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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特123条1項5号 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1338885
審判番号 不服2017-5632  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-19 
確定日 2018-04-17 
事件の表示 特願2015-545773「エピタキシャルウェハおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/086742、平成28年 1月12日国内公表、特表2016-500475、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2012年12月6日、米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 6月 5日 翻訳文提出・審査請求
平成28年 5月25日 拒絶理由通知
平成28年 8月30日 意見書・手続補正書
平成28年12月14日 拒絶査定
平成29年 4月19日 審判請求
平成29年10月19日 拒絶理由通知(当審)
平成30年 2月19日 意見書・手続補正書

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1ないし10に係る発明は、下記引用文献1及び4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2007-073820号公報
4.特表2007-507885号公報

第3 当審拒絶理由の概要
平成29年10月19日付けで当審より通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1 理由1(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1ないし10について
ア 請求項1及び7に「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素」と記載されているが、窒素の平均濃度を特定するものであるのか、全域における窒素の濃度を特定するものであるのか、それとも、少なくとも一部の領域における窒素の濃度を特定するものであるのかが明確でない。
イ 請求項1及び7の「前記シリコンエピタキシャル層および前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の少なくとも1つ」との記載、並びに、請求項7の「前記シリコンエピタキシャル層および前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つ」との記載の意味が明確でない。

(2)請求項1ないし6について
ア 請求項1の「オプションとして前記シリコンエピタキシャル層の上の1つ以上のさらなるエピタキシャル層とを含み」との記載より、請求項1に係る発明は「シリコンエピタキシャル層の上の1つ以上のさらなるエピタキシャル層」を有しないものを包含するものと認められるところ、請求項1に係る発明が「シリコンエピタキシャル層の上の1つ以上のさらなるエピタキシャル層」を有しない場合には、請求項1ないし6の記載の意味が明確でない。
イ 請求項1に係る発明は、「1つ以上のさらなるエピタキシャル層」が窒素でドープされないものを包含するものと解されるところ、「1つ以上のさらなるエピタキシャル層」が窒素でドープされない場合には、請求項1の「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」との記載の意味が明確でない。
ウ 請求項1の「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」との記載が、「『欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法』によって『窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層』を検出可能であり、さらに、『窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層』は、『窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥』を含まない」との意味であるのか、「『欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法』によっては、『窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層』から『窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥』を検出することができない」との意味であるのかが明確でない。
エ 請求項1には「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」と記載されているが、「エピタキシャル欠陥」を「欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能」であるか否かは、検査に用いる装置の精度や条件等に依存するものと認められ、請求項1においては、検査に用いる装置の精度や条件等が何ら特定されていないから、上記記載により特定される技術事項の範囲が明確でない。
オ 請求項1には「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」と記載されているが、「エピタキシャル欠陥」が「窒素のドープと関係する」か否かを判別する指標が不明であり、どのような場合に、「エピタキシャル欠陥」が「窒素のドープと関係しない」といいえるのかが不明であるから、上記記載により特定される技術事項の範囲が明確でない。

(3)請求項2及び4ないし6について
ア 請求項2の「前記シリコンエピタキシャル層は窒素でドープされ、前記シリコンエピタキシャル層の上に成膜されるさらなるエピタキシャル層は窒素でドープされない」との記載と、請求項2が引用する請求項1の記載が整合していない。

(4)請求項3ないし6について
ア 請求項3の、「前記シリコンエピタキシャル層は窒素でドープされず、前記シリコンエピタキシャル層の上に成膜されるさらなるエピタキシャル層は窒素でドープされる」との記載と、請求項3が引用する請求項1の記載が整合していない。

(5)請求項6について
ア 請求項6が引用する請求項1には、「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」と記載されており、請求項6には、「窒素でドープされる前記シリコンエピタキシャル層、または窒素でドープされる前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つ、または窒素でドープされる前記シリコンエピタキシャル層および窒素でドープされる前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つは、ゲッタリング活動を呈し、酸素のピーク濃度を有する酸素富化領域を含む」と記載されているが、エピタキシャル欠陥を含まないエピタキシャル層が、いかにしてゲッタリング活動を呈することができるのか、発明の詳細な説明及び当該技術分野における技術常識を参酌しても、不明である。
イ 請求項6には、「窒素でドープされる前記シリコンエピタキシャル層」と記載されているが、請求項6が引用する請求項3の記載と整合しない。また、請求項6には、「窒素でドープされる前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つ」と記載されているが、請求項6が引用する請求項2の記載と整合しない。また、請求項6には、「窒素でドープされる前記シリコンエピタキシャル層および窒素でドープされる前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つ」と記載されているが、請求項6が引用する請求項2及び3の記載と整合しない。

(6)請求項7ないし10について
ア 請求項7の「オプションとして前記シリコンエピタキシャル層の上に1つ以上のさらなるエピタキシャル層を成膜することとを含み」との記載より、請求項7に係る発明は、「シリコンエピタキシャル層の上に1つ以上のさらなるエピタキシャル層を成膜すること」を有しないものを包含するものと認められるところ、請求項7に係る発明が「シリコンエピタキシャル層の上に1つ以上のさらなるエピタキシャル層を成膜すること」を有しない場合には、請求項7ないし10の記載の意味が不明確である。
イ 請求項7の記載からは、「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープすること」が、「1つ以上のシリコン前駆物質化合物および1つ以上の窒素前駆物質化合物を含有する成膜ガス雰囲気の存在下での化学蒸着法による成膜」中に行われるのか否かが明確でない。

(7)請求項8及び10について
ア 請求項8の「前記シリコンエピタキシャル層は前記1つ以上の窒素前駆物質化合物の存在下において成膜され、前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つは前記1つ以上の窒素前駆物質化合物がない状態で成膜される」との記載と、請求項8が引用する請求項7の記載が整合していない。

(8)請求項9及び10について
ア 請求項9の前記シリコンエピタキシャル層は前記1つ以上の窒素前駆物質化合物がない状態で成膜され、前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の前記少なくとも1つは前記1つ以上の窒素前駆物質化合物の存在下において成膜される」との記載と、請求項9が引用する請求項7の記載が整合していない。

