• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
審判 全部申し立て 産業上利用性  F25B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F25B
管理番号 1337015
異議申立番号 異議2016-700933  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-30 
確定日 2017-12-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5895328号発明「極低温冷却装置及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5895328号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11、24〕、〔12?23〕について訂正することを認める。 特許第5895328号の請求項1ないし2、4ないし24に係る特許を維持する。 特許第5895328号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5895328号の請求項1?24に係る特許についての出願は、2012年8月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年8月11日)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月11日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人ブルーフォース クライオジェニクス オイ リミテッドより特許異議の申立てがされ、平成29年1月23日付けで取消理由が通知され、平成29年4月25日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年6月28日に特許異議申立人から意見書の提出がされ、平成29年8月30日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年11月24日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
平成29年11月24日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5895328号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正請求書の請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?24について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「前記作動流体が完全にガス状にし」とあるのを、「前記作動流体を完全にガス状にし」に訂正し、「高温配置場所から前記標的領域に移動させる」とあるのを、「高温配置場所から前記高温配置場所よりも温度が低い前記標的領域に移動させる」に訂正し、「機械式冷凍機を用いて」とあるのを、「GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を用いて」に訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項5に「前記希釈冷凍機戻る」とあるのを、「前記希釈冷凍機へ戻る」に訂正する。
(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項7に「前記作動流体を高温状態で」とあるのを、「前記作動流体を加熱されガス状にされた高温状態で」に訂正する。
(訂正事項5)
特許請求の範囲の請求項8に「前記高温配置場所は、周囲環境内に位置している」とあるのを、「前記高温配置場所は、前記標的領域の外部の周囲環境内に位置している」に訂正する。
(訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項12に「冷却する機械式冷凍機を含む」とあるのを、「冷却する、GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を含む」に訂正し、「前記作動流体が完全にガス状にし」とあるのを、「前記作動流体を完全にガス状にし」に訂正する。
(訂正事項7)
特許請求の範囲の請求項15に「連結可能であり、前記冷却用流体は、前記作動流体である」とあるのを、「連結可能である」に訂正する。
(訂正事項8)
特許請求の範囲の請求項20に「外部の場所から前記標的位置まで」とあるのを、「前記標的領域の外部の場所から前記標的領域まで」に訂正する。
(訂正事項9)
特許請求の範囲の請求項24に「前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)を実施するようになったプログラムコード手段」とあるのを、「前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)をコントローラに実施させるようになったプログラムコード手段」に訂正する。
(訂正事項10)
請求項4に「請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1又は2に記載の方法」に訂正する。
請求項5に「請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項6に「請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2、4及び5の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項8に「請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4乃至7の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項9に「請求項1乃至8の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4乃至8の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項10に「請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4乃至9の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項11に「請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4乃至10の何れか1項に記載の方法」に訂正する。
請求項24に「請求項1乃至11の何れか1項に記載の方法」とあるのを、「請求項1、2及び4乃至11の何れか1項に記載の方法」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体が完全にガス状にし」と、液体である作動流体を加熱した結果、当該作動流体が完全にガス状にするとの誤記について、完全にガス状にする対象が当該作動流体であることは前後の文脈から明らかであるところ、その誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
また、標的領域について、「前記高温配置場所よりも温度が低い前記標的領域」であることを特定し、高温配置場所が標的領域以外の標的領域より温度の高い場所であることを特定するものであり、さらに、機械式冷凍機について、「GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0049】に「スチル14及び混合チャンバ18の各々に設けられたヒータ(図1には示されていない)を作動させて希釈冷凍機15を温め、それにより希釈冷凍機15内のヘリウム同位体混合物の蒸発を生じさせる。第2の冷却回路内の弁により、ガスは、外部貯蔵容器32中に抜けることができる。」、段落【0015】に「クライオスタット内の低温及び低圧環境は、外部環境と著しい対照をなす条件を提供する。第1の温度は、代表的には、機械式冷凍機の最も低温の段の基準温度であり、かかる温度の代表的な例は、3?4Kである。第2の温度は、代表的には、希釈冷凍機を用いて達成できるに過ぎず、数ミリケルビンであると言える。ステップ(b)で言及される高温場所は、代表的には、約293?298ケルビンの温度を有する周囲環境である。理解されるように、かかる周囲環境も又、代表的には、大気圧の状態にあり、その結果、サンプルは、周囲条件下で標的装置内に装填可能である。」、及び段落【0025】に「代表的には、かかるクライオジェンフリーシステム内の一次冷却は、機械式冷凍機、例えばGM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機(PTR)によって提供される。」と記載されているから、願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、訂正前の請求項5の「前記希釈冷凍機戻る」が誤記していることが明らかであるところ、当該誤記を「前記希釈冷凍機へ戻る」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、請求項5が引用する請求項1に「(d)前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻す」と記載されているから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
上記訂正事項4は、作動流体の高温状態について、高温状態とはどのような状態であるのか明確でなかったものを「加熱されガス状にされた高温状態」へと明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0049】、【0050】に「スチル14及び混合チャンバ18の各々に設けられたヒータ(図1には示されていない)を作動させて希釈冷凍機15を温め、それにより希釈冷凍機15内のヘリウム同位体混合物の蒸発を生じさせる。第2の冷却回路内の弁により、ガスは、外部貯蔵容器32中に抜けることができる。」、「希釈冷凍機15内の作動冷却剤のうちの何割かが依然として液体として留まっている間、蒸発プロセスの速度を上げるために、ステップ104において、コントローラ38は、冷却ライン31内の弁及びポンプ34を作動させて容器32からのヘリウムガス混合物(これは、希釈冷凍機15から受け取ったガス混合物である)を予備冷却システム中に供給する。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
上記訂正事項5は、訂正前の請求項8の「前記高温配置場所は、周囲環境内に位置している」が、「周囲」とは何の周囲であるのか明確でないところ、「前記標的領域外の周囲環境」であると明確とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0015】に「ステップ(b)で言及される高温場所は、代表的には、約293?298ケルビンの温度を有する周囲環境である。理解されるように、かかる周囲環境も又、代表的には、大気圧の状態にあり、その結果、サンプルは、周囲条件下で標的装置内に装填可能である。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
上記訂正事項6は、請求項12の機械式冷凍機について、「GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の「液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体が完全にガス状にし」と、液体である作動流体を加熱した結果、当該作動流体が完全にガス状にするとの誤記について、完全にガス状にする対象が当該作動流体であることは前後の文脈から明らかであるところ、その誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項6は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6は、本件特許明細書の段落【0049】に「スチル14及び混合チャンバ18の各々に設けられたヒータ(図1には示されていない)を作動させて希釈冷凍機15を温め、それにより希釈冷凍機15内のヘリウム同位体混合物の蒸発を生じさせる。第2の冷却回路内の弁により、ガスは、外部貯蔵容器32中に抜けることができる。」、及び段落【0025】に「代表的には、かかるクライオジェンフリーシステム内の一次冷却は、機械式冷凍機、例えばGM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機(PTR)によって提供される。」と記載されているから、願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
