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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01N |
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管理番号 | 1336998 |
異議申立番号 | 異議2016-700519 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-06-07 |
確定日 | 2017-11-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5829309号発明「スライム防止用組成物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5829309号の明細書及び特許請求の範囲を平成29年8月1日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲とおり,訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。 特許第5829309号の請求項1,3に係る特許を取り消す。 特許第5829309号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5829309号の請求項1?3に係る特許についての出願は,平成26年5月23日に東西化学産業株式会社(以下「特許権者」という。)から出願されたものであって,平成27年10月30日に特許権の設定登録がされ,同年12月9日にその特許公報が発行され,平成28月6月7日付け(受理日:同年同月8日)で,その請求項1?3に係る発明の特許に対し,特許異議申立人西山智裕(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 8月 9日付 取消理由通知 同年10月14日付(受理日:同年同月17日) 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年10月25日付 訂正拒絶理由通知 同年12月 1日付(受理日:同年同月5日) 意見書・手続補正書(特許権者) 同年12月26日付 取消理由通知(決定の予告) 平成29年 3月 3日付(受理日:同年同月6日) 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 3月15日付 通知書 同年 4月14日付(受理日:同年同月17日) 意見書(特許異議申立人) 同年 5月26日付(受理日:同年同月29日) 手続補正書(特許異議申立人) 同年 6月 8日付 取消理由通知(決定の予告) 同年 8月 1日付(受理日:同年同月2日) 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 8月17日付 通知書 同年 9月20日付(受理日:同年同月21日) 意見書(特許異議申立人) 第2 訂正の適否 特許権者は,特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年8月1日に訂正請求書を提出し,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?3について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。 なお,平成28年10月14日付け及び平成29年3月3日付けの訂正請求については,特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1において, 「スルファミン酸化合物,及び ポリマレイン酸,ポリアクリル酸ナトリウム,マレイン酸とアクリル酸アルキルビニルアセテート共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物・次亜リン酸ナトリウム付加重合物,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,1-ヒドロキシエチリデン-1,1,ジホスホン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩,及びビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウムからなる群より少なくとも一つ選択される化合物」とあるのを, 「スルファミン酸化合物,並びに 2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,及び,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物」と訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項3に「請求項1又は2に記載のスライム防止用組成物」とあるのを, 「請求項1に記載のスライム防止用組成物」と訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の明細書の【0006】において, 「本発明のスライム防止用組成物における第1特徴構成は,臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤,スルファミン酸化合物,及びポリマレイン酸,ポリアクリル酸ナトリウム,マレイン酸とアクリル酸アルキルビニルアセテート共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物・次亜リン酸ナトリウム付加重合物,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,1-ヒドロキシエチリデン-1,1,ジホスホン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩,及びビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウムからなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む点にある。」とあるのを, 「本発明のスライム防止用組成物における第1特徴構成は,臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤,スルファミン酸化合物,並びに,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,及び,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む点にある。」と訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の明細書の【0008】,【0009】を削除する。 (6)訂正事項6 訂正前の明細書の【0022】,【0023】,【0024】,【0034】,【0035】,【0036】,【0037】?【0044】に記載されている「ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム」の記載,及び「ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム」に係る試料10及び20の記載を削除する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1は,訂正前の請求項1における択一的な選択肢である 「ポリマレイン酸,ポリアクリル酸ナトリウム,マレイン酸とアクリル酸アルキルビニルアセテート共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物・次亜リン酸ナトリウム付加重合物,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,1-ヒドロキシエチリデン-1,1,ジホスホン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩,及びビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウムからなる群より少なくとも一つ選択される化合物」を, 「2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,及び,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物」 に限定したものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項1のうち,訂正後の「2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸」については.訂正前の請求項1に記載されている。 訂正後の「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」については,願書に添付した明細書の【0027】に,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体とは,・・・非イオン性基を含む第3成分が,ビニルエステル,酢酸ビニル・・・から成る群から選ばれた少なくとも一種であるものを意味する」と記載されている。 