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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1339999
審判番号 不服2016-19538  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-27 
確定日 2018-05-09 
事件の表示 特願2013-265211「振動触覚ハプティック効果を発生させるための共振装置を制御するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月15日出願公開、特開2014- 90479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯・本願発明

本願は、2005年11月30日に国際出願した特願2007-543623号(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年11月30日 米国、2004年12月8日 米国)の一部を平成23年8月25日に新たな特許出願とした特願2011-183816号の一部を平成25年12月24日に新たな特許出願としたものであって、平成26年10月23日付けで拒絶理由が通知され、平成27年4月23日付けで手続補正がなされ、同年10月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成28年4月28日付けで手続補正がなされ、同年8月22日付けで同年4月28日付けの補正が却下され、同年8月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成28年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年12月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の目的

上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成27年4月23日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された

「アクチュエータを制動するための方法であって、
前記アクチュエータとの共振周波数を有する第1アクチュエータ信号であって、前記アクチュエータを駆動するように構成された第1アクチュエータ信号を生成するステップと、
第1論理状態の論理信号を生成して信号反転器に伝送するステップであって、前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられるように構成されるステップと、
前記第1アクチュエータ信号を前記アクチュエータに伝送するステップと、
前記論理信号を第2論理状態に切り替えるステップと、
前記アクチュエータに対する制動力を生じるように前記アクチュエータ信号を反転させるために前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送するステップと、を含む方法。」(以下、「本願発明」という。)

という発明を、

「アクチュエータを制動するための方法であって、
振動触覚ハプティック効果を発生する前記アクチュエータの共振周波数を有する第1アクチュエータ信号であって、前記アクチュエータを駆動するための第1アクチュエータ信号を生成するステップと、
第1論理状態の論理信号を生成して前記アクチュエータに電気的に接続された信号反転器に伝送するステップであって、前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられ、前記信号反転器は前記論理信号が第1論理状態にある場合に前記第1アクチュエータ信号を反転せず、前記信号反転器は前記論理信号が第2論理状態にある場合に前記第1アクチュエータ信号を反転して前記第1アクチュエータ信号と同じ周波数および反転した位相を有する第2アクチュエータ信号を生成するステップと、
前記信号反転器を介して前記第1アクチュエータ信号を前記アクチュエータに伝送するステップと、
前記振動触覚ハプティック効果の持続時間または振幅に少なくとも部分的に基づいて、前記論理信号を前記第2論理状態に切り替えるステップと、
前記第1アクチュエータ信号を反転させて前記アクチュエータに対する制動力を生じる前記第2アクチュエータ信号を生成するために前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送するステップと、
前記信号反転器を介して前記第2アクチュエータ信号を前記アクチュエータに伝送するステップと、を含み、
前記第1アクチュエータ信号を生成する前に周期的な振動触覚ハプティック効果エンベロープを生成するステップをさらに含み、前記第1アクチュエータ信号が少なくとも部分的に前記振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく変調振幅を含み、前記第2アクチュエータ信号が少なくとも部分的に前記振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく振幅を含み、前記第1アクチュエータ信号及び前記第2アクチュエータ信号は前記振動触覚ハプティック効果エンベロープの半周期の間は前記共振周波数の振幅がゼロになるように前記アクチュエータに伝送される、方法。」(以下、「補正後発明」という。)

という発明に変更することを含むものである。

補正後発明は、補正前の平成27年4月23日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1を引用して記載した請求項3をさらに限定したものであるから、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、補正後発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件の検討

(1)引用例記載の発明

原査定の理由に用いられた特開2004-181304号公報(以下「引用文献」という。)には、

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、携帯電話機、PDA、携帯ゲーム機器など小型の情報端末機器に搭載可能な振動発生装置に係わり、特に小型で多様な振動を実現できるようにした振動発生装置に関する。」(3頁)

