• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1340072
異議申立番号 異議2016-701189  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-27 
確定日 2018-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5940980号発明「多層光学フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5940980号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について、訂正することを認める。 特許第5940980号の請求項1、2、3に係る特許を取り消す。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5940980号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2010年11月11日(優先権主張外国庁受理2009年11月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

平成28年 5月27日:特許権の設定登録
平成28年 6月29日:特許掲載公報発行
平成28年12月27日:特許異議の申立て(特許異議申立人椎名一男)
平成29年 2月15日:取消理由通知書
平成29年 5月15日:意見書
平成29年 5月31日:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 9月 1日:訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書によりなされた訂正を「本件訂正」という。)及び意見書
平成29年 9月 5日:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年10月 5日:意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
本件訂正は、本件特許の特許請求の範囲について、以下のとおり訂正することを求めるものである(下線は合議体が付した。以下同じ。)。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許権者は、本件特許の請求項1に「前記第3光学層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在しない、多層光学フィルム。」とあったものを、「前記第3光学層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在せず、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。」に訂正することを請求する。

(2)訂正事項2
特許権者は、本件特許の請求項2に「第2の複数の第1及び第2光学層が存在する、多層光学フィルム。」とあったものを、「第2の複数の第1及び第2光学層が存在し、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。」に訂正することを請求する。

(3)訂正事項3
特許権者は、本件特許の請求項3に「第4光学層と、を含む、多層光学フィルム。」とあったものを、「第4光学層と、を含み、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。」に訂正することを請求する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件特許の請求項1において、第1光学層又は第2光学層に含まれるものを特定して限定をするものであり、当該限定に係る訂正事項1は、本件特許の明細書の【0003】に基づく訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当しないことは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件特許の請求項2において、第1光学層又は第2光学層に含まれるものを特定して限定をするものであり、当該限定に係る訂正事項2は、本件特許の明細書の【0004】に基づく訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当しないことは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件特許の請求項3において、第1光学層又は第2光学層に含まれるものを特定して限定をするものであり、当該限定に係る訂正事項3は、本件特許の明細書の【0005】に基づく訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当しないことは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の目的に該当し、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するするので、訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 請求項1ないし3に係る発明
本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収する、第3光学層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が、前記第3光学層の前記第1主表面に近接し、並びに前記第3光学層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在せず、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。
【請求項2】
主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、第1の複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で吸収する、第3光学層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が前記第3光学層の前記第1主表面に近接し、並びに主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射し、前記第3光学層の前記第2主表面に近接する、第2の複数の第1及び第2光学層が存在し、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。
【請求項3】
相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収し、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第1主表面に近接する、第3光学層と、少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収し、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第2主表面に近接する、第4光学層と、を含み、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。

2 平成29年5月31日付け取消理由通知(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の優先権主張日(以下「優先日」という。)前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特表2003-515754号公報
甲第2号証:特表平7-507152号公報
甲第3号証:特表平8-502597号公報
甲第4号証:特表2008-546026号公報

