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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1339039
審判番号 不服2016-11222  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-26 
確定日 2018-04-05 
事件の表示 特願2012- 92888「熱転写保護層」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月28日出願公開、特開2013-220570〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成24年4月16日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成27年11月 6日:拒絶理由通知
平成28年 2月 1日:意見書
平成28年 2月 1日:手続補正書
平成28年 4月21日:拒絶査定
平成28年 7月26日:審判請求書
平成28年 7月26日:手続補正書
平成29年 8月 1日:拒絶理由通知
平成29年10月10日:意見書
平成29年10月10日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成29年11月 1日:拒絶理由通知(最後)(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)
平成30年 1月 5日:意見書(以下単に「意見書」という。)

(2)本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。
「支持シート、該支持シート上に形成され、ポリビニルアルコールと水分散高分子ポリエステル樹脂の混合物を含む剥離層、該剥離層上に形成された保護層、及び該保護層上に形成された接着層を具備し、前記剥離層、前記保護層及び前記接着層のうち、前記保護層及び前記接着層が前記支持シートから転写されることを特徴とする熱転写保護層。」(以下「本願発明」という。)

2 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は概ね次のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1(特開2000-247042号公報)に記載された発明において、剥離層に水分散高分子ポリエステル樹脂を含ませ、本願発明の構成となすことは当業者が引用例2(特開2005-96231号公報)の記載事項に基づいて適宜なし得たことである。

3 引用例の記載事項
(1)本願の出願前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例1として引用された特開2000-247042号公報には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決にて付した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱転写法により画像が形成された印画物およびその形成方法に関し、更に詳しくは、画像上に保護層を設けて耐指紋性等を向上させた印画物およびその形成方法に関する。」
イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の昇華転写方法によって形成された印画物の画像形成面は、耐油性に乏しかった。そのため、印画物がシール用途に用いられる場合には、画像が形成された印画物から印画シール部を剥がす際に、指先が触れることによって指紋が付着し、その指紋の油脂成分により、色材受容層に形成された画像が劣化または消失してしまうおそれがあった。
【0005】こうした問題を解決するため、本発明は、耐指紋性または耐油性を有し、画像の劣化または消失が起こらない耐久性に優れた印画物およびその形成方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の印画物は、基材シートと当該基材シートの一面側に設けられた色材受容層と当該基材シートの他面側に設けられた粘着剤層とを少なくとも備えるとともに一以上の画像形成領域を区画形成するためにハーフカットされた受像シート部と、当該受像シート部の粘着剤層面を剥離可能に被覆する離型シート部とからなる熱転写受像シート、に熱転写を行って、前記受像シート部の画像形成領域内の色材受容層面に画像を形成した印画物であって、少なくとも前記画像形成領域内の色材受容層面を被覆する保護層が設けられていることを特徴とする。また、前記保護層が、前記画像形成領域とともにその周囲を被覆するように連続形成されていることが好ましい。さらに、前記保護層の厚さが5μm以下であることが好ましい。
【0007】この発明によれば、印画物の画像形成領域に保護層が設けられるため、指紋等の油脂成分が色材受容層に直接付着するのを防ぐことができるため、形成された画像が劣化または消失することのない耐油性に優れた印画物を得ることができる。また、保護層の厚さを規定することにより、ハーフカットされた印画シール部を離型シート部から容易に剥がすことができ、さらに、剥がした印画シール部の端面にバリが無く、ハーフカットに沿って保護層を切ることができる印画物を得ることができる。
【0008】また、本発明の印画物の形成方法は、基材シートと当該基材シートの一面側に設けられた色材受容層と当該基材シートの他面側に設けられた粘着剤層とを少なくとも備えるとともに一以上の画像形成領域を区画形成するためにハーフカットされた受像シート部と、当該受像シート部の粘着剤層面を剥離可能に被覆する離型シート部とからなる熱転写受像シート、に熱転写を行って、前記受像シート部の画像形成領域内の色材受容層面に画像を形成し、前記画像形成領域内の色材受容層面上に保護層を形成することを特徴とする。また、前記保護層を、前記画像形成領域とともにその周囲を被覆するように連続形成することが好ましい。さらに、前記保護層の厚さを5μm以下に形成することが好ましい。