2 理由2(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1ないし10について
ア 本願の請求項1ないし10に係る発明は、「シリコンエピタキシャル層の上の1つ以上のさらなるエピタキシャル層」が「シリコン」であるとは特定していないから、「シリコンではないエピタキシャル層」(例えば、「SiCエピタキシャル層」)を窒素でドープする発明を包含するものと認められるところ、発明の詳細な説明には、「シリコンではないエピタキシャル層」(例えば、「SiCエピタキシャル層」)を窒素でドープした場合の具体的な試験結果は、何ら示されておらず、そうしたものが本願発明の課題を解決できるのかは不明である。
したがって、発明の詳細な説明に記載された発明を、請求項1ないし10に係る発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
イ 本願の請求項1ないし10には、窒素の濃度が「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度」である旨が記載されている。
他方、発明の詳細な説明には、窒素の濃度が「2×10^(19)原子/cm^(3)」である「サンプル1」と、窒素の濃度が「4×10^(18)原子/cm^(3)」である「サンプル2」についての、「ビッカース微小圧痕試験」の結果は示されているものの、その他の濃度のものについては、具体的な試験結果が何ら示されておらず、窒素の濃度が「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く4×10^(18)原子/cm^(3)より少ない」場合、及び、「2×10^(19)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下」の場合に、本願発明の課題を解決できるのかは不明である。
したがって、発明の詳細な説明に記載された発明を、本願の請求項1ないし10に係る発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
ウ 本願の請求項1ないし10に係る発明は、「シリコンエピタキシャル層」と「1つ以上のさらなるエピタキシャル層」の両方を窒素でドープするものを包含するものと認められるが、本願の発明の詳細な説明、及び図7Aないし図7D等には、そのような発明は記載されていない。

(2)請求項7ないし10について
ア 本願の請求項7ないし10に係る発明は、「シリコン前駆物質化合物」が「ジクロロシラン」ではないもの、及び、「窒素前駆物質化合物」が「アンモニア」ではないものを包含するものと認められる。
他方、本願明細書の段落[0033]ないし[0036]及び[0053]、並びに[図1]等には、「シリコン前駆物質化合物」として「ジクロロシラン」を用い、「窒素前駆物質化合物」として「アンモニア」を用いた場合における、成膜温度と窒素濃度との関係は示されているものの、「シリコン前駆物質化合物」として「ジクロロシラン」以外のものを用い、又は、「窒素前駆物質化合物」として「アンモニア」以外のものを用いた場合における、成膜温度と窒素濃度との関係は、示されていない。
そして、当該技術分野における技術常識を参酌しても、「シリコン前駆物質化合物」として「ジクロロシラン」以外のものを用い、又は、「窒素前駆物質化合物」として「アンモニア」以外のものを用いた場合に、「940℃以下」の成膜条件で、「シリコンエピタキシャル層」を「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素」でドープすることができるのかは、不明である。
したがって、発明の詳細な説明に記載された発明を、本願の請求項7ないし10に係る発明にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項7ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

3 理由3(実施可能要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1ないし10について
ア 本願の請求項1ないし10に係る発明は、シリコンエピタキシャル層(又はエピタキシャル層)における窒素の濃度を、1×10^(20)原子/cm^(3)に近い高濃度としたものを包含するものと認められる。
しかしながら、本願の[図1]ないし[図3]に示されたグラフでは、窒素の濃度は、上限値においても「1×10^(20)原子/cm^(3)」には達しておらず、明細書及び図面のその他の箇所にも、シリコンエピタキシャル層(又はエピタキシャル層)における窒素の濃度を、1×10^(20)原子/cm^(3)に近い高濃度とする方法について、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)請求項1ないし6について
ア 当該技術分野における技術常識より、シリコンエピタキシャル層を1×10^(16)原子/cm^(3)以上の高濃度の窒素でドープした場合には、シリコンエピタキシャル層に多少の結晶欠陥が生じることは不可避と考えられるところ、本願の明細書及び図面には、「前記シリコンエピタキシャル層は1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープされ、または、前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の少なくとも1つは、1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープされ、または、前記シリコンエピタキシャル層および前記1つ以上のさらなるエピタキシャル層の少なくとも1つは、1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープされ」、かつ、「窒素でドープされた前記1つ以上のエピタキシャル層は、欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」ようなものを製造する具体的な方法について、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

4 理由4(進歩性)
この出願の請求項1ないし6に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(注.下記引用文献2は、本願発明の奏する効果が格別のものでないことを示すために引用された。)

引用文献等一覧
1.特開2007-73820号公報
2.特開昭60-246297号公報

5 理由5(原文新規事項)
本願の請求項1及び明細書の段落[0030]には、「断面走査電子顕微鏡法」と記載されているが、国際出願日における国際出願の明細書(国際公開の第7頁第18-19行)には、「Cross-Sectional Transmission Electron Microscopy」(訳すると「断面透過電子顕微鏡法」)と記載されており、「断面走査電子顕微鏡法」は記載も示唆もされていない。
よって、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないから、特許法第49条第6号に該当する(同法第184条の18参照)。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、平成30年2月19日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載される事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハと、前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上に成膜されるシリコンエピタキシャル層とを含み、前記シリコンエピタキシャル層は4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープされた、エピタキシャルウェハ。
【請求項2】
前記シリコンエピタキシャル層は窒素でドープされ、前記シリコンエピタキシャル層の上に成膜されるさらなるシリコンエピタキシャル層は窒素でドープされない、請求項1に記載のエピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記シリコンエピタキシャル層は完全にまたは部分的に前記シリコン基板ウェハを被覆する、請求項1または請求項2に記載のエピタキシャルウェハ。
【請求項4】
前記シリコンエピタキシャル層は、元素周期表のIII属またはV属に属する少なくとも1つの電気的に活性なドーパントでさらにドープされる、請求項1?3の1つに記載のエピタキシャルウェハ。
【請求項5】
エピタキシャルウェハを製造する方法であって、
第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハを与えることと、
ある成膜温度で、前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上にシリコンエピタキシャル層を成膜することとを含み、
前記シリコンエピタキシャル層は、1つ以上のシリコン前駆物質化合物およびアンモニアを含有する成膜ガス雰囲気の存在下で化学蒸着法によって成膜され、前記成膜温度は940℃以下、および前記成膜ガス雰囲気において前記1つ以上のシリコン前駆物質化合物およびアンモニアの分解を引起すのに十分な温度以上であり、前記方法はさらに、前記シリコンエピタキシャル層を、前記成膜中に、4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープすることを含む、方法。
【請求項6】
前記シリコンエピタキシャル層は前記アンモニアの存在下において成膜され、さらなるシリコンエピタキシャル層が1つ以上の窒素前駆物質化合物がない状態で前記シリコンエピタキシャル層上に成膜される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エピタキシャルウェハをエピ後アニールすることをさらに含む、請求項5または請求項6に記載の方法。」

