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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1336708
審判番号 不服2017-1845  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-08 
確定日 2018-02-06 
事件の表示 特願2014-524818「熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換モジュール並びに熱電変換材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月16日国際公開、WO2014/010588、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年7月9日(国内優先権主張平成24年7月10日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 5月13日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 7月15日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 3月 9日 拒絶理由通知(起案日)
平成28年 5月13日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年10月31日 拒絶査定(起案日)
平成29年 2月 8日 審判請求及び手続補正書の提出
平成29年 6月14日 上申書の提出
平成29年10月13日 当審拒絶理由通知(起案日)
平成29年11月20日 意見書及び補正書の提出


第2 原査定の概要
平成28年10月31日付けの拒絶査定(以下,「原査定」という。)の概要は次のとおりである。
「この出願については,平成28年 3月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものです。
……(中略)……
●理由1(第29条第2項)について

・請求項 1,8-11
・引用文献等 1-7
先に通知した引用文献1には,「下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料,該熱電変換材料を用いた熱電変換モジュール,及び前記多結晶体を調製する工程を具備する熱電変換材料の製造方法,及び,前記Dは,Ni及びCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である熱電変換材料。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.3<a1<0.7,0.3≦b1≦0.7,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」が記載され,前記多結晶体の電極接合面は活性金属ろう材,又はAl-Si共晶合金等の金属が形成されていることが記載されている(特に段落[0017]-[0026],[0049],[0053]-[0070],[図1]を参照されたい。)。

(対比)
本願の請求項1,8-11に係る発明と,引用文献1に記載された発明とを対比する。

本願請求項1,8-11に係る発明においては,多結晶体の少なくとも1面には絶縁被膜が設けられており(以下,「構成1」という。),前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上であり(以下,「構成2」という。),前記絶縁被膜の平均厚さが3μm以上であり(以下,「構成3」という。),前記熱電変換材料の製造方法において,表面粗さRaが0.2μm以上である少なくとも1つの面を有する前記多結晶体を調製する工程を具備し(以下,「構成4」という。),前記多結晶体の前記少なくとも1面に平均厚さが3μm以上の絶縁被膜を形成する工程を具備する(以下,「構成5」という。)のに対し,引用文献1に記載された発明においては,前記構成1-5が記載されていない点で相違する(以下,前記構成1-5に対応して,それぞれ「相違点1-5」という。)。

(相違点の判断)
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
熱電変換素子において,絶縁性の向上,耐熱性の向上,特性の安定性の向上,小型化,高出力化,又は熱電変換変換モジュールにおいて,熱電変換素子の高密度化のために,熱電変換素子の側面に絶縁被膜を設けること,及び,前記絶縁被膜を形成する工程は,周知技術にすぎず(例えば,先に通知した引用文献2の段落[0014],[0026]-[0029],[図1]等の記載,先に通知した引用文献3の段落[0009]-[0018],[0039],[図4]-[図5]等の記載,先に通知した引用文献4の段落[0013]-[0026],[0030]-[0033],[図1]-[図2],[図4]等の記載,先に通知した引用文献5の段落[0006]-[0009],[0037]-[0041],[0062],[図2]等の記載,先に通知した引用文献7の段落[0016]-[0040],[図1]-[図3]等の記載を参照されたい。),引用文献1に記載された,熱電変換材料,熱電変換モジュール,及び,熱電変換材料の製造方法に,前記周知技術を採用して,前記構成1の構成とすることは,当業者が格別の創意工夫を要することなく容易に想到し得たものである。

(相違点2-5について)
先に通知した引用文献6には,熱電素子11の側面に5?50μmの絶縁層12を形成すること,厚さが0.1?20μmの金属層13で覆われる前記絶縁膜の側面を,塩酸等によりエッチングして,表面粗さRaが2?8μmとなるように粗面化することで,アンカー効果により,絶縁膜層と金属層の密着性が高められること,及び,熱電素子11を形成する熱電材料の表面を硝酸でエッチングすることで,熱電素子と絶縁層との密着性が良好となることが記載されている(特に段落[0015]-[0032],[0050]-[0056],[図1]-[図5]を参照されたい。)。
引用文献1と引用文献6は,熱電変換素子という共通の技術分野に属している。熱電変換素子を構成する材料の密着性を高めて信頼性及び耐久性を高めるために,引用文献1に記載された熱電変換材料に,引用文献6に記載された発明を適用して,前記構成2-5の構成とすることに,別段,困難性は見いだせない。

平成28年5月13日付け意見書におけて,出願人は,「また,引用文献6には,熱電素子本体部の側周面をエッチングした後に,この側周面に絶縁層を形成することが記載されております。しかしながら,熱電素子本体部の側周面をどの程度粗面化するかは記載されておりません。上述したように,引用文献6には,金属層と絶縁層との密着性を高めるために,絶縁層のうち,金属層に覆われる部位の表面を粗面化すること,及び,この絶縁層の表面粗さRaを2?8μmとすることが記載されているに過ぎません。」(以下,「主張1」という。),「上述したように,引用文献6には,絶縁被膜として樹脂を使用することのみ記載されており,特定の金属層を形成する目的で,絶縁被膜としてエポキシ系の樹脂を使用することが好ましいことが記載されています。一方,引用文献1には,『500℃近い高温環境・・・でも優れた特性を示すことができる』(段落0057)ことが記載されています。それ故,当業者は,引用文献6に記載された絶縁被膜を引用文献1に組み合わせようとした場合には,引用文献6において絶縁被膜の原料として記載されている樹脂,特にはエポキシ樹脂を使用した筈です。・・・従って,当業者は,引用文献6の教示を引用文献1に記載された熱電変換材料に組み合わせようとはしなかった筈です。」(以下,「主張2」という。),「また,仮に引用文献6の教示を引用文献1に記載された熱電変換材料に組み合わせることができたとしても,引用文献6には『前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上』であることは記載されておらず,他の引用文献2?5及び7にもこのような発明特定事項は記載されておりません。それ故,本願請求項1に記載している熱電変換材料は得られません。」(以下,「主張3」という。)と主張している。

出願人の当該主張について検討する。

(主張1,3について)
前記したとおり,引用文献6には,熱電素子11の側面に5?50μmの絶縁層12を形成すること,厚さが0.1?20μmの金属層13で覆われる前記絶縁膜の側面を,塩酸等によりエッチングして,表面粗さRaが2?8μmとなるように粗面化することで,アンカー効果により,前記絶縁膜層と前記金属層の密着性が高められること,及び,熱電素子11を形成する熱電材料の表面を硝酸でエッチングすることで,前記熱電素子と前記絶縁層との密着性が良好となることが記載されている。出願人が主張するように,引用文献6には,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上」であることは記載されていないが,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面」を硝酸でエッチングすることで,前記熱電素子と前記絶縁層との密着性が良好となることが記載されており,また,前記絶縁膜の側面を,塩酸等によりエッチングして,表面粗さRaが2?8μmとなるように粗面化することで,アンカー効果により,前記絶縁膜層と前記金属層の密着性が高められることが記載されているから,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面」を硝酸でエッチングする際に,前記熱電素子と前記絶縁層との密着性を高めるために,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面」を,例えば,表面粗さRaが2?8μmとなるように粗面化すること,すなわち,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上」とすることに,別段,困難性は見いだせないものと認められるから,出願人の前記主張1,3は採用できない。

(主張2について)
出願人が主張するように,引用文献1には,段落[0057]に,「また,前述のろう材や窒化珪素基板を使うことにより,耐熱特性が上がり,500℃近い高温環境・・・でも優れた特性を示すことができる。」と記載されている。これに対し,引用文献1の同じ段落[0057]に,「・・・低温側と高温側の温度差が100℃以上あるような負荷の高い環境でも優れた特性を示すことができる。」と記載され,当該記載から,熱電変換材料を使用する温度を必ずしも500℃に限定するものではなく,低温側と高温側の温度差が100℃以上あれば,すなわち,500℃よりも低く,引用文献6における絶縁層12に使用される樹脂の耐熱温度以下の使用温度においても,「優れた特性を示す」との効果が得られるものと認められる。そして,引用文献1に記載された熱電変換材料に,引用文献6に記載された発明を適用して,多結晶体の絶縁被膜に樹脂を使用して,引用文献1における「低温側と高温側の温度差が100℃以上あるような負荷の高い環境でも優れた特性を示すことができる。」との効果は得られると認められるから,出願人の前記主張2は採用できない。
また,引用文献1に記載された熱電変換材料を,前記使用温度より高い温度で使用する場合においては,より耐熱性の高い,例えば,引用文献2-5,7に記載された材料から適宜選択して,前記絶縁被膜を形成することに別段,困難性は見いだせないものと認められ,また,特に,引用文献7に記載されている,引用文献1に記載されている熱電変換材料に含まれる,(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))NiSn_(0.994)Sb_(0.006),及び,(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))CoSb_(0.85)Sn_(0.15)の熱電変換材料に対して,前記熱電変換材料の側面を被覆するガラス膜7に用いられる,酸化ケイ素を主成分とするガラス材料を前記絶縁被膜に用いることは,当業者が格別の創意工夫を要することなく容易に想到し得たものであると認められるから,出願人の前記主張2は採用できない。

したがって,出願人の当該主張(前記主張1-3)は採用できない。

よって,本願の請求項1,8-11に係る発明は,引用文献1-7に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,依然として,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
……(中略)……

<引用文献等一覧>
1.特開2010-129636号公報
2.特開2010-165843号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2000-286467号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平11-251647号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2011-003640号公報(周知技術を示す文献)
6.国際公開第2011/118341号
7.特開2007-258571号公報(周知技術を示す文献)」