「【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の振動発生装置は、可動体が駆動信号に応じて振動させられる振動発生装置であって、
前記駆動信号には、前記可動体に振動を励振させる蓄積信号が間隔を開けて含まれて、前記可動体が、前記蓄積信号が与えられたときに励振しその後に減衰しこの励振と減衰を繰り返すように動作し、前記振動の励振および減衰の際の可動体の振幅の頂点を結んだエンベローブの変化が、前記振動の周波数よりも低い周波数の振動として得られることを特徴とするものである。
【0012】
この振動発生装置では、可動体の振動そのものを体感させるのではなく、可動体の振幅の頂点を結んだエンベローブの変化を、人が体感する振動として取り出すものとなっている。前記エンベローブの周波数は固有振動数の周波数よりも低い帯域となる。エンベローブが変化することにより、振動の強さの変化を人に与えることになる。振動の強さの変化は圧感の変化として体感し易く、かつ前記エンベローブの周波数は、人が振動を有効に体感できる周波数帯域にあることから、人が振動を確実に検知できる。また、前記可動体を固有振動で励振させる場合に、この固有振動の周波数は高くてよいため、可動体の質量を小さくでき、小型のものとして構成できる。またばね定数も大きくできるので、可動体の振幅を付勢手段で抑制できるようになり、前記エンベローブを制御しやすくなる。」(4頁)

「【0045】
次に、振動発生装置の制御手段について説明する。
図2はマグネットとコイルとの対向関係を示す部分断面図、図3は図3は制御手段を示すブロック図、図4はコイルに与えられる駆動信号の一例とそのときの可動体の振動を示す線図である。
【0046】
図2に示すように、コイル5の一方の端部(巻き始端)が端子Ta1、他方の端部(巻き終端)が端子Ta2、前記端子Ta1と端子Ta2との中間点(コイル5の中点)が中間端子をTa3である。
【0047】
図3に示す制御手段10は、前記中間端子Ta3に接続された位置検出手段11、信号生成手段12、ドライブ手段13および振動制御部14を有している。ドライブ手段13には2つの出力部が設けられており、その一方がコイル5の一方の端子Ta1に接続され、他方がコイル5の他方の端子Ta2に接続されている。
【0048】
前記信号生成手段12では振動制御部14の指令に基づいて、駆動信号S1を生成してドライブ手段13に出力し、前記ドライブ手段13から所定の波形の駆動電流が前記コイル5の端子Ta1と端子Ta2に与えられる。前記信号生成手段12には、複数のパターンの前記駆動信号S1が記憶されており、前記振動制御部14からの指令によって、いずれかのパターンの駆動信号S1が選択されて前記ドライブ手段13に与えられる。」(7頁)