第5 引用文献及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由及び原査定において引用された特開2007-73820号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(当審注.下線は当審において付したもの。以下において同じ。)
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板(12)と前記シリコン基板(12)の表面に成膜されたエピタキシャル層(13)とを備えるエピタキシャルウェーハ(11)において、
前記エピタキシャル層(13)の全部の領域又は厚さ方向の表面を除く一部の領域に窒素が含有されたことを特徴とするエピタキシャルウェーハ。
【請求項2】
エピタキシャル層(13)の窒素が含有された領域の窒素濃度が1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)である請求項1記載のエピタキシャルウェーハ。
(中略)
【請求項4】
原料ガスを反応容器(20)に流通させることにより前記反応容器(20)内に配置されたシリコン基板(12)の表面にエピタキシャル層(13)を成膜するエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記原料ガスの流通の全期間にわたって又は一時期に窒素含有ガスを流すことにより前記エピタキシャル層(13)の全部又は厚さ方向の一部に窒素を含有させることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。」
イ「【0001】
本発明は、シリコン基板とそのシリコン基板の表面に成膜されたエピタキシャル層とを備えるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法に関するものである。」
(中略)
【0004】
しかし、エピタキシャルウェーハは、シリコン基板の表面にシリコン単結晶からなるエピタキシャル層が既に形成されているため、そのエピタキシャルウェーハを更に熱処理することは作業工数を増加させる不具合があった。
また、そのエピタキシャルウェーハに窒化ガスを含む雰囲気ガス中で熱処理して、析出を助長する空孔をエピタキシャル層の内部に深く侵入させても、その表面から離れたところにゲッタリング効果を有する酸素析出核を生じさせることは困難であった。
本発明の目的は、作業工数を増加させることなく、エピタキシャル層の表面から離れた内部にゲッタリング効果を生じさせ得るエピタキシャルウェーハ及びその製造方法を提供することにある。」
ウ「【0011】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明のエピタキシャルウェーハ11は、シリコン基板12とそのシリこのコン基板12の表面に成膜されたエピタキシャル層13とを備える。そして、このエピタキシャルウェーハ11は、図2に示すような反応容器20に、原料ガスを流通させる、反応容器20内に配置されたシリコン基板12の表面にエピタキシャル層13を成膜することにより作られる。
【0012】
図2は、枚葉式のエピタキシャルウェーハの製造装置を示す。この装置における反応容器20は上部ドーム21と下部ドーム22により構成され、この反応容器20の内部にはエピタキシャル成長用の単一のシリコン基板12を支持する支持部材24が設けられる。この反応容器20には上部ドーム21の内部に連通するガス供給口26及びガス排出口27が配設される。このガス供給口26には原料ガスやドープガスを供給するガス導入管28の一端が接続され、ガス排出口27にはガス排出管25が接続される。ガス導入管28やガス排出口27はハステロイのような耐塩酸合金から構成される。
【0013】
この装置では、図示しないが、ドーム21及び22の外側に設けられた熱源によりシリコン基板12を加熱しながら、ガス導入管28及びガス供給口26を通して反応容器20内に原料ガスをキャリアガスとともに導入する。ここで、原料ガスとしてはSiH_(2)Cl_(2)、SiHCl_(3)、SiH_(4)又はSiCl_(4)等が挙げられ、キャリアガスとしてはH_(2)が主に用いられる。導入された原料ガス等は上部ドーム21とシリコン基板12の間の空間を流れ、シリコン基板12の表面にシリコン単結晶薄膜からなるエピタキシャル層13(図1)を形成した後、ガス排出口27を通ってガス排出管25より排出される。
【0014】
そして、本発明の製造方法における特徴ある点は、ガス導入管28及びガス供給口26を通して反応容器20に原料ガスをキャリアガスとともに導入してそれらを反応容器20に流通させる全期間にわたって又は一時期に窒素含有ガスを流すところにある。エピタキシャル層13を形成する際に、窒素含有ガスを反応容器20内に流すと、エピタキシャル層13の全部又は厚さ方向の一部に窒素が含有される。即ち、原料ガスを反応容器20に流通させる全期間にわたってにその原料ガスとともに窒素含有ガスを流すと、図4に示すように、エピタキシャル層13の全部の領域に窒素が含有され、原料ガスを反応容器20に流通させる一時期に窒素含有ガスを流すと、図1及び図3に示すように、エピタキシャル層13の厚さ方向の一部の領域に窒素が含有される。ここで、窒素含有ガスとしては、ボンベにてキャリアガス(H_(2))にて希釈された窒素ガス(N_(2))が用いられる。
【0015】
このように、エピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の表面を除く一部の領域に窒素が含有されたことを特徴とするエピタキシャルウェーハ11では、エピタキシャル層13に故意に窒素を含有させられることから、それにより微少欠陥が誘発させ、窒素が含有されたエピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の表面を除く一部の領域にゲッタリング効果を有する領域を形成することができる。
【0016】
ここで、図1は、原料ガスの流通の一時期が流通時の初期であって、エピタキシャル層13の厚さ方向の一部の領域がシリコン基板12とエピタキシャル層13の界面近傍であるエピタキシャルウェーハ11を示す。この場合には、エピタキシャル後の熱処理条件にもよるが、エピタキシャル層13の厚さ方向の一部の領域が、エピタキシャル層13の表面から1μm以上内部かつシリコン基板12とエピタキシャル層13の界面までの領域であることが好ましい。具体的に、エピタキシャル層13の厚さ方向の一部の領域は、シリコン基板12とエピタキシャル層13の界面から0?20μmの厚さの領域であることが好ましい。
【0017】
一方、一般的なエピタキシャルウェーハ11におけるエピタキシャル層13の標準的な厚さは薄ものにおいては1?10μmであり、厚ものにおいては100?150μmである。このことから、エピタキシャル層13の表面から1μm以上内部かつシリコン基板12とエピタキシャル層13の界面までの領域、又はシリコン基板12とエピタキシャル層13の界面からエピタキシャル層13の0?20μmの厚さの領域に窒素を入れることは、原料ガスを流通させる全期間の初期における9?1割の間に窒素含有ガスを流すことを意味する。このようにしてエピタキシャル層13とシリコン基板12の界面から0?20μmの厚さの領域に窒素を入れると、シリコン基板12からの酸素拡散が期待でき、エピタキシャル層13とシリコン基板12との間における欠陥誘発も促進されると考えられる。即ち、シリコン基板12とエピタキシャル層13との間の界面に窒素を導入した場合、シリコン基板12の酸素拡散によるインタースティシャル酸素窒素にて、容易に析出するものと考えられる。この結果、作業工数を増加させることなく、エピタキシャル層13の表面から離れた内部にゲッタリング効果を生じさせることができ、シリコン基板12に窒素をドープしたものと同様なゲッタリング効果が得られる。