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
「1 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)本願明細書には,段落【0041】に「また,多結晶体の絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましい。多結晶体の表面が表面粗さRa0.2μm以上と荒れていると絶縁被膜とのアンカー効果が得られ,絶縁被膜との密着性が向上する。このため,表面粗さRaは0.2μm以上,さらには0.3?5μmが好ましい。」と記載されている。
これに対して,請求項1には「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上」と記載され,前記「絶縁被膜形成面の表面粗さRa」の上限を特定していない。したがって,請求項1の「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRa」は,たとえば前記「絶縁被膜」の平均膜厚を超えるような,過剰に大きな値を包含している。
しかしながら,請求項1に記載されるように「絶縁被膜形成面の表面粗さRa」が過大であると,前記段落【0041】に記載された「絶縁被膜」とのアンカー効果は,かえって失われることは明らかである。
また,本願明細書の段落【0060】の表2には,実施例1?12における多結晶体の絶縁被膜形成面の表面粗さRaは,0.2?4.2μmであると,4.2μmが前記表面粗さRaの上限であることが記載されている。
したがって,本願明細書には,多結晶体の絶縁被膜形成面の表面粗さRaを0.2?4.2μmにすることしか,実質的には記載されていない。
そうすると,請求項1の「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRa」についての上記の記載は,本願明細書に記載されていない範囲のものを包含している。
以上は,請求項8の「表面粗さRaが0.2μm以上である少なくとも1つの面を有する多結晶体を調製する工程」という記載についても同様である。
よって,請求項1及び8に係る発明,請求項1を引用する請求項2?7に係る発明,及び,請求項8を引用する請求項9?10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)本願明細書には,段落【0040】に「絶縁被膜は平均厚さ3μm以上であることが好ましい。絶縁被膜の厚さが3μm未満では絶縁被膜が薄すぎて耐熱性を向上させる効果が小さい。一方,絶縁被膜を厚くすればするほど耐熱性向上の効果は得られるが,あまり厚すぎるとコストアップの要因になるだけでなく,熱膨張係数が比較的合っていても,ひずみがかかりすぎ,剥離する恐れがある。そのため,絶縁被膜の平均膜厚は3μm以上1mm以下,さらには5μm以上0.5mm以下が好ましい。」と記載されている。そして,段落【0060】の表2には,実施例1?12における絶縁被膜の膜厚は,4?500μmであることが記載されている。
すなわち,本願明細書には,絶縁被膜の平均膜厚を4?500μmにすることしか,実質的には記載されていない。
これに対して,請求項1には「前記絶縁被膜の平均厚さが3μm以上であり」と記載され,「前記絶縁被膜の平均厚さ」の上限を特定していない。
したがって,請求項1の記載は,「前記絶縁被膜の平均厚さ」が厚すぎて,「コストアップの要因になるだけでなく,熱膨張係数が比較的合っていても,ひずみがかかりすぎ,剥離する恐れがある」ものを包含している。そして,「絶縁被膜」が,そのように厚すぎる「平均厚さ」を有することは,本願明細書に記載されているとは認められない。
以上は,請求項8の「前記多結晶体の前記少なくとも1面に平均厚さが3μm以上の絶縁被膜を形成する工程」という記載,請求項3の「前記絶縁被膜の平均厚さ」の上限が「1mm」であるという記載についても同様である。
よって,請求項1及び8に係る発明,請求項1を引用する請求項2?7に係る発明,及び,請求項8を引用する請求項9?10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。


2 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1に「前記多結晶体の少なくとも1面には絶縁被膜が設けられており」と記載されている。
しかしながら,上記記載は,「前記多結晶体の少なくとも1面」には一部にでも「絶縁被膜が設けられて」いれば足りるのか,「前記多結晶体の少なくとも1面」の全面に「絶縁被膜が設けられて」いることが必要であるのか,不明である。
以上の点は,請求項8の「前記多結晶体の前記少なくとも1面」に「絶縁被膜を形成する工程」という記載についても同様である。
よって,請求項1及び8に係る発明,請求項1を引用する請求項3?7に係る発明,及び,請求項8を引用する請求項10に係る発明は明確でない。


3 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2007-258571号公報
2.特開2010-129636号公報
3.国際公開第2011/118341号

・請求項 :1
・引用文献等:1?3
・備考
(1)引用発明
文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「下記組成式(1)または組成式(2)で表わされるハーフホイスラー系の構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料において,前記多結晶体の側面には,高温に晒される部分に絶縁被膜が設けられており,
前記絶縁被膜は,前記絶縁被膜の熱膨張係数と前記熱電変換材料の熱膨張係数との差異が±15%以内であるように,SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスで形成されていることを特徴とする熱電変換材料。
組成式(1):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))CoSb_(0.85)Sn_(0.15)
組成式(2):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))NiSn_(0.994)Sb_(0.006)」

(2)対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明と対比すると,両者は以下の点で一致するとともに,以下の点で相違する。
(一致点)
「下記組成式(1)で表わされ,多結晶体を含む熱電変換材料において,前記多結晶体の少なくとも1面には絶縁被膜が設けられており,
前記絶縁被膜は所定の熱膨張係数を有していることを特徴とする熱電変換材料。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.2≦a1≦0.7,0.3≦b1≦0.8,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」

(相違点)
(相違点1)本願発明の「多結晶体」は「MgAgAs型結晶構造を有する」のに対して,引用発明の「多結晶体」は「ハーフホイスラー系の構造を有する」点。
(相違点2)本願発明の「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上」であるのに対して,引用発明はそのような構成を有していない点。
(相違点3)本願発明の「前記絶縁被膜の平均厚さが3μm以上であ」るのに対して,引用発明はそのような構成を有していない点。
(相違点4)本願発明の「絶縁被膜は,80質量%以上の金属酸化物を主成分と」するのに対して,引用発明の「絶縁被膜」は「SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al2O31?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスで形成されている」点。
(相違点5)本願発明の「絶縁被膜」は「熱膨張係数が7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下である」のに対して,引用発明の「絶縁被膜」の「熱膨張係数」は「前記熱電変換材料の熱膨張係数との差異が±15%以下である」点。

(3)判断
ア 相違点1について
本願明細書の段落【0059】の「(実施例)……縦3mm×横3mm×長さ5mmの焼結体(多結晶体)を作製した。なお,各焼結体の組成は表1に示す通りである。また,いずれも熱膨張係数は7×10^(-6)?12×10^(-6)/℃の範囲内であった。また,いずれも組織に占めるハーフホイスラー相(MgAgAs型結晶粒子)の面積比はいずれも95%以上であった。」という記載から,本願発明の「多結晶体」と引用発明の「多結晶体」は,組成が一致するとともに,ハーフホイスラー系の構造を有する点でも一致する。
そうすると,本願発明の「多結晶体」と同一の組成を有し,かつ,同じく「ハーフホイスラー系の構造」を有する引用発明の「多結晶体」は,「MgAgAs型結晶構造を有する」と認められる。
なお,仮にそうでないとしても,本願発明の「組成式(1)」を満たし,MgAgAs型結晶相を有するハーフホイスラー化合物は,高いZT値を示すことが,文献2の段落【0017】?【0018】及び【0026】に記載されている。
したがって,引用発明の「ハーフホイスラー系の構造を有する多結晶体」をMgAgAs型結晶構造を有するものとして形成することは,文献2に記載の技術を参酌すれば,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

イ 相違点2及び3について
文献3には,段落[0007]?[0008]に,熱電モジュールの耐久特性のために熱電素子の側面に絶縁層からなる被覆材を形成すること,段落[0017]及び[0052]に,熱電素子本体部と前記絶縁層からなる被覆材とを密着させるために前記熱電素子本体部の側面を粗面化すること,段落[0018]及び[0052]に,前記被覆材の厚みを5?50μmとすることが記載されている。
ここで,前記熱電素子本体部の側面の粗面化の程度は,求められる密着性の程度に応じて適宜設定し得たものと認められる。
なお,本願明細書の段落【0040】?【0041】の記載を参照しても,本願発明の「多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRa」及び「絶縁被膜の平均厚さ」のそれぞれの数値範囲に臨界的な意義があるとは認められない。

ウ 相違点4について
引用発明の「絶縁被膜」を形成する「SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラス」の各成分のうち,金属酸化物でないものは「B_(2)O_(3)」である。
したがって,引用発明の「絶縁被膜」のおおよそ85?90重量%は金属酸化物で形成されているものであるから,相違点4は実質的な相違点でない。

エ 相違点5について
引用発明の「前記絶縁被膜」は「前記絶縁被膜の熱膨張係数と前記熱電変換材料の熱膨張係数との差異が±15%以内であるように,SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスで形成されている」ものである。
したがって,引用発明の「熱電変換材料」の「熱膨張係数」に応じて,前記「絶縁被膜」の「熱膨張係数」を「7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下」に設定することは,当業者が適宜なし得たものと認められる。

・請求項 :8
・引用文献等:1?3
・備考
本願発明と同じ理由により,本願の請求項8に係る発明は,文献2及び3に記載された技術を参酌すれば,引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
……(以下,省略)」


第4 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は,平成29年11月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料において,前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられており,前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上4.2μm以下で,前記絶縁被膜の平均厚さが4μm以上500μm以下であり,
前記絶縁被膜は,酸化ケイ素,酸化鉄,酸化クロム,酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムから選択される主成分となる金属酸化物80?90質量%と,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび酸化鉄から選択される1種からなる残りの金属酸化物との混合物からなり,熱膨張係数が7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下であり,
前記多結晶体の電極接合面には,NiおよびAuよりなる群から選ばれ,厚さが2μm以上5μm以下である金属膜が形成されていることを特徴とする熱電変換材料。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.2≦a1≦0.7,0.3≦b1≦0.8,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
【請求項2】
前記Dは,Ni及びCoよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1に記載の熱電変換材料を用いたことを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項4】
下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有し,表面粗さRaが0.2μm以上4.2μm以下である多結晶体を調製する工程と,前記多結晶体の電極接合面以外に平均厚さが4μm以上500μm以下である絶縁被膜を形成する工程と,前記多結晶体の電極接合面に厚さが2μm以上5mm以下である金属膜を形成する工程と,を具備し,
前記絶縁被膜は,酸化ケイ素,酸化鉄,酸化クロム,酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムから選択される主成分となる金属酸化物80?90質量%と,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび酸化鉄から選択される1種からなる残りの金属酸化物との混合物からなり,熱膨張係数が7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下であり,前記金属膜は,NiおよびAuよりなる群から選ばれることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.2≦a1≦0.7,0.3≦b1≦0.8,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
【請求項5】
前記多結晶体の電極接合面以外に前記絶縁被膜を形成する工程の後,前記多結晶体の電極接合面に金属メッキ層あるいは蒸着膜を施して金属膜を形成する工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の熱電変換材料の製造方法。」