【0009】この発明によれば、耐指紋性または耐油性に優れて、画像劣化が起こらない印画物を容易に形成することができる。また、印画シール部を離型シート部から容易に剥がすことができ、さらに、剥がした印画シール部の端面にバリが無く、ハーフカットに沿って保護層を切ることができる印画物を形成することができる。」
ウ 「【0010】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の印画物の一例を示す断面図である。熱転写受像シート1は、大きく分けて、受像シート部3と離型シート部2とから構成されている。受像シート部3は、基材シート7と、基材シート7の一面側に設けられた色材受容層8と、基材シート7の他面側に設けられた粘着剤層6とを少なくとも備えている。離型シート部2は、受像シート部3の粘着剤層6の面に剥離可能に被覆される離型シート4と、必要に応じて受像シート部3の粘着剤層6の剥離を容易にさせるために離型シート4上に設けられた離型層5とを備えている。さらに、受像シート部3は、一以上の画像形成領域14を区画形成するためにハーフカット13されている。
【0011】図1において、基材シート7は、粘着剤層6側のポリエチレンテレフタレートフィルム10と受像層8側のポリオレフィンフィルム12とが接着剤層11を介して貼り合わされている。
【0012】印画物15は、熱転写受像シート1の画像形成領域14に少なくとも一色以上の色相を有する画像が昇華転写法等によって熱転写され、さらに、その画像が形成された色材受容層8上に保護層9aが形成されることによって作製される。
【0013】印画物15の受像シート部3は、ハーフカット13に沿って離型シート部2から剥離され、印画シール部16となって各種物品に貼り付けて用いられる。
【0014】保護層9aは、保護層転写シートから色材受容層8上に熱転写により形成され、印画シール部16を印画物15から剥がす際に、印画シール部16の画像形成領域14上に、指先が触れることによって付着する指紋の油脂成分から画像を保護し、画像の劣化や消失を防止する。保護層転写シートは、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のような通常基材フィルムとして用いられるものを基材とし、そこに剥離層/保護層9a/接着層9bの順に積層して構成される。この保護層転写シートにおいて、剥離層は、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、セルロース樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、硝化面樹脂、ウレタン樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂等の組成物からなり、保護層9aは、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド系樹脂、その他の透明性、耐摩耗性、耐薬品性、耐光性、耐候性等の諸堅牢性に優れた樹脂を含む組成物からなり、接着層9bは、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂等を主成分とする接着剤組成物からなっている。保護層転写シートは、これらの各層の構成材料を、順次塗工、乾燥して形成したものである。」
エ 「【0040】
【実施例】以下、本発明の印画物およびその形成方法について具体的に説明する。
【0041】(実施例1)離型シート4として、厚さ38μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ製)を使用し、その表面に、下記の組成の離型層用塗工液を、乾燥後の塗工重量が0.2g/m^(2)となるように塗工、乾燥して離型層5を形成し、離型シート部2を構成した。
【0042】
離型層用塗工液組成;
ポリメチルシロキサンシリコーン(KS-847H:信越化学工業製)
5重量部
メチルエチルケトン/トルエン(重量比1/1) 95重量部
【0043】次に、厚さ35μmで白色のポリオレフィンフィルム12(Mobil製)と厚さ38μmのPETフィルム10とを用い、下記の組成の接着剤層用塗工液を、乾燥後の塗工重量が3.5g/m^(2)となるように上記した一方のフィルム上に塗工、乾燥して接着剤層11を形成し、そこに、上記した他の一方のフィルムを貼り合わせ、基材シート7を構成した。
【0044】
接着剤層用塗工液組成;
ポリエーテルポリオール(E-550:武田薬品工業製) 10重量部
HMDI(D-102:武田薬品工業製) 10重量部
【0045】さらに、基材シート7を構成するポリオレフィンフィルム12の他方の面に、下記の組成の色材受容層用塗工液を、乾燥後の塗工重量が4.0g/m^(2)となるようにグラビアコーターにより塗工、乾燥して色材受容層8を形成し、受像シート部3を構成した。
【0046】
色材受容層用塗工液組成;
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂(1000A:電気化学工業製)
100重量部
エポキシ変性シリコーン(KF-393:信越化学工業製) 7重量部
アミノ変性シリコーン(KF-343:信越化学工業製) 2重量部
メチルエチルケトン/トルエン(重量比1/1) 40重量部