3 取消理由についての判断
(1)各甲号証の記載事項
以下、甲第1号証ないし甲第4号証をそれぞれ「甲1」ないし「甲4」という。
ア 甲1
本件特許の優先日前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である甲1には、次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。以下同じ。)。
(ア)「【0001】
発明の分野
本発明は多層光反射光学体に関する。さらに、本発明は、一定範囲の波長にわたって光を反射する多層光学体(例えば、ミラー、色鏡面フィルム、IR反射フィルムおよびUV反射フィルム)に関する。
【0002】
発明の背景
高分子フィルムは多様な用途で用いられている。高分子フィルムの一つの特定の用途は、特定の波長範囲にわたって光を反射する鏡である。こうした反射フィルムは、例えば、液晶ディスプレイのバックライト後方に配置して液晶ディスプレイに向けて光を反射し、液晶ディスプレイの輝度を強化することが可能である。色シフトフィルムは、看板、包装材料などにおいて用いることが可能である。IRミラーフィルムは、例えば、窓を通して建物または車両に入る太陽熱負荷を減少させるために用いることが可能である。紫外線(UV)フィルムは、UV光から他のフィルムまたは物体を保護して、有害な作用(例えば、高分子フィルムの光劣化)を防ぐために用いることが可能である。
【0003】
多層光学ミラーを製造するために、同時押出キャスティングプロセスが用いられてきた。しかし、一般に、キャストフィルムには多くの実用的な欠点がある。例えば、キャストフィルムは、一般に、高屈折率材料と低屈折率材料との間で小さい屈折率差しかなく、一般にz方向で一致する屈折率をもたず、よって所定数の層に関する光学的性能を制限する。こうしたキャストフィルムの限定的な光学的能力のゆえに、カラーミラーフィルムの色を強化するために、染料および顔料も一般に用いられる。さらに、一部のキャストフィルム、特に非結晶性材料から製造されたフィルムは、限られた熱安定性、寸法安定性、環境安定性および/または耐溶剤性しかもたない可能性がある。
【0004】
高屈折率材料と低屈折率材料との間の大きな屈折率差および材料の少なくとも一つが複屈折性である時にz方向、すなわち、平面外方向での屈折率を一致させる能力のおかげで、より良好な光学的性能を有するフィルムを提供するために同時押出配向プロセスが用いられてきた。以前に形成されたフィルムの一つの例は、ポリエチレンナフタレート(PEN)から形成された高屈折率層およびポリメチルメタクリレート(PMMA)の低屈折率層を有する。PENを配向させるとPEN層の屈折率を高め、従って、PEN/PMMAフィルムの光学的能力を高める。しかし、PENは、紫外線から保護することが難しい比較的高価な材料であり、より低屈折率のPEN代替品であるポリエチレンテレフタレート(PET)は、PMMAと合わせて容易に適切に配向させることができない。これらの材料のガラス転移温度の差(PENでは約84℃、PMMAでは約106℃)のためである。」
(イ)「【0011】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、一般に、光反射多層光学体(多層光学フィルムなど)および該光学体の製造、ならびに偏光子およびミラーとしての、そしてデバイス中での多層光学体の用途に関する。これらの多層光学体は、多層光学フィルム、これらの多層光学フィルムの製造方法および使用方法、ならびに多層光学フィルムを組み込んだ物品を含む。本多層光学体は、ある波長範囲(例えば、可視、IRまたはUVスペクトルのすべてまたは一部)にわたって光を反射させる。本多層光学体は、一般に、加工上の利点、経済的利点、光学的利点、機械的利点およびその他の利点を提供できる材料の選択に少なくともある程度起因して、過去の光学体とは異なる同時押出配向多層構造体である。本発明はそれほど限定されない一方で、本発明の種々の態様の理解は以下に示す実施例の詳述を通して得られるであろう。
【0012】
「複屈折」という用語は、直交x、yおよびz方向の屈折率がすべて同じであるとは限らないことを意味する。本明細書において記載されたポリマー層の場合、x軸およびy軸が層の平面内であり、z軸が層の平面に対して直角であり、そして一般に層の厚さまたは高さに対応するように軸は選択される。配向ポリマーの場合、x軸は、最大屈折率を有する平面内方向であるように一般に選択され、その方向は光学体が配向される(例えば、延伸される)方向の一つに一般に対応する。
【0013】
「平面内複屈折」という用語は、平面内屈折率(n_(x)およびn_(y))の間の差の絶対値である。
【0014】
「ポリマー」という用語は、特に指示しないかぎり、ポリマーおよびコポリマー(すなわち、二種以上のモノマーから形成された、ターポリマーを含むポリマー)、ならびに例えば、同時押出またはエステル交換を含む反応によって混和性ブレンド中で形成されうるポリマーまたはコポリマーを包含することが理解されるであろう。特に指示しないかぎり、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマーおよび交互コポリマーを包含する。
【0015】
特に指示しないかぎり、すべての複屈折値および屈折率値を632.8nm光に関して報告する。
【0016】
多層光学フィルム
図1および図2は、例えば、ミラー、偏光子、IRフィルム、UVフィルムまたは色シフトフィルムとして使用できる多層光学体10(例えば、多層光学フィルム)を図解している。光学体10は、一層以上の第1の光学層12、一層以上の第2の光学層14および一層以上の非光学層18を含む。非光学層18は、外皮層として多層光学体の表面上に配置することが可能であるか(図1)、あるいは光学層間に配置することが可能である(図2)。第1の光学層と第2の光学層および任意に存在するなら非光学層は同時押出し、そして例えば、延伸によって配向させる。配向は、一般に、第1の光学層または第2の光学層あるいは両方の複屈折により多層光学体の光学的能力(例えば、反射率)を大幅に強化する。