「【0052】
図4は駆動信号S1の波形を示している。この実施の形態では、前記駆動信号S1が矩形波としてコイル5に与えられるが、この駆動信号S1の波形は三角波などであってもよい。図4では、駆動信号S1の中立点を「0」で示しており、このときコイル5は無通電状態である。駆動信号S1が順方向に立ち上がっているとき、コイル5に対して電流が端子Ta1から端子Ta2に向けて流れる。このとき、可動体6にはX2方向への駆動力が作用する。また、図4に示す駆動信号S1が逆方向のときに、コイル5に対して前記と逆の電流が流れ、このとき、可動体6にはX1方向への駆動力が与えられる。
【0053】
図4に示すように、前記駆動信号S1には蓄積信号S1aを含んでいる。この蓄積信号S1aは、可動体6にその固有振動数による共振振動を励振させるものである。この蓄積信号S1aには励振信号A1,A2,A3が含まれており、この励振信号A1,A2,A3によりコイル5に対して順方向の電流が与えられる。なお、図4では前記励振信号A1,A2,A3のレベルが一定であり、この励振信号によりコイル5に対して一定量の電流が間欠的に与えられる。
【0054】
前記図4には、駆動信号S1の波形とともに、可動体6のX1方向とX2方向への変位量を縦軸にとった振動波形が示されている。前記振動波形のOmは、可動体6が図1と図2に示す中点に位置することを意味している。なお、駆動信号S1の波形図と可動体6の変位量を示す線図の双方において、横軸は時間tである。
【0055】
前記可動体6の固有振動数(共振周波数)は、可動体6の質量と、前記付勢部材9,9のばね定数(図1に示す中立状態のときのばね定数)で決められるものであるが、前記励振信号A1,A2,A3は、前記固有振動数(共振周波数)の逆数である周期Tごとに与えられ、通電時間は前記周期Tの半分である。すなわち前記励振信号A1,A2,A3は、可動体6がX2方向への速度を有しているときに与えられ、この励振信号A1,A2,A3がコイル5に与えられることにより、X2方向への速度を有している可動体6にさらにX2方向への駆動力が与えられる。なお、前記励振信号A1は起動信号である。
【0056】
前記励振信号A1,A2,A3により、可動体6が振動を開始するとともに、固有振動数による振動の振幅が時間とともに大きくなっていく。
【0057】
図4の実施の形態の蓄積信号S1aでは、隣接する前記励振信号A1,A2,A3の間に逆励振信号B1,B2が含まれている。この逆励振信号B1,B2により、コイル5に対して励振信号Aとは逆向きの電流が与えられる。この逆励振信号B1,B2は、可動体6がX1方向への速度を有しているときに、前記コイル5に与えられ、可動体6に対してさらにX1方向への駆動力が与えられる。
【0058】
このように励振信号Aと逆励振信号Bとが交互に与えられることにより、可動体6の振幅が短時間に急激に大きくなっていく。」(7-8頁)

「【0066】
前記駆動信号S1には減衰信号S1bが含まれている。この減衰信号S1bには、抑制信号C1,C2,C3が含まれている。この抑制信号C1,C2,C3は前記励振信号A1,A2,A3と周期が180°ずれたものであり、可動体6がX1方向への速度を有しているときに、コイル5に順方向への電流が与えられて、可動体6に対して前記速度方向と逆向きのX2方向への駆動力が与えられる。これにより固有振動数で振動している可動体6の振動が減衰させられる。
【0067】
図4の実施の形態では、抑制信号C1,C2,C3の間に、逆抑制信号D1,D2が設けられており、この逆抑制信号D1,D2によってコイル5に逆方向の電流が与えられる。この逆抑制信号D1,D2により、X2方向への速度を有している可動体6に対して、前記速度を打ち消すX1方向の駆動力が与えられる。前記抑制信号Cと逆抑制信号Dを交互に設けることにより、可動体6の振幅が急激に減衰する。
【0068】
なお、前記減衰信号S1bに、抑制信号Cと逆抑制信号Dの一方のみが設けられていてもよい。また抑制信号Cや逆抑制信号Dを減衰信号の前半においてのみ設けてもよいし、前記抑制信号Cと逆抑制信号Dの周期を徐々にずらすようにしてもよい。
【0069】
図5は、前記蓄積信号S1aと減衰信号S1bを連続させ、この蓄積信号S1aと減衰信号S1bを組とした信号を周期Teで与えた場合の、可動体6の振動波形を示している。図5では、蓄積信号S1aでの励振信号A1,A2,A3の数と、減衰信号S1bでの抑制信号C1,C2,C3の数が一緒であり、また励振信号A1,A2,A3と抑制信号C1,C2,C3とでコイル5に与えられる電流量が同じである。また逆励振信号B1,B2,B3の数と逆抑制信号D1,D2,D3の数が同じであり、逆励振信号と逆抑制信号とでコイルに与えられる電流量が同じである。また蓄積信号S1aと減衰信号S1bの時間長も同じである。
【0070】
図5では、可動体6が固有振動数(共振周波数)にて振動し、蓄積信号S1aではその振幅が時間と共に増加し、減衰信号S1bでは振幅が減衰していく。図5では、可動体6の振幅の頂点を結んだ線をエンベローブEとして示しているが、このエンベローブEは、前記蓄積信号S1aと減衰信号S1bの周期Teに応じて増減し、このエンベローブEの周波数feは1/Teである。
【0071】
前記可動体6の質量は小さく、このため固有振動数(共振周波数)は高くなる。しかしながら、前記エンベローブEの周波数feは、前記共振周波数よりも低く設定することが可能であり、振動の大きさの変化を与えることが可能となる。振動の強さの変化は、圧感(痛覚)の変化として体感し得るという特徴がある。また、前記エンベローブEの周波数feは、振幅の大きさが一定に維持されている場合にあっても、人が前記周波数feの増減を検知できる周波数帯域にあることから、人は前記周波数feの増減を振動の変化として有効に体感することができる。
【0072】
可動体6の質量が小さく固有振動数が高い小型の振動発生手段1を用いて、図5に示すエンベローブEの振動を発生させ、このエンベローブEの周波数を人が体感できる値に設定しておくと、人はエンベローブEの波形を振動として感じるようになる。
【0073】
また、駆動信号S1での、蓄積信号S1aと減衰信号S1bから成る組の繰り返し周期を変えることにより、人が体感できる前記エンベローブEの周期および周波数を自由に変化させることができる。また、励振信号Aと逆励振信号Bの数や電流量を変え、また抑制信号Cと逆抑制信号Dの数や電流量を変えることにより、エンベローブEの振幅を変えることもできる。」(9-10頁)
【図4】