【0047】最後に、各層により構成された離型シート部2と受像シート部3とを、下記の組成の粘着剤層用塗工液を、乾燥後の塗工重量が5g/m^(2) となるように、離型シート部2の離型層5側の面または受像シート部3のPETフィルム10側の面に塗工、乾燥して粘着剤層6を形成し、そこに他の面を貼り合わせて熱転写受像シート1を得た。
【0048】
粘着剤層用塗工液組成;
アクリルポリオール(1310L:総研化学製) 100重量部
ポリイソシアネート(E-AX:総研化学製) 3重量部
【0049】得られた熱転写受像シート1には、画像が転写される前に、予め一以上の画像形成領域14を区画形成するためにハーフカット13された。その後、昇華転写法によって、熱転写シートから色材受容層8に熱転写して画像を形成した。
【0050】画像が形成された熱転写受像シート1上の画像形成領域とともにその周囲を被覆するように、保護層転写シートから厚さ3μmの保護層9’を熱転写して形成した。用いた保護層転写シートは、ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とし、そこに剥離層/保護層9a/接着層9bの順に積層して構成されたものであり、剥離層としてはポリビニルアルコール、保護層9aとしてはアクリル系樹脂、接着層9bとしては塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を順次塗工、乾燥して形成したものである。この保護層転写シートから、保護層9a/接着層9bを転写して色材受容層8上に保護層9’を設け、実施例1の印画物を形成した。」
オ 「【図1】


カ 上記アないしオからみて、引用例1には、【0041】ないし【0050】に記載されている実施例1における、画像が形成された熱転写受像シート1上の画像形成領域とともにその周囲を被覆するように、保護層9’を熱転写するための保護層転写シートとして、次の発明が記載されているものと認められる。
「ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とし、そこに剥離層/保護層9a/接着層9bの順に積層して構成され、
剥離層としてはポリビニルアルコール、保護層9aとしてはアクリル系樹脂、接着層9bとしては塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を順次塗工、乾燥して形成したものであり、
保護層9a/接着層9bが熱転写される、
保護層転写シート。」(以下「引用発明」という。)

(2)本願の出願前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用例2として引用された特開2005-96231号公報には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの一方の面の少なくとも一部に、熱転写性保護層を備える保護層転写シートにおいて、当該熱転写性保護層が、熱転写後に吸水性を有するものであり、基材シート側から、少なくとも剥離層と、耐水性の多孔質層と吸水性樹脂とからなる捺印・筆記性保護層と、熱接着性樹脂層とを順次積層し、かつ、当該剥離層が、少なくとも水溶性樹脂と、微細粒子と、硬化剤と、水分散型高分子とからなり、かつ、当該剥離層の塗布量が、0.1g/m^(2)以上、0.5g/m^(2)以下の範囲にあることを特徴とする保護層転写シート。
【請求項2】
前記の剥離層における水分散型高分子の含有量が、2重量%?10重量%の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の保護層転写シート。
【請求項3】
前記の熱転写性保護層中に紫外線を吸収する材料を含有することを持徴とする請求項1?2のいずれかに記載の保護層熱転写シート。
【請求項4】
前記の熱転写性保護層が、熱昇華性色材層、または熱溶融性色材層の少なくとも1層と、同一の基材シート上に面順次に形成されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の保護層転写シート。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載される保護層熱転写シートにより熱転写性保護層を有する熱転写画像が被覆されていることを特徴とする印画物。
【請求項6】
前記の印画物の熱転写性保護層上に水性インキが捺印可能であることを特徴とする請求項5に記載の印画物。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離可能に保護層が設けられた保護層熱転写シート、及び、それを用いた印画物に関する。
【0002】
更に詳しくは感熱転写記録方式によって形成された画像に対して捺印性や、水性ペン、万年筆等の筆記性を与え、箔切れ性、耐磨耗性、耐スクラッチ性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れる保護層転写シート、及び、それを用いた印画物に関する。」
ウ 「【背景技術】
【0003】
現在、簡便な印刷方法として熱転写記録方法が広く使用されている。熱転写記録方法は、各種画像を簡便に形成できるため、印刷枚数が比較的少なくても良い印刷物、例えば、身分証明書等のIDカードの作成や営業写真、或いはパーソナルコンピュータのプリンタや、ビデオプリンタ等において利用されている。
・・・略・・・
【0010】
上記の課題を解決するための保護層熱転写フィルムとして、例えば、転写後に最表面を形成する吸水性表面層が、水性インキを吸収、定着させる層からなるものであり、吸水性表面層が、実質的に透明な多孔層であるか、または、少なくとも吸水性を有する吸水性微細領域と、耐水性を有する耐水性微細領域から成る部分吸水層であることを特徴とする保護層熱転写フィルムを提供する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
