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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1339394 |
審判番号 | 無効2017-800045 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-04-03 |
確定日 | 2018-03-26 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4171216号発明「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4171216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5?11〕、〔4〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1. 手続の経緯 本件特許第4171216号は、平成14年 1月16日の出願であって、平成20年 8月15日に特許権の設定登録がなされたものである。 これに対して、請求人から、平成29年 4月 3日付け審判請求書によって、本件特許の請求項1?3、5?11に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。 また、被請求人から、平成29年 6月19日付けで答弁書及び訂正請求書が提出され、同年 9月 4日付けで請求人より弁駁書が提出された。 そして、請求人、被請求人は、各々、平成29年11月24日付け口頭審理陳述要領書を提出し、さらに請求人は、同年12月 8日付け上申書を提出するとともに、同年12月 8日に行われた第1回口頭審理において、請求人、被請求人各々により、第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。 第2. 訂正請求 本件訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記平成29年 6月19日付け訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。 1. 訂正請求の趣旨 特許第4171216号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?11について訂正することを求める。 2. 訂正の内容 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器が収納されていることを特徴とする輸液製剤。」とあるのを、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フイルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤。」に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に、「微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする請求項1?3に記載の輸液製剤。」とあるのを、「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする輸液製剤。」に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項10に、「複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器を収納することを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。」とあるのを、「複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。」に訂正する。 3. 訂正の適否の判断 (1) 訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は、請求項1における「微量金属元素収容容器」について、訂正前は、「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」が収容されたものであったのを、訂正後は、「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」が収容されたものに限定し(以下、「訂正事項1-1」という。)、「微量金属元素収容容器」について、訂正後は、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」ものに限定するもの(以下、「訂正事項1-2」という。)である。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)には、訂正事項1-1、および、訂正事項1-2について以下の事項が記載されている。 「上記輸液容器における各室の形成材料としては、貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよく、比較的大容量の室を形成する部分は、柔軟な熱可塑性樹脂、例えば軟質ポリプロピレンやそのコポリマー、ポリエチレンおよび/またはそのコポリマー、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール部分ケン化物、ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物、エチレン-プロピレンコポリマーのようなオレフィン系樹脂もしくはポリオレフィン部分架橋物、スチレン系エラストマー、ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル類もしくは軟質塩化ビニル樹脂など、またはそれらの内適当な樹脂を混合した素材、またナイロンなど他の素材も含めて前記素材を多層に成型したシートなどが利用可能である。」(段落【0013】) 「本発明の輸液製剤において、微量金属元素を含有する液(以下、「微量金属元素含有溶液」ともいう)を収容する微量金属元素収容容器は、含硫化合物を含有する溶液を充填する室と異なる室に収納されている。微量金属元素収容容器の収納方法としては、例えば室内の液中に微量金属元素収容容器を浮遊させてもよいが、微量金属元素収容容器の周縁シール部の端を、収納する室の周縁に挟み込んでシールすることにより、吊着するのが好ましい。この場合、シールをしやすくするために、微量金属元素含有溶液が収納されている室の素材を、微量金属元素収容容器の最内層の素材と同一にするのが一般的である。」(段落【0020】) 「微量金属元素収容容器内の微量金属元素は、微量金属元素もしくは微量金属元素を含む化合物またはそれらを含有する溶液もしくは懸濁液などであってよい。」(段落【0021】) 「〔実施例1〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質溶液を溶解し、酢酸でpHを4.4とした後、ろ過して、表1に示した組成の溶液(A)を調製した。 また、各結晶アミノ酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し、酢酸でpHを6.5とした後、ろ過し、表2に示した組成の溶液(B)を調製した。 これとは別に、コンドロイチン硫酸ナトリウムの注射用蒸留水溶液に、塩化第二鉄の注射用蒸留水溶液と水酸化ナトリウムの注射用蒸留水溶液を交互に添加しながら、所定量の塩化第二鉄を添加した。この溶液に所定量の硫酸銅、塩化マンガンを添加した後、pHを水酸化ナトリウムまたは塩酸で5.3に調整し、注射用蒸留水で液量を調整し、表3に示した組成の溶液(C)を調製した。なお、コンドロイチン硫酸ナトリウムは濃度5.0g/Lとなるように添加した。 