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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1339991 |
審判番号 | 不服2016-16710 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-08 |
確定日 | 2018-05-09 |
事件の表示 | 特願2015-75601「熱可塑性樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月2日出願公開、特開2015-120939〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年8月27日に出願された特願2010-191094号の一部を新たな特許出願として平成27年4月2日に出願された特許出願であって、平成28年2月4日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年8月5日付けで拒絶査定がなされ、同年11月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成29年1月5日付けで前置報告がなされたものである。 第2 平成28年11月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 平成28年11月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 手続補正の内容 平成28年11月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、同年4月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものを含むものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7の内容について、 「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部、及び、ポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、 前記ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕とを含有してなり、 前記エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、熱可塑性樹脂組成物〔X〕を100質量%として、5?30質量%である熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、 他の部材と接触し擦れ合う部品に使用される、成形品。」 を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1として、 「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部、及び、ポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、 前記ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕とを含有してなり、 前記エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、熱可塑性樹脂組成物〔X〕を100質量%として、5?30質量%である熱可塑性樹脂組成物である熱可塑性樹脂組成物〔X〕(但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く)からなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕又は他の熱可塑性樹脂からなる他の成形品と接触し擦れ合う箇所に使用される、軋み音を低減した熱可塑性樹脂組成物製成形品。」 とする、補正事項を含むものであるといえる。 2 本件補正の目的について 上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である、他の成形品について、「前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕又は他の熱可塑性樹脂からなる」と限定する補正事項を新たに特定し、かつ、当該成形品について「軋み音を低減した熱可塑性樹脂組成物製」と限定し、かつ、「但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く」と特定することで、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除外する各補正事項を含むものである。そうすると、本件補正後の請求項1についてする本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3 独立特許要件について そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に記載された事項により特定されるとおりの、以下に記載のものであるといえる。 本願補正発明 「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部、及び、ポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、 前記ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕とを含有してなり、 前記エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、熱可塑性樹脂組成物〔X〕を100質量%として、5?30質量%である熱可塑性樹脂組成物である熱可塑性樹脂組成物〔X〕(但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く)からなる成形品であって、前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕又は他の熱可塑性樹脂からなる他の成形品と接触し擦れ合う箇所に使用される、軋み音を低減した熱可塑性樹脂組成物製成形品。」 (2)刊行物及びその記載事項 ア 刊行物 引用文献1:特開2002-265772号公報(平成28年2月4日付け拒絶理由通知書の引用文献1。) イ 刊行物の記載事項 本願の原出願の出願日(平成22年8月27日)前に頒布された引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「(A)芳香族ポリカーボネート樹脂5?90重量部と、 (B)エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体100重量部に対して、酸変性低分子量α-オレフィン共重合体0.1?20重量部を含有するエチレン・プロピレン・非共役ジエン含有架橋ラテックス40?80重量%(固形分として)の存在下、該エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体とグラフト重合可能な単量体成分60?20重量%を乳化重合して得られるグラフト共重合体60?10重量部と、 (C)芳香族ビニル系単量体60?76重量%、シアン化ビニル系単量体40?24重量%、及びこれらの単量体と共重合可能な単量体0?30重量%を含む硬質共重合体50?0重量部(ただし、(A)、(B)、及び(C)の合計で100重量部)を含むことを特徴とする摺動性樹脂組成物。」(請求項1) (イ)「【発明の属する技術分野】本発明は摺動性樹脂組成物に係り、特に電子機器部品、自動車部品などの成形材料として好適な、摺動特性に優れ、かつ良好な外観を有する成形品を得ることができる芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物に関する。」(段落【0001】) (ウ)「…従来の芳香族ポリカーボネート樹脂に摺動性補助材を配合した樹脂組成物では、摺動性補助材の少量添加では十分な摺動性が得られず、例えば部品同士の接触で発生する軋み音の防止に効果が無く…」(段落【0002】の2頁1欄33?36行) (エ)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高度な機械的特性を有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物であって、摺動性が極めて良好でしかも表面外観にも優れる成形品を得ることができる摺動性樹脂組成物を提供することを目的とする。」(段落【0006】) (オ)「[EPDM含有架橋ラテックスの製造] 製造例1 EPDM含有架橋ラテックス(a)の製造 三井化学社製EPDM(EPT3012P,エチレン含有量は82モル%で非共役ジエン成分として5-エチリデン-2-ノルボルネンを1モル%含む。)100部をn‐ヘキサン566部に溶解した後、三井化学社製酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部を添加し、さらにオレイン酸4.5部を加え、完全に溶解した。別に水700部にKOH0.9部を溶解した水溶液に、エチレングリコール0.5部を加え60℃に保ち、これに先に調製した上記重合体溶液を徐々に加えて乳化した後、ホモミキサーで攪拌した。次いで、溶剤と水の一部を留去して粒径0.4?0.6μmのラテックスを得た。このラテックスにゴム成分であるEPDM100部にジビニルベンゼン1.5部、ジ‐t‐ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて、EPDM含有架橋ラテックス(a)を得た。」(段落【0032】) (カ)「[グラフト共重合体の製造] 製造例6 グラフト共重合体(B-1)の製造 攪拌機付きステンレス重合槽に、EPDM含有架橋ラテックス(a)70部、水170部、水酸化ナトリウム0.01部、ピロリン酸ナトリウム0.45部、硫酸第一鉄0.01部、デキストローズ0.57部を仕込み、重合温度を80℃で一定温度として、アクリロニトリル9部、スチレン21部、CHP(クメンヒドロパーオキシド)1.0部を150分間で、同時にピロリン酸ナトリウム0.45部、硫酸第一鉄0.01部、デキストローズ0.56部、オレイン酸ナトリウム1.0部、水30部を180分間で連続して添加しながら重合を行い、グラフト重合体ラテックスを得た。得られたラテックスの単量体転化率、凝固物析出量は、それぞれ93%、0.25%であった。その後、該ラテックスに酸化防止剤を添加し、硫酸にて凝固処理を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、グラフト共重合体(B-1)の粉末を得た。」(段落【0041】) (キ)「[硬質共重合体の製造] 製造例11 硬質共重合体(C-1)の製造 攪拌機を備えたオートクレーブ内を十分に窒素置換した後、蒸留水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003部、アクリロニトリル30部、スチレン70部、ベンゾイルパーオキサイド0.7部、t‐ブチルパーオキシベンゾエート0.07部、リン酸カルシウム0.6部、t‐ドデシルメルカプタン0.18部を仕込み、350rpmの割合で攪拌しつつ内温を80℃まで昇温し、この温度で9時間重合させた。次いで、2.5時間を要して内温を120℃まで昇温し、この温度で2時間反応させた。得られたスラリーを洗浄し、乾燥して硬質共重合体(C-1)を得た。得られた硬質重合体の単量体転化率は98%であった。」(段落【0046】) (ク)「実施例1?10、比較例1?10 表2,3に示すような割合の芳香族ポリカーボネート樹脂、上記製造例で得られたグラフト共重合体及び硬質共重合体と、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール0.3部、2‐(2‐ヒドロキシ 5‐t‐オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.5部を添加し、バンバリーミキサーにて均一に混練した後、ペレタイザーによりペレットを得た。得られたペレットを120℃で5時間熱風循環乾燥機により乾燥した後、射出成形機によりシリンダー温度280℃、金型温度80℃にて成形を行い、各試験の試験片を得た。 なお、芳香族ポリカーボネート樹脂としては三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロン S‐3000(粘度平均分子量:22000)とE‐2000(粘度平均分子量:30000)を使用した。表2,3にはS‐3000をPC-1、E‐2000をPC-2と示す。 得られた成形品について以下の条件及び方法で諸特性を試験し、結果を表2,3に示した。 [摺動性(動摩擦係数)] JIS-K7218 A法(リングオンリング方式)に準じて測定した。 