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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1339037
審判番号 不服2016-5033  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-05 
確定日 2018-04-05 
事件の表示 特願2011-166275「充電システム、充電装置、制御方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 31304〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成23年7月29日の出願であって、平成27年4月9日付けで拒絶の理由が通知され、平成27年6月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年4月5日に手続補正書の提出と共に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審により平成29年2月7日付けで拒絶の理由が通知され、平成29年4月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年5月17日付けで拒絶の理由が通知され、平成29年7月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年9月8日付けで最後の拒絶の理由が通知され、平成29年11月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.平成29年11月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
1.補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電システムであって、
蓄電池と、
前記蓄電池とは異なる1以上の電力源と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置と
を備え、
前記電力管理装置は、
前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する電力算出部と、
前記電力算出部が算出した電力を示す電力データを、前記充電装置へ送信する電力データ送信部と
を有し、
前記充電装置は、
前記電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、
前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、
前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部と
を有する充電システム。
【請求項2】
前記電力管理装置の電力データ送信部は、前記電力源から供給され得る電力の総和が所定の電力以上の場合、当該所定の電力の値を示す電力データを送信する
請求項1に記載の充電システム。
【請求項3】
前記充電装置は、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データに基づいて、前記電力管理装置を介して供給される電力を前記電気自動車に供給させるべく電気回路を制御する電力供給制御部を更に有する請求項1又は2に記載の充電システム。
【請求項4】
前記電力管理装置は、
前記蓄電池の蓄電量を算出する蓄電量算出部を更に有し、
前記電力算出部は、前記蓄電量算出部が算出した蓄電量に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する
請求項1から3のいずれか一項に記載の充電システム。
【請求項5】
前記電力管理装置は、
前記電力源から供給可能な電力を算出する給電可能量算出部
を更に有し、
前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する
請求項1から4のいずれか一項に記載の充電システム。
【請求項6】
蓄電池、及び前記蓄電池とは異なる1以上の電力源から供給される電力を、充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車に充電させる充電装置であって、
前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置から送信された、1以上の前記電力源から供給され得る電力の総和を示す電力データを受信する電力データ受信部と、
前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、
前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部と
を備える充電装置。
【請求項7】
蓄電池、及び前記蓄電池とは異なる1以上の電力源から供給される電力を、充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車に充電させる充電装置を制御する制御方法であって、
前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置から送信された、1以上の前記電力源から供給され得る電力の総和を示す電力データを受信する電力データ受信段階と、 前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信段階において受信された電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信段階と、
前記供給可能出力データ送信段階において送信された供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信段階と 、
前記電流値データ受信段階において受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部と
を含む制御方法。
【請求項8】
蓄電池、及び前記蓄電池とは異なる1以上の電力源から供給される電力を、充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車に充電させる充電装置用のプログラムであって、
前記充電装置を、
前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置から送信された、1以上の前記電力源から供給され得る電力の総和を示す電力データを受信する電力データ受信部、
前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部、
前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部
として機能させるプログラム。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電システムであって、
蓄電池と、
前記蓄電池とは異なる1以上の電力源と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置と、
を備え、
前記電力管理装置は、
前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する電力算出部と、
前記電力算出部が算出した電力を示す電力データを、前記充電装置へ送信する電力データ送信部と、
前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部と、
を有し、
前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出し、
前記充電装置は、
前記電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、
前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、
前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部と、
を有する充電システム。
【請求項2】
前記電力管理装置の電力データ送信部は、前記電力源から供給され得る電力の総和が所定の電力以上の場合、当該所定の電力の値を示す電力データを送信する
請求項1に記載の充電システム。
【請求項3】
前記充電装置は、
前記電流値データ受信部が受信した電流値データに基づいて、前記電力管理装置を介して供給される電力を前記電気自動車に供給させるべく電気回路を制御する電力供給制御部
を更に有する請求項1又は2に記載の充電システム。
【請求項4】
前記電力管理装置は、
前記蓄電池の蓄電量を算出する蓄電量算出部
を更に有し、
前記電力算出部は、前記蓄電量算出部が算出した蓄電量に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する
請求項1から3のいずれか一項に記載の充電システム。」