よって,訂正事項1は願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 上記アで述べたとおり,訂正事項1は,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項2は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,明らかに,願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 上記アで述べたとおり,訂正事項2は,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的 訂正事項3は,訂正前の「請求項1又は2に記載のスライム防止用組成物」を,「請求項1に記載のスライム防止用組成物」と,引用する請求項を請求項1のみとするものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項3は,上記アのとおり,引用する請求項を請求項1のみとするものであるから,明らかに,願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 上記アで述べたとおり,訂正事項3は,特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的 訂正事項4は,訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を,訂正後の請求項1に対応する明細書の記載に整合させるものであるから,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項4は,訂正事項1と実質的に同じ内容であるから,上記(1)イで述べたとおり,願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 訂正事項4は,そもそも,特許請求の範囲を訂正するものではなく,その内容も実質的に訂正事項1と同じであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的 訂正事項5は,訂正事項2によって請求項2を削除したことに伴い,訂正前の請求項2に対応する明細書の【0008】,【0009】の記載を削除するもので,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項5は,上記アで述べたとおり,明細書の記載を削除するものであるから,願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 訂正事項5は,そもそも,特許請求の範囲を訂正するものではなく,訂正前の請求項2に対応する記載を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6 ア 訂正の目的 訂正事項6は,化合物としてどのような物か不明確であるとの指摘を受けていた,明細書に記載される「ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム」及びこれを用いた実施例,比較例についての記載事項を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 イ 新規事項 訂正事項6は,明細書に記載される「ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム」及びこれを用いた実施例,比較例についての記載事項を削除するものであるから,明らかに,願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の実質上拡張・変更について 訂正事項6は,そもそも,特許請求の範囲を訂正するものではなく,明細書に記載される「ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム」及びこれを用いた実施例,比較例についての記載事項を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 したがって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (7)一群の請求項 訂正事項1に係る請求項1,訂正事項2に係る請求項2,訂正事項3に係る請求項3は,訂正前の請求項2,3が請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから,特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって,特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 (8)明細書に係る請求項 訂正事項4?6に係る明細書の訂正は,訂正前の請求項1及びそれらを引用する訂正前の請求項2,3に対応するものであって,明細書の訂正に係る一群の請求項がすべて訂正の対象となっているから,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 3.まとめ 以上のとおり,訂正事項1?6は,特許法第120条の5第2項ただし書きに掲げる事項を目的としたものであり、かつ同法同条第4項、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合する。 よって,訂正後の請求項[1?3]について訂正を認める。 第3 本件発明 上記「第2」で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下,順次「本件発明1」のようにいう。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤, スルファミン酸化合物,並びに 2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,及び,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む,スライム防止用組成物。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 スライム防止用組成物が,12以上のpHを有し,且つ該組成物の総重量に対し,有効臭素含有量1?8重量%の前記臭素系酸化剤,1?10重量%の前記スルファミン酸化合物,1?20重量%の水酸化物,及び0.5?20重量%の前記化合物を含む請求項1に記載のスライム防止用組成物。」 第4 取消理由通知(予告) 平成29年6月8日付けの取消理由通知(予告)の概要は,以下の通りである。 [当審取消理由3’] 本件の請求項1,3に係る発明は,本件出願前の出願であって,特許法第41条第3項の規定により本件出願後に出願公開がされたものとみなされる下記甲第2号証出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者が甲第2号証出願に係る上記発明をした者と同一ではなく,また本件特許出願の時に,その出願人が甲第2号証出願の出願人と同一の者でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。 よって,本件の請求項1,3に係る発明の特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 記 甲第2号証出願:特願2014-57949号 (特開2015-192998号) 傍証として,以下の参考文献1?3を示す。 参考資料1:「ACUMER^(TM)1110」の技術データシート, ダウ・ケミカル・カンパニー, 2012年7月, <http://msdsserch.dow.com/PublishedLiteratureDOWCOM/dh_08ab/ 0901b803808abb32.pdf?filepath=personalcare/pdfs/noreg/ 713-00016.pdf&fromPage=GetDoc> 参考資料2:「ACUMER^(TM)1100」の技術データシート, ダウ・ケミカル・カンパニー, 2012年7月, <http://msdsserch.dow.com/PublishedLiteratureDOWCOM/dh_08ab/ 0901b803808abb31.pdf?filepath=personalcare/pdfs/noreg/ 713-00015.pdf&fromPage=GetDoc> 参考文献3:「ACUMER^(TM)3100」の技術データシート, ローム・ハース, 2002年1月 <http://www.dow.com/assets/attachments/business/pmat/acumer/ acumer_3100/tds/acumer_3100.pdf> [当審取消理由4’] 本件の請求項1,3に係る発明は,本件出願前に頒布された刊行物である下記甲第5,6,17,18号証に記載された発明に基いて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本件の請求項1,3に係る発明の特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 記 甲第5号証:国際公開03/96810号 甲第6号証:特表平11-506139号公報 甲第17号証:特開平4-356580号公報 甲第18号証:特開平7-268666号公報 [当審取消理由5’] 本件の特許請求の範囲の請求項1,3に記載された特許を受けようとする発明は,下記の点で発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって,本件の請求項1,3に係る発明の特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。 記 本件発明1,3の「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のモノエタノールアミンとの塩,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のジエタノールアミンとの塩,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のトリエタノールアミンとの塩,及びカルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩であって,前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種のである三元共重合体もしくはその塩」を含む「スライム防止用組成物」については,発明の詳細な説明の記載に具体的な裏付けが記載されておらず,本件発明1,3の課題である高いpHを有する被処理水に対して高い殺菌効果が得られると当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 第5 当審の判断 当審は,本件発明1,3の特許は,当審取消理由4’及び5’によって,取り消すべきものと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1.