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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1336770
審判番号 不服2017-4779  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-05 
確定日 2018-02-13 
事件の表示 特願2014-109220「ヘテロ接合電界効果トランジスタ現象を観察する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月15日出願公開、特開2015- 8284、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年5月27日(国内優先権主張 平成25年5月29日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 9月18日 審査請求
平成28年 7月29日 拒絶理由通知
平成28年 9月21日 意見書・手続補正
平成29年 1月 6日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 4月 5日 審判請求
平成29年10月12日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という。)
平成29年10月31日 意見書・手続補正(以下,「当審補正」という。)

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,当審補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する方法であって,
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに,ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程と,
前記電圧印加工程の後に,前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を備えており,
前記検出工程は,前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに行われ,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する方法。
【請求項2】
前記電圧印加工程と前記検出工程を含むサイクルを繰り返し,サイクル毎に検出される前記高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算工程をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出工程は,前記半導体層の面内方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する装置であって,
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに光を照射する光照射装置と,
前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出装置と,
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに印加する電圧を生成する電圧生成装置と,
前記電圧生成装置及び前記光照射装置に接続されている制御装置と,を備えており,
前記制御装置は,
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに,ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程と,
前記電圧印加工程の後に,前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに,前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに前記光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を実行するように前記電圧生成装置及び前記光照射装置を制御するように構成されており,
前記検出装置は,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている装置。
【請求項5】
前記検出装置は,前記電圧印加工程と前記検出工程を含むサイクルが繰り返されたときに,サイクル毎に検出される前記高次高調波の強度に応じた検出信号を積算する積算手段を有する請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記検出装置は,前記半導体層の面内方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている請求項4又は5に記載の装置。」

第3 原査定の理由の概要
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1,5
・引用文献等 1-4
・備考
出願人は,平成28年 8月 9日付けの手続補正書により特許請求の範囲を補正し,構成要件として,「検出工程は,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する」とする点,を追加し,同日付の意見書において,本願発明は,先の拒絶理由通知書に記載した引用文献1に記載の発明とは,上記の点で構成上相違し,またそうすることにより,少なくとも半導体層の深さ方向に分布する高次高調波の強度を検出することができる旨を主張している。