第5 引用例,引用発明等
1 引用例1について
(1)引用例1の記載事項
平成29年10月13日付けの当審拒絶理由通知において「文献1」として引用され,原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献7」として引用された特開2007-258571号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は参考のため,当審において付したもの。以下同様である。)。
ア 「【背景技術】
【0002】
資源の枯渇が予想される近未来において,エネルギーを有効に利用することは極めて重要な課題であり,種々のシステムが考案されている。その中でも,温度差が取れるシステムとして,ゼーベック効果と呼ばれる熱起電力を発生する熱電変換部材は,今まで排熱として無駄に環境中に捨てられていたエネルギーを回収する手段として期待されている。この熱電変換部材は,p型半導体熱電変換部材とn型半導体熱電変換部材を交互に直列に接続したモジュールとして使用されている。
……(中略)……
【0005】
ところで,熱電変換部材の動作温度を高める上での開発課題には,素子が所期の性能を発揮できるかどうかの本質的なものと,実用上における付随的なものとの二つに分けられる。後者の課題の中でも,素子の酸化の問題は深刻な要素となっている。
【0006】
高温で動作可能な熱電変換材料としては,フィルドスクッテルダイト系,ハーフホイスラー系の半導体熱電変換材料が有望視されている。これらの半導体熱電変換材料は熱電特性を上げるためにランタン(La),セリウム(Ce),イットリウム(Y),エルビウム(Er)等の希土類またはハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)等の活性金属が添加されている。しかしながら,いずれの金属も酸素との親和性が極めて高く,耐酸化性に劣るため,高温酸化雰囲気での使用が制限される。
【0007】
このようなことから,特許文献1にはp型半導体熱電変換部材とn型半導体熱電変換部材を上下に配置した電極で接続し,かつそれらの半導体熱電変換部材の露出面(側面)全体をPbOやTeO_(2)を主成分としたガラス膜で被覆してそれら半導体熱電変換部材の酸化を防止することが記載されている。
【0008】
しかしながら,特許文献1の発明はガラス膜が各半導体熱電変換部材の露出面(側面)全体を覆うことによって上下の電極間に繋がるため,熱が熱電変換部材以外のガラス膜にも流れて,熱エネルギーのロスを生じる。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は,高温酸化雰囲気での耐性に優れ,かつ効率的な熱エネルギーの利用が可能な熱電変換モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0017】
図1は,実施形態に係る熱電変換モジュールを示す斜視図,図2は図1のII-II線に沿う断面図である。
【0018】
第1,第2の絶縁基板1,2は,互いに対向して配置されている。これらの絶縁基板1,2は,耐熱性絶縁材料,例えば窒化珪素,窒化アルミニウムのようなセラミックから作られることが好ましい。柱状(例えば四角柱状)をなす複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4は,前記第1,第2の絶縁基板1,2間にその基板面に沿って交互,例えば市松状に配置されている。p型,n型の半導体熱電変換部材3,4は,四角柱状に限らず,三角柱状,五角柱状のような多角柱状,または円柱状であってもよい。また,各p型,n型の半導体熱電変換部材3,4は例えばフィルドスクッテルダイト系材料,ハーフホイスラー系材料および鉄シリコン系材料のいずれかにより作ることができる。p型,n型の半導体熱電変換部材3,4は,これらの材料から選択される同一材料または異種の材料から作られてもよい。これらの材料の中で,ハーフホイスラー系材料は最も高い熱電性能を有し,鉄シリコン系材料は優れた耐酸化性を有する。
【0019】
複数の第1電極5は,前記複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4の配列側の前記第1絶縁基板1表面に形成され,前記第1絶縁基板1側で隣接する前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の端面と例えばAg系の活性ろうを介してそれぞれ接合,接続されている。複数の第2電極6は,前記複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4の配列側の前記第2絶縁基板2表面に形成され,前記第2絶縁基板2側で隣接する前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の端面と前記第1電極5とともに電気的に直列接続されるように例えばAg系の活性ろうを介してそれぞれ接合,接続されている。
【0020】
ガラス膜7は,図2に示すように前記第1絶縁基板1側の第1電極5の露出面に被覆されると共に,この第1電極5から前記第2電極6に向かう前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の露出面の一部に被覆されている。ここで,『半導体熱電変換部材3,4の露出面の一部』とはその柱状をなす半導体熱電変換部材3,4の長さの90%以下,好ましくは80%以下を意味する。なお,ガラス膜は前記第2絶縁基板2側の第2電極6の露出面およびその近傍の半導体熱電変換部材3,4の露出面をも被覆してもよい。
【0021】
このようなガラス膜7が被覆される第1電極5を有する第1絶縁基板1側を高温側,第2絶縁基板2側を低温側にすることが好ましい。前記ガラス膜7は,その熱膨脹係数が前記各半導体熱電変換部材3,4の熱膨脹係数との差異が±15%以内である材料から選択することが好ましい。このような熱膨張係数を有するガラスとしては,例えばSiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスを挙げることができる。
【0022】
このような図1,図2に示す構成によれば,第1絶縁基板1を高温側,第2絶縁基板2を低温側にすることによって,これら第1,第2の絶縁基板1,2間に配置され,第1絶縁基板1の第1電極5および第2絶縁基板2の第2電極6により直列接続された例えば四角柱状をなす複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4において,発生する温度差および各熱電変換部材3,4固有の熱電変換効率により前述した式(1)により発電する。
【0023】
前記熱電変換モジュールの発電において,前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の材料であるフィルドスクッテルダイト系,ハーフホイスラー系の半導体熱電変換材料は酸素との親和性の高い希土類,活性金属を含むために,各半導体熱電変換部材3,4,特に高温側に曝される第1絶縁基板近傍の部位が酸化劣化される。
【0024】
実施形態に係る熱電変換モジュールは,図2に示すように高温側に曝される第1絶縁基板1側の第1電極5の露出面をガラス膜7で被覆し,かつ第1電極5から前記第2電極6に向かう前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の露出面の途中までガラス膜7により被覆しているため,高温の大気雰囲気中で各半導体熱電変換部材3,4の酸化劣化を防止できる。
【0025】
さらに,ガラス膜7の被覆領域は第1電極5から前記第2電極6に向かう各半導体熱電変換部材3,4の露出面の途中まであるため,熱はガラス膜7に流れることなく,各半導体熱電変換部材3,4のみを流れ,エネルギーロスを防止して,効率的な発電を行うことができる。」

エ 「【0026】
次に,実施形態に係る熱電変換モジュールの製造方法を図3を参照して説明する。
【0027】
まず,ガラス粉末および有機バインダーを含み,複数の貫通穴(例えば四角柱状の貫通穴)11を有する枠体12を準備する。また,片面に複数の第1電極5が配列固定された第1絶縁基板1および片面に複数の第2電極(図示せず)が配列固定された第2絶縁基板2を準備する。
【0028】
次いで,前記枠体12の貫通穴11に柱状(例えば四角柱状)をなす複数のp型半導体熱電変換部材3および柱状(例えば四角柱状)をなす複数のn型半導体熱電変換部材4を交互,例えば市松状に挿入,配置する。つづいて,前記枠体12の貫通穴11に挿入された複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4のうち,隣接するp型,n型の半導体熱電変換部材3,4の一方の端面に前記第1絶縁基板1の複数の第1電極5を,他方の端面に前記第2絶縁基板2の複数の第2電極(図示せず)を前記第1電極5とともにp型,n型の半導体熱電変換部材3,4を電気的に直列接続されるように例えばAg系の活性ろうを介してそれぞれ重ねる。
【0029】
このような複数のp型,n型の半導体熱電変換部材3,4が挿入された枠体12と,下部側に位置する第1電極5を有する第1絶縁基板1と,上部側に位置する第2電極(図示せず)を有する第2絶縁基板2との組立て物を加熱する。このとき,前述した図2に示すように第1,第2の電極5,6がp型,n型の半導体熱電変換部材3,4の両端面にAg系の活性ろうを介して接合される。同時に,ガラス粉末および有機バインダーを含む前記枠体12が溶融されてガラス質になり,前述した図2に示すようにガラス膜7が第1絶縁基板1側の第1電極5の露出面を被覆されると共に,この第1電極5から前記第2電極6に向かう前記p型,n型の半導体熱電変換部材3,4の露出面の一部に被覆されて熱電変換モジュールが製造される。
【0030】
前記ガラス粉末としては,熱膨脹係数が前記各半導体熱電変換部材3,4の熱膨脹係数との差異が±15%以内のもの,例えばSiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスであることが好ましい。このガラス粉末は,5?200μmの平均粒径を有することが好ましい
前記有機バインダーとしては,例えばPVA(ポリビニルアルコール),パラフィン等を用いることができる。
【0031】
前記加熱温度は,使用するガラス粉末の種類にもよるが,前記組成の無鉛硼珪酸亜鉛ガラスを用いた場合,500?800℃にすることが好ましい。」

オ 「【0036】
(実施例1)
PVA(ポリビニルアルコール)をDMSO(ジメチルスルフォキシド)に5重量%溶解した溶液に無鉛ガラス粉末(松浪硝子工業社製商品名:JV-35)を混合してペーストを調製した。つづいて,このペーストを金型を用いて押し出し成形し,乾燥することにより正方角柱の貫通穴が縦横10列有するハニカム枠を得た。ひきつづき,このハニカム枠の各貫通穴に正方角柱をなすp型,n型のハーフホイスラー系熱電変換部材各50個計100個をp型,n型が市松状並ぶように挿入,配列した。前記p型の熱電変換部材としては(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))CoSb_(0.85)Sn_(0.15)を用い,n型熱電変換部材としては(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))NiSn_(0.994)Sb_(0.006)を用いた。
【0037】
次いで,各熱電変換部材が挿入された前記ハニカム枠を所定の直列回路形成用の第1電極を有する窒化珪素からなる第1絶縁基板と所定の直列回路形成用の第2電極を有する窒化珪素からなる第2絶縁基板との間に挟み込んだ。なお,第1,第2の電極にはTi入り銀ロウペーストが予め塗布されている。つづいて,第1絶縁基板が下側,第2絶縁基板が上側に位置するように配置した状態で,アルゴン雰囲気にて830℃に加熱した。このとき,第1,第2の電極を各熱電変換部材の端面にTi入り銀ロウを介して接合された。同時に,前記ハニカム枠が溶融してガラス質になり,ガラス膜が下側に位置する第1絶縁基板側の第1電極の露出面を被覆すると共に,この第1電極から前記第2電極に向かうp型,n型の半導体熱電変換部材の露出面における下から3/5までの長さに亘る部分に被覆した構造の熱電変換モジュールを製造した。
【0038】
得られた熱電変換モジュールを大きな温度差を与えることのできる熱電性能評価装置に設置し,第1絶縁基板を加熱側,第2絶縁基板を冷却側とした。第2絶縁基板(冷却側)を100℃とし,第1絶縁基板(加熱側)を昇温30分で800℃とし,その温度を5時間保持し,降温60分で100℃まで下げるサイクルを繰り返した。モジュールと負荷抵抗を電気的に結び,この熱サイクルをかけながら発電量を測定した。その結果,500サイクルを超えても発電量の低下は認められず,長期信頼性を有することが確認された。」