上記訂正事項7は、訂正前の請求項15の「連結可能であり、前記冷却用流体は、前記作動流体である」との記載が、請求項15が引用する請求項14及び請求項14が引用する請求項12又は13に「冷却用作動流体」が記載されておらず、不明瞭であるのを、「前記冷却用流体は、前記作動流体である」との記載を削除し、明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項7は、上記アのとおりであり、請求項15が引用する請求項14に「作動流体」を用いて冷却することが特定されているから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項7は、上記アのとおり「前記冷却用流体は、前記作動流体である」との記載を削除したものであり、請求項15が引用する請求項14に「作動流体」を用いて冷却することが特定されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
上記訂正事項8は、「外部の場所」が何の外部であるのか不明瞭であったところ、「前記標的領域の外部の場所」と特定することで明確とするものであり、また、訂正前の「前記標的位置」がそれ以前に「標的位置」の記載がなく不明瞭であったところ、用語を統一して「前記標的領域」とすることで明確とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項8は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項8は、本件特許明細書の段落【0024】に「システムの別の有利な特徴は、システムがサンプルと通信するための電気的及び光学的通信線のうちの一方又は各々を含む場合に提供できる。これら通信線は、標的装置の存否とは無関係に標的装置内に固定され、通信線は、外部の場所(例えば、制御システム)から標的位置まで提供されている。」、段落【0042】に「図1に戻ってこれを参照すると、クライオスタット内の段相互間に設けられた配線が符号27で示されており、これは、特に、孔25から離れており、それによりコネクタ21への電気的接続(幾つかの場合、光学的接続又は電気的接続と光学的接続の組み合わせ)をもたらしている。」、及び図1にクライオスタット1外の制御システム38からドッキングステーション20に配線27が接続されている点が記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
上記訂正事項9は、訂正前の請求項24の「前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)を実施するようになったプログラムコード手段」がプログラム自体であるのか、制御手段であるのか等不明瞭であったところ、「前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)をコントローラに実施させるようになったプログラムコード手段」と明確とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項9は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9は、本件特許明細書の段落【0049】に「ステップ103において、システムコントローラ38は、スチル14及び混合チャンバ18の各々に設けられたヒータ(図1には示されていない)を作動させて希釈冷凍機15を温め、それにより希釈冷凍機15内のヘリウム同位体混合物の蒸発を生じさせる。」、段落【0057】に「この場合、コントローラ38は、予備冷却システムを作動させる。予備冷却回路内のポンプ34は、ヘリウム3/4混合物を冷却ライン31及び戻りライン33から循環させてポンプ34を通って戻し、そして再び閉回路内の冷却ライン31に流入させるよう作動される。」、及び段落【0059】に「コントローラ38は、ポンプ37及び関連の弁を作動させて希釈冷凍機にヘリウム3/4混合物の所定の「チャージ」を充填する(ステップ111)。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的
上記訂正事項10は、上記訂正事項2の請求項3の削除に伴い、訂正前の請求項4?6、8?11及び24が択一的に引用する請求項の中から請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11、24〕、〔12?23〕についての訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?24に係る発明(以下「本件発明1?24」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?24に記載された以下の事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
サンプルを受け入れる標的領域を、作動流体を収容している希釈冷凍機によって冷却する極低温冷却システムの作動方法であって、前記方法は、
(a)液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、その後、作動流体を前記希釈冷凍機から除去するステップと、
(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップと、
(c)GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却するステップと、
(d)前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻すステップと、
(e)前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却するステップと、
を含み、これらのステップ(a)?(e)の順序で実行する、方法。
【請求項2】
前記希釈冷凍機は、スチル及び混合チャンバを有し、これらのスチル及び混合チャンバの各々がヒーターを備え、前記ステップ(a)が、これらの各ヒーターを作動させるステップを備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記標的装置を前記標的領域内に位置決めする前記ステップは、前記標的装置を熱伝導性部材に取り付け、前記熱伝導性部材を用いて前記標的装置の熱伝導による冷却を行うステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(c)は、前記作動流体が前記機械式冷凍機及び前記標的領域と熱的接触関係をなして配置された予備冷却回路内で流れるようにするステップを含み、前記ステップd)において、前記作動流体が予備冷却回路から除去されると共に前記希釈冷凍機へ戻る、請求項1、2及び4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)は、前記希釈冷凍機の作動流体を空にするステップを含む、請求項1、2、4及び5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)中、前記作動流体を加熱されガス状にされた高温状態で前記予備冷却回路中に提供して前記標的領域を加熱するステップを更に含む、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記高温配置場所は、前記標的領域の外部の周囲環境内に位置している、請求項1、2及び4乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(d)に先立って、前記希釈冷凍機の温度は、約10ケルビン以下である、請求項1、2及び4乃至8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)において、前記標的装置を前記標的装置が装填組立体に取り付けられたままの状態で前記標的領域に移動させ、前記標的領域内にいったん配置されると、前記標的装置を前記装填組立体から解除し、前記装填組立体を引っ込める、請求項1、2及び4乃至9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)は、制御システムの制御下で自動的に実施される、請求項1、2及び4乃至10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
極低温冷却システムであって、
作動流体を用いて標的領域を冷却するよう構成された希釈冷凍機を含み、サンプルを含む標的装置が使用中、前記標的領域内に配置され、
前記標的装置を前記標的領域内で冷却する、GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を含む予備冷却システムを含み、
使用中、液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、前記作動流体を前記標的装置が前記標的領域のところに受け入れられる前に前記希釈冷凍機から除去し、前記予備冷却システムを作動させて前記機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却し、前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻し、前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で、前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却するようになった制御システムを含む、極低温冷却システム。
【請求項13】
作動冷却剤を貯蔵する貯蔵容器を更に含み、前記貯蔵容器は、前記希釈冷凍機に選択的に連結可能である、請求項12記載の極低温冷却システム。
【請求項14】
前記予備冷却システムは、前記作動流体を前記機械式冷凍機と前記標的領域のところの前記標的装置との間に供給するよう構成された予備冷却回路を含み、前記制御システムは、前記作動流体を前記予備冷却回路に供給してこの予備冷却回路を予備冷却し、その後、この作動流体を前記予備冷却回路から前記希釈冷凍機に戻して前記希釈冷凍機を作動させる、請求項12又は13記載の極低温冷却システム。
【請求項15】
前記貯蔵容器は、前記予備冷却システムに選択的に連結可能である、請求項14記載の極低温冷却システム。
【請求項16】
前記作動流体は、ヘリウム-3とヘリウム-4の混合物である、請求項12乃至15の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項17】
前記機械式冷凍機及び前記希釈冷凍機が部分的に結合される複数の空間的に配置された段を更に含む、請求項12乃至16の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項18】
前記複数の段のうちの1つ又は2つ以上は、前記標的装置を受け入れる孔を有し、前記1つ又は2つ以上の孔は、前記標的装置を挿通させるボアを構成している、請求項17記載の極低温冷却システム。
【請求項19】
前記孔のうちの少なくとも1つは、前記孔に接近可能な開放位置と前記孔が閉じられる閉鎖位置との間で動くことができるバッフルを備えている、請求項18記載の極低温冷却システム。
【請求項20】
前記サンプルと通信するための電気的及び光学的通信線のうちの一方又は各々を更に含み、前記通信線は、前記標的装置の存否とは無関係に前記標的装置内に固定され、前記通信線は、前記標的領域の外部の場所から前記標的領域まで提供されている、請求項12乃至19の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項21】
前記通信線は、前記1つ又は2つ以上の孔のうちのどれも通過していない、請求項18に従属した請求項20記載の極低温冷却システム。
【請求項22】
前記極低温冷却システムは、クライオジェンフリーシステムから成る、請求項12乃至21の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項23】
前記希釈冷凍機は、スチル及び混合チャンバを有し、これらのスチル及び混合チャンバの各々がヒーターを備え、前記制御システムが、これらの各ヒーターを作動させて前記作動流体を完全にガス状にする、請求項12乃至22の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項24】
使用中、請求項1、2及び4乃至11の何れか1項に記載の方法の前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)をコントローラに実施させるようになったプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品。」


