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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1336447
審判番号 不服2016-15582  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-19 
確定日 2018-01-11 
事件の表示 特願2014-91370号「立型沈砂池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-208709号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成26年4月25日の出願であって、平成27年6月9日付けの拒絶理由の通知に対して同年8月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、また、平成28年1月28日付けの拒絶理由の通知に対して同年3月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月19日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正書が提出され、そして、平成29年5月31日付けの当審による拒絶理由の通知に対して同年7月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである

II.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年7月19日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池において、
円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された沈砂槽と、前記取水口を介して前記沈砂槽に接続された取水流路と、前記排出口を介して前記沈砂槽に接続された排出流路と、を有し、
前記取水口は前記排出口より低い位置に設けられ、前記取水流路の中心軸線は前記沈砂槽の円形断面の接線方向に沿って延びており、
前記取水口を介して前記沈砂槽に導かれた水は旋回流となって前記排出口に排出され、
前記沈砂槽は土砂排出口を備え、該土砂排出口を介して前記沈砂槽に土砂排出流路が接続され、
前記土砂排出流路の中心軸線は前記沈砂槽の円形断面の接線方向に沿って延びていることを特徴とする立型沈砂池。」

III.当審による拒絶理由の概要
平成29年5月31日付けの当審による拒絶理由は、「本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である実願昭58-113166号(実開昭60-21310号)のマイクロフィルム(引用例1)記載の発明、同特開昭60-255122号公報(引用例2)記載の事項および本願出願前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」旨を理由の一つにするものである。

IV.引用例記載の事項
IV-1 実願昭58-113166号(実開昭60-21310号)のマイクロフィルム(引用例1)記載の事項
(a)マイクロフィルム明細書2頁12行?同4頁7行
「以下、本考案の実施例1を図面につき説明する。
図中、(1)は水槽であって、第一図Aに図示の如き円形水槽または第一図Bに図示の如き角形水相が実施例として示される。第一図A、Bと第二図に示すように水槽(1)中に、その上部内では中心部分の流れが遅く周辺部での流れは速いと云う水平回転セン断流れを生成せしめるように、原水を水槽(1)の水面(4)に近接した上半分の処で(実用上は、原水流入管(5)の中心位置を水槽(1)の水深(H)の3/4乃至1/2の処となして)水槽周辺より原水流入管(5)(5)(5)を介して円周方向に流入せしめる。即ち、該流入管(5)(5)は水槽周辺に接線方向に設けるのである。而して、水槽(1)中心位置に上端開口の取水管(8)を直立せしめ、該取水管(8)の上端に取水盤(9)を設け、該取水盤(9)上に連結体(14)を介して水面(4)に浮かぶフロート(11)を設けて取水するようにする。該連結体(14)は、図示の通り、螺杆(12)とボルト(13)とより成り、取水口(6)の上下方向の開口寸法を調節し得る位置に応じて伸縮し得るものとする。水槽底部にはその中央部に漏斗状の固形物含有水の排出口(7)を設ける。而して、より最上の効果を上げるためには、液体中に含まれる固形分の大きさ、比重、液体の粘性等に合わせて水槽の大きさ、回転流の流速、流入角度、水槽の深さ、水槽底部の底面の傾斜角を決めるものとする。」

(b)マイクロフィルム明細書5頁6?9行
「本考案は、水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとして著しく小型な排砂装置としても優れたものである。」

(c)マイクロフィルム明細書6頁4?6行
「第一図A、第一図Bは夫々円形水槽、角形水槽の実施例を示した平面図、
第二図は第一図Aのものゝ断面側面図」

(d)第1図A、第2図(当審注:図面は、昭和58年8月8日付け手続補正書により補正されたものである。)