2.目的要件について
(1)本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正後の請求項1は「電力源から供給可能な電力を算出する給電可能量算出部」を有するものであり、請求人も平成29年11月13日付けの意見書で主張するように、「電力源から供給可能な電力を算出する給電可能量算出部」を有する本件補正前の請求項5に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項5には「前記電力管理装置は、前記電力源から供給可能な電力を算出する給電可能量算出部を更に有し、前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する」とあったものが、
本件補正後の請求項1には「前記電力管理装置は、・・・・途中略・・・・ 前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部と、を有し、前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出し」とある。
本件補正により、「電力管理装置」が有する「給電可能量算出部」について、「前記電力源から供給可能な電力を算出する」ものが「前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する」ものとなっている。
しかしながら、上記補正は、本件補正前の請求項5の発明特定事項とは別の「電力源の定格出力」なる発明特定事項を外的に付加すると共に、「前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引く」なる発明特定事項を外的に付加したものであるから、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。

(2)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(上記「第2.理由[I]1.補正の内容」の請求項1に記載された発明)を、以下「本願補正発明」という。

2.引用文献とその記載事項
当審の平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された特開2011-130646号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次のような記載がある(下線は当審付加。)。

ア.「以下に、本発明に係る給電装置および給電システムの実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る給電装置は、住宅内の電気機器(直流電力により駆動される機器)に対して直流電力を配電する直流配電システムを利用したものであり、当該直流配電システムから配電される直流電力を充電用電源として、例えば電池自動車やプラグインハイブリット車のような電気自動車に所望の直流電力を供給する。そして、上記の直流配電システムを構成する後述の直流分電盤や、交流分電盤、制御装置とともに本発明に係る給電システムを構成する。」(段落【0019】)

イ.「(実施形態1)
図1(a)は実施形態1の給電システムの模式図であり、本給電システムは、住宅Hに隣接する形で設けられた給電装置1と、住宅H内に設けられて給電装置1に直流電力を供給する直流分電盤(直流電源部)2と、直流分電盤2の給電を制御する制御装置3と、コントロールパネル4とを備えている。
給電装置1は、図1(a)に示すように電気自動車(機器)Cとの間で信号の授受を行う信号通信回路12と、信号通信回路12で取得した信号に含まれる情報に基づいて電気自動車Cへの供給電力を設定する電源制御回路11と、電源制御回路11で設定された供給電力を電気自動車Cに供給するDC/DCコンバータ13と、制御装置3と信号通信回路12との間に介装されて情報のやりとりを仲介するインターフェース回路14と、給電装置1から導出されたケーブルに設けられて、電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続するための給電用コネクタ15とを備えている。なお、DC/DCコンバータ13から出力される直流電圧値は、本実施形態ではDC300Vに設定されているものとして以下説明する。
直流分電盤2は、図1(a)に示すように蓄電池7から供給される直流電力を所定の直流電力(例えばDC350V)に変換するDC/DCコンバータ21と、太陽光発電装置6から供給される直流電力を所定の直流電力(例えばDC350V)に変換するDC/DCコンバータ22と、商用交流電源ACから供給される交流電力を所定の直流電力(例えばDC350V)に変換するAC/DCコンバータ23と、各コンバータ21?23の出力を協調させて負荷に供給する協調制御部24と、複数(図1(a)では6個)の直流ブレーカ25とを備えており、各コンバータ21?23から供給される直流電力は、協調制御部24および直流ブレーカ25を介して給電装置1に供給される。
制御装置3は、直流分電盤2から出力される直流電力量を制御するための装置であり、上述のDC/DCコンバータ21,22およびAC/DCコンバータ23それぞれの給電割合を設定する。また、制御装置3は、直流分電盤2の給電能力を給電装置1に送信する機能も備えており、給電装置1では制御装置3から送信される直流分電盤2の給電能力を超えないように、DC/DCコンバータ13を制御して電気自動車Cに直流電力を供給する。ここに、本実施形態では、制御装置3により送信器が構成されている。」(段落【0020】?【0023】)