(2)引用発明1及び引用発明2
ア 引用発明1
以上の記載事項から,引用例1には,「熱電変換モジュール」について,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「四角柱状をなし,それぞれ下記組成式(1)または組成式(2)で表わされるp型またはn型のハーフホイスラー系熱電変換部材からなる熱電変換モジュールにおいて,
前記熱電変換部材の両端面は,Ag系の活性ろうを介して,それぞれ,第1電極及び第2電極に接合,接続され,
前記熱電変換部材の露出面の一部は,ガラス膜で被覆されており,
前記ガラス膜は,熱膨張係数が前記熱電変換部材の熱膨張係数との差異が±15%以内の,SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスであるガラス粉末から形成されていることを特徴とする熱電変換モジュール。
組成式(1):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))CoSb_(0.85)Sn_(0.15)
組成式(2):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))NiSn_(0.994)Sb_(0.006)」

イ 引用発明2
また,以上の記載事項から,引用例1には,「熱電変換部材の製造方法」について,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「四角柱状をなし,それぞれ下記組成式(1)または組成式(2)で表わされるp型またはn型のハーフホイスラー系熱電変換部材を準備する工程と,
ガラス粉末および有機バインダーを含む複数の貫通穴を有する枠体と,片面に複数の第1電極が配列固定された第1絶縁基板と,片面に複数の第2電極が配列固定された第2絶縁基板を準備する工程と,
前記枠体の貫通穴に複数の前記p型及びn型の熱電変換部材を交互に挿入,配置する工程と,
隣接するp型,n型の熱電変換部材の一方の端面に前記第1絶縁基板の複数の第1電極を,他方の端面に前記第2絶縁基板の複数の第2電極を,それぞれ,Ag系の活性ろうを介して重ねることで組立て物を形成する工程と,
前記組立て物を加熱して,前記第1,第2の電極を前記p型,n型の熱電変換部材の両端面に前記Ag系の活性ろうを介して接合すると同時に,前記ガラス粉末および有機バインダーを含む前記枠体を溶融させて,前記p型,n型の熱電変換部材の露出面の一部をガラス膜で被覆する工程と,
を備え,
前記ガラス粉末は,熱膨張係数が前記熱電変換部材の熱膨張係数との差異が±15%以内の,SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスであることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
組成式(1):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))CoSb_(0.85)Sn_(0.15)
組成式(2):(Ti_(0.3)Zr_(0.35)Hf_(0.35))NiSn_(0.994)Sb_(0.006)」

2 引用例2について
(1)引用例2の記載事項
平成29年10月13日付けの当審拒絶理由通知において「文献2」として引用され,原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献1」として引用された特開2010-129636号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来のハーフホイスラー化合物系の熱電変換材料は一定の性能は示すものの,更なる性能向上が求められていた。
【0006】
本発明は,毒性が低く高性能なハーフホイスラー化合物系の熱電変換材料およびその製造法王を提供すると共に,この熱電変換材料を用いてより優れた性能を有する熱電変換モジュールを提供するものである。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の熱電変換材料は,下記組成式(1)で表わされ,Tiモル濃度が異なる2相以上のMgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料において,Tiモル濃度が最小のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をN_(0),Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をN_(1)としたとき,N_(1)/N_(0)の値が2以上であることを特徴とするものである。
【0018】
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.3<a1<0.7,0.3≦b1≦0.7,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0019】
組成式(1)中,A元素はZr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム)の少なくとも1種以上である。A元素は後述するTi,X元素と共にMgAgAs型結晶構造を有する相を主相とするために必要な元素である。また,熱電変換特性を向上させるためにはZrとHf両方含有していることが好ましい。ZrとHfの両方を含有させる場合はZrとHfの原子比をZr/Hf原子比=0.3?0.7の範囲が好ましい。
【0020】
また,Ti(チタン)はZrやHfと比べて価格的に安価であることからA元素の一部をTiで置き換えると熱変換材料のコストダウンを図ることができる。また,Tiの含有により熱伝導率低減の効果が得られる。
【0021】
X元素は,Sn(錫)またはSb(アンチモン)の少なくとも一種以上の元素である。
【0022】
また,熱電変換特性を向上させるためにはSnとSb両方含有していることが好ましい。
【0023】
D元素は,Ni(ニッケル),Co(コバルト),Fe(鉄)から選ばれる少なくとも1種以上の元素である。D元素はMgAgAs型結晶構造の相安定化のために有効な元素である。これらの元素の中ではNiやCoが好ましく,さらに耐食性も向上する。
【0024】
各元素の原子比は,0.3<a1<0.7,0.3≦b1≦0.7,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。この範囲を外れるとMgAgAs型結晶構造の相安定化が図れず,十分な熱電特性が得られない。なお,組成式(1)は熱電変換材料の試料片0.1g以上の組成を調べた時の平均値である。
【0025】
また,N型熱電変換材料とする場合はD元素をNiリッチかつX元素としてSnリッチ組成とし,P型熱電変換材料とする場合はD元素をCoリッチかつX元素をSbリッチとすることが好ましい。
【0026】
本発明の熱電変換材料は上記組成式(1)を満たし,MgAgAs型結晶相を有するハーフホイスラー化合物において,Tiモル濃度が異なる2相以上のMgAgAs型結晶相を有すと高いZT値を示すことを見出した。」
(当審注:引用例2の原文においては,段落【0024】に「各元素の原子比は,0.3<a1<0.7,0.3≦B1≦0.7,a1+B1=1……」と記載されている。しかし,当該記載は同段落【0018】の組成式(1)を説明するものであり,前記「B1」の記載は「b1」の誤記であることは明らかであるので,上記のとおりに認定した。)

ウ 「【0034】
本発明の熱電変換材料の製造方法は特に限定されるものではないが,効率よく得る方法として次の製造方法が挙げられる。その方法としては,Ti濃度の異なる2種類以上の原料粉末を混合,成形,焼結する方法が挙げられる。Ti濃度の異なる2種類以上の原料粉末としては,Ti濃度の少ない原料粉末とTi濃度の多い原料粉末を用いることである。
【0035】
Ti濃度の少ない原料粉末(便宜上,「第1原料粉末」と呼ぶ)としては下記の組成式(2)で示されるものが好ましい。
【0036】
一般式:(A_(a1)Ti_(b2))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(2)
(上記組成式(2)中,0.3<a1≦1,0≦b2<0.3,a1+b2=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0037】
また,Ti濃度の多い原料粉末(便宜上,「第2原料粉末」と呼ぶ)としては下記組成式(3)で示されるものが好ましい。
【0038】
一般式:(A_(a1)Ti_(b3))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(3)
(上記組成式(2)中,0.3<a1<0.7,0.3≦b3,a1+b3=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0039】
b2値が0.3未満とTi濃度の少ない原料粉末(第1原料粉末)と,b3値が0.3以上とTi濃度の多い原料粉末(第2原料粉末)を混合して焼結することにより,N_(1)/N_(0)の値を制御する方法である。
……(中略)……
【0047】
次に,混合原料粉末を成形する成形体調製工程を行う。成形方法は金型成形が好ましい。さらに成形体を焼結する焼結体調製工程を行う。焼結方法は,雰囲気加圧焼結法,ホットプレス法,SPS(放電プラズマ焼結)法,HIP(熱間静水圧プレス)法などが挙げられる。ホットプレス法では成形と焼結を同じ金型で行う方法あってもよい。また,焼結工程は焼結体の酸化防止という観点から,例えばArなどの不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0048】
また,焼結条件は,焼結温度が950℃以上1350℃以下,焼結時間0.5h以上50h以下,焼結圧力10MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。このような条件で焼結することにより,目的とするN1/N0の値を2.0以上やEPMAカラーマッピングのTi濃度レベルが22以下(ゼロ含む)となるMgAgAs型結晶相の領域を得やすい。また,加圧焼結法を用いることにより,焼結体密度を向上した熱電変換材料が得られる。
【0049】
また,Ti濃度レベルが30以下のMgAgAs相の領域が分散された組織になる。これらの条件によりMgAgAs相以外の結晶相の析出が低減されると共に焼結体密度98%以上を確保することができる。なお,焼結体密度は(アルキメデス法による実測値/理論密度)×100%により求めることができる。」

