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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て不成立) C12N
管理番号 1338186
判定請求番号 判定2017-600041  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 判定 
判定請求日 2017-10-03 
確定日 2018-03-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第6171007号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を含む組成物」は、特許第6171007号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は、イ号説明書に示す組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を含む組成物(以下、「イ号物件」という。)は、特許第6171007号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものである。

第2 手続の経緯
本件特許発明についての出願は、平成25年6月28日(パリ条約による優先権主張 2012年6月29日 米国)に特許出願され、平成29年7月7日に特許権の設定登録がされたものである。
それに対して、平成29年10月3日にグリーン・クロス・コーポレイションから本件判定の請求がされ、平成29年10月27日付けで被請求人に判定請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは応答がなかった。

第3 本件特許発明
1 本件特許発明の構成
本件特許発明は、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであり(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」等という。)、このうち本件特許発明1を構成要件ごとに分説すると次のとおりである。
「【請求項1】
A 配列番号1のアミノ酸配列を含む精製された組換えイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を含む組成物であって、
B 精製された組換えI2Sは、配列番号1のCys59に対応するシステイン残基の、Cα-ホルミルグリシン(FGly)への少なくとも70%の転換を含み、
C 精製された組換えI2S中に宿主細胞タンパク質(HCP)が存在しないか、または、精製された組換えI2S中にHCPが存在し、かつ、HCPの量が、150ng/mg未満であり、
D 精製された組換えイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)は、アニオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーをこの順で行うことにより、組換えI2Sの不純調製物から6つ未満のクロマトグラフィーステップで得られる、組成物。」

2 本件特許発明の課題と効果
本件特許明細書(段落【0003】?【0006】)によれば、本件特許発明は、I2Sの欠損を原因とするハンター症候群の患者に投与(酵素補充療法)するための精製されたI2Sを含む組成物である。
本件特許発明は、従来の酵素補充療法用の精製プロセスよりも効果的、安価で速いプロセスを提供するという課題を、特定のクロマトグラフィーステップを採用することにより解決し、酵素補充療法用組成物に求められる純度を満たし、高いFGly転換率、すなわち活性を保持した組換えI2Sを含む組成物を得ることができたというものである(段落【0006】)。

第4 イ号物件
判定請求書に添付して提出された「イ号説明書」及び判定請求書の「6(4)イ号の説明」によれば、イ号物件は次のとおりの構成a?cを具備するものである。
「a 配列番号1のアミノ酸配列を含む精製された組換えイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を含む組成物であって、
b 配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む発現ベクターで形質転換したCHO細胞を培養して培養上清を得て、
c 当該培養上清について、Q Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー、Phenyl Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー、CM Sepharose Fast Flow(登録商標)、SP Sepharose Fast Flow(登録商標)、S Sepharose Fast Flow(登録商標)またはCapto MMC(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー、およびBlue Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィーをこの順で行うことにより得られる組成物。」

第5 判断
1 構成要件Aについて
本件特許発明1の「配列番号1のアミノ酸配列」とイ号物件の「配列番号1のアミノ酸配列」とは同一であるから、イ号物件の構成aは本件特許発明1の構成要件Aを充足する。

2 構成要件Bについて
(1)構成要件Bの技術的意義
I2SはCys59がFGlyに転換されることによってはじめて活性化するものであるから(段落【0073】)、本件特許発明1の構成要件Bは、精製された組換えI2Sが酵素補充療法に適した活性を保持したものであることを特定したものといえる。そして、本件特許明細書には、Cys59をFGlyに転換する手法として、ホルミルグリシン生成酵素(FGE)を発現する細胞内でI2Sを製造することが記載されている(段落【0073】)。

(2)構成要件Bの充足性
イ号物件の構成bにおいて「配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む発現ベクターで形質転換したCHO細胞」は、その細胞内でI2Sを製造するものである。そして、CHO細胞は、I2S遺伝子を組換え発現させて活性を有するI2Sを製造することができる宿主細胞として使用されているから(例えば、特許第6018572号公報、特許第5844459号公報、米国特許第5,932,211号明細書、及び米国特許第6,541,254号明細書を参照のこと)、細胞内にFGEを発現する細胞であるといえ、その細胞内で製造されたI2SはCys59の少なくとも70%がFGlyに転換したものである蓋然性が高い。実際、請求人らによる特許第5844459号公報(実施例1、特に段落【0087】)に、配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む発現ベクターで形質転換したCHO細胞を培養して得た培養上清から精製したI2Sは、Cys59のFGlyへの転換率が80±15%であったという実験結果が示されているとおりである。
したがって、イ号物件は、構成bにより、本件特許発明1の構成要件Bを充足するものであると認められる。