ウ.「給電対象である電気自動車Cは、図1(a)(b)に示すように給電装置1の給電用コネクタ15が接続される自動車側コネクタ85を備えるとともに、給電装置1の信号通信回路12との間で情報(例えば後述の電気自動車Cが対応する給電電圧および給電電流に関する給電情報など)のやりとりを行う信号通信回路82と、給電装置1から供給される直流電力(本実施形態ではDC300V)を蓄電するための蓄電池(蓄電部)84と、蓄電池84を充電するための充電回路83と、信号通信回路82から入力される情報に基づいて充電回路83を制御する充電制御回路81とを備えている。
ここで、本実施形態の給電システムでは、電気自動車C側から当該電気自動車Cが対応する給電電圧および給電電流に関する給電情報が送信されるようになっており、給電装置1側では信号通信回路12によりこの給電情報を取得する。さらに、給電装置1では、信号通信回路12で取得した給電情報が電源制御回路11に入力され、電源制御回路11ではこの給電情報と、制御装置3から送信される直流分電盤2の給電能力とを比較して、電気自動車Cへの給電電圧および給電電流を設定する。そして、電源制御回路11は、設定した給電電圧および給電電流に基づいてDC/DCコンバータ13を制御し、所望の直流電力を電気自動車Cに供給するのである。例えば、電気自動車C側からDC300V、20Aの要求があった場合に、直流分電盤2の給電能力が3000VAの場合には、給電装置1は電気自動車Cに対してDC300V、10Aの給電を行うことになる。ここに、本実施形態では、信号通信回路12により給電情報取得部が構成され、また電源制御回路11により制御部が構成されている。
さらに、本実施形態の給電システムは、SAE(米国自動車技術者協会)(登録商標)規格に準拠しており、給電装置1の電源制御回路11から電気自動車Cの充電制御回路81に対してSAE信号(充電許可信号)を出力する。このSAE信号は、蓄電池に充電する際の充電電流を制限するための信号であり、電気自動車Cの充電回路83は、このSAE信号のオンデューティで決定される電流値に充電電流を制限することになる。
次に、本給電システムの動作について説明する。給電装置1の給電用コネクタ15を電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続すると、電気自動車Cから給電装置1に対して上記の給電情報が送信され、さらに制御装置3からは給電装置1に対して直流分電盤2の給電能力が送信される。上記の給電情報および直流分電盤2の給電能力を受け取った給電装置1では、電源制御回路11において両者が比較され、直流分電盤2の給電能力を超えない範囲で、供給する直流電力(給電電圧および給電電流)が設定される。そして、電源制御回路11は、DC/DCコンバータ13を制御して設定した給電電圧および給電電流の直流電力を電気自動車Cに供給する。」(段落【0025】?【0028】)

したがって、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。
「給電装置1側に電気自動車C側から給電電圧および給電電流に関する給電情報を送信し、電気自動車Cに直流電力を供給する給電システムであって、
蓄電池7から供給される直流電力を所定の直流電力に変換するDC/DCコンバータ21と、太陽光発電装置6から供給される直流電力を所定の直流電力に変換するDC/DCコンバータ22と、商用交流電源ACから供給される交流電力を所定の直流電力に変換するAC/DCコンバータ23とを備える直流分電盤2の、前記DC/DCコンバータ21、22、前記AC/DCコンバータ23それぞれの給電割合を設定し、前記直流分電盤2から出力される直流電力量を制御する制御装置3と、
前記直流分電盤2から直流電力が供給される給電装置1とを備え、
前記制御装置3は、前記直流分電盤2の給電能力を給電装置1に送信する機能を備えるよう構成され、
前記給電装置1は、前記給電装置1の給電用コネクタ15を電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続すると、電気自動車Cから前記給電装置1に対して前記給電情報が送信され、さらに前記制御装置3からは前記給電装置1に対して前記直流分電盤2の給電能力が送信され、
前記給電装置1の電源制御回路11は、DC/DCコンバータ13を制御して、直流分電盤2の給電能力を超えない範囲の給電電圧および給電電流を電気自動車Cに供給する、
給電システム。」

当審の平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された「『電気自動車(EV)用にまなぶ50kW大容量急速充電器の設計技術』本田一晃、グリーンエレクトロニクスNo.4(トランジスタ技術SPECIAL増刊)モータの動かしかた早分かり、4-13頁、CQ出版株式会社、2011年2月1日発行」(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次のような記載がある(下線は当審付加。)。
ア.「リチウムイオン電池などの高性能2次電池を搭載した電気自動車(EV…ElectricVehicle)の一般向け販売が開始され,今後急速な普及が見込まれています.EVは自然エネルギーからの変換が容易な電気を使うこと,電気-機械変換効率の高い高性能モータを使うことで化石燃料の消費を抑えることが可能で,低炭素社会実現の切り札と言われています.
しかしEVの普及にはガス欠ならぬ電欠(電池切れ)の不安を取り払うことが重要で,そのためには「いつでも」,「どこでも」,「すぐに」充電できる充電設備を社会インフラとして整備する必要があります.
本稿ではEV用急速充電方式の共通仕様であるCHAdeMOプロトコルについて解説すると共にEVやフォークリフトなどの車両用大容量二次電池を対象にした大容量急速充電器の設計方法を解説します.」(4頁上欄)