なるほど,引用文献1(特に,段落[0029]-[0084],図1-11)には,電界効果トランジスタ50の電荷分布を観察する方法であって,電界効果トランジスタ50に光を照射し,光が照射された領域に発生する2次高調波の強度を検出する検出工程を備える方法及び装置の発明が記載されているものの,トランジスタを構成する半導体層の深さ方向についての検出工程については明示的な記載が無い。
しかしながら,引用文献4(特に,段落[0006]-[0008],図1-3)には,半導体試料の欠陥を観察する方法であって,試料に光を照射し,光が照射された領域に発生するフォトルミネッセンス光の強度を検出する検出工程を備える方法であって,光軸方向に対物レンズ15を上下させるレンズ移動装置25及びピンホール19とを備えることにより,試料の深さ方向に分布する欠陥の検出を行う内部欠陥評価方法,及び内部欠陥評価装置の発明が記載されている。
そして,HEMTにおける電流コラプスが,ゲート・ドレイン間でトラップされたキャリア電子が原因で生じることは当業者に周知の事項である(必要ならば例えば引用文献2(特に,段落[0016]-[0040],図1-4)又は引用文献3(特に,段落[0016]-[0032],図1)を参照のこと。)。
してみれば,引用文献1に記載された発明に引用文献4に記載された発明及び引用文献2及び3に例示された上記周知技術を適用して,補正後の請求項1の係る発明の態様とすることは当業者が容易になし得ることである。
補正後の請求項5についても同様である。
尚,出願人は上記意見書にて,「2次元電子ガスを発生するHEMTに固有の課題を解決することができます。このような効果は,?「異質な効果」として参酌されるべきものであると考えます。」と主張するが,引用文献2又は引用文献3に例示されているように,ヘテロ接合電界効果トランジスタの一種であるいわゆるHEMTにおいて,電流コラプスが,ゲート・ドレイン間でトラップされたキャリア電子が原因で生じることは当業者に周知の事項であり,キャリア電子も積層構造内の2次元電子チャネルと異なる深さにトラップされていることも又当業者に周知の事項である。してみれば,引用文献1及び4に基づいてHEMTの積層構造内の深さ方向での高次高調波強度を検出することで,トラップされたキャリア電子に基づくコラプス現象を観察することは,出願時の技術水準から当業者が充分に予測することができたことに他ならない。
よって,出願人の主張は採用できない。
・請求項 2-4,6-8
・引用文献等 1-4
・備考
(略)
<引用文献等一覧>
引用文献1 特開2008-218957号公報
引用文献2 国際公開第2013/021628号
引用文献3 特開2009-117712号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4 特開平08-035934号公報

第4 当審拒絶理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1 特開2008-218957号公報
引用文献2 国際公開第2013/021628号
1 請求項1について
・引用文献等 1,2
・備考
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)と,引用文献1(段落0001,0009,0029-0050,0057-0063,0084,0086,0089及び図1)に記載された発明(以下,「引用発明」という。)とを対比する。
引用発明は,「SHG強度分布取得装置100では,照射されるレーザ光の波長を変更する等して,多層構造の中に含まれる所定の層におけるキャリア分布のみを抽出することもできる。また,空間的なキャリア分布も測定することができる」(段落0086)ものであるから,これは本願発明1の「少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する」を満たすものである。
すると,本願発明1は「ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する」もので「前記ヘテロ接合電界効果トランジスタ」に光を照射するものであるのに対し,引用発明はこの旨が明示されていない点で相違する。
相違点について検討すると,引用文献1には「SHG強度分布取得装置100の観察対象物は,有機デバイスに限定されない。通常の半導体デバイスであっても良い。」(段落0084)と記載されているから,「通常の半導体デバイス」として「無機の半導体デバイス」の一種である「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」(引用文献2段落0003参照)を観察することは示唆されている。そして,この示唆に従いヘテロ接合電界効果トランジスタを観察すればそこにキャリアトラップに起因した電流コラプス現象が生じており(引用文献2段落0006-0009),かつ引用発明は「キャリアのトラップといった過程まで観察することができる」(段落0086)から,引用発明を用いて「ヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する」ことは容易になし得ることである。
2 請求項4について
・引用文献等 1,2
・備考
「前記半導体層の面内方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する」ことは,引用文献1(段落0089)に記載されている。