エ 「【0053】
図1に熱電変換モジュールの一例の断面図を示す。図1において,1はP型熱電変換材料,2はN型熱電変換材料である。P型熱電変換材料1およびN型熱電変換材料2の下面は,下側の絶縁基板4aに支持された電極3aによって接続されている。P型熱電変換材料1およびN型熱電変換材料2のそれぞれの上面には,電極3b,3bが配置され,その外側に上側の絶縁基板4bが設けられている。P型熱電変換材料1とN型熱電変換材料2はペアで配置され,P型とN型の熱電変換材料が交互に複数個配置された構造となっている。
【0054】
熱電モジュールの熱電変換材料のうちN型もしくはP型のいずれか一方または両方に本発明の熱電変換材料を用いるものとする。N型またはP型のいずれか一方のみに本発明の熱電変換材料を用いる場合,他方には,N_(1)/N_(0)の値を2.0未満のハーフホイスラー系,Di-Te系,PD-Te系などの材料を用いてもよい。なお,熱電モジュールの特性やPD有害性を考慮するとP型,N型の両方に本発明の熱電変換材料を用いることが好ましい。
【0055】
また,絶縁基板(4a,4b)には,セラミックス基板,例えば3点曲げ強度700MPa以上の窒化珪素基板が好ましい。窒化珪素基板を用いることにより熱電モジュールの耐熱性を向上させることができる。また,電極(3a,3b)は,銅板,アルミニウム板など導電性の良いものが好ましい。また,セラミックス基板と電極の接合は,Ti,Zr,Hfの少なくとも1種を0.5?10質量%,残部Ag-Cu共晶合金からなる活性金属ろう材や,Al-Si共晶合金などを用いることが好ましい。また,電極と熱電変換材料の接合においても,同様の活性金属ろう材や,Al-Si共晶合金などを用いることが好ましい。これらろう材は接合温度が600?900℃と高いので熱電モジュールの耐熱温度を上げることができる。
【0056】
熱電変換モジュールの原理を説明する。下側の絶縁基板4aを高温に,上側の絶縁基板4bを低温にするように温度差を与える。この場合,P型熱電変換材料1の内部では正の電荷を持ったホール5が低温側(上側)に移動する。一方,N型熱電変換材料2の内部では負の電荷を持った電子6が低温側(上側)に移動する。その結果,P型熱電変換材料1上部の電極3aとN型熱電変換材料2上部の電極3bとの間に電位差が生じる。この現象を利用して,熱を電気に変換したり,電気を熱に変換したりすることができる。
【0057】
また,前述のろう材や窒化珪素基板を使うことにより,耐熱特性が上がり,500℃近い高温環境や,低温側と高温側の温度差が100℃以上あるような負荷の高い環境でも優れた特性を示すことができる。」

オ 「【0058】
[実施例]
(実施例1?6,比較例1?4)
実施例1では原料としてTi,Zr,Hf,Ni,Sn,Sbを用意し,アーク溶解法により溶湯とした後,アトマイズ法を用いて,(Zr_(0.5)Hf_(0.5))_(34)Ni_(33)(Sn_(0.994)Sb_(0.006))_(33)で表される第1原料粉末(合金A)と,Ti_(34)Ni_(33)(Sn_(0.994)Sb_(0.006))_(33)で表される第2原料粉末(合金B)を作製した。第1原料粉末は平均粒径34μm,第2原料粉末は平均粒径37μmとした。
【0059】
第1原料粉末と第2原料粉末の重量比を68:32となるように秤量し,ボールミルを用いて混合した。混合した粉末をAr雰囲気中で1200℃,40MPaの圧力で3hホットプレスすることにより外径20mm,厚み3mmの焼結体を得た。得られた焼結体の組成は(Zr_(0.3)Hf_(0.3)Ti_(0.4))_(34)Ni_(33)(Sn_(0.994)Sb_(0.006))_(33)であった。
【0060】
得られた焼結体の組成はICP発光分析により確認した。また,XRDによりMgAgAs型結晶相が形成されていることを確認した。焼結体から所望の形状の試料(熱伝導率は10φ×2.0mm,電気抵抗率とゼーベック係数は2×2×16mm)を切り出して熱電特性の評価に供した。
【0061】
また,実施例2?6として,表1に示した第1原料粉末と第2原料粉末を混合し,実施例2は1200℃×3h×40MPa,実施例3は1050℃×1h×80MPa,実施例4は1050℃×10h×100MPa,実施例5は1300℃×1h×20MPa,実施例6は1300℃×1h×40MPaで焼結した(いずれもAr雰囲気)。なお,いずれの第1原料粉末,第2原料粉末とも平均粒径20?50μmのものを用いた。また,実施例1?5はN型,実施例6はP型に好適な熱電変換材料である。
【0062】
実施例1と同様の方法で焼結体の組成を確認し,XRDによりMgAgAs型結晶相が形成されていることを確認した。また,焼結体から所望の形状の試料(外径15mm×厚さ1mm)を切り出して熱電特性の評価に供した。
……(中略)……
【0067】
各試料の特性は以下のようにして測定した。各焼結体について,10φ×2.0mmの評価片を切り出しアルキメデス法により密度をもとめ,レーザーフラッシュ(アルバック理工製)を用いて熱伝導率を求めた。また,各焼結体から2×2×16の寸法の試料を切り出してゼーベック係数αと電気抵抗率ρをZEM?3(アルバック理工製)により測定した。
【0068】
表1および表2に,700K(427℃)における熱伝導率,電気抵抗率,ゼーベック係数の測定結果とそれらの測定結果から算出された性能指数ZT(Z=α^(2)T/ρκ)を示す。表1および表2には,N1/N0の値も併記した。
……(中略)……
【0069】
表1から分かるように,Ti組成比が異なるAとBの2種類の原料粉末を用いて混合焼結により作製した場合(実施例1?6)にはN_(1)/N_(0)の値は2以上となり,1.0を超える高いZT値が得られている。
【0070】
これに対して,目標組成の合金粉(原料粉末)1種類を用いて焼結した場合(比較例1,2)や焼結条件が950℃未満(比較例3),1400℃以上(比較例4)と本実施例の好ましい範囲を外れている場合にはN_(1)/N_(0)の値の値は2以下または100以上となる。その結果として,これらの比較例ではZT値は0.9以下にとどまり,1.0を超えるような高いZT値は得られないことが明らかになった。」

(2)引用発明3及び引用発明4
ア 引用発明3
以上の記載事項から,引用例2には,「熱電変換材料」について,次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールであり,
電極と前記熱電変換材料とは,活性金属ろう材やAl-Si共晶合金により接合され,
下記組成式(1)においてMgAgAs型結晶構造の相安定化のために有効なD元素が,好ましくは耐食性を向上させるNiやCoから選ばれることを特徴とする熱電変換モジュール。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.3<a1<0.7,0.3≦b1≦0.7,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」

イ 引用発明4
また,以上の記載事項から,引用例2には,「熱電変換材料の製造方法」について,次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料の製造方法であって,下記組成式(1)においてMgAgAs型結晶構造の相安定化のために有効なD元素が,好ましくは耐食性を向上させるNiやCoから選ばれ,
Ti濃度の異なる2種類以上の原料粉末を調製し,混合する工程と,
前記混合した原料粉末を成形し,焼結して熱電変換材料を形成する工程と,
電極と前記熱電変換材料を,活性金属ろう材やAl-Si共晶合金で接合する工程と,
を備えることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.3<a1<0.7,0.3≦b1≦0.7,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」

3 引用例3について
(1)引用例3の記載事項
平成29年10月13日付けの当審拒絶理由通知において「文献3」として引用され,原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献6」として引用された国際公開第2011-118341号(以下「引用例3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「発明が解決しようとする課題
[0007] しかしながら,近年では,熱電モジュールの低コスト化要求に加えて長期間の耐久特性が要求されている。耐久特性が低下する原因として,熱電素子とこの熱電素子を接合する半田との反応が考えられ,特許文献1で得られる熱電素子の場合,側面に樹脂がコーティングされているために,このコーティングされた側面を介しての半田との反応は防止されるものの,棒状の熱電材料を切断してなる熱電素子本体部の端面にNiメッキなどの金属層を設けるだけでは樹脂層と熱電素子との間に隙間が残ってしまい,この隙間を介しての半田との反応の防止が不十分であった。その結果,長時間の使用中に熱電特性が低下するという問題があった。
[0008] 従って,本発明の目的は,低コストで作製され,長時間の使用後も熱電特性の低下の小さい耐久特性に優れる熱電素子及び熱電モジュールを提供することにある。」

イ 「[0017] 熱電素子本体部11の側周面には絶縁層12が形成されている。この絶縁層12は,例えば熱電素子本体部11を形成する熱電材料の表面をエッチング処理した後,絶縁層12となる被覆材を被覆して形成される。ここで,エッチング処理には,熱電素子本体部11と被覆材との密着性から硝酸を使用することが好ましく,また,被覆方法としては,噴霧,ディッピング,はけ塗り,蒸着等の手法があるが,ディッピングによる手法がコスト,量産性の面から好ましい。
[0018] 絶縁層12を形成する被覆材としては,例えば熱電材料よりも絶縁性がある樹脂が使用できるが,熱電素子本体部11を形成する熱電材料が加工時に受ける負荷を軽減させることができる点で,エポキシ,ポリイミド,アクリル系などの樹脂を使用することが好ましい。特に,コスト,電気絶縁性,水分による腐食防止,後述する金属層13を形成する目的でエポキシ系の樹脂を使用することが好ましい。絶縁層12の厚みとしては,例えば5?50μm,好ましくは10?20μm程度の厚みが採用できるが,特に限定はされない。」

ウ 「[0028] 自動車用途として熱電素子を用いた場合,長時間振動にさらされたり,高温放置された状態や低温放置された状態から始動されたりと,過酷な環境で使用されることがあるため,接合材(半田)20の端部には激しい応力が集中するが,図4に示すように,金属層13が絶縁層12端部の全周に亘って延在していると,接合材(半田)20の端部に応力が集中したときでも,接合材(半田)20や金属層13が千切れたりすることなく,接合材(半田)20の端部から,絶縁層12の一部分がはがれることで応力を緩和することができる。ここで,絶縁層12は,熱電素子本体部11が露出しないように絶縁層12内部ではがれるので,熱電素子本体部11にダメージを与えることなく,応力だけを緩和することができる。
……(中略)……
[0032] また,絶縁層12は,少なくとも金属層13に覆われる部位の表面が粗面化されているのが好ましく,粗面化されていることで,アンカー効果により金属層13と絶縁層12との密着性が高められる。粗面化の程度としては,例えば表面粗さRaが2?8μmであるのが効果的であり,このような粗面とするためには,表面をブラスト処理したり,表面を研磨した後200℃以上の温度で熱処理したり,表面を水で洗浄した後に,薄めた塩酸等の酸性の水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性の水溶液でエッチングするなどの方法が用いられる。」

