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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B21C 審判 全部申し立て 特123条1項5号 B21C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B21C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B21C |
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管理番号 | 1337076 |
異議申立番号 | 異議2017-701066 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-10 |
確定日 | 2018-02-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6125045号発明「非対称のコイル支持装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6125045号の請求項1?10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6125045号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は,平成29年4月14日に特許権の設定登録がされ,その後,特許異議申立人一條淳(以下「申立人」という。)より請求項1?10に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 本件特許の請求項1?10の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 高強度又は超高強度の鋼等級から製造された、コイル(2)に巻成された金属ストリップを移動させる搬送技術装置における装置(1)であって、前記コイル(2)は、コイル支持装置(3)における静止ポジションからの搬送のために、高さ調節可能なコイル昇降装置(4)を用いて上昇・下降可能であり、前記コイル支持装置(3)は、互いに横方向に間隔をおいて配置された2つのコイル支持エレメント(3a,3b)を有し、前記コイル昇降装置(4)は、2つの支持爪(4a,4b)を有している、装置において、 前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh1)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されており、かつ、 前記コイル昇降装置(4)の前記2つの支持爪(4a,4b)は、前記支持爪(4a,4b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh2)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されていることを特徴とする装置(1)。 【請求項2】 前記コイル支持エレメント(3a,3b)と前記支持爪(4a,4b)は、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている、請求項1記載の装置(1)。 【請求項3】 前記支持爪(4a,4b)は、互いに斜めに面取りされて延びるヘッド面を有している、請求項1又は2記載の装置(1)。 【請求項4】 当該装置(1)において、自由なストリップ端部(2b)とは反対側のコイル支持エレメント(3b)は、前記自由なストリップ端部(2b)側のコイル支持エレメント(3a)よりも、所定の鉛直方向間隔(Δh1)だけ高く配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項5】 前記2つの支持爪(4a,4b)の各々の外側の端部間の水平方向の長さは、前記2つのコイル支持エレメント(3a,3b)の各々の内側の端部間の水平方向の長さよりも大きい、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項6】 当該装置(1)において、自由なストリップ端部(2b)とは反対側の支持爪(4b)は、前記自由なストリップ端部(2b)側の支持爪(4a)よりも、所定の鉛直方向間隔(Δh2)だけ高く配置されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項7】 前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための支持点を通る垂線と、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)との間の間隔(e1,e2)の総和[e1+e2]に対する、前記コイル支持エレメント(3a,3b)の前記鉛直方向間隔(Δh1)の比が、0.1?0.5である、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項8】 前記コイル支持爪(4a,4b)における前記コイル(2)のための支持点を通る垂線と、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)との間の間隔(e3,e4)の総和[e3+e4]に対する、前記コイル支持爪(4a,4b)の前記鉛直方向間隔(Δh2)の比が、0.1?0.5である、請求項1から7までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項9】 前記コイル(2)によって、前記自由なストリップ端部(2b)とは反対側のコイル支持エレメント(3b)に作用する重力が、前記自由なストリップ端部(2b)側のコイル支持エレメント(3a)に作用する重力よりも小さい、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置(1)。 