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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1336695
審判番号 不服2017-717  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-18 
確定日 2018-02-13 
事件の表示 特願2012-167252「光学フィルム、光学フィルム用転写体、画像表示装置及び光学フィルムの製造用金型」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-242508、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月27日(優先権主張平成24年4月26日)の出願であって、平成28年2月26日に拒絶理由が通知され、同年5月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年10月12日に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成29年1月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、同年11月13日に拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成29年12月1日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし3に係る発明(以下、本願の請求項1ないし3に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」といい、本願発明1ないし3を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
配向膜と、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層とを有する転写層と、
前記転写層を保持する支持体とを備え、
前記配向膜が、
十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下であり、
紫外線硬化性樹脂からなる膜である
光学フィルム用転写体。
【請求項2】
前記配向膜は、
平均面粗さ(Ra)が、1nm以上、4nm以下である
請求項1に記載の光学フィルム用転写体。
【請求項3】
前記液晶層が、
透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長板用液晶層と、透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長板用液晶層であり、
前記配向膜が、
前記1/2波長板用液晶層に係る1/2波長板用配向膜と、
前記1/4波長板用液晶層に係る1/4波長板用配向膜とであり、
前記転写層が、
前記1/2波長板用液晶層、前記1/2波長板用配向膜、前記1/4波長板用液晶層、前記1/4波長板用配向膜の積層体である
請求項1又は請求項2に記載の光学フィルム用転写体。」

第3 引用文献、引用発明
1 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-209870号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均膜厚1.5μm以下で、その膜厚バラツキが平均膜厚の±3%以下であり、及びその表面のn点平均粗さRzが5nm以下である光学異方性層を有することを特徴とする光学補償シート。
【請求項2】
前記光学異方性層の膜厚バラツキが、長手方向1m以上且つ幅方向1m以上の範囲で平均膜厚の±3%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学補償シート。
【請求項3】
前記光学異方性層が配向膜上に形成され、該配向膜表面のn点平均粗さRzが15nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償シート。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物を配向固定した光学異方性層を有する光学補償シート、該光学補償シートを備えた楕円偏光板及び液晶表示装置に関する。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学補償機能に優れ、液晶表示装置の視野角特性の改善に寄与する光学補償シートを提供することを課題とする。とりわけ、大型の液晶表示装置に適用した場合でも、ムラを生じることなく、表示品位の高い画像を表示するのに寄与する光学補償シートを生産性高く、提供することを課題とする。また、本発明は、液晶表示装置の視野角拡大に寄与する楕円偏光板、及び視野角特性に優れ、表示品位の高い液晶表示装置を提供することを課題とする。」

(4)「【発明の効果】
【0008】
本発明では、液晶性化合物とともに、前記一般式[1]又は[2]で表されるモノマー由来の繰り返し単位を含むフルオロ脂肪族基含有ポリマーを含有する組成物をスロットダイコート法により塗布して、光学異方性層を形成することにより、光学補償機能に優れ、且つ画像表示装置に適用した場合に、広い視野角拡大性能を有する光学補償シートを生産性高く提供することができる。本発明の光学補償シートは、光学異方性層の形成時の塗布ムラ、乾燥ムラに起因する表面粗さを小さく、また膜厚バラツキを低減することにより、画像ムラを生じさせることなく、表示品位を損なわずに、種々のモードの液晶表示装置の視野角特性の改善に寄与し得る。また、本発明によれば、液晶表示装置の視野角拡大に寄与する楕円偏光板、及び視野角特性に優れ、表示品位の高い大型の液晶表示装置を提供することができる。」