【0018】
また、エピタキシャル層13の窒素が含有された領域における窒素濃度は1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)であることが好ましく、1×10^(15)?1×10^(16)atoms/cm^(3)であることが更に好ましい。窒素濃度がこの範囲であれば、窒素が含有されたエピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の表面を除く一部の領域にゲッタリング効果の高い層が形成され、その層により金属不純物表面清浄度が高いエピタキシャルウェーハ11となり得る。窒素濃度が1×10^(13)atoms/cm^(3)未満であるとゲッタリング効果が減少し、窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)を越えても著しいゲッタリング効果の向上を期待できない。
【0019】
また、エピタキシャル層13を育成している間に反応容器20に流す窒素量は、マスフローメータにてコントロールできる範囲、即ち、0.0001リットル/分?1リットル/分であることが好ましく、更に希釈する配管設備等を所有して薄くて安定な窒素ガス量を作り出すことが好ましい。窒素量を制御することにより、エピタキシャル層13における窒素が含有された領域の窒素濃度を上記範囲内にすることができる。反応容器20に流す窒素量がキャリアガスと同程度の量になるとエピタキシャル層13に必要な濃度を越え、窒化膜形成が起こり正常なエピタキシャル層13が形成できなくなる。
【0020】
このため、本発明におけるエピタキシャルウェーハの製造方法では、窒素の導入量及びその時期をコントロールしながらエピタキシャル層13の成長中にそのエピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の任意の一部の領域に窒素を導入させる。この結果、シリコン基板12に窒素をドープするより、後工程でかつ比較的手軽に、精度良く、部分的にゲッタリング効果を有する領域をエピタキシャル層13に形成でき、安定したデバイスを作成することができる。
【0021】
一方、図3は窒素がエピタキシャル層13の中間に導入されている例を示す。このエピタキシャルウェーハ11は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)に用いられる場合に好ましいが、その他の用途においてもゲッターを強くする効果がある。IGBTを形成する場合には図2におけるドーム21及び22の外側に設けられた熱源によりシリコン基板12を加熱しながら、ガス導入管28及びガス供給口26を通して反応容器20内に原料ガスとともに比抵抗をコントロールするためのドーパントガスをH_(2)のキャリアガスとともに導入することになる。ドーパントガスとしてはPH_(3)が挙げられ、窒素含有ガスはドーパントガスの切り換え時の一定時期(図3ではn^(+)とn^(-)の間)に導入することが好ましい。このようなIGBT品種においては、欠陥を誘発させなくともエピタキシャル層13に窒素を含有させることにより、従来金拡散、電子線、中性子照射等で、確保していたライフタイムキラーの代替えとして用いることができる。
【0022】
また、図4は、エピタキシャル層13の全部の領域に窒素を含有させた場合を示す。このようにエピタキシャル層13の全部の領域に窒素を含有させたエピタキシャルウェーハ11であっても、エピタキシャル層13にゲッタリング効果が生じて金属不純物表面清浄度が高いエピタキシャルウェーハ11が得られる。一方、エピタキシャル層13を形成させる温度や窒素の導入量にもよるが、エピタキシャル層13の表面近傍に窒素を導入すると、その表面が荒れることになる。このため、原料ガスの流通時の全期間にわたって窒素含有ガスを流してシリコン基板12の表面にエピタキシャル層13を成膜した場合には、その後、エピタキシャル層13表面を鏡面研磨することが好ましい。これにより窒素含有ガスによるエピタキシャル層13表面の荒れを無くすことができる。
【実施例】
【0023】
次の本発明の実施例を比較例とともに説明する。
<実施例1>
図2に示す反応容器20を準備し、この反応容器20の内部にエピタキシャル成長用のシリコン基板12を支持させ、これを加熱しながら、ガス導入管28及びガス供給口26を通して反応容器20内に原料ガスであるSiHCl_(3)とドープガスであるPH_(3)をH_(2)からなるキャリアガスとともに導入した。そしてそれらを反応容器20に流通させる全期間に、希釈機構にて薄めた窒素含有ガスを流してエピタキシャルウェーハ11を得た。エピタキシャル成長用のシリコン基板12は7枚準備し、それらシリコン基板12において窒素の導入量をそれぞれ変化させた。即ち、その窒素の導入量を5ミリリットル/分程度ずつ振って徐々に増加させるように変化させ、窒素の導入量のみが異なる7種類のエピタキシャルウェーハ11を得た。そして、それぞれのウェーハ11におけるエピタキシャル層13中に取込まれた窒素をSIMS、ラスターチェンジ法により測定した。この結果を図5に示す。
【0024】
<実施例2>
エピタキシャル層13に取込まれた窒素の量が異なる5枚のエピタキシャルウェーハ11を準備した。それらのウェーハ11を一定量の金属不純物で汚染させた場合の析出量をICP-MSにより測定した。このエピタキシャル層13に取込まれた窒素の量と金属不純物の析出量との関係を図6に示す。
【0025】
<評価1>
図6に示すように、エピタキシャル層13中に窒素を含有させると金属不純物の析出量が増加する傾向にある。これは、エピタキシャル層13に窒素が含有されたことにより微少欠陥が誘発させられたことに起因するものと考えられる。従って、エピタキシャル層13中に窒素を含有させた本発明のエピタキシャルウェーハ11では、窒素が含有されたエピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の表面を除く一部の領域にゲッタリング効果を生じさせることができることが判る。
一方、図5から明らかなように、エピタキシャル層13中の窒素は原料ガスに含ませる窒素の量により変化することが判る。従って、窒素の導入量及びその時期をコントロールしながらエピタキシャル層13の成長中にそのエピタキシャル層13の全部の領域又は厚さ方向の任意の一部の領域に窒素を導入させることができることが判る。そして、窒素の導入量及びその時期をコントロールする本願発明の製造方法では、シリコン基板12に窒素をドープすることにより、比較的手軽に、精度良く、部分的にゲッタリング効果を有する領域をエピタキシャル層13に導入できることが判る。
そして、図6の結果から、エピタキシャル層13の窒素が含有された領域における窒素濃度は、ゲッタリング効果を生じさせるために1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)であることが好ましいことが判る。」