当審取消理由4’について (1)刊行物の記載事項 ア 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には以下の事項が記載されている。 (5a)「1.塩素系酸化剤,スルファミン酸化合物及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有することを特徴とするスライム防止用組成物。」(請求の範囲第1項) (5b)「3.スライム防止用組成物が,12以上のpHを有し,かつ該組成物の総重量に対し,(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム,(b)1.5-9重量%のスルファミン酸,(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくと も1種又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項1記載のスライム防止用組成物。」(請求の範囲第3項) (5c)「5.アニオン性ポリマーが,ポリマレイン酸,ポリアクリル酸,アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオンポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であり,かつ500?50,000の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項3記載のスライム防止用組成物。」(請求の範囲第5項) (5d)「8.ホスホン酸化合物が1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスフォン酸,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,ニトリロトリメチレンホスホン酸及びエチレンジアミン-N,N,N’,N’テトラメチレンホスホン酸ならびに前記ホスホン酸のアル力リ金属塩及びアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1記載のスライム防止用組成物。」(請求の範囲第8項) (5e)「実施例 7 有効塩素12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量%,スルファミン酸8重量%,アニオン性ポリマー又はホスホン酸10%,残りは水酸化ナトリウム及び水の配合組成物を作成した。水酸化ナトリウムの仕込み量を変えることにより配合剤のpHを調製した。遮光して40℃の恒温槽に保存し,一定期間後の有効塩素濃度を測定した。 有効塩素の測定にはHACH社製の残留塩素計ならびに専用試薬を用いた。 ポリマレイン酸はグレートレイクスケミカル社のベルクレン(重量平均分子量2730),マレイン酸-イソブチレン共重合物は(株)クラレのイソバン(重量平均分子量10800),アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物は(株)日本触媒のアクリアックGL(重量平均分子量10700),1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸は,モンサント社のデクエスト2010,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸はバイエル社のバイヒビットAM,ヒドロキシホスホノ酢酸はグレートレイクスケミカル社ベルコア575を用いた。 結果を第4表に示す。 第4表に見られるように,次亜塩素酸ナトリウム溶液はpH14で,1ヶ月で約60%,3ヶ月で約20%しか有効塩素が残留していなかった。一方,今回作成したいずれの製剤もpHが高い領域において安定性が高く,pH12では3力月後において50%以上,pH13以上では3ヶ月後において90%以上の高い有効塩素の残留が確認された。一方,pH11では非常に不安定であることが確認された。以上のように,塩素系殺菌剤,スルファミン酸若しくはその塩,及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸若しくはその塩を含有する製剤の安定性はpHに依存しており,pH12以上において高い安定性が得られることが分った。」(第18頁第10行?第20頁第9行) (5f)「実施例1?6及び比較例1?13のスライム付着とスラッジ堆積の結果を第1表に,循環水中の細菌数を第2表に,循環水の濁度を第3表に示す。」 イ 甲第6号証の記載事項 甲第6号証には以下の事項が記載されている。 (6a)「13. a.約5パーセントから約70パーセントの利用できる塩素等ハロゲンを有するアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩の水溶液を水溶性の臭素イオン源と混合する段階と; b.臭素イオン源とアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩を反応させて,0.5から30重量パーセントの安定化されてないアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の水溶液を形成する段階と; c.アルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化されてない溶液に,アルカリ金属のスルファミン酸塩の水溶液を,アルカリ金属のスルファミン酸塩のアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩に対するモル比が約0.5から約7となる量で添加する段階と; d.安定化された水性のアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の溶液を回収する段階と; により調製されるアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化された水溶液。」(請求の範囲第13項) (6b)「17. 酸化剤が微生物汚損(microbiofouling)の制御のために加えられる娯楽用の水のシステムにおける微生物汚損の制御方法において,酸化剤として請求項13記載の溶液を使用することからなる改善。」(請求の範囲第17項) (6c)「20. a.約5パーセントから約70パーセントの利用できる塩素等ハロゲンを有するアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩の水溶液を水溶性の臭素イオン源と混合する段階と; b.臭素イオン源とアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩を反応させて,0.5から30重量パーセントの安定化されてないアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の水溶液を形成する段階と; c.アルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化されてない溶液に,アルカリ金属のスルファミン酸塩の水溶液を,約0.5から約7のスルファミン酸塩の次亜臭素酸塩に対するモル比を提供する量で添加する段階と; d.安定化された水性のアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の溶液を回収する段階と; により調製された安定化された次亜臭素酸ナトリウム溶液の抗-微生物的に有効な量を水性のシステムに加えることから成る,産業用水のシステムにおいて接触する装置表面の上の微生物汚損(microbiofouling)を制御する方法。」(請求の範囲第20項) (6d)「臭素は,高いpH若しくはアミン環境下でのより優れた特性及び低揮発性等,水処理に対して塩素を超える多様な利点を有する。しかし,塩素漂白剤の臭素類縁体である次亜臭素酸ナトリウムは,一般的な保管条件下で安定ではなく,それ自体では,購入による入手が出来ない。」(第6頁第20?22行) (6e)「本発明は,改善された安定性,非揮発性,減少された臭素酸塩とAOXの形成,改善された微生物汚損の制御,及び冷却水中の増加した遊離のハロゲン残留物を有する,安定化された次亜臭素酸ナトリウムが生産される製造方法における特異な添加順序を含んで,公知技術に対し幾つかの相違点を具備する。 Goodenough他の例に記載された安定化された臭素及び表I中の安定化されてない次亜臭素酸ナトリウムと比較して,安定化された次亜臭素酸ナトリウム溶液の安定性は大きく増大している。本発明の安定化された次亜臭素酸ナトリウムの驚くほど増大した安定性に基づくならば,製造方法における添加順序が重大なものであることは明らかである。 」(第18頁第25行?第19頁第5行,表I) (6f)「例3: 安定化された次亜臭素酸ナトリウムの抗細菌活性 安定化された及び安定化されてない次亜臭素酸ナトリウムの新鮮な調製液が希釈され,1ppmの遊離の(塩素等)ハロゲン残留物を達成するためにその後冷却水に加えられた。次亜塩素酸ナトリウムが,NaBrが蒸留水と直接に置き換えられたことを除いて,例1中のNaOBrに対して記載されたのと同じ形態で安定化された。安定化された及び安定化されてない次亜塩素酸ナトリウムは希釈され,その後冷却水に1ppmの(塩素等)遊離ハロゲン残留物の最終的な濃度で加えられた。1ppmの(塩素等)遊離ハロゲン残留物を達成するのに必要な全溶液の量が記録された。6及び21日の暗所での保管に続き,同一の安定化された及び安定化されてない次亜ハロゲン酸ナトリウムの希釈液が調製され,1ppmの遊離の(塩素等)ハロゲン残留物のために元々必要とされた量がおよそ10^(6)プスドモナス アエルギノサ(Pseudomonas Aerginosa)細胞/mLを含む冷却水に加えられた。