3 構成要件Cについて
(1)構成要件Cの技術的意義
組換えタンパク質を精製するにあたって、主たる夾雑物が宿主細胞タンパク質(HCP)であることは技術常識であり、本件特許明細書の記載(例えば、段落【0006】?【0007】)に照らしても、本件特許発明1の構成要件Cは、精製された組換えI2Sが酵素補充療法に適した純度のものであることを特定したものといえる。

(2)構成要件Cの充足性
イ号物件は、構成cのとおり、培養上清について4種類のクロマトグラフィーを行うことにより得られる組成物である。請求人の主張、本件特許明細書の記載及び技術常識に照らすと、構成cのうち「Q Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー」はアニオン交換カラムクロマトグラフィー、「Phenyl Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー」は疎水性相互作用クロマトグラフィー、「CM Sepharose Fast Flow(登録商標)、SP Sepharose Fast Flow(登録商標)、S Sepharose Fast Flow(登録商標)またはCapto MMC(登録商標)」はカチオン交換カラムクロマトグラフィー、「Blue Sepharose(登録商標)を充填したカラムを用いたクロマトグラフィー」は色素親和性カラムクロマトグラフィーである。このように、それぞれ相異なる結合特性を利用したクロマトグラフィーを4種類程度組み合わせれば、目的タンパク質を相当な高純度で得ることができるというのが技術常識であるから(例えば、特許第6018572号公報)、イ号物件も本件特許発明1の構成要件C程度の純度のものである蓋然性が高い。実際、請求人らによる特許第5844459号公報(段落【0097】及び図13)には、イ号物件の構成cと同じ製造方法により純度100%の組換えI2Sを得たことが記載されている。
したがって、イ号物件は、構成cにより、本件特許発明1の構成要件Cを充足するものであると認められる。

4 構成要件Dについて
本件特許発明1は、構成要件A?Cという構造ないし特性を兼ね備えた「組成物」という物の発明であるところ、構成要件Dはその物の製造方法を記載したものである。このように、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものである(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。したがって、本件判定においても、イ号物件の充足性は、イ号物件が、本件特許発明1の構成要件Dにより製造された組成物と構造、特性等が同一といえるか否かの観点で判断を行うことになる。
本件特許発明1の構成要件Dは、組換えI2Sの不純調製物について、異なる4種類のクロマトグラフィーを順に行うことを特定しているところ、本件特許明細書には、そのようなプロセスにより、精製されたI2S中に含まれるHCPの量を100ng/mg未満程度まで低減できることが記載され(段落【0007】)、実施例1(段落【0137】?【0144】)には、組換え宿主細胞を培養して得た培養上清について、アニオン交換クロマトグラフィーであるCapto Q(登録商標)クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィーであるセラミックスヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーであるSP Sepharose(登録商標)クロマトグラフィー、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーであるPhenyl Sepharose(登録商標)クロマトグラフィーをこの順で行うことにより、すなわち、構成要件Dの製造方法により、HCPが62.5ng/mg未満であるI2Sを含む組成物を得たことが記載されている(表4)。よって、構成要件Dの製造方法により製造された組成物は構成要件Cの特性を有するものであるといえる。
そうすると、上記3のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Cを充足するものであるのだから、構成要件Dの製造方法により製造された組成物と特性が同一であるということになる。

5 むすび
イ号物件は、上記1?3のとおり、本件特許発明1の構成要件A?Cを充足するものであるのだから、上記最高裁判決にしたがい、構成要件Dにかかわらず、本件特許発明1の技術的範囲に属するものである。したがって、本件特許発明2?17について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2018-02-23 
出願番号 特願2015-520567(P2015-520567)
審決分類 P 1 2・ 1- YB (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 長井 啓子
松田 芳子
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6171007号(P6171007)
発明の名称 組換えイズロン酸2スルファターゼの精製  
代理人 井関 勝守  
代理人 森下 夏樹  
代理人 金子 修平  

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