【請求項10】 前記自由なストリップ端部(2b)とは反対側の支持爪(4b)が前記コイル(2)に対して加える保持力(R4)は、前記自由なストリップ端部(2b)側の支持爪(4a)が前記コイル(2)に対して加える保持力(R3)よりも小さい、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置(1)。」 3.申立理由の概要 申立人は,証拠として次の甲第1?9号証を提出し,下記の各申立理由のとおり,請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:国際公開第2013/079081号 甲第2号証:米国特許第6364093号明細書 甲第3号証:特開平3-46914号公報 甲第4号証:特開平11-267750号公報 甲第5号証:特表2001-514142号公報 甲第6号証:米国特許第2281423号明細書 甲第7号証:米国特許第6223885号明細書 甲第8号証:特表2013-522042号公報 甲第9号証:特表2013-522043号公報 (以下,各甲号証を「甲1」などという。) (1)申立理由1(新規性,進歩性) 証拠として甲1を提出し,請求項1?3及び7?10に係る特許は,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1?3及び7?10に係る特許を取り消すべきものである。 (2)申立理由2(新規性,進歩性) 証拠として甲2を提出し,請求項1,2及び7?10に係る特許は,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1,2及び7?10に係る特許を取り消すべきものである。 (3)申立理由3(新規性,進歩性) 証拠として甲3を提出し,請求項1,2及び7?10に係る特許は,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1,2及び7?10に係る特許を取り消すべきものである。 (4)申立理由4(新規性,進歩性) 証拠として甲4を提出し,請求項1,2,4及び6?10に係る特許は,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1,2,4及び6?10に係る特許を取り消すべきものである。 (5)申立理由5(進歩性) 主たる証拠として甲1?甲3のいずれか,及び従たる証拠として甲4?甲6を提出し,請求項4?6に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項4?6に係る特許を取り消すべきものである。 (6)申立理由6(進歩性) 主たる証拠として甲5及び従たる証拠として甲4,甲6?9を提出し,請求項1?10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである。 (7)申立理由7(進歩性) 主たる証拠として甲2又は甲3,及び従たる証拠として甲1,甲5,甲8,甲9を提出し,請求項1?10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである。 (8)申立理由8(実施可能要件) ア 請求項5 請求項5には,「前記2つの支持爪(4a,4b)の各々の外側の端部間の水平方向の長さは、前記2つのコイル支持エレメント(3a,3b)の各々の内側の端部間の水平方向の長さよりも大きい」と記載されてるが,そのような支持爪が設けられたコイル昇降装置は,当該2つの支持爪の水平方向間隔よりも狭い水平方向間隔で設けられた2つのコイル支持エレメントに昇降動作が阻害されてしまうものも想定され得る。本件特許明細書には,当該構成において請求項5をどのように実施するのかが実施できる程度に明確かつ十分に説明されていなから,本件特許の発明の詳細な説明は,当業者が請求項5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 イ 請求項7 請求項7において,コイルの配置及び支持点の具体的な位置は特定されておらず,任意のコイルの配置及び任意の支持点が選択可能である。このため,請求項7は,コイルがコイル支持装置に支持されていない場合も包含しているが,その場合,請求項7に係る特許に記載されているような比はそもそも規定することができない。したがって,本件特許の発明の詳細な説明は,当業者が請求項7に係る特許の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 ウ 請求項8 上記「イ 請求項7」と同様に,請求項8は,コイルがコイル支持装置に支持されていない場合も包含しているが,その場合,請求項8に係る特許に記載されているような比はそもそも規定することができない。したがって,本件特許の発明の詳細な説明は,当業者が請求項7に係る特許の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 (9)申立理由9(原文新規事項) 国際出願当初の請求項1を引用する請求項3を,特許協力条約第34条による補正で新たに請求項1としたが,その際,「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」(下線は当審が付した。)と,「ように」が接続語として新たに導入されたため,「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されていることによって、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有する・・・」との内容を含意することになる。「ように」の接続語は,請求項1に係る特許に依然として残っているから,請求項1に係る特許は,国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項を超えるものであるから,特許法第113条第5号の規定に違反してされたものである。 4.各甲号証の記載 (1)甲1発明 本件特許の国際出願日(平成25年(2013年)1月18日)後の2013年6月6日に公開された甲1には,以下の技術的事項が記載されている。 高強度鋼から生産されたコイル(3a,c)に巻かれた金属ストリップを移動するための搬送装置(4)における機器に関し,これらコイル(3a,c)は,コイルサドル(105)によって静止位置から持ち上げられ,コイルサドル(105)は,2つの支持爪(7a,b)を有している機器([abstract],Fig.1)。 