試験機:オリエンテック(株)製 EFM‐iii EM型摩擦試験機 試験片:中空円筒試験片(内径20mm、外径25.6mm)試験片を上下に取りつけ、各荷重をかけてすり合わせ、その動摩擦係数を測定した。 負荷荷重:1.5kg、2.0kg、2.5kg、3.0kg、3.5kg、4.0kg、4.5kg [光沢(%)] JIS Z 8741(入射角60°の反射率)に準じた。 表面外観:次の基準にて肉眼評価した。 ○:フローマーク及び真珠様光沢感のむらが無い。 △:フローマーク及び真珠様光沢感のむらが僅かにあるが、使用できる ×:フローマーク及び真珠様光沢感のむらが認められる。 [流動性(g/10min)] ASTM D-1238に準じた。220℃、10kg [アイゾット衝撃値(J/m)] ASTM D-256に準じた。1/4インチ厚、ノッチ付 [熱変形温度(℃)] ASTM D-648に準じた。1/4インチ厚」(段落【0048】?【0051】) (ケ)「【表2】 」(段落【0052】) (コ)「【発明の効果】以上、詳述した通り、本発明の摺動性樹脂組成物は、衝撃強度などの力学特性、流動性などの成形加工性、成形品の表面外観において優れた特性を示す上に、摺動特性が著しく良好であり、電子機器部品や自動車部品などの成形材料として極めて好適である。」(段落【0055】) (3)刊行物に記載された発明 摘示(ア)?(コ)、特に、実施例1で摘示したところによれば、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「(A)芳香族ポリカーボネート(PC-1)55重量部、 (B)EPDM(EPT3012P,エチレン含有量が82モル%で非共役ジエン成分として5-エチリデン-2-ノルボルネンを1モル%含む。)100部に対して、酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部を含有させて形成したラテックスにゴム成分であるEPDM100部にジビニルベンゼン1.5部、ジ‐t‐ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて得られたEPDM含有架橋ラテックス(a)70部の存在下、アクリロニトリル9部、スチレン21部を重合して得られるグラフト共重合体(B-1)20重量部、及び、 アクリロニトリル30部、スチレン70部を重合して得られる硬質共重合体(C-1)25重量部、 を混練した後、得られた自動車部品などの成形品。」 (4)本願補正発明と引用発明との対比・判断 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「(A)芳香族ポリカーボネート(PC-1)」、「アクリロニトリル30部、スチレン70部を重合して得られる硬質共重合体(C-1)」、「混練した後、得られた自動車部品などの成形品」は、それぞれ、本願補正発明の「ポリカーボネート樹脂〔B〕」、「ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕」、「熱可塑性樹脂組成物製成形品」に相当する。 そして、引用発明の「(B)EPDM(EPT3012P,エチレン含有量が82モル%で非共役ジエン成分として5-エチリデン-2-ノルボルネンを1モル%含む。)100部に対して、酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部を含有させて形成したラテックスにゴム成分であるEPDM100部にジビニルベンゼン1.5部、ジ‐t‐ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて得られたEPDM含有架橋ラテックス(a)70部の存在下、アクリロニトリル9部、スチレン21部を重合して得られるグラフト共重合体(B-1)」と本願補正発明の「Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕」とは、「エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕」である点で共通するものであって、さらに、引用発明では、グラフト共重合体(B-1)について、EPDMに対して、酸変性ポリエチレンを含有させて形成したラテックスにジビニルベンゼンとジ‐t‐ブチルパーオキシトリメチルシクロヘキサンとを添加して、反応させて得られた架橋ラテックスであると特定されているのに対し、本願補正発明では、この点について特定されていないものの、このようなものを除外するものではないことから、この点は相違点ではない。 そして、引用発明の(A)芳香族ポリカーボネート(PC-1)55重量部と(B-1)グラフト共重合体20重量部との配合割合は、本願補正発明のゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部及びポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)との配合割合と重複一致している。 また、本願補正発明では、熱可塑性樹脂組成物〔X〕について、「但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く」と特定されているが、引用発明の成形品は混練した組成物中にEPDM(EPT3012P)以外のゴム質重合体を含むものではないから、この点は相違点ではない。 そうすると、両者は、 〔一致点〕 「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部、及び、ポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、 前記ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕(但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く)からなる、熱可塑性樹脂組成物製成形品。」 で一致し、以下の点で一応相違する。 