(3)(イットリア)が挙げられる。燃料極集電層21がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極集電層21の厚みは、例えば0.1mm?5.0mmとすることができる。
【0014】
燃料極活性層22は、燃料極集電層21上に配置される。燃料極活性層22は、燃料極集電層21より緻密な多孔質体である。燃料極活性層22を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極活性層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO‐8YSZが挙げられる。燃料極活性層22がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極活性層22の厚みは、例えば5.0μm?30μmとすることができる。
【0015】
固体電解質層30は、燃料極20と空気極50の間に配置される。本実施形態において、固体電解質層30は、燃料極20とバリア層40に挟まれている。固体電解質層30は、空気極50で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層30は、燃料極20や空気極50よりも緻密質である。
【0016】
固体電解質層30は、ZrO_(2)(ジルコニア)を主成分として含んでいてもよい。固体電解質層30は、ジルコニアの他に、Y_(2)O_(3)(イットリア)及び/又はSc_(2)O_(3)(酸化スカンジウム)等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層30において、安定化剤のジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:ジルコニア)は、3:97?20:80程度とすることができる。従って、固体電解質層30の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、10YSZ、或いはScSZ(スカンジアで安定化されたジルコニア)などが挙げられる。固体電解質層30の厚みは、例えば3μm?30μmとすることができる。
【0017】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが70重量%以上を占め、より好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。
【0018】
バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に配置される。バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。バリア層40は、燃料極20や空気極50よりも緻密質である。バリア層40は、GDC(ガドリニウムドープセリア)やSDC(サマリウムドープセリア)などのセリア系材料を主成分とすることができる。バリア層40の厚みは、例えば3μm?20μmとすることができる。
【0019】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、燃料電池10のカソードとして機能する。空気極50は、多孔質体である。
【0020】
空気極50は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主成分として含有する。このようなペロブスカイト型酸化物としては、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、(La,Sr)FeO_(3)(ランタンストロンチウムフェライト)、(La,Sr)CoO_(3)(ランタンストロンチウムコバルタイト)、La(Ni,Fe)O_(3)(ランタンニッケルフェライト)、(La,Sr)MnO_(3)(ランタンストロンチウムマンガネート)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0021】
空気極50は、酸化ストロンチウム(SrO)を副成分として含有する。SrOは、立方晶系の塩化ナトリウム型結晶構造を有する。
【0022】
空気極50の断面において、主成分のペロブスカイト型酸化物によって構成される主相の面積占有率は特に制限されないが、91%以上99.95%以下とすることができる。空気極50の断面において、SrOによって構成される第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できる。また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、空気極50の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるため、通電時に空気極50の微構造が変化することを抑制できる。その結果、空気極50の耐久性を向上させることができる。
【0023】
本実施形態において「断面における物質Zの面積占有率」とは、気孔と固相を含む総面積に対するに対する物質Zの合計面積の割合をいう。面積占有率の算出方法については後述する。
【0024】
空気極50の断面における第二相の平均円相当径は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。これによって、空気極50の劣化率をより低減させることができる。円相当径とは、後述するFE-SEM(Field Emission - Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)画像を解析した解析画像上において第二相と同じ面積を有する円の直径である。平均円相当径とは、20個以上の第二相の円相当径を算術平均した値である。円相当径の測定対象である20個以上の第二相は、5箇所以上のFE-SEM画像から任意に選択することが好ましい。
【0025】
空気極50は、主相と第二相のほか、一般式ABO_(3)で表され、主相とは異なるペロブスカイト型酸化物、及び主相の構成元素の酸化物などによって構成されるによって構成される第三相を含んでいてもよい。主相の構成元素の酸化物としては、例えば、(Co,Fe)_(3)O_(4)及びCo_(3)O_(4)などが挙げられる。(Co,Fe)_(3)O_(4)には、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)、及びCoFe_(2)O_(4)などが含まれる。
【0026】
空気極50の断面における第三相の面積占有率は、0.5%以上10%以下とすることが好ましい。これによって、焼成後だけでなく熱サイクル試験後における微小クラックも抑制することができる。熱サイクル試験とは、Arガス及び水素ガス(Arに対して4%)を燃料極に供給することで還元雰囲気を維持しつつ、常温から800℃まで2時間で昇温した後に4時間で常温まで降温させるサイクルを10回繰り返す試験である。
【0027】
集電層60は、空気極50上に配置される。集電層60は、次の組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物によって構成することができるが、これに限られるものではない。集電層60の材料は、空気極50の材料よりも電気抵抗の小さいことが好ましい。
【0028】
La_(m)(Ni_(1-x-y)Fe_(x)Cu_(y))_(n)O_(3-δ)・・・(1)
組成式(1)のAサイトにはLa以外の物質が含まれていてもよく、BサイトにはNi、Fe及びCu以外の物質が含まれていてもよい。組成式(1)において、m及びnは0.95以上1.05以下であり、x(Fe)は0.03以上0.3以下であり、y(Cu)は0.05以上0.5以下であり、δは0以上0.8以下である。
【0029】
(空気極断面における面積占有率の算出方法)
次に、図面を参照しながら、空気極断面における面積占有率の算出方法について説明する。以下においては、第二相の面積占有率の算出方法について説明するが、主相及び第三相の面積占有率についても同様に算出することができる。
【0030】
(1)反射電子像
図2は、反射電子検出器を用いたFE-SEMによって倍率1万倍に拡大された空気極50の断面を示す反射電子像の一例である。図2では、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)を主成分として含有する空気極50の断面が示されている。なお、空気極50の断面には、精密機械研磨とイオンミリング加工処理とが予め施されている。図2の反射電子像は、Zeiss社(ドイツ)製のFE-SEM(型式:ULTRA55、加速電圧:1.5kV、ワーキングディスタンス:2mm)によって得られたものである。
【0031】
図2では、主相((La,Sr)(Co,Fe)O_(3))、第二相(SrO)及び気孔の明暗差が異なっており、主相が“灰白色”、第二相が“灰色”、気孔が“黒色”で表示されている。この反射電子像のコントラストから、主相、第二相及び気孔を同定することができる。
【0032】
(2)反射電子像の解析
図3は、図2に示す反射電子像をMVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONによって画像解析した結果を示す図である。図3では、第二相が黒色実線で囲まれて白抜きされている。
【0033】
(3)面積占有率の算出
図3の解析画像において、白抜きされた第二相の合計面積を算出する。そして、反射電子像全体(気相と固相を含む)の面積に対する第二相の合計面積の割合を算出する。このように算出される第二相の合計面積の割合が、空気極50における第二相の面積占有率である。
【0034】
(空気極材料)
空気極50を構成する空気極材料としては、主成分としてのペロブスカイト型酸化物と副成分としてのSrOとを含む混合材料を用いることができる。SrOは、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム又は硝酸ストロンチウムの形態で混合されていてもよい。
【0035】
SrOを含む材料粉末の添加量を調整することによって、空気極50における第二相の面積占有率を調整することができる。
【0036】
SrOを含む材料粉末の粒度を調整することによって、空気極50における第二相の平均円相当径を調整することができる。SrOを含む材料粉末の粒度調整においては、気流式分級機を用いることによって、粒径の上限値及び下限値の調整を含む精密な分級が可能である。SrOを含む材料粉末の粒度を粗くすれば第二相の平均円相当径を大きくすることができ、粒度を細かくすれば第二相の平均円相当径を小さくすることができる。また、SrOを含む材料粉末の粒度分布を大きくすれば第二相の平均円相当径を大きくすることができ、粒度分布を小さくすれば第二相の平均円相当径を小さくすることができる。
【0037】
(燃料電池10の製造方法)
次に、燃料電池10の製造方法の一例について説明する。
【0038】
まず、金型プレス成形法で燃料極集電層用材料粉末を成形することによって、燃料極集電層21の成形体を形成する。
【0039】
次に、燃料極活性層用材料粉末と造孔剤(例えばPMMA)との混合物にバインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を添加して燃料極活性層用スラリーを作製する。そして、印刷法などによって燃料極活性層用スラリーを燃料極集電層21の成形体上に印刷することによって、燃料極活性層22の成形体を形成する。以上により燃料極20の成形体が形成される。
【0040】
次に、固体電解質層用材料粉末にテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質層用スラリーを作製する。そして、印刷法などによって固体電解質層用スラリーを燃料極活性層22の成形体上に塗布することによって、固体電解質層30の成形体を形成する。
【0041】
次に、バリア層用材料粉末にテルピネオールとバインダーを混合してバリア層用スラリーを作製する。そして、印刷法などでバリア層用スラリーを中間層40の成形体上に塗布することによってバリア層40の成形体を形成する。
【0042】
次に、燃料極20、固体電解質層30及びバリア層40それぞれの成形体を焼成(1350℃?1450℃、1時間?20時間)することによって、燃料極20、固体電解質層30及びバリア層40を形成する。
【0043】
次に、上述した空気極50の材料(主成分としてのペロブスカイト型酸化物と副成分としてのSrOとを含む混合材料)と水とバインダーをボールミルで24時間混合することによって空気極用スラリーを作製する。この際、空気極材料へのSrOの混合量を調整することによって、焼成後の空気極50における第二相の面積占有率を制御することができる。
【0044】
次に、印刷法などによって空気極用スラリーをバリア層40上に塗布することによって空気極50の成形体を形成する。
【0045】
次に、上述した集電層60の材料に水とバインダーを添加し混合することによって集電層用スラリーを作製する。
【0046】
次に、集電層用スラリーを空気極50の成形体上に塗布することによって集電層60の成形体を形成する。
【0047】
次に、空気極50及び集電層60の成形体を焼成(1000?1100℃、1?10時間)することによって空気極50及び集電層60を形成する。
【0048】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0049】
燃料電池10は、集電層60を備えることとしたが、集電層60を備えていなくてもよい。
【0050】
燃料電池10は、バリア層40を備えることとしたが、バリア層40を備えていなくてもよい。この場合、空気極50は、固体電解質層30上に配置される。
【0051】
バリア層40は、単層構造であることとしたが、緻密質のバリア層と多孔質のバリア層が積層(順不同)された複層構造であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下において本発明に係る燃料電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
(サンプルNo.1?No.12の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1?No.12に係る燃料電池を作製した。
【0054】
まず、NiO粉末とY_(2)O_(3)粉末と造孔材(PMMA)の調合粉末とIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0055】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することで縦30mm×横30mm、厚み3mmの板を成形し、その板をCIP(成形圧:100MPa)でさらに圧密することによって燃料極集電層の成形体を作製した。
【0056】
次に、NiO‐8YSZとPMMAの調合粉末とIPAを混合したスラリーを燃料極集電層の成形体上に塗布した。
【0057】
次に、8YSZにテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質層用スラリーを作成した。次に、固体電解質層用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって固体電解質層の成形体を形成した。
【0058】
次に、GDCスラリーを作製し、固体電解質層の成形体上にGDCスラリーを塗布することによってバリア層の成形体を作製した。
【0059】
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層の成形体を焼成(1450℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層を形成した。
【0060】
次に、SrOを含む材料(空気極の副成分)粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料(空気極の主成分)粉末に添加して空気極材料を作成した。この際、空気極の断面における第二相(SrO)の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrOの添加量を調整した。また、第二相の平均円相当径が表1に示す値になるように、SrOの粒度を合わせて調整した。
【0061】
次に、空気極材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって空気極用スラリーを作製した。そして、バリア層の成形体上に空気極用スラリーを塗布することによって、空気極の成形体を作製した。
【0062】
続いて、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。
【0063】
(面積占有率の測定)
各サンプルの空気極を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理を施した。
【0064】
次に、反射電子検出器を用いたFE-SEMによって倍率1万倍に拡大された空気極断面の反射電子像を取得した。図2は、サンプルNo.5の空気極断面の反射電子像である。
【0065】
次に、各サンプルの反射電子像をMVTec社製画像解析ソフトHALCONで解析することによって解析画像を取得した(図3参照)。図3では、SrOによって構成される第二相が白抜きで表示されている。
【0066】
そして、反射電子像の総面積(気相と固相を含む)に対する第二相の合計面積の割合を面積占有率として算出した。第二相の面積占有率の算出結果は、表1に示す通りである。
【0067】
(第二相の平均円相当径)
空気極の断面の5箇所において、上述した反射電子像の解析画像を取得し、5枚の解析画像から任意に選択した20個の第二相について平均円相当径を算出した。第二相の平均円相当径の算出結果は、表1に示す通りである。
【0068】
(耐久性試験)
サンプルNo.1?No.12において、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0069】
その後、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。出力密度として、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cm^(2)での値を使用した。測定結果を表1にまとめて記載する。本実施例では、劣化率が1.5%以下であるサンプルが低劣化状態と評価されている。
【0070】
また耐久性試験後に空気極の断面を電子顕微鏡で観察することによって、空気極内部におけるクラックの有無を観察した。表1では、5μm以上のクラックが確認されたサンプルは「有」と評価され、5μm未満のクラックが確認されたサンプルは「有(軽微)」と評価されている。観察結果を表1にまとめて記載する。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示されるように、空気極における第二相(SrO)の面積占有率を0.05%以上3%以下としたサンプルでは、空気極の劣化率を1.5%以下に低減するとともに、微小クラックの発生を抑制することができた。これは、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって空気極内部の不活性部を低減して空気極の劣化を抑制できことと、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって空気極の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化できたことによるものである。
【0073】
また、表1に示されるように第二相の平均円相当径が10nm以上500nm以下のサンプルでは、空気極の内部における微小クラックの発生をさらに抑えることができた。
【符号の説明】
【0074】
10 燃料電池
20 燃料極
30 固体電解質層
40 バリア層
50 空気極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-06 
出願番号 特願2016-114156(P2016-114156)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 853- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河本 充雄
千葉 輝久
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5981065号(P5981065)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料電池  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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