イ.「●CHAdeMOプロトコル
EVがそのメーカごとに異なる充電方式を取った場合,急速充電器はそのすべての方式に対応する必要があります.そのため複雑化したシステムは充電インフラ整備の妨げになります.一方,すべてのEVを同じ充電パターンにするとEVメーカは独自の充電技術が使えず性能向上の妨げになります.これらの問題を解決するため,共通の充電プロトコルを決めてEVと充電器が通信しながら双方の最適状態で充電するCHAdeMO方式が提唱されました.
CHAdeMOプロトコルの最大の特徴は,充電器はEVが要求する時々刻々変化する電流で充電すること,EVは充電器のもつ能力(最大出力電流)以上の要求はしないことです.これらの特徴によりEVの車種,急速充電器の機種が変わってもすべての組み合わせに対応できるようになっています.
図2にCHAdeMOプロトコルの流れを示します.
○1急速充電器は充電開始ボタンが押されたら,車両に対して出力可能範囲などのステータスを送信し,充電許可を求めます.
○2車両は急速充電器のステータスが充電開始条件を満たすことを確認し,充電許可信号を送出します.
○3車両は電池の状態に応じて最適な電流を決定し,電流指令を送出します.
○4急速充電器は電流指令に従って,電流を出力します.
○3?○4を繰り返し充電して行きます.
○5車両が充電完了を判断またはユーザが充電終了ボタンを押すと,充電が終了します.(当審注:○1?○5は、それぞれ○の中に1?5の数字が記載されたもの)」(5頁右欄)

したがって、上記引用文献2には以下の技術的事項が開示されていると認められる。
「電気自動車と充電器が通信しながら双方の最適状態で充電するCHAdeMO方式を用いた充電器は、電気自動車が要求する時々刻々変化する電流で充電し、電気自動車は充電器のもつ能力(最大出力電流)以上の要求はしないという特徴のCHAdeMOプロトコルを共通仕様として用いる急速充電器であって、
CHAdeMOプロトコルは、
『1 急速充電器は充電開始ボタンが押されたら、車両に対して出力可能範囲などのステータスを送信し、充電許可を求め
2 車両は急速充電器のステータスが充電開始条件を満たすことを確認し、充電許可信号を送出し
3 車両は電池の状態に応じて最適な電流を決定し、電流指令を送出し
4 急速充電器は電流指令に従って、電流を出力し
3?4を繰り返し充電して行き
5 車両が充電完了を判断またはユーザが充電終了ボタンを押すと,充電が終了する』という流れを有する、急速充電器。」

原審の拒絶の理由に引用された特開2010-4674号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に次のような記載がある(下線は当審付加。)。
ア.「本発明は、車両に搭載された蓄電池を充電するための電子制御装置に関する。
環境に配慮した車両として、電気自動車、ハイブリッド車、及び燃料電池車等が近年注目されている。これらの車両には、走行駆動力を発生する電動機と、その電動機に供給される電力を蓄える蓄電池とが搭載されている。ハイブリッド車には、動力源として電動機とともに内燃機関がさらに搭載され、燃料電池車には、車両駆動用の直流電源として燃料電池が搭載されている。
このような車両に搭載された車両駆動用の蓄電池を、一般家庭の電源から直接充電することが可能な車両が知られている。例えば、家屋に設けられた商用電源のコンセントと車両に設けられた充電口とを充電ケーブルで接続することにより、一般家庭の電源から蓄電池へ電力が供給される。」(段落【0001】?【0003】)

イ.「また、通常、家庭用電源は、家庭での電気使用量に基づいて、車両の蓄電池の充電量を調整することができない。そのため、当該家庭用電源がエアコンや電子レンジ等の電気機器に大量の電力を消費している状況で、プラグイン車両の充電のために電力が過剰使用されると、ブレーカが落ちる虞がある。」(段落【0009】)

ウ.「電流分配管理部60は、数1の演算を実行することで容量情報を算出し、算出した容量情報を信号生成部50へ送信する。
【数1】
容量情報=最大電流容量-(他配分+余裕度)

容量情報は、現時点で車両へ供給可能な電流容量である。最大電流容量は、外部電源402の定格電流、つまり外部電源402が流すことのできる電流の最大値である。尚、流れる電流が当該最大値を超えるとブレーカが落ちる。他配分は、外部電源402を電力供給元とする車両以外の負荷(例えば、電子レンジや冷蔵庫等の家電製品)70へ現在供給されている電流容量である。余裕度は、ノイズ等による電流変動によって、容量情報と他配分の合計電流容量が最大電流容量を超え、ブレーカが落ちてしまうことを防止するために設定された電流容量である。
つまり、電流分配管理部60は、図11に示すように、供給元総電流量(合計電流容量)がブレーカ契約(最大電流容量)を超えないように、車両への供給量(容量情報)を調整する。」(段落【0057】?【0059】)