第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
平成29年1月23日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
ア 特許法第29条第2項について
刊行物1:国際公開2010/002245号(甲第1号証)
刊行物2:国際公開2010/106309号(甲第2号証対応の国際出願の国際公開)
刊行物3:A.T.A.M.de Waele、「Basic Operation of Cryocoolers and Related Thermal Machines」、J Low Temp Phys、2011、164、p.179-236(甲第3号証):
刊行物4:Nathaniel Craig外1名、「Hitchhiker’s Guide to the Dilution Refrigerator Version 2.00」、Marcus Lab、Harvard University、2004年8月21日、p.2-20(甲第4号証):
刊行物5:G.Batey外6名、「Integration of superconducting magnets with cryogen-free dilution refrigerator systems」、Cryogenics、2009年、49、p.727-734(甲第5号証)
刊行物6:「Cryogen-Free Dilution Refrigerator」のチラシ、Vericold Technologies GmbH、2006年、(甲第6号証)
刊行物7:「Top-Loading Cryogen-Free 4K Cryostat/Cryogen-Free Dip-Stick Dilution Refrigerator/Vericold Pulse Tube-based Cryostat Systems Family/Pulse Tube-based Cryostat Systems」のチラシ、Vericold Technologies GmbH、2008年、(甲第7号証)
刊行物8:「Triton Product Family」、OXFORD INSTRUMENTS、2010年(甲第8号証)
刊行物9:P.Hilton外2名、「A novel Top-Loading 20mK/15T Cryomagnetic System」、Japanese Journal of Applied Physics、1987年、Vol.26、p.1729-1730(甲第9号証)
刊行物10:Kenneth Norman Chaffin、「A He^(3)-He^(4) Dilution Refrigerator System」、1978年5月(甲第10号証)
刊行物11:L.M.Hernandez外1名、「Bottom-loading dilution refrigerator with ultrahigh vacuume deposition capability」、Review of Scientific Instruments、2002年1月、Vol.73、No1、p.162-164(甲第11号証)
刊行物12:米国特許第5611207号明細書(甲第12号証)
刊行物13:「Opretor’s Handbook Triton^(200) Cryofree Dilution Refrigerator Issue 2.2」、OXFORD INSTRUMENTS、2009年(甲第13号証)
刊行物14:特開2008-14878号公報(甲第14号証)
刊行物15:Frank Pobell、「Matter and Methods at Low Temperatures」、Springer-Verlag Berlin Heidenberg、2007年、p.149-189(甲第15号証)