(5)「【発明の実施の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「?」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書では「重合体」は、「共重合体」を含む意味で用いる。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[光学補償シート]
本発明の光学補償シートは、平均膜厚1.5μm以下で、その膜厚バラツキが平均膜厚の±3%以下であり、その表面のn点平均粗さRzが5nm以下である光学異方性層を有することを特徴とする。光学異方性層の表面粗さが小さいということは、光学異方性層の膜厚バラツキを小さくすることに繋がる。光学異方性層の膜厚は光学性能と密接に関わるため、膜厚を設計値どおり一定にしておく必要がある。仮に光学異方性層の下地(例えば配向層)が平坦であるとしたならば、光学異方性層の表面粗さが小さいということは、当然光学異方性層の膜厚が均一であるということになる。逆に光学異方性層の下地が、ある粗さを持つ表面であるとしたならば、光学異方性層の膜厚を均一にするためには、同様な粗さを持つ表面である必要がある。この場合、同様な粗さというのは、完全に下地と同一周期と分布を持つことが要求され、例え同一周期と分布を満たしたとしても、光学異方性層の存在する角度はどうしても異なることから、必要な光学異方性を示す箇所が限られる。そのため、光学異方性層の表面粗さは小さい方が好ましく、本発明では、光学補償シートが有する光学異方性層の表面のn点平均粗さRzは5nm以下としている。前記光学異方性層の表面のRzは3nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。また、光学異方性層の表面粗さは、その下地の表面粗さに影響されるので、下地である層の表面粗さは小さいのが好ましい。例えば、前記光学異方性層の下地の層が配向膜層である場合、該配向層の表面のn点平均粗さRzは、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましく、5nm以下であることがよりさらに好ましい。なお、本明細書において、表面のn点平均粗さRzは、JIS B 0601の規定に従って測定した値をいう。」

(6)「【0167】
[光学異方性層]
前記光学異方性層は、液晶性化合物(好ましくは前記所定の円盤状化合物)の少なくとも1種、前記フッ素系ポリマーの少なくとも2種、及び所望により、その配向を制御するのに寄与する材料、配向状態を固定するのに寄与する材料等、他の材料を含有する組成物から形成してもよい。前記液晶性化合物は一度液晶相形成温度まで加熱し、次にその配向状態を維持したまま冷却することによりその液晶状態における配向形態を損なうことなく固定化することができる。また、前記液晶性化合物が重合性である場合は、組成物中に重合開始剤を添加し、該組成物を液晶相形成温度まで加熱した後、重合させ冷却することによっても固定化することができる。本発明で配向状態が固定化された状態とは、その配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様ではあるが、それだけには限定されず、具体的には、通常0℃?50℃、より過酷な条件下では-30℃?70℃の温度範囲において、該層に流動性がなく、且つ外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を指すものである。
なお、配向状態が最終的に固定化された際に、液晶組成物はもはや液晶性を示す必要はない。例えば、液晶化合物として重合性化合物を用いた場合、結果的に熱、光等での反応により重合又は架橋反応が進行し、高分子量化して、液晶性を失ってもよい。
【0168】
重合性基を有する前記円盤状化合物を用いて光学異方性層を作製する場合は、作製の過程で、該化合物が単独で又は他の化合物と重合し、最終的には本発明の化合物を重合単位とする高分子を含有する光学異方性層が作製されるが、かかる光学異方性層も本発明の範囲に含まれる。
【0169】
前記光学異方性層は、配向膜を利用して作製するのが好ましい。但し、前記組成物を配向膜上に塗布した後、液晶性化合物の分子を配向させてその配向状態に固定した後は、該光学異方性層のみを支持体上に転写可能である。配向状態で固定化された液晶化合物は、配向膜がなくても配向状態を維持することができる。従って、本発明の光学補償シートは、配向膜を有していなくてもよい。」

(7)「【0177】
[配向膜]
上記した通り、前記光学異方性層は、配向膜を利用して形成するのが好ましい。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω-トリコサン酸、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
液晶性化合物の分子を所望の配向を付与できるのであれば、配向膜としてはどのような層でもよいが、本発明においては、ラビング処理もしくは、光照射により形成される配向膜が好ましい。特にポリマーのラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に数回擦ることにより実施することができるが、特に本発明では液晶便覧(丸善(株))に記載されている方法により行うことが好ましい。配向膜の厚さは、0.01?10μmであることが好ましく、0.05?3μmであることがさらに好ましい。
本発明において、好ましい配向膜の例としては、特開平8-338913号公報に記載の、架橋されたポリマー、より好ましくは架橋されたポリビニルアルコールからなる配向膜が挙げられる。配向膜は、前記光学異方性層と同様、スロットダイコート法により塗布して形成するのが(膜厚の均一性、特に端部の膜厚の均一性)の点で好ましい。
なお、配向膜を用いて液晶性化合物を配向させてから、その配向状態のまま液晶性化合物を固定して光学異方性層を形成し、光学異方性層のみをポリマーフィルム(又は支持体)上に転写してもよい。配向状態の固定された液晶性化合物は、配向膜がなくても配向状態を維持することができる。
液晶性化合物、特に液晶性円盤状化合物を配向させるためには、配向膜の表面エネルギーを調節するポリマー(通常の配向用ポリマー)を用いるのが好ましい。具体的なポリマーの種類については液晶セル又は光学補償シートについて種々の文献に記載がある。いずれの配向膜においても、光学異方性層と支持体の密着性を改善する目的で、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、側鎖に重合性基を有する繰り返し単位を導入するか、あるいは、環状基の置換基として導入することができる。界面で液晶性化合物と化学結合を形成する配向膜を用いることが好ましく、かかる配向膜としては特開平9-152509号公報に記載されている。」