したがって、上記引用文献3には以下の技術的事項が開示されていると認められる。
「管理部60は、外部電源402が流すことのできる電流の最大値である外部電源402の定格電流から、外部電源402を電力供給元とする車両以外の負荷70へ現在供給されている電流容量を差し引く演算を実行することで、現時点で車両へ供給可能な電流容量に関する容量情報を算出し、算出した容量情報を送信する。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「電気自動車C」は、本願補正発明の「電気自動車」に相当する。
引用発明の「電気自動車Cに直流電力を供給する」態様は、本願補正発明の「電気自動車を充電する」態様に相当する。
引用発明の「給電設備1側」は、電気自動車C側に対して充電のために給電を行う側の設備全般を示すものであるから、引用発明の「給電設備1側」と、本願補正発明の「充電設備」とは、「充電用給電設備」である点において共通する。
引用発明の「電気自動車C側から給電電圧および給電電流に関する給電情報を送信」することは、電気自動車Cの充電に必要な電気量を要求する機能により実行される動作であるから、引用発明の「電気自動車C側から給電電圧および給電電流に関する給電情報を送信」する態様と、本願補正発明の「充電に必要な電流値を要求する仕様」とは、「充電に必要な電気量を要求する仕様」の点において共通する。
引用発明の「給電システム」は、電気自動車Cに給電を行うシステムであると共に、電気自動車Cの充電制御回路81を制御する、充電に関するシステムであり、引用発明の「給電システム」と、本願補正発明の「充電システム」とは、「充電用システム」の点において共通する。

引用発明の「蓄電池7」は、本願補正発明の「蓄電池」に相当し、引用発明の「太陽光発電装置6」および「商用交流電源AC」は、本願補正発明の「前記蓄電池とは異なる1以上の電力源」に相当する。
そして、引用発明の「蓄電池7から供給される直流電力を所定の直流電力に変換するDC/DCコンバータ21と、太陽光発電装置6から供給される直流電力を所定の直流電力に変換するDC/DCコンバータ22と、商用交流電源ACから供給される交流電力を所定の直流電力に変換するAC/DCコンバータ23とを有する直流分電盤2の、前記DC/DCコンバータ21、22、前記AC/DCコンバータ23それぞれの給電割合を設定し、前記直流分電盤2から出力される直流電力量を制御する制御装置3」は、給電の割合を設定し、制御する制御装置であるから、電力を管理する装置であるといえ、本願補正発明の「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置」に相当する。

引用発明の「前記直流分電盤2から直流電力が供給される給電装置1」と、本願補正発明の「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置」とは、「蓄電池及び電力源から供給される電力を電気自動車に充電させる充電用給電装置」の点で共通する。

引用発明の「前記直流分電盤2の給電能力」は、蓄電池7から供給される直流電力と、太陽光発電装置6から供給される直流電力と、商用交流電源ACから供給される交流電力を所定の直流電力に変換した電力とを供給する直流分電盤2の給電能力であり、引用発明の「前記直流分電盤2の給電能力」と、本願補正発明の「前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和」とは、「蓄電池及び電力源から供給され得る電力」である点において共通する。
また、引用発明の「前記制御装置3は、前記直流分電盤2の給電能力を給電装置1に送信する機能を備えるよう構成され」る態様は、制御装置3が送信手段として直流分電盤2の給電能力をデータ送信するものである。
そうすると、引用発明の「前記制御装置3は、前記直流分電盤2の給電能力を給電装置1に送信する機能を備えるよう構成され」る態様と、本願補正発明の「前記電力管理装置は、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する電力算出部と、前記電力算出部が算出した電力を示す電力データを、前記充電装置へ送信する電力データ送信部と、前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部と、を有し、前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出」する態様とは、「電力管理装置は、蓄電池及び電力源から供給され得る電力を示す電力データを、充電用給電装置へ送信する電力データ送信部」を有する点において共通する。