・・・略・・・
しかしながら、特許文献2に記載の保護層熱転写フィルムでは、吸水性を付与する目的で、熱転写性保護層における吸水性表面層を設けることによって、吸水性表面層の厚み分だけ熱転写性保護層の厚みが大きくなるため、通常の吸水性を付与しない保護層熱転写シートと比べて、熱転写の際、基材フィルムから箔切れ性が悪くなり、きれいに剥がれないという欠点がある。」
エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、感熱転写記録方式によって形成された画像に対して捺印性や、水性ペン、万年筆等の筆記性を与え、箔切れ性、耐磨耗性や耐スクラッチ性等の耐久性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れる保護層転写シート、及び、それを用いた印画物を提供する事である。」
オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を実施の形態を挙げて更に詳細に説明する。図1は、本発明の保護層転写シート8である一実施例を説明する断面図であり、基材シート1の一方の面に熱転写性保護層2を基材シート1側から順に剥離層3と、耐水性を有する多孔質層と吸水性樹脂とからなる捺印・筆記性保護層4と、熱接着性樹脂層5とを積層した構成である。
【0020】
本発明にかかる保護層転写シート8は、上記の実施形態において、当該剥離層が、少なくとも水溶性樹脂、微細粒子、硬化剤、水分散型高分子からなり、かつ、当該剥離層の塗布量が、0.1g/m^(2)以上、0.5g/m^(2)以下の範囲にあるものである。このことによって、剥離層3の膜厚を薄くすることができ、箔切れ良く熱転写性保護層2を基材シートから剥離できる。
【0021】
また、前記の剥離層における水分散型高分子の含有量が、2重量%?10重量%の範囲で含有されているものである。このことによって、膜強度を向上させることができ、箔切れ良く熱転写性保護層2を基材シートから剥離できる。
【0022】
また、着色剤によって形成された画像を有する熱転写画像の表面に、当該熱転写性保護層2が被覆されることにより、熱転写画像上に、水性インキが捺印でき、耐磨耗性、耐薬品性、耐溶剤性を兼ね備えた印画物を提供することができる。
・・・略・・・
【0027】
〔剥離層〕
本発明に係る剥離層3は、熱転写の際、基材シート1と熱転写性保護層2との箔切れ性を有すると共に、被転写体へ保護層が転写後に最表面となるので、耐磨耗性等の耐久性と、吸水性能を有するものであることが必要であり、更に、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性を有するものであることがより好ましい。具体的には、基材シート1からの箔切れ性と吸水性とを備える多孔質層から構成される。剥離層3を多孔層にすることによって、熱転写性保護層の表面に吸水性を持たせつつ、捺印・筆記性保護層へ浸透する水性インキ等の吸水量をある程度制御して吸水させることができるという利点を有する。
剥離層3としての多孔質層としては、水溶性樹脂からなるバインダー、微細粒子、及び、硬化剤、水分散型高分子を必須の構成成分とし、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、帯電防止剤等を添加してもよい。特に、水分散型高分子を添加することによって、耐熱性基材シートとの密着性を向上させることができ、その含有量としては、2重量%?10重量%の範囲で含有することが好ましい。また、剥離層の乾燥状態での塗布量を0.1g/m^(2)以上、0.5g/m^(2)以下の範囲にあることによって、箔切れ性を向上させることができるという利点を有する。これに対して、剥離層の塗布量が、0.1g/m^(2)より少ないと耐磨耗性等の耐久性が低下するので好ましくなく、0.5g/m^(2)より多いと箔切れ性が低下するので好ましくない。
【0028】
本発明に係る水分散系高分子としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂および塩化ビニリデン系樹脂等を少なくとも1種類以上含む高分子材料等を使用できる。特に、本発明において、剥離層における水分散系高分子の構成樹脂と耐熱性基材シートの構成樹脂とを同じ樹脂とすることで、剥離層と耐熱性基材シートとの密着性が向上するのでより好ましい。また、前記の剥離層における水分散型高分子の含有量が、2重量%?10重量%の範囲で含有されていることが、膜強度を向上させることにより、膜厚を0.1μm程度でも膜形成可能であるので、箔切れ性に優れるものであるため、好ましいものである。
【0029】
前記の水分散型高分子の含有量が、2重量%未満であると、膜厚を0.1μm程度で膜形成することが難しいので好ましくなく、10重量%を超えると、保存後のスティッキング等の性能が低下するので好ましくない。
【0030】
本発明に係るポリエステル系樹脂としては、二塩基酸とグリコールからなり、水に可溶、乳化または分散できるポリエステル系樹脂であり、当該酸成分とグリコール成分とが共重合されたポリエステル共重合体である。
【0031】
酸成分としての二塩基酸としては、スルホン酸基含有ジカルボン酸と、その他のジカルボン酸等が挙げられる。スルホン酸基含有ジカルボン酸としては、スルホン酸金属塩含有ジカルボン酸等が挙げられる。スルホン酸金属塩含有ジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸等の金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)が挙げられ、好ましくはナトリウムスルホテレフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸である。