3 請求項5について
・引用文献等 1,2
・備考
前記1を参照。
4 請求項8について
・引用文献等 1,2
・備考
前記2を参照。

第5 引用文献
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1
引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,電界分布又はキャリア分布を高次高調波の強度に基づいて検出する検出装置及びその検出方法に関する。」
イ 「【0029】
〔第1の実施の形態〕
以下,図1乃至図11を用いて,第1の実施の形態について説明する。図1は,電界分布又はキャリア分布の観察に用いられる2次高調波(高次高調波)の検出装置(以下,単にSHG(Second-Harmonics Generation)強度分布取得装置100と呼ぶ)の概略的な構成図である。図2は,制御信号出力部30の構成について説明するための模式図である。図3は,制御信号出力部30による制御を説明するための概略的なタイミングチャートである。図4は,電界分布又はキャリア分布の観察方法を説明するための概略的なフローチャートである。図5は,ペンタセンFET50の付近を拡大した概略的な模式図である。図6は,ペンタセンFET50のソース-ドレイン間に電圧が印加される時点に対してペンタセン層8にレーザ光が照射される時点を変更することの概略的な説明図である。図7は,2次高調波の発生メカニズムの説明図である。図8及び図9は,SHG強度分布取得装置100を用いた測定結果を示す説明図である。図10は,ペンタセンFET50がオン状態となったときのシミュレーション結果を示す説明図である。図11は,ペンタセンFET50のバリエーションを示す模式図である。
【0030】
図1に示すように,SHG強度分布取得装置100は,レーザ発振器(光源)1,波長変換器2,ミラーRM,減衰フィルタ3,偏光板4,ハイパスフィルタ5,ハーフミラーHM1,対物レンズOLを有する。また,SHG強度分布取得装置100は,ペンタセンFET(観察対象物)50が載置されるステージ11を有する。また,SHG強度分布取得装置100は,ハーフミラーHM2,ハイカットフィルタ12,偏光板13,バンドパスフィルタ14,光電子増倍管(検出部)15を有する。また,SHG強度分布取得装置100は,レンズ17,撮像装置18を有する。また,SHG強度分布取得装置100は,制御信号出力部30,処理部16を有する。
【0031】
SHG強度分布取得装置100は,レーザ発振器1によって励起される波長変換器2からレーザ光(基本波)をペンタセンFET50に照射し,ペンタセンFET50にて生成された2次高調波を光電子増倍管15で検出する。後述の説明から明らかになるが,制御信号出力部30は,ペンタセンFET50のソース電極6にパルス信号S2を出力する時点と,スイッチ素子21にパルス信号S3を出力する時点とを制御する。これによって,ペンタセンFET50に電圧が実際に印加される時点(第1時点(電圧印加時点))とペンタセンFET50にレーザ光が照射される時点(第2時点(レーザ照射時点))とが変更可能とされる。なお,スイッチ素子21にパルス信号S3を出力する時点後に,レーザ発振器1からレーザ光が出力される。
【0032】
SHG強度分布取得装置100を用いて,ペンタセンFET50に形成されうるチャネル(キャリアの移動通路)の複数個所ごとに,上述の電圧印加時点-レーザ照射時点間の時間間隔が異なる複数の条件について,2次高調波の強度分布を測定する。これによって,ペンタセンFET50のチャネルにおける電界分布又はキャリア分布の推移を観察することができる。なお,この点は,後述の説明から明らかになる。
【0033】
以下,図1を参照して,SHG強度分布取得装置100の構成について説明する。
【0034】
レーザ発振器1は,フラッシュランプ(励起光源)19,ロッド20,スイッチ素子(スイッチ部)21,反射ミラーM1,M2,THG(Third Harmonic Genaration)結晶22を有する。レーザ発振器1は,いわゆる固体レーザ装置であって,Qスイッチ動作し,所定のパルス幅のレーザ光(基本光若しくは基本波)を出力する。レーザ発振器1からは,355nmの波長のレーザ光が出力される。レーザ発振器1は,光源であるとともに,照射部として機能する。
(中略)
【0047】
光電子増倍管15は,入射された2次高調波を光電変換する。光電子増倍管15は,処理部16に接続され,2次高調波の光量に応じた電気信号を処理部16に出力する。
【0048】
レンズ17は,ハーフミラーHM2から入力される像を撮像装置18に結像する。撮像装置18は,一般的なカメラ(CCD(Charge Coupled Device)カメラ)である。撮像装置18は,処理部16に接続され,画像信号を処理部16に出力する。
【0049】
制御信号出力部30は,フラッシュランプ19,スイッチ素子21,ペンタセンFET50のソース電極6に接続される。制御信号出力部30は,フラッシュランプ19にパルス信号S1を出力し,ペンタセンFET50のソース電極6にパルス信号S2を出力し,スイッチ素子21にパルス信号S3を出力する。
【0050】
処理部30は,撮像装置18,ステージ11に接続される。制御信号出力部30と処理部16とは,相互に連絡可能に構成され,各種信号の受発信が実行される。
【0051】
