• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F16F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1336715
審判番号 不服2017-1336  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-31 
確定日 2018-02-13 
事件の表示 特願2013-110838「防振部材」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 8日出願公開、特開2014-228126、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月27日の出願であって、平成28年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年10月27日付け(発送日:同年11月1日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、その後、当審において、同年10月16日付けで拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由通知」という。)、同年12月8日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の引用文献A?Cに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平2-61882号公報
B.米国特許第4805868号明細書
C.特開平10-176729号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。
理由1(新規性)
本願の請求項1、2、8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2(進歩性)
本願の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開昭63-38731号公報
2.特開平2-61882号公報(原査定の引用文献A)
3.米国特許第4805868号明細書(原査定の引用文献B)
4.特開平10-176729号公報(原査定の引用文献C)

第4 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成29年12月8日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ボルト(55)によって連結される一方の部材(20)と他方の部材(3)との間に設けられる防振部材(50)であって、
弾性材から形成され、前記ボルトが有する軸部(551)を挿通可能な貫通孔(511)、及び、前記ボルトが有する頭部(552)と前記他方の部材との間の径方向外側の外壁(512)に形成され前記一方の部材の外壁が固定される固定溝(513)を有する貫通孔形成部(51)と、
前記貫通孔形成部の内壁(514)から径内方向に突出するよう、かつ、前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面から前記頭部とは反対側の端面(515)まで延びるよう形成される当接部(52)と、
筒状に形成され前記軸部の外壁と前記貫通孔形成部の前記貫通孔を形成する内壁との間に設けられる本体部(571)、及び、前記本体部の一方の端部に前記頭部に当接可能に設けられ前記本体部と一体に形成され前記ボルトの締め付け力が作用する座部(572)を有し、前記当接部を形成する弾性材に比べ高圧縮強度の材料から形成されるカラー(57)と、
を備え、
前記本体部の径方向外側の外壁(574)は、前記貫通孔形成部の内壁との間に隙間(53)を形成しつつ、前記当接部の径方向内側の内壁(521)に当接し、
前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面(516)のうち前記座部に非当接な端面の少なくとも一部は、前記座部の前記頭部側の端面に比べ前記他方の部材側に位置し、
前記座部は、前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面または前記当接部の前記頭部側の端面と前記頭部との間において径方向外側の端面が露出し、前記他方の部材側の端面が全面において前記貫通孔形成部に当接する防振部材。
【請求項2】
前記貫通孔形成部は、前記一方の部材と前記他方の部材とを連結するとき、前記軸部の中心軸に沿う方向において前記頭部と前記他方の部材との間に挟み込まれ圧縮される請求項1に記載の防振部材。
【請求項3】
前記隙間は、前記貫通孔の中心軸に垂直な断面形状が前記貫通孔の中心軸上の点を通る仮想直線(L)を対称軸とする線対称な形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の防振部材。
【請求項4】
前記当接部は、複数形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の防振部材。
【請求項5】
複数の前記隙間は、前記貫通孔の中心軸上の点を中心とする同心円上に形成されることを特徴とする請求項4に記載の防振部材。
【請求項6】
複数の前記隙間は、前記貫通孔の中心軸上の点に対して同じ角度間隔に形成されることを特徴とする請求項5に記載の防振部材。
【請求項7】
前記貫通孔形成部と前記当接部とは一体に形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の防振部材。」

第5 引用文献及びその記載事項
1 引用文献1(特開昭63-38731号公報)には、「弾性支持マウント」に関して、図面(特に、第1図?第3図、第5図及び第6図を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「第6図は従来の弾性支持マウント1の一構成例を示している。この弾性支持マウント1は、ボルト2によつて車体パネル等の支持部材3に固定される金属製カラー4と、このカラー4を介して保持される略円筒状のゴム部材5とから構成されたもので、上記ゴム部材5は、中心部に上記カラー4が挿通される貫通孔6を有し、かつ全高がカラー4よりも僅かに大きくなつている。つまり、取付状態では、カラー4一端のフランジ部7と上記支持部材3との間で僅かに圧縮した状態に挟圧されている。」(1ページ右下欄5行?15行)

