• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G08B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G08B
管理番号 1339834
審判番号 不服2017-5976  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-26 
確定日 2018-05-22 
事件の表示 特願2012-236771「熱式火災警報器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月12日出願公開、特開2014- 86013、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月26日の出願であって、平成28年7月22日付けで拒絶理由が通知され、同年9月20日に手続補正がされ、平成29年2月14日付け(発送日:同年2月21日)に拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年12月27日付けで当審により拒絶理由が通知され、平成30年2月21日に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献については引用文献一覧参照)
請求項1について引用文献1,2
<引用文献一覧>
1.特開平10-154283号公報
2.特開2009-230510号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年2月21日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
箱形のケースと、前記ケースにおける正面側を向く壁部と間隔をあけて配置された表パネルと、前記ケースの前記壁部と前記表パネルとの間に設けられ、それらを互いに固定する複数の支柱部と、雰囲気の熱を検知する熱検知部の設けられた先端部が前記ケースの前記壁部から前記表パネルに向けて突出するように配置された熱検知センサと、を有し、正面視において前記熱検知センサを中心とする円周上に、前記複数の支柱部が互いに間隔をあけて配置された熱式火災警報器において、
互いに隣接された2つの前記支柱部の間に前記円周の内側に沿うように配置され、幅方向が前記熱検知センサを向くように前記ケースの前記壁部又は前記表パネルに立設された板状の複数の導入柱を有し、
前記複数の支柱部が、互いに等間隔に配置され、
前記複数の導入柱が、互いに等間隔に配置され、
前記複数の支柱部は、各々が、互いに隣接する2つの前記導入柱の中間位置に配置されていることを特徴とする熱式火災警報器。」

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開平10-154283号公報)には、火災感知器に関し、図面(特に【図1】、【図4】、【図5】及び【図11】参照。)とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。以下同様。)

(1)「【0017】
【発明の実施の形態】先ず本発明の第1の実施形態を図1乃至図5に示す。1は本発明に係る火災感知器の一種である半導体式の熱感知器であり、感知器本体3とカバー部2とを有して成る。
【0018】感知器本体3は、火災に係る物質の一形態である気体中の「熱」を感知する感知素子3bがハウジング部3aの表面に突設されて成る。該感知素子3bは例えば半導体式の棒状のサーミスタなどの素子である。また、図4に示すように感知素子3bの中心にその周囲を取り囲むように、8枚の平板状のフィン3iがハウジング部3aの感知素子配設面3cに略均等間隔に放射状を成して突設されて成る。」

(2)「【0020】カバー部2は、感知素子3bを囲むように感知器本体3に取り付けて感知空間を形成する有底の筒状部2aを有して成る。2dは外気をカバー部2内の感知空間内に誘導する開口溝であって、筒状部2aの高さ方向に3段且つ筒状部側面2bの略全周に渡り4列、筒状部2aの側面2bに設けられている。2fは各開口溝2dを形成するための仕切部であり、複数段の仕切部2fが筒状部側面2bの周方向に渡り延設されている。2eはリブであり、複数段の各仕切部2fを筒状部2aの高さ方向に連結して各開口溝2dの前記高さ方向幅を一定に規制する。該リブ2eは、筒状部2aの側面2bに均等間隔で4箇所設けられている。2gは感知素子3bの先端を露出させる貫通孔であり、筒状部2aの底板部2cの中央に設けられている。2hは感知器本体3にカバー部2を係合取付けするための係合部である。また、なにかの拍子に開口溝2dに触れた指が容易にカバー部2内に侵入できないように、各リブ2eおよび各仕切部2fは、筒状部2aの外周面から中心部に向かう方向の板厚が約2mm程度に形成されている。
【0021】上記の感知器本体3にカバー部3を取り付けた状態においては、図5に示すように、前記フィン3iがカバー部2内方に収納される。このときのフィン3iとカバー部2との位置関係を示した図が図11になる。このように、8枚のフィン3iのうちの4枚が、ちょうど各リブ2eと感知素子3bの間にそれぞれ対応した位置に設けられており、更に各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3iとの間それぞれに、他の4枚のフィン3iが均等位置に配置されるようになっている。」