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に、溶液(C)2mLを充填し、溶着した。この小袋を微量金属元素収容容器(図1の符号6)としてポリエチレン製容器第1室(図1の符号4)に予め挟着した。」(段落【0052】) そうすると、訂正事項1-1について、本件特許明細書の段落【0020】、【0021】には、微量金属元素収容容器に微量金属元素を含む液を収容することが記載されており、段落【0052】には微量金属元素収容容器に微量金属元素を含む液を収容した実施例(実施例1)も記載されている。 したがって、訂正事項1-1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 次に、訂正事項1-2について、本件特許明細書の段落【0052】には、実施例1として、厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に、塩化第二鉄、塩化マンガン、硫酸銅を含む溶液(C)2mLを充填したこと、および、該小袋を微量金属元素収容容器とし、ポリエチレン製容器第1室に予め挟着したことが記載されている。 また、段落【0020】には、微量金属元素収容容器の収納方法について、微量金属元素収容容器の周縁シール部の端を、収納する室の周縁に挟み込んでシールすることにより、吊着するのが好ましいことが記載されており、実施例1は、この好ましい態様に該当する実施例であると認められるところ、段落【0020】には、さらに、シールをしやすくするために、微量金属元素含有溶液が収納されている室の素材を、微量金属元素収容容器の最内層の素材と同一にするのが一般的であることが記載されている。 この記載について当業者は、微量金属元素収容容器が収納されている室(以下、「収納室」という。)の中に微量金属元素収容容器(以下、「収容容器」という。)を収納するのであるから、両者をシールをする際に収納室(の内側)と接触することがない収容容器の最内層の素材を収納室の素材と同一にすることによりシールがしやすくなることはありえず、シールをしやすくするためには、シールをする際に相互に接触する部分、すなわち、収納室(あるいはその少なくとも最内層)の素材と収容容器(あるいはその少なくとも最外層)の素材を同一にすべきであると理解する。 一方、段落【0013】には、収納室の形成材料としては、貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよいこと、その例として、比較的大容量の室を形成する部分は、柔軟な熱可塑性樹脂であること、さらにその例として、ポリエチレンが挙げられることが記載されている。 そうすると、収納室と同一の素材とすることが記載されていると理解される収容容器の素材についても、その形成材料として、貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよいこと、その例として柔軟な熱可塑性樹脂があること、さらにその例として、ポリエチレンが挙げられることが記載されているといえる。 そうすると、本件特許明細書には、収容容器について、その形成材料として、貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよいこと、その例として柔軟な熱可塑性樹脂があること、さらにその例としてポリエチレンが挙げられること、が記載されているといえるとともに、その実施例としてポリエチレンフィルムより形成した小袋が記載されているといえるから、収容容器が柔軟な熱可塑性樹脂フィルムより形成した小袋であることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものといえる。そして、袋とは、社会通念上、柔軟なものであると認められるし、本件特許明細書における小袋なる記載に、収納室より小さい袋であるという本件特許明細書においては改めていうまでもないこと以外の格別な意味は見だせない。してみれば、収容容器が柔軟な熱可塑性樹脂フィルムより形成した小袋であることが、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものといえるならば、収容容器が熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることもまた、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものといえる。 したがって、訂正事項1-2も、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4の記載が、請求項1?3を引用する輸液製剤であったものを、引用する請求項から2及び3を削除するとともに、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1を引用していた発明を、独立形式請求項に改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。 また、訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3に係る訂正は、請求項10における「微量金属元素収容容器」について、訂正前は、鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素が収容されたものであったのを、訂正後は、「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」が収容されているものに限定するとともに、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」ものに限定するものである。 したがって、訂正事項3は、実質的に訂正事項1と同じ訂正に係るものであるから、上記(1)訂正事項1についてに説示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4) 一群の請求項について 訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1?9は、請求項2?9がそれぞれ請求項1を直接又は他の請求項を介して引用しているから、訂正前の請求項1?9は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 また、訂正事項3に係る訂正前の請求項10、11は、請求項11が請求項10を引用しているから、訂正前の請求項10、11は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、訂正事項1?3に係る本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。 (5) むすび 本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1または4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第3項、及び同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものであるので、訂正後の請求項[1?3、5?11]、[4]について訂正することを認める。 第3. 本件訂正発明 上記訂正の結果、本件特許第4171216号の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1?3、5?11に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明11」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤。 【請求項2】 微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。 【請求項3】 微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤。 