尚,図1に示すように,観察対象物としてステージ11上に載置されたペンタセンFET50は,ソース電極6,ドレイン電極7,ペンタセン層(有機半導体層)8,絶縁層9,ゲート電極10を有する。ペンタセンFET50は,いわゆる有機FET(有機デバイス)であって,有機材料としてペンタセンを用いている。ここでは,ソース電極6を電源側(第1電源)に接続し,ドレイン電極7,ゲート電極10を接地側(第2電源)に接続させている。また,ペンタセン層8の上面の所定箇所には,波長変換器2からのレーザ光が対物レンズOLによって集光される。なお,有機材料は,ペンタセンのほか,テトラセン,フタロシアニン,ポリジアセチレン,ポリアセチレン,ポリチオフェン,ポルフィリン,フラーレン,ルブレン,ポリパラフェニレンビニレン(PPV),ポリスチレンスルフォン酸,フルオレン,トリフェニルアミン,ジアミン,アルミキノリノール錯体(Alq3),ナフチルフェニレンジアミンであっても良い。」
ウ 「【0057】
ここで,図3及び図1を相互に参照しながら,SHG強度分布取得装置100の動作の概要について説明する。
【0058】
図3に示すように,時刻t1にて,制御信号出力部30からフラッシュランプ19にパルス信号S1が出力される。そして,フラッシュランプはオン状態,すなわち励起光を出力する状態となる。
【0059】
次に所定時間後の時刻t2にて,制御信号出力部30からペンタセンFET50にパルス信号S2が出力される。そして,ペンタセンFET50のソース電極6とドレイン電極7間に正のパルス電圧が印加される。そして,ペンタセンFET50はオン状態となる。
【0060】
次に,時刻t3にて,制御信号出力部30からスイッチ素子21にパルス信号S3が出力される。そして,スイッチ素子21は,パルス信号S3のパルス幅に対応した期間,レーザ光に対して高い透過率となる。そして,レーザ発振器1からは所定のパルス幅のレーザ光が出力される。ここでは,レーザ発振器1から出力されるレーザ光のパルス幅は10ns以下に設定される。なお,使用するレーザ発振器1の性能によっては,出力されるレーザ光のパルス幅をfsレベルに設定することも可能である。
【0061】
図1に示すように,レーザ発振器1から出力されたレーザ光は,波長変換器2に入力される。波長変換器2では,入力されたレーザ光は,波長変換され,反射ミラーRMに出力される。反射ミラーRMは,入力されたレーザ光の進行方向を変更する。そして,反射ミラーRMで反射されたレーザ光は,減衰フィルタ3に入力される。減衰フィルタ3では,レーザ光の強度が弱められる。減衰フィルタ3から出力されたレーザ光は,偏光板4に入力される。偏光板4では,特定の振動方向の光のみが抽出される。偏光板4から出力されたレーザ光は,ハイパスフィルタ5に入力される。ハイパスフィルタ5では,波長710nm以下の光は遮断される(波長1120nmのレーザ光は通過する)。ハイパスフィルタ5から出力されたレーザ光は,ハーフミラーHM1に入力される。そして,ハーフミラーHM1から出力されたレーザ光は,対物レンズOLを介して,ペンタセンFET50の所定箇所に集光される。
【0062】
ペンタセンFET50のソース-ドレイン間に電圧が印加されているとき,ペンタセンFET50のペンタセン層8の所定箇所には10ns以下のパルス幅のレーザ光が照射され,ペンタセン層8の所定箇所には2次高調波(2次高調波光)が生成される。
【0063】
図1に示すように,ペンタセン層8で生成された2次高調波は,対物レンズOL,ハーフミラーHM1,ハーフミラーHM2を介して,ハイカットフィルタ12に入力される。ハイカットフィルタ12では,800nmよりも長波長の光の通過が禁止される。端的には,ハイカットフィルタ12は,レーザ発振器1から出力され,ペンタセン層8で反射されたレーザ光の通過を禁止する。ハイカットフィルタ12から出力された2次高調波は,バンドパスフィルタ14に入力される。バンドパスフィルタ14では,2次高調波が通過される。そして,バンドパスフィルタ14から出力された2次高調波は,光電子増倍管15に入力される。光電子増倍管15は,受光した2次高調波を光電変換し,受光した2次高調波の光量に応じた電気信号を処理部16に出力する。SHG強度分布取得装置100の動作の概要は,上述のとおりである。」
エ 「【0084】
最後に,図11に,ペンタセンFETのバリエーションを示す。図11に示すように,ソース電極6,ドレイン電極7が絶縁層9の直上に形成されていても良い。そして,ソース電極6,ドレイン電極7を覆うように,ペンタセン層8を形成しても良い。なお,SHG強度分布取得装置100の観察対象物は,有機デバイスに限定されない。通常の半導体デバイスであっても良い。
【0085】
SHG強度分布取得装置100によれば,上述の測定結果に示すように,キャリアの動的な特性(キャリア注入,キャリアの蓄積,キャリアの輸送)を視覚的に観察することができる。当然,キャリア分布に基づいて,キャリアの移動度を算出することもできる。
【0086】
また,SHG強度分布取得装置100によれば,正負ごとのキャリア分布も,それぞれを識別して観察することができる。また,キャリアのトラップといった過程まで観察することができる。また,SHG強度分布取得装置100では,照射されるレーザ光の波長を変更する等して,多層構造の中に含まれる所定の層におけるキャリア分布のみを抽出することもできる。また,空間的なキャリア分布も測定することができる。従って,SHG強度分布取得装置100を用いて,有機デバイスをはじめとする各種のデバイスの開発を進めることは非常に有益である。また,SHG強度分布取得装置100を用いて,有機材料における新たなキャリア輸送理論を発展させることもできる。
(中略)
【0089】