(2)引用発明
ア 引用発明1(物の発明)
上記(1)より、引用文献1には下記の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「シリコン基板12と、前記シリコン基板12の表面に成膜されたシリコン単結晶薄膜からなるエピタキシャル層13とを備えるエピタキシャルウェーハにおいて、
前記エピタキシャル層13の全部の領域に窒素が含有され、
前記エピタキシャル層13の窒素が含有された領域の窒素濃度が1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)であることを特徴とするエピタキシャルウェーハ。」

イ 引用発明2(物を生産する方法の発明)
上記(1)より、引用文献1には下記の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「原料ガスであるSiHCl_(3)を反応容器20に流通させることにより前記反応容器20内に配置されたシリコン基板12の表面にシリコン単結晶薄膜からなるエピタキシャル層13を成膜するエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記原料ガスの流通の全期間にわたって、窒素含有ガスとしてキャリアガス(H_(2))にて希釈された窒素ガス(N_(2))を流すことにより、前記エピタキシャル層13の全部に1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)の濃度の窒素を含有させることを特徴とする、
エピタキシャルウェーハの製造方法。」

2 引用文献2
当審拒絶理由において引用された特開昭60-246297号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
エピタキシャル成長法によりシリコン単結晶を製造する方法において、原料シリコン化合物を同伴するキャリアガス中又はエピタキシャル成長雰囲気中に窒素ガス又は窒素化合物ガスを存在させることを特徴とする窒素ドープシリコン単結晶の製造方法
【発明の詳細な説明】
本発明はシリコン単結晶の製造方法に関するもので、特にエピタキシャル・ウェーハを使用する半導体素子製造工程に含まれる熱処理工程においてシリコンウェーハに生ずる熱応力に強いシリコンエピタキシャルウェーハを得ることを目的とするものである。
一般にチョコラルスキー法で育成されたシリコンウェーハには酸素が4x10^(17)?2x10^(18)atoms/cc程添加されているため熱応力に強いことが知られている(文献S.M.Hu et al. ジャーナル オフ アプライド フィジクス 48(5) p1889,1975)。
一方、エピタキシャル成長法では酸素を添加する試みが種々なされているが、エピタキシャル成長を阻害する等の問題から熱応力に対する改善に必要な程充分な酸素を添加することは困難である。
本発明者はかかる熱応力による結晶性の劣化に対する特にエピタキシャル成長法における改善について種々検討の結果、窒素をシリコンエピタキシャルウェーハ中に少量添加することにより酸素添加と同等又はそれ以上の効果が得られることを知見し本発明に到達したものである。
即ちエピタキシャル成長法によりシリコン単結晶を製造する方法において、原料シリコン化合物を同伴するキャリアガス中又はエピタキシャル成長雰囲気中に窒素ガス又は窒素化合物ガスを存在させることを特徴とする窒素ドープシリコン単結晶の製造方法に関するものである。キャリヤガス中に窒素ガス又は窒素化合物ガスを存在させる場合の濃度はおおむね0.1?5%とすればよい、またエピタキシャル成長雰囲気中における濃度もこれにほぼ準ずればよい。」(1ページ左欄3行ないし2ページ左上欄5行)