〔相違点1〕 エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕のTm(融点)が、本願補正発明では「0℃以上」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 〔相違点2〕 熱可塑性樹脂組成物100質量%に対する、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、本願補正発明では「5?30質量%」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 〔相違点3〕 熱可塑性樹脂組成物製成形品について、本願補正発明では「前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕又は他の熱可塑性樹脂からなる他の成形品と接触し擦れ合う箇所に使用される」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 〔相違点4〕 熱可塑性樹脂組成物製成形品について、本願補正発明では「軋み音を低減した」と特定されているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 相違点1ないし4について以下に検討する。 ア 相違点1について 引用発明のEPDM(EPT3012P)について、例えば、「EPDM Synthetic Rubber MITSUI EPT」(2003年7月 三井化学株式会社発行)(周知例として引用。)には、ENB-EPDMタイプ、3012P(ペレットタイプ)グレードについて、試験条件190℃、2.16KgでのMFRが5.0g/min、ペレット化されたEPDM、優れた流動性を有することが記載されている。このことは、EPT3012Pがペレットタイプ、すなわち室温で固体であることを示すものであるから、結局、EPT3012Pが融点を有し、かつその融点が0℃以上であることを示すものであるといえる。 また、特開2000-119477号公報(平成28年2月4日付け拒絶理由通知書の引用文献3。)には、「【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の技術の課題を背景になされたもので、特定のエチレン-α-オレフィン系ゴムの存在下に特定量のビニル系単量体をグラフト重合して得られる特定の物性を有するゴム変性熱可塑性樹脂を配合した、摺動性、耐衝撃性、成形品表面外観、耐傷つき性、さらには難燃性のバランスに優れたゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。」 (段落【0003】)、「ゴム質重合体(a)のエチレン/炭素数3?20のα-オレフィン/非共役ジエンの重量比は、5?95/95?5/0?20である。α-オレフィンの重量比が95を超えると、得られるゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)の耐衝撃性が劣るので好ましくない。また、5未満でも、ゴム質重合体(a)のゴム弾性が充分でないため、樹脂組成物の耐衝撃性が劣る。また、非共役ジエンの重量比が20を超えると、融点(Tm)が低下するか、あるいは融点が消失し、ガラス転移温度(Tg)に変わり、このゴム質重合体(a)を使用したゴム変性スチレン系熱可塑性樹脂組成物(I)の摺動性が低下する。」(段落【0007】)、「ゴム質重合体(a)の融点(Tm)は、0℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは40℃以上である。0℃未満では、摺動性が劣る。融点(Tm)が0℃以上のゴム質重合体(a)の具体例としては、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-ペンテンゴム、エチレン-ヘキセンゴム、エチレン-ヘプテンゴム、エチレン-オクテンゴム、エチレン-デセンゴムなどが挙げられる。」(段落【0008】)、「本発明の実施例および比較例に使用される各成分は以下のとおりである。 参考例1 ゴム質重合体(a-1)の調製 窒素置換した20リットルオートクレーブに精製トルエン8リットル、精製トルエン40ml中に溶解したアルミニウム原子換算で60mmolのメチルアルミノキサンを加え、40℃に昇温した後、エチレンを3.3リットル/Hr、プロピレンを1.9リットル/Hrで連続的に供給した。次いで、精製トルエン12ml中に溶解したジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド12μmolを添加して重合を開始した。反応中は温度を40℃に保ち、連続的にエチレン、プロピレンを供給しつつ、20分間反応させた。その後、メタノールを添加して反応を停止させ、水蒸気蒸留にてクラム状ゴム質重合体(a-1)を回収した。(a-2)?(a-6)も、上記と同様に重合して得た。表1に得られた(a-1)?(a-6)の組成および物性を示す。これらを、下記(A)ゴム変性熱可塑性樹脂の製造に使用した。」(段落【0083】)及び「【表1】 」(段落【0084】)と記載されている。これらの記載に鑑みれば、非共役ジエンを少量含むものであれば、EPDMは0℃以上の融点を有するといえる。そうすると、引用発明のEPDM(EPT3012P)は、非共役ジエンである5-エチリデン-2-ノルボルネンを1モル%含むものであることから、Tm(融点)が0℃以上であるといえる。 したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について 引用発明において、成形品の混練した組成物中のEPDM(EPT3012P)の含有量を引用文献1の摘示(オ)、(カ)、(ク)から計算すると以下のとおりである。 前提として、グラフト共重合体(B-1)は、EPDM含有架橋ラテックス(a)70部、アクリロニトリル9部、スチレン21部からなり、そのEPDM含有架橋ラテックス(a)は、EPDM(EPT3012P)100部、酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部からなるものであって、組成物100重量部中のグラフト共重合体(B-1)は20重量部であるから、グラフト共重合体(B-1)は20質量%である。 そうすると、グラフト共重合体(B-1)のEPDM含有架橋ラテックス(a)70部のうち、EPDM(EPT3012P)の量は、EPDM含有架橋ラテックス(a)がEPDM(EPT3012P)100部、酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部から、70×100/(100+10)、すなわち63.6となり、グラフト共重合体(B-1)の量は、EPDM含有架橋ラテックス(a)70部、アクリロニトリル9部、スチレン21部から、70+9+21、すなわち100となり、その結果、グラフト共重合体(B-1)におけるEPDM(EPT3012P)の割合は、63.6/100、すなわち63.6質量%となる。 