(8)「【0204】
[実施例1]
・・・略・・・
【0209】
次に、図1に示した構成と同様のスロットダイコーターを用いて、作製したポリマー基材(PK-1)の面上に、光学異方性層を形成した。具体的には、表面に配向膜用樹脂層を形成したポリマー基材(PK-1)を、ウェブ12として送出機により搬送し、ガイドロールによって支持しつつ、ラビング処理ロールで樹脂層にラビング処理を施し、配向膜とした。その後、図1に示した構成と同様のスロットダイコーター10により、光学異方性層形成用塗布液を配向膜のラビング処理面に塗布した。次に、ウェブ12を、乾燥ゾーン及び加熱ゾーンに順次通過させ、液晶化合物の分子を配向させた後、紫外線ランプを照射してその配向を固定して光学異方性層を形成し、光学補償シートを得た。
【0210】
以下、より具体的に、各工程について説明する。
上記ポリマー基材(PK-1)の表面に、下記組成の配向膜形成用塗布液を塗布して、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥し、配向膜用樹脂層を形成した。
得られた配向膜の厚さは2μmで、その表面のn点平均粗さRzは15nmであった。
【0211】
(配向膜塗布液組成)
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5質量部
・・・略・・・
【0213】
次に、配向膜を形成したポリマー基材(PK-1)からなるウェブ12を搬送させつつ、スロットダイ13により下記組成の光学異方性層形成用塗布液14を配向膜のラビング処理面に、湿潤膜厚が5μmとなるように、5ml/m^(2)で塗布した。塗布速度は60m/分とした。なお、ウェブ12の進行方向側とは反対側に、ビード14aに対して十分な減圧調整を行えるよう、接触しない位置に減圧チャンバーを設置した。スロットダイ13の上流側リップランド長IUPを1mm、下流側リップランド長ILOを50μmとした。下流側リップランド19とウェブ12との隙間の長さは40μmに設定した。
【0214】
(光学異方性層形成用塗布液の組成)
下記の組成物を、102kgのメチルエチルケトンに溶解して塗布液を調製した。
下記のディスコティック液晶性化合物(1) 41.01質量部
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 4.06質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551-0.2、イーストマンケミカル社製) 0.34質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB531-1、イーストマンケミカル社製) 0.11質量部
フルオロ脂肪族基含有ポリマー例示化合物(P-33) 0.03質量部
フルオロ脂肪族基含有ポリマー例示化合物(P-136) 0.18質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 1.35質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.45質量部
・・・略・・・
【0216】
塗布液14を塗布したウェブ12を、100℃に設定した乾燥ゾーン、及び130℃に設定した加熱ゾーンを通過させ、この液晶層表面に60℃の雰囲気下で120W/cmの紫外線ランプにより紫外線を照射し、光学補償シート(KH-1)を作製した。
塗布可能性については目視によるビード状態の観察により判断し、ビード14aが破断した段階で塗布不可能とした。この結果、本実施例1では、塗布は可能であり、このときの減圧度は1000Paであった。
【0217】
波長546nmで測定した光学異方性層のReレターデーション値は50nmであった。また、偏光板をクロスニコル配置とし、得られた光学補償シートのムラを観察したところ、正面、及び法線から60度まで傾けた方向から見ても、ムラは検出されなかった。
・・・略・・・
【0224】
[実施例2?4、比較例1?3]
表1に記載の如く、フルオロ脂肪族基含有ポリマーの種類及び/又は添加量を代えた、もしくは使用しなかった以外は、実施例1と同様にして光学補償シート及びそれを用いた液晶表示装置を作製し、同様に、光学異方性層の特性、及び層中の液晶性分子の傾斜角、ならびに液晶表示装置の視野角、ムラ、色味評価を行った。結果を表1に示す。
【0225】
【表1】