10及び30分でアリコートが,ハロゲン中和剤(0.05パーセントのNa_(2)S_(2)O_(3))を含む冷却水希釈ブランク中に取り出され,トリプトン グルコース抽出物寒天培地上で数えられた。安定化されたNaOBrは保存後にその抗細菌活性を保持しており,一方安定化されてない形態ではプスドモナス アエルギノサに対しその効力を失った(表IIIを参照)。この結果は保存期間の増加に従いより劇的になった。この効果は,非生物致死性種の臭化物及び臭素酸塩中への安定化されてない次亜臭素酸イオンの不均化のためであるらしい。驚くべきことに,NaOBrと同様の方法で安定化されたNaOClはテストされた条件下で比較上効果がなかった(表III)。 」(第23頁第1行?第24頁第3行,表III) ウ 甲第17号証の記載事項 甲第17号証には以下の事項が記載されている。 (17a)「【請求項1】 水性系の中にシリカまたは珪酸塩の形成が蔓延するのを防止するための方法であって,前記系に, a)重量平均分子量約1000?約25000の,(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー,・・・そしてターポリマーは 1)約30?約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と, 2)約11超?約65重量%の(メタ)アクリルアミノメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と, 3)約5?約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド,または 4)約5?約30重量%のビニルアルコール,アリルアルコール,ビニルもしくはアリルアルコールのエステル,ビニルエステル,スチレン,イソブチレンまたはジイソブチレン,または 5)(メタ)アクリルアミノメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3?約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成されている, b)マグネシウムイオン, c)前記コポリマーまたはターポリマーと,アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物, d)重量平均分子量約1000?約25000のポリ(メタ)アクリル酸またはポリマレイン酸またはそれらの塩と,アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物 からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする前記方法。」 (17b)「【0060】本発明の方法を説明し,そしてここに詳細に具体例を示した。しかしながら,本発明の思想および範囲を逸脱することなく様々な変更および変形が当業者に明かになろう。変更は,たとえば,本発明の添加剤と共にその他の通常の水処理剤を使用することを包含する。 これはシリカ以外のスケールの蔓延を防止するためのたとえばホスホン酸塩のようなその他のスケール抑制剤,腐食抑制剤,殺生物剤,分散剤,消泡剤などを包含する。」 エ 甲第18号証の記載事項 甲第18号証には以下の事項が記載されている。 (18a)「【請求項1】(a)(メタ)アクリル酸および/またはその塩:5?90重量%,(b)アクリルアミドアルキルスルホネートまたはアクリルアミドアリールスルホネート:5?50重量%,(c)ビニルエステル,酢酸ビニルおよび置換アクリルアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種:5?50重量%の単位を含有する水溶性共重合体からなることを特徴とする金属防食剤。」 (18b)「【0033】また,本発明の金属防食剤は,密閉循環冷却水系あるいは開放循環冷却水系の防食剤として使用でき,本発明の金属防食剤に加えて・・・アンモニウム系化合物,アミン系化合物,塩素系化合物,臭素系化合物,窒素硫黄系化合物,有機金属系化合物などのスライムコントロール剤,・・・と併用したり,配合しても差し支えない。」 (2)甲第5号証に記載された発明 甲第5号証には,「塩素系酸化剤,スルファミン酸化合物及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有することを特徴とするスライム防止用組成物」であって(摘記5a参照), 「スライム防止用組成物が,12以上のpHを有し,かつ該組成物の総重量に対し,(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム,(b)1.5-9重量%のスルファミン酸,(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種より」なり(摘記5b参照), 「アニオン性ポリマーが,ポリマレイン酸,ポリアクリル酸,アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオンポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であり」(摘記5c参照), 「ホスホン酸化合物が1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスフォン酸,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,ニトリロトリメチレンホスホン酸及びエチレンジアミン-N,N,N’,N’テトラメチレンホスホン酸ならびに前記ホスホン酸のアル力リ金属塩及びアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である」(摘記5d参照)ことが記載されている。 そうすると,甲第5号証には, 「塩素系酸化剤,スルファミン酸化合物及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有することを特徴とするスライム防止用組成物であって, スライム防止用組成物が,12以上のpHを有し,かつ該組成物の総重量に対し,(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム,(b)1.5-9重量%のスルファミン酸,(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種よりなり, アニオン性ポリマーが,ポリマレイン酸,ポリアクリル酸,アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオンポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であり, ホスホン酸化合物が1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスフォン酸,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,ヒドロキシホスホノ酢酸,ニトリロトリメチレンホスホン酸及びエチレンジアミン-N,N,N’,N’テトラメチレンホスホン酸ならびに前記ホスホン酸のアル力リ金属塩及びアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であるスライム防止用組成物。」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比・判断 (3-1)本件発明1に対して 本件発明1の化合物が「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」である場合について検討する。 ア 対比 甲5発明の「塩素系酸化剤」は本件発明1の「臭素系酸化剤」と「ハロゲン系酸化剤」である点で共通する。 本件発明1の「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」は,そのカルボキシル基に着目すれば,甲5発明の「アニオン性ポリマー」であるといえる。 そうすると,本件発明1と甲5発明とは, 「ハロゲン系酸化剤, スルファミン酸化合物,並びに アニオン性ポリマーを含む,スライム防止用組成物。」である点で一致し,以下の点で相違する。 (5-i)ハロゲン系酸化剤が, 本件発明1では,「臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤」であるのに対して, 甲5発明では,「塩素系酸化剤」である点 (5-ii)「アニオン性ポリマー」が本件発明1では,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」であるのに対して, 甲5発明では,「ポリマレイン酸,ポリアクリル酸,アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオンポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であ」る点 イ 相違点の検討 (ア)相違点(5-i)について 甲第6号証には,「臭素は,高いpH若しくはアミン環境下でのより優れた特性及び低揮発性等,水処理に対して塩素を超える多様な利点を有する」ものの「次亜臭素酸ナトリウムは,一般的な保管条件下で安定ではな」いという欠点を有すること(摘記6d参照)が記載されている。 そして,甲第6号証には,「a.約5パーセントから約70パーセントの利用できる塩素等ハロゲンを有するアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩の水溶液を水溶性の臭素イオン源と混合する段階と; b.臭素イオン源とアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜塩素酸塩を反応させて,0.5から30重量パーセントの安定化されてないアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の水溶液を形成する段階と; c.アルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化されてない溶液に,アルカリ金属のスルファミン酸塩の水溶液を,アルカリ金属のスルファミン酸塩のアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩に対するモル比が約0.5から約7となる量で添加する段階と; d.安定化された水性のアルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の溶液を回収する段階と; により」,「アルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化された水溶液」が調製されること(摘記6a参照), そのような「アルカリ又はアルカリ土類の金属の次亜臭素酸塩の安定化された水溶液」が「微生物汚損(microbiofouling)を制御する」,すなわち,スライム防止用に使用できることも記載されている(摘記6b,6c参照)。 さらに,甲第6号証には,この方法で得られた安定化された次亜臭素酸ナトリウム水溶液が長期間安定であり(摘記6e参照),同様の方法で安定化された次亜塩素酸ナトリウム水溶液よりも高い抗細菌活性を有することも記載されている(摘記6f参照)。 そうすると,甲第6号証の上記記載に接した当業者であれば,甲5発明の塩素系酸化剤よりも,次亜臭素酸ナトリウムのほうが,高いpHでのより優れた特性を有すること,そして甲5発明のスルファミン酸化合物と塩素系酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム)は甲第6号証に記載されるような方法で安定化された場合,同様の方法で安定化された次亜臭素酸ナトリウムよりも抗細菌活性が低いことを理解するといえ,このような課題を解決するために,甲5発明において,塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物に代えて,甲第6号証に記載されるような方法で安定化された次亜臭素酸とスルファミン酸化合物を含む水溶液に置き換えることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。 よって,甲5発明において,相違点(5-i)に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。 (イ)相違点(5-ii)について 甲第5号証には,アニオン性ポリマーが甲5発明のものに限定されない請求項1も記載されている(摘記5a参照)から,アニオン性ポリマーが,甲5発明に含まれるアニオン性ポリマー(摘記5c参照)のみに必ずしも限られないことが理解できる。 そうすると,他のアニオン性ポリマーであっても,スライム防止組成物として使用できるものであれば,選択可能と考えられるところ,甲第17,18号証には,(a)(メタ)アクリル酸,(b)アクリルアミドアルキルスルホネート,(c)ビニルエステル,酢酸ビニルおよび置換アクリルアミドの三元共重合体がスケール防止剤としてスライム防止剤とともに使用できることが記載されていること(摘記17a,17b,18a,18b参照)からすれば,甲5発明において,アニオン性ポリマーとしてこのような三元共重合体を使用することは当業者が容易になし得たことと認められる。 ウ 本件発明1の効果 本件特許明細書【0041】?【0044】(後記の2.(3)摘記d参照)には,臭素系酸化剤及びスルファミンと共に2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(試料6)を使用した組成物は,臭素系酸化剤に代え塩素系酸化剤を使用した組成物よりも高い殺菌効果を奏するだけでなく,試料6に代えて試料1,3,5,7,8を使用した組成物よりも高い殺菌効果を有することが具体的に示されている。 一方,本件特許明細書【0041】?【0044】(後記の2.(3)摘記d参照)には,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」のうちローム・アンド・ハース社のACUMER3100(試料9)を使用した場合に殺菌効果が他のポリマーよりも高いことが記載されているが,本件特許明細書では,「ACUMER3100」は,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」とのみされているだけであって,その「非イオン性基」の構造は明らかではなく,「ACUMER3100」が「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」であると認めることはできない。 そして,本件特許明細書で,「ACUMER3100」を含めたポリマー(試料3,4,5,9)を使用した組成物の効果は,ポリマーの種類によって大きく変動することが示されているから,「ACUMER3100」とは非イオン性基の部分で同一であることが明らかではない「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」を使用した組成物は,ACUMER3100を使用した組成物の効果と同様の効果を当然に奏するとまですることができない。 よって,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」を使用する本件発明1に格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。 エ 特許権者の主張 特許権者は,平成29年8月1日付け意見書で, (ア)本願出願時の当業者の間では,「臭素系酸化物とスルファミン酸化合物との混合物にアニオン性ポリマー等の高分子化合物を加えると,不安定になって濁りが生じ易く,その結果,有効臭素の残留率が低くなって殺菌効果が大幅に減弱されるものと考えられていたため」,甲第5号証の塩素系酸化剤を臭素系酸化剤に単に置き換えることは想到しないこと, (イ)「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体を使用した場合の殺菌効果については,アニオン性高分子として,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体(ACUMER3100)を使用した(本件特許明細書の)実施例の試料9に記載されていると判断すべきものである」。仮に,ACUMER3100の非イオン性基が置換アクリルアミドであったとしても,その置換アクリルアミド部分を,アクリルアミドとビニル基を有する点で共通するビニルエステル又は酢酸ビニルに置き換えても,同様の効果を奏することを容易に理解すること を主張するので,以下,検討する。 (ア)本件特許明細書の【0004】には,「臭素系酸化剤はアニオン性ポリマーと組み合わせて適用することが困難と考えられていた」との記載はあるが,そのような主張を裏付ける文献名等を具体的に挙げるものではなく,逆に,塩素系酸化剤と臭素系酸化剤とは,ハロゲン系酸化剤として同等のものとして広く認識されていることを踏まえれば,甲第5号証の塩素系酸化剤を臭素系酸化剤に置き換えることを妨げるものがあると直ちに認めることができない。 また,本件特許明細書の実施例で,濁りが生じるものであっても48時間後に高い殺菌活性を示す試料も存在することが示されているように,組成物に濁りがあることが,斯かる組成物に殺菌効果がないことを必ずしも意味するものではないから,スライム防止を目的に組成物を得ようとする当業者にとって,組成物が濁りを生じるものであったとしても,斯かる組成物のスライム防止効果を確認することは当然に行う事項に過ぎないものと認める。したがって,仮に,臭素系酸化剤とアニオン性ポリマーとを組み合わせたことによって濁りが発生することが知られていたとしても,アニオン性ポリマーが含まれている組成物において使用されている塩素系酸化剤を臭素系酸化剤に置き換え,そのスライム防止効果を確認することを妨げることになるものとすることはできない。 そうしてみると,特許権者の主張を採用することはできない。 (イ)ACUMER3100の第三の成分の構造は不明であって,それが「非イオン性基を含む成分」であって「ビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種」であるものとは直ちに認められないこと;本件特許明細書の実施例で試料9として記載されているものの効果をもって,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」を使用した場合の殺菌効果を示すものと解することはできないことは,前記ウのとおりである。 そして,殺菌剤の技術分野において,三元共重合体を構成する成分の一つを異なる成分に替えた場合には,替える前のものと同等の殺菌効果を奏することが技術常識であるとは認めることができないし,仮に,置き換える成分の構造が置き換えられる前の成分の構造に極めて類似する場合には,同等の効果を奏することがあったとしても,特許権者の主張するように,ビニル基を共通して有することのみをもって,置き換えの前後で同様の殺菌効果を奏するものと直ちに解することはできない。 なお,ローム・アンド・ハース社のACUMER3100は,本件出願前に頒布されたことが明らかな米国特許出願公開第2007/0120094号明細書[0093]に記載されているように,「アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/ターシャリーブチルアクリルアミド三元共重合体」と表現される化合物である(異議申立人が平成29年9月20日付けで提出した意見書)から,非イオン性基を含む成分がビニルエステルや酢酸ビニルでないことは明らかである。 そうしてみると,特許権者の主張を採用することはできない。 (3-2)本件発明3に対して 甲5発明において,「該組成物の総重量に対し,(b)1.5-9重量%のスルファミン酸,(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種」であることは,本件発明3の「該組成物の総重量に対し,1?10重量%の前記スルファミン酸化合物,1?20重量%の水酸化物,及び0.5?20重量%の前記化合物を含む」ことに相当する。 そうすると,本件発明3と甲5発明は, 「ハロゲン系酸化剤, スルファミン酸化合物,並びに アニオン性ポリマーを含む,スライム防止用組成物。」