検出部としては,2次高調波に対して所定の感度を有していればよく,光電子増倍管といった微弱光用の検出部を用いる必要は必ずしもない。例えば,CCD(Charge Coupled Devices)といった汎用的な撮像装置を用いることもできる。カメラを用いて2次高調波の分布の空間的な広がりを検出することも有効である。」
(2)引用方法発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「ペンタセンFETのソース電極とドレイン電極間に正のパルス電圧を印加し,ペンタセンFETはオン状態となり,次に,ペンタセンFETのソース-ドレイン間に電圧が印加されているとき,ペンタセンFETのペンタセン層の所定箇所にレーザ光が照射され,ペンタセン層の所定箇所には2次高調波が生成され,受光した2次高調波の光量に応じた電気信号を処理部に出力する,方法であって,多層構造の中に含まれる所定の層におけるキャリア分布のみを抽出することもできること。」
(3)引用装置発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用装置発明」という。)が記載されていると認められる。
「SHG強度分布取得装置は,レーザ発振器を有し,また,光電子増倍管を有し,また,制御信号出力部を有し,SHG強度分布取得装置は,レーザ発振器からレーザ光をペンタセンFETに照射し,ペンタセンFETにて生成された2次高調波を高電子倍増管で検出し,制御信号出力部は,レーザ発振器のフラッシュランプ及びスイッチ素子並びにペンタセンFETのソース電極に接続され,
SHG強度分布取得装置の動作は,ペンタセンFETのソース電極とドレイン電極間に正のパルス電圧を印加し,ペンタセンFETはオン状態となり,次に,ペンタセンFETのソース-ドレイン間に電圧が印加されているとき,ペンタセンFETのペンタセン層の所定箇所にレーザ光が照射され,ペンタセン層の所定箇所には2次高調波が生成され,受光した2次高調波の光量に応じた電気信号を処理部に出力する,ものであり,
SHG強度分布取得装置は,多層構造の中に含まれる所定の層におけるキャリア分布のみを抽出することもできること。」
2 引用文献2の記載
引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。
(1)「[0003] 図12は,AlGaN/GaNヘテロ構造を有する従来のHEMTを備えた半導体装置を示す断面図である。同図に示す従来型の電界効果トランジスタにおいて,Si基板1上に低温AlNバッファ層2,アンドープGaN層3,及びアンドープAlGaN層4がこの順に形成されており,ソース電極5及びドレイン電極6がアンドープAlGaN層4に接するように形成されている。ゲート電極7はソース電極5及びドレイン電極6の間に形成されている。
(中略)
[0006] しかしながら,このようなAlGaN/GaNヘテロ界面に存在する2次元電子ガスを用いた電界効果トランジスタにおいては,いわゆる電流コラプスと呼ばれる現象が生じ,デバイスの信頼性に問題を引き起こす可能性があることが知られている。ここで,電流コラプスとは,一旦電界効果トランジスタのオフ状態においてドレインに高電圧が印加されると,次に電界効果トランジスタをオン状態にスイッチさせたときのオン抵抗が増大する現象をいう。
[0007] この電流コラプスのメカニズムは,例えば,非特許文献1に示されている。ここでは,電流コラプスのメカニズムについて,図2を用いて簡単に説明する。
[0008] 図2は,図12に示す一般的なHEMTを備えた半導体装置のオフ状態における断面図である。同図に示すように,電界効果トランジスタであるHEMTのオフ状態においては,図2に示すような空乏層12が生じる。このとき,空乏層12のドレイン端子側の領域13には高電界が生じ,同領域において,電子がトラップされる。
[0009] また,このトラップされた電子が2次元電子ガス近傍に存在すると,このトラップされた電子が,負バイアスのゲート電圧を印加した場合と似た効果をもたらすため,トラップされた電子近傍の2次元電子ガスの濃度が低下し,結果としてオン電圧が上昇し,デバイスのオン時の電流が低下する。これが電流コラプス発現のメカニズムである。」
(2)「[0059] 次に,本願発明者らは,図7に示す作製した電界効果トランジスタ204のスイッチング時のオン抵抗について評価を行った。
[0060] 図8(a),(b)は,電界効果トランジスタのスイッチング時のオン抵抗の評価系を示す回路図及び波形図である。図8(a),(b)に示すオン抵抗の評価系は,すなわち電流コラプスの評価系についてである。当該電界効果トランジスタ及びこれを備えた半導体装置は,エアー・コンディショナー等に搭載することを前提としている。よって,エアー・コンディショナー等で用いるモータをインバータ動作させるなどの状況でのオン電圧を評価するため,LR直列負荷のスイッチングにおけるオン抵抗の評価を行った。
[0061] まず,ここで用いた評価系について詳述する。電界効果トランジスタ801のドレイン端子に例えば5Ωの抵抗負荷802と例えば2mHのコイル803とを直列に接続し,この直列回路全体に対し電圧源805により電圧V_(dd)が印加される。ここで,電気回路の保護のため,抵抗負荷とコイルの直列回路と並列して還流ダイオード804が接続されている。
[0062] この測定回路において,電界効果トランジスタ801を連続的にスイッチ(オン/オフ)させ,電界効果トランジスタのオン直後なるべく短い時刻(オン後t_(read)秒後)の電界効果トランジスタを流れる電流I_(DS),電界効果トランジスタのオン電圧V_(DS)を測定し,電界効果トランジスタのオン抵抗R_(ON)=V_(DS)/I_(DS)を求めた。ここで,簡単のため,このスイッチにおける電界効果トランジスタのオン抵抗R_(ON)を,「アクティブR_(ON)」と呼ぶことにし,静特性の測定により得られる(低V_(dd)条件下での)電界効果トランジスタのオン電圧(以下「DC-R_(ON)」と表記する)と区別する。電流コラプスの影響がある場合,V_(dd)を上昇させるに従い,このアクティブR_(ON)が,増加する。