本件発明1、2、4、6、8?13、16?23は、刊行物1記載の発明並びに刊行物2?15記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

イ 特許法第36条第6項2号について
請求項1、3、7、8、15、20に係る発明についての特許は、以下の点で特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。

(イ-1)本件発明3の「前記ステップ(b)は、前記標的装置が前記標的領域内にいったん位置決めされると、前記標的装置に対して冷却作業を実施するだけのステップを更に含む」との事項は、引用する本件発明1の「(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップ」との関係において、「冷却作業を実施するだけのステップ」をどのように含み得るのか明確でない。
(イ-2)本件発明1、8の「高温配置場所」又は本件発明7の「高温状態」とは、どの温度に対して高いのか明確でない。
(イ-3)本件発明15の「前記冷却用流体」は、これ以前に「冷却用流体」の記載がなく、明確でない。
(イ-4)本件発明8の「周囲」、本件発明20の「外部の場所」は、どこに対する「周囲」又は「外部」であるのか明確でない。

ウ 特許法特許法第29条柱書、第36条第6項1号第36条第4項1号について
請求項24に係る発明についての特許は、特許法第29条柱書、第36条第6項1号又は第36条第4項1号の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由についての判断
ア 特許法第29条第2項について
(ア)刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の記載がある。(当審訳は、特許異議申立書に添付された訳文による。 )
a「The invention relates to a holder for a sample to be cooled to a low temperature in a vacuum space, comprising a carrier body for carrying the sample in thermal contact and contact means for bringing the carrier body into thermal contact with a cooling body to be brought to a low temperature, in particular a holder for a sample in a ^(3 )He- ^(4 )He dilution refrigerator to be cooled to temperatures in the millikelvin range. 」(1頁4?8行)、当審訳:本発明は真空空間にて低温に冷却されるサンプルのためのホルダであって、サンプルを熱接触にて支持するキャリア本体と、キャリア本体を冷却体と熱接触させて低温にするための熱接触手段とを備えるホルダ、特に^(3)He-^(4)He希釈冷凍機内にあり、ミリケルビン範囲内の温度に冷却されるサンプルのためのホルダを備える。)
b「The introduction of the cryo-free dilution refrigerators, which do not use liquid helium but a Pulsed Tube Cryo-cooler (PTC), has made the cooling time even longer due to the limited cooling capacity of the available PTCs.」 (1頁下から2行?2頁2行、当審訳:液体ヘリウムではなくパルス管冷凍機(PTC)を用いるクライジェントフリー型希釈冷凍機の導入は、利用可能なPTCの限定された冷却能力によって冷却時間をさらに長くしてきた。)
c「It is an object of the invention to provide a holder which enables simple and rapid insertion of a sample into and removal thereof from a vacuum space in a cryogenic device, for instance in a ^(3 )He- ^(4 )He dilution refrigerator, wherein the desired temperature of the vacuum space can be maintained during the insertion or removal.
When a sample is inserted the amount of generated heat which is generated as a result of the insertion must be minimal .
These objects are achieved, and other advantages gained, with a holder of the type stated in the preamble, the contact means of which can be switched according to the invention between a first mode in which there is no thermal contact between the carrier body and the cooling body, and a second mode in which there is thermal contact between the carrier body and the cooling body.
Such a holder makes it possible to fix a sample to the carrier body in thermal contact outside a refrigerator, to insert the holder into the vacuum space, wherein the contact means are switched to the first mode, and then, once the holder has been inserted into the vacuum space, to create a vacuum in the vacuum space and switch the contact means to the second mode.」 (2頁20行?3頁5行、当審訳:本発明の目的は、例えば^(3)He-^(4)He希釈冷凍機などの低温デバイス内の真空空間へのサンプルの挿入及びそこからの除去を容易に且つ素早くさせ、真空空間の望ましい温度は挿入又は取り外しで維持することができるホルダを提供することである。
サンプルが挿入されると、挿入した結果として得られた熱の量は最小限でなければならない。
これらの目的は前提部分に記載される種のホルダで実現され、他の利点が得られ、その接触手段は、本発明によれば、キャリア本体と冷却体との間で熱接触がない第1のモードと、キャリア本体と冷却対との間で熱接触がある第2モードとの間で切り換えることができる。
このようなホルダーによって、冷凍機外でサンプルをキャリア本体に熱接触にて固定すること、真空空間にホルダを挿入することができるようになり、接触手段は第1のモードに切り換えられて、次に、ホルダが真空空間内に挿入されると、真空空間内に真空を生成して接触手段を第2のモードに切り換えられる。)
d「It is noted that the holder according to the invention is suitable for application in cryo-free machines of different types, although particularly in per se known liquid ^(4) He-cooled cryostats, in combination with a ^(3 )He- ^(4 )He cryo-free machine, because of the limited length of this type of refrigerator, which implies a limited length of the probe.
The invention also relates to a probe for inserting into a vacuum space in a refrigerator an above described holder according to the invention for a sample to be cooled to a low temperature in this vacuum space.
The invention further relates to a refrigerator, in particular a ^(3 )He- ^(4 )He dilution refrigerator, adapted to accommodate an above described probe according to the invention. The invention will be elucidated hereinbelow on the basis of exemplary embodiments, with reference to the drawings. 」(4頁下から5行?5頁12行、当審訳:なお、本発明に係るホルダは様々な種類のクライオジェンフリー型機器への適用に適しているが、特に、プローブの限定された長さを暗示するこの種の冷凍機の限定された長さを受けて、本来の周知の液体^(4)He冷却クライオスタットにて、^(3)He-^(4)Heクライオジェンフリー型機器との組合せて適用されるのが好ましい。