(e)上記(a)ないし(c)で示した記載を参酌しつつ上記(d)で示した第1図A、第2図を見たとき、当該図には、原水流入管(5)の中心軸線は円形水槽(1)の円形断面の接線方向に沿って延びていること、円形水槽(1)が上下方向に延在する『縦型の円形水槽(1)』(以下、「縦型円形水槽(1)」という。)であること、縦型円形水槽(1)が円筒状内面を備えていること、原水流入管(5)と縦型円形水槽(1)とが開口(以下、「流入開口」という。)を介して接続されていること、流入開口は円筒状内面の内方に位置すると共にその開口面が原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜していること、取水口6は縦型円形水槽(1)内において開口していること、流入開口は取水口(6)より低い位置に設けられていること、流入開口を介して縦型円形水槽(1)に導かれた水は旋回流となって取水口(6)に排出されていること、縦型円形水槽(1)は『砂を排出する排出口(7)』(以下、「砂排出口(7)」という。)を備えていること、砂排出口(7)を介して縦型円形水槽(1)に『砂を排出する管』(以下、「砂排出管」という。)が接続されていること、縦型円形水槽(1)の底面は円錐面を有すること、砂排出口(7)は円錐面の中心に設けられていること、および、砂排出管の中心軸線は縦型円形水槽(1)の半径方向に沿って延びていることの図示がある。

IV-2 特開昭60-255122号公報(引用例2)記載の事項
(f)公報3頁左上欄1?7行
「この発明は流体混合物の成分の分離、そしてこれに限るわけではないが、特に液体からの固体の分離に関する。
当出願人の英国特許第2,082,941号明細書には、たとえば雨水オーバーフローにおいて、水から下水汚物および他の固体物質を分離するのに特に適する分離装置が開示されている。」

(g)公報5頁左上欄1行?同右下欄2行
「第1図および第2図に示される分離装置は、外部壁2と端部壁乃至基部3ににり画定される円筒容器1を備えている。容器1は主流入口4と2つの流出口6および8を備えている。
流入口4(特に第2図参照)は、容器1内に循環流または渦巻流を増進するために、ある程度接線方向に向けて配置されている。この効果は偏向プレート10により増進される。壁部2には偏向プレート10の位置において、1つより多くの主流入口を設けるることができる。流入口は上下に配置され得る。流体は、容器の中央軸心に一致すると考えられる渦巻軸心の回りに循環するが、変動状態によりこの状態が常時生じるものでないことが意味されている。流入口4は、第2図においては接線方向からはずれて図示されているが、壁部2に対して性格に接線方向に延びるようにすることができる。ずれの角度は45°までとされる。
流出口6は固体流出口を構成している。第1図に示されるように、基部3は貯溜部12に開口しており、これが流出口6へ排出されるようになっている。尚、かかる貯溜部12によって、固体を貯溜して、固体流出口を介して除去されるべき水の量を減少させる。流出口6には遮断バルブを設けることかできる。分離された固体は、スラジの形態で貯溜部12に堆積されて、たどえば可動タンカー内へ間欠的に排出される。連続的な固体の排出が可能な場合は、貯溜部12は省略できる。
流出口6の上方に、円錐体14の形態を有する流量修整部材または本体が設けられている。円錐体14は支持プレート16により基部3上に支持されている。円錐体14を貫通して上方へ延びる通路18が設けられている。円錐体14の頂角は図示の実施例においては60°であり、その寸法は、円錐体の基部が、容器1の中央軸心と外部壁2との間の、はぼ半分の位置に終っており、その領域に前記円錐体の基部が基部3と共に、環状開口15を画定するように決められている。端部壁3は30°の傾斜を有し、すなわち円錐体14と端部壁3が相互に直角をなすことを意味している。もちろん、この角度は異なる状況に適合するように変更することができる。
容器1の頂部に、プレート22により支持されたバフルプレート20が設けられており、それは流出口8へ流動するきれいな液体(たとえば、水)のための流れスポイラとしての機能を有している。流出口への途中で、21で示されるきれいな水はバフルプレート20の外端部と浸漬プレート36(後述する)との間を上方へ通過し、それからバフルプレート20と容器1の頂部との間に画定された環状スロットを介して、半径方向内方へ流動する。これにより、固体物質がきれいな水の流出口8へ流入する可能性が減少されるがその理由は固体物質が渦巻軸線付近に蓄積する傾向を有するからである。流出口8は環状室24から延びており、この環状室24の頂部は閉鎖されてもされなくても良い。開口26は環状室24およびパフルプーレト20を貫通して延びており、通路18および貯溜部12を通過できる清掃ロッドを受入れて、これらの部片に付着した固体物質を除去できるようにしている。」