【請求項5】 第1室または第2室に、ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の輸液製剤。 【請求項6】 微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする請求項1?5に記載の輸液製剤。 【請求項7】 第1室または第2室に充填されている溶液が、さらにビタミンを含有していることを特徴とする請求項3?5に記載の輸液製剤。 【請求項8】 複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであることを特徴とする請求項1?7に記載の輸液製剤。 【請求項9】 さらに、ビタミンB10.4?30mg/L、ビタミンB20.5?6.0mg/L、ビタミンB60.5?8.0mg/L、ビタミンB120.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有することを特徴とする請求項8に記載の輸液製剤。 【請求項10】 複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。 【請求項11】 微量金属元素が、銅であることを特徴とする請求項10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。」 第4. 当事者の主張、及び、提出した証拠方法 1. 請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法 請求人は、特許第4171216号発明の特許請求の範囲の請求項1?3、5?11に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1を主張し、証拠方法として、甲第1?15号証を提出している。 (無効理由1) 本件訂正発明1?3、5?11は、甲第1号証に記載の発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開平10-15033号公報 甲第2号証:特開平7-61925号公報 甲第3号証:特開2000-273035号公報 甲第4号証:特開平11-158061号公報 甲第5号証:特開2002-702号公報 甲第6号証:化学大事典編集委員会編、化学大事典1、共立出版株式会社、昭和56年10月15日縮刷版第26刷発行、337、338、340?343、345頁 (以上、平成29年 4月 3日付け審判請求書に添付。) 甲第7号証:「高カロリー輸液用微量元素製剤 エレメンミック(R)注」の添付文書、1992年4月作成(当審注:(R)は、○の中にRが記載されて表記されている。) 甲第8号証:「高カロリー輸液用 糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素液 エルネオパ(R)2号輸液」の添付文書、2015年11月改訂(当審注:(R)は、○の中にRが記載されて表記されている。) 甲第9号証:Weblio 辞書、三省堂大辞林 「力価」の項、 (URL http://www.weblio.jp/content/%E5%8A%9B%E4%BE%A1) 甲第10号証:「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」、医薬審発第五七一号(平成13年5月1日) 甲第11号証:日本医事新報 No.3125、昭和59年3月17日、135頁 甲第12号証:医事百般質疑応答-第11集-、日本医事新報社出版局、昭和59年5月20日、58?59頁 甲第13号証:「血漿分画製剤テタノセーラ」(R)筋注用250単位」の添付文書、2012年9月改訂(当審注:(R)は、○の中にRが記載されて表記されている。) (以上、平成29年 9月 4日付け弁駁書に添付。) 甲第14号証:「大塚製薬添付文書集 2001年 (4月現在) 医療用医薬品 体外診断用医薬品」、8-10頁、平成13年5月発行 甲第15号証:「味の素ファルマ株式会社 医療用医薬品添付文書集 1999年12月」、40-43頁、1999年12月発行 2. 被請求人の主張、及び、提出した証拠方法 被請求人は、訂正の請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1?4号証を提出している。 (証拠方法) 乙第1号証:「平成27年度四国地方発明表彰 文部科学大臣発明奨励賞 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤(特許第4171216号)」と題する発明協会のホームページの記事 (URL http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/H27/jusho_sikoku/detail/monbukagaku.html) 乙第2号証:特開平5-3904号公報 (以上、平成29年 6月19日付け答弁書に添付。) 乙第3号証:特公昭61-54007号公報 乙第4号証:ROTE LISTE(1996)、ドイツ連邦共和国連邦製薬工業会発行、1996年、タイトル「輸液および標準注射液、器官灌流液」の項番52170、および、52186 (以上、平成29年11月24日口頭審理陳述要領書に添付。) 第5. 証拠の記載事項 甲第1号証ないし甲第15号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。 甲第1号証:特開平10-15033号公報 (記載事項1-1) 「【請求項1】 複数の室を有し、該室と室との隔離条部の少なくとも一部が外側からの開放可能なピールシール部又は弱シール部で形成された樹脂容器からなる輸液容器において、第一室には薬液が収容され、また他の少なくとも第二室には上記薬液と混合される薬剤が収容され、且つ上記薬剤は第二容器内に、該第二容器と一緒に上記第二室に収容されていることを特徴とする輸液容器。」 (記載事項1-2) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、輸液容器に関するものであり、より詳細には複数の室を有し、該室と室との隔離条部の少なくとも一部が外側からの開放可能なシール部で形成された樹脂容器からなり、使用直前に薬剤と薬液とを無菌的に混合調整して使用することができる輸液容器に関する。特に、薬剤である凍結乾燥剤を無菌的且つ定量的に上記室内に充填できる輸液容器に関するものである。」 (記載事項1-3) 「【0002】 【従来の技術】点滴注射に用いられる輸液等のバック、コンテナ等の輸液容器は、一般に樹脂容器である。輸液にはその使用時に抗生物質などが混合されて点滴注射されるものがある。・・・・これらの構造は、抗生物質等の薬剤が輸液に溶解した状態では不安定で保存に耐えないこと、及び抗生物質等の薬剤が輸液のように高圧蒸気滅菌できないことなどに由来する。」 (記載事項1-4) 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の薬剤バイアルを備えた輸液容器には以下の問題点がある。・・・従って、本発明は、複数室の少なくとも一の室に正確な量、及び力価で、且つ室の無菌が完全に維持される状態で、極めて簡単に薬剤が分注されている輸液容器を提供することを目的としている。また、このような構成から製造上、その機構が極めて簡単で、且つ使用時に全く汚染を受けることなく無菌的に簡単に薬液と薬剤を混合することのできる輸液容器を提供することを目的としている。」 (記載事項1-5) 「【0005】 上記輸液容器に収容される薬液は、一般に電解質液である。例えば、乳酸、酢酸、重炭酸等を含むリンゲル液、糖、アミノ酸、ペプチド、脂肪等を含む高カロリー輸液等の溶液である。」 (記載事項1-6) 「【0007】 ・・・薬剤は一般に照射滅菌により変質を起こしやすいものであり、紫外線、電子線、電子線により生じるX線等により変質、変化を起こしてしまうものである。特に、力価が問題となる抗生物質等の凍結乾燥薬剤である。」 (記載事項1-7) 「【0027】 【発明の効果】以上説明したように本発明に係る輸液容器においては、先ず、第一に複数室の少なくとも一の室に正確な量、及び力価で、且つ室の無菌が完全に維持される状態で、極めて簡単に収容することができる。またこのような構成から製造上、その機構が極めて簡単で、且つ使用時に全く汚染を受けることがなく無菌的に簡単に薬液と薬剤を混合することができる。」 ・甲第2号証:特開平7-61925号公報 (記載事項2-1) 「【0002】 【従来技術とその課題】従来より、経静脈投与等により 使用されるアミノ酸輸液は、各種の必須アミノ酸及び非必須アミノ酸が配合され、経口的に栄養源を摂取することが不可能であるかもしくは困難である患者に投与適用されている。かかるアミノ酸輸液はまた、その構成成分として通常システイン、シスチン等の含硫アミノ酸が配合されるが、その配合によれば、該アミノ酸輸液の製造時の加熱滅菌工程において、之等が熱分解して硫化水素が発生し、異臭の原因となる。この異臭の発生は、上記製造工程のみならず、例えば輸液製品の保存中にもしばしば認められ、重大な問題となっている。また高カロリー輸液では、一般に上記のごときアミノ酸輸液に更に微量元素製剤が配合されるが、この場合には、上記発生する硫化水素が亜鉛、鉄、銅、マンガン等と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利も認められる。」 (記載事項2-2) 「【0003】従って、従来より、上記システインやシスチン等の含硫アミノ酸を配合したアミノ酸製剤の調製に当っては、製剤中に安定化剤として亜硫酸塩や重亜硫酸塩を添加配合して、上記硫化水素の発生を防止する手段が一般に採用されてきた。上記亜硫酸塩等は抗酸化性物質として通常食品や飲料水、医薬品等にその添加配合の認められているものである。」 (記載事項2-3) 「【0019】上記アミノ酸輸液を充填するプラスチック容器も、従来より一般に用いられている各種の材質のものでよい、その具体例としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等・・・を例示できる。・・・上記容器は・・・その形状、大きさ等は通常のアミノ酸製剤を収容できる限り任意であり、特にバッグ形状やボトル形状であるのが好ましい。尚、上記容器を構成するポリマーのガス透過性は用いたポリマー鎖間の結合の強さ、ポリマー鎖間の隙間、結晶化度等により決定され、特に限定されるものではないが、一般に上記ポリマーは硫化水素の透過性を有している。」 ・甲第3号証:特開2000-273035号公報 (記載事項3-1) 「【請求項1】 連通可能な隔離手段で区画され、連通後、内容物を外気にさらすことなく混合することができる3室を有する輸液容器の、A室にアミノ酸およびビタミンCを含有する輸液、B室に還元糖およびビタミンB1 を含有する輸液、C室にビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKを含有する輸液が充填されており、A室および(または)B室の輸液にさらに電解質が含有されていることを特徴とする総合輸液剤。」 (記載事項3-2) 「【請求項16】 A室?C室の輸液を混合した後の輸液1000ml中に含まれる各成分の量が次の範囲である請求項13、14または15記載の総合輸液剤。 【表1】 」 (記載事項3-3) 「【0002】 【従来の技術】従来、患者の生命の維持のための経口栄養、経管栄養の補給が不可能あるいは不充分な状態であったり、またはそれらが可能ではあっても患者の消化吸収機能が著しく不良であったり、さらには食物が消化管を通過するのが原疾患の悪化につながるような病態の場合には、栄養補給のために、経静脈用輸液の投与が行なわれている。このような輸液剤としては、還元糖などを含有する糖輸液、必須アミノ酸などを含有するアミノ酸輸液、ミネラル類を含有する電解質輸液、各種ビタミンを含有する混合ビタミン剤などが市販されている。これらの輸液剤が患者の症状などに合わせて使用時に適宜混合して用いられている。」 (記載事項3-4) 「【0003】しかし、輸液剤の使用時における混合は作業従事者にとって煩雑な操作であるうえに、混合時に菌汚染の問題があり、還元糖、アミノ酸、ビタミンおよび電解質をすべて含む総合輸液剤が求められている。 ・・・ 【0006】ビタミンには水溶性のものと脂溶性のものとが存在し、単一の溶媒で全てを溶解することには困難が伴うとともに、ビタミンは一般に不安定であり、また、ある種のビタミン同士を組み合わせると分解などがおこる。たとえば、ビタミンCはビタミンB_(12)の分解を促進することなどが知られている。」 ・甲第4号証:特開平11-158061号公報 (記載事項4-1) 「【請求項1】 還元糖を含有する溶液(A)、アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって、溶液(A)がビタミンB_(1)を含有し、溶液(B)が葉酸を含有し、溶液(C)がビタミンCを含有し、更にビタミンB_(2)が溶液(B)又は溶液(C)に配合され、かつ溶液(A)がpH3.5?4.5、溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5?7.5であることを特徴とする中心静脈投与用輸液。」 (記載事項4-2) 「【0003】IVHでは、通常、栄養源である糖質及びアミノ酸と、電解質が投与される。そして、IVH用の輸液製剤としては、これらを全て含んだものが開発されており、一般に、メイラード反応を起こすブドウ糖とアミノ酸を2室容器に分別収容したタイプの製剤が市販されている。 」 (記載事項4-3) 「【0004】ところで、IVHを施行する際、その期間が比較的長期になると、輸液製剤に含まれていない微量元素やビタミンの欠乏症が問題となってくる。特に、ビタミンB_(1)は、糖代謝において消費されるために欠乏に陥り易く、それにより重篤なアシドーシスが惹起する。 従って、IVHが短期間(1週間程度)で終わらない場合は、ビタミンを併用することが不可欠である。しかして、ビタミンは、安定性に欠けるため、専ら混合ビタミン剤や総合ビタミン剤の形態で単独に製剤化され、用事にIVH製剤に混注されている。しかし、混注操作は煩雑なうえに、操作時に細菌汚染の虞があるので、作業に効率性と慎重性の両方が要求され、担当者に多大な負担を強いているのが現状である。」 (記載事項4-4) 「【0039】また、溶液(C)を収容する容器の他の例としては、図4に示すような、2室容器の一方の口部内に小室を形成し、用時に針で刺通するようにしたものや、図5に示すような、2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋などを例示することができる。」 (記載事項4-5) 「【0043】なお、本発明の輸液の投与時には、必要に応じて他の配合薬、例えば微量元素(鉄、マンガン、銅、ヨウ素など)、抗生物質等を、配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。」 (記載事項4-6) 「【図面の簡単な説明】 【図4】本発明の3液からなる輸液を収容するための容器の一例を示す図である。 【図5】本発明の3液からなる輸液を収容するための容器の一例を示す図である。」 「 」 「 」 ・甲第5号証:特開2002-702号公報 (記載事項5-1) 「【請求項1】 医療用液体を封入する樹脂製容器であって、袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え、容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室に区画され、接着部は、容器本体外部からの10?40kgfの押圧力により剥離可能であり、接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され、ポート部材は、閉鎖体、筒体及び保持具を備え、閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり、ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は、いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成されることを特徴とする容器。」 (記載事項5-2) 「【0018】 【発明の実施の態様】図面を参照し、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の医療用液体を封入する多室容器の実施例の概略平面図、・・・容器本体2は、接着部18,19により複数の分室C1?C4に区画され、それぞれ医療用液体M1、2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる。」 (記載事項5-3) 「【0024】本発明の容器は、前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備している。好ましい態様としては、糖、電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し、小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤、ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができる。これにより、配合変化する各成分を各区画室に隔離でき、各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる。同様に、経腸成分栄養剤についての前述の効果を奏する。」 (記載事項5-4) 「【0025】また、別の態様としては、ポート部材に連通具等の連通具(WO 95/00101公報)を取り付け、ビタミン入りのバイアル又はプレフィルドシリンジ(特表平5-501983、特表平7-501002)を接合した複数薬剤収容のキット製剤の形態としてもよい。」 (記載事項5-5) 「【0026】更に、別の形態としては、前記バイアル、プレフィルドシリンジに替え固形薬剤の入った樹脂製の小袋を本発明の容器端部に、内層面が剥離することで対向する両室が連通可能となるよう連結したキット製剤としてもよい。」 (記載事項5-6) 「【0037】図9は、固形薬剤Nを収容するポート部材3の概略断面図である。容器本体に収容される点滴用栄養剤又は経腸成分栄養剤に、安定性が悪く分解し易いビタミン類を含めるため、ビタミン類は、凍結乾燥され、層状の固形薬剤Nの形態において、ポート部材3の筒体40の内方中空部43に収容される。またビタミン類以外に、抗生物質等の薬剤が固形薬剤Nの形態で中空部43に収容され得る。固形薬剤Nは、好ましくは、ポート部材3が容器本体の固着部21に熱溶着される前に筒体40内に収容される。またポート部材3が固形薬剤を収容する場合は、ポート部材の内方中空部に連通する容器本体の分室C4は、空室にされる。容器本体内の液体が人体へ投与するため容器外から押圧され接着部が剥離され混合されるとき、ポート部材に連通する分室の接着部も剥離され、分室及び固形薬剤の周囲へ液体が流入され固形薬剤が液体中へ溶解混合される。」 (記載事項5-7) 「【0038】図10Aは、薬剤バイアルが隣接されるポート部材の概略平面断面図であり、図10Bは、図10Aの線S-Sに沿う断面図である。薬剤バイアル32は、ビタミン、ミネラル、抗生物質、その他の薬剤成分を固形薬剤又は液状薬剤の形態で収容する。図10A及びBにおいて、薬剤バイアル32は、ポート部材3に一体に形成された円筒形ケース35の内部にケースの軸方向に摺動可能に支持される。連通具34が針先端をそれぞれポート部材3の閉鎖体60及び薬剤バイエルの閉鎖体33に隣接して配置される。薬剤バイエル32はプレフィルドシリンジにより置換することができる。」 (記載事項5-8) 「 」(【図1】) 「 」(【図10】) ・甲第6号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典1」共立出版株式会社(昭和56年10月15日縮刷版第26刷発行)第337、338、340?343及び345頁 (記載事項6-1) 「ありゅうさんあえん 亜硫酸亜鉛・・・・・・冷水に難溶」(第337頁 ) 「ありゅうさんえん 亜硫酸塩・・・2)難溶性の塩は金属塩の溶液に可溶性亜硫酸塩の溶液を加えて沈殿させる.・・・アルカリ金属塩は水に溶けやすい.」(第338頁) 「ありゅうさんすいそナトリウム 亜硫酸水素?・・・冷水に可溶・・・製剤の酸化防止,安定,防腐用.」(第340?341頁) 「ありゅうさんてつ 亜硫酸鉄・・・純水に微溶」(第342頁) 「ありゅうさんどう 亜硫酸銅・・・冷水に不溶」(第342頁) 「ありゅうさんナトリウム 亜硫酸?…溶解度水0°,13.9g/100ml;84°,28.3g/100ml:」(第342?343頁) 「ありゅうさんマンガン 亜硫酸?・・・水に難溶」(第345頁) 第6. 当合議体の判断 1. 本件訂正発明1について (1) 無効理由1の論旨 訂正が認められた場合の本件訂正発明1に係る無効理由1の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)のとおりのものである。 (ア) 甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されている。 「複数の室を有し、該室と室との隔離条部の少なくとも一部が外側からの開放可能なピールシール部又は弱シール部で形成された樹脂容器からなる輸液容器において、第一室には薬液が収容され、また他の少なくとも第二室には上記薬液と混合される薬剤が収容され、且つ上記薬剤は第二容器内に、該第二容器と一緒に上記第二室に収容されていることを特徴とする輸液容器。」 (イ) 甲1発明の末尾は、「輸液容器」と記載されているが、この容器には輸液が収容されているから「輸液製剤」であるといえる。また、本件訂正発明1の「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」は「薬液」、「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」は「薬剤」であるから、本件訂正発明1と、甲1発明を対比すると、一致点及び相違点は以下の通りである。 <一致点> 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に薬液が充填され、他の室に薬剤収容容器が収納されていることを特徴とする輸液製剤。」 <相違点1> 本件訂正発明1では、「薬液」が「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。 <相違点2> 本件訂正発明1では、「薬剤収容容器」が「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。 <相違点3> 本件訂正発明1では、薬剤収容容器である微量金属元素収容容器が、「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。 (ウ) 相違点1について 甲1発明の輸液容器に収容される溶液としては、甲第1号証の記載事項1-5に基づき、高カロリー輸液が想定されており、高カロリー輸液に含まれるアミノ酸には、通常システイン、シスチン等の含硫アミノ酸が配合され、それらの安定化剤として亜硫酸塩が配合されていることは、甲第2号証の記載事項2-1、記載事項2-2によるまでもなく、当業者には周知の事実である。 したがって、甲1発明において、その一室(第1室)に「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」を充填することは、甲第1号証において当然に想定されていることであって、特にこの点を特定した点に何ら困難性は見出せない。 