【0032】
その他のジカルボン酸としては、スルホン酸金属塩を含まない通常ジカルボン酸であり、芳香族、脂肪族、脂環族の各ジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0033】
グリコール成分としては、炭素数2?8個の脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等)、炭素数6?12個の脂環族グリコール(1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等)、および両者の混合物等が挙げられる他、芳香族グリコール(p-キシレングリコール等)、ポリアルキレンエーテルグリコール類(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)等が挙げられる。
【0034】
上記のポリエステル共重合体は、通常の溶融重縮合によって得られる。例えば、上記ジカルボン酸成分およびグリコール成分を直接反応させ、水を留去してエステル化した後に重縮合を行う直接エステル化法、あるいはジカルボン酸成分のジメチルエステルとグリコール成分を反応させ、メチルアルコールを留去してエステル交換を行った後に重縮合を行うエステル交換法等によって得られる。この他に、溶液重縮合や界面重縮合等によっても共重合体が得られ、特に限定されるものではない。
前記の多孔層を形成する方法としては、バインダーを親溶媒である水や有機溶剤等に溶解して分散させ、これを塗布・乾燥することによって形成することかできる
このような剥離層3を形成する方法としては、上記の樹脂を使用して、グラビアコート、、グラビアリバースコート、ロールコート、その他多くの塗布方法で形成することかできる。
【0035】
〔バインダー〕
本発明に係る剥離層3を構成するバインダーは、熱転写後に吸水性を付与する目的で、水溶性樹脂を用いることが必要である。具体的に、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、アルキルビニルエーテル樹脂、マレイン酸共重合体樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、セルロース系樹脂、水溶性アルキッド樹脂、非セルロース系水溶性多糖類等を使用することができ、中でもポリビニルアルコール系樹脂を使用することが、熱転写製保護層により優れた捺印適性を付与することができるので好ましい。更に、バインダーと同じ樹脂を使用することにより、基材シートとの箔切れ性、熱転写性保護層中の吸水性層との密着性、吸水性能に優れるので好ましい。前記のバインダーの数平均分子量としては、10000?90000の範囲にあることが、熱転写の際、基材シート1と熱転写性保護層2との箔切れ性に優れるので好ましいものである。バインダーの数平均分子量が90000を超えると、箔切れ性が低下するので好ましくない。
【0036】
〔硬化剤〕
本発明に係るバインダーである水溶性樹脂の活性官能基と反応する硬化剤としては、活性官能基と反応する硬化剤との硬化形態により、耐水性、耐溶剤性を付与すると共に、水溶性樹脂の分子量を制御して箔切れ性を向上させる目的で使用する。硬化剤としては、例えば、ポリアミド樹脂系のスミレーズレジン5004に代表される住友化学社製のスミレーズレジンシリーズ等が使用できる。
本発明に係る離型層3のバインダーと硬化剤の混合比は、水溶性樹脂と硬化剤の添加重量との固形分比が0.05%≦(硬化剤/水溶性樹脂)≦2%の範囲にあることが、耐水性、耐溶剤性、箔切れ性に優れるので好ましい。硬化剤の添加量が上限値を超えると、箔切れ性が低下し、下限値を超えると耐水性、耐溶剤性が低下するので好ましくない。
【0037】
〔微細粒子〕
本発明に係る剥離層3を構成する微細粒子は、これを水や有機溶媒に分散させて、塗布乾燥させることによって、多孔層を形成する目的で使用するものである。微細粒子の形状としては、球状、針状、無定形等どのような形状でも良いが、特に、球状粒子を用いることが、その粒子径をできる限り均一にでき、空隙率が高くなり、吸水性能を向上させることができるのでより好ましい。微細粒子の形状が不均一な場合、空隙率が低下してしまい、吸水性能が低下してしまうため好ましくない。また、前記の微細粒子の平均粒子径、0.3μm以下であることが、透明な性能を維持するために好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。0.3μmより大きな平均粒子径の微細粒子であると、その透明性を維持することが困難となってしまい好ましくない。
前記の微細粒子を形成する材料は、透明である限り、有機,無機いずれのタイプでも良く、有機微細粒子として、例えば、アクリル系微細粒子、セルロース系微細粒子、非セルロース系多糖類微細粒子等が挙げられ、無機微細粒子として、例えば、シリカあるいはその変成物の微粒子、アルミナゾル、その他の金属や金属酸化物の微粒子を使用できる。特に、コロイダルシリカが、粒子自体の耐溶剤性が高く、粒子表面に親水性基を有する微細粒子であるため好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、日産化学社製スノーテックスシリーズ、触媒化成工業社製カタロイドシリーズ等が好ましく使用できる。
コロイダルシリカ添加量としては、バインダーが水溶性樹脂の場合、混合比、1/30≦水溶性樹脂/コロイダルシリカ≦1/3(重量比)の範囲にあることによって、捺印・筆記性保護層へ浸透する水性インキ等の吸水量をある程度制御して吸水させることができ、また、耐摩擦性等の耐久性を兼ね備えるので好ましい。この混合比が1/30より小さいと、バインダーとしての効果が不十分となるので好ましくなく、混合比が1/3より大きいと、多孔質構造を形成することができなくなり、吸水性が低下するので好ましくない。