(h)公報6頁右上欄下から3行?同左下欄下から2行
「第1図から明らかなように、流入口4は容器1の頂部付近で、浸漬プレート36の下端より十分に上方の位置に配置されている。浸漬プレート36は円筒壁2の中程より下方に終っている。このような構成は良好な分離を達成するが、低エネルギー水準で運転される時、付着した固体物質を開口15を介して貯溜部12へ移動させるには、基部3に隣接する位置でのエネルギーが不十分である、という危険がある。その結采、固体物質は浅瀬部または砂丘部に蓄積し、最終的に開口15を遮断することになり、固体の除去率が減少されてしまう。
この問題を避けるために、流出口8を通過する流体の一部がパイプ38を介してポンプ40へ転向され、そしてポンプ給送される水がパイプ42を介して、第2流入口44を介して容器1内へ戻される。この再循環された水は室1内の流動体に追加エネルギーを付与し、それにより基部3ににおける流動体の角運動量が増大される。追加エネルギーは、浅瀬部の開口15方向への移動を加速し、あるいは浅瀬部の形成を防止することにもなる。」

(i)公報8頁左下欄下から2行?同右下欄8行
「第9図および第10図は貯溜部12についての別の形態を示している。これまでの図面において示されるような、貯溜部の下端部が円錐形を有する代りに、第9図および第10図の貯溜部は、水平基部84に終る平行外部壁を備えている。
接線流出口6が基部84に隣接する貯溜部の外部壁から延びている。第9図および第10図の形態は、流体の回転が貯溜部12内に維持される分離装置に利用するのに特に適している。分離装置の総深さを減少させることも可能になる。」

(j)FIG.1





(k)FIG.9、FIG.10





V.引用例1に記載された発明
上記(a)ないし(e)からして、引用例1(第1図Aおよび第2図)には、「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての著しく小型の排砂装置において、円筒状内面を備えた縦型円形水槽(1)と、円筒状内面の内方に位置にすると共にその開口面が原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜している流入開口と、縦型円形水槽(1)内において開口している取水口(6)と、流入開口を介して縦型円形水槽(1)に接続された原水流入管(5)と、取水口(6)を介して縦型円形水槽(1)に接続された取水管(8)と、を有し、流入開口は取水口(6)より低い位置に設けられ、原水流入管(5)の中心軸線は縦型円形水槽(1)の円形断面の接線方向に沿って延びており、流入開口を介して縦型円形水槽(1)に導かれた水は旋回流となって取水口(6)に排出され、縦型円形水槽(1)は砂排出口(7)を備え、該砂排出口(7)を介して縦型円形水槽(1)に砂排出管が接続され、縦型円形水槽(1)の底面は円錐面を有し、砂排出口(7)は円錐面の中心に設けられ、砂排出管の中心軸線は縦型円形水槽(1)の半径方向に沿って延びている、排砂装置。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

VI.対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「砂排出口(7)」および「砂排出管」は、本願発明の「土砂排出口」および「土砂排出流路」のそれぞれに相当する。

○引用例1記載の発明の「排砂装置」は、「縦型円形水槽(1)」を構成部材とし、同「縦型円形水槽(1)」は、これの「底面」に「砂排出口(7)」が「設けられ」たものであることからして、引用例1記載の発明の「排砂装置」および「縦型円形水槽(1)」は、本願発明の「立型沈砂池」および「円筒状内面を備えた沈砂槽」のそれぞれに相当する。

○引用例1記載の発明の「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての著しく小型の排砂装置(立型沈砂池)」と、本願発明の「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池」とは、「水力発電所における立型沈砂池」という点で一致する。

