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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02F |
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管理番号 | 1340046 |
異議申立番号 | 異議2017-700272 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-14 |
確定日 | 2018-03-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5990928号発明「液晶配向剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5990928号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5990928号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5990928号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年8月26日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年3月14日に特許異議申立人三枝盛男より請求項1?3に対して特許異議の申立てがされ、平成29年4月26日付けで取消理由が通知され、同年6月29日付けで意見書の提出がされ、同年9月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年11月27日付けに意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。 なお、特許異議申立人に対して、平成29年12月6日付けで、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何ら応答がなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成29年11月27日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)による本件訂正の内容は、特許第5990928号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1及び訂正事項2からなる。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、下記式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)を含む溶剤と、を含有する液晶配向剤。」と記載されているのを、「ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、溶剤と、を含有し、前記溶剤が、下記式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、を必須成分とし、前記溶剤が前記必須成分以外の溶剤を含む場合、当該必須成分以外の溶剤は、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも一種である、液晶配向剤。」に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「前記重合体が、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物のうち少なくともいずれかを含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。」と記載されているのを、「前記溶剤が、前記ピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、からなり、 前記重合体が、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物のうち少なくともいずれかを含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「溶剤」について式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)以外の溶剤の限定をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)以外の溶剤に関して、願書に添付した明細書の段落【0072】の表に記載された全ての実施例には「a」及び「b」が含まれていることが記載され、段落【0073】には、 「表1における溶剤組成の記号及び酸化防止剤の記号は、それぞれ以下の意味である。 a:N-メチル-2-ピロリドン(NMP) b:エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(BC)」が記載されている。 また、願書に添付した明細書の段落【0039】には、「本発明の液晶配向剤の調製に使用される溶剤としては、上記のピロリドン誘導体(p)以外のその他の溶剤を使用することができる。その他の溶剤としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。」との記載がある。 よって、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものである。 そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、訂正前の請求項3が引用する訂正前の請求項1の「溶剤」について式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)以外の溶剤の限定をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 訂正事項2の「前記溶剤が、前記ピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、からなり、」との事項は、上記(1)イに記載したとおり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものである。 そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。 (3)一群の請求項 訂正前の1ないし3は、訂正前の請求項2及び3が、請求項1の記載を引用し、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正請求は適法であることから、訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。また、本件発明1ないし3をまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、溶剤と、を含有し、 前記溶剤が、下記式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、を必須成分とし、 前記溶剤が前記必須成分以外の溶剤を含む場合、当該必須成分以外の溶剤は、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも一種である、液晶配向剤。 【化1】 (式(1)中、R^(1)は、炭素数4又は5の炭化水素基であり、当該炭化水素基における炭素鎖の途中に酸素原子を含んでいてもよい。) 【請求項2】 前記ピロリドン誘導体(p)の含有量が、溶剤全体の10重量%以上である請求項1に記載の液晶配向剤。 【請求項3】 前記溶剤が、前記ピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、からなり、 前記重合体が、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物のうち少なくともいずれかを含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、下記取消理由1ないし3は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由と同じである。 (1)取消理由1 本件発明1ないし3は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された特開平5-117587号公報(以下、「甲第1号証」という。)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、本件発明1ないし3の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。 (2)取消理由2 本件発明1ないし3は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明1ないし3の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。 (3)取消理由3 本件特許明細書の記載から本件発明の効果が奏されるか否か明らかではなく、本件発明1ないし3は、本件発明の効果が奏されることが示されていない液晶配向剤を含むことになる。 したがって、本件発明1ないし3の特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 (4)取消理由4 本件発明1ないし3は、液晶配向剤の塗布方法として、発明の詳細な説明において「長期印刷性」が具体的に確認されている塗布方法以外の塗布方法を用いた場合を含む。よって、本件発明1ないし3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。 したがって、本件発明1ないし3の特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 3 甲号証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。 「【請求項1】 ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体を有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニスにおいて、有機溶媒の少なくとも50重量%が、一般式[1] 【化1】 [1] (式中、Rは炭素数2以上6以下のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、シクロアルキレン基、フェニル基を表わす)で表されるピロリドン誘導体であることを特徴とするポリイミドワニス組成物。」 「【0002】 【従来の技術】ポリイミドはその特徴である高い機械的強度、耐熱性、耐溶剤性のために、電気・電子分野における保護材料、絶縁材料として広く用いられている。具体的には、半導体用の絶縁膜として用いる場合には、配線加工されたシリコン支持基板上に1?10μm のポリイミド塗膜を形成させたり、液晶配向膜として用いる場合には、透明電極付きの透明支持基板上に0.05?0.2μm のポリイミド塗膜を形成させるなど、各種支持基板上に薄いポリイミド塗膜を形成させて用いるのが一般的である。このようなポリイミド塗膜を形成させるには、ポリイミド又はポリイミド前駆体を適当な有機溶媒に溶解させ、この溶液をスピンコート、オフセット印刷、グラビア印刷などの方法で支持基板上に塗布し、加熱処理を施すことが一般的である。」 「【0030】実施例 1 2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ) フェニル]プロパン(以下、BAPPと略す) 41.0 g(0.1 モル) 、及び3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4- テトラヒドロ-1- ナフタレンコハク酸二無水物(以下、TDAと略す) 29.9 g (0.0995 モル)をN-メチルピロリドン(以下NMPと略称する) 400g 中、室温で 10 時間反応させポリアミック酸中間体溶液を調製した。得られたポリアミック酸中間体の環元粘度ηsp/Cは 1.14dl/g (0.5 重量%NMP溶液、30℃)であった。 【0031】得られたポリアミック酸中間体溶液 50 g に、イミド化触媒として無水酢酸 10.8 g ,ピリジン 5.0g を加え、50℃で 3時間反応させ、ポリイミド溶液を調製した。この溶液を 500mlのメタノール中に投入し、得られた白色沈殿をろ別し、乾燥し、白色のポリイミド粉末を得た。得られたポリイミドの環元粘度ηsp/Cは 1.04dl/g (0.5 重量%NMP溶液、30℃)であった。 【0032】この粉末 6g をN-シクロヘキシルピロリドン(以下、NCPと略す) 69 gに溶解し、総固形分を8 %として透明電極付ガラス基板に3500rpm でスピンコートし、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で10分間放置したが、塗膜の表面の白化、表面荒れなどは全く見られず、均一な塗布状態が保たれていた。この塗膜を基板ごと170 ℃で60分間熱処理してポリイミド膜を形成させたところ、膜厚0.10μm の均一な塗膜が形成された。」 以上のことから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。 「液晶配向膜として用いる、ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体を有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニスにおいて、有機溶媒の少なくとも50重量%が、一般式[1] 【化1】 [1] (式中、Rは炭素数2以上6以下のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、シクロアルキレン基、フェニル基を表わす)で表されるピロリドン誘導体であるポリイミドワニス組成物。」 4 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由1、2について ア 本件発明1について a 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲第1号証の段落【0031】に「得られたポリアミック酸中間体溶液50gに、イミド化触媒として無水酢酸10.8g,ピリジン5.0gを加え、50℃で3時間反応させ、ポリイミド溶液を調製した。」と記載されているように、イミド化触媒で反応させてポリイミド溶液となるポリアミック酸中間体は、ポリイミド前駆体である。 これを踏まえると、甲1発明の「ポリイミド前駆体」は、本件発明1の「ポリアミック酸」に相当するといえるから、本件発明1と甲1発明は、 「ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、 下記式(1)で表されるピロリドン誘導体を含む溶剤と、 を含有する液晶配向剤。 【化1】 」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、「溶剤が、下記式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、を必須成分とし、前記溶剤が前記必須成分以外の溶剤を含む場合、当該必須成分以外の溶剤は、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも一種であ」り、「(式(1)中、R^(1)は、炭素数4又は5の炭化水素基であり、当該炭化水素基における炭素鎖の途中に酸素原子を含んでいてもよい。)」のに対し、甲1発明は、少なくとも「N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルとを必須成分と」するものではなく、「(式中、Rは炭素数2以上6以下のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、シクロアルキレン基、フェニル基を表わす)」ものである点。 b 判断 上記相違点1について検討する。 