したがって,甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「高強度鋼から生産されたコイル(3a,c)に巻かれた金属ストリップを移動するための搬送装置における機器であって,前記コイル(3a,c)は,コイルサドル(105)によって静止位置から持ち上げられ,コイルサドル(105)は,2つの支持爪(7a,b)を有している機器。」 (2)甲2発明 本件特許の国際出願日前に公開された甲2には,以下の技術的事項が記載されている。 鋼のロール(第5欄第16行)。 物品12を移動させるウォーキングビームコンベア10(第5欄13?15行)。 FIG.3及びFIG.4からは,物品12は,固定されたホルダ16からの移動のために,高さ調節可能なウォーキングビームコンベア10を用いて上昇・下降可能であり,固定ホルダ16は,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの固定ホルダ16を有し,前記ウォーキングビームコンベア10は,2つの支持爪(FIG.4のビーム42が物品12に2箇所突出している)を有している点が看取される。 したがって,甲2には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「鋼のロールである物品12を移動させるウォーキングビームコンベア10であって,前記物品12は,固定ホルダ16からの移動のために,高さ調節可能なウォーキングビームコンベア10を用いて上昇・下降可能であり,固定ホルダ16は,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの固定ホルダ16を有し,前記ウォーキングビームコンベア10は,2つの支持爪を有している。」 (3)甲3発明 本件特許の国際出願日前に公開された甲3には,以下の技術的事項が記載されている。 ワークピース12を移動させる搬送システム10(第7ページ右上欄第7行)。 ワークピース12は,ワークピース支持レール15からの搬送のために,高さ調節可能な駆動シリンダ45を用いて上昇・下降可能(第9ページ左下欄第19行-右下欄第18行)。 ワークピース支持レール15は,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つのワークピース支持レール15を有している(第7ページ右上欄第12行-同欄第19行)。 搬送ビーム20は,2つの支承トラック28を有している(第7ページ左下欄第16行-右下欄第9行)。 したがって,甲3には,次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。 「ワークピース12を移動させる搬送システム10であって,ワークピース12は,ワークピース支持レール15からの搬送のために,高さ調節可能な駆動シリンダ45を用いて上昇・下降可能であり,ワークピース支持レール15は,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つのワークピース支持レール15を有し,搬送ビーム20は,2つの支承トラック28を有している装置。」 (4)甲4発明 本件特許の国際出願日前に公開された甲4には,以下の技術的事項が記載されている。 帯板コイル10と,巻取ステーション(又は,巻解ステーション)は,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの入口側の巻取ロール及び出口側の巻取ロール(又は,入口側の巻解ロール及び出口側の巻解ロール)を有している(【符号の説明】,【図1】)。 したがって,甲4には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。 「帯板コイル10と,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの入口側の巻取ロール及び出口側の巻取ロール(又は,入口側の巻解ロール及び出口側の巻解ロール)を有する巻取ステーション(又は,巻解ステーション)。」 (5)甲5発明 本件特許の国際出願日前に公開された甲5には,以下の技術的事項が記載されている。 シート巻き体12を移動させる搬送台車9(【0005】)。 互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの整向レール17;18を有しているシート巻き体前方向け装置16(【0006】)。」 したがって,甲5には,次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。 「シート巻き体12を移動させる搬送台車9と,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの整向レール17;18を有しているシート巻き体前方向け装置16。」 (6)甲6記載事項 本件特許の国際出願日前に公開された甲6には,以下の技術的事項が記載されている。 「コイルと,折れ曲がったプレートであるコイル支持体26。」(第2ページ左欄第5行?第15行) (7)甲7記載事項 本件特許の国際出願日前に公開された甲7には,以下の技術的事項が記載されている。 「プラテン21,21a,21b,21cは,コイル支持サドル42?42dからの搬送のために,油圧シリンダ75,75a,75b,75cを用いて上昇/降下可能であること。」(第3欄第36行から第42行) (8)甲8記載事項 本件特許の国際出願日後の平成25年6月13日に公開された甲8には,以下の技術的事項が記載されている。 「コイル台車の形態の装置であって,装置100は,2つの載置箇所110-1,110-2を有しており,当該載置箇所110-1,110-2におけるコイルのための各支持点が,相互に鉛直方向の間隔を有するように,当該コイルの回転中心を通る垂線に対して非対称に配置されている。」(【0001】,【0040】,FIG.1) (9)甲9記載事項 本件特許の国際出願日後の平成25年6月13日に公開された甲9には,以下の技術的事項が記載されている。 