であって, 「該組成物の総重量に対し,1?10重量%の前記スルファミン酸化合物,1?20重量%の水酸化物,及び0.5?20重量%の前記化合物を含む」点で一致し,以下の点で相違する。 (5-i)ハロゲン系酸化剤が, 本件発明3では,「臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤」であるのに対して, 甲5発明では,「塩素系酸化剤」である点。 (5-ii)「アニオン性ポリマー」が本件発明3では,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」であるのに対して, 甲5発明では,「ポリマレイン酸,ポリアクリル酸,アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとの共重合物,アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオンポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種」である点。 (5-iii)本件発明3は,「臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤」であって「12以上のpHを有し,且つ有効臭素含有量1?8重量%の前記臭素系酸化剤を含む」のに対して, 甲5発明では,「塩素系酸化剤」であって「12以上のpHを有し,かつ該組成物の総重量に対し,(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム」である点。 そして,上記(3-1)で述べたとおり,甲5発明において,相違点(5-i),相違点(5-ii)を構成することは当業者が容易になし得たことであり,相違点(5-i)に係る次亜塩素酸ナトリウムを次亜臭素酸ナトリウムに代える場合において,そのpHや有効ハロゲン含有量について,その効力を発揮するために,次亜塩素酸ナトリウムにおける範囲を参考に適切な範囲を設定することは当業者が当然行う設計事項であるから,次亜臭素酸ナトリウムを使用して,「12以上のpHを有し,且つ有効臭素含有量1?8重量%の前記臭素系酸化剤を含む」ように設定することも当業者が容易になし得たことと認められる。 (4)小括 以上のとおり,本件発明1,3は,本件出願前に頒布された刊行物である甲第5,6,17,18号証に記載された発明に基いて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.当審取消理由5’について (1)特許法第36条第6項第1号の解釈について 特許法第36条第6項は,「第二項の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 以下,この観点に立って,判断する。 (2)特許請求の範囲の記載について 本件の特許請求の範囲の記載は,上記「第3」で示したとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。 (a)「【0005】 本発明の目的は,高いpHを有する被処理水に対しても高い殺菌効果を有し,冷却水系等におけるスライム障害をより確実に防止できるスライム防止用組成物を提供することにある。」 (b)「【0006】 本発明のスライム防止用組成物における第1特徴構成は,臭素,次亜臭素酸塩,亜臭素酸塩,及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤,スルファミン酸化合物,並びに,ポリアクリル酸ナトリウム,2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のモノエタノールアミンとの塩,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のジエタノールアミンとの塩,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体のトリエタノールアミンとの塩,及び,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩であって,前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種のである三元共重合体もしくはその塩,からなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む点にある。 【0007】 〔作用及び効果〕 本構成によれば,臭素系酸化剤は,高いpHを有する被処理水に対しても高い殺菌効果を有するため,例えば,開放循環冷却水系等で使用される高pH水におけるスライム障害を防止することができる。また,上記アニオン性高分子を使用することによって,スライムに対する浸透力が高められ,より確実にスライム障害を防止することができる。」 (c)「【0023】 より好適なアニオン性高分子としては,ポリアクリル酸ナトリウム,及びカルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩を挙げることができる。これらのアニオン性高分子の一つを単独で用いても良いし,あるいは,2つ以上を組み合わせて用いても良い。これらのアニオン性高分子を使用したスライム防止用組成物は,他のアニオン性高分子を使用したスライム防止用組成物と比べて,保存安定性が良い。 【0024】 最も好適なアニオン性高分子としては,カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩を使用することが望ましい。当該三元共重合体もしくはその塩を使用したスライム防止用組成物の保存安定性は,ポリアクリル酸ナトリウムを使用したスライム防止用組成物よりもさらに優れる。」 (d)「【0041】 (殺菌効果比較試験) 上記試料1?9、11?19について,殺菌効果の比較を行った。 草津市水を用いて120mS/mまで空調用冷却塔で濃縮させた冷却水を採取し,細菌数が1mL当たり1.0×10^(5)個の冷却水を試験水として用いた。 【0042】 上記冷却水を50mLの三角フラスコに30mL分取し,有効ハロゲン濃度が5ppmになるように上記試料1?9、11?19を添加し,37℃,50rpmで振とう培養し,24時間後,及び48時間後の一般細菌数(個/mL)をそれぞれ測定した。結果を以下の表3に示す。 【0043】 【0044】 表3に示すように,本発明に係る試料1?9は,比較例の試料11?19と比べて,より高い殺菌効果を有することが分かる。」 (4)本件発明が解決しようとする課題について 発明の詳細な説明の記載(摘記a参照)からみて,本件発明1が解決しようとする課題は,「高いpHを有する被処理水に対しても高い殺菌効果を有し,冷却水系等におけるスライム障害をより確実に防止できるスライム防止用組成物を提供することにある」ものと認められるが,その「高い殺菌効果」については,本件発明1の化合物に対応するものが試料6(2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸)であり,いずれも,表3に示される殺菌効果が48時間後に一般細菌数が「0」になっているのに対して,本件発明1の対象外となっている試料1,3,5,7,8については48時間後に一般細菌数が「0」になっていないこと,特許権者は,平成29年3月3日付けの意見書において,本件発明1によれば,少なくとも使用後48時間後には細菌を全滅させることが可能な優れた殺菌効果を有するスライム防止用組成物を提供することができる旨述べていることを踏まえれば,試料6と同様の殺菌効果を奏するもの(本実施例の殺菌試験において48時間後に一般細菌数が「0」になっているもの)を意味するものと解される。 (5)判断 発明の詳細な説明には,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」として,ローム・アンド・ハース社のACUMER3100を使用した実施例が記載され,48時間後の一般細菌数が「0」」となっている(摘記d参照)ので,ローム・アンド・ハース社のACUMER3100を使用することにより,上記の「高い殺菌効果」を奏することが当業者に理解できるものといえる。 その一方,発明の詳細な説明には,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」ではあるが,本件発明1の「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」を用いた具体的な実施態様は記載されていない(上記の1.(3-1)ウ)。 すなわち,実施例3の試料9で使用されている,ローム・アンド・ハース社のACUMER3100は,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」として記載されているに留まっていて,斯かる化合物は,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体」ではあるものの,前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルでも酢酸ビニルであるとは認めることができない。(なお,上記1.(3-1)エ(イ)で示したように,ACUMER3100は,アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とアルキルアクリルアミドのアクリル酸系三元共重合体であるとすべきものである。) そして,本件特許明細書の表3をみると,アクリル酸と2-アクリルアミド2-メチル-プロパンスルホン酸共重合物(試料4)とアクリル酸と2-アクリルアミド2-メチル-プロパンスルホン酸共重合物・ジ亜リン酸ナトリウム付加物重合物(試料5)は,重合モノマー成分が一成分異なるだけで,殺菌効果に差が生じていること(摘記d参照),また,同じカルボキシル基を有するポリマーであっても,ポリマレイン酸(試料1)と,ナトリウム塩であるポリアクリル酸ナトリウム(試料2)とは殺菌効果に差が生じていること(摘記d参照)からすれば,上記1.