[0063] この評価系を用い,ゲート電極107に周期t_(period)=143μs,オン時間t_(ON)=7.5μsのパルス電圧を周期的に与え,オン電圧が安定するまで一定時間保持したのち,オン直後(オン状態に切り換えてから7μs後)の波形をオシロスコープに取り込むことでアクティブR_(ON)を測定し,そのV_(dd)依存性について調べた。ここで,オン直後(7μs後)と定めた理由は,本測定系で実際に測定を試みた際,それより短い時間領域においては,評価系の寄生容量の影響によりリンギングが現れ,正確な計測ができなかったためであり,一方,ONへのスイッチ後7μs後においては,リンギングがおさまり,正確なオン電圧を計測することができたためである。」
3 引用文献3の記載
引用文献3には,図面とともに次の記載がある。
「【0016】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る窒化物系化合物半導体装置は,図1に示すように,III族窒化物系化合物半導体からなる半導体層2と,半導体層2上に配置されたソース電極3及びドレイン電極4と,半導体層2上にソース電極3とドレイン電極4との間に配置された絶縁膜6と,絶縁膜6に設けられた開口部で半導体層2に接する有機半導体層7と,開口部の有機半導体層7上に配置されたゲート電極5とを備える。
(中略)
【0019】
半導体層2は,それぞれが窒化物系化合物半導体からなるバッファ層21,キャリア走行層22及びキャリア供給層23がこの順に積層された構造である。図1に示すように,キャリア走行層22とキャリア供給層23とのヘテロ接合面近傍のキャリア走行層22に,電流通路(チャネル)としての2次元キャリアガス層221が形成される。以下では,キャリア供給層23がキャリア走行層22に供給するキャリアが電子である場合について例示的に説明する。つまり,2次元キャリアガス層221は2次元電子ガス層(2DEG層)であり,窒化物系化合物半導体装置がオンしたときにソース電極3から2DEG層221を介してドレイン電極4に電子が供給される。
(中略)
【0030】
有機半導体層7の導電型は,半導体層2と異なる導電型にすることが好ましい。つまり,例えば半導体層2が第1導電型である場合には,有機半導体層7を第2導電型とする。より具体的には,例えば半導体層2が2DEG層221を有するn型である場合は,有機半導体層7はp型にする。n型の半導体層2の表面上にp型の有機半導体層7を配置することにより,有機半導体層7から半導体層2に正孔が常時供給され,半導体層2の表面上にトラップされた電子が供給された正孔と結合して消滅する。
【0031】
以上に説明したように,本発明の第1の実施の形態に係る窒化物系化合物半導体装置によれば,ドレイン電極4とソース電極3間に高電圧を印加した状態でゲート電極5にオフとなる電圧を印加後オンに切り換えた際にオン抵抗が増大する,いわゆる電流コラプス現象が以下のように抑制される。即ち,電流コラプス現象によるオン抵抗の増大は,オフ時にゲート電極5とドレイン電極4の間の半導体層2の表面,特にゲート電極5のドレイン端又は絶縁膜6の開口部近傍にキャリアがトラップされ,トラップされたキャリアによって2DEG層221が部分的に空乏化されることにより生じる。しかし,図1に示した窒化物系化合物半導体装置では,半導体層2の表面にトラップされた第1導電型のキャリアが,有機半導体層7から供給される第2導電型のキャリアにより相殺されて消滅する。その結果,半導体層2の材料の性質や結晶性に関わらず,電流コラプス現象による逆バイアス印加後のオン抵抗の増大を抑制できる。特に第1の実施の形態では有機半導体層7のドレイン端がゲート電極5のドレイン端よりもドレイン電極4側にあり,ゲート電極5のドレイン端における電界集中を抑制し,電流コラプス現象を良好に抑制することができる。」
4 引用文献4の記載
引用文献4には,図面とともに,次の記載がある。
「【0006】
【実施例】以下添付図面を参照して,本発明を具体化した実施例につき説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。ここに,図1は本発明の一実施例に係る試料の内部欠陥評価装置の概略構成を示すブロック図,図2は上記内部欠陥評価装置の要部拡大図,図3は第1のレンズ手段と試料の相対距離を変化させることにより試料内部における深さ位置を変えて情報を得る場合の説明図,図4は上記内部欠陥評価装置により観測されるPLの一例を示すブラフ,図5は本発明の他の実施例に係る内部欠陥評価装置の要部構成を示す説明図である。この実施例に係る内部欠陥評価装置では,図1及び図2に示すごとく,X-Yステージ17上に固定された試料16表面の法線方向に,その上方から励起光源11,凹レンズ8,レンズ9,ピンホール12aを備えたプレート12,レンズ13,ビームスプリッタ14,レンズ15(第1のレンズ手段)が配設されている。上記励起光源11としては,例えばArレーザが用いられ,この励起光源11からの励起光10が上記試料16の表面に照射される。上記レンズ15は,上記試料16内で上記励起光10を集光させると共にその焦点位置からのフォトルミネッセンス光(以下PL)を平行光となす作用をなし,上記試料16に対して上記PLの光軸方向へレンズ駆動装置25(移動手段)により移動駆動される。尚,このレンズ駆動装置25は当該内部欠陥評価装置を統括するコンピュータを備えた制御装置22により制御される。この場合,上記レンズ15を固定として上記X-Yステージ17をこのレンズ15に対して上記PLの光軸方向へ移動駆動し,レンズ15と試料16の相対距離を変化させるようにしてもよい。このようにすると,上記X-Yステージ17は上記制御装置22により3次元空間内において試料16を移動調整可能となる。