【図5】

「【0073】
また、駆動信号S1での、蓄積信号S1aと減衰信号S1bから成る組の繰り返し周期を変えることにより、人が体感できる前記エンベローブEの周期および周波数を自由に変化させることができる。また、励振信号Aと逆励振信号Bの数や電流量を変え、また抑制信号Cと逆抑制信号Dの数や電流量を変えることにより、エンベローブEの振幅を変えることもできる。」(10頁)

「【0080】
【発明の効果】
以上のように本発明では、可動体の固有振動数よりも低い周波数のエンベローブを生成して、このエンベローブの波形を振動として人に体感させるようにしているため、小型で固有振動数の高い振動発生装置を用いても人に体感させる振動を生じさせることができる。また前記エンベローブを変化させることにより、人が体感する振動の振動数や振動の感じ方などを自由に設定することができる。」(11頁)

の記載がある。すなわち、

【0011】-【0012】によれば、可動体の振動のエンベロープの変化を人が体感する振動として取り出すのであって、エンベローブが変化することにより、振動の強さの変化を人に与えるから、駆動体6は、振動触覚ハプティック効果を発生するための駆動体6であるといえる。

【0048】によれば、信号生成手段12が駆動信号S1を生成し、【0053】によれば、信号生成手段12が生成する駆動信号S1に含まれる蓄積信号S1aは、可動体6にその固有振動数による共振運動を励振させるものであるから、蓄積信号S1aは、可動体6との共振周波数を有しており、可動体6を駆動するように構成されており、信号生成手段12が蓄積信号S1aを生成しているといえる。

【0052】によれば、駆動信号S1は可動体6に対する制御信号であるから、駆動信号S1は駆動体6に伝送されることは明らかである。
駆動信号S1には蓄積信号S1aと減衰信号S1bが含まれるから、蓄積信号S1aも駆動体6に伝送されることは明らかである。

【0057】-【0058】によれば、蓄積信号S1aが与えられることにより可動体6の振幅が大きくなり、【0066】によれば、減衰信号S1bにより可動体6の振動が減衰させられるから、「可動体6を制動する方法」であるといえる。

図4および【0058】と【0067】によれば、蓄積信号S1aは励振信号A1、A2、A3と逆励振信号B1、B2が交互に与えられているパルス信号であり、減衰信号S1bは抑制信号C1、C2、C3と逆抑制信号D1、D2が交互に与えられているパルス信号であり、【0066】によれば、抑制信号C1、C2、C3は、励振信号A1、A2、A3と周期が180°ずれたものであるから、蓄積信号S1aと減衰信号S1bは、180°位相がずれているパルス信号であるといえ、「180°位相がずれた」は、「反転した位相」である。
また、減衰信号S1bは、蓄積信号S1aのパルス信号を反転したのであるから、減衰信号S1bと蓄積信号S1aの周波数は同じである。
つまり、減衰信号S1bは「蓄積信号S1aを反転して生成」した信号であって、蓄積信号S1aと同じ周波数及び反転した位相を有する信号であるといえる。