(2)「第1図はこの発明に係る弾性支持マウント1の一実施例を示しており、上述した従来例と同一部分には同一符号を付してある。
すなわち、この弾性支持マウント1のゴム部材5には、外周面略中央部に全周に亘つてブラケツト嵌合溝8が凹設されているが、このブラケツト嵌合溝8の底部に、断面略円形をなす空隙部11が全周に亘つて形成されている。この空隙部11は、ブラケツト嵌合溝8の開口幅lよりもボルト2の軸方向に拡大した形状となつている。
従つて、ブラケツト9の取付孔周縁部9aが嵌合した状態では、第2図,第3図に示すようにブラケツト嵌合溝8の開口部付近のみがブラケツト9を両面から挾持する形となる。そのため、ブラケツト9の板厚が比較的薄い場合(第2図)であつても、比較的厚い場合(第3図)であつても取付が可能となり、異なる板厚のブラケツト9が混在する場合に同一種類の弾性支持マウント1で対応できる。そして、ブラケツト9の先端が空隙部11の存在によつてゴム部材5から離れた状態となることから、ボルト2軸方向の荷重-たわみ特性は第4図に示すようになり、従来品に比べて変位が小さい領域でのばね定数を十分に小さくすることができる。この結果、従来のものに比べて一層優れた防振効果が得られる。」(2ページ左下欄4行?右下欄13行)

(3)「次に第5図はこの発明の異なる実施例を示すもので、やはりブラケツト嵌合溝8の底部に空隙部11が設けられている。そして、特にこの実施例では、フランジ部7と支持部材3とに圧接する両端面12,13が、夫々緩い円錐面に形成されているとともに、貫通孔6両端部に夫々大径部14が設けられ、この大径部14部分はカラ-4外周面に接しないようになつている。従つて、ブラケツト9を挾持したゴム部材5の外周側部分がボルト2軸方向に比較的自由に変位でき、これによつてばね定数を更に小さくすることができる。」(2ページ右下欄14行?3ページ左上欄9行)

(4)引用文献1の第5図を参照すると、下記「ア」?「オ」の事項が看取される。
ア ゴム部材5の貫通孔6において、その両端部の大径部14が設けられた箇所以外の部分では、その内壁から径内方向に突出していること(この突出している部分を、以下、「突出部」という。)。

イ カラー4は、フランジ部7と円筒部分(以下、「円筒部」という。)とからなっていること。

ウ ゴム部材5の円筒状の部分のボルト2の頭部側となる端面のうちフランジ部7に非当接な端面は、フランジ部7のボルト2の頭部側となる端面に比べ支持部材3側に位置するようになっていること。

エ カラー4のフランジ部7は、ゴム部材5の円筒状の部分のボルト2の頭部側となる端面または突出部のボルト2の頭部側となる端面とボルト2の頭部との間においてフランジ部7の径方向外側の端面が露出するようになっていること。