エ 「[0050] 以下,実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。
[0051] まず,一度溶融させて固化したBi,Te,SeからなるN型の熱電材料及びBi,Sb,TeからなるP型の熱電材料を,ブリッジマン法により一方向に凝固させ,直径1.8mmの棒状のN型熱電材料及びP型熱電材料を準備した。具体的には,N型熱電材料はBi_(2)Te_(3)(テルル化ビスマス)とBi_(2)Se_(3)(セレン化ビスマス)との固溶体で作製し,P型熱電材料はBi_(2)Te_(3)(テルル化ビスマス)とSb_(2)Te_(3)(テルル化アンチモン)との固溶体で作製した。
[0052] ついで,この棒状のN型熱電材料及び棒状のP型熱電材料の表面を硝酸でエッチング処理した後,それぞれの側周面に厚み30μmの絶縁層となる被覆材を被覆した。被覆材はエポキシ樹脂からなる耐はんだ性レジスト(ソルダレジスト)である。被覆材の被覆方法としては,ディッピング法を用いた。
[0053] 次に,被覆材が被覆された棒状のN型熱電材料及びP型熱電材料を厚さ1.6mmになるように,ワイヤーソーにて切断し,N型熱電素子(N型熱電材料からなる円柱状体)及びP型熱電素子(P型熱電材料からなる円柱状体)を得た。得られたN型熱電素子及びP型熱電素子は,電解メッキで切断面にニッケル層を形成したもので,条件(形成領域)を異ならせたものを3種類用意した。」

4 引用例4について
(1)引用例4の記載事項
原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献2」として引用された特開2010-165843号公報(以下「引用例4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0026】
(b)熱電変換素子への絶縁膜被覆工程
続いて,p型熱電変換素子3及びn型熱電変換素子4の表面を絶縁膜15で被覆する。具体的には,図1(a)に示すようなp型熱電変換素子3及びn型熱電変換素子4に対して,各素子表面のうち少なくとも電極と対向されるべき面3a,3b及び4a,4b以外の面を,図1(b)に示すように絶縁膜15で被覆する。
【0027】
p型熱電変換素子3及びn型熱電変換素子4を絶縁膜15で被覆する方法としては,面3a,3b及び面4a,4b以外の面に,絶縁膜15を形成するための組成物を塗布する方法,或いは,まず,p型熱電変換素子3の面3a,3b及びp型熱電変換素子4の面4a,4bを,容易に脱着可能なカバーで覆い,次に,その熱電変換素子3,4を,絶縁膜15を形成するための組成物の浴に浸漬させ,熱電変換素子3の面3a,3b及び熱電変換素子4の面4a,4b以外の表面に絶縁膜15を形成するための組成物を形成し,その後,面3a,3b及び面4a,4bを被覆したカバーを除去する方法等が挙げられる。
【0028】
絶縁膜15を形成するための組成物としては,アルミナ系絶縁体,アルミナ・炭化珪素(SiC)系絶縁体,シリカ系絶縁体等の無機系絶縁体の膜を形成する組成物,エポキシ系絶縁体等の有機系絶縁体の膜を形成する組成物が挙げられる。熱電変換モジュールを300℃以上で使用する場合を考慮すると,耐熱性の観点から,無機系絶縁体の膜を形成する組成物であることが好ましい。例えば,アルミナ系絶縁体の膜を形成する組成物としては,ベタック(テルニック工業社製,商品名),アルミナ・炭化珪素(SiC)系絶縁体の膜を形成する組成物としては,SPコート(セラミックコート(株)社製,商品名),シリカ系絶縁体の膜を形成する組成物としては,シリカコート((有)エクスシア社製,商品名)が挙げられる。また,後述の固定手段16で例示する無機系接着剤を使用してもよい。
【0029】
絶縁膜15の厚さは,好ましくは20μm?1mm程度であり,より好ましくは100μm?0.5mm程度である。1mmを超えた絶縁膜15を形成することは,素子密度の低下の観点から好ましくない。上記各無機系絶縁体の膜を形成する組成物により形成される絶縁膜15の好適な膜厚は,ベタックについては0.1?1mm程度であり,SPコートについては0.05?0.1mm程度であり,シリカコートについては0.01?0.05mm程度である。」

イ 「【0030】
(c)熱電変換素子の重ね合わせ工程
続いて,図1(c)に示すように,面3a,3b以外の面に絶縁膜15が形成されたp型熱電変換素子13と,面4a,4b以外の面に絶縁膜15が形成されたn型熱電変換素子14とを,絶縁膜15同士がそれぞれ対向するように重ね合わせる。具体的には,隣り合う一組の素子13及び素子14それぞれについて,素子13における絶縁膜が形成された側面のうちの一面と,素子14における絶縁膜が形成された側面の内の一面とが,各素子それぞれの絶縁膜15同士を介して重ね合わされるように,素子13及び素子14を,全体として交互に行列状に配置して重ね合わせる。すなわち,p型熱電変換素子の表面のうち電極と対向されるべき面以外の面の少なくとも一部,及び,n型熱電変換素子の表面のうち電極と対向されるべき面以外の面の少なくとも一部を,絶縁膜を介して重ね合わせる。
……(中略)……
【0036】
このような熱電変換モジュールの製造方法は,p型熱電変換素子及びn型熱電変換素子の位置決めが不要であり,従来の熱電変換モジュールの製造方法に比して簡便である。また,このような製造方法によって得られる熱電変換モジュールは,絶縁膜15によって十分に素子間の絶縁が確保されるので,熱電変換素子を高密度に配置でき,小型化が可能でかつ高出力を得ることができる。また,p型熱電変換素子3及びn型熱電変換素子4の両方に絶縁膜15を有している熱電変換モジュール1は,素子同士の絶縁信頼性が非常に高いものとなる。」

5 引用例5について
(1)引用例5の記載事項
原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献3」として引用された特開2000-286467号公報(以下「引用例5」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】電気伝導体どうしを電気的絶縁を維持しながら機械的に接合するために,電気絶縁材料としてガラスを用いて接合する方法がある。この場合,2つの伝導体の間に伝導体よりも耐熱性の低いガラスをはさみ,ガラスの流動性が高くなる温度に保持して溶着する。高い接合強度を得るためには,伝導体間のガラス層が薄く緻密で空隙がないことが望ましい。しかし,ガラス層が非常に薄いかまたはガラス層が実質的に存在しない部分では絶縁性が低下する。ここで,耐熱性の低いガラスを用いた場合にはガラス層の流動性が高くなるため,ガラス層の極端に薄い部分が形成されやすくなり,絶縁性が低下しやすい。一方,耐熱性が高いガラスを用いた場合にはガラス層の流動性が低くなるため,空隙が形成されやすくなり,接合強度が低下しやすい。
【0003】特に,熱電変換モジュールのように熱電半導体どうしを数mm^(2)?数十mm^(2)程度の比較的大きな面積で接合する場合,接合強度の低下による破壊や絶縁性の低下が生じやすい。また,熱電変換モジュールのように使用中に高温端が高温にさらされるために内部で温度差が生じる場合,使用中においても絶縁性と接合強度の両立が困難になる。」

イ 「【0019】
【実施例】以下,本発明の実施例を説明する。表1に示すように6種のガラス質絶縁材料A?Fを用意した。なお,絶縁材料A?Dはセラミックス粒子を含まないガラスのみからなるものであり,絶縁材料Eはガラスマトリックスに対してサイズ250μm以下のAl_(2)O_(3)粒子を50vol%の割合で含有するものであり,絶縁材料Fはガラスマトリックスに対してサイズ100μm以下のSiO_(2)粒子を30vol%の割合で含有するものである。
【0020】表1に6種のガラス質絶縁材料A?Fの熱膨張率および軟化点を示す。熱膨張率は25?300℃の間の熱膨張率[×10^(-7)/℃]である。なお,絶縁材料E,Fの構成成分の熱膨張係数は,ガラスマトリックスが30?60,Al_(2)O_(3)粒子が90,SiO_(2)粒子が5である。軟化点[℃]は絶縁材料が自重により軟化変形する温度である。
【0021】3.5×3.5×3?10(mm)の寸法を有する2つのSi-Ge系熱電半導体の間に上記の絶縁材料A?Fをはさみ,表1の軟化点以上にて加熱することにより接合し接合状況を調べた結果を表1に示す。なお,Si-Ge系熱電半導体の相対密度は98%,熱膨張率は38×10^(-7)/℃である。
【0022】表1においてOKと表記したものは,Si-Geと絶縁層とが割れを発生することなく強固に固着していた。絶縁材料Eを用いた場合には,Si-Geおよび絶縁層の両方に割れが発生した。絶縁材料A?Dを用いた場合,接合後の絶縁層の厚さは60μm以下であり部分的に非常に薄くなっている個所(厚さがほぼ0)が観察された。絶縁材料E,Fを用いた場合,接合後の絶縁層の厚さは約500μmであった。接合評価の結果から,絶縁材料の熱膨張率は60[×10^(-7)/℃]未満であることが好ましい。絶縁材料Eのように熱膨張率が60を超えるとSi-Geに応力が加わり,Si-Geおよび絶縁層の両方に割れが発生する。Si-Geの熱膨張率が38であることから,絶縁材料の熱膨張率は伝導体の熱膨張率の150%以下,さらに50?150%であることが好ましいことがわかる。」

ウ 「【0031】次いで,図4および図5に示す1×18のライン型モジュールを作製した。図示しないが,低温端側も高温端側と同じ構造とした。この際,表1で最も良好な結果が得られた絶縁材料Fを用いた。図4(A)はライン型モジュールの平面図,図4(B)はライン型モジュールの側面図,図5は図4(B)のライン型モジュールの高温端近傍を拡大して示す断面図である。
【0032】まず,Si-Ge半導体1の両端に0.5mm厚さのカーボン歪緩和電極2を拡散接合により固着させた後,機械加工することにより3.5×3.5×9(mm)の寸法を有するSi-Ge半導体素子を作製した。Si-Ge半導体1は,Si=80at%,Ge=20at%の配合比を有し,p型不純物であるボロンまたはn型不純物であるリンを0.5?2.0E20mol/m^(3)の濃度で含有し,相対密度は98%である。次に,9対(合計18個)のp型およびn型のSi-Ge半導体素子を交互に一列に並べ,隣り合うSi-Ge半導体1どうしの側面を絶縁材料Fで融着接合して絶縁層3を形成した。その後,Si-Ge半導体素子を直列接続するように,カーボン電極2上にニッケル系ろう4によりMo電極5をろう付けした。なお,絶縁層3とニッケル系ろう4との間には空隙が生じていた。」