引用発明の「前記制御装置3からは前記給電装置1に対して前記直流分電盤2の給電能力が送信され」る態様は、給電能力を受信する手段を給電装置1が有していることが明らかなので、引用発明の「前記制御装置3からは前記給電装置1に対して前記直流分電盤2の給電能力が送信され」る態様と、本願補正発明の「前記充電装置は、前記電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部」を有する態様とは、「充電用給電装置は、電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部」を有する点において共通する。
引用発明において「給電装置1の給電用コネクタ15を電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続する」ことは、電気自動車Cを充電するにあたり行われる動作であり、また、「電気自動車Cから給電装置1に対して給電情報が送信され」ることは、電気自動車Cに搭載された情報処理装置(コンピュータ)からデータを送信することによって行われるものであるといえるから、引用発明の「給電装置1の給電用コネクタ15を電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続すると、電気自動車Cから前記給電装置1に対して前記給電情報が送信され」る態様と、本願補正発明の「前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信する」態様とは、「電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電気量を示すデータを受信する」点において共通する。
引用発明の「直流分電盤2の給電能力」は、それを越えない範囲で電気自動車Cに供給(出力)可能な電気量であることから、本願補正発明の「供給可能出力」に相当する。
引用発明の「電源制御回路11」は、電気自動車への供給電力を制御するものであり、本願補正発明の「電力供給制御部」に相当する。
また、引用発明の「DC/DCコンバータ13」は、電源制御回路11によって制御される回路手段であるから、本願補正発明の「電気回路」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記給電装置1の電源制御回路11は、DC/DCコンバータ13を制御して、直流分電盤2の給電能力を超えない範囲の給電電圧および給電電流を電気自動車Cに供給する」態様と、
本願補正発明の「前記充電装置は、前記電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、前記電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部と、を有する」態様とは、
「充電用給電装置は、電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、電気自動車を充電するにあたり、電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電気量を示すデータを受信し、充電用給電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電気量による電力を、電気自動車へ供給させるべく、充電用給電装置の電気回路を制御する電力供給制御部とを有する」点において共通する。

したがって、引用発明と本願補正発明とは、以下の点で一致する。
一致点
「充電用給電設備に対して充電に必要な電気量を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電用システムであって、
蓄電池と、
前記蓄電池とは異なる1以上の電力源と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を管理する電力管理装置と、
前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電用給電装置とを備え、
前記電力管理装置は、
前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力を示す電力データを、前記充電用給電装置へ送信する電力データ送信部、を有し、
前記充電用給電装置は、
前記電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、
前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電気量を示すデータを受信し、前記充電用給電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電気量による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電用給電装置の電気回路を制御する電力供給制御部とを有する
充電用システム。」

引用発明と、本願補正発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)充電用給電設備に対して充電に必要な電気量を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電用システムが、充電用給電設備を備えることに関して、本願補正発明は「充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電システム」が「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置」を備えるのに対し、引用発明は、「給電装置1側に電気自動車C側から給電電圧および給電電流に関する給電情報を送信し、電気自動車Cに直流電力を供給する給電システム」が「前記直流分電盤2から直流電力が供給される給電装置1」を備えるものである点。

(相違点2)蓄電池及び電力源から供給され得る電力を示す電力データに関し、
本願補正発明の、「蓄電池及び電力源から供給され得る電力」は、「供給され得る電力の総和を算出する電力算出部」が、「算出した電力」であり、その算出のために「電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部」を有し、「前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する」ものであるのに対し、
引用発明は、「直流分電盤2の給電能力」を示すデータについて明示していない点。

(相違点3)充電用給電装置は、電力管理装置から送信された電力データを受信する電力データ受信部と、前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電気量を示すデータを受信し、前記充電用給電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電気量による電力を、前記電気自動車へ供給させることに関し、
本願補正発明は、「前記充電装置」は、「前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部」を有するのに対し、
引用発明は、「前記給電装置1は、前記給電装置1の給電用コネクタ15を電気自動車Cの自動車側コネクタ85に接続すると、電気自動車Cから前記給電装置1に対して前記給電情報が送信され、さらに前記送信器が構成された前記制御装置3からは前記給電装置1に対して前記直流分電盤2の給電能力が送信され、前記給電装置1の電源制御回路11は、DC/DCコンバータ13を制御して、直流分電盤2の給電能力を超えない範囲の給電電圧および給電電流を電気自動車Cに供給する」ものである点。