【0067】によれば、抑制信号Cと逆抑制信号Dを与えることにより、可動体の振幅が急激に減衰するから、減衰信号S1bは、可動体6に対する制動力を生じるような信号であるといえる。

【0072】によれば、エンベローブEの周波数を人が体感できる値に設定しておくと、人はエンベローブEの波形を振動として感じるようになるのであるから、エンベロープは振動触覚ハプティック効果エンベロープであるといえる。

【0080】によれば、エンベロープの波形を振動として人に体感させるようにしており、人が体感する振動の振動数や振動の感じ方などを自由に設定できるのであるから、体感させる対象のエンベロープは可動体の駆動信号S1を生成する前に生成しておくことは自明である。

【0073】を参照すれば、蓄積信号S1aと減衰信号S1bから成る組の繰り返し周期を変えることにより、人が体感できるエンベロープEの周期および周波数を自由に変化させることが可能であるから、蓄積信号S1aと減衰信号S1bが振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく変調振幅を含んでいるといえる。
また、【図5】を参照すれば、エンベロープEの振幅を略0とすることが可能であることは明らかである。


上記によれば、引用文献には、

「可動体6を制動するための方法であって、
振動触覚ハプティック効果を発生する前記可動体6の共振周波数を有する蓄積信号S1aであって、前記可動体6を駆動するように構成された蓄積信号S1aを生成するステップと、
蓄積信号S1aを反転して蓄積信号S1aと同じ周波数及び反転した位相を有する減衰信号S1bを生成し、
前記蓄積信号S1aを前記可動体6に伝送し、
前記減衰信号S1bを前記可動体6に伝送し、
前記蓄積信号S1aを生成する前に周期的な振動触覚ハプティック効果エンベロープを生成し、前記可動体6に対する制動力を生じるように前記減衰信号S1bを生成し、
前記蓄積信号S1aを生成する前に周期的な振動触覚ハプティック効果エンベロープを生成し、前記蓄積信号S1aが少なくとも部分的に振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく変調振幅を含み、前記減衰信号S1bが少なくとも部分的に振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく変調振幅を含み、前記蓄積信号S1aと前記減衰信号S1bとが前記エンベロープEの周期を変化させ、前記エンベロープEの振幅を略0とすることも可能であるように、前記可動体6に伝送される
方法。」(以下、「引用発明」という。)

の発明が記載されている。

(2)周知技術

特開平2-7896号公報(以下、「周知例1」という。下線は当審が付与。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

「〔従来の技術〕
従来、パルス信号の位相反転を行なう場合、もっとも簡単な方法としては排他的論理和(EOR,ENOR)回路の利用がある。EORの真理値表は表1の通りであるから、一方の入力をHにることにより他方の入力の反転を出力端に得ることができる。一方の入力をLにすれば、他方の入力がそのまゝ出力端に現われる。
表1(省略)
しかしこの方式では位相反転制御用の信号(一方の入力AまたはB)は、位相反転中H(EORのとき)またはL(ENORのとき)に維持する必要がある。
パルス信号でも排他的論理和回路を位相反転させておくには、トグル動作するフリップフロップを使用することが考えられる。第7図にこの例を示し、FFが該フリップフロップである。制御信号パルスTが入る毎にこのフリップフロップのQ出力従って入力AはH,L,H,・・・と変るから、HのときパルスTの入力を止めれば、EORの出力YはBになる。」(2頁左上欄3行?右上欄8行)