【0038】
〔水分散型高分子〕
本発明に係る剥離層3に含有する水分散型高分子は、基材シートとの箔持ち性を向上させる目的で使用するものである。具体的には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂および塩化ビニリデン系樹脂等を少なくとも1種類以上含む高分子材料等を使用でき、基材シートの樹脂成分との箔持ち性の良好な樹脂を選択することが好ましい。本発明で用いられる水分散型高分子としては、水に可溶、乳化または分散できる高分子である。水分散型ポリエステル樹脂としては、例えば、東洋紡社製バイロナール等が好ましく使用できる。」
カ 「【実施例1】
【0069】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。厚み、5.2μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)基材シートとし、その一方の面に耐熱滑性層として、シリコーン樹脂からなる耐熱滑性層用塗工液を乾燥時0.7g/m^(2)になるように、グラビアコート法により塗工し、もう一方の面に下記の組成の剥離層用塗工液を乾燥時0.5g/m^(2)になるように、塗工し、乾燥して剥離層を形成し、更にその上に下記の組成の多孔質層用塗工液をグラビアコート法により乾燥時2.0g/m^(2)になるように塗布し、乾燥して多孔質層を形成し、更にその上に下記の組成の吸水性樹脂用塗工液をグラビアコート法により乾燥時0.5g/m^(2)になるように塗布し、多孔質層に染み込ませ、空隙に浸透させ、捺印・筆記性保護層を形成した。また、捺印・筆記性保護層の上に、下記の組成の熱接着性樹脂層用塗工液を用いて同様にして乾燥時1.2g/m^(2) となるように塗布、乾燥して熱接着性樹脂層を形成して、層構成、熱接着性樹脂層5/捺印・筆記性保護層4/剥離層3/基材シート1/耐熱滑性層7からなる本発明にかかる実施例1の保護層転写シートを得た。
〔剥離層用塗工液の組成〕
ポリビニルアルコール樹脂 1.08重量部
(C318 クラレ社製、数平均分子量:約80000)
コロイダルシリカ分散液 7.5重量部
(スノーテックスOL-40、日産化学社製、平均粒径:約20nm)
水分散系ポリエステル樹脂 0.2重量部
(バイロナールMD-1500、東洋紡社製)
硬化剤(スミレーズレジン5004 住友化学社製) 0.045重量部
イソプロピルアルコ-ル 18重量部
水 5重量部
〔多孔質層用塗工液の組成〕
ポリビニルアルコール樹脂12%溶液 0.24重量部
(C318 クラレ社製、数平均分子量:約80000)
コロイダルシリカ分散液 8重量部
(スノーテックスOL-40 日産化学社製、平均粒径:約20nm)
硬化剤(スミレーズレジン5004 住友化学社製) 0.1重量部
イソプロピルアルコ-ル 3重量部
水 1重量部
〔吸水性樹脂塗工液の組成〕
ポリビニルピロリドン樹脂 4重量部
(PVP K-90、ISPジャパン社製、重量平均分子量:約900000?1500000)
アクリルポリオール 10重量部
(ダイヤナールLR209、三菱レイヨン社製)
ウレタンポリオール 3重量部
(サンプレンIB114、三洋化成社製)
メチルエチルケトン 40重量部
イソプロピルアルコ-ル 25重量部
〔熱接着性樹脂層塗工液の組成〕
ポリエステル樹脂 8重量部
(バイロン700、東洋紡社製)
アクリル樹脂 2重量部
(PUVA50M、大塚化学社製)
紫外線吸収剤 1重量部
(チヌビン900、チバ・スペシャリティケミカルズ)
メチルエチルケトン 40重量部
トルエン 40重量部
次に、三菱電機社製昇華転写型プリンタ-(MITUBISHI CP710)用の昇華熱転写方式の熱転写シートと、同プリンター用オーバーコートタイプの熱転写受像シートを用意して、当該熱転写受像シートの受容層と、昇華熱転写方式の熱転写シートの染料層面を重ね合わせて、三菱電機社製昇華転写型プリンタ-(MITUBISHI CP710)を用いて、環境温度45℃下で、ブラックのベタ画像の印画物を10枚連続で形成した。なお、受像シートの基材シートとして合成紙(ユポFRG-150、厚さ150ミクロン・王子油化合成紙製)を用い、その一方の面に下記の組成の染料受容層塗布液をバーコーターにより、乾燥時塗布量が4g/m^(2)となるように塗布、乾燥して、染料受容層を形成し、熱転写受像シートを作製した。
〔染料受容層形成用塗布液〕
塩化ビニル─酢酸ビニル共重合体 20重量部
(電化ビニル1000A 電気化学社製)
エポキシ変性シリコーンオイル 1重量部
(X─22─2900T 信越化学社製)
メチルエチルケトン 40重量部
トルエン 40重量部
上記の方法により得られたブラックのベタ画像上に、上記で得られた実施例1の保護層転写シートを重ね合わせ、ブラックのベタ画像を形成したプリンターと同じプリンターを用いて、それぞれの熱転写性保護層を転写し、保護層付ブラックのベタ画像を形成した。その結果、実施例1の保護層転写シートは、上記の画像に転写する際、基材シートと、熱転写性保護層との箔切れ性に優れると共に、保存後、品質低下することなく、水性インキによる捺印性、水性ペンで筆記性、耐磨耗性、耐スクラッチ性等の耐久性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性等に優れる保護層を形成する印画物を得ることができた。
・・・略・・・
【0076】
上記で得られた実施例1?4及び比較例1?2のブラックのベタ画像の表面に熱転写性保護層を形成する印画物について、箔切れ性、耐水性及び、保存後の性能について、以下の評価方法、及び、評価基準により評価した。
〔箔切れ性〕