(3)「【0024】以上、上記第1又は第2の実施形態において、フィン3i(または2i)の配置や枚数等は様々の形態のものが考えられる。例えば、図10のようにフィン3i(または2i)を4枚にして、各フィン3i(または2i)を、ちょうど4箇所のリブ2eと感知素子3bの間にそれぞれ対応した位置に設けるようにしてもよい。また、図12に示すように、フィン2iをカバー部2側に設けた場合にフィン2iとリブ2eとを一体に成型してしまえば、フィン2iを板厚を薄めにしてもフィンの成型が容易となり製造上のメリットの生じる。なお、上記形態に限らず、フィン3i(または2i)は複数以上の何枚にしてもよい。また、フィン3iが平板状であるので、フィン3iの表面が滑らかな分、流れる気体をより感知素子3b方向にスムーズに誘導することができる。なお、上記リブ2eは4箇所に限らず複数箇所設けてもよい。」

(4)通常、半導体式の棒状のサーミスタの先端部には、温度の上昇に伴って抵抗値が変化する半導体が設けられている(必要であれば、https://www.murata.com/ja-jp/products/thermistor/ntc/basic/thermistor等を参照されたい。)から、引用文献1の「半導体式の棒状のサーミスタなどの素子」からなる「感知素子3b」も、同様に、先端部に半導体が設けられていると解される。

(5)【図4】及び【図5】からは、感知素子配設面3cから底板部2cに向けて突設された感知素子3bが見て取れる。

(6)【図11】からは、正面視において感知素子3bを中心とする円周上に、4箇所のリブ2eが互いに間隔をあけて等間隔に配置され、その円周の内側に沿うように、4枚のフィン3iが、幅方向が感知素子3bを向くように等間隔に配置された状態が見て取れる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ハウジング3aと、前記ハウジング3aにおける下側を向く感知素子配設面3cと間隔をあけて配置された底板部2cと、前記ハウジング3aの前記感知素子配設面3cと前記底板部2cとの間に設けられ、それらを互いに連結する4箇所のリブ2eと、気体中の熱を検知する半導体の設けられた先端部が前記ハウジング3aの前記感知素子配設面3cから前記底板部2cに向けて突設された感知素子3bと、を有し、正面視において前記感知素子3bを中心とする円周上に、前記4箇所のリブ2eが互いに間隔をあけて配置された熱感知器において、
前記円周の内側に沿うように配置され、幅方向が感知素子3bを向くように前記ハウジング3aに突設された平板状の8枚のフィン3iを有し、
前記4箇所のリブ2eが、互いに均等間隔に配置され、
前記8枚のフィン3iが、互いに均等間隔に配置され、
8枚のフィン3iのうち4枚が、ちょうど各リブ2eと感知素子3bの間にそれぞれ対応した位置に配置され、各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3iの間それぞれに、他の4枚のフィン3iが均等に配置されている熱感知器。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2009-230510号公報)には、火災警報器に関し、次の事項が記載されている。
(1)「【0003】
これらの火災警報器において、熱感知器を備えた熱感知式の火災警報器は、加熱された垂直気流となる熱気流の温度を測定し、その測定温度によって火災の発生を判定する。そのため、従来の熱感知式の火災警報器は、特許文献1の火災感知器に代表されるように、本体を構成する筐体からサーミスタなどの熱感知素子を突出させて、熱感知素子が熱気流に接触可能な配置とされる。」

(2)「【0007】
このような課題を解消する火災警報器として、本出願人は、特許文献2に示すような構成の火災感知器を提案している。この特許文献2に示す火災感知器においても、図13に示す火災警報器と同様、保護カバーで覆われたサーミスタを筐体より突起させた構造とするが、その筐体の側面には通気孔が設けられた構造としている。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ハウジング3a」は本願発明の「ケース」に相当し、以下同様に、「下側」は「正面側」に、「感知素子配設面3c」は「壁部」に、「底板部2c」は「表パネル」に、「連結」することは「固定」することに、「4箇所のリブ2e」は「複数の支柱部」に、「気体中の熱を感知する半導体」は「雰囲気の熱を検知する熱検知部」に、「向けて突設」されることは「向けて突出するように配置」されることに、「感知素子3b」は「熱検知センサ」に、「前記ハウジング3aに突設」されることは「前記ケースの前記壁部又は前記表パネルに立設」されることに、「平板状の8枚のフィン3i」は「板状の複数の導入柱」に、「均等間隔」は「等間隔」に、それぞれ相当する。

また、本願発明の「熱式火災警報器」と引用発明の「熱感知器」とは、「熱式の火災感知用の機器」という限りで共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1?3で相違する。