特開2003-37497号公報(以下、「周知例2」という。下線は当審が付与。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0023】図3は本願発明の周波数シンセサイザの第2実施例のブロック構成図である。本実施例の周波数シンセサイザ20は、制御入力端子Sを備え、第1実施例の波形整形回路12に代えて、非反転型の波形整形回路である非反転回路14と、反転型の波形整形回路である反転回路16と、AND回路24,26およびNOT回路28によって構成される切替回路22を使用したものである。
【0024】ここで、非反転回路14と反転回路16の入力はいずれも基準発振入力端子に接続され、基準発振入力信号cが加えられる。非反転回路14の出力はAND回路24の一方の入力に、反転回路16の出力はAND回路26の一方の入力にそれぞれ接続されている。また、AND回路24の他方の入力は制御入力端子Sに接続され、AND回路26の他方の入力は制御入力端子SからNOT回路28を介して接続されている。そして、AND回路24とAND回路26の出力はワイアードORされて分周器3に入力される。
【0025】従って、制御入力端子を論理Hとすると、AND回路24が選択され、AND回路26が非選択となるため、基準発振入力信号cの非反転信号が分周期3に送られる。一方、制御入力端子を論理Lとすると、AND回路24が非選択となり、AND回路26が選択されるため、基準発振入力信号cの反転信号が分周期3に送られる。このように、制御入力端子Sの論理レベルによって、分周器3の入力信号を基準発振入力信号cの非反転信号とするか反転信号とするかが切替わる。」(4頁5-6欄)

周知例1および2に開示されているように、「パルス信号の非反転信号あるいは反転信号を取得する回路として、HとLの論理状態を切換可能な制御入力の信号を入力し、信号反転器(例えば周知例1の排他的論理和回路(EOR)又は周知例2の反転回路を含む切替回路)が非反転信号あるいは反転信号を出力する回路を用いること。」は周知技術(以下、「周知技術」という。)である。


(3)補正後発明と引用発明の対比

補正後発明と引用発明を対比すると、

引用発明の「可動体6」は、補正後発明の「アクチュエータ」に、
引用発明の「蓄積信号S1a」は、補正後発明の「第1アクチュエータ信号」に、
引用発明の「減衰信号S1b」は、補正後発明の「第2アクチュエータ信号」に、
それぞれ相当する。

補正後発明の「第1論理状態の論理信号を生成して前記アクチュエータに電気的に接続された信号反転器に伝送するステップであって、前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられ、前記信号反転器は前記論理信号が第1論理状態にある場合に前記第1アクチュエータ信号を反転せず、前記信号反転器は前記論理信号が第2論理状態にある場合に前記第1アクチュエータ信号を反転して前記第1アクチュエータ信号と同じ周波数および反転した位相を有する第2アクチュエータ信号を生成するステップ」と、「前記振動触覚ハプティック効果の持続時間または振幅に少なくとも部分的に基づいて、前記論理信号を前記第2論理状態に切り替えるステップ」と、「前記第1アクチュエータ信号を反転させて前記アクチュエータに対する制動力を生じる前記第2アクチュエータ信号を生成するために前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送するステップ」は、信号反転器を用いて、第1アクチュエータ信号を反転しないか、反転して第2アクチュエータ信号を生成するかを、論理信号が第1論理状態か第2論理状態かに応じて制御するものであるから、引用発明の「蓄積信号S1aを反転して減衰信号S1bを生成し」とは、どちらも「第1アクチュエータ信号を反転して第2アクチュエータ信号を生成」する点で一致するが、引用発明では、その具体的な方法が記載されていない。

また、補正後発明の「前記第1アクチュエータ信号及び前記第2アクチュエータ信号は前記振動触覚ハプティック効果エンベロープの半周期の間は前記共振周波数の振幅がゼロになるように前記アクチュエータに伝送」することと、引用発明の「前記エンベロープEの振幅が略0である区間は駆動信号S1として蓄積信号も減衰信号も加えられない」は、どちらも「前記第1アクチュエータ信号及び前記第2アクチュエータ信号は前記振動触覚ハプティック効果エンベロープが所定の波形となるように前記アクチュエータに伝送」する点で同じである。