本発明はまた、本発明に係る上述のホルダを冷却器の真空空間に挿入し、この真空空間内で低温にサンプルを冷却するためのプローブに関する。
本発明はさらに、本発明に係る上述のプローブを収容するように適合される冷凍機、特に^(3)He-^(4)He希釈冷凍機に関する。
本発明は、例示的な実施形態に基づき、図面を参照しながら以下にて明らかになるだろう。)
e「 The figure also shows drill holes 15 in which thermometers, samples, heating elements and coupling rods 18 (shown in fig. 3) can for instance be mounted, slots 31 for throughfeed of cables, capillaries, optic fibres and the like, and a central drill hole 16 for passage of a switching rod 14 to a subsequent holder or for mounting a sample or cold finger 17 at that position. Heat from carrier body 2 is discharged via spring elements 3, 3 1 to contact bodies 4, 4' and through contact surfaces 5, 5' to the respective thermal bath. 」(6頁26?35行、当審訳:図面はまた、温度計、サンプル、加熱要素および連結ロッド18(図3に示す)が例えば載置可能であるドリル穴15と、ケーブル、キャピラリ、光ファイバ等を通すためのスロット31と、スイッチングロッド14を続くホルダに通すため、若しくはサンプル又は冷却指部17をその位置に載置するための中央ドリル穴16と、を示す。キャリア本体2からの熱は、ばね要素3、3’から接触体4、4’に、及び接触面5、5’を通り、対応する熱浴に放出される。)
f「It is noted that the displacement of a holder in a vacuum space has a stepwise progression. During a first step the holder will for instance be admitted so far into the vacuum space that the contact bodies can be brought into contact with a part of the wall of the space that has been brought to the temperature of liquid nitrogen (77 K) (or to 50 K in a cryo-free dilution refrigerator) , after which the holder is admitted further to a level at which the contact bodies can be brought into contact with a part of the wall that has been brought to the temperature of liquid helium (4.2 K) (or to 2.6 - 4.6 K in a cryo-free dilution refrigerator) , after which the holder is finally admitted further to a level at which the contact bodies can be brought into contact with a part of the wall that is in thermal contact with the mixing chamber of the ^(3 )He- ^(4 )He dilution refrigerator. 」(7頁9?24行、当審訳:なお、真空空間内でのホルダの移動は段階的に進む。第1段階中、ホルダは例えば、接触体が、液体窒素の温度(77K)(又はクライオジェンフリー型希釈冷凍機内では50K)にまでなった空間の壁の部分と接触するところまで真空空間の中に入れられ、その後ホルダは、接触体が、液体ヘリウムの温度(5.2K)(又はクライオジェンフリー希釈冷凍機内では2.6?4.6K)にまでなった壁の部分と接触する水準にまで入れられてもよい。その後、ホルダは最終的にさらに、接触体が^(3)He-^(4)He希釈冷凍機の混合チャンバと熱接触する壁の部分と接触する水準にまで入れられる。)
g「Fig. 3 shows a probe 29 with four holders 1, 10, 12, 20, which are mutually coupled by means of coupling rods 18 of a thermally insulating material, and the respective contact bodies 4, 4' of which can be brought into thermal contact with parts of the wall of a vacuum space at four different height positions. Coupling the holders 1, 10, 12, 20 in this way makes it possible to keep a sample in bottom holder 1 at the desired, lowest temperature, and to keep the second, third and fourth holders 10, 12 and 20, which are mutually coupled in thermally insulated manner, at an (increasingly higher) temperature between the lowest temperature and room temperature.」(8頁2?13行、当審訳:図3は、断熱材料の連結ロッド18で相互的に連結された4つのホルダ、1、10、12、20、及び4つの異なる高さ位置にて真空空間の壁の部分と熱接触可能な、対応する接触体4、4’を有するプローブ29を示す。ホルダ1、10、12、20をこのように連結することで、下部ホルダ1内のサンプルを所定の最低温度に保持し、断熱的に相互的に連結される第2、第3、第4のホルダ10、12、及び20を最低温度と室温との間の(高くなる)温度で保持することを可能とする。)
h「A cold finger 17 for attaching a sample thereto is screwed onto the underside of carrier plate 2 of lowest holder 1. The figure also shows an adjusting screw 19 on a screw thread on outer end 28 of switching rod 14, with which this switching rod can be moved in axial direction 11, a thin-walled stainless steel vacuum tube 25 for throughfeed of measuring cables, for instance cables for thermometers and the like, which are connected to connecting plugs 27 on a connecting head 29, and copper radiation shields 26 soldered to the vacuum tube. 」(8頁17?26行、当審訳:サンプルを取り付けるための冷却指部17は、最下ホルダ1のキャリアプレート2の下側にねじ付けされている。図面はまた、スイッチングロッド14の外端28のねじ頭にある、これによってスイッチングロッドが軸方向11に移動することができる調節ねじ19と、例えば温度計等のための計測ケーブルであり、接続ヘッド29の接続プラグ27に接続されるケーブルを通すための薄壁ステンレス鋼真空管25と、真空管にはんだ付けされる銅性輻射シールド26とをも示す。)
i「11. Probe (30) for inserting into a vacuum space in a refrigerator a holder (1, 10, 12, 20) for a sample to be cooled to a low temperature in this vacuum space, characterized by a holder as claimed in any of the claims 1- 10.
12. Refrigerator adapted to accommodate a probe (30) as claimed in claim 11.
13. ^(3 )He- ^(4 )He dilution refrigerator adapted to accommodate a probe (30) as claimed in claim 11. 」(11頁1?末行、当審訳:11.冷凍機内の真空空間にホルダ(1、10、12、20)を挿入し、該真空空間内にてサンプルを低温に冷却するためのプルーブ30であって、請求項1?10のいづれか1項に記載のホルダによって特徴付けられる、プルーブ(30)。
12.請求項11に記載のプルーブ(30)を収容するように適合される、冷凍機。
13.請求項11に記載のプルーブ(30)を収容するように適合される、^(3)He-^(4)He希釈冷凍機。)