オ カラー4のフランジ部7は、支持部材3側の端面が部分的にゴム部材5の円筒状の部分に当接するようになっていること。

上記の記載事項、認定事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、第5図に示された実施例として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「ボルト2によって連結されるブラケット9と支持部材3との間に設けられる弾性支持マウントであって、
ゴム部材5であって、前記ボルト2の軸部を挿通可能な貫通孔6、及び、前記ボルト2の頭部と前記支持部材3との間の外周面略中央部に全周に亘って凹設されるブラケット嵌合溝8を有するゴム部材5の円筒状の部分と、
前記ゴム部材5の円筒状の部分の内壁から径内方向に突出するよう、かつゴム部材5の円筒状の部分の両端部の大径部14が設けられた箇所以外の部分に形成される突出部と、
筒状に形成され前記軸部の外壁と前記ゴム部材5の円筒状の部分の前記貫通孔6を形成する内壁との間に設けられる円筒部、及び、前記円筒部の一方の端部に前記頭部に当接可能に設けられ前記円筒部と一体に形成され前記ボルト2の締め付け力が作用するフランジ部7を有し、金属製であるカラー4と、
を備え、
前記円筒部の径方向外側の外壁は、前記ゴム部材5の円筒状の部分の両端部の大径部14による隙間を形成しつつ、前記突出部の径方向内側の内壁に当接し、
前記ゴム部材5の円筒状の部分の前記ボルト2の頭部側の端面のうち前記フランジ部7に非当接な端面は、前記フランジ部7の前記ボルト2の頭部側の端面に比べ前記支持部材3側に位置し、
前記フランジ部7は、前記ゴム部材5の円筒状の部分の前記頭部側の端面または前記突出部の前記頭部側の端面と前記頭部との間において前記フランジ部7の径方向外側の端面が露出し、前記支持部材3側の端面が部分的にゴム部材5の円筒状の部分に当接する弾性支持マウント。」

2 引用文献A(当審拒絶理由通知における引用文献2、特開平2-61882号公報)には、「ディスクドライブシステム」に関して、図面(特に、第1図?第4図を参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「上記のような構成によれば、防振部材に固有振動数の異なる第1及び第2の弾性特性部を一体的に形成するようにしたので、第1及び第2の弾性特性部の相互干渉作用により振動系の共振倍率Qを低減させ、防振性能を大幅に向上させることができるとともに、構成も簡易で経済的に有利とすることができる。」(3ページ右上欄6行?12行)

(2)「以下、この発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。第1図(a),(b)は、例えばゴム等の弾性材料で形成された防振部材28を示している。この防振部材28は、略円筒形状に形成されており、その一端部に外周に沿って溝28aが形成されている。
また、この防振部材28には、その内面の略中央部に、該内周面に沿って一定幅の溝29aが形成されており、第1の弾性特性部29が構成されている。さらに、上記防振部材28には、その内面の第1図(b)中下端部に、軸心に沿い該内周面から一定間隔で中心に向かって突出する複数(図示の場合は8つ)の突部30aが形成されており、第2の弾性特性部30が構成されている。
そして、これら第1及び第2の弾性特性部29,30は、それぞれ形状の違いにより、互いに異なる固有振動数、換言すれば互いに異なるばね定数を有している。すなわち、形状を部分的に変えることにより、1つの防振部材28に、互いに異なる弾性を有する第1及び第2の弾性特性部29,30を一体的に形成しているものである。
第2図は、上記防振部材28によって、前記メインシャーシ25をキャビネット11に形成された取付基体31に設置する手段を示している。まず、メインシャーシ25に形成された透孔25aに、防振部材28の溝28aを嵌合させる。次に、防振部材28内にスタッド32を嵌合させた後、取付ビス33をスタッド32内を挿通させて取付基体31に形成されたねじ孔31aに螺着させることにより、第3図に示すようにメインシャーシ25が取付基体31に支持される。
このような状態で、キャビネット11に例えば第3図中矢印E方向に振動が与えられたとする。すると、防振部材28の第1及び第2の弾性特性部29,30がそれぞれ異なるばね定数でたわみ、振動エネルギーが吸収される。このとき、第1及び第2の弾性特性部29,30のばね定数をそれぞれk1,k2(k1>k2)とすると、防振部材28は矢印E方向において、それぞれ、
f1=(1/2π)√(k1/m)
f2=(1/2π)√(k2/m)
なる2つの固有振動数を持ち、f1,f2なる周波数の共振点が存在する。
この場合の、振動数fに対する力の伝達率τの関係を、第4図に点線で示している。なお、第4図中Q1は共振倍率を示している。ここで、実験の結果、第1及び第2の弾性特性部29,30の形状を変化させ、ばね定数k1,k2の値を調整することにより、第1及び第2の弾性特性部29,30の共振点の相互干渉作用によって、第4図に曲線I,IIで示すように振動の伝達率を変えることができ、共振倍率をQ2,Q3のように低減させることができる。」(3ページ右上欄14行?4ページ左上欄5行)

(3)引用文献Aの第1図?第3図を参照すると、下記「ア」及び「イ」の事項が看取される。

ア 防振部材28は、取付けビス33が有する軸部を挿通可能な貫通孔と、メインシャーシ25の透孔25aが固定される溝28aを備えた部分を上部に有するとともに溝29aを備えた第1の弾性特性部29を、上部に有する第2の弾性特性部30を備えていること。

イ スタッド32は、筒状部分と座部とを備えていること。

上記の記載事項、認定事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献Aには、第1図?第4図に示された実施例として、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されている。
「取付けビス33によって連結されるメインシャーシ25と取付基体31との間に設けられる防振部材28であって、
弾性材から形成され、前記取付けビス33が有する軸部を挿通可能な貫通孔、及び、前記メインシャーシ25の透孔25aが固定される溝28aを備えた部分を上部に有するとともに溝29aを備えた第1の弾性特性部29を、上部に有する第2の弾性特性部30と、
前記第2の弾性特性部30の内壁から径内方向に突出するよう、かつ、前記第2の弾性特性部30の取付けビス33の頭部側の端面から前記頭部とは反対側の端面まで延びるよう形成される凸部30aと、
筒状に形成され前記軸部の外壁と前記第2の弾性特性部30の前記貫通孔を形成する内壁との間に設けられる筒状部分、及び、前記筒状部分の一方の端部に前記頭部に当接可能に設けられ前記筒状部分と一体に形成され前記取付けビス33の締め付け力が作用する座部を有し、前記凸部30aを形成する弾性材に比べ高圧縮強度の材料から形成されるスタッド32と、
を備え、
前記筒状部分の径方向外側の外壁は、前記貫通孔形成部の内壁との間に隙間を形成しつつ、前記凸部30aの径方向内側の内壁に当接し、
前記座部は、前記第2の弾性特性部の前記頭部側の端面または前記凸部30aの前記頭部側の端面と前記頭部との間において径方向外側の端面が露出する防振部材28。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ボルト2」は、本願発明1の「ボルト(55)」に相当する。
以下同様に、「ブラケット9」は、「一方の部材(20)」に、
「支持部材3」は、「他方の部材(3)」に、
「弾性支持マウント」は、「防振部材(50)」に、
「ゴム部材5」であることは、「弾性材から形成」されることに、
「ボルト2の軸部」は、「ボルトが有する軸部(551)」に、
「貫通孔6」は、「貫通孔(511)」に、
「外周面略中央部に全周に亘って凹設されるブラケット嵌合溝8」は、「径方向外側の外壁(512)に形成され前記一方の部材の外壁が固定される固定溝(513)」に、
「ゴム部材5の円筒状の部分」は、「貫通孔形成部(51)」に、
「突出部」は、「当接部(52)」に、
「円筒部」は、「本体部(571)」に、
「フランジ部7」は、「座部(572)」に、
「金属製であるカラー4」は、「当接部を形成する弾性材に比べ高圧縮強度の材料から形成されるカラー(57)」に、
「ゴム部材5の円筒状の部分の両端部の大径部14による隙間」を形成することは、「貫通孔形成部の内壁との間に隙間(53)」を形成することに、それぞれ相当する

以上のことから、本願発明1と引用発明1とは次の点で一致する。
「ボルトによって連結される一方の部材と他方の部材との間に設けられる防振部材であって、
弾性材から形成され、前記ボルトが有する軸部を挿通可能な貫通孔、及び、前記ボルトが有する頭部と前記他方の部材との間の径方向外側の外壁に形成され前記一方の部材の外壁が固定される固定溝を有する貫通孔形成部と、
前記貫通孔形成部の内壁から径内方向に突出するよう形成される当接部と、
筒状に形成され前記軸部の外壁と前記貫通孔形成部の前記貫通孔を形成する内壁との間に設けられる本体部、及び、前記本体部の一方の端部に前記頭部に当接可能に設けられ前記本体部と一体に形成され前記ボルトの締め付け力が作用する座部を有し、前記当接部を形成する弾性材に比べ高圧縮強度の材料から形成されるカラーと、
を備え、
前記本体部の径方向外側の外壁は、前記貫通孔形成部の内壁との間に隙間を形成しつつ、前記当接部の径方向内側の内壁に当接し、
前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面のうち前記座部に非当接な端面の少なくとも一部は、前記座部の前記頭部側の端面に比べ前記他方の部材側に位置し、
前記座部は、前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面または前記当接部の前記頭部側の端面と前記頭部との間において径方向外側の端面が露出する防振部材。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1では、当接部は「前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面から前記頭部とは反対側の端面(515)まで延びるよう形成され」ており、座部は「前記他方の部材側の端面が全面において前記貫通孔形成部に当接する」のに対して、
引用発明1では、突出部(当接部)は、「ゴム部材5の円筒状の部分の両端部の大径部14が設けられた箇所以外の部分に形成され」ており、フランジ部7(座部)は、「前記支持部材3側の端面が部分的にゴム部材5の円筒状の部分に当接する」点。

(2)相違点についての判断
ア 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
上記相違点1に係る本願発明1の構成については、引用文献1に記載ないし記載されているに等しいとはいえない。
したがって、本願発明1は引用文献1に記載された発明ということはできない。

イ 特許法第29条第2項(進歩性)について
防振部材において、当接部を貫通孔形成部の一方側の端面から反対側の端面まで延びるよう形成すること、及びカラーの座部を貫通孔径形成部の端部の全面において当接させることは、例えば引用文献2(特に、第1図?第3図を参照。)、引用文献3(特に、Fig.3及びFig.4を参照。)、及び引用文献4(特に、【図1】及び【図2】を参照。)に示されるように、本願出願前に周知の技術である。
しかし、仮に、引用発明1に上記周知の技術を適用して、突出部をゴム部材5の円筒状の部分のフランジ部7側から反対側まで延びるようにすること(本願発明1の「前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面から前記頭部とは反対側の端面(515)まで延びるよう形成され」ることに相当。)、及びカラー4のフランジ部7が端面12の全面において当接させること(本願発明1の、座部は「前記他方の部材側の端面が全面において前記貫通孔形成部に当接する」ことに相当。)を行った場合には、両端部に大径部14を設けないことになるから、突出部といえるもの自体がなくなるとともに、端面12に円錐面を形成しないことにもなるから、引用発明1の「フランジ部7と支持部材3とに圧接する両端面12,13が、夫々緩い円錐面に形成されているとともに、貫通孔6両端部に夫々大径部14が設けられ、この大径部14部分はカラー4外周面に接しないようになっている。従って、ブラケツト9を挾持したゴム部材5の外周側部分がボルト2軸方向に比較的自由に変位でき、これによってばね定数を更に小さくすることができる。」(前記「第5 1(3)」を参照。)との機能を奏さなくなる。
そうすると、引用発明1において、上記周知の技術を適用する動機付けがあるとはいえないから、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明1及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のことから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ということはできないし、また、引用発明1及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2 本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献1に記載された発明ということはできないし、また、引用発明1及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第7 原査定についての判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明Aとを対比する。
引用発明Aの「メインシャーシ25」は、本願発明1の「一方の部材(20)」に相当する。
以下同様に、「取付基体31」は、「他方の部材(3)」に、
「防振部材28」は、「防振部材(50)」に、
「貫通孔」は、「貫通孔(511)」に、
「メインシャーシ25の透孔25aが固定される溝28a」は、「一方の部材の外壁が固定される固定溝(513)」に、
「第2の弾性特性部30」は、「貫通孔形成部(51)」に、
「凸部30a」は、「当接部(52)」に、
「スタッド32」は、「カラー(57)」に、
スタッド32の「筒状部分」は、カラー(57)の「本体部(571)」に、それぞれ相当する。