3 引用文献3
原査定において引用された特表2007-507885号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア「【0011】
一般に、基板への低圧シリコン堆積は、単結晶(エピタキシャル)シリコン膜か多結晶シリコン膜か非晶質シリコン膜の形成をもたらすことができる。本発明の一実施形態において、結晶シリコン基板上へのシリコンエピタキシャル堆積が単結晶シリコン膜を形成するために使用できる。ここで、結晶シリコン基板は単結晶成長のための『種』として作用する。エピタキシャルシリコン含有層は、その下にあるSiウェハーとは異なる組成的特性と電気的特性を有するように設計し、デバイスの特定の要求に合わせることができる。HCD処理ガスに少量のドーパントガスの加えることにより、エピタキシャルシリコン含有膜をドープすることができる。ドーパントガスの例としては、リン含有ガス(例えばPH_(3))、ヒ素含有ガス(例えばAsH_(3))、窒素含有ガス(例えばNH_(3))、ホウ素含有ガス(例えばB_(2)H_(6)とBCl_(3))などがある。上記ドーパントガスのいずれのHCD処理ガスへの添加も、プロセス中の基板上の水素の存在のためシリコン堆積を加速させることによって、シリコン堆積の選択性を高めることができる。また、HFやF_(2)やHClなどのハロゲン含有ガスのHCD処理ガスへの添加も、シリコンでない表面上に堆積したシリコン原子をエッチングし取り除くことによって、シリコン表面へのシリコン堆積の選択性を改善することができる。」
イ「【0027】
図3Aは、本発明の一実施形態によるシリコン含有膜を基板上に堆積するための流れ図を示している。300において、プロセスを開始する。302において、処理システムの処理チャンバーに基板を供給する。処理システムは、図1Aまたは図1Bに示したバッチタイプ処理システムであってもよく、また、図2に示したような処理装置の一部として提供されてもよい。304において、基板を加熱し、306においてHCD処理ガスを基板に露出する。本発明の一実施形態において、HCD処理ガスはHCDガスのほかに不活性ガスを含むことができ、シリコン含有膜はシリコン膜とすることができる。不活性ガスは、例えば、HeとNeとArとKrとXeとN_(2)から、または、基板またはチャンバー環境と化学的に反応しないほかのあらゆるガスから選択することができる。不活性ガスは、液体状のHCD用の搬送ガスとして、また、基板表面でなくチャンバー環境での化学反応の発生を減らすためにHCDガスを薄めるために使用し得る。本発明の別の実施形態において、HCD処理ガスは、HCDガスのほかに、不活性ガスと、水素含有ガスと第二のシリコン含有ガスの少なくとも一つとを含むことができる。水素含有ガスは、例えば、H_(2)を含むことができる。HCDガスへのH_(2)の添加がシリコン堆積速度を高めることが観察された。第二のシリコン含有ガスは、例えば、SiH_(4)とSiCl_(4)とSi_(2)H_(6)とSiCl_(2)H_(2)から選択することができる。本発明のまた別の実施形態において、HCD処理ガスは、HCDガスと、例えば、リン含有ガス(例えばPH_(3))とヒ素含有ガス(例えばAsH_(3))と窒素含有ガス(例えばNH_(3))とホウ素含有ガス(例えばB_(2)H_(6)とBCl_(3))から選択することができるドーパントガスとを含むことができる。本発明の別の実施形態において、HCD処理ガスは、例えば、HFとF_(2)とCl_(2)とHClから選択することができるハロゲン含有ガスを含むことができる。本発明のまた別の実施形態において、HCD処理ガスは、HCDガスと、例えば、GeH_(4)とGeCl_(4)から選択することができるゲルマニウム含有ガスとを含み、SiGe膜を堆積することができる。」
ウ「【0029】
シリコン含有膜を堆積するために使用されるプロセス条件は、約100Torr未満の処理チャンバー圧力を含むものとすることができる。あるいは、プロセス圧力は、約1Torr未満、例えば0.4Torrとすることができる。プロセス条件はさらに、約500℃と約900℃の間、好ましくは約800℃の基板温度を含むものとすることができる。本発明の一実施形態において、基板温度を約800℃とすることができ、処理チャンバー圧力を0.4Torrとすることができる。308において、HCD処理ガスの分解からシリコン含有膜が基板上に堆積する。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「シリコン基板12」が「表面」及び「裏面」を有することは技術常識より明らかであり、上記「シリコン基板12」、「表面」及び「裏面」は、それぞれ、本願発明1の「シリコン基板ウェハ」、「第1の側」及び「第2の側」に相当するといえる。
そうすると、本願発明1と引用発明1は、「第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハ」を含む点において共通するといえる。
イ 引用発明1の「エピタキシャル層13」は、「シリコン単結晶薄膜からなる」ものであるから、「シリコンエピタキシャル層」であるといえる。
また、上記アのとおり、引用発明1の「シリコン基板12」の「表面」は、本願発明1の「第1の側」に相当するといえる。
そうすると、引用発明1の「エピタキシャル層13」は、本願発明1の「シリコンエピタキシャル層」に相当するといえ、本願発明1と引用発明1は、「前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上に成膜されるシリコンエピタキシャル層とを含」む点において共通するといえる。
ウ 引用発明1の「エピタキシャル層13」は「全部の領域に窒素が含有され」たものであるから、「窒素でドープされ」たものであるといえる。
そうすると、本願発明1と引用発明1は、「前記シリコンエピタキシャル層は窒素でドープされた」との点において共通し、後述する相違点1-1において相違するといえる。
エ 引用発明1の「エピタキシャルウェーハ」は、本願発明1の「エピタキシャルウェハ」に相当するといえる。
オ 以上から、本願発明1と引用発明1は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違すると認める。
(ア)一致点
「第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハと、前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上に成膜されるシリコンエピタキシャル層とを含み、前記シリコンエピタキシャル層は窒素でドープされた、エピタキシャルウェハ。」
(イ)相違点
・相違点1-1
本願発明1では、「シリコンエピタキシャル層」が「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープされ」るのに対し、引用発明1では、「シリコンエピタキシャル層」(エピタキシャル層13)が1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)の濃度の窒素でドープされる点。