上記記載を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている。
「真空空間にて低温に冷却されるサンプルのためのホルダが入れられる方法であって、冷凍機内の真空空間にホルダ(1、10、12、20)を挿入し、サンプルを熱接触にて支持するキャリア本体と、キャリア本体を冷却体と熱接触させて低温にするための熱接触手段とを備えるホルダ、特に^(3)He-^(4)He希釈冷凍機内にあり、ミリケルビン範囲内の温度に冷却されるサンプルのためのホルダを備え、
パルス管冷凍機(PTC)を用いるクライジェントフリー型希釈冷凍機を用いており、
真空空間内でのホルダの移動は段階的に進むものであって、第1段階中、ホルダは50Kにまでなった空間の壁の部分と接触するところまで真空空間の中に入れられ、その後ホルダは、接触体が、2.6?4.6Kにまでなった壁の部分と接触する水準にまで入れられ、その後、ホルダは最終的にさらに、接触体が^(3)He-^(4)He希釈冷凍機の混合チャンバと熱接触する壁の部分と接触する水準にまで入れられる方法。」

(イ)当審の判断
A 本件発明1について
本件発明1と刊1発明とを対比すると、
a 刊1発明の「^(3)He-^(4)He希釈冷凍機」は、その機能から本願発明1の「作動流体を収容している希釈冷凍機」に相当する。

b 刊1発明の「真空空間にて低温に冷却されるサンプルのためのホルダが入れられる方法であって、」「サンプルを熱接触にて支持するキャリア本体と、キャリア本体を冷却体と熱接触させて低温にするための熱接触手段とを備えるホルダ、特に^(3)He-^(4)He希釈冷凍機内にあり、ミリケルビン範囲内の温度に冷却されるサンプルのためのホルダを備え」ることは、「サンプル」が「キャリア」に支持され、「キャリア」が「^(3)He-^(4)He希釈冷凍機」内で冷却されることであって、「キャリア」の「サンプル」を支持している領域は「^(3)He-^(4)He希釈冷凍機」によって冷却されているといえるから、本件発明1の「サンプルを受け入れる標的領域を、作動流体を収容している希釈冷凍機によって冷却する極低温冷却システム」に相当する。

c 刊1発明の「冷凍機内の真空空間にホルダ(1、10、12、20)を挿入し、サンプルを熱接触にて支持するキャリア本体と、キャリア本体を冷却体と熱接触させて低温にするための熱接触手段とを備えるホルダ、特に^(3)He-^(4)He希釈冷凍機内にあり、ミリケルビン範囲内の温度に冷却されるサンプルのためのホルダを備え」ることは、冷凍機の外部から「ホルダ」を挿入することで、冷凍機内の「キャリア本体」の「サンプル」を支持している領域が冷却されることであり、冷凍機の外部が冷凍機内の「キャリア本体」の「サンプル」を支持している領域より高温であることは明らかであるから、本件発明1の「(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップ」に相当する。
したがって、本件発明1と刊1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

<一致点>
サンプルを受け入れる標的領域を、作動流体を収容している希釈冷凍機によって冷却する極低温冷却システムの作動方法であって、前記方法は、
(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップと、
を含む方法。

<相違点1>
「(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップ」の前に、本件発明1では、「(a)液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、その後、作動流体を前記希釈冷凍機から除去するステップ」を実行するのに対して、刊1発明では、そのように特定されていない点。
<相違点2>
「(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップ」の後に、本件発明1では、「(c)GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却するステップと、(d)前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻すステップと、(e)前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却するステップと、」を順に実行するのに対して、刊1発明では、そのように特定されていない点。

以下、相違点について検討する。
<相違点1、2について>
本件発明1は、「(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域に移動させるステップ」により、サンプルを高温配置場所から、標的領域にサンプルを移動し、当該サンプルを希釈冷凍機で冷却する際に、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかり、希釈冷凍機が突発故障を生じることを防止するために(【0007】)、サンプルの装填前に(a)のステップを行い、装填後に(c)?(e)のステップを行うものである。
これに対し、刊1発明は、サンプルを装填し、^(3)He-^(4)He希釈冷凍機で冷却する際に、「真空空間内でのホルダの移動は段階的に進むものであって、第1段階中、ホルダは50Kにまでなった空間の壁の部分と接触するところまで真空空間の中に入れられ、その後ホルダは、接触体が、2.6?4.6Kにまでなった壁の部分と接触する水準にまで入れられ、その後、ホルダは最終的にさらに、接触体が^(3)He-^(4)He希釈冷凍機の混合チャンバと熱接触する壁の部分と接触する水準にまで入れられる」ものであって、サンプルは、^(3)He-^(4)He希釈冷凍機で冷却される前に50K、2.6?4.6Kと順次冷却されるものであるから、そもそも、高温配置場所に有ったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものでない。ゆえに、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
したがって、希釈冷凍機において、(a)、(c)?(e)の各ステップが周知であったとしても、刊1発明において、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない以上、刊1発明において、上記相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

B 本件発明2、4、6、8?11について
本件発明2、4、6、8?11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を付した発明であるから、本件発明2、4、6、8?11と刊1発明とを比較すると、少なくとも、上記Aの相違点1及び2の点で相違する。
そして、相違点1及び2は、上記Aで検討したのと同じ理由により、刊1発明において、上記相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

C 本件発明12について
刊行物1には、上記刊1発明の方法を行う極低温冷却システム(以下「刊1’発明」という。)が記載されているといえる。
そうすると、本件発明12は本件発明1の方法を行う極低温冷却システムといえるものであるから、本件発明12と刊1’発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点3>
「作動流体を前記標的装置が前記標的領域のところに受け入れられる前に」、本件発明12では、「液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、」「前記希釈冷凍機から除去」するのに対して、刊1’発明では、そのように特定されていない点。
<相違点4>
「サンプルを含む標的装置が使用中、前記標的領域内に配置され」た後に、本件発明12では、「前記予備冷却システムを作動させて前記機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却し、前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻し、前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で、前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する」のに対して、刊1’発明では、そのように特定されていない点。

<相違点3、4について>
上記相違点3及び4は、実質的に上記相違点1及び2とそれぞれ同じである。
したがって、相違点3及び4は、上記Aで検討したのと同じ理由により、刊1’発明において、上記相違点3及び4に係る本件発明12の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

D 本件発明13、16?23について
本件発明13、16?23は、本件発明12の発明特定事項を全て含み、更に限定を付した発明であるから、本件発明13、16?23と刊1’発明とを比較すると、少なくとも、上記Cの相違点3及び4の点で相違する。
そして、相違点3及び4は、上記Cで検討したのと同じ理由により、刊1’発明において、上記相違点3及び4に係る本件発明13、16?23の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり。 本件発明1、2、4、6、8?13、16?23は、刊行物1記載の発明並びに刊行物2?14記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

イ 特許法第36条第6項2号について
<(イ-2)について>
本件訂正により、本件発明1、8において、「前記高温配置場所より温度が低い前記標的領域」と特定することで「高温配置場所」が標的領域より温度の高い場所であること、及び本件発明7において、作動流体が「加熱されガス状にされた高温状態」であることを特定することで、高温状態が加熱されガス状にされた状態であることが、明確となった。
ここで、異議申立人は、平成29年6月28日の意見書で、ステップ(a)において作動流体が除去された標的領域の温度は明確でなく、「高温配置場所」が周囲環境温度であるかどうかが不明確である旨主張する。
しかし、本件発明1は、サンプルを高温配置場所から標的領域に移動し、当該サンプルを希釈冷凍機で冷却する際に、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかり、希釈冷凍機が突発故障を生じることを防止するもの(【0007】)であって、例えば、「約293?298ケルビンの温度を有する周囲環境」(【0065】)が記載されている。
したがって、「高温配置場所」が希釈冷凍機に突発故障が生じる程度にサンプルが高温となる場所であることは明らかであるから、当該記載は明確である。