(3-1)ウで示したように,「カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体」であれば,ローム・アンド・ハース社のACUMER3100と同様の殺菌効果を奏すると当業者が理解できるとはいえない。 したがって,発明の詳細な説明には,本件発明1について,その課題が解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。 本件発明1を引用する本件発明3についても,同様に,その課題が解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。 (6)小括 以上のとおり,本件の特許請求の範囲の請求項1,3に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,本件発明1,3に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。 また,本件発明1,3に係る特許は,特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 本件の請求項2に係る発明の特許は,訂正により削除されたため,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 スライム防止用組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、冷却水系等におけるスライム障害を防止するためのスライム防止用組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 従来のスライム防止用組成物としては、例えば、以下の特許文献1に記載されるものを挙げることができる。この文献に記載されるスライム防止用組成物は、酸化性抗菌剤としての塩素系酸化剤と、スルファミン酸化合物と、アニオン系ポリマーとを含んでおり、塩素系酸化剤が安定でスライムに対する浸透力が強いため、細菌や藻類などのスライムを構成する微生物に対して高い殺菌効果を発揮し得る。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特許第4524797号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、特許文献1に記載のスライム防止用組成物に使用される塩素系酸化剤は、比較的高いpH(およそpH>8)を有する水(例えば、開放循環冷却水系など)に対する殺菌効果が弱く、そのような高pH水の中に存在する藻類やレジオネラ属菌などの浮遊細菌を必ずしも十分に殺菌し得るものではなかった。尚、次亜臭素酸塩等の臭素系酸化剤が高pH水においても高い殺菌効果を有することについては以前から知られていた。しかし、臭素系酸化剤はアニオン性ポリマーと組み合わせて適用することが困難であると考えられていたためこれまで使用されていなかった。 【0005】 本発明の目的は、高いpHを有する被処理水に対しても高い殺菌効果を有し、冷却水系等におけるスライム障害をより確実に防止できるスライム防止用組成物を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明のスライム防止用組成物における第1特徴構成は、臭素、次亜臭素酸塩、亜臭素酸塩、及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤、スルファミン酸化合物、並びに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、及び、カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む点にある。 【0007】 〔作用及び効果〕 本構成によれば、臭素系酸化剤は、高いpHを有する被処理水に対しても高い殺菌効果を有するため、例えば、開放循環冷却水系等で使用される高pH水におけるスライム障害を防止することができる。また、上記化合物を使用することによって、スライムに対する浸透力が高められ、より確実にスライム障害を防止することができる。 【0008】 (削除) 【0009】 (削除) 【0010】 第3特徴構成は、スライム防止用組成物が、12以上のpHを有し、且つ該組成物の総重量に対し、有効臭素含有量1?8重量%の前記臭素系酸化剤、1?10重量%の前記スルファミン酸化合物、1?20重量%の水酸化物、及び0.5?20重量%の前記化合物を含む点にある。 【0011】 〔作用及び効果〕 pHを12以上とすることで保存安定性と浮遊細菌に対する殺菌効果がさらに向上し、より確実にスライム障害を防止することができる。 【発明を実施するための形態】 【0012】 [実施形態] 以下、本発明の実施の形態を説明する。 本発明のスライム防止用組成物は、酸化性抗菌剤としての臭素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアニオン性高分子を含有する。また本発明のスライム防止用組成物には、pH調整剤、添加剤、純水等を適宜含ませるようにしても良い。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等の水酸化物が挙げられる。添加剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等の防錆剤が挙げられる。またさらに本発明のスライム防止用組成物には、臭化ナトリウムのような臭化物、塩化ナトリウムのような塩化物、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸イオン、次亜ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸イオン等が含まれていても良い。 【0013】 〔臭素系酸化物〕 本発明に適用可能な臭素系酸化剤としては、例えば、臭素、次亜臭素酸塩、亜臭素酸塩、臭素酸塩などを挙げることができる。 【0014】 次亜臭素酸塩としては、例えば、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウムなどの次亜臭素酸アルカリ金属塩、次亜臭素酸カルシウム、次亜臭素酸バリウムなどの次亜臭素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。 【0015】 亜臭素酸塩としては、例えば、亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸カリウムなどの亜臭素酸アルカリ金属塩、亜臭素酸バリウムなどの亜臭素酸アルカリ土類金属塩、亜臭素酸ニッケルなどの他の亜臭素酸金属塩などを挙げることができる。 【0016】 臭素酸塩としては、例えば、臭素酸アンモニウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどの臭素酸アルカリ金属塩、臭素酸カルシウム、臭素酸バリウムなどの臭素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。 【0017】 上述の臭素系酸化剤の一つを単独で用いても良いし、あるいは、2つ以上を組み合わせて用いても良い。尚、これらの臭素系酸化剤の中で、次亜臭素酸塩は取り扱いが容易であるため、より好適に用いることができる。 【0018】 尚、本明細書中において、有効臭素とは、殺菌効果のある、臭素(Br_(2))、次亜臭素酸(HBrO)、次亜臭素酸イオン(BrO^(-))、亜臭素酸(HBrO_(2))、亜臭素酸イオン(BrO_(2)^(-))、臭素酸(HBrO_(3))、臭素酸イオン(BrO_(3)^(-))等を意味する。また、有効臭素含有量とは、本発明のスライム防止用組成物の総重量に対して、有効臭素に係る臭素の量を、重量%で表したものと定義する。 【0019】 〔スルファミン酸化合物〕 本発明に適用可能なスルファミン酸化合物は、以下の一般式[1]で表される化合物またはその塩である。 【0020】 【化1】 【0021】 ただし、上記一般式[1]において、R^(1)及びR^(2)は、水素又は炭素数1?8の炭化水素基である。このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、R^(1)とR^(2)がともに水素であるスルファミン酸のほかに、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に適用可能なスルファミン酸化合物のうち、当該化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩、アンモニウム塩及びグアニジン塩などを挙げることができる。 【0022】 〔アニオン性高分子〕 本発明に適用可能なアニオン性高分子としては、例えば、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸ナトリウム、マレイン酸とアクリル酸アルキルビニルアセテート共重合物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物・次亜リン酸ナトリウム付加重合物、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1,ジホスホン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩等を挙げることができる。これらのアニオン性高分子の一つを単独で用いても良いし、あるいは、2つ以上を組み合わせて用いても良い。 【0023】 より好適なアニオン性高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウム、及びカルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩を挙げることができる。これらのアニオン性高分子の一つを単独で用いても良いし、あるいは、2つ以上を組み合わせて用いても良い。これらのアニオン性高分子を使用したスライム防止用組成物は、他のアニオン性高分子を使用したスライム防止用組成物と比べて、保存安定性が良い。 