【0226】
上記表1の結果から、支持体及び配向層の表面粗さを抑えることとフルオロ脂肪族基含有ポリマーを2種併用することで、膜厚バラツキが少なく、表面粗さの低い光学異方性層を得ることが理解できる。この光学異方性層を有する光学補償シートを使用することでムラのない面状で、視野角、色味の表示特性がより良好な、液晶表示装置を提供することができた。
【0227】
[実施例6]
前記配向膜塗布液の組成において、グルタルアルデヒド(架橋剤)の量を5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、光学補償シート(KH-H2)、さらには、KH-H2付偏光板(HB-H2)を作製した。
得られた配向膜の厚さは2μmで、その表面のn点平均粗さRzは20nmであった。
また波長546nmで測定した光学補償シート中の光学異方性層のReレターデーション値は、51nmであった。形成した光学異方性層の平均膜厚は1.3μm、Rzは5nm、及び膜厚バラツキは±3%であった。
【0228】
[実施例7]
前記セルロースアセテート溶液組成(外層)において、シリカ微粒子の量を8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、光学補償シート(KH-H3)、さらには、KH-H3付偏光板(HB-H3)を作製した。
得られたポリマー基材(PK-3)の膜厚バラツキは、平均膜厚の±2%であり、また表面のn点平均粗さRzは25nmであった。
また波長546nmで測定した光学補償シート中の光学異方性層のReレターデーション値は、49nmであった。形成した光学異方性層の平均膜厚は1.3μm、Rzは5nm、及び膜厚バラツキは±3%であった。」

2 引用発明
上記1(1)ないし(8)から、引用例1には、実施例3として次の発明が記載されているものと認められる。
「配向膜用樹脂層を形成したポリマー基材(PK-1)を、ラビング処理ロールで前記樹脂層にラビング処理を施して、配向膜とし、光学異方性層形成用塗布液を配向膜のラビング処理面に塗布し、前記塗布液の液晶化合物の分子を配向させた後、紫外線ランプを照射してその配向を固定して光学異方性層を形成して得た光学補償シート(KH-1)であって、
前記配向膜樹脂層は前記ポリマー基材(PK-1)の表面に変性ポリビニルアルコールを含む配向膜形成用塗布液を塗布して、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥することにより形成されたものであり、
前記配向膜の表面のn点平均粗さRzは15nmである、
光学補償シート(KH-1)。」(以下「引用発明」という。)

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「配向膜」は、技術的にみて、本願発明1の「配向膜」に相当する。また、引用発明の「光学異方性層」は、光学異方性層形成用塗布液を配向膜のラビング処理面に塗布し、前記塗布液の液晶化合物の分子を配向させた後、紫外線ランプを照射してその配向を固定して形成されたものであるから、本願発明1の「前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層」に相当するといえる。
イ 引用発明の「配向膜用樹脂層を形成したポリマー基材(PK-1)を、ラビング処理ロールで前記樹脂層にラビング処理を施して、配向膜とし、光学異方性層形成用塗布液を配向膜のラビング処理面に塗布し、前記塗布液の液晶化合物の分子を配向させた後、紫外線ランプを照射してその配向を固定して光学異方性層を形成」したことと、本願発明1の「配向膜と、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層とを有する転写層と、前記転写層を保持する支持体とを備え」ることとは、「配向膜と、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層と、前記配向層と前記液晶層とを保持する支持体を備える」点で一致する。
ウ 引用発明は、配向膜の表面のn点平均粗さRzは15nmであり、引用例1の【0010】には、「表面のn点平均粗さRz」が、JIS B 0601の規定に従って測定した値、すなわち十点平均粗さであることが記載されているから、引用発明は、本願発明1の「前記配向膜が、十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下である」との構成を備える。
エ 引用発明の「光学補償シート(KH-1)」と、本願発明1の「光学フィルム用転写体」とは、「光学フィルム」である点で一致する。
オ 上記アないしエからみて、本願発明1と引用発明とは、
「配向膜と、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層と、前記配向層と前記液晶層とを保持する支持体を備え、
前記配向膜が、
十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下である、
光学フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明1は、「配向膜と、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶層とを有する転写層」を備える「光学フィルム用転写体」であるのに対し、
引用発明は、配向膜と、光学異方性層(液晶層)を備える光学補償シートであるものの、配向膜と光学異方性層とで転写層を形成するものではなく、また、転写体であるともいえるかどうか不明である点。