上記によれば、補正後発明と引用発明は、

「アクチュエータを制動するための方法であって、
振動触覚ハプティック効果を発生する前記アクチュエータの共振周波数を有する第1アクチュエータ信号であって、前記アクチュエータを駆動するための第1アクチュエータ信号を生成するステップと、
前記第1アクチュエータ信号を反転して前記第1アクチュエータ信号と同じ周波数および反転した位相を有する第2アクチュエータ信号を生成するステップと、
前記信号反転器を介して前記第2アクチュエータ信号を前記アクチュエータに伝送するステップと、を含み、
前記第1アクチュエータ信号を生成する前に周期的な振動触覚ハプティック効果エンベロープを生成するステップをさらに含み、前記第1アクチュエータ信号が少なくとも部分的に前記振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく変調振幅を含み、前記第2アクチュエータ信号が少なくとも部分的に前記振動触覚ハプティック効果エンベロープに基づく振幅を含み、前記第1アクチュエータ信号及び前記第2アクチュエータ信号は前記振動触覚ハプティック効果エンベロープが所定の波形となるように前記アクチュエータに伝送される、方法。」

で一致し、下記の点で相違する。

相違点1

一致点の「第1アクチュエータ信号を反転して第2アクチュエータ信号を生成」するにあたり、本願発明は「第1論理状態の論理信号を生成して前記アクチュエータに電気的に接続された信号反転器に伝送する」ステップを有し、「前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられ」るように構成されており、「前記信号反転器は前記論理信号が第1論理状態にある場合に前記第1アクチュエータ信号を反転せず、前記信号反転器は前記論理信号が第2論理状態にある場合」に生成するのに対し、引用発明は、どのようにして「蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1b」を生成するか記載がない点。

相違点2

第1アクチュエータ信号をアクチュエータに伝送するにあたり、本願発明は「前記信号反転器を介して」伝送するのに対し、引用発明はどのように伝送するのか記載がない点。

相違点3

一致点の「前記振動触覚ハプティック効果エンベロープが所定の波形となるようになるよう」について、本願発明は、「前記振動触覚ハプティック効果エンベロープの半周期の間は前記共振周波数の振幅がゼロになる」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。


相違点について検討する。

相違点1および2について

パルス信号の非反転信号あるいは反転信号を取得する回路として、HとLの論理状態を切換可能な制御入力の信号を入力し、信号反転器が非反転信号あるいは反転信号を出力する回路を用いることは周知技術であるから、引用発明における「減衰信号S1b」を生成するにあたり、信号反転器に制御入力のHの論理状態からなる信号を入力することで蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1bを取得することは、当業者にとって容易に想到しうることである。
これは、「論理信号がHとLの2つの論理状態の間で切り替えられるように構成され」、「論理信号をHの論理状態である第2論理状態に切り替え」て信号反転器に入力することにより、蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1bを得ることが、当業者にとって容易に想到しうることであるといえる。

この場合、信号反転器に入力信号と論理状態信号を入力することで非反転信号あるいは反転信号を出力するから、蓄積信号S1aと減衰信号S1bのいずれも信号反転器から出力するのであって、第1アクチュエータ信号は信号反転器を介して伝送するようになるといえる。

相違点3について

引用文献の明細書の段落【0076】に「この例の他にも、蓄積信号S1aと減衰信号S1bの信号の内容を変えることにより、エンベローブEの波形を制御することが可能である。このようにエンベローブEの波形を変えることにより、人が敏感に感じる振動や、人に鈍く重く感じさせる振動などを任意に生成することが可能である。」と記載されているから、引用発明の「振動触覚ハプティック効果エンベロープ」の波形は任意である。
そして、振動波形の一形態として、所定の期間、振幅がゼロの期間を有するものは周知の事項(例えば特開平11-355397号公報の図5を参照)であるから、引用発明の「振動触覚ハプティック効果エンベロープ」の波形として、所定の期間、振動がゼロとなるような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。その際、所定の期間を「振動触覚ハプティック効果エンベロープの半周期」とすることは、当業者が必要に応じて設計する設計事項に過ぎない。