○引用例1記載の発明の「円筒状内面を備えた縦型円形水槽(1)と、円筒状内面の内方に位置にすると共にその開口面が原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜している流入開口と、縦型円形水槽(1)内において開口している取水口(6)」と、本願発明の「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された沈砂槽」とは、「取水口及び排出口を有する円筒状内面を備えた沈砂槽」という点で一致する。

そうすると、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「水力発電所における立型沈砂池において、取水口及び排出口を有する円筒状内面を備えた沈砂槽と、前記取水口を介して前記沈砂槽に接続された取水流路と、前記排出口を介して前記沈砂槽に接続された排出流路と、を有し、前記取水口は前記排出口より低い位置に設けられ、前記取水流路の中心軸線は前記沈砂槽の円形断面の接線方向に沿って延びており、前記取水口を介して前記沈砂槽に導かれた水は旋回流となって前記排出口に排出され、前記沈砂槽は土砂排出口を備え、該土砂排出口を介して前記沈砂槽に土砂排出流路が接続されている、立型沈砂池。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明は、「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池」であるのに対して、引用例1記載の発明は、「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての著しく小型の排砂装置(立型沈砂池)」である点。

<相違点2>
本願発明は、「沈砂槽は土砂排出口を備え、土砂排出口を介して沈砂槽に土砂排出流路が接続され、土砂排出流路の中心軸線は沈砂槽の円形断面の接線方向に沿って延びている」のに対して、引用例1記載の発明は、「縦型円形水槽(1)は砂排出口(7)を備え、砂排出口(7)を介して縦型円形水槽(1)に砂排出管が接続され、縦型円形水槽(1)の底面は円錐面を有し、砂排出口(7)は円錐面の中心に設けられて」いる、つまり、「沈砂槽は土砂排出口を備え、土砂排出口を介して沈砂槽に土砂排出流路が接続され、沈砂槽の底面は円錐面を有し、土砂排出口は円錐面の中心に設けられて」いる点。

<相違点3>
本願発明は、「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された沈砂槽」を有する立型沈砂池であるのに対して、引用例1記載の発明は、「円筒状内面を備えた縦型円形水槽(1)と、円筒状内面の内方に位置にすると共にその開口面が原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜している流入開口と、縦型円形水槽(1)内において開口している取水口(6)」を有する排砂装置(立型沈砂池)である点。