・相違点2
本願発明1では、「前記配向膜が、」「紫外線硬化性樹脂からなる膜である」のに対し、
引用発明では、配向膜が、変性ポリビニルアルコールを含む配向膜形成用塗布液をポリマー基材(PK-1)に塗布して、60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥することにより形成された配向膜樹脂層をラビング処理を施して得られたものであり、紫外線硬化性樹脂からなる膜ではない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用例1には、その【0169】(上記第3の1(6))及び【0177】(上記第3の1(7))に、光学補償シートの光学異方性層のみを転写することについての言及があるものの、光学異方性と配向膜とを転写層とし、該転写層を他部材へ転写することの記載も示唆もない。
イ 原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された特開2004-226753号公報(以下「引用例5」という。)には、その特許請求の範囲の請求項1に、以下のとおり記載されている。
「(1)配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層1を、接着剤層1を介して再剥離性基板1と接着せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層1を再剥離性基板1に転写し、再剥離性基板1/接着剤層1/液晶物質層1からなる積層体(A)を得る第1工程、
(2)配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層2を、粘・接着剤層を介して前記液晶物質層1と貼り合わせ、再剥離性基板1/接着剤層1/液晶物質層1/粘着剤(接着剤)層/液晶物質層2/配向基板からなる積層体を得る第2工程、
および
(3)前記積層体の再剥離性基板1および配向基板を剥離し、接着剤層1または液晶物質層2に偏光板を貼合する第3工程、
の各工程を少なくとも経ることを特徴とする光学積層体の製造方法。」
ウ 上記イからみて、要するに引用例5は、液晶物質層1又は2(液晶層)と配向基板(配向膜)とで転写層を構成するものではなく、液晶物質層1又は2のみが他部材に転写されるにすぎないものである。そうすると、引用例5の液晶物質層1又は2(液晶層)と配向基板(配向膜)とからなる積層体は、「転写層」であるとはいえない。
エ 以上のとおり、引用例1及び5に記載された事項を考慮しても、引用発明において、配向膜と光学異方性層とで転写層を形成するようになすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。また、引用例1の【0177】の記載からみて、引用発明の配向膜は液晶を配向させる手段に過ぎないと解されるから、配向膜も含めて転写層とする動機付けがない。そして、本願の明細書の【0008】及び【0041】に記載されているように、本願発明1により、液晶層の配向の劣化を有効に回避して、従来に比して配向膜と液晶層との密着性を向上させることができるというものであり、目的、課題及び効果の点で、配向膜の技術的意義は、本願発明1と引用発明とで異質のものである。
オ したがって、引用例1には、上記相違点1に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2ないし4から想到容易であるともいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が容易に発明することができたものではない。

2 本願発明2、3について
本願発明1が、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2、3も同様に、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成28年5月2日付け手続補正により補正された請求項1ないし16について上記引用文献1ないし5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、上記のとおり、本願発明1ないし3は、上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1には「十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下(13を除く)であり」と記載されているが、「13を除く」技術的意味が不明であるから、請求項1に係る発明が明確でないとの拒絶の理由、また、請求項1の「十点平均粗さ(Rz)」において、「10nm以上、45nm以下」の「13を除く」ものが、発明の詳細な説明に具体的に記載されてないから、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知している。
しかしながら、平成29年12月1日付け手続補正(以下単に「補正」という。)によって、補正前の請求項1の「十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下(13を除く)であり」は、補正後の請求項1において「十点平均粗さ(Rz)が、10nm以上、45nm以下であり」と補正されることにより、これらの拒絶の理由は解消した。
よって、本願発明は、明確であり、発明の詳細な説明に記載したものである。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2012-167252(P2012-167252)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
佐藤 秀樹
発明の名称 光学フィルム、光学フィルム用転写体、画像表示装置及び光学フィルムの製造用金型  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  

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