以下、上記相違点について、検討する。
相違点1、3について
充電用給電装置について、本願補正発明は「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置」であるのに対し、引用発明は「前記直流分電盤2から直流電力が供給される給電装置1」であり、引用発明の「直流分電盤2から」「供給される」「直流電力」は、本願補正発明の「蓄電池及び前記電力源から供給される電力」に相当し差異はないが、本願補正発明は「充電」をさせる「充電装置」であるのに対し、引用発明は「供給」がなされる「給電装置1」として異なるものである。
しかし、引用発明の給電装置1は、電気自動車Cに充電のための電力を含む直流電力を供給するものといえ、電気自動車に充電電力のみを供給する充電器として構成することは、例えば、電気自動車用急速充電器の共通仕様であるCHAdeMO方式にもみるように周知の構成であるから(必要なら、引用文献2を参照。)、引用発明の「前記直流分電盤2から直流電力が供給される給電装置1」を、周知の充電器(本願補正発明の「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置」に相当。)として構成することは、当業者が適宜なし得る事項である。
そして、電気自動車を充電することは、所定電圧の蓄電池を充電するものであるから、電気自動車を充電するための電気量を示す値として「電流値による電力」を用いることは、例えば、上記CHAdeMO方式にも採用されているように一般的な構成である。
そうすると、引用発明の「給電装置1側に電気自動車C側から給電電圧および給電電流に関する給電情報を送信」する態様について、給電装置1を周知の充電器とするとき、電気自動車が仕様として、充電設備に必要な電流値を要求する構成を有するものとし、本願補正発明の「充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車」のごとく構成することも当業者が適宜なし得る事項である。

また、充電用給電設備に対して電気自動車が要求した電気量と、充電用給電装置の供給可能出力とにより、充電用給電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電気量による電力を電気自動車に給電するシステムにおいては、電気自動車と充電用給電装置とで通信を行い、どちらかの側で給電電力に関する指令を行わなければならないから、電気自動車と充電用給電装置のどちらの側が指令を行うかは、適宜選択可能な事項であるといえる。
例えば、引用文献2には「電気自動車と充電器が通信しながら双方の最適状態で充電するCHAdeMO方式を用いた充電器は、電気自動車が要求する時々刻々変化する電流で充電し、電気自動車は充電器のもつ能力(最大出力電流)以上の要求はしないという特徴のCHAdeMOプロトコルを共通仕様として用いる急速充電器であって、
CHAdeMOプロトコルは、
『1 急速充電器は充電開始ボタンが押されたら、車両に対して出力可能範囲などのステータスを送信し、充電許可を求め
2 車両は急速充電器のステータスが充電開始条件を満たすことを確認し、充電許可信号を送出し
3 車両は電池の状態に応じて最適な電流を決定し、電流指令を送出し
4 急速充電器は電流指令に従って、電流を出力し
3?4を繰り返し充電して行き
5 車両が充電完了を判断またはユーザが充電終了ボタンを押すと,充電が終了する』という流れを有する急速充電器。」(以下、「引用文献2記載事項」という。)とあるように、電気自動車が、充電器のもつ能力(最大出力電流)以上の要求をしない電流指令(本願補正発明の「前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データ」に相当。)を充電器に送出することが記載されている。
したがって、給電装置1の側において給電電力を指令するものである、引用発明の「給電装置1の電源制御回路11は、DC/DCコンバータ13を制御して、直流分電盤2の給電能力を超えない範囲の給電電圧および給電電流を電気自動車Cに供給する」「給電装置1」において、引用文献2記載事項のごとく、電気自動車の側において給電電力を指令する構成を用いることで、本願補正発明の「充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する」、「充電装置」のごとく構成することは、当業者が適宜なし得る事項である。
なお、引用文献2記載事項にあるようなCHAdeMO方式を用いた充電器は、電気自動車を充電するにあたり、電気自動車から充電器に電流値が要求されるよりも前に、電気自動車(具体的には、電気自動車に搭載されたコンピュータ)に対して充電器のもつ能力(最大出力電流)を通知する必要があることは明らかであるので、本願補正発明の「充電装置」が「前記電気自動車を充電するにあたり、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部」のごとき構成を用いることとなることは明らかである。

そうすると、引用発明の「給電装置1」を、引用文献2記載事項にあるようなCHAdeMO方式を用いた充電器として構成することで、本願補正発明の「充電設備に対して充電に必要な電流値を要求する仕様の電気自動車を充電するための充電システム」が「前記蓄電池及び前記電力源から供給される電力を前記電気自動車に充電させる充電装置」を備え、前記充電装置は、「前記電気自動車に搭載されたコンピュータから充電に必要な電流値を示す電流値データを受信するよりも前に、電力データ受信部が受信した電力データを、当該充電装置の供給可能出力を示す供給可能出力データとして、前記電気自動車に搭載されたコンピュータへ送信する供給可能出力データ送信部と、前記供給可能出力データ送信部が送信した供給可能出力データによって示される前記充電装置の供給可能出力内であって、且つ、充電に必要な電流値を示す電流値データを、前記電気自動車に搭載されたコンピュータから受信する電流値データ受信部と、前記電流値データ受信部が受信した電流値データによって示される電流値による電力を、前記電気自動車へ供給させるべく、当該充電装置の電気回路を制御する電力供給制御部」を有するものとして構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。