エ 「【0039】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば,伝導体どうしを高い接合強度で絶縁性の低下を招くことなく接合できる電気絶縁材料を提供でき,このような電気絶縁材料を用いて高温下で使用しても絶縁性および耐熱性が低下することのないモジュールを提供できる。また,本発明によればこのようなモジュールを簡便に製造できる方法を提供できる。」

オ 表1には,6種のガラス質絶縁材料A?Fの熱膨張率が示され,当該熱膨張率の最小値は絶縁材料Fの34×10^(-7)/℃であり,最大値は絶縁材料Eの60×10^(-7)/℃であることが記載されている。

6 引用例6について
(1)引用例6の記載事項
原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献4」として引用された特開平11-251647号公報(以下「引用例6」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を説明する。本発明による熱電変換素子は,PbおよびTeを含有する,例えばPbおよびTeのPbTeの2元系半導体,あるいは例えばPb,Te,SnによるPbSnTeの3元系半導体等の熱電変換材料による熱電変換素体の表面に,PbOおよびTeO_(2)を含有するガラス被覆を被着形成した構成とする。
……(中略)……
【0018】上述のガラス被覆は,これに含有させるPbOおよびTeO_(2)の全含有量を,全ガラス材の5重量%?70重量%とする。これは,5重量%未満とするとき,ガラス被覆にクラックが発生してくること,また,70重量%より多量とするとき,ガラス被覆の融点が低下し,中温領域の範囲での安定性が阻害されることを認めたことによる。
【0019】また,ガラス被覆中の,PbOおよびTeO_(2)相互の割合は,互いに20重量%?80%に選定し得るものであり,この範囲において,上述したこれらの全量を5重量%?70重量%に選定する。
【0020】また,ガラス被覆のガラス材は,PbO,およびTeO_(2)を含有させた各種ガラス,例えばこれらPbO,およびTeO_(2)のほかに,SiO_(2),Na_(2)O,B_(2)O_(3)や,更にZnO等を含有する組成とすることができる。
【0021】上述したガラス被覆の形成方法例としては,例えば,まずPbOとTeO_(2)とが所要量含有されたガラス粉末と,有機溶媒とを混練してガラスペーストを調製し,これを,プリントや直接塗布等の方法によって,上述した熱電変換素体の目的とする表面に塗布する。その後,100℃?150℃の温度で,10分間?1時間程度の乾燥を行った後に,酸素を含む雰囲気中,例えば空気中で,300℃/1時間?600℃/1時間の昇温速度をもって500℃?700℃に昇温し,10分間?1時間程度の焼成を行う。この焼成処理の後,100℃/1時間?500℃/1時間の降温速度をもって室温まで冷却する。このようにすると,熱電変換素体の目的とする表面にガラス被覆がなされる。
【0022】熱電変換素子に対する電極の形成は,上述のガラス被覆の後に,あるいはガラス被覆前に行うことができる。
【0023】次に,本発明の具体的例について説明するが,本発明はこれら例に限られるものではない。図1を参照して本発明による熱電変換素子11の一例を説明する。図1はこの熱電変換素子11の概略断面図を示すもので,この例では,柱状体例えば円柱状あるいは角柱状をなす,p型もしくはn型の例えばPbTe半導体,あるいはPbSnTe半導体よりなる熱電変換素体1の,両端面による電極形成面1aおよび1bに,それぞれ電極2が形成され,これら電極2の形成面,すなわちこの例では,熱電変換素体1の両端面を除く周面に,ガラス被覆3が被着されて成る。電極2は,ガラス被覆3の形成前,もしくは後に,各面1aおよび1bに形成できる。これら電極2の形成は,周知の焼結法,接合法等によって形成することができる。」

イ 「【0030】また,図4は同様の酸化処理による電気的抵抗の変化を測定した結果を示し,図4中曲線41は,本発明による実施例1の熱電変換素子に対する測定結果を示し,同図中曲線42,43および44は,それぞれ比較例1,2および3による各熱電変換素子に対する測定結果を示す。曲線41から明らかなように,本発明による熱電変換素子は,長時間の熱酸化によっても,その電気的特性に変化が見られなかった。これに比し,比較例1?3による熱電変換素子は,電気的特性の変動が著しく生じた。
【0031】すなわち,ガラス被覆を施さない場合はもとより,ガラス被覆を施しても,そのガラス被覆に,PbOまたはTeO_(2)を共に添加させない場合,さらにそのいづれか一方を含有しない組成とした場合,充分に高温に対して安定した特性の熱電変換素子,したがって,熱電変換装置を構成することができない。
【0032】このように,本発明によるPbOおよびTeO_(2)を含有するガラスによる被覆を施す熱電変換素子は,耐熱性にすぐれた,したがって,高温に対して熱電変換性能が安定した熱電変換素子とすることができるものである。」

7 引用例7について
(1)引用例7の記載事項
原査定の根拠となった平成28年3月9日付けの拒絶理由通知において「引用文献5」として引用された特開2011-3640号公報(以下「引用例7」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【背景技術】
……(中略)……
【0008】
具体的には,図9(b)に示すように,P型熱電変換材料51とN型熱電変換材料52は,その側面(接合面)が,絶縁層61を介して接合されており,上面側にはカーボン電極71が配設され,カーボン電極71には,ニッケル系ろう72,板状のモリブデン電極73が順に配設されており,これらからなる電極62により,P型熱電変換材料51とN型熱電変換材料52が電気的に接続されている。すなわち,この熱電変換モジュールにおいては,Si-Ge半導体からなるP型熱電変換材料51とN型熱電変換材料52を,ガラス質の絶縁層61を介して接合し,その後,P型熱電変換材料51とN型熱電変換材料52を直列接続するために,ニッケル系ろう72により板状のモリブデン電極73をカーボン電極71にろう付けしている。また,絶縁層61を構成する材料として,ガラスマトリックス中にセラミックス粒子を分散させた電気絶縁材料が用いられている。
【0009】
そして,このように構成された熱電変換モジュールにおいては,P型熱電変換材料51とN型熱電変換材料52は絶縁層61を介して接合されており,両者の間には隙間がないため,熱電変換材料の占有率が高く,単位面積当りの発電能力を向上させることが可能になる。」

イ 「【0036】
(6)この成形体を大気中雰囲気中にて,1000℃?1100℃の範囲で2時間焼成を行い,各組成物粉末の焼結体を作製した。ここで,焼成温度は,各組成物粉末の組成により異なり,相対密度が80%以上(好ましくは90%以上)となるように設定した。
【0037】
(7)それから,この焼結体をタイシングソーにより5mm×5mm×5mmの大きさの立方体に切り出し,本発明におけるP型熱電変換材料およびN型熱電変換材料となる熱電変換素子を得た。
そして,この熱電変換素子の,上下両面(導電面)以外の4つの側面にガラスペーストを塗布し,150℃のオーブンにて乾燥させた。
【0038】
(8)次いで,この熱電変換素子を,大気中900℃に設定したトンネル炉に導入してガラス成分を溶融させ,図1に示すように,上下両面を除いた4つの側面がガラス4に覆われた,めっき電極を形成する前の熱電変換素子1(1a)を得た。
【0039】
(9)そして,この熱電変換素子のガラスで覆われていない導電面となる上下両面を,平坦になるように研磨した。
【0040】
(10)それから,熱電変換素子1にNiめっきを施して,図2に示すように,熱電変換素子1の研磨された上下両面に,膜厚4?11μmのNiめっき膜(めっき電極)6を形成することにより,めっき電極6を備えているが,熱処理は行われていない熱電変換素子1(1b)を得た。
なお,Niめっき膜6は,電解めっき法,無電解めっき法のいずれの手法で形成してもよい。
このとき,熱電変換素子1の4つの側面はガラス4により覆われているため,めっき電極は全く形成されず,ガラスで覆われていない上下両面には,その全面にめっき電極6が形成される。
【0041】
(11)次いで,めっき電極が形成された熱電変換素子1(1b)を,大気雰囲気中で,400℃,15分の条件で熱処理して,熱処理済みの熱電変換素子(図示せず)を得た。」


第6 対比・判断
A 引用例1を主引例とした検討
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,両者は以下の点で一致するとともに,以下の点で相違する。
(一致点)
「下記組成式(1)で表わされる熱電変換材料において,熱電変換部材の電極接合面でない面に絶縁被膜が設けられており,
前記絶縁被膜は,酸化ケイ素である主成分となる金属酸化物と,酸化アルミニウムからなる残りの金属酸化物を含む混合物からなり,所定の熱膨張係数を有しており,
前記熱電変換部材の電極接合面には金属膜が形成されていることを特徴とする熱電変換材料。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.2≦a1≦0.7,0.3≦b1≦0.8,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1の「熱電変換材料」は「MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む」のに対し,引用発明1の「熱電変換材料」は「ハーフホイスラー系熱電変換部材」である点。
(相違点2)本願発明1は「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられて」いるのに対し,引用発明1は「前記熱電変換部材の露出面の一部は,ガラス膜で被覆されて」いる点。
(相違点3)本願発明1は「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上4.2μm以下で」あるのに対し,引用発明1の「熱電変換部材」はそのような構成を備えていない点。
(相違点4)本願発明1は「前記絶縁被膜の平均厚さが4μm以上500μm以下」であるという構成を備えるのに対し,引用発明1の「ガラス膜」はそのような構成を備えていない点。
(相違点5)本願発明1の「前記絶縁被膜は,酸化ケイ素,酸化鉄,酸化クロム,酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムから選択される主成分となる金属酸化物80?90質量%と,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび酸化鉄から選択される1種からなる残りの金属酸化物との混合物から」なるのに対し,引用発明1の「ガラス膜」は「SiO_(2)40?50重量%,ZnO15?20重量%,B_(2)O_(3)10?15重量%,BaO5?10重量%,K_(2)O15?20重量%,Al_(2)O_(3)1?5重量%の組成を有する無鉛硼珪酸亜鉛ガラスであるガラス粉末から形成されている」点。
(相違点6)本願発明1の「前記絶縁被膜」は「熱膨張係数が7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下」であるのに対し,引用発明1の「ガラス膜」は「熱膨張係数が前記熱電変換部材の熱膨張係数との差異が±15%以内」である点。
(相違点7)本願発明1は「多結晶体の電極接合面」に「NiおよびAuよりなる群から選ばれ,厚さが2μm以上5μm以下である金属膜が形成されている」のに対し,引用発明1の「熱電変換部材の両端面」は「Ag系の活性ろうを介して,それぞれ,第1電極及び第2電極に接合」されている点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて,上記相違点2について検討する。
本願発明1の「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられて」いる。この発明特定事項を文理解釈すると,「多結晶体」の「電極接合面」を除くすべての部分には「絶縁被膜が設けられて」いることを意味すると認められる。
この解釈は,本願に係る発明が解決しようとする課題が「耐熱性を向上させ長期信頼性のある熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換モジュール並びに熱電変換材料の製造方法を提供すること」であることが本願明細書の段落【0009】に記載され,同段落【0037】には「耐熱性を考慮すると,電極接合面以外の面(側面)すべてに絶縁被膜を設けることが好ましい。」と記載されていることと整合する。