「金属コイルが載置される,コイル運搬車を有する装置であって,互いに横方向に間隔をおいて配置された2つの第一の支持点110-1と第2の支持点110-2を有する装置。」(【0041】) 5.判断 (1)申立理由1?7について ア 請求項1に係る発明について 甲1?甲9のうち,甲1,甲8及び甲9は,本件特許の国際出願日後に公開されたものであり,特許法第29条第1項第3号に掲げる刊行物に該当しないから,甲1,甲8及び甲9に記載された発明は,特許法第29条第2項に規定する,前項各号に掲げる発明に該当しない。 よって,以下では,甲1,甲8及び甲9を除いて対比判断を行う。 請求項1に係る発明と甲2発明?甲5発明とを対比すると,当該甲2発明?甲5発明のいずれにも「前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh1)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されており、かつ、 前記コイル昇降装置(4)の前記2つの支持爪(4a,4b)は、前記支持爪(4a,4b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh2)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されていること」が記載も示唆もされていない。また,この点については甲6,7のいずれにも記載も示唆もされていない。 したがって,請求項1に係る発明は,甲2?5に記載された発明及び甲6,7に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものではない。 申立人は,申立理由1?7,並びに申立理由8のイ,ウで主張する特許を取り消すべき理由の前提解釈として,特許異議申立書第10ページに「本件特許の請求項1?10においては、コイルがコイル支持装置に実際に支持されていることが特定されていない。すなわち、本件特許の請求項1?10は、例えばコイルがコイル支持装置の外部(例えば当該装置の脇)に配置されている場合などを排除していない。このため、任意の配置のコイルに対して本件特許の請求項1?10の記載が適用される。コイルが装置の脇に配置される場合などを想定すれば、『コイル支持エレメント』は、コイルの回転中心を通る垂線に対して非対称となる。同様に『支持爪』も、コイルの回転中心を通る垂線に対して非対称となる。」と主張している。 しかしながら,請求項1には,「・・・前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh1)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されており、かつ、 前記コイル昇降装置(4)の前記2つの支持爪(4a,4b)は、前記支持爪(4a,4b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh2)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」とあるが,各支持点は,コイルが載置された際の,コイル支持エレメント及び支持爪との接触点を意味していることは明らかであり,そのような接触点はコイルがコイル支持エレメント及び支持爪に載置されなければ発生し得ない。 よって,コイルがコイル支持装置に支持されていることは明らかである。 したがって,申立人の「本件特許の請求項1?10においては、コイルがコイル支持装置に実際に支持されていることが特定されていない。」とする主張は理由がなく,申立理由1?7,並びに申立理由8のイ,ウについては,理由がない。 なお,甲8には,本件特許の国際出願日前に公開された国際公開第2011/110695号があるので,国際公開第2011/110695号についても,一応検討する。国際公開第2011/110695号は,Metallbandes(ストリップ)を載置するための方法は「Bundwagens(コイル台車)」についてのものであり,そのFIG.1には,ストリップをバランス状況で載置されるように左側の載置箇所110-1が右側の載置箇所110-2に対して下げる事項が記載されており,本件特許の請求項1に係る発明の「前記コイル昇降装置(4)の前記2つの支持爪(4a,4b)は、前記支持爪(4a,4b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh2)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている」ものに相当する事項については記載されているが,本件特許の請求項1に係る発明の「前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh1)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置され」るものは記載も示唆もされていない。この点については,甲2?7のいずれにも記載されていない。 したがって,請求項1に係る発明は,国際公開第2011/110695号,甲2?5に記載された発明及び甲6,7に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものではない。 また,甲9にも,本件特許の国際出願日前に公開された国際公開第2011/110696号があるので,一応,検討すると,当該国際公開第2011/110696号についても,本件特許の請求項1に係る発明の「前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、相互に鉛直方向の間隔(Δh1)を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置され」るものは記載も示唆もされていない。 したがって,請求項1に係る発明は,国際公開第2011/110696号,甲2?5に記載された発明及び甲6,7に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものではない。 