相違点2について
引用発明は、直流分電盤2に給電されている各電力の総和として「直流分電盤2の供給能力」を得ていることは明らかであり、当該各電力の総和を得る手段を「電力算出部」とすることは格別のことではない。
また、例えば、引用文献3には「管理部60は、外部電源402が流すことのできる電流の最大値である外部電源402の定格電流(本願補正発明の「電力源の定格出力」に対応。)から、外部電源402を電力供給元とする車両以外の負荷70へ現在供給されている電流容量(本願補正発明の「電力源から電力負荷に給電されている電力」に対応。)を差し引く演算を実行することで、現時点で車両へ供給可能な電流容量に関する容量情報を算出(本願補正発明の「電力源が供給可能な電力を算出」に対応。)し、算出した容量情報を送信する。」ことが記載されているように、電力供給元に供給可能な値としての「定格」が存在するのであれば、定格をもって供給能力とすることや、供給元の供給能力から他の負荷に供給されている電力を差し引くことにより供給可能な電力データの算出を行うことは、ごく普通に行われることであり、また、そのような供給可能な電力データに関する演算を行う手段を「給電可能量算出部」とすることも格別のことではない。
そうすると、引用発明の「直流分電盤2の給電能力」についてのデータを求めるにあたり、先ず、直流分電盤2に給電される「太陽光発電装置6から供給される直流電力」や「商用交流電源ACから供給される交流電力」について、最大供給能力を示す定格を定義した上で、他の負荷に供給されている電力を差し引く手段として、本願補正発明の「前記電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部」のごとき構成を有するものとし、さらに、引用発明の「直流分電盤2」に給電される、「蓄電池7から供給される直流電力を所定の直流電力に変換するDC/DCコンバータ21」の電力も含め、供給され得る総和の電力を示す電力データを求めることで、本願補正発明の「前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出する」ごとく構成することは、引用発明から適宜なし得るものである。

よって、本願補正発明は、引用発明及び、引用文献2、3に記載されている周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成29年11月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は平成29年7月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、「第2.1.」の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められる(以下、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)。

2.引用例とその記載事項
当審の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2の記載事項及び引用発明は前記第2.2.[理由II]2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から「電力源の定格出力から、当該電力源から電力負荷に給電されている電力を差し引くことで、当該電力源が供給可能な電力を算出する給電可能量算出部」の構成、及び、「前記電力算出部は、前記給電可能量算出部が算出した電力に基づいて、前記蓄電池及び前記電力源から供給され得る電力の総和を算出」する構成(前記第2.2.[理由II]3.で検討した「相違点2」に含まれる構成)を除いたものである。
本願発明と引用発明とを対比すると、前記第2.2.[理由II]3.で対比したとおりの一致点を有し、前記第2.2.[理由II]3.で対比したとおりの相違点1、3、及び、以下の相違点2’の点で相違する。

(相違点2’)蓄電池及び電力源から供給され得る電力を示す電力データに関し、
本願発明は、「供給され得る電力の総和を算出する電力算出部」が、「算出した電力」であるのに対し、引用発明は、直流分電盤2の給電能力を示すデータについて明示していない点。

前記相違点1、3についての検討は、前記第2.2.[理由II]3.において判断したとおりである。
相違点2’について検討すると、引用発明は、直流分電盤2に給電されている各電力の総和として「直流分電盤2の給電能力」を得ていることは明らかであり、当該各電力の総和を得る手段を「電力算出部」とすることで、引用発明の「直流分電盤2の給電能力」を示すデータについて、本願発明のごとく「供給され得る電力の総和を算出する電力算出部」が「算出した電力」であるように構成することは、引用発明から適宜なし得るものである。

そうすると、本願発明は、引用発明及び、引用文献2に記載されている周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものであり、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-05 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-20 
出願番号 特願2011-166275(P2011-166275)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 575- WZ (H02J)
P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 慎  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
矢島 伸一
発明の名称 充電システム、充電装置、制御方法及びプログラム  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 山崎 哲男  
代理人 森 隆一郎  
代理人 松沼 泰史  

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