3.まとめ

補正後発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成28年12月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年4月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された本願発明のとおりである。

2.引用発明及び周知技術

(1)引用発明

引用発明および周知技術1は、「第2 平成28年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.独立特許要件の検討」で記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明と引用発明を対比すると、

引用発明の「可動体6」は、本願発明の「アクチュエータ」に、
引用発明の「蓄積信号S1a」は、本願発明の「第1アクチュエータ信号」に、
それぞれ相当する。

本願発明において、「前記アクチュエータに対する制動力を生じるように前記アクチュエータ信号を反転させるために前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送するステップ」は、「前記アクチュエータに対する制動力を生じるように前記アクチュエータ信号を反転させ」た信号を生成するためのステップであって、その具体的方法として、「前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送する」ものであり、「前記第2論理状態の前記論理信号」は、「前記論理信号を第2論理状態に切り替えるステップ」で切り替えられた「第2論理状態」であり、「前記信号反転器」は、「第1論理状態の論理信号を生成して信号反転器に伝送するステップ」で第1論理状態の論理信号が伝送された「信号反転器」であって、信号反転器に伝送することにより、「前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられるように構成される」構成となっている。
すなわち、本願発明は、アクチュエータを制動することによって減速させるために、「第1論理状態の論理信号」を生成して信号反転器に伝送し、論理信号を第2論理状態に切り替えて信号反転器に伝送することにより第1アクチュエータ信号を反転させるものである。
一方、引用発明の「減衰信号S1b」は前記可動体6に対する制動力を生じる信号であって、「蓄積信号S1a」を反転させて生成するものであるが、生成する具体的な構成については記載がない。
したがって、両者は「前記アクチュエータに対する制動力を生じるように前記アクチュエータ信号を反転させた信号を伝送するステップ」で一致しているといえる。

上記によれば、本願発明と引用発明は、

「アクチュエータを制動するための方法であって、
前記アクチュエータとの共振周波数を有する第1アクチュエータ信号であって、前記アクチュエータを駆動するように構成された第1アクチュエータ信号を生成するステップと、
前記第1アクチュエータ信号を前記アクチュエータに伝送するステップと、
前記アクチュエータに対する制動力を生じるように前記アクチュエータ信号を反転させた信号を伝送するステップと、を含む方法。」

で一致し、下記の点で相違する。

相違点

「第1アクチュエータ信号を反転させた信号」を生成するにあたり、本願発明は「第1論理状態の論理信号を生成して信号反転器に伝送する」ステップを有し、「前記論理信号は2つの論理状態の間で切り替えられるように構成され」ており、「前記論理信号を第2論理状態に切り替え」て、「前記第2論理状態の前記論理信号を前記信号反転器に伝送する」のに対し、引用発明は、どのようにして「蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1b」を生成するか記載がない点。

相違点について検討する。

パルス信号の非反転信号あるいは反転信号を取得する回路として、HとLの論理状態を切換可能な制御入力の信号を入力し、信号反転器が非反転信号あるいは反転信号を出力する回路を用いることは周知技術であるから、引用発明における「減衰信号S1b」を生成するにあたり、信号反転器に制御入力のHの論理状態からなる信号を入力することで蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1bを取得することは、当業者にとって容易に想到しうることである。
これは、「論理信号がHとLの2つの論理状態の間で切り替えられるように構成され」、「論理信号をHの論理状態である第2論理状態に切り替え」て信号反転器に入力することにより、蓄積信号S1aを反転させた減衰信号S1bを得ることが、当業者にとって容易に想到しうることであるといえる。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-29 
結審通知日 2017-12-05 
審決日 2017-12-21 
出願番号 特願2013-265211(P2013-265211)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H04M)
P 1 8・ 121- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 保田 亨介吉村 伊佐雄  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
発明の名称 振動触覚ハプティック効果を発生させるための共振装置を制御するためのシステムおよび方法  
代理人 三好 秀和  
代理人 伊藤 正和  
代理人 原 裕子  

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