実施例1?4及び比較例1?2の各保護層転写シートを用い、環境温度、40℃下で、熱転写性保護層を転写して得られた保護層付ブラックのベタ画像部分の表面を目視にて観察し、箔切れが均一になっているか、尾引きがないかを下記基準で評価し、その結果を表1に示す。
(評価基準)
◎:尾引きがなく、問題ないレベル
○:浮きのある尾引きがなく、問題ないレベル
△:浮きのある尾引きが1?5枚有り
×:浮きのある尾引きが6?10枚有り
〔耐水性〕
実施例1?4及び比較例1?2の各保護層転写シートを用いて得られた上記の熱転写画像記録体の保護層上に、水道水を含ませた綿棒(ピップトウキョウ社製、抗菌綿棒H101)を用い、10gの荷重をかけて10往復擦り、保護層付ブラックのベタ画像部の汚染性を目視にて観察し、下記の基準で評価を行い、その結果を表1に示す。
(評価基準)
○:ブラックのベタ画像部にダメージなく、問題なし
×:熱転写性保護層が擦り取られており、問題あり
〔保存安定性〕
実施例1?4及び比較例1?2の各保護層転写シートを小巻状態で40℃、環境湿度、90%に24時間保存した。その後、MITUBISHI CP710(三菱電機社製昇華転写型プリンタ)にて、環境温度、40℃、環境湿度、90%下で、10枚連続印画し、その保護層転写シートの裏面側に、サーマルヘッドの熱による融着、いわゆるスティッキングの発生の有無を確認し、熱転写性保護層を転写してブラックのベタ画像の上に形成された熱転写性保護層のざらつきを目視にて観察した。その結果を表1に示す。
(評価基準)
○:スティッキングが発生せず、表面にざらつきもみられず、問題なし
×:印画面にスティッキングを発生し、表面にざらつきもみられ、問題あり
【0077】
【表1】

結果は、表1に示すように、実施例1、実施例2による保護層転写シートにより熱転写性保護層を有する熱転写画像が被覆されている印画物は、比較例1(従来品)と比べ、剥離層の塗布量を減らすことによって、箔切れ性を向上させることができ、従来と同等の保存適性、および耐水性が得られた。また、実施例3、4では、比較例1(従来品)と比べ、剥離層の塗布量を減らし、更に、剥離層における水分散型高分子の含有量が、2重量%?10重量%の範囲で含有されていることによって、箔切れ性を向上させることができ、従来と同等の保存適性、および耐水性が得られた。比較例2では、比較例1(従来品)と比べ、剥離層中の水分散型高分子の含有量が10重量%を超えることによって、保存適性に劣り、小巻状態の保護層転写シートにおいて、耐熱滑性層(保護層転写シートの裏面側)と熱転写性保護層(保護層転写シートの表面側)の界面での接着力が高くなってしまい、スティッキング発生や表面のざらつき等の転写異常が発生し、好ましくないものであった。」
キ 「【図1】


ク 上記アないしキからみて、引用例2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「基材シート1の一方の面に熱転写性保護層2を基材シート1側から順に剥離層3と、耐水性を有する多孔質層と吸水性樹脂とからなる捺印・筆記性保護層4と、熱接着性樹脂層5とを積層した保護層転写シート8において、
剥離層3が、少なくとも水溶性樹脂、微細粒子、硬化剤、水分散型高分子からなり、前記水溶性樹脂としてはポリビニルアルコール系樹脂が使用されるものであり、
剥離層3は熱転写の際、基材シート1と熱転写性保護層2との箔切れ性を有することが必要であるが、前記剥離層3に水分散型高分子を添加することによって、耐熱性基材シートとの密着性を向上させることができ、前記水分散型高分子には、基材シートの樹脂成分との箔持ち性の良好な樹脂として、水分散型ポリエステル樹脂を使用したこと。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「基材」、「剥離層」、「保護層9a」及び「接着層9b」は、その層順及び機能からみて、それぞれ本願発明の「支持シート」、「剥離層」、「保護層」及び「接着層」に相当する。

(2)引用発明は、ポリエチレンテレフタレートフィルムを「基材」(支持シート)とし、そこに「剥離層」/「保護層9a」/「接着層9b」の順に積層して構成されたものであるから、引用発明は、本願発明の「支持シート、該支持シート上に形成され、ポリビニルアルコール」「を含む剥離層、該剥離層上に形成された保護層、及び該保護層上に形成された接着層」を具備する。

(3)引用発明は、保護層転写シートのうち、「保護層9a/接着層9bが熱転写される」のであるから、本願発明の「前記剥離層、前記保護層及び前記接着層のうち、前記保護層及び前記接着層が前記支持シートから転写される」との構成を具備する。また、引用発明の「保護層転写シート」は、熱転写を利用しているから、本願発明の「熱転写保護層」に相当する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「支持シート、該支持シート上に形成され、ポリビニルアルコールを含む剥離層、該剥離層上に形成された保護層、及び該保護層上に形成された接着層を具備し、前記剥離層、前記保護層及び前記接着層のうち、前記保護層及び前記接着層が前記支持シートから転写される、熱転写保護層。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点
本願発明では、剥離層がポリビニルアルコールと水分散高分子ポリエステル樹脂の混合物を含むのに対し、
引用発明では、剥離層がポリビニルアルコールからなり、水分散高分子ポリエステル樹脂を含まない点。

5 判断
(1)上記相違点について検討する。
ア 引用例2の記載事項は、剥離層と基材シートとの間で剥離する保護層転写シートではあるが、ポリビニルアルコール系樹脂を含む剥離層に水分散型高分子を添加することによって、耐熱性基材シートとの密着性を向上させることができ、前記水分散型高分子には、基材シートの樹脂成分との箔持ち性の良好な樹脂として、水分散型ポリエステル樹脂を使用したことである。