(2)判断
相違点1-1について検討する。
引用文献1の段落【0018】には、「窒素濃度が1×10^(13)atoms/cm^(3)未満であるとゲッタリング効果が減少し、窒素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)を越えても著しいゲッタリング効果の向上を期待できない。」と記載されており、引用発明1において、エピタキシャル層13の窒素濃度を、1×10^(16)atoms/cm^(3)よりもはるかに高い「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下」とすることには、十分な動機付けがあるとはいえない。
さらに、引用文献1の段落【0019】には、「反応容器20に流す窒素量がキャリアガスと同程度の量になるとエピタキシャル層13に必要な濃度を越え、窒化膜形成が起こり正常なエピタキシャル層13が形成できなくなる。」と記載されており、当該記載と、【図5】に示された窒素濃度が最大値においても1×10^(18)atoms/cm^(3)に達していないことを併せて考慮すると、引用発明1においては、反応容器20に流す窒素量を増大させたとしても、「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下」の濃度の窒素でドープされたエピタキシャル層13を正常に形成することは不可能又は困難であると考えられる。したがって、引用発明1において相違点1-1に係る構成を採用することには、阻害要因があるといえる。
また、引用文献2及び3にも、相違点1-1に係る構成については、記載も示唆もされていない。
以上のとおり、引用発明1において相違点1-1に係る構成を採用することには、十分な動機付けがあるとはいえず、かつ、阻害要因があり、また、引用文献2及び3にも、相違点1-1に係る構成については記載も示唆もされていないから、本願発明1は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものであるから、上記1のとおり、本願発明1が引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願発明2ないし4も、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明5について
(1)対比
本願発明5と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「エピタキシャルウェーハ」は、本願発明5の「エピタキシャルウェハ」に相当するといえ、本願発明5と引用発明2は、「エピタキシャルウェハを製造する方法」である点において共通するといえる。
イ 引用発明2の「シリコン基板12」が「表面」及び「裏面」を有することは技術常識より明らかであり、上記「シリコン基板12」、「表面」及び「裏面」は、それぞれ、本願発明5の「シリコン基板ウェハ」、「第1の側」及び「第2の側」に相当するといえる。
また、引用発明2において、「シリコン基板12」を「反応容器20内」に配置することは、「シリコン基板12」を「与えること」であるといえる。
そうすると、本願発明5と引用発明2は、「第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハを与えること」を含む点において共通するといえる。
ウ 引用発明2の「エピタキシャル層13」は、「シリコン単結晶薄膜からなる」ものであるから、「シリコンエピタキシャル層」であるといえる。
したがって、引用発明2の「前記反応容器20内に配置されたシリコン基板12の表面にシリコン単結晶薄膜からなるエピタキシャル層13を成膜する」ことは、本願発明5の「前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上にシリコンエピタキシャル層を成膜すること」に相当するといえる。
そうすると、本願発明5と引用発明2は、「前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上にシリコンエピタキシャル層を成膜すること」を含む点において共通し、後述する相違点5-1において相違するといえる。
エ 引用発明2の「原料ガスであるSiHCl_(3)」は、「シリコン前駆物質化合物」であるといえる。
また、引用発明2の「窒素含有ガス」と、本願発明5の「アンモニア」とは、「窒素前駆物質化合物」である点において共通し、後述する相違点5-2において相違するといえる。
さらに、本願発明5において、「原料ガスの流通の全期間にわたって、窒素含有ガスとしてキャリアガス(H_(2))にて希釈された窒素ガス(N_(2))を流」すことにより、窒素を含有する「エピタキシャル層13」を成膜することは、技術常識を考慮すると、「シリコンエピタキシャル層」を「シリコン前駆物質化合物および窒素前駆物質化合物を含有する成膜ガス雰囲気の存在化で化学蒸着法によって成膜」することであるといえる。
そうすると、本願発明5と引用発明2は、「前記シリコンエピタキシャル層は、1つ以上のシリコン前駆物質化合物および窒素前駆物質化合物を含有する成膜ガス雰囲気の存在下で化学蒸着法によって成膜され」との点において共通し、後述する相違点5-2において相違するといえる。
オ 引用発明2の「前記原料ガスの流通の全期間にわたって、窒素含有ガスとしてキャリアガス(H_(2))にて希釈された窒素ガス(N_(2))を流すことにより、前記エピタキシャル層13の全部に1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)の濃度の窒素を含有させること」は、「エピタキシャル層13」を、成膜中に窒素でドープすることであるといえる。
そうすると、本願発明5と引用発明2は、「前記方法はさらに、前記シリコンエピタキシャル層を、前記成膜中に、窒素でドープすることを含む」との点において共通し、後述する相違点5-3において相違するといえる。
カ 以上から、本願発明5と引用発明2は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違すると認める。
(ア)一致点
「エピタキシャルウェハを製造する方法であって、
第1の側および第2の側を有するシリコン基板ウェハを与えることと、
前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上にシリコンエピタキシャル層を成膜することとを含み、
前記シリコンエピタキシャル層は、1つ以上のシリコン前駆物質化合物および窒素前駆物質化合物を含有する成膜ガス雰囲気の存在下で化学蒸着法によって成膜され、
前記方法はさらに、前記シリコンエピタキシャル層を、前記成膜中に窒素でドープすることを含む、方法。」
(イ)相違点
・相違点5-1
本願発明5では、「前記シリコン基板ウェハの前記第1の側上にシリコンエピタキシャル層を成膜する」際の「成膜温度」が「940℃以下、および前記成膜ガス雰囲気において前記1つ以上のシリコン前駆物質化合物およびアンモニアの分解を引起すのに十分な温度以上」であるのに対し、引用発明2は、「シリコン基板ウェハ」(シリコン基板12)の「第1の側」(表面)上に「シリコンエピタキシャル層」(エピタキシャル層13)を成膜する際の成膜温度を特定しない点。
・相違点5-2
本願発明5では、「窒素前駆物質化合物」が「アンモニア」であるのに対し、引用発明2では、「窒素前駆物質化合物」が「キャリアガス(H_(2))にて希釈された窒素ガス(N_(2))」である点。
・相違点5-3
本願発明5では、「シリコンエピタキシャル層」を「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素でドープする」のに対し、引用発明2では、「シリコンエピタキシャル層」(エピタキシャル層13)を1×10^(13)?1×10^(16)atoms/cm^(3)の濃度の窒素でドープする点。