以下、各相違点について検討する。
<相違点1>について
一般に、水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に沈砂池を設けることは、本願出願前の周知技術(例えば、特開2012-101166号公報の特に【0014】、特開平2-42181号公報の特に2頁右上欄10?14行、5頁右下欄18行?6頁右上欄10行、第13図参照)であり、また、引用例1記載の発明と上記周知技術とは、水力発電所における沈砂池という点で共通している。
そうすると、引用例1記載の発明の「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての著しく小型の排砂装置(立型沈砂池)」について、上記の点で共通する上記周知技術を適用することにより、「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた排砂装置(立型沈砂池)」とすることは、本願発明と同じく、当業者であれば容易に想起し得ることである。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、引用例1記載の発明および本願出願前の周知技術に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点2>について
上記(f)ないし(k)からして、引用例2(FIG.1、9、10)には、「『外部壁2と偏向プレート10との間に画定された流路の周方向の開口』(以下、「流入口」という。)及び『バフルプレート20と容器1の頂部との間に画定された環状スロットの開口』(以下、「流出口」という。)を有する円筒状内面を備えた容器1(以下、「円筒水槽1」という。)と、流入口を介して円筒水槽1に接続された『外部壁2と偏向プレート10との間に画定された流路および流入口4』(以下、「流入管4」という。)と、流出口を介して円筒水槽1に接続された『バフルプレート20と容器1の頂部との間に画定された環状スロット、環状室24および流出口9』(以下、「流出管」という。)と、を有し、流入口は流出口より低い位置に設けられ、流入管4の中心軸線は円筒水槽1の円形断面の接線方向に沿って延びており、流入口を介して円筒水槽1に導かれた水は旋回流となって流出口に排出され、円筒水槽1はこれの円筒状内面に設けられた『固体流出口6の開口』(以下、「固体排出口」という。)を備え、円筒水槽1の基部84は水平であり、該固体排出口を介して円筒水槽1に固体流出口6(以下、「固体排出管6」という。)が接続され、固体排出管6の中心軸線は円筒水槽1の円形断面の接線方向に沿って延びている、固液分離装置」が記載されており、これと、引用例1記載の発明とは、「取水口(流入口)及び排出口(流出口)を有する円筒状内面を備えた円筒水槽と、取水口を介して円筒水槽に接続された取水流路(流入管)と、排出口を介して円筒水槽に接続された排出流路(流出管)と、を有し、取水口は排出口より低い位置に設けられ、取水流路の中心軸線は円筒水槽の円形断面の接線方向に沿って延びており、取水口を介して円筒水槽に導かれた水は旋回流となって排出口に排出され、円筒水槽は固体排出口を備え、該固体排出口を介して円筒水槽に固体排出管が接続された、固液分離装置」という構造の点で共通し、また、両者は、旋回流の作用により固液分離を行うという作用機序の点でも共通している。
そうすると、引用例1記載の発明と、構造および作用機序の点で共通する引用例2記載の事項とを組み合わせること、更にいうと、引用例1記載の発明の「縦型円形水槽(1)は砂排出口(7)を備え、該砂排出口(7)を介して縦型円形水槽(1)に砂排出管が接続され、縦型円形水槽(1)の底面は円錐面を有し、砂排出口(7)は円錐面の中心に設けられ、砂排出管の中心軸線は縦型円形水槽(1)の半径方向に沿って延びている」を、引用例2記載の事項の「円筒水槽1はこれの円筒状内面に設けられた固体排出口を備え、円筒水槽1の基部84は水平であり、固体排出口を介して円筒水槽1に固体排出管6が接続され、固体排出管6の中心軸線は円筒水槽1の円形断面の接線方向に沿って延びている」ようにする、つまり、「沈砂槽はこれの円筒状内面に設けられた土砂排出口を備え、沈砂槽の底面は水平であり、土砂排出口を介して沈砂槽に土砂排出流路が接続され、土砂排出流路の中心軸線は沈砂槽の円形断面の接線方向に沿って延びている」ものとなるように構成することは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
そして、上記のように構成したものについても、引用例1記載の発明と同じく、旋回流の作用による固液分離(砂の分離)がなされるというべきである。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、引用例1記載の発明および引用例2記載の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

<相違点3>について
一般に、「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された円筒水槽と、取水口を介して円筒水槽に接続された取水流路と、排出口を介して沈砂槽に接続された排出流路と、を有し、取水口は排出口より低い位置に設けられ、取水流路の中心軸線は円筒水槽の円形断面の接線方向に沿って延びており、取水口を介して円筒水槽に導かれた水は旋回流となって排出口に排出され、円筒水槽は固体排出口を備え、該固体排出口を介して円筒水槽に固体排出管が接続された、固液分離装置」は、本願出願前の周知技術(例えば、特開2008-200584号公報の特に【図1】【図2】、特開平10-118531号公報の特に【図3】参照)であり、これと、引用例1記載の発明とは、「取水口及び排出口を有する円筒状内面を備えた円筒水槽と、取水口を介して円筒水槽に接続された取水流路と、排出口を介して円筒水槽に接続された排出流路と、を有し、取水口は排出口より低い位置に設けられ、取水流路の中心軸線は円筒水槽の円形断面の接線方向に沿って延びており、取水口を介して円筒水槽に導かれた水は旋回流となって排出口に排出され、円筒水槽は固体排出口を備え、該固体排出口を介して円筒水槽に固体排出管が接続された、固液分離装置」という構造の点で共通し、また、両者は、旋回流の作用により固液分離を行うという作用機序の点でも共通している。
そうすると、引用例1記載の発明と、構造および作用機序の点で共通する上記周知技術とを組み合わせること、更にいうと、引用例1記載の発明の「円筒状内面を備えた縦型円形水槽(1)と、円筒状内面の内方に位置にすると共にその開口面が原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜している流入開口と、縦型円形水槽(1)内において開口している取水口(6)」を有する排砂装置(立型沈砂池、固液分離装置)を、上記周知技術の「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された円筒水槽」を有する固液分離装置(立型沈砂池)となるように構成することは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
そして、上記のように構成したものについても、引用例1記載の発明と同じく、旋回流の作用による固液分離(砂の分離)がなされるというべきである。
したがって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、引用例1記載の発明および本願出願前の周知技術に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願発明は、「立型沈砂池」の発明である以上、砂の沈降(分離)が十分に行われることを作用効果にするものであるところ、本願明細書には、この作用効果の程度を具体的に示す記載はなく、また、上記(b)で示したように「著しく小型な排砂装置としても優れたものである」ことからして、砂の分離が十分に行われることを作用効果にするものであるといえるので、本願発明の作用効果は、引用例1記載の発明に比して格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の事項および本願出願前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.請求人の主張について
請求人は、平成29年7月19日付け意見書の「3.」および「4.」において、以下の主張をしている。