イ 引用例2の【0076】には「〔箔切れ性〕 実施例1?4及び比較例1?2の各保護層転写シートを用い、環境温度、40℃下で、熱転写性保護層を転写して得られた保護層付ブラックのベタ画像部分の表面を目視にて観察し、箔切れが均一になっているか、尾引きがないかを下記基準で評価し、その結果を表1に示す。」と記載され、【0077】には「実施例3、4では、比較例1(従来品)と比べ、剥離層の塗布量を減らし、更に、剥離層における水分散型高分子の含有量が、2重量%?10重量%の範囲で含有されていることによって、箔切れ性を向上させることができ、従来と同等の保存適性、および耐水性が得られた。」と記載されており、これらの記載からみて、熱転写した際に、剥離層の塗布量と、剥離層における水分散型高分子の含有量の両者を適切なものとすることによって、基材層から剥離されるべき部分の剥離層は良好に剥離し、また、基材層から剥離されるべきではない部分の剥離層は基材層に残ることによって、箔切れ性が向上するものであるといえる。
ウ 引用例2の記載事項は、剥離層3に水分散型ポリエステル樹脂を添加することによって、基材シートとの密着性を向上させることができるものであるところ、一見して、水分散型ポリエステル樹脂の添加により、箔切れ性が低下するとも解される。しかしながら、剥離性は良好すぎても、意に反して剥離しやすく、箔持ち性が悪くなるだけであり、要するに、剥離性と箔持ち性とは、トレードオフの関係にあるものである。そうすると、引用例2の記載事項は、剥離層3への水分散型ポリエステル樹脂の適正量の添加により、剥離性と箔持ち性とを両立させ、適正な箔切れ性を確保したものといえる。
エ 上記アないしウからみて、適正な箔切れ性の前提となる、剥離層の剥離性及び箔持ち性の両立は、転写シート一般に求められる性能であると認められるところ、引用発明においても、このような性能が求められることは、その明示がなくとも、当然求められることである。してみると、引用発明において、剥離層に水分散高分子ポリエステル樹脂を適正量含ませ、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項に基づいて適宜なし得たことである。

(2)本願発明の熱転写保護層における転写安定性及び保存安定性が良好であるという効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2の記載事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(3)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、意見書において、概略、以下のとおり主張している。
「「箔切れ性」とは、熱転写する際、転写シートの加熱した部分と加熱されない部分との境界における破断性を意味し、この性能は、転写シートを構成する膜のうち、熱転写する際に剥離して、転写される膜に求められるものです。
引用文献1に記載の保護層転写シートにおいて、熱転写する際に剥離して、転写されるのは、保護層9a/接着層9bであり、剥離層は転写されません。即ち、この保護層転写シートの剥離層に、箔切れ性は求めらません。
よって、当業者は、引用文献2の記載に基づき、引用文献1に記載の剥離層に水分散高分子ポリエステル樹脂を含ませようとは思いません。
また、引用文献1及び引用文献2は、熱転写保護層が、「前記剥離層、前記保護層及び前記接着層のうち、前記保護層及び前記接着層が前記支持シートから転写される」ものであって、「ポリビニルアルコールと水分散高分子ポリエステル樹脂の混合物を含む剥離層」を具備していることにより、良好な転写安定性及び保存安定性を達成することができるということを開示も示唆もしていません。
即ち、本発明の熱転写保護層が奏する効果は、引用文献1及び引用文献2から予測し得ない有利な効果です。
以上の説明の通り、本願の請求項1は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるものに該当しないと思料します。」

イ 審判請求人の主張について検討する。
上記(1)イで述べたとおり、引用例2(引用文献2)の記載からみて、引用例2の記載事項でいう「箔切れ性」は、剥離層の剥離性及び箔持ち性の両立により達成されるものと解される。そして、引用例2の記載事項において、剥離層は適正な剥離性と箔持ち性を有することが要求されているところ、引用発明においても、上記(1)エで述べたとおり、剥離層にこのような性能が求められることが明らかであるから、当業者は、引用例2の記載に基づき、引用発明の剥離層に水分散高分子ポリエステル樹脂を含ませようと想到し得るものである。
したがって、請求人の主張は、採用することができない。

6 むすび
本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-05 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-19 
出願番号 特願2012-92888(P2012-92888)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
鉄 豊郎
発明の名称 熱転写保護層  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 鵜飼 健  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 鵜飼 健  
代理人 河野 直樹  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  

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