また、引用発明Aの「取付けビス33」と、本願発明1の「ボルト(55)」とは、「締結部材」である点で共通する。

以上のことから、本願発明1と引用発明Aとは次の点で一致する。
「締結部材によって連結される一方の部材と他方の部材との間に設けられる防振部材であって、
弾性材から形成され、前記締結部材が有する軸部を挿通可能な貫通孔と、
前記貫通孔形成部の内壁から径内方向に突出するよう、かつ、前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面から前記頭部とは反対側の端面まで延びるよう形成される当接部と、
筒状に形成され前記軸部の外壁と前記貫通孔形成部の前記貫通孔を形成する内壁との間に設けられる本体部、及び、前記本体部の一方の端部に前記頭部に当接可能に設けられ前記本体部と一体に形成され前記締結部材の締め付け力が作用する座部を有し、前記当接部を形成する弾性材に比べ高圧縮強度の材料から形成されるカラーと、
を備え、
前記本体部の径方向外側の外壁は、前記貫通孔形成部の内壁との間に隙間を形成しつつ、前記当接部の径方向内側の内壁に当接し、
前記座部は、前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面または前記当接部の前記頭部側の端面と前記頭部との間において径方向外側の端面が露出する防振部材。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点2]
締結部材に関して、本願発明1では、「ボルト(55)」であるのに対して、
引用発明Aでは、「取付けビス33」である点。

[相違点3]
本願発明1では、貫通孔形成部は、「前記ボルトが有する頭部(552)と前記他方の部材との間の径方向外側の外壁(512)に形成され前記一方の部材の外壁が固定される固定溝(513)を有する」のに対して、
引用発明Aでは、溝28a(固定溝)は、頭部と取付基体31(他方の部材)との間に形成されたものではなく、第2の弾性特性部30(貫通孔形成部)は、「メインシャーシ25の透孔25aが固定される溝28aを備えた部分を上部に有するとともに溝29aを備えた第1の弾性特性部29を、上部に有する」点。

[相違点4]
本願発明1では、「前記貫通孔形成部の前記頭部側の端面(516)のうち前記座部に非当接な端面の少なくとも一部は、前記座部の前記頭部側の端面に比べ前記他方の部材側に位置」し、座部は「他方の部材側の端面が全面において前記貫通孔形成部に当接する」のに対して、
引用発明Aでは、かかる構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点3について先に検討する。
防振部材において、ボルトが有する頭部と他方の部材との間に、径方向外側の外壁に形成され一方の部材の外壁が固定される固定溝を設けることは、引用文献B(特に、Fig.3を参照。)及び引用文献C(特に、【図2】の(b)を参照。)に記載されている(以下、「引用文献B及びCに記載された事項」という。)。
しかし、仮に、引用発明Aにおいて、上記引用文献B及びCに記載された事項を適用して、第2の弾性特性部30に、メインシャーシ25の透孔25aが固定される溝28a(本願発明1の「ボルトが有する頭部と他方の部材との間に、径方向外側の外壁に形成され一方の部材の外壁が固定される固定溝」に相当。)を設けた場合には、第1の弾性特性部29による防振は得られなくなるので、引用発明Aの「防振部材に固有振動数の異なる第1及び第2の弾性特性部を一体的に形成するようにしたので、第1及び第2の弾性特性部の相互干渉作用により振動系の共振倍率Qを低減させ、防振性能を大幅に向上させることができる」(前記「第5 2(1)」を参照。)との機能を奏さなくなる。
そうすると、引用発明Aにおいて、上記引用文献B及びCに記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえないから、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点2及び4について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明A並びに引用文献B及びCに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明A並びに引用文献B及びCに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 小括
以上のことから、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-23 
出願番号 特願2013-110838(P2013-110838)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16F)
P 1 8・ 113- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 滝谷 亮一
小関 峰夫
発明の名称 防振部材  
代理人 服部 雅紀  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