イ 請求項2?10について 請求項2?10に係る発明は,請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,甲2?5に記載された発明及び甲6,7に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものではない。 ウ 小活 以上のとおり,請求項1?10に係る発明は,甲2?5に記載された発明及び甲6,7に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものではない。 (2)申立理由8について ア 申立理由8のアについて 申立人は,特許異議申立書第59ページ?60ページで「本件特許の請求項5には『前記2つの支持爪(4a,4b)の各々の外側の端部間の水平方向の長さは、前記2つのコイル支持エレメント(3a,3b)の各々の内側の端部間の水平方向の長さよりも大きい』と記載されている。 しかしながら、2つの支持爪の各々の外側の端部間の水平方向の長さが2つのコイル支持エレメントの各々の内側の端部間の水平方向の長さよりも大きいとすると、そのような2つの支持爪が設けられたコイル昇降装置は、当該2つの支持爪の水平方向間隔よりも狭い水平方向間隔で設けられた2つのコイル支持エレメントに昇降動作が阻害されてしまうものも想定され得る。本件特許発明5はそのような構成も包含している・・・」と主張しているが,本件特許明細書の【0020】には,「従ってコイル昇降キャリッジ4の支持爪4a,4bは、両コイル支持エレメント3a,3bの間の僅かな空間寸法にもかかわらずコイル昇降キャリッジ4の昇降運動を保証するために、櫛歯状に構成されている。」と記載されているように,発明の詳細な説明には,請求項5に記載された発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされている。 したがって,申立人の申立理由8のアについては,理由がない。 イ 申立理由8のイ,ウについて 申立人は,上記(1)アで記載したように,申立人の「本件特許の請求項1?10においては、コイルがコイル支持装置に実際に支持されていることが特定されていない。」とする主張は理由がないことから,申立理由8のイ,ウについては,理由がない。 (3)申立理由9について 請求人は,特許異議申立書第61ページ?62ページにおいて,国際出願当初の請求項1を引用する請求項3を,特許協力条約第34条による補正で新たに請求項1としたが,その際,「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有するように、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」(下線は当審が付した。)と,「ように」が接続語として新たに導入されたため,「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されていることによって、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有する・・・」との内容を含意することになった旨を主張する。 その根拠として,申請人は特許異議申立書第62ページ第3行?第5行に「『ように』との接続語は、例えば『AするようにBする』といった形で使用される場合、『B』を行うことにより『A』が誘発されるという意味合いを含むものである。」と主張している。 しかしながら,株式会社岩波書店の広辞苑第六版DVD-ROM版には,「よう【様】」の意味として「○2 さま。かたち。」(「○2」は丸囲みの数字の2を表す。)が記載されていることから,「AするさまのB」,又は「AというかたちのB」という意味と解釈すれば,上記補正後の請求項1は,「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有するさまとして、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」又は「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有するというかたちとして、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」という意味に解釈できる。 国際出願当初の請求項1を引用した請求項3は,請求項1における「・・・少なくとも前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル(2)の回転中心(2a)を通る垂線(5)に対して非対称に配置されている・・・」という構成を特定する「さま」又は「かたち」として,請求項3で「前記コイル支持エレメント(3a,3b)は、前記コイル支持エレメント(3a,3b)における前記コイル(2)のための各支持点が、好ましくは前記支持爪(4a,4b)における各支持点も、相互に鉛直方向の間隔(Δh_(1),Δh_(2))を有」するという限定を付したものといえ,これを新たに請求項1とした特許協力条約第34条による補正後の記載に新規事項の追加はない。 したがって,申請人の申立理由9については,理由がない。 6.むすび したがって,特許異議の申立の理由及び証拠によっては,請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-01-24 |
出願番号 | 特願2015-553013(P2015-553013) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B21C)
P 1 651・ 54- Y (B21C) P 1 651・ 536- Y (B21C) P 1 651・ 113- Y (B21C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
近藤 裕之 平岩 正一 |
登録日 | 2017-04-14 |
登録番号 | 特許第6125045号(P6125045) |
権利者 | エスエムエス ロギスティクズュステーメ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング |
発明の名称 | 非対称のコイル支持装置 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |