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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1337323
審判番号 不服2016-17861  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2018-02-09 
事件の表示 特願2012- 93003「光学積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開、特開2012-234164〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成24年4月16日(優先権主張平成23年4月22日)の出願であって、平成28年1月15日付けで拒絶理由が通知され、同年3月22日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月25日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、当審において、平成29年8月25日付けで拒絶理由を通知し、その応答期間中の同年10月27日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。

2 本件発明
本願の請求項1?18に係る発明は、平成29年10月27日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成された基材層と、
該(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に配置され、硬化性化合物および無機ナノ粒子を含むハードコート層形成用組成物の硬化物を含むハードコート層と、
該基材層と該ハードコート層との間に、該ハードコート層形成用組成物が該(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成された、厚みが1.2μm以上の浸透層とを備え、
該ハードコート層形成用組成物が、2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物を含み、該2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物の含有割合が、該ハードコート層形成用組成物中の全硬化性化合物に対して、85重量%以下であり、
該無機ナノ粒子の含有割合が、該硬化性化合物および該無機ナノ粒子の合計に対して、1.5重量%?50重量%である、
光学積層体。」(以下、「本件発明」という。)

3 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1
ア 平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成22年2月18日に頒布された刊行物である特開2010-39418号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。(下線は合議体が付与した。以下同様。)

(ア) 「【請求項1】
基材フィルム上に少なくとも1層のハードコート層、及び低屈折率層を有する反射防止フィルムにおいて、該基材フィルムとハードコート層との間に、基材フィルムとハードコート層が混合した混合領域層を有し、下記式で表される該混合領域層と該ハードコート層との厚みの比率Xが、1?25%の範囲にあり、かつ低屈折率層が少なくとも1種類のカチオン重合性化合物を含有することを特徴とする反射防止フィルム。
X(%)=(混合領域層の厚み/ハードコート層の厚み)×100」

(イ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、高温高湿下といった湿熱処理後においても耐薬品性、密着性、及び耐擦傷性に優れるカチオン重合性の樹脂を使用した低屈折率層を設けた反射防止フィルム、及びその製造方法を提供することにある。」

(ウ) 「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材フィルムとハードコート層との間に、特定範囲の厚みの比率を有する混合領域層を形成し、更に該ハードコート層の上にカチオン重合性の樹脂を用いた低屈折率層を形成して反射防止フィルムを形成することで、高温高湿下といった湿熱処理後の耐薬品性、密着性、及び耐擦傷性に優れる反射防止フィルム、及びその製造方法を提供することができる。」

(エ) 「【0029】
《混合領域層》
本発明でいう「混合領域層」とは、基材フィルム上にハードコート層を塗設した際に、該ハードコート層組成物が基材フィルムを溶解、また膨潤する作用を呈し、基材フィルムとハードコート層の間に形成される基材フィルムの組成物とハードコート層の組成物の混合した領域と定義される。

(中略)

【0032】
X(%)=(混合領域層の厚み/ハードコート層の厚み)×100
混合領域層を形成する方法としては、限定されるものではないが、基材フィルムを溶解、または膨潤させる溶媒を含んだハードコート層形成塗布液を塗布することによって可能である。
【0033】
(ハードコート層に用いられる基材フィルムを溶解、または膨潤する溶媒)
基材フィルムを溶解、または膨潤させる溶媒は、基材フィルムがセルロースエステル樹脂フィルムまたは、セルロースエステル樹脂とアクリル樹脂からなるフィルムである場合、以下の溶媒を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
炭素子数が3?12のエーテル類:具体的には、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4ジオキサン、1,3ジオキソラン、1,3,5トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等、
炭素数が3?12のケトン類:具体的にはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等、
炭素数が3?12のエステル類:具体的には、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸-n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸-n-ペンチル、及びγ-プチロラクトン等、
2種類以上の官能基を有する有機溶媒:具体的には2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2アセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、及びアセト酢酸エチル等が挙げられる。
【0035】
これらは1種単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることかできる。基材フィルムを溶解、または膨潤する溶媒溶剤としてはケトン系溶剤が好ましく、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンが特に好ましい。」

(オ) 「【0039】
《ハードコート層》
本発明のハードコート層について説明する。
【0040】
ハードコート層には、前記溶媒と共に下記の材料を用いることが好ましい。
【0041】
(多官能アクリレート)
ハードコート層は一般に紫外線のような活性エネルギー線硬化性樹脂より構成されるが、このような活性エネルギー線硬化性樹脂としては、多官能アクリレートが好ましい。該多官能アクリレートとしては、ペンタエリスリトール多官能アクリレート、ジペンタエリスリトール多官能アクリレート、ペンタエリスリトール多官能メタクリレート、及びジペンタエリスリトール多官能メタクリレートよりなる群から選ばれることが好ましい。ここで、多官能アクリレートとは、分子中に2個以上のアクリロイルオキシ基及び/またはメタクロイルオキシ基を有する化合物である。
【0042】
多官能アクリレートのモノマーとしては、例えばエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、イソボロニルアクリレート等が好ましく挙げられる。これらの化合物は、それぞれ単独または2種以上を混合して用いられる。また、上記モノマーの2量体、3量体等のオリゴマーであってもよい。
【0043】
市販品の多官能アクリレートとしては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR-400、KR-410、KR-550、KR-566、KR-567、BY-320B(旭電化(株)製);コーエイハードA-101-KK、A-101-WS、C-302、C-401-N、C-501、M-101、M-102、T-102、D-102、NS-101、FT-102Q8、MAG-1-P20、AG-106、M-101-C(広栄化学(株)製);セイカビームPHC2210(S)、PHC X-9(K-3)、PHC2213、DP-10、DP-20、DP-30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(大日精化工業(株)製);KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(ダイセル・ユーシービー(株)製);RC-5015、RC-5016、RC-5020、RC-5031、RC-5100、RC-5102、RC-5120、RC-5122、RC-5152、RC-5171、RC-5180、RC-5181(大日本インキ化学工業(株)製);オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製);サンラッドH-601、RC-750、RC-700、RC-600、RC-500、RC-611、RC-612(三洋化成工業(株)製);SP-1509、SP-1507(昭和高分子(株)製);RCC-15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM-6100、M-8030、M-8060(東亞合成(株)製);B420(新中村化学工業(株)製)等を適宜選択して利用できる。

(中略)

【0047】
ハードコート層には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはゼラチン等の親水性樹脂等のバインダーを上記活性エネルギー線硬化性樹脂に混合して使用することもできる。また、ハードコート層には耐傷性、滑り性や屈折率を調整するために無機化合物または有機化合物の微粒子を含んでもよい。
【0048】
無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。特に、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が好ましく用いられる。

(中略)

【0050】
これらの微粒子粉末の平均粒径としては、0.01?5μmが好ましく0.1?5.0μm、更に、0.1?4.0μmであることが特に好ましい。また、粒径の異なる2種以上の微粒子を含有することが好ましい。硬化性樹脂組成物と微粒子の割合は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、0.1?30質量部となるように配合することが望ましい。」

(カ) 「【0256】
《基材フィルム》
反射防止フィルムの製造に用いられる基材フィルムとしては、製造が容易であること、ハードコート層、または反射防止層との密着性に優れること、光学的に等方性であること、また光学的に透明性であることが好ましい。
【0257】
これらの性質を有していれば何れでもよく、例えば、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルローストリアセテートフィルム等のセルロースエステル樹脂フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ノルボルネン樹脂系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムまたはアクリルフィルム等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。これらの内セルロースエステル樹脂フィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX2M、KC4UX2M、KC4UY、KC8UT、KC5UN、KC12UR、KC8UCR-3、KC8UCR-4(以上、コニカミノルタオプト(株)製))、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)フィルム、シクロオレフィンポリマーフィルムが好ましい。特に好ましくは、本発明の目的効果がより良く発揮されること、製造上、コスト面、透明性、等方性、接着性等の面から、セルローストリアセテートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム等のセルロースエステル樹脂フィルム(以下、セルロースエステルフィルムと呼称する場合もある)である。」

(キ) 「【実施例】
【0360】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0361】
実施例1
〔セルロースエステルフィルム1の作製〕
(セルロースエステルC1の合成)
特表平6-501040号公報の例Bを参考にして、プロピオン酸、酢酸の添加量を調整して、アセチル基置換度、プロピオニル基置換度を下記のように調整したセルロースエステルC1を合成した。
【0362】
C1:アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.7、総アシル基置換度2.60
得られたセルロースエステルの置換度は、ASTM-D817-96に基づいて算出した。セルロースエステルC1の重量平均分子量は、前記高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果130000であった。
【0363】
(セルロースエステルフィルム1の作製)
下記組成で、溶融流延によりセルロースエステルフィルム1を作製した。
【0364】
〈セルロースエステルフィルム1組成物〉
セルロースエステル:C1 94質量部
可塑剤:グリセリントリベンゾエート 5質量部
Irganox 1010(チバ・ジャパン社製) 0.5質量部
Irgafos P-EPG(チバ・ジャパン社製) 0.3質量部
HP-136(チバ・ジャパン社製) 0.2質量部
上記セルロースエステルを70℃、3時間減圧下で乾燥を行い室温まで冷却した後、各添加剤を混合した。
【0365】
以上の混合物を弾性タッチロールを用いた製造装置で製膜した。窒素雰囲気下、240℃にて溶融して流延ダイから第1冷却ロール上に押し出し、第1冷却ロールとタッチロールとの間にフィルムを挟圧して成形した。また押出し機中間部のホッパー開口部から、滑り剤としてシリカ粒子(日本アエロジル社製)を、0.1質量部となるよう添加した。
【0366】
流延ダイのギャップの幅がフィルムの幅方向端部から30mm以内では0.5mm、その他の場所では1mmとなるようにヒートボルトを調整した。タッチロールとしては、その内部に冷却水として80℃の水を流した。
【0367】
流延ダイから押し出された樹脂が第1冷却ロールに接触する位置P1から第1冷却ロールとタッチロールとのニップの第1冷却ロール回転方向上流端の位置P2までの、第1冷却ローラの周面に沿った長さLを20mmに設定した。その後、タッチロールを第1冷却ロールから離間させ、第1冷却ロールとタッチロールとのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tを測定した。第1冷却ロールとタッチロールとのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tは、ニップ上流端P2よりも更に1mm上流側の位置で、温度計(安立計器株式会社製HA-200E)により測定した。測定の結果、温度Tは141℃であった。タッチロールの第1冷却ロールに対する線圧は14.7N/cmとした。更に、テンターに導入し、幅方向に160℃で1.3倍延伸した後、幅方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落とし、フィルム両端に幅20mm、高さ25μmのナーリング加工を施し、巻き取り張力220N/m、テーパー40%で巻芯に巻き取った。巻芯の大きさは、内径152mm、外径165?180mm、長さ1550mmであった。この巻芯母材として、エポキシ樹脂をガラス繊維、カーボン繊維に含浸させたプリプレグ樹脂を用いた。巻芯表面にはエポキシ導電性樹脂をコーティングし、表面を研磨して、表面粗さRaは0.3μmに仕上げた。尚、膜厚は40μm、巻長は3500mとし、屈折率1.49のセルロースエステルフィルム1を作製した。
【0368】
<ハードコートフィルム1の作製>
セルロースエステルフィルム1上に、下記のハードコート層組成物1を、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、ハードコート層塗布液を調製し、これを押出しコーターを用いてセルロースエステルフィルム1の表面に塗布し、温度80℃で1分乾燥の後、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm^(2)で、照射量を0.2J/cm^(2)として塗布層を硬化させ、図1の加熱ゾーン7で加熱処理せず(室温:25℃)、ドライ膜厚10μmのハードコート層を形成しハードコートフィルム1を作製した。尚、下記バックコート層塗布組成物1をウェット膜厚10μmとなるように、ハードコート層を塗布した面とは反対の面に押出しコータで塗布し、50℃で乾燥させた。
【0369】
(ハードコート層組成物1)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 90質量部
(NKエステルA-DPH、新中村化学工業株式会社製)
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 60質量部
ウレタンアクリレート 10質量部
(新中村化学工業社製 商品名U-4HA)
イルガキュア184 8質量部
(チバ・ジャパン株式会社製)
イルガキュア907 10質量部
(チバ・ジャパン株式会社製)
ポリエーテル変性シリコーン化合物 9質量部
(商品名;KF-355A、信越化学工業株式会社製)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 162質量部
酢酸エチル 4質量部
メチルエチルケトン 14質量部
(バックコート層塗布組成物1)
ジアセチルセルロース 0.6質量部
アセトン 35質量部
メチルエチルケトン 35質量部
メタノール 35質量部
シリカ粒子の2%メタノール分散液(KE-P30、日本触媒株式会社製)
16質量部
<反射防止フィルム1の作製>
上記作製したハードコートフィルム1について、再び繰り出して、図1に示す装置で、ハードコート層表面上に下記の低屈折率層塗布組成物1を、乾燥後の膜厚が85nmとなるように、マイクログラビアコーターで塗布し、温度80℃で1分間乾燥させ、次いで酸素濃度が0.5体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い照射部の照度が200mW/cm^(2)、照射量を0.35J/cm^(2)条件で硬化させた後、図1の加熱ゾーン7で加熱処理せず(室温:25℃)、搬送張力200N/mで通して、低屈折率層を形成し、ロール状に巻き取った。次いで、60℃で2日間加熱エージング処理して反射防止フィルム1を作製した。得られた反射防止フィルムの低屈折率層の屈折率は1.37であった。

(中略)

【0374】
プロピレングリコールモノメチルエーテル 63質量部
酢酸メチル 24質量部
メチルエチルケトン 93質量部
<反射防止フィルム4の作製>
反射防止フィルム1の作製においてハードコート層組成物1に含まれる溶剤の組成を以下の通りとした以外は同様にして反射防止フィルム4を作製した。
【0375】
プロピレングリコールモノメチルエーテル 36質量部
酢酸メチル 36質量部
メチルエチルケトン 108質量部
<反射防止フィルム5の作製>
反射防止フィルム1の作製においてハードコート層組成物1に含まれる溶剤の組成を以下の通りとした以外は同様にして反射防止フィルム5を作製した。
【0376】
プロピレングリコールモノメチルエーテル 18質量部
酢酸メチル 81質量部
メチルエチルケトン 81質量部
<反射防止フィルム6の作製>
反射防止フィルム1の作製においてハードコート層組成物1に含まれる溶剤の組成を以下の通りとした以外は同様にして反射防止フィルム6を作製した。

(中略)

【0392】
《評価》
(混合領域層の厚み比率の解析方法について)
ハードコート層を塗布したフィルムの断面を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察し、ハードコートの総厚、混合領域層の厚みを測定し、下記式により厚みの比率Xを求めた。
【0393】
〈混合領域層とハードコート層との厚みの比率X〉
X(%)=(混合領域層の厚み/ハードコート層の厚み)×100
次いで、上記作製した反射防止フィルムについて、下記方法により評価した。得られた結果を表1に示した。
【0394】
(湿熱処理)
反射防止フィルムについて、それぞれA4サイズにカットし、低屈折率層を表面にして、温度80℃、湿度90%RHの高温高湿環境試験器にて、500時間保存後し、湿熱処理サンプルを作製した。次に湿熱処理した反射防止フィルムを、温度23℃、相対湿度55%の条件で、24時間調湿して、下記の耐擦傷性、密着性、及び耐薬品性について評価した。
【0395】
(耐擦傷性)
湿熱処理した反射防止フィルムの低屈折率層面に、1000g/cm^(2)の荷重をかけた日本スチールウール株式会社製の品番#0000のスチールウールを載せて20往復させ、20往復後の1cm幅当たりに生じた傷の本数を測定した。
【0396】
実用上、傷の本数は5本/cm幅以下が好ましく、更に好ましくは3本/cm幅以下、特に好ましくは1本/cm幅以下である。
【0397】
傷の本数が0本であったものは◎、5本以下であったものは○、5本以上であったものは×とした。
【0398】
スチールウールを往復させた装置は、新東科学株式会社摩擦摩耗試験機(トライボステーションTYPE:32、移動速度4000mm/min.)を使用した。
【0399】
(密着性)
湿熱処理した反射防止フィルムの低屈折率層面に、片刃のカミソリの刃を面に対して90°の角度で切り込みを1mm間隔で縦横に11本入れ、1mm角の碁盤目を100個作製した。この上に市販のセロハン製テープを貼り付け、その一端を手で持って垂直に力強く引っ張って剥がし、切り込み線からの貼られたテープ面積に対する薄膜が剥がされた面積の割合を目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0400】
◎:全く剥離されなかった
○:剥離された面積割合が5%未満であった
△:剥離された面積割合が10%未満であった
×:剥離された面積割合が10%以上であった
(耐薬品性)
耐薬品性1:エタノールと10質量%水酸化カリウム溶液の質量比1:1の混合液体
湿熱処理した反射防止フィルムの低屈折率層面を、エタノールと10質量%水酸化カリウム溶液の混合液体を染み込ませたベンコット(旭化成株式会社製、製品名M-3)を用いて、同一箇所を20往復擦り、擦った後の状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0401】
耐薬品性2:リグロイン
湿熱耐久試験した反射防止フィルムの低屈折率層面を、リグロイン(和光純薬社製)を染み込ませた。
【0402】
ベンコット(旭化成株式会社製、製品名M-3)を用いて、同一箇所を20往復擦り、擦った後の状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0403】
尚、反射防止フィルム表面の擦りには、以下の装置を使用した。
【0404】
表面擦り装置:新東科学株式会社摩擦摩耗試験機(トライボステーションTYPE:32、移動速度4000mm/min.)荷重1000g/cm^(2)、先端部接触面積:1cm×1cm
耐薬品性1:エタノールと10質量%水酸化カリウム溶液の質量比1:1の混合液体、及び耐薬品性2:リグロインの評価基準
◎:剥離無し
○:僅かな剥離が見られるレベル(実用上問題なし)
△:剥離が見られる
×:擦った箇所が全て剥離している。
【0405】
【表1】

【0406】
表1の結果から分かるようにハードコート膜の混合領域層の割合が1%?25%、特に10?15%において湿熱試験500時間後の耐擦傷性、密着性、耐薬品性の評価において優れた性能が得られていることがわかる。」

イ 記載事項ア(ア)に基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「基材フィルム上に少なくとも1層のハードコート層、及び低屈折率層を有する反射防止フィルムにおいて、該基材フィルムとハードコート層との間に、基材フィルムとハードコート層が混合した混合領域層を有し、下記式で表される該混合領域層と該ハードコート層との厚みの比率Xが、1?25%の範囲にあり、かつ低屈折率層が少なくとも1種類のカチオン重合性化合物を含有することを特徴とする反射防止フィルム。
X(%)=(混合領域層の厚み/ハードコート層の厚み)×100」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用文献2
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成22年3月25日に頒布された刊行物である特開2010-65109号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される熱可塑性アクリル樹脂(以下、単に「アクリル樹脂」ともいう)は、高い光線透過率を有するなど、その光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスにすぐれていることから、自動車部品や家電製品をはじめとする各種工業部品などにおける透明材料や光学関連用途に幅広く使用されている。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの化合物は主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題が残る。高温での成型時における発泡、ブリードアウトの発生の抑制も必ずしも十分であるといえない。また、アクリル樹脂と紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物から成形材を形成する際に、得られた成形材の外観上の欠点を減らすことを目的として、ポリマーフィルターによる樹脂組成物の濾過を行うことがあるが、この場合、樹脂組成物の成形温度をさらに高くする必要がある。成形温度が高くなると、発泡やブリードアウトが発生しやすくなるとともに、紫外線吸収剤の蒸散に伴う紫外線吸収能の低下や、成形装置の汚染といった問題が生じやすくなる。
【0009】
本発明は、アクリル樹脂、紫外線吸収剤およびゴム質重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、ガラス転移温度の高さに基づく、優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、紫外線吸収剤の蒸散による問題の発生を低減できる機械的強度に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性アクリル樹脂(アクリル樹脂(A))と、分子量が700以上の紫外線吸収剤(B)およびゴム質重合体(C)とを含み、110℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0011】
本発明のフィルムは上記熱可塑性アクリル樹脂と分子量が700以上の紫外線吸収剤およびゴム質重合体とを含み、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物からなる。
【0012】
本発明の偏光子保護フィルムは本発明のフィルムの1種であり、上記本発明の樹脂組成物からなる。」

(3)引用文献3
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の2005年11月10日に頒布された刊行物である国際公開第2005/105918号(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「 [0003] アクリル樹脂フィルムは透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内層および外装材等の表面表皮に用いられたり、ポリカーボネート、塩化ビニルなどの表皮保護等の広範な分野で使用されている。」

(4)引用文献4
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の2007年2月8日に電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2007/015512号(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「 [0002] ポリメチルメタタリレート(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂は、光学特性に優れ、特に全光線透過率が高く、複屈折率や位相差が低いことから、高い光学的等方性を有する材料として、様々な光学用途に使用されてきた。しかし、近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置などのフラットディスプレイや、赤外線センサー、光導波路などの進歩に伴い、光学材料は、透明性や耐熱性に優れるだけでなく、高い光学的等方性を有する、いわゆる低複屈折材料が必要とされるようになってきた。」

(5)引用文献5
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成17年8月18日に頒布された刊行物である特開2005-219272号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0114】
ハードコート層の紫外線硬化樹脂層は、エチレン性不飽和モノマーを含む成分を重合させて形成した樹脂層であることが好ましい。ここで、紫外線硬化樹脂層は、紫外線の外に電子線のような活性線照射により架橋反応などを経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。紫外線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることが出来る。

(中略)

【0116】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステルポリオールに2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る(例えば、特開昭59-151112号を参照)。

(中略)

【0122】
紫外線硬化樹脂層は公知の方法で塗設することが出来る。

(中略)

【0126】
こうして得た硬化皮膜層に、ブロッキングを防止するため、また対擦り傷性等を高めるために無機或いは有機の微粒子を加えることが好ましい。例えば、無機微粒子としては酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウム等を挙げることが出来、また有機微粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、或いはポリ弗化エチレン系樹脂粉末等を挙げることが出来、紫外線硬化性樹脂組成物に加えることが出来る。これらの微粒子粉末の平均粒径としては、0.005μm?1μmが好ましく0.01?0.1μmであることが特に好ましい。」

イ 「【0204】
実施例1
長さ2600m、幅1.4m、膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを下記のように作製した。この透明長尺基材フィルムに、下記に示すような第1ナーリング部を設けた。次いで基材フィルムの一方の面にバックコート層を設け、更にバックコート層とは反対の面にハードコート層を巻き取らずに連続的に設け、次いで下記反射防止層を塗設して光学フィルムNo.1?9を作製した。

(中略)

【0207】
〈バックコート層塗布組成物〉
アセトン 30質量部
酢酸エチル 45質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
ジアセチルセルロース 0.5質量部
超微粒子シリカ2%アセトン分散液(アエロジル200V)0.2質量部
(日本アエロジル(株)製)
(ハードコート層の塗設)
前記バックコート層とは反対の面に下記ハードコート層塗布組成物をダイコートし、80℃で5分間乾燥した後160mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、下記反射防止層との乾燥膜厚の合計が5μmとなるようにハードコート層を設け、ハードコートフィルムを作製した。
【0208】
〈ハードコート層塗布組成物〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 70質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 30質量部
光反応開始剤 4質量部
(イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製))
酢酸エチル 150質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 150質量部
シリコン化合物 0.4質量部
(BYK-307(ビックケミージャパン社製))
ハードコート層の鉛筆硬度を測定したところ3Hの硬度を示し、耐擦り傷性効果を示した。」

(6)引用文献6
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成17年2月17日に頒布された刊行物である特開2005-41205号公報(以下、「引用文献6」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0123】
ハードコート層(g)は、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリレート化合物を含む組成物が挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、などの単官能アクリレート化合物、さらに、(メタ)アクリロイル基が分子内に2個以上の多官能(メタ)アクリレート化合物は、耐溶剤性等が向上するので本発明においては特に好ましい。多官能(メタ)アクリレートの具体例には、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用してもよい。さらに、シリカなどの微粒子、テトラエトキシシランなどの反応性珪素化合物を含んでいてもよい。これらのうち、生産性および硬度の点から紫外線硬化型の多官能(メタ)アクリレートを含む組成物が好ましく用いられる。」

(7)引用文献7
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成20年7月17日に頒布された刊行物である特開2008-165041号公報(以下、「引用文献7」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0018】
本発明のハードコートフィルムにおいては、前記ハードコート層形成用樹脂組成物が、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基を表面に有する反応性無機微粒子を、更に含有していることが好ましい。
【0019】
本発明のハードコートフィルムに用いる前記反応性無機微粒子の平均粒子径が、20?500nmであることが、硬化膜の硬度を向上させる点から好ましい。
【0020】
本発明のハードコートフィルムに用いる、前記反応性無機微粒子を被覆している前記有機成分が、被覆前の無機微粒子の単位面積当たり1.00×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが、硬化膜の硬度を向上させる点から好ましい。
【0021】
本発明のハードコートフィルムに用いる前記反応性無機微粒子が、飽和又は不飽和カルボン酸、当該カルボン酸に対応する酸無水物、酸塩化物、エステル及び酸アミド、アミノ酸、イミン、ニトリル、イソニトリル、エポキシ化合物、アミン、β-ジカルボニル化合物、シラン、及び官能基を有する金属化合物よりなる群から選択される1種以上の分子量500以下の表面修飾化合物の存在下、分散媒としての水及び/又は有機溶媒の中に無機微粒子を分散させることにより得られることが、有機成分含量が少なくても膜強度を向上させる点から好ましい。
【0022】
本発明のハードコートフィルムに用いる前記表面修飾化合物が、少なくとも1種の水素結合形成基を有する化合物であることが、有機成分を効率よく表面修飾できる点から好ましい。
【0023】
本発明のハードコートフィルムに用いる前記表面修飾化合物の少なくとも1種が、重合性不飽和基を有することが好ましい。この場合、導入された反応性無機微粒子は架橋結合を形成しやすいため、硬化膜の硬度を向上することができる。」

イ 「【0088】
〔反応性無機微粒子〕
無機微粒子をハードコート層に含有させることにより、ハードコート性を向上させることが一般になされている。また、架橋反応性を有する無機微粒子と、硬化性バインダーを架橋反応させ、架橋構造を形成することにより、ハードコート性を更に向上させることができる。反応性無機微粒子とは、コアとなる無機微粒子の少なくとも表面の一部に有機成分が被覆し、当該有機成分により導入された反応性官能基を表面に有する無機微粒子のことである。反応性無機微粒子には、1粒子あたりコアとなる無機微粒子の数が2つ以上のものも含まれる。また、反応性無機微粒子は、粒子径を小さくすることにより含有量のわりに、マトリクス内での架橋点を高めることができる。
【0089】
本発明においては、十分な耐擦傷性を有するように硬度を著しく向上させることを目的として、上記反応性無機微粒子を、第2の光硬化性樹脂を含有するハードコート層形成用樹脂組成物に含有させることが好ましい。当該反応性無機微粒子は、ハードコート層に更に機能を付与するものであっても良く、目的に合わせて適宜選択して用いる。
【0090】
無機微粒子としては、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物微粒子、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物微粒子などが挙げられる。金属微粒子、金属硫化物微粒子、金属窒化物微粒子等を用いても良い。
【0091】
硬度が高い点からは、シリカ、酸化アルミニウムが好ましい。また、相体的に高屈折率層とするためには、ジルコニア、チタニア、酸化アンチモン等の膜形成時に屈折率が高くなる微粒子を適宜選択して用いることができる。同様に、相対的に低屈折率層とするためには、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子や、中空シリカ微粒子などの膜形成時に屈折率が低くなる微粒子を適宜選択して用いることができる。更に、帯電防止性、導電性を付与したい場合には、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ等を適宜選択して用いることができる。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
無機微粒子の表面には通常、無機微粒子内ではこの形態で存在できない基を有する。これら表面の基は通常、相対的に反応しやすい官能基である。例えば金属酸化物の場合には、例えば水酸基及びオキシ基、例えば金属硫化物の場合には、チオール基及びチオ基、又は例えば窒化物の場合には、アミノ基、アミド基及びイミド基を有する。
【0092】
本発明に用いられる反応性無機微粒子は、少なくとも表面の一部に有機成分が被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基を表面に有する。ここで、有機成分とは、炭素を含有する成分である。また、少なくとも表面の一部に有機成分が被覆されている態様としては、例えば金属酸化物微粒子の表面に存在する水酸基にシランカップリング剤等の有機成分を含む化合物が反応して、表面の一部に有機成分が結合した態様のほか、例えば金属酸化物微粒子の表面に存在する水酸基に水素結合等の相互作用により有機成分を付着させた態様や、ポリマー粒子中に1個又は2個以上の無機微粒子を含有する態様などが含まれる。
【0093】
当該被覆している有機成分は、無機微粒子同士の凝集を抑制し、且つ無機微粒子表面への反応性官能基数を多く導入して膜の硬度を向上させる点から、粒子表面のほぼ全体を被覆していることが好ましい。このような観点から、反応性無機微粒子を被覆している前記有機成分は、反応性無機微粒子中に、被覆前の無機微粒子の単位面積当たり1.00×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが好ましい。無機微粒子表面に有機成分を付着乃至結合させた態様においては、反応性無機微粒子を被覆している前記有機成分が、反応性無機微粒子中に、被覆前の無機微粒子の単位面積当たり2.00×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが更に好ましく、3.50×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが特に好ましい。ポリマー粒子中に無機微粒子を含有する態様においては、反応性無機微粒子を被覆している前記有機成分が、反応性無機微粒子中に、被覆前の無機微粒子の単位面積当たり3.50×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが更に好ましく、5.50×10^(-3)g/m^(2)以上含まれることが特に好ましい。
当該被覆している有機成分の割合は、通常、乾燥粉体を空気中で完全に燃焼させた場合の重量減少%の恒量値として、例えば空気中で室温から通常800℃までの熱重量分析により求めることができる。
なお、単位面積当りの有機成分量は、以下の方法により求めたものである。まず、示差熱重量分析(TGA)により、有機成分重量/無機成分重量を測定する。次に、重量と用いた無機微粒子の比重から無機成分全体の体積を計算する。また、被覆前の無機微粒子が真球状であると仮定し、被覆前の無機微粒子の平均粒径から被覆前の無機微粒子1個当りの体積を計算する。無機成分全体の体積と被覆前の無機微粒子1個当たりの体積から、被覆前の無機微粒子の個数を求める。次に、反応性無機微粒子1個当りの有機成分重量を、被覆前の無機微粒子1個当りの表面積で割ることにより、被覆前の無機微粒子の単位面積当たりの有機成分量を求めることができる。
【0094】
反応性無機微粒子の平均粒子径は硬度の点から20nm以上500nm以下であることが好ましいが、更に好ましくは30nm以上250nm以下であり、特に好ましくは30nm以上150nm以下である。反応性無機微粒子の粒子径を小さくすることにより、含有量のわりにマトリクス内での架橋点を高めることができるからである。
また、透明性を損なうことなく、樹脂のみを用いた場合の復元率を維持しつつ、硬度を著しく向上させる点から、前記反応性無機微粒子は粒径分布が狭く、単分散であることが好ましい。
なお、ここでの平均粒子径は、50%平均粒子径であり、例えば、日機装(株)社製Microtrac粒度分析計を用いて求めることができる。
【0095】
また、反応性無機微粒子は、前記第2の光硬化性樹脂と架橋反応し得る基を有することが好ましい。特に、硬化膜の硬度を向上させる観点から、重合性不飽和基が好適に用いられ、好ましくは光硬化性不飽和基であり、特に好ましくは電離放射線硬化性不飽和基である。その具体例としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合及びエポキシ基等が挙げられる。

(中略)

【0131】
反応性無機微粒子としては、分散媒を含有しない粉末状の微粒子を用いてもよいが、分散工程を省略でき、生産性が高い点から微粒子を溶剤分散ゾルとしたものを用いることが好ましい。
反応性無機微粒子の含有量は、前記第2の光硬化性樹脂100重量部に対し、1?50重量部であることが好ましく、更に2?30重量部であることが好ましい。1重量部未満の場合、ハードコート層表面の硬度が不十分となる恐れがあり、50重量部超過の場合、充填率が上がりすぎてかえって膜強度が下がってしまう恐れがある。」

ウ 「【0138】
4.浸透層
本発明のハードコートフィルムは、前記透明基材と、前記中間層との間に、少なくとも透明基材と、前記中間層形成用樹脂組成物の一部の硬化物とが混合した浸透層を有することが、干渉縞の発生を防止する点で好ましい。
【0139】
このような浸透層を含む層構成のハードコートフィルムは、後述する本発明のハードコートフィルムの製造方法により得ることができる。上記重合性単量体(2)が前記透明基材に浸透して硬化しているので、透明基材-中間層間の密着性が非常に優れたものになる。本発明においては、透明基材からの中間層の剥離といった問題が生じないため耐熱性や耐水性等の信頼性が高くなるという利点を有する。
【0140】
前記浸透層の厚さは、1?15μmの範囲内、特に、4?12μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、有効に界面反射及び干渉縞の発生を防止し、且つ透明基材-中間層間の密着性を向上させることができるからである。
当該領域の存在は、例えば、塗膜の断面から顕微IRによるマッピングやTOF-SIMS法によって、確認することができる。」

エ 「【0217】
<実施例1:硬化プロセスA>
基材として80μm厚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム製)を用い、その上に中間層としてウレタンアクリレート(紫光UV1700-B:商品名、日本合成(株)製)90部、シリカハイブリッド樹脂(コンポセランE201:商品名、荒川化学工業製)5部、アルミキレート(ALCH:商品名、川研ファインケミカル製)5部の混合物を溶剤で固形分35%に調製した中間層形成用樹脂組成物を、ドライ厚みで約3μm塗工し、光量10mJで硬化させた。
【0218】
次に前記光硬化後の中間層の上にハードコート層としてウレタンアクリレート(紫光UV1700-B:商品名、日本合成(株)製)70部、シリカ微粒子30部の混合物をドライ厚みで約15μm塗工し、光量200mJで硬化させた。
【0219】
前記光硬化後の中間層と前記光硬化後のハードコート層との積層体を加熱することにより、総厚約98μmのハードコートフィルムを得た。」

(8)引用文献8
平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成14年2月5日に頒布された刊行物である特開2002-36436号公報(以下、「引用文献8」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0018】本発明に用いるハードコートは公知の硬化性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線重合性樹脂等があるが、活性エネルギー線重合性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としてはメラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のプレポリマーの架橋反応を利用するものがある。本発明において「活性エネルギー線によって架橋された重合性樹脂を主体とする」とは、活性エネルギー線による架橋性樹脂の他に、後出の無機あるいは有機微粒子、重合開始剤、その他の添加剤を含有しても良いことを意味する。

(中略)

【0025】これらの活性エネルギー線硬化層に、無機あるいは有機微粒子を添加することで、膜としてのユニバーサル硬度を調節、架橋収縮率を改良することができる。
【0026】微粒子としては、無機酸化物や内部架橋のポリマー樹脂粒子が好ましい。硬度が高いものとしては、モース硬度が6以上の無機酸化物粒子が好ましい。例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子が含まれる。
【0027】有機微粒子としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリシロキサン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ナイロン等の樹脂粒子等があり、それらの中でポリメタクリル酸メチル(ジビニルベンゼン共重合体)、ポリシロキサン、ポリスチレン、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂、またこれら複合体からなる粒子が好ましい。内部架橋のポリマー樹脂微粒子が好ましい。
【0028】これらの微粒子の平均粒子径は、1nm以上400nm以下、より好ましくは5nm以上200nm以下、さらに好ましくは10nm以上100nm以下が好ましい。1nm以下では分散が難しく凝集粒子ができ、400nm以上ではヘイズが大きくなり、どちらも透明性を落としてしまい好ましくない。
【0029】これらの微粒子の添加量は、活性エネルギー線硬化層の全量の1ないし99質量%であることが好ましく、5ないし80質量%であることがより好ましく、10ないし50質量%であることがさらに好ましい。
【0030】一般に無機微粒子はバインダーポリマー(多官能モノマー)との親和性が悪いため単に両者を混合するだけでは界面が破壊しやすく、膜として割れ、耐傷性を改善することは困難である。無機微粒子とポリマーバインダーとの親和性は改良するため、無機微粒子表面を有機セグメントを含む表面修飾剤で処理することができる。表面修飾剤は、一方で無機微粒子と結合を形成し、他方でバインダーポリマーと高い親和性を有することが必要であり、金属と結合を生成し得る官能基としては、シラン、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシド化合物や、リン酸、スルホン酸、カルボン酸基等のアニオン性基を有する化合物が好ましい。またバインダーポリマーとは化学的に結合させることが好ましく、末端にビニル性重合基等を導入したものが好適である。例えば、エチレン性不飽和基を重合性基および架橋性基として有するモノマーからバインダーポリマーを合成する場合は、金属アルコキシド化合物またはアニオン性化合物の末端にエチレン性不飽和基を有していることが好ましい。
【0031】これら表面修飾剤の代表例としては、H_(2)C=C(CH_(3))COOC_(3)H_(6)Si(OCH_(3))_(3)、H_(2)C=CHCOOC_(2)H_(4)OTi(OC_(2)H_(5))_(3)、H_(2)C=C(CH_(3))COOC_(2)H_(4)OCOC_(5)H_(10)OPO(OH)_(2)、(H_(2)C=C(CH_(3))COOC_(2)H_(4)OCOC_(5)H_(10)O)_(2)POOH、H_(2)C=C(CH_(3))COOC_(2)H_(4)OSO_(3)H、H_(2)C=CHCOO(C_(5)H_(10)COO)_(2)H、H_(2)C=CHCOOC_(5)H_(10)COOH等の不飽和二重結合含有のカップリング剤やリン酸、スルホン酸、カルボン酸等が挙げられる。」


4 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「基材フィルム」は、その上にハードコート層等を有し「反射防止フィルム」を構成するものであるから、「反射防止フィルム」において、「基材フィルム」から形成される「層」として存在するといえる。そうすると、引用発明の「基材フィルム」を構成する「層」と、本件発明の「(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成された基材層」とは、「基材層」である点で共通する。

(2)引用発明の「ハードコート層」は、基材フィルムの上に設けられるものである。そうすると、引用発明の「ハードコート層」と、本件発明の「該(メタ)アクリル系樹脂フィルム上に配置され、硬化性化合物および無機ナノ粒子を含むハードコート層形成用組成物の硬化物を含むハードコート層」とは、「フィルム上に配置されるハードコート層」である点で共通する。

(3)引用発明の「混合領域層」は、「該基材フィルムとハードコート層との間」に位置する。また、引用発明の「混合領域層」は、「基材フィルムとハードコート層が混合した」ものであるから、ハードコート層を形成する組成物が基材フィルムへ浸透して形成されているといる。そうすると、引用発明の「混合領域層」と、本件発明の「該基材層と該ハードコート層との間に、該ハードコート層形成用組成物が該(メタ)アクリル系樹脂フィルムに浸透して形成された、厚みが1.2μm以上の浸透層」とは、「該基材層と該ハードコート層との間に、該ハードコート層形成用組成物が該フィルムに浸透して形成された浸透層」である点で共通する。

以上より、本件発明と引用発明とは、
「基材層と、
フィルム上に配置されるハードコート層と、
該基材層と該ハードコート層との間に、該ハードコート層形成用組成物が該フィルムに浸透して形成された浸透層とを備える、
光学積層体。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本件発明の基材層は、(メタ)アクリル系樹脂フィルムから形成されたものに限定されているのに対し、引用発明の基材フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに限定されていない点。
[相違点2]本件発明のハードコート層は、硬化性化合物および無機ナノ粒子を含むハードコート層形成用組成物の硬化物を含み、2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物を含み、該2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物の含有割合が、該ハードコート層形成用組成物中の全硬化性化合物に対して、85重量%以下であり、該無機ナノ粒子の含有割合が、該硬化性化合物および該無機ナノ粒子の合計に対して、1.5重量%?50重量%であるのに対し、引用発明のハードコート層は、硬化性化合物および無機ナノ粒子を含むことを限定していない点。
[相違点3]本件発明の浸透層は厚みが1.2μm以上であるのに対し、引用発明の混合領域層は厚みを特定していない点。

5 判断
(1)[相違点1]について
引用文献1の記載事項ア(カ)によれば、基材フィルムはハードコート層との密着性に優れ、光学的に等方性、透明性であれば何れでもよく、アクリルフィルムを用いることも示唆されている。そして、例えば、引用文献2の記載事項ア?ウには、アクリル樹脂が機械的強度等にすぐれていることから偏光子保護フィルムなどの光学関連用途に使用されることが記載されており、引用文献3の記載事項アには、アクリル樹脂フィルムが液晶ディスプレイ用シートまたはフィルムに使用されることが記載されており、引用文献4の記載事項アにも、メタクリル系樹脂が液晶表示装置などの光学材料に用いられることが記載されている。以上のとおり、光学表示装置に用いるフィルムの基材をアクリル系樹脂フィルムとすることは周知技術でもある。
したがって、引用発明において、引用文献1の示唆に基づいて、基材フィルムとして周知のアクリル系樹脂フィルムを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)[相違点2]について
引用文献1の記載事項ア(オ)の段落【0040】?【0042】によれば、ハードコート層には1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリシリトールヘキサメタクリレートなどの多官能アクリレートを用いることが好ましいとされている。そして、例えば、引用文献5の記載事項イには、トリメチロールプロパントリアクリレート30質量部を含むハードコート層塗布組成物を用いることが記載されており、記載事項アには、ハードコート層に用いる紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステルポリオールに2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させることによって得ることが記載されている。引用文献6にも、記載事項アに、ハードコート層は、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能アクリレート化合物を含む組成物が挙げられることが記載されている。以上のとおりハードコート層を、2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物の硬化物とすることは周知技術である。
また、引用文献1の記載事項ア(オ)の段落【0047】?【0050】によれば、ハードコート層は、耐傷性等を調整するために、平均粒径0.01?5μmの無機化合物の微粒子を含むこと、硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.1?30質量部となるように配合することが望ましいとされている。そして、例えば、引用文献5の記載事項アの段落【0126】には、硬化性皮膜に、無機或いは有機の微粒子を加えることが好ましいと記載されており、引用文献7の記載事項アの段落【0018】,【0019】、記載事項イの段落【0088】,【0089】には、ハードコート層として用いる硬化膜の硬度を向上させるために、少なくとも表面の一部を重合性不飽和基を有する有機成分で被覆された反応性無機微粒子を含有すること、記載事項イの段落【0131】に反応性無機微粒子の含有量が光硬化性樹脂100質量部に対し、2?30重量部であることが好ましいこと、記載事項エの実施例1において、ハードコート層としてウレタンアクリレート70部、シリカ微粒子30部の混合物を塗工したことが記載されている。ここで、実施例1のハードコート層は、硬化性化合物及び無機ナノ粒子の合計に対して30重量%の含量の無機ナノ粒子を含有している。さらに、引用文献8の記載事項アにも、ハードコートに用いる活性エネルギー線硬化層に無機微粒子を添加することで膜としてのユニバーサル硬度を調整することが記載されている。以上のとおり、ハードコート層において、硬化性化合物及び無機ナノ粒子の合計に対して1.5重量%?50重量%の範囲の含量の無機ナノ粒子を含有させることも周知技術である。
さらに、ハードコート層において、2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物の含有割合を、全硬化性化合物に対してどの程度とするかは、求めるハードコート層の硬度に応じて当業者が適宜調整しうることである。そして、例えば、引用文献5の記載事項イの実施例1におけるハードコート層塗布組成物は、2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物であるトリメチロールプロパントリアクリレートが、全硬化性化合物に対して30重量%含有されており、含有割合を85重量%以下とすることも従来より知られている。
したがって、引用発明において、ハードコート層を形成するための成分として、ハードコート層形成用組成物中の全硬化性化合物に対して85重量%以下の2?4個の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物と、硬化性化合物及び無機ナノ粒子の合計に対して1.5重量%?50重量%の範囲の含量の無機ナノ粒子を採用することは、当業者が適宜選択しうることである。

(3)[相違点3]について
混合領域層の厚みをどの程度とするかは、必要とする密着性が奏されるように、ハードコート層の厚さに応じて、光学的性質等に影響のない範囲で当業者が適宜最適化しうることである。そして、密着性を奏するためにはある程度以上の膜厚が必要であることは自明である。そして、例えば、引用文献1の記載事項ア(キ)の表1における反射防止フィルムNo.4及びNo.5は、比率X(%)がそれぞれ、15%及び25%であり、段落【0368】,【0374】,【0375】の記載によれば、反射防止フィルムNo.4及びNo.5のハードコート層は、何れもドライ膜厚が10μmであるから、反射防止フィルムNo.4及びNo.5の混合領域層の厚みは、それぞれ、1.5μm(=10μm×15/100)及び2.5μm(=10μm×25/100)である。したがって、混合領域層(浸透層)の厚みを1.2μm以上としたものも引用文献1に開示されている。そして、段落【0406】には、混合領域層の割合が特に10?15%において、優れた性能が得られることも記載されている。また、引用文献7の記載事項ウには、密着性を向上させるためには、浸透層を4?12μmの範囲にすることが好ましいと記載されている。以上のとおり、混合領域層(浸透層)の厚さを1.2μm以上とすることは従来より知られていることである。そして、1.2μmの前後で臨界的な効果の差異が生じるとはいえない。
したがって、引用発明において、混合領域層の厚みを1.2μm以上とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(4)効果について
引用文献1に記載された発明は、記載事項ア(ウ)によれば、「密着性、及び耐擦傷性に優れる」とされるものであるから、本件発明と同様に、基材フィルムとハードコート層との密着性およびハードコート層の耐擦傷性の両方に優れるものである。そして、ハードコート層形成用組成物に無機ナノ粒子を加えることにより耐擦傷性をさらに優れたものとすることは周知の効果でもあるから、本件発明の効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が認識できる程度のものである。

6 請求人の意見について
請求人は、平成29年10月27日付けの意見書において、「当業者が、引用文献1および9、ならびに引用文献2に触れたとしても、(メタ)アクリル系樹脂フィルムを用いた場合の課題(密着性を向上させようと浸透層を形成すると、基材フィルム成分がハードコート層に溶出し、耐擦傷性が低下する問題)を認識することはできず、これらの引用文献を組み合わせることは容易ではありません。」と主張している。
しかし、既に検討したとおり、ハードコート層において、耐擦傷性を向上させるために無機ナノ粒子を加えることは周知技術である。そして、耐擦傷性を向上させることは、基材フィルムが(メタ)アクリル系樹脂フィルムで構成される光学積層体に特有の課題ではない。また、引用文献1には、ハードコート層に無機ナノ粒子を加えることが示唆されてもいる。そして、本願明細書の記載を参酌しても、基材フィルムが(メタ)アクリル系樹脂フィルムで構成される光学積層体のハードコート層に無機ナノ粒子を加えたことにより、得られる耐擦傷性が当業者の予想を超えるものであったとする根拠を見いだせない。

7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-27 
結審通知日 2017-11-29 
審決日 2017-12-12 
出願番号 特願2012-93003(P2012-93003)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 鉄 豊郎
宮澤 浩
発明の名称 光学積層体  
代理人 籾井 孝文  

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