『3.(1)引用例1(実願昭58-113166号(実開昭60-21310号)のマイクロフィルム)の第1図Aに示すように、原水流入管5は水槽1に交差するよう且つ水槽1の内面より内方に突出するように設けられている。即ち、原水流入管5の先端の開口は水槽1の内面より半径方向内側に配置されている。原水流入管5の先端の開口は、原水流入管5の中心軸線に対して直交する面に対して傾斜しており、水槽1の内面に向けられている。従って、原水流入管5の先端の開口から流出した水流は、水槽1の内面に衝突し、進行方向を変更しながら「水平回転セン断流れ」を生成する。
一方、本願発明では、沈砂槽の円筒状内面に、取水口及び排出口の開口が形成されている。

3.(2)引用例2(特開昭60-255122号公報)には、雨水オーバーフローにおいて、水から下水汚物及びその他の固体物質を分離するのに好適な分離装置、即ち、固液分離装置が記載されている。この分離装置の特徴は、容器1内を循環する水に外部からエネルギーを付与するエネルギー付与装置が設けられていることにある。エネルギー付与装置の例としてポンプが挙げられるが、水道管本体のような加圧供給源を用いてもよい。
一方、本願発明では、加圧供給源のようなエネルギー付与装置を用いない。

4.(1)拒絶理由通知書の8頁下段?9頁上段の「II-2 引用例に記載された発明」において、「上記(a)ないし(e)からして、引用例1(第1図Aおよび第2図)には、「…、排砂装置。」(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認める。」と指摘されている。
この認定を以下に、「認定1」と称し、反論する。引用例1記載の発明は、「固液分離装置」(実用新案登録請求の範囲)に関する発明である。引用例1には「固液分離装置」が記載されているが、排砂装置も沈砂池も記載されていない。
拒絶理由通知書の第3頁下段(b)にて指摘されているように、引用例1には、「本考案は、水力発電所における従来の沈殿池の代わりとして著しく小型な排砂装置としても優れたものである。」と記載されている。引用例1には、引用例1の考案(固液分離装置)が、水力発電所における従来の沈殿池の代替となりうる可能性について提案しているが、引用例1の本考案そのものが沈砂池であることを言っているわけではない。実際に、引用例1のどこにも、引用例1の「固液分離装置」が「沈砂池」そのものであるとは記載されていないし、示唆もされていない。引例1の「固液分離装置」を「排砂装置」と称しても、それは「沈砂池」ではないし、「沈砂池」の機能を提供しないし、代替とならない。これについては本意見書の(3)において詳細に論ずる。
本願発明1の立型沈砂池は、水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられたものであり、国際特許分類IPCの“E02B”の土木、特に、水力発電所に関するものである。一方、引用例1に記載された固液分離装置は、国際特許分類IPCの“B01D”の化学工学の分野の技術に関するものである。即ち、本願発明1の技術分野と引用例1の技術分野は異なる。
以上より「認定1」は誤りである。拒絶理由通知書には、本願発明1と引用例1記載の発明の一致点及び相違点が指摘されているが、これらの指摘は、誤った「認定1」を前提としており、認められない。

4.(2)拒絶理由通知書の9頁中段の「II-3 対比・判断」の「ア 本願発明1について」において、本願発明1と引用例1記載の発明とを対比し、引用例1記載の発明の「流入開口」、及び「原水流入管(5)」は、本願発明1の「取水口12」及び「取水流路22」にそれぞれ相当し、引用例1記載の発明の「取水口(6)」、及び、「取水管(8)」は、本願発明1の「排出口13」、及び、「排出流路32」にそれぞれ相当する、と認定している。
この認定を以下に、「認定2」と称し、反論する。本願発明1によると、沈砂槽の円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成されている、即ち、取水口12及び排出口13の開口は、沈砂槽の円筒状内面に形成されている。一方、引用例1記載の発明の原水流入管(5)の「流入開口」、及び、取水管(8)の取水口(6)は、水槽(1)の円筒状内面に開口していない。例えば、引用例1記載の発明の原水流入管(5)の「流入開口」は、第1図Aに示すように、原水流入管(5)の中心軸線に対して傾斜し、その楕円形の流入開口は、水槽1の内面に向けられている。従って、引用例1記載の発明の「流入開口」、及び「原水流入管(5)」は、本願発明1の「取水口12」及び「取水流路22」にそれぞれ相当しない。
引用例1記載の発明の取水管(8)の取水口(6)は、水槽1の内部に配置されており、水槽1の円筒状内面に開口していない。従って、引用例1記載の発明の「取水口(6)」、及び、「取水管(8)」は、本願発明1の「排出口13」、及び、「排出流路32」にそれぞれ相当しない。従って、少なくとも、これらの点において本願発明1と引用例1記載の発明は構成上異なる。
以上より「認定2」は誤りである。拒絶理由通知書には、本願発明1と引用例1記載の発明の一致点及び相違点が指摘されているが、これらの指摘は、誤った「認定2」を前提としており、認められない。

4.(3)拒絶理由通知書の10頁中段の「<相違点1>について」の最後に「そうすると、引用例1記載の発明の「水力発電所に於ける従来の沈殿池の代わりとしての排砂装置(立型沈砂池)」について、上記の点で共通する上記周知技術を適用することで、「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池」とすることは、当業者であれば容易に想起し得ることである。」と指摘されている。
これについて反論する。「上記周知技術」(特開2012-101166号公報)は、水路の一部を拡幅した形式の沈砂池である。このような沈砂池の代替として引用例1の「固液分離装置」を用いることは技術的に困難である。例えば、水力発電所の沈砂池の場合、取水設備と発電機の間の水路を流れる水の全量を取水して処理するように構成されているが、引用例1の固液分離装置の3本の原水流入管によって水路を流れる水の全量を取水して処理することはできない。
従って、周知技術の代替として引用例1記載の固液分離装置を適用しても、本願発明の「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池」とすることはできないし、当業者であっても本願発明を容易に想起することはできない。』

以下、上記の3.(1)ないし4.(3)について検討する。
ア 3.(1)について
平成29年7月19日付け手続補正書(最先の手続補正書)において、補正前の請求項1の「取水口及び排出口を有する円筒状内面を備えた沈砂槽」を、補正後の請求項1の「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された沈砂槽」とすることにより、補正前においては、取水口及び排出口の開口が沈砂槽のどこに形成されているかの特定がなされていなかったのが、補正後においては、この特定がなされることになったところ、この3.(1)は、取水口及び排出口の開口が沈砂槽のどこに形成されているかの特定がなされていることを前提にする主張であるのに対して、当審による拒絶理由通知書の内容は、沈砂槽のどこに形成されているかの特定がなされていないことを前提にするものであることからして、それぞれの前提は異なっているので、該3.(1)は、そもそも、当審による拒絶理由通知書の内容とは関係のないものであるというべきである。
そして、取水口及び排出口の開口が沈砂槽のどこに形成されているかの特定がなされた補正後の請求項1の「円筒状内面を備え該円筒状内面に取水口及び排出口の開口が形成された沈砂槽」とする事項については、当該審決において、上記<相違点3>として認定し、上記のとおり検討した。

イ 3.(2)について
引用例2は、上記「VI-2」の「(h)」で示したように、流動体の角回転運動量を増大させるためにポンプ40(加圧供給源)を用いるものであり、流入する流動体の運動量が大きければポンプを用いる必要はないとみるのが妥当であり、ポンプは、流入する流動体の運動量が小さいことに応じて設けられたものにすぎないというべきである。
したがって、引用例2においてポンプ(加圧供給源)が用いられていることをもって、引用例2記載の事項を、ポンプ(加圧供給源)が用いられていない引用例1記載の発明に適用できない旨の主張は、技術的合理性を欠くものであるといわざるを得ない。

ウ 4.(1)について
上記「IV」の「(b)」で示したように、引用例1には、「本考案は、水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとして著しく小型な排砂装置としても優れたものである。」との記載がある以上、 引用例1記載の発明は、水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての排砂装置を排除するものでなく、排砂装置として用いることも開示されているというべきである。
また、引用例1記載の発明の「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりの著しく小型の排砂装置」は、「水力発電所における砂の分離除去装置」であり、本願発明の「水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた沈砂池」も、「池」といいつつも、「水力発電所における砂の分離除去装置」であることからして、本願発明の「沈砂池」と、引用例1記載の発明の「排砂装置」とは、軌を一にするものである。
さらに、本願の国際分類と、引用例1の国際分類が異なるとしても、上記で示したように、両者は、「水力発電所における砂の分離除去装置」であるという点で軌を一にするものであるので、両者の技術分野が異なるということはできない。
したがって4.(1)は、技術的合理性を欠くものであるといわざるを得ない。

エ 4.(2)について
上記「ア 3.(1)について」と同じである。

オ 4.(3)について
当審による拒絶理由通知書において周知文献として引用した特開2012-101166号公報は、水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に沈砂池を設けることが、周知であることを示すために引用したものであり、引用例1記載の発明の排砂装置を、当該特開2012-101166号公報の例えば【図1】に示されているような大量の水が流れる水路に設けることが周知であることを示すために引用したものではない。
実際、引用例1記載の発明の「水力発電所に於ける従来の沈澱池の代わりとしての著しく小型の排砂装置(立型沈砂池)」は、「著しく小型」なもの(少量の水が流れる水路に設けられるもの)であって、そもそも、上記特開2012-101166号公報の例えば【図1】に示されているような大量の水が流れる水路に設けることを想定したものでないことは明らかである。
また、水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に沈砂池を設けることが周知であることを示す文献として新たに引用した特開平2-42181号公報(特に2頁右上欄10?14行、5頁右下欄18行?6頁右上欄10行、第13図参照)は、実質的に、少量の水が流れる導管(水路)にサイクロン分離器23(沈砂池)を設けることを示すものである。
そうすると、この4.(3)の「周知技術の代替として引用例1記載の固液分離装置を適用しても、本願発明の『水力発電所における取水設備と発電機の間の水路に設けられた立型沈砂池』とすることはできないし、当業者であっても本願発明を容易に想起することはできない。」との主張(結論)は、技術的合理性を欠くものであるといわざるを得ない。

カ 小括
上記「ア」ないし「オ」で示した検討からして、当審による拒絶理由通知書の内容に誤りがあるということはできず、また、請求人の主張を勘案しても、当該審決の判断が変わることはない。

VIII.むすび
上記のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の事項および本願出願時の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-15 
結審通知日 2017-11-16 
審決日 2017-11-30 
出願番号 特願2014-91370(P2014-91370)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 成典宮部 裕一岩下 直人  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
豊永 茂弘
発明の名称 立型沈砂池  
代理人 高橋 要泰  

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