イ そして,熱電変換部材の電極接合面以外のすべてを絶縁被膜で被覆することは,第5の3(1)ウ,第5の4(1)ア,第5の6(1)ア及び第5の7(1)イで摘記したように,引用例3,引用例4,引用例6及び引用例7に記載され,周知技術である。

ウ ところが,引用例1には,
・段落【0008】に「しかしながら,特許文献1の発明はガラス膜が各半導体熱電変換部材の露出面(側面)全体を覆うことによって上下の電極間に繋がるため,熱が熱電変換部材以外のガラス膜にも流れて,熱エネルギーのロスを生じる。」と,
・段落【0012】に「本発明は,高温酸化雰囲気での耐性に優れ,かつ効率的な熱エネルギーの利用が可能な熱電変換モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とする。」と,
・段落【0025】に「ガラス膜7の被覆領域は第1電極5から前記第2電極6に向かう各半導体熱電変換部材3,4の露出面の途中まであるため,熱はガラス膜7に流れることなく,各半導体熱電変換部材3,4のみを流れ,エネルギーロスを防止して,効率的な発電を行うことができる。」と,
それぞれ記載されている。
したがって,引用発明1において「前記熱電変換部材の露出面の一部は,ガラス膜で被覆されて」いるのは,「熱が熱電変換部材以外のガラス膜にも流れて,熱エネルギーのロスを生じる」ことを防止して,「効率的な熱エネルギーの利用が可能な熱電変換モジュールおよびその製造方法を提供する」という課題を解決するためであると認められる。

エ そうすると,熱電変換部材の電極接合面以外のすべてを絶縁被膜で被覆することは上記のように周知技術であるとしても,引用発明1において,「前記熱電変換部材の露出面」のすべてを敢えて「ガラス膜で被覆」することを,当業者が想起したとは認められない。
むしろ,引用例1の段落【0008】に記載された解決しようとする課題から考えると,引用発明1において,「前記熱電変換部材の露出面」のすべてを「ガラス膜で被覆」することには阻害要因があると認められる。

オ これに対して,本願発明1は,引用発明1との相違点である相違点2に係る構成を備えることで,耐熱性により優れ,長期信頼性に優れるという,本願明細書の段落【0037】及び【0064】に記載された格別の効果を奏するものである。

カ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明1,及び,引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は,本願発明1の記載を引用しており,本願発明1をさらに限定した発明である。
したがって,本願発明1と同じ理由により,本願発明2及び3は,引用発明1,及び,引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明4について
本願発明4は,本願発明1に対応する「熱電変換材料」の「製造方法」の発明であり,引用発明1との相違点である相違点2に係る本願発明1の「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられており」という構成に対応する「前記多結晶体の電極接合面以外に平均厚さが4μm以上500μm以下である絶縁被膜を形成する工程」という構成を備えるものである。
したがって,本願発明4は,引用発明2と少なくとも相違点2に対応する相違点で相違し,本願発明1と同様の理由により,引用発明2,及び,引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明5について
本願発明5は,本願発明4の記載を引用しており,本願発明4をさらに限定した発明である。
したがって,本願発明4と同じ理由により,本願発明5は,引用発明2,及び,引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

B 引用例2を主引例とした検討
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明3とを対比すると,両者は以下の点で一致するとともに,以下の点で相違する。
(一致点)
「下記組成式(1)で表わされ,MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体を含む熱電変換材料において,
前記多結晶体の電極接合面には金属膜が形成されていることを特徴とする熱電変換材料。
一般式:(A_(a1)Ti_(b1))_(x)D_(y)X_(100-x-y) 組成式(1)
(上記組成式(1)中,0.2≦a1≦0.7,0.3≦b1≦0.8,a1+b1=1,30≦x≦35,30≦y≦35である。AはZr,Hfの少なくとも1種以上の元素,DはNi,CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素,XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられて」いるのに対し,引用発明3はそのような構成を備えていない点点。
(相違点2)本願発明1は「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上4.2μm以下」であるのに対し,引用発明3はそのような構成を備えていない点。
(相違点3)本願発明1は「前記絶縁被膜の平均厚さが4μm以上500μm以下」であるのに対し,引用発明3はそのような構成を備えていない点。
(相違点4)本願発明1の「前記絶縁被膜は,酸化ケイ素,酸化鉄,酸化クロム,酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムから選択される主成分となる金属酸化物80?90質量%と,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび酸化鉄から選択される1種からなる残りの金属酸化物との混合物」からなるという構成を備えるのに対し,引用発明3はそのような構成を備えていない点。
(相違点5)本願発明1の「前記絶縁被膜」は「熱膨張係数が7×10^(-6)/℃以上12×10^(-6)/℃以下」であるのに対し,引用発明3はそのような構成を備えていない点。
(相違点6)本願発明1の「金属膜」は「NiおよびAuよりなる群から選ばれ,厚さが2μm以上5μm以下である」のに対し,引用発明3は「活性金属ろう材やAl-Si共晶合金」を備える点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて,上記相違点1について検討する。
引用例2には,単に焼結形成した熱電変換材料の側面に絶縁被覆を設けることさえ,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明3の「熱電変換部材」の電極接合面以外には絶縁被膜を設けることについて,動機付けとなる記載は引用例2には存在しない。

イ これに対して,熱電変換部材の電極接合面以外のすべてを絶縁被膜で被覆することは,第6のA1(2)イで指摘したように,周知技術である。
しかし,熱電変換部材の電極接合面以外のすべてを絶縁被膜で被覆すると,熱が熱電変換部材以外の絶縁被膜にも流れて熱エネルギーのロスが生じることも,第5の1(1)アで摘記したように引用例1に背景技術として記載され,周知技術である。

ウ したがって,引用発明3において,特段の動機付けなく,「熱電変換材料」の電極接合面以外には絶縁被膜を設けることを,当業者が想到できたとは認められない。

エ これに対して,本願発明1は,引用発明3との相違点である相違点1に係る構成を備えることで,耐熱性により優れ,長期信頼性に優れるという,本願明細書の段落【0037】及び【0064】に記載された格別の効果を奏するものである。

オ 以上から,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明3,及び,引用例1または引用例3ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は,本願発明1の記載を引用しており,本願発明1をさらに限定した発明である。
したがって,本願発明1と同じ理由により,本願発明2及び3は,引用発明3,及び,引用例1または引用例3ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明4について
本願発明4は,本願発明1に対応する「熱電変換材料」の「製造方法」の発明であり,引用発明3との相違点である相違点1に係る本願発明1の「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられており」という構成に対応する「前記多結晶体の電極接合面以外に平均厚さが4μm以上500μm以下である絶縁被膜を形成する工程」という構成を備えるものである。
したがって,本願発明4は,引用発明4と少なくとも相違点1に対応する相違点で相違し,本願発明1と同様の理由により,引用発明4,及び,引用例1または引用例3ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明5について
本願発明5は,本願発明4の記載を引用しており,本願発明4をさらに限定した発明である。
したがって,本願発明4と同じ理由により,本願発明5は,引用発明4,及び,引用例1または引用例3ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


第7 原査定についての判断
第6のBで記載した理由から,本願発明1-5は,当業者であっても,引用発明3ないし引用発明4,及び,引用例1または引用例3ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,原査定の理由によっては,もはや,本願を拒絶することはできない。


第8 当審拒絶理由についての判断
1 理由1(1)について
平成29年11月20日に提出された手続補正書によって,本願の請求項1における,補正前の「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上で」という記載が,「前記多結晶体の前記絶縁被膜形成面の表面粗さRaが0.2μm以上4.2μm以下で」という記載に補正された。
この補正された本願の請求項1の記載は,本願明細書の記載と整合するものである。
よって,平成29年10月13日付け当審拒絶理由の理由1(1)は解消した。

2 理由1(2)について
平成29年11月20日付けに提出された手続補正書によって,本願の請求項1における,補正前の「前記絶縁被膜の平均厚さが3μm以上であり」という記載が,「前記絶縁被膜の平均厚さが4μm以上500μm以下であり」という記載に補正された。
この補正された本願の請求項1の記載は,本願明細書の記載と整合するものである。
よって,平成29年10月13日付け当審拒絶理由の理由1(2)は解消した。

3 理由2について
平成29年11月20日付けに提出された手続補正書によって,本願の請求項1における,補正前の「前記多結晶体の少なくとも1面には絶縁被膜が設けられており」という記載が,「前記多結晶体の電極接合面以外には絶縁被膜が設けられており」という記載に補正された。
この補正された本願の請求項1の記載は明確になった。
よって,平成29年10月13日付け当審拒絶理由の理由2は解消した。

4 理由3について
第6のAで記載した理由から,本願発明1-5は,当業者であっても,引用発明1ないし引用発明2,及び,引用例2ないし7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,平成29年10月13日付け当審拒絶理由の理由3は解消した。


第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-24 
出願番号 特願2014-524818(P2014-524818)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田邊 顕人小山 満今井 聖和  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換モジュール並びに熱電変換材料の製造方法  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 蔵田 昌俊  

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