相違点2について 甲第1号証においては、具体的な薬剤として抗生物質が挙げられており、用時調製とする理由として、抗生物質等の薬剤が輸液に溶解した状態では不安定で保存に耐えないこと、及び抗生物質等の薬剤が輸液のように高圧蒸気滅菌できないこと(記載事項1-3)が記載されていることから、甲1発明の薬剤としては、上記のように輸液にあらかじめ配合しておくことが難しい有効成分で、投与時に輸液に混合されていた薬剤が好適であると当業者は、理解する。 ところで、鉄、銅、マンガン等の微量金属元素は、抗生物質と同様に、従来から必要に応じて高カロリー輸液投与時に配合されること(記載事項3-3、記載事項4-5、記載事項5-7)、また、アミノ酸輸液の製造時の加熱滅菌工程において、含硫アミノ酸が熱分解して発生する硫化水素がこれらの金属と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利があること(記載事項2-1)やアミノ酸の安定剤(酸化防止剤)として使用される亜硫酸が銅、鉄、亜鉛、マンガンなどの重金属イオンと難溶性の塩を形成することも知られている(記載事項6-1) また、記載事項5-2、記載事項5-3、記載事項5-6、記載事項5-7からも明らかなように、微量金属元素製剤を液剤として収容するか固形薬剤として収容するかは、溶解性等を考慮して当業者が適宜に選択することであるから、輸液に混合するための微量金属元素を液剤とすることに何ら困難性はない。 そうすると、高カロリー輸液を薬液として収容する場合に、高カロリー輸液にあらかじめ配合しておくことが難しい鉄、マンガンおよび銅などの微量金属元素を甲1発明の第二容器に収容すべき薬剤とすることは、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得ることであり、その際に微量金属元素を含む液剤の形態にするのは当業者が適宜になし得ることに過ぎない。 相違点3について 輸液の成分を複室容器(ダブルバッグ)の別の室に分けて収容し、使用直前に外部からの押圧によりこれらを混合することは、輸液分野における周知技術であり、エチレンをはじめとする熱可塑性樹脂フィルム製の袋は、このような輸液用容器として、本件特許の出願時において一般的に使用されているものである(例えば、甲第1号証【0013】段落、第2号証【0019】段落(記載事項2-3)、甲第3号証【0066】段落、甲第4号証【0035】段落、甲第5号証【0002】?【0006】段落)。 そして、薬剤の容器を、バイアルやプレフィルドシリンジのような剛性のあるものとするか樹脂製の小袋とするかは、甲第4号証の【0039】段落(記載事項4-4)や甲第5号証の【0026】段落(記載事項5-5)の記載からもわかるとおり、当業者が適宜に選択するものである。 したがって、甲第5号証の容器と同様に、使用直前に外部からの押圧により複室容器に収容された成分を混合する甲1発明の複室容器において、「薬剤収容容器」を「微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素容器」とするに当り、熱可塑性樹脂フィルム製の袋を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 効果について 微量金属が硫化水素と反応して不安定化することは、本件特許の出願前に知られており(甲第2号証【0002】段落(記載事項2-1))、輸液を充填するために汎用されているポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が硫化水素を通過することも知られていた(甲第2号証【0019】段落、記載事項2-3)のであるから、微量元素含有容器を、硫化水素を発生することが知られている含硫アミノ酸を含む輸液と接触させた状態にしなければ、微量元素が不安定化することもないことは当然であり、本件訂正発明1の効果は当業者に当然に予期できるものである。 まとめ したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明できたものである。 (2) 判断 しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由1によって無効にすることはできないと判断する。 相違点1について検討する。 甲第1号証には、甲1発明の薬液について、「一般に電解質液」であるとされ、「例えば」、として、「リンゲル液や高カロリー輸液等」が例示されているに過ぎない(記載事項1-5)。また、特に甲1発明の薬液が備えるべき条件や、特に好ましい薬液の例などに関する記載もない。 そうすると、当業者は、甲1発明の薬液について、あらゆる薬液を使用することができる(薬液の選択について何の制限もない)と理解する。 請求人は、甲1発明の薬液には、高カロリー輸液が想定されており、高カロリー輸液には、通常システイン、シスチン等の含硫アミノ酸が配合され、それらの安定化剤として亜硫酸塩が配合されていることは、当業者には周知の事実であるから、特にこの点を特定した点に何ら困難性は見出せないと主張するが、甲1発明の薬液には、リンゲル液なども想定されていることに加え、高カロリー輸液は、含硫アミノ酸や亜硫酸塩に限らず、糖、ペプチド、脂肪等(記載事項1-5参照。)様々な成分を含有し得るものであるから、甲1発明の「薬液」として、特に、「高カロリー輸液」に着目し、さらに、上記様々な成分の中から特に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液に限定することを当業者が格別の創意を要することなく想到することができたとはいえない。 したがって、相違点1について、甲1発明の「薬液」を、「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」とすることを当業者が格別の創意を要することなく想到することができたとはいえない。 相違点2について検討する。 甲第1号証には、甲1発明の薬剤について、どのような薬剤が該当するかを定義した記載はないが、産業上の利用分野と題して、「本発明は、・・・特に、薬剤である凍結乾燥剤を無菌的且つ定量的に上記室内に充填できる輸液容器に関するものである。」(記載事項1-2)と記載され、また、従来の技術と題して、「点滴注射に用いられる輸液等のバック、コンテナ等の輸液容器は、一般に樹脂容器である。・・・これらの構造は、抗生物質等の薬剤が輸液に溶解した状態では不安定で保存に耐えないこと、及び抗生物質等の薬剤が輸液のように高圧蒸気滅菌できないことなどに由来する。」(記載事項1-3)と記載され、さらに、発明が解決しようとする課題と題して、「従って、本発明は、複数室の少なくとも一の室に正確な量、及び力価で、且つ室の無菌が完全に維持される状態で、極めて簡単に薬剤が分注されている輸液容器を提供することを目的としている。また、このような構成から製造上、その機構が極めて簡単で、且つ使用時に全く汚染を受けることなく無菌的に簡単に薬液と薬剤を混合することのできる輸液容器を提供することを目的としている。」(記載事項1-4)、「薬剤は一般に照射滅菌により変質を起こしやすいものであり、紫外線、電子線、電子線により生じるX線等により変質、変化を起こしてしまうものである。特に、力価が問題となる抗生物質等の凍結乾燥薬剤である。」(記載事項1-6)、と記載されている。 一方、甲1発明の薬剤について、抗生物質以外の物質に関する具体的な例示や、甲1発明を抗生物質以外の薬剤に適用できることに関する記載はない。 そうすると、甲1発明の薬剤として想定されているものは、実質的に抗生物質に限られていると認められるし、それどころか、照射滅菌により変質を起こすものとは考え難い金属元素は、積極的に排除されていると認められる。 請求人は、鉄、銅、マンガン等の微量金属元素は、含硫アミノ酸が熱分解して発生する硫化水素と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利があることや、亜硫酸が銅、鉄、亜鉛、マンガンなどの重金属イオンと難溶性の塩を形成することも知られている点も理由として、鉄、マンガンおよび銅などの微量金属元素を甲1発明の第二容器に収容すべき薬剤とすることは、当業者が容易に想到し得ると主張する。 