<(イ-3)について>
本件訂正により、本件発明15の「前記冷却用流体」に係る記載は削除され、引用する本件発明14の記載と整合された。したがって、本件発明15は明確である。

<(イ-4)について>
本件訂正により、本件発明8の「周囲」は「前記標的領域の外部の周囲」に、又本件発明20の「外部の場所」は「前記標的領域の外部の場所」に訂正され、本件発明8及び20は明確となった。
ここで、異議申立人は、平成29年6月28日の意見書で、本件発明20の「前記標的領域の外部の場所から前記標的領域まで提供されている」は、標的装置の存否とは無関係に、どのように信号線が標的装置内に固定されうるのか不明瞭である旨主張する。
しかし、段落【0042】を参酌すると、本件発明20の「前記標的領域の外部の場所から前記標的領域まで提供されている」は、極低温冷却システムにおいて、単に電気的及び光学的通信線が標的領域の外部の場所から前記標的領域まで配線されていることを特定していることは明らかであり、その配線手段は、当業者によって種々の周知の配線手段を用いることができることは明らかであるから、当該記載は明確である。

したがって、本件発明1、7、8、15、20は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではない。

ウ 特許法特許法第29条柱書、第36条第6項1号第36条第4項1号について
本件訂正により、本件発明24は、「使用中、請求項1乃至11の何れか1項に記載の方法の前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)をコントローラに実施させるようになったプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品。」と訂正され、コントローラに実施させることが明確となり、当該コントローラは、【0049】、【0057】に記載されている。したがって、その特許は、特許法第29条柱書、第36条第6項1号又は第36条第4項1号の規定に違反してされたものとはいえない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)刊行物1を主引用例とした場合
異議申立人は、本件特許5、7、14、15、24が、刊行物1に記載の発明及び刊行物2?15号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張する。

<当審の判断>
本件発明5、7、24は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を付した発明であるから、本件発明5、7、24と刊1発明とを比較すると、少なくとも、上記1(2)ア(イ)Aの相違点1及び2の点で相違する。
そして、相違点1及び2は、上記1(2)ア(イ)Aで検討したのと同じ理由により、刊1発明において、上記相違点1、2に係る本件発明5、7、24の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、本件発明14、15は、本件発明12の発明特定事項を全て含み、更に限定を付した発明であるから、本件発明14、15と刊1’発明とを比較すると、少なくとも、上記1(2)ア(イ)Cの相違点3及び4の点で相違する。
そして、相違点3及び4は、上記1(2)ア(イ)Cで検討したのと同じ理由により、刊1’発明において、上記相違点3、4に係る本件発明14、15の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(2)刊行物2、6?8、12、14を主引用例とした場合
異議申立人は、本件発明1、2、4?11、24が、刊行物2、6?8、12、14に記載の発明及び刊行物1?15に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張する。

<当審の判断>
刊行物6?8は、いずれも希釈冷凍機を用いたものであるが、サンプルを希釈冷凍機に装填する手段が明記されておらず、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとはいえないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
刊行物2のクライオジェンフリー型冷却装置は、【0030】?【0032】、【0042】を参酌すると、刊1発明と同様にサンプルを段階的に冷却するものであり、刊行物14のクライオスタットは、【0038】、【0055】、【0056】を参酌すると、試料ホルダ30と低温ステージ9との熱的な接触状態を変更することで0.5?1.5Kまで順次冷却するものであるから、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとはいえないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
また、刊行物12には、希釈冷凍機において、クイックローディングを行うことの記載はあるものの(第1欄62行?第2欄6行)、具体的なローディングについての記載がなく、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとは認識できないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
したがって、希釈冷凍機において、(a)、(c)?(e)の各ステップが周知であったとしても、刊行物2、6?8、12、14に記載の発明において、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない以上、(a)、(c)?(e)の各ステップを行うことを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)刊行物2、5?8、12?14を主引用例とした場合
異議申立人は、本件特許12?23が、刊行物2、5?8、12?14に記載の発明及び刊行物1?15に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張する。