本件特許明細書には、「本発明の液晶配向剤では、溶剤の少なくとも一部として上記ピロリドン誘導体(p)を用いているため、溶剤に対する重合体の溶解性が良好である。また、上記ピロリドン誘導体(p)は、沸点が適度に高く、これにより、液晶配向剤の基板への印刷時において、印刷機上から溶剤が揮発するのを抑制することができる。したがって、印刷機上に重合体成分が析出しにくく、その結果、印刷性(特に、長期に亘って印刷を継続して実施した場合の印刷性、以下「長期印刷性」ともいう。)を良好にすることができる。」(段落【0009】)との記載がある。 してみると、本件発明1は、溶解性の観点及び長期印刷性の観点から、特定の溶剤を用いた発明である。 一方、甲第1号証には、「本発明の一般式[1]で表されるピロリドン誘導体は、従来の有機極性溶媒同様にポリイミド又はポリイミド前駆体に対する溶解性が高く、支持基板に対して均一な塗布が可能であり、更に、吸湿による塗膜の白化、表面荒れを起こしにくく、極めて安定に均一な塗布が可能である。」(段落【0009】)との記載がある。 してみると、甲1発明は、溶解性の観点及び吸湿による塗膜の白化、表面荒れの観点から、一般式[1]で表されるピロリドン誘導体(式中、Rは炭素数2以上6以下のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、シクロアルキレン基、フェニル基を表わす)を用いた発明である。 そして、本件発明1も甲1発明も特定のピロリドン誘導体の採用により重合体の溶解性を高くする点では共通している。 また、ピロリドン誘導体の式中のRの炭素数に着目すると、本件発明の炭素数は4又は5であり、甲1発明の炭素数は2以上6以下であり、本件発明の炭素数は甲1発明の炭素数の範囲に含まれることになる。 しかしながら、本件発明は、長期印刷性の効果を奏するために、ピロリドン誘導体の式中のRの炭素数4又は5に限定し、「N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルとを必須成分とし」たものである。そして、本件発明の長期印刷性の効果は、甲1発明の「吸湿による塗膜の白化、表面荒れを起こしにくく」するという効果とは異質の効果であり、出願時の技術水準から当業者が予測できたものとはいえない。 してみると、長期印刷性の効果を奏するために、溶剤について、ピロリドン誘導体の式中のRの炭素数を4又は5に限定し、「N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルとを必須成分とし」た本件発明1は、限定したことによる意義が認められるから選択発明であるといえる。 したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 イ 本件発明2、3について 本件発明2、3は本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由で、本件発明2、3は、甲1発明であるとはいえない。また、本件発明2、3は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 取消理由1、2についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、本件発明1ないし3に係る特許は特許法第29条の規程に違反してされたものであるとはいえない。 (2)取消理由通知に記載した取消理由3について 本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、「溶剤」について式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)以外の溶剤について、どのような材料が用いられるか特定されていなかったが、本件訂正により、本件発明1ないし3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0072】、【0073】及び【0039】に記載された範囲の溶剤を用いることが特定された。 したがって、本件発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (3)取消理由通知に記載した取消理由4について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には「本発明の液晶配向剤では、溶剤の少なくとも一部として上記ピロリドン誘導体(p)を用いているため、溶剤に対する重合体の溶解性が良好である。また、上記ピロリドン誘導体(p)は、沸点が適度に高く、これにより、液晶配向剤の基板への印刷時において、印刷機上から溶剤が揮発するのを抑制することができる。したがって、印刷機上に重合体成分が析出しにくく、その結果、印刷性(特に、長期に亘って印刷を継続して実施した場合の印刷性、以下「長期印刷性」ともいう。)を良好にすることができる。」(段落【0009】)との記載がある。 本件発明1ないし3において、「溶剤に対する重合体の溶解性が良好である。」との効果は、溶剤と重合体との関係に基づくものである。また、「上記ピロリドン誘導体(p)は、沸点が適度に高く、」「印刷機上から溶剤が揮発するのを抑制することができる。」との効果は、溶剤の揮発の状況は塗布方法によって大きく異なるものの、塗布方法によらず生じるものである。 よって、本件発明1ないし3の効果は、塗布方法によらず奏されると考えられる。 したがって、塗布方法を特定しない本件発明1ないし3にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえないから、本件発明1ないし3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、溶剤と、を含有し、 前記溶剤が、下記式(1)で表されるピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、を必須成分とし、 前記溶剤が前記必須成分以外の溶剤を含む場合、当該必須成分以外の溶剤は、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレシグリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも一種である、液晶配向剤。 【化1】 (式(1)中、R^(1)は、炭素数4又は5の炭化水素基であり、当該炭化水素基における炭素鎖の途中に酸素原子を含んでいてもよい。) 【請求項2】 前記ピロリドン誘導体(p)の含有量が、溶剤全体の10重量%以上である請求項1に記載の液晶配向剤。 【請求項3】 前記溶剤が、前記ピロリドン誘導体(p)と、N-メチル-2-ピロリドンと、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルと、からなり、 前記重合体が、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物のうち少なくともいずれかを含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-02-27 |
出願番号 | 特願2012-38291(P2012-38291) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G02F)
P 1 651・ 121- YAA (G02F) P 1 651・ 113- YAA (G02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣田 かおり |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
森 竜介 星野 浩一 |
登録日 | 2016-08-26 |
登録番号 | 特許第5990928号(P5990928) |
権利者 | JSR株式会社 |
発明の名称 | 液晶配向剤 |
代理人 | 日野 京子 |
代理人 | 安藤 悟 |
代理人 | 山田 強 |
代理人 | 廣田 美穂 |
代理人 | 山田 強 |
代理人 | 安藤 悟 |
代理人 | 日野 京子 |
代理人 | 廣田 美穂 |