しかしながら、かかる請求人の主張は、甲1発明の薬液を、含硫アミノ酸や亜硫酸を含むものに特定することを前提とするものであるところ、上記相違点1について説示したように、甲1発明の薬液を含硫アミノ酸や亜硫酸を含むものに特定することは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことではないから、上記請求人の主張は、その前提を欠く点で、採用できない。 したがって、相違点2について、甲1発明の「薬剤収容容器」を「鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」に特定することを当業者が格別の創意を要することなく想到することができたとはいえない。 相違点3について検討する。 薬剤が収容される「第二容器」について、甲第1号証には以下の記載がある。下線は、当審による。 「上記第二室に収容される第二容器は通常、蓋体と収納体とからなり、これらはガラス或いはゴム等であっても良いが少なくとも蓋体は樹脂成形物であることが望ましい。蓋体及び収納体が樹脂成形物であれば、第二室の内壁面に熱溶着等により容易に貼着或いは固着させることができる。このような貼着により、第二室の外側からの蓋体の開放が容易にできる。またこのような貼着は、使用時にあっては混合溶液に内に蓋体や収納体を浮遊させて見栄えを悪くすることもない。第二容器の各壁の厚みは、1mm以上、特に3mm以上の範囲にあり、ある程度の透明性のあるものが望ましい。蓋体或いは収納体の厚みが上記範囲にあれば、外壁表面の照射滅菌時、特に上述の電子線滅菌時における内容物への影響が極めて少なくなる。このような第二容器に用いられる樹脂としては、上記の樹脂容器に用いられる素材と同一又は類似の樹脂であることが望ましい。同一又は類似樹脂であれば、相溶性が高く互いの熱溶着が容易にできるからである。従って、第二容器の樹脂もポリオレフィン系樹脂であることが望ましい。薬剤は一般に照射滅菌により変質を起こしやすいものであり、紫外線、電子線、電子線により生じるX線等により変質、変化を起こしてしまうものである。特に、力価が問題となる抗生物質等の凍結乾燥薬剤である。」(段落【0007】) 「薬液6は薬剤15を溶解する電解質溶液であり、樹脂容器4共に高圧蒸気滅菌が成されている。薬剤15は第二容器8内で液剤を凍結乾燥したものであり、薬剤15は抗生物質であり、第二容器8に無菌充填されている。第二容器8は蓋体12と収納体11とからなり、蓋体12及び収納体11は樹脂成形物であり、ポリエチレン-プロピレンのブレンド樹脂からなる。収納体11及び蓋体12の厚みは4mmであり、収納体11は透明性を有している。また、蓋体12の外側表面13は樹脂容器4の第二室9の内壁面に熱溶着されており、また収納体11の側壁14も第二室9の内壁面に熱溶着されている。第二容器8が収容された状態で第二室9の内部は電子線照射滅菌により外側から滅菌処理がなされている。」(段落【0015】) これらの記載に接した当業者は、甲1発明の薬剤収容容器について「通常、蓋体と収納体とからなり」、「第二容器の各壁の厚みは、1mm以上、特に3mm以上の範囲にあり」、具体的には「収納体11及び蓋体12の厚みは4mm」とすることが好ましいこと及びその理由は、蓋体或いは収納体の外壁表面の照射滅菌時、特に上述の電子線滅菌時における内容物への影響が極めて少なくなるからであることを理解する。一方、薬剤収容容器をフィルム製の袋とすることについては、記載も示唆もない。 請求人は、薬剤の容器を、バイアルやプレフィルドシリンジのような剛性のあるものとするか樹脂製の小袋とするかは、当業者が適宜に選択するものであると主張するが、上述のとおり、蓋体或いは収納体の外壁表面の照射滅菌時、特に上述の電子線滅菌時における内容物への影響を少なくするために、第二容器の各壁の厚みは、1mm以上、特に3mm以上の範囲とすることが好ましいことが、甲第1号証に記載されているのであるから、甲1発明において、薬剤の容器を、バイアルやプレフィルドシリンジのような剛性のあるものとするか樹脂製の小袋とするかは、当業者が適宜に選択するものであるとはいえない。 したがって、相違点3について、甲1発明において、「薬剤収容容器」を「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」からなるものに特定することを当業者が格別の創意を要することなく想到することができたとはいえない。 効果について 本件訂正発明1は、相違点1?3に係る事項を採用することによって、微量金属元素を含む液を含硫アミノ酸や亜硫酸塩を含有する溶液から単に隔離するのではなく、後者が充填された室から外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段によって区画されている他の室の中にさらに収納した容器の中に収容することにより、含硫アミノ酸や亜硫酸塩と微量金属元素を含有する輸液製剤において、微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全く排除することができ、かつ、経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができる、という効果を奏するものであって、この効果は、「システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離して保存することを試みた。しかしながら、含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し、微量金属元素収容容器を同室に収容すると、該アミノ酸輸液と微量金属元素とは隔離してあるにもかかわらず、微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見した。上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を種々変更して検討したが、通常入手し得る樹脂材料である限り、微量金属元素溶液を安定化することはできなかった。」(段落【0004】)という本件訂正発明1のもととなった知見(この知見は、安定性試験の結果(段落【0065】)により裏付けられているといえる。)について記載も示唆もない甲第1?6号証に記載された事項に基づいて当業者が予測することができたものであるとはいえない。 この点について、請求人は 「甲第2号証【0019】段落(記載事項2-3)に記載されているとおり、輸液を充填するために汎用されているポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーが硫化水素を透過することが知られていたのであるから、微量金属元素をこのようなポリマーでできた容器に収容しても、含硫アミノ酸を含む輸液が収容された室と同室に収納すれば(すなわち、硫化水素を発生することが知られている含硫アミノ酸を含む輸液に接触させた状態にすれば)、ポリマーを透過した硫化水素と微量金属元素が反応して、微量元素の溶液が不安定になることは当然に予想できることである。」(弁駁書11ページ1?8行) と主張する。 しかしながら、上記(記載事項2-3)には、一般にポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーが硫化水素の透過性を有することは記載されているが、該ポリマーを透過した硫化水素が微量金属元素と反応して、微量元素の溶液が不安定になることは記載されていない。また、甲第2号証の(記載事項2-1)によれば、甲第2号証には、含硫アミノ酸が配合されたアミノ酸輸液の製造時の加熱滅菌工程や保存中において、硫化水素が発生し、異臭の原因となること、さらに、上記のごときアミノ酸輸液に更に微量元素製剤が配合された場合、すなわち、該アミノ酸輸液と微量元素製剤が混合された場合には、上記発生する硫化水素が亜鉛、鉄、銅、マンガン等と反応して硫化物の着色沈殿を生成させる不利も認められること、は記載されているが、やはり、上記ポリマーを透過した硫化水素が微量金属元素と反応して、微量元素の溶液が不安定になることは記載されていない。 