してみると、組成物中のEPDM(EPT3012P)の割合は、共重合体(B-1)20質量%から、20質量%×63.6質量%=12.7質量%と算出され、この値は本願補正発明における「5?30質量%」と重複一致している。 したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。 ウ 相違点3について 引用文献1の摘示(ク)には、摺動性(動摩擦係数)の試験方法として、JIS-K7218 A法(リングオンリング方式)に準じて、オリエンテック(株)製 EFM‐iii EM型摩擦試験機を用い、「中空円筒試験片(内径20mm、外径25.6mm)試験片を上下に取りつけ、各荷重をかけてすり合わせ」ていることから、このことは、本願補正発明における「前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕からなる他の成形品と接触し擦れ合う箇所に使用される」ことに相当する。 また、引用発明の「自動車部品などの成形品」は、自動車部品として、当然、同じ組成物又は他の熱可塑性樹脂からなる他の成形品と接触し擦れ合う箇所に使用される部品を包含するものであり、むしろ、引用文献1には、摘示(ウ)で摘示したところによれば、「従来の…樹脂組成物では、摺動性補助材の少量添加では十分な摺動性が得られず、例えば部品同士の接触で発生する軋み音の防止に効果が無く…」(段落【0002】)と記載されていることからも、引用発明における成形品は、同じ組成物又は他の熱可塑性樹脂からなる他の部品同士と接触し擦れ合う箇所に使用される成形品も意味包含されているといえる。 したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。 エ 相違点4について 引用文献1には、摘示(ウ)で摘示したところによれば、「従来の…樹脂組成物では、摺動性補助材の少量添加では十分な摺動性が得られず、例えば部品同士の接触で発生する軋み音の防止に効果が無く…」(段落【0002】)と記載されていることからも、引用発明における成形品は、部品同士の接触で発生する軋み音を低減したものについても意味包含されているといえる。 そして、そもそも、引用発明における成形品は、本願補正発明における成形品と同じものである以上、引用発明における成形品においても「軋み音を低減した」ものとなっていることは明らかである。 したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。 (6)まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、独立して特許を受けることができない。よって、本件補正は特許法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に係る発明は、平成28年4月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に記載された事項により特定されるものであるところ、その発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであるといえる。 本願発明 「ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕20?65質量部、及び、ポリカーボネート樹脂〔B〕35?80質量部(ただし、〔A〕及び〔B〕の合計で100質量部)を含有してなる熱可塑性樹脂組成物〔X〕であって、 前記ゴム強化ビニル系樹脂〔A〕が、Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の存在下にビニル系単量体〔c1〕を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂〔A1〕と、ビニル系単量体〔c3〕の(共)重合体〔C〕とを含有してなり、 前記エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体〔a1〕の含有量が、熱可塑性樹脂組成物〔X〕を100質量%として、5?30質量%である熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、 他の部材と接触し擦れ合う部品に使用される、成形品。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、 「この出願の請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 引用文献1:特開2002-265772号公報」 というものを含むものである。 3 当審の判断 (1)刊行物の記載事項 引用文献1は、前記第2 3(2)アの引用文献1と同じであるから、引用文献1には、前記2 3(2)イに記載した事項が記載されている。 (2)刊行物に記載された発明 引用文献1には、前記第2 3(3)に記載の引用発明が記載されているといえる。 (3)本願発明と引用発明との対比・判断 以下、本願発明と引用発明とを対比する。 本願補正発明は、本願発明において、さらに、他の成形品について「前記熱可塑性樹脂組成物〔X〕又は他の熱可塑性樹脂からなる」と限定し、かつ、成形品について「軋み音を低減した熱可塑性樹脂組成物製」と限定し、かつ、「但し、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体以外のゴム質重合体を含む場合を除く」と特定したものである。 そうすると、第2 3で述べたとおり、本願補正発明は引用文献1に記載された発明であるから、本願発明もまた同様の理由により引用文献1に記載された発明である。 したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明、すなわち、平成28年4月6日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6をさらに引用する請求項7に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-03-01 |
結審通知日 | 2018-03-06 |
審決日 | 2018-03-19 |
出願番号 | 特願2015-75601(P2015-75601) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 のぞみ |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 岡崎 美穂 |
発明の名称 | 熱可塑性樹脂組成物及び成形品 |
代理人 | 伊丹 健次 |