【0024】 最も好適なアニオン性高分子としては、カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体もしくはその塩を使用することが望ましい。当該三元共重合体もしくはその塩を使用したスライム防止用組成物の保存安定性は、ポリアクリル酸ナトリウムを使用したスライム防止用組成物よりもさらに優れる。 【0025】 尚、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物・次亜リン酸ナトリウム付加重合物とは、以下の化学構造式で表される化合物である。 【0026】 【化2】 【0027】 また、カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体とは、カルボキシル基を含む第1成分が、(メタ)アクリル酸であり、スルホン基を含む第2成分が、アリールスルホネート、アクリルアミドスルホネート、アクリルアミドアリールスルホネート、および、2ーアクリルアミドー2ーメチルプロパンスルホン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、非イオン性基を含む第3成分が、ビニルエステル、酢酸ビニル、および、置換アクリルアミドから成る群から選ばれた少なくとも一種であるものを意味する。当該三元共重合体は、第1成分を10?84重量部、第2成分を11?40重量部、第3成分を5?50重量部含有する水溶性重合体である。また、当該三元共重合体の塩とは、ナトリウム、カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アンモニウム等との塩を意味する。 【0028】 また、被処理水中のアニオン性高分子の濃度は固形分として、1mg/L以上、好ましくは3mg/L以上である。 【0029】 〔スライム防止用組成物の剤型〕 本発明のスライム防止用組成物の剤型に特に制限はなく、例えば、臭素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアニオン性高分子を全て含む1液型薬剤としても良いし、あるいは、これらの成分を2液に分けた2液型薬剤としても良い。2液型薬剤としては、例えば、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物を含むA成分と、アニオン性高分子を含むB成分とからなる2液型薬剤などを挙げることができる。 【0030】 本発明のスライム防止用組成物の1液型薬剤の一態様としては、例えば、該組成物のpHが12以上であり、且つ該組成物の総重量に対し、有効臭素含有量1?8重量%の臭素系酸化剤、1?10重量%のスルファミン酸化合物、1?20重量%の水酸化物、及び0.5?20重量%のアニオン性高分子を含むものが挙げられる。また特に、スライム防止用組成物のpHが12以上であり、且つ該組成物の総重量に対し、有効臭素含有量3?5重量%の臭素系酸化剤、5?10重量%のスルファミン酸化合物、8?12重量%の水酸化物、及び5?15重量%のアニオン性高分子を含むものについては、保存安定性がより向上するため好適である。尚、臭素系酸化剤としては、次亜塩素酸塩と臭化物とを混合して得られる次亜臭素酸塩が好適である。 【0031】 本発明のスライム防止用組成物の2液型薬剤の一態様としては、該組成物がA成分及びB成分の2成分からなり、成分Aが該組成物の総重量に対し、有効臭素含有量1?8重量%の臭素系酸化剤、1?8重量%のスルファミン酸化合物、及び1?20重量%の水酸化物を含有し、B成分が該組成物の総重量に対し1?20重量%のアニオン性高分子を含有し、成分AのpHが12以上であるものが挙げられる。また特に、成分Aがスライム防止用組成物の総重量に対し、有効臭素含有量3?5重量%の臭素系酸化剤、5?10重量%のスルファミン酸化合物、及び8?12重量%の水酸化物を含有し、B成分が該組成物の総重量に対し10?20重量%のアニオン性高分子を含有し、且つ成分AのpHが12以上であるものについては、A成分の保存安定性がより向上し、且つB成分の被処理水への適下量を抑制できるため好適である。尚、臭素系酸化剤としては、次亜塩素酸塩と臭化物とを混合して得られる次亜臭素酸塩が好適である。 【0032】 〔適用可能な被処理水〕 本発明のスライム防止用組成物を適用可能な被処理水としては、特に限定されるものでなく、蓄熱水系、紙パルプ工程水系、集塵水系、スクラバー水系等、種々の水系において使用可能である。また、被処理水のpHについても特に限定されるものではないが、本発明のスライム防止用組成物は、pHが約8?10という、比較的高いpHを有する被処理水に対しても使用することが可能であり、例えば、pH8?9を有する開放循環冷却水系等で好適に使用することができる。 【実施例】 【0033】 以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。 【0034】 (安定性試験) 12重量%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量%と、臭化ナトリウム7.5重量%とを混合して調製した次亜臭素酸ナトリウム水溶液47.5重量%(有効臭素含有量は組成物総重量の4.8重量%)、スルファミン酸8重量%、各種アニオン性高分子10重量%、ベンゾトリアゾール1重量%、25重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液32重量%、純水1.5重量%を配合して本発明のスライム防止用組成物に係る試料1?9を調製した。 【0035】 また、比較例として、臭素系酸化剤の替わりに塩素系酸化剤を含む試料11?19を、上記試料1?9と同様に調製した。即ち、12重量%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量%と、スルファミン酸8重量%、各種アニオン性高分子10重量%、ベンゾトリアゾール1重量%、25重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液32重量%、純水9重量%を配合して試料11?19を調製した。 【0036】 尚、試料1?9、11?19のそれぞれに使用したアニオン性高分子は以下の表1の通りである。 【0037】 【表1-1】 【表1-2】 【0038】 試料1?9、11?19を遮光して、20℃及び50℃の恒温槽内で静置保存し、10日後、20日後、30日後のそれぞれの残留ハロゲン濃度を測定し、残存率(%)を計算した。残留ハロゲン濃度は、東西化学産業株式会社製のデジタル水質管理計オンサイトラボの残留塩素測定法であるSBT法並びに専用試薬を使用した。実施例の試料1?9に関する測定結果を以下の表2に示す。尚、濁りが生じた試料については、残留ハロゲン濃度を測定しなかった。 【0039】 【表2】 【0040】 表2に示すように、試料1、3?8の試料は、実験を開始して10日までに濁りが発生した。試料2、9については、実験を開始して30日を経過した後も濁りは発生せず安定であり、特に試料9の安定性が高かった。尚、比較例の試料11?19についてはいずれも、実験を開始して30日を経過した後も濁りは発生せず安定であった。 【0041】 (殺菌効果比較試験) 上記試料1?9、11?19について、殺菌効果の比較を行った。 草津市水を用いて120mS/mまで空調用冷却塔で濃縮させた冷却水を採取し、細菌数が1mL当たり1.0×10^(5)個の冷却水を試験水として用いた。 【0042】 上記冷却水を50mLの三角フラスコに30mL分取し、有効ハロゲン濃度が5ppmになるように上記試料1?9、11?19を添加し、37℃、50rpmで振とう培養し、24時間後、及び48時間後の一般細菌数(個/mL)をそれぞれ測定した。結果を以下の表3に示す。 【0043】 【表3】 【0044】 表3に示すように、本発明に係る試料1?9は、比較例の試料11?19と比べて、より高い殺菌効果を有することが分かる。 【産業上の利用可能性】 【0045】 本発明は、比較的高いpHを有する水を使用する冷却水系、蓄熱水系、紙パルプ工程水系、集塵水系、スクラバー水系等におけるスライム発生防止に好適に利用することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 臭素、次亜臭素酸塩、亜臭素酸塩、及び臭素酸塩からなる群から少なくとも一つ選択される臭素系酸化剤、 スルファミン酸化合物、並びに、 2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、及び、カルボキシル基とスルホン基と非イオン性基を持つ三元共重合体であって前記非イオン性基を含む成分がビニルエステルと酢酸ビニルとから成る群から選ばれる少なくとも1種である三元共重合体からなる群より少なくとも一つ選択される化合物を含む、スライム防止用組成物。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 スライム防止用組成物が、12以上のpHを有し、且つ該組成物の総重量に対し、有効臭素含有量1?8重量%の前記臭素系酸化剤、1?10重量%の前記スルファミン酸化合物、1?20重量%の水酸化物、及び0.5?20重量%の前記化合物を含む請求項1に記載のスライム防止用組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-10-20 |
出願番号 | 特願2014-107073(P2014-107073) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(A01N)
P 1 651・ 537- ZAA (A01N) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中島 芳人 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
加藤 幹 守安 智 |
登録日 | 2015-10-30 |
登録番号 | 特許第5829309号(P5829309) |
権利者 | 東西化学産業株式会社 |
発明の名称 | スライム防止用組成物 |
代理人 | 特許業務法人R&C |
代理人 | 特許業務法人R&C |