そして、一般にポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーが硫化水素の透過性を有するという記載から、あるいは、甲第2号証のその他の記載を併せ見たとしても、微量金属元素をこのようなポリマーでできた容器に収容したうえ、含硫アミノ酸を含む輸液が収容された室と同室に収納することを想定し、その場合には、上記ポリマーを透過した硫化水素と微量金属元素が反応して、微量金属元素の溶液が不安定になることを予想すること、さらには、本件訂正発明1にまで想到し、該発明においては、微量金属元素の溶液が不安定になるほどの硫化水素が微量金属元素の容器にまで透過してくることはないことまで予想することは、当業者といえども、当然にできることとはいえない。請求人の上記主張は、本件特許明細書を見た後だからいえる、いわゆる後知恵によるものである。 したがって、請求人の上記主張によっても、上記判断は左右されない。 また、以上の認定、判断は、甲第7?15号証を検討しても左右されない。 したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2. 本件訂正発明2?3、5?11について 本件訂正発明2?3、5?11に係る無効理由1の論旨は、要するに、本件訂正発明1が容易に発明をすることができたことを前提とするものであるか、または、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2?3、5?11も甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明できた、というものであるが、上記1.(2)に説示したとおり、本件訂正発明1は、甲第1?6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。 したがって、本件訂正発明2?3、5?11も、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3. むすび そうすると、本件訂正発明1?3、5?11の特許を無効理由1によって無効にすることはできない。 第7. 結語 以上のとおり、本件訂正請求による訂正を認める。 また、本件訂正発明1?3、5?11の特許は、無効理由1によって無効にすべきものであるとはいえない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤。 【請求項2】 微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。 【請求項3】 微量金属元素収容容器が収納されている第1室と、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが、連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤。 【請求項4】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において、その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され、他の室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素収容容器が収納されており、微量金属元素収容容器を収納している室に、糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする輸液製剤。 【請求項5】 第1室または第2室に、ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の輸液製剤。 【請求項6】 微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と、それを収納している室とが、外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする請求項1?5に記載の輸液製剤。 【請求項7】 第1室または第2室に充填されている溶液が、さらにビタミンを含有していることを特徴とする請求項3?5に記載の輸液製剤。 【請求項8】 複数の全ての室および収容容器を、外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が、ブドウ糖50?400g/L、L-ロイシン0.8?10.0g/L、L-イソロイシン0?7.0g/L、L-バリン0.3?8.0g/L、L-リジン0.5?7.0g/L、L-スレオニン0.3?4.0g/L、L-トリプトファン0.08?1.5g/L、L-メチオニン0.2?4.0g/L、L-フェニルアラニン0.4?6.0g/L、L-システイン0.03?1.0g/L、L-チロシン0.02?1.0g/L、L-アルギニン0.5?7.0g/L、L-ヒスチジン0.3?4.0g/L、L-アラニン0.4?7.0g/L、L-プロリン0.2?5.0g/L、L-セリン0?3.0g/L、グリシン0.3?6.0g/L、L-アスパラギン酸0?2.0g/L、L-グルタミン酸0?3.0g/L、ナトリウム20?80mEq/L、カリウム10?40mEq/L、マグネシウム2?20mEq/L、カルシウム2?20mEq/L、リン2?20mmol/L、塩素20?80mEq/L、鉄2?200μmol/L、銅0.5?40μmol/L、マンガン0?10μmol/L、亜鉛2?300μmol/L、ヨウ素0?5μmol/Lであることを特徴とする請求項1?7に記載の輸液製剤。 【請求項9】 さらに、ビタミンB10.4?30mg/L、ビタミンB20.5?6.0mg/L、ビタミンB60.5?8.0mg/L、ビタミンB120.5?20μg/L、ニコチン酸類5?80mg/L、パントテン酸類1.5?35mg/L、葉酸50?800μg/L、ビタミンC12?200mg/L、ビタミンA400?6500IU/L、ビタミンD0.5?10μg/L、ビタミンE1.0?20mg/L、ビタミンK0.2?4mg/L、ビオチン5?120μg/Lを含有することを特徴とする請求項8に記載の輸液製剤。 【請求項10】 複室輸液製剤において、含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄、マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し、微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。 【請求項11】 微量金属元素が、銅であることを特徴とする請求項10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-01-19 |
結審通知日 | 2018-01-23 |
審決日 | 2018-02-13 |
出願番号 | 特願2002-7821(P2002-7821) |
審決分類 |
P
1
123・
121-
YAA
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安居 拓哉 |
特許庁審判長 |
内藤 伸一 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 淺野 美奈 |
登録日 | 2008-08-15 |
登録番号 | 特許第4171216号(P4171216) |
発明の名称 | 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤 |
代理人 | 森田 ひとみ |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 結田 純次 |