(2)判断
相違点5-3について検討する。
上記1(2)において検討したのと同様の理由により、引用発明2において相違点5-3に係る構成を採用することには、十分な動機付けがあるとはいえず、かつ、阻害要因があり、また、引用文献2及び3にも、相違点5-3に係る構成については記載も示唆もされていない。
したがって、相違点5-1及び5-2について検討するまでもなく、本願発明5は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明6及び7について
本願発明6及び7は、本願発明5の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものであるから、上記3のとおり、本願発明5が引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願発明6及び7も、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 対比・判断のまとめ
上記1ないし4のとおり、本願発明1ないし7は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
上記第6の5のとおり、本願発明1ないし7は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第8 当審拒絶理由について
1 理由1(明確性)について
ア 当審拒絶理由の1(1)アにおいて、請求項に記載された窒素の濃度が、平均濃度を特定するものであるのか、全域における濃度を特定するものであるのか、それとも、少なくとも一部の領域における濃度を特定するものであるのかが明確でない旨が指摘された。これに対し、平成30年2月19日付け意見書において、「窒素の濃度につきましては、シリコンエピタキシャル層の全域において、4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下の範囲内にあることを規定しています。」との主張がなされ、記載の意味が明確となったため、上記拒絶の理由は解消した。
イ 当審拒絶理由の「理由1(明確性)」において指摘されたその他の拒絶理由については、平成30年2月19日付け手続補正によって、対応する記載が削除され、又は記載の不整合が解消されたため、いずれも解消した。
ウ 以上より、当審拒絶理由の「理由1(明確性)」はいずれも解消した。

2 理由2(サポート要件)について
ア 当審拒絶理由の2(1)アにおいて、本願の請求項1ないし10に係る発明は、「シリコンエピタキシャル層の上の1つ以上のさらなるエピタキシャル層」が「シリコン」であるとは特定していないから、「シリコンではないエピタキシャル層」(例えば、「SiCエピタキシャル層」)を窒素でドープする発明を包含するものと認められるところ、発明の詳細な説明には、「シリコンではないエピタキシャル層」(例えば、「SiCエピタキシャル層」)を窒素でドープした場合の具体的な試験結果は、何ら示されておらず、そうしたものが本願発明の課題を解決できるのかは不明である旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、「さらなるエピタキシャル層」が「シリコンエピタキシャル層」に限定されたため、上記の拒絶理由は解消した。
イ 当審拒絶理由の2(1)イにおいて、窒素の濃度が「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く4×10^(18)原子/cm^(3)より少ない」場合、及び、「2×10^(19)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下」の場合に、本願発明の課題を解決できるのか不明である旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、窒素の濃度が「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下」に限定されたため、上記の拒絶理由は解消した。
ウ 当審拒絶理由の2(1)ウにおいて指摘された拒絶理由については、平成30年2月19日付け手続補正により、対応する記載が削除されたため、解消した。
エ 当審拒絶理由の2(2)アにおいて、「シリコン前駆物質化合物」として「ジクロロシラン」以外のものを用い、又は、「窒素前駆物質化合物」として「アンモニア」以外のものを用いた場合に、「940℃以下」の成膜条件で、「シリコンエピタキシャル層」を「1×10^(16)原子/cm^(3)より多く1×10^(20)原子/cm^(3)以下の濃度の窒素」でドープすることができるのか不明である旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、「窒素前駆物質化合物」がアンモニアに限定され、また、同日付意見書における主張及び技術常識を考慮すると、「シリコン前駆物質化合物」として「ジクロロシラン」以外のものを用いることまで拡張可能であるといえるから、上記拒絶理由は解消した。
オ 以上より、当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)」はいずれも解消した。

3 理由3(実施可能要件)について
ア 当審拒絶理由の3(1)アにおいて、発明の詳細な説明には、シリコンエピタキシャル層(又はエピタキシャル層)における窒素の濃度を、1×10^(20)原子/cm^(3)に近い高濃度とする方法について、明確かつ十分に記載されているとはいえない旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、窒素の濃度が「4×10^(18)原子/cm^(3)以上2×10^(19)原子/cm^(3)以下」に限定されたため、上記の拒絶理由は解消した。
イ 当審拒絶理由の3(2)アにおいて、発明の詳細な説明には、1×10^(16)原子/cm^(3)以上の高濃度の窒素でドープしたシリコンエピタキシャル層について、「欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」ようなものを製造する具体的な方法について、明確かつ十分に記載されているとはいえない旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、特許請求の範囲の「欠陥エッチング、レーザ散乱検査、または断面走査電子顕微鏡法で検出可能であり、窒素のドープと関係するエピタキシャル欠陥を含まない」との記載が削除されたため、上記の拒絶理由は解消した。
ウ 以上より、当審拒絶理由の「理由3(実施可能要件)」はいずれも解消した。

4 理由4(進歩性)について
上記第6の5のとおり、本願発明1ないし7は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、当審拒絶理由の「理由4(進歩性)」によっては、本願を拒絶することはできない。

5 理由5(原文新規事項)について
当審拒絶理由の5において、本願の請求項1及び明細書の段落[0030]には、「断面走査電子顕微鏡法」と記載されているが、国際出願日における国際出願の明細書(国際公開の第7頁第18-19行)には、「Cross-Sectional Transmission Electron Microscopy」(訳すると「断面透過電子顕微鏡法」)と記載されており、「断面走査電子顕微鏡法」は記載も示唆もされていない旨が指摘された。
これに対し、平成30年2月19日付け手続補正により、請求項1の「断面走査電子顕微鏡法」との記載が削除された。また、明細書の段落[0030]には、「断面走査電子顕微鏡法」との記載に続けて、括弧中に「XTEM」と記載され、当該「XTEM」が「Cross-Sectional Transmission Electron Microscopy」と同義であることは明らかであるから、段落[0030]の記載が国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないとまではいえない。
よって、当審拒絶理由の「理由5(原文新規事項)」は解消した。

6 当審拒絶理由についてのまとめ
上記1ないし5のとおり、当審拒絶理由はいずれも解消した。
よって、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第9 結言
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-04-02 
出願番号 特願2015-545773(P2015-545773)
審決分類 P 1 8・ 54- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
須藤 竜也
発明の名称 エピタキシャルウェハおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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