(中略)
【0008】即ち,上記励起光源11からの励起光が集光してPLが発生する試料16内部での焦点位置とこのPLを集光して通過させる位置,換言すればピンホール19aを設けた位置とが対応するため,レンズ15で平行光線とならない試料16内での焦点位置以外で発生したPLはレンズ18により上記ピンホール19aの位置で収束せず,上記分光器20へ導かれることはない。従って,試料16の焦点位置からのPLのみを確実に検出装置27に導いてその評価をすることができる。そして,上記レンズ駆動装置25によりレンズ15をPLの光軸方向へ移動させて試料16に対する焦点位置を変化させることにより,この試料16における特定の深さ位置からのPLのみを効率よく検出することができる。その結果,当該装置によれば,試料16内部からのPLによりその深さ方向にかかる所定位置に関しての情報を得る場合には,従来装置の場合のように励起光の入射角,屈折角あるいはPLを観察する方向角などを測定することなく,試料内における所定の深さ位置からのPLのみを検出することができる。また,種類の異なる試料の場合でも,該試料とレンズ15との相対距離を変化させることのみにより上記の場合と同様にして所定の深さ位置におけるPLを測定することができる。図3に試料16の深さ位置を変えてPLを測定する状況を示す。さらに,本実施例にかかる装置においては,試料16を支持するX-Yステージ17を制御装置22により駆動制御して,該試料16をX-Y平面内で移動させつつPLの測定を行うことにより,所定の深さ位置での2次元方向にかかるPLの測定をも容易に行うことができる。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用方法発明との対比
ア 引用方法発明の「ペンタセンFETのソース-ドレイン間に電圧が印加されているとき,ペンタセンFETのペンタセン層の所定箇所にレーザ光が照射され,ペンタセン層の所定箇所には2次高調波が生成され,受光した2次高調波の光量に応じた電気信号を処理部に出力する」は,引用方法発明の「ペンタセンFET」と本願発明1の「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」とは「電界効果トランジスタ」である点で共通すること,及び引用方法発明において「ペンタセンFETのソース電極とドレイン電極間に正のパルス電圧を印加」すると「ペンタセンFETはオン状態とな」る(前記第5の1(1)イ【0051】も合わせて参照)こと,から,本願発明1の「電界効果トランジスタに光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を備えており」及び同「前記検出工程は,前記電界効果トランジスタがオンのときに行われ」を満たす。
イ 引用方法発明の「多層構造の中に含まれる所定の層におけるキャリア分布のみを抽出すること」は,本願発明1の「少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する」を満たす。
ウ すると,本願発明1と引用方法発明とは,下記エの点で一致し,下記オの点で相違する。
エ 一致点
「電界効果トランジスタに光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を備えており,
前記検出工程は,前記電界効果トランジスタがオンのときに行われ,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出する方法。」
オ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は「半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する方法」であり,本願発明1において「電界効果トランジスタ」は「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」であるのに対し,引用方法発明ではこの旨が明示されない点。
(イ)相違点2
本願発明1は「前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに,ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程」を備え,「前記電圧印加工程の後に」検出工程を備えるのに対し,引用方法発明はそうではない点。
(2)相違点についての検討
相違点2について検討すると,相違点2に係る構成について,引用文献2ないし4には記載も示唆もない。
そして,本願発明1は,相違点2に係る構成を備えることにより,「電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を短時間で特定することができる」(本願明細書段落【0006】)という有利な効果を奏するものである。
(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は,本願発明1を引用するものであり,本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,前記1と同様の理由により,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