<当審の判断>
刊行物5?8、13は、いずれも希釈冷凍機を用いた極低温冷却システムであるが、サンプルを希釈冷凍機に装填する手段が明記されておらず、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとはいえないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
刊行物2のクライオジェンフリー型冷却装置を用いた極低温冷却システムは、【0030】?【0032】、【0042】を参酌すると、刊1’発明と同様にサンプルを段階的に冷却するものであり、刊行物14のクライオスタットを用いた極低温冷却システムは、【0038】、【0055】、【0056】を参酌すると、試料ホルダ30と低温ステージ9との熱的な接触状態を変更することで0.5?1.5Kまで順次冷却するものであるから、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとはいえないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
また、刊行物12には、希釈冷凍機を用いた極低温冷却システムにおいて、クイックローディングを行うことの記載はあるものの(第1欄62行?第2欄6行)、具体的なローディングについての記載がなく、高温配置場所にあったサンプルの熱によって希釈冷凍機に熱負荷がかかるものとは認識できないから、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない。
したがって、希釈冷凍機を用いた極低温冷却システムにおいて、「使用中、液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状に」すること、及び「前記予備冷却システムを作動させて前記機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却し、前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻し、前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で、前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する」ことが周知であったとしても、刊行物2、5?8、12?14に記載の発明において、希釈冷凍機の熱負荷対策を行う動機付けがない以上、「使用中、液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、前記作動流体を前記標的装置が前記標的領域のところに受け入れられる前に前記希釈冷凍機から除去し、前記予備冷却システムを作動させて前記機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却し、前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻し、前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で、前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する」ことを当業者が容易に想到し得たことはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4?24に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項1、2、4?24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを受け入れる標的領域を、作動流体を収容している希釈冷凍機によって冷却する極低温冷却システムの作動方法であって、前記方法は、
(a)液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、その後、作動流体を前記希釈冷凍機から除去するステップと、
(b)前記サンプルを含む標的装置を高温配置場所から前記高温配置場所よりも温度が低い前記標的領域に移動させるステップと、
(c)GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却するステップと、
(d)前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻すステップと、
(e)前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却するステップと、
を含み、これらのステップ(a)?(e)の順序で実行する、方法。
【請求項2】
前記希釈冷凍機は、スチル及び混合チャンバを有し、これらのスチル及び混合チャンバの各々がヒーターを備え、前記ステップ(a)が、これらの各ヒーターを作動させるステップを備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記標的装置を前記標的領域内に位置決めする前記ステップは、前記標的装置を熱伝導性部材に取り付け、前記熱伝導性部材を用いて前記標的装置の熱伝導による冷却を行うステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(c)は、前記作動流体が前記機械式冷凍機及び前記標的領域と熱的接触関係をなして配置された予備冷却回路内で流れるようにするステップを含み、前記ステップd)において、前記作動流体が予備冷却回路から除去されると共に前記希釈冷凍機へ戻る、請求項1、2及び4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)は、前記希釈冷凍機の作動流体を空にするステップを含む、請求項1、2、4及び5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)中、前記作動流体を加熱されガス状にされた高温状態で前記予備冷却回路中に提供して前記標的領域を加熱するステップを更に含む、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記高温配置場所は、前記標的領域の外部の周囲環境内に位置している、請求項1、2及び4乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(d)に先立って、前記希釈冷凍機の温度は、約10ケルビン以下である、請求項1、2及び4乃至8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(b)において、前記標的装置を前記標的装置が装填組立体に取り付けられたままの状態で前記標的領域に移動させ、前記標的領域内にいったん配置されると、前記標的装置を前記装填組立体から解除し、前記装填組立体を引っ込める、請求項1、2及び4乃至9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)は、制御システムの制御下で自動的に実施される、請求項1、2及び4乃至10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
極低温冷却システムであって、
作動流体を用いて標的領域を冷却するよう構成された希釈冷凍機を含み、サンプルを含む標的装置が使用中、前記標的領域内に配置され、
前記標的装置を前記標的領域内で冷却する、GM冷却器、スターリング冷却器又はパルスチューブ型冷凍機のいずれかを含む機械式冷凍機を含む予備冷却システムを含み、
使用中、液体で提供された前記作動流体を加熱して前記作動流体を完全にガス状にし、前記作動流体を前記標的装置が前記標的領域のところに受け入れられる前に前記希釈冷凍機から除去し、前記予備冷却システムを作動させて前記機械式冷凍機を用いて前記標的装置を前記標的領域内で第1の温度まで予備冷却し、前記作動流体を前記希釈冷凍機に戻し、前記作動流体を用いて前記希釈冷凍機を作動させて前記標的装置を前記標的領域内で、前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却するようになった制御システムを含む、極低温冷却システム。
【請求項13】
作動冷却剤を貯蔵する貯蔵容器を更に含み、前記貯蔵容器は、前記希釈冷凍機に選択的に連結可能である、請求項12記載の極低温冷却システム。
【請求項14】
前記予備冷却システムは、前記作動流体を前記機械式冷凍機と前記標的領域のところの前記標的装置との間に供給するよう構成された予備冷却回路を含み、前記制御システムは、前記作動流体を前記予備冷却回路に供給してこの予備冷却回路を予備冷却し、その後、この作動流体を前記予備冷却回路から前記希釈冷凍機に戻して前記希釈冷凍機を作動させる、請求項12又は13記載の極低温冷却システム。
【請求項15】
前記貯蔵容器は、前記予備冷却システムに選択的に連結可能である、請求項14記載の極低温冷却システム。
【請求項16】
前記作動流体は、ヘリウム-3とヘリウム-4の混合物である、請求項12乃至15の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項17】
前記機械式冷凍機及び前記希釈冷凍機が部分的に結合される複数の空間的に配置された段を更に含む、請求項12乃至16の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項18】
前記複数の段のうちの1つ又は2つ以上は、前記標的装置を受け入れる孔を有し、前記1つ又は2つ以上の孔は、前記標的装置を挿通させるボアを構成している、請求項17記載の極低温冷却システム。
【請求項19】
前記孔のうちの少なくとも1つは、前記孔に接近可能な開放位置と前記孔が閉じられる閉鎖位置との間で動くことができるバッフルを備えている、請求項18記載の極低温冷却システム。
【請求項20】
前記サンプルと通信するための電気的及び光学的通信線のうちの一方又は各々を更に含み、前記通信線は、前記標的装置の存否とは無関係に前記標的装置内に固定され、前記通信線は、前記標的領域の外部の場所から前記標的領域まで提供されている、請求項12乃至19の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項21】
前記通信線は、前記1つ又は2つ以上の孔のうちのどれも通過していない、請求項18に従属した請求項20記載の極低温冷却システム。
【請求項22】
前記極低温冷却システムは、クライオジェンフリーシステムから成る、請求項12乃至21の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項23】
前記希釈冷凍機は、スチル及び混合チャンバを有し、これらのスチル及び混合チャンバの各々がヒーターを備え、前記制御システムが、これらの各ヒーターを作動させて前記作動流体を完全にガス状にする、請求項12乃至22の何れか1項に記載の極低温冷却システム。
【請求項24】
使用中、請求項1、2及び4乃至11の何れか1項に記載の方法の前記ステップ(a)及び前記ステップ(c)?(e)をコントローラに実施させるようになったプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-19 
出願番号 特願2014-524452(P2014-524452)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F25B)
P 1 651・ 121- YAA (F25B)
P 1 651・ 536- YAA (F25B)
P 1 651・ 14- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 仲村 靖横溝 顕範  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
山崎 勝司
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5895328号(P5895328)
権利者 オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
発明の名称 極低温冷却装置及び方法  
代理人 松下 満  
代理人 山本 泰史  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山本 泰史  
代理人 石崎 亮  
代理人 石崎 亮  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  
代理人 西島 孝喜  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 岡田 賢治  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 井野 砂里  
代理人 井野 砂里  
代理人 今下 勝博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