[一致点]
「ケースと、前記ケースにおける正面側を向く壁部と間隔をあけて配置された表パネルと、前記ケースの前記壁部と前記表パネルとの間に設けられ、それらを互いに固定する複数の支柱部と、雰囲気の熱を検知する熱検知部の設けられた先端部が前記ケースの前記壁部から前記表パネルに向けて突出するように配置された熱検知センサと、を有し、正面視において前記熱検知センサを中心とする円周上に、前記複数の支柱部が互いに間隔をあけて配置された熱式の火災感知用の機器において、
前記円周の内側に沿うように配置され、幅方向が前記熱検知センサを向くように前記ケースの前記壁部又は前記表パネルに立設された板状の複数の導入柱を有し、
前記複数の支柱部が、互いに等間隔に配置され、
前記複数の導入柱が、互いに等間隔に配置される熱式の火災感知用の機器。」

[相違点1]
本願発明の「ケース」は「箱形」であるのに対し、引用発明の「ハウジング3」は、箱形でない点。

[相違点2]
「熱式の火災感知用の機器」が、本願発明は「熱式火災警報器」であるのに対し、引用発明は「熱感知器」である点。

[相違点3]
本願発明は、「互いに隣接された2つの前記支柱部の間に前記円周の内側に沿うように配置され、幅方向が前記熱検知センサを向くように前記ケースの前記壁部又は前記表パネルに立設された板状の複数の導入柱を有し、」「前記複数の支柱部は、各々が、互いに隣接する2つの前記導入柱の中間位置に配置されている」のに対し、引用発明は「8枚のフィン3iのうち4枚が、ちょうど各リブ2eと感知素子3bの間にそれぞれ対応した位置に配置され、各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3iの間それぞれに、他の4枚のフィン3iが均等に配置されている」点。

2 判断
事情に鑑み、相違点3について先に検討する。

引用文献1の段落【0022】に「上記フィン3iは、カバー部2内に流入してくる外気をスムーズに感知素子3bに誘導するためにある。例えば図10に示すようにフィン3iが設けられていない場合、図中矢印A方向から流入してくる気体はまっすぐに感知素子3bの方向にスムーズに流れることができるが、図中矢印B方向から流入してくる気体は一旦リブ2eにぶつかって拡散し、感知素子3b方向とは違う方向にずれてしまう。その結果、図中A方向に流入してくる気体と図中B方向に流入してくる気体とで、感知器1の動作が大きくばらついてしまう。しかし、前記フィン3iを設け、図11のようなフィン3iとリブ2eとの位置関係にすれば、図中矢印B方向から流入してくる気体は一旦リブ2eにぶつかって拡散するものの、フィン3iによって再び気体の流れの方向が変えられ、再び感知素子3bの方向に流れるようになるので、その結果、図中A方向に流入してくる気体とB方向に流入してくる気体とで、感知器1の動作のバラツキを少なくすることができる。」と記載されている。
この記載によれば、引用文献1の【図11】及び【図12】のように8枚のフィン3iがあれば熱感知器の動作のバラツキが少なくなる一方で、引用文献1の【図10】のように「各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3iの間」の「他の4枚のフィン3i」を除去した状態では流入方向によって動作がばらつくことが把握できる。

そうすると、引用発明の8枚の「フィン3i」により熱感知器の動作のバラツキが少なくなる状態にあるところから、「各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3i」を除去した場合、流入方向によって動作にバラツキが生じることは容易に予測でき、当業者が積極的に「各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3i」を除去する合理的な理由はない。
また、引用文献2には、フィン3iを除去することに関する周知技術は記載されていない。
そして、仮に引用発明から「各リブ2eに対応した位置の4枚のフィン3i」を除去できたとしても、残りの「他の4枚のフィン3i」では「互いに隣接された2つの前記リブ2eの間に」1枚のフィン3iを有する構成となるため、本願発明の「互いに隣接された2つの前記支柱部の間に」「複数の導入柱を有」する構成とはならない。

そうすると、引用発明を本願発明の上記相違点3の構成とすることは、引用発明及び引用文献2に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本願発明は、相違点1及び2について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定を維持することはできない。

第5 当審拒絶理由について
当審では、請求項1の「前記複数の支柱部が、互いに隣接する2つの前記導入柱の中間位置に配置され、」との記載は意味が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨、拒絶の理由を通知した。
これに対し、平成30年2月21日の手続補正により、「前記支柱部は、各々が、互いに隣接する2つの前記導入柱の中間位置に配置され、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第6 むすび
本願については、原査定及び当審による拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2012-236771(P2012-236771)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G08B)
P 1 8・ 537- WY (G08B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高野 洋松平 英  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 熱式火災警報器  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 福田 康弘  
代理人 瀧野 秀雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