3 本願発明4について
(1)本願発明4と引用装置発明との対比
ア 引用装置発明の「レーザ発振器」は,「レーザ発振器からレーザ光をペンタセンFETに照射」するものであること,引用装置発明の「ペンタセンFET」と本願発明4の「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」とは「電界効果トランジスタ」である点で共通することから,本願発明4の「電界効果トランジスタに光を照射する光照射装置」を満たす。
イ 引用装置発明の「光電子倍増管」は,「ペンタセンFETにて生成された2次高調波を高電子倍増管で検出」するものであることから,本願発明4の「前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出装置」を満たす。
ウ 引用装置発明の「制御信号出力部」は,「レーザ発振器のフラッシュランプ及びスイッチ素子並びにペンタセンFETのソース電極に接続され」るものであること,そして,「ペンタセンFETのソース電極とドレイン電極間に正のパルス電圧を印加」するものであり「ペンタセンFETのソース電極」に印加する電圧を生成する部分を含むから,本願発明4の「前記電界効果トランジスタに印加する電圧を生成する電圧生成装置と,前記電圧生成装置及び前記光照射装置に接続されている制御装置」を満たす。
エ 引用装置発明は,前記1(1)ア及びイと同様にして,本願発明4の「前記制御装置は,前記電界効果トランジスタがオンのときに,前記電界効果トランジスタに前記光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を実行するように前記電圧生成装置及び前記光照射装置を制御するように構成されており,前記検出装置は,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている」を満たす。
オ すると,本願発明4と引用装置発明とは,下記カの点で一致し,下記キの点で相違する。
カ 一致点
「電界効果トランジスタに光を照射する光照射装置と,
前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出装置と,
前記電界効果トランジスタに印加する電圧を生成する電圧生成装置と,
前記電圧生成装置及び前記光照射装置に接続されている制御装置と,を備えており,
前記制御装置は,
前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオンのときに,前記ヘテロ接合電界効果トランジスタに前記光を照射し,前記光が照射された領域に発生する高次高調波の強度を検出する検出工程と,を実行するように前記電圧生成装置及び前記光照射装置を制御するように構成されており,
前記検出装置は,少なくとも前記半導体層の深さ方向に分布する前記高次高調波の強度を検出するように構成されている装置。」
キ 相違点
(ア)相違点3
本願発明4は「半導体層を有するヘテロ接合電界効果トランジスタで生じる電流コラプス現象を観察する装置」であり,本願発明4において「電界効果トランジスタ」は「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」であるのに対し,引用装置発明ではこの旨が明示されない点。
(イ)相違点4
本願発明4の「制御装置」は「前記ヘテロ接合電界効果トランジスタがオフのときに,ドレイン電極とソース電極の間に電圧を印加する電圧印加工程と,前記電圧印加工程の後に,」検出工程を実行するように制御するのに対し,引用装置発明ではそうではない点。
(2)相違点についての検討
相違点4について検討すると,相違点4に係る構成について,引用文献2ないし4には記載も示唆もない。
そして,本願発明4は,相違点4に係る構成を備えることにより,「電流コラプス現象によって発現する電界領域の位置を短時間で特定することができる」(本願明細書段落【0006】)という有利な効果を奏するものである。
(3)まとめ
したがって,本願発明4は,引用発明1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
4 本願発明5及び6について
本願発明5及び6は,本願発明4を引用するものであり,本願発明4の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,前記3と同様の理由により,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定の理由についての判断
前記第6のとおり,本願発明1ないし6は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2014-109220(P2014-109220)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 恩田 和彦  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 深沢 正志
大嶋 洋一
発明の名称 ヘテロ接合電界効果トランジスタ現象を観察する方法及び装置  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  

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