【0017】
こうした多層光学体には、例えば、(i)ラップトップおよびパームトップコンピュータディスプレイ、携帯電話機、ページャーおよび時計ディスプレイにおいて用いられる反射偏光子、(ii)強化照明用途、医療用途および園芸用途において用いられるミラーフィルム、(iii)装飾用途およびセキュリティ用途向けの色シフトフィルム、(iv)自動車分野、園芸分野、光電子濾過分野および建築分野などの分野において熱管理フィルムとして用いられるIR反射フィルム、および(v)例えば、UV線から他のフィルムまたは物体を保護するために用いられるUV反射フィルムなどの用途に適合する多層光学フィルムが挙げられる。
【0018】
光学層12、14は、任意にスタックの外皮層内に含まれるか、あるいは外皮層として含まれる一層以上の非光学層18と合わせて層のスタック16を形成するために一般に交互配置される。一般に、光学層12、14は、図1に示されているように交互対として配列されて、光学的特性が異なる層間の一連の境界面を形成する。光学層12、14は一般に厚さが1μm以下であり、そして400nm以下の厚さを有することが可能である。光学層は同じ厚さを有することが可能である。あるいは、多層光学体は、反射波長範囲を広げるために厚さが異なる層を含むことが可能である。
【0019】
図1は6層の光学層12、14しか示していないが、多層光学体10は、多数の光学層を有することが可能である。適する多層光学体の例には、約2から5000層の光学層を有する多層光学体が挙げられる。多層光学体は一般には約25から2000層の光学層、そして代表的には、約50から1500層の光学層または約75から1000層の光学層を有する。単一スタック16のみを図1に示しているが、多層光学体10は多スタックから製造することが可能であり、それらのスタックは光学体10を形成するために後で組み合わされる。
・・・略・・・
【0025】
一般に、第1の光学層と第2の光学層との間の特定の境界面に関する最高反射率は、光学層12、14の対の総光学的厚さの2倍に対応する波長で起きる。光学的厚さは、光学層の対の下方面および上方面から反射された光線間の経路の長さの差を表す。光学フィルムの平面に90℃で入射する光の場合(直角入射光)、二つの層の光学的厚さはn_(1)d_(1)+n_(2)d_(2)であり、ここでn_(1)、n_(2)は、二つの層の平面内屈折率であり、d_(1)、d_(2)は、対応する層の厚さである。式λ/2=n_(1)d_(1)+n_(2)d_(2)は、直角入射光に関して光学層を同調させるために用いることが可能である。他の角度において、光路長(optical distance)は、層を通して移動した距離(それは層の厚さより大きい)および層の三つの光学軸の少なくとも二つに関する屈折率に応じて決まる。光学層12、14は、それぞれ四分の一波長厚さであることが可能であるか、あるいは光学層12、14は、光学的厚さの合計が波長の半分(または波長の倍数)である限り異なる光学的厚さを有することが可能である。3層以上の光学層を有する多層光学体は、一定範囲の波長にわたって反射を提供するために光学的厚さが異なる光学層を含むことが可能である。例えば、多層光学体は、特定の波長を有する直角入射光の最適反射を達成するために個々に変調されている層対または層組を含むことが可能であるか、あるいはより大きな帯域幅にわたって光を反射するために層対の厚さの傾斜を含んでよい。」
(ウ)「【0030】
第1の光学層
第1の光学層12は、一般に、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、それらのコポリマーまたはブレンドの配向可能フィルムである。適するコポリマーの例は、例えば、WO第99/36262号、同時係属米国特許出願第09/399,531号に記載されている。両方の特許は本明細書に引用して援用する。第1の光学層のために適する他の材料には、例えば、ポリカーボネート、ポリアリーレート、ナフタレート含有ポリマーおよびテレフタレート含有ポリマー、例えば、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリプロピレンテレフタレート(PPT)を含む他のポリエステル、および上のどれかの互いのブレンドまたはコポリマー、あるいは上のどれかの非ポリエステルポリマーとのブレンドまたはコポリマーが挙げられる。
・・・略・・・
【0040】
多層光学体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて形成することも可能である。PETはPENより低い屈折率を有するが、PETは遙かにより安価である(現在PENのコストの約1/8)。PETのより低い屈折率にもかかわらず、光学的能力の比率(第1の光学層と第2の光学層の平面内屈折率間の差の2乗)およびコストは、現在、PEN、およびポリカーボネートなどの他の材料よりPETを有利にしている。
【0041】
さらに、PETフィルムおよびPET含有フィルムは、UV保護光学体に色を導入せずに、PENよりも紫外線(UV)劣化から容易に保護することが可能である。図3は、PEN、PETおよびポリカーボネートの透過スペクトルを示している。PENは380nmの光を吸収し、吸収テールは約410nmの可視のスペクトル領域に広がる。PENを用いて製造される光学体のためのUV保護コーティングまたはUV保護添加剤は、一般に、(青光の吸収に起因して)光学体に黄色がかった色を与えうる可視範囲に広がるであろう。
【0042】
他方、PETは320nmの光を吸収し、テールは370nmに広がる。従って、UV保護コーティングまたはUV保護添加剤は可視範囲に広がる必要はないであろう。IR線を反射し可視光を透過するように設計された多層光学体(例えば、建物窓および自動車窓用の太陽反射フィルム)、あるいは可視範囲の特定の帯域幅のみを反射し他のすべての光を透過するように設計された光学体を作製する時、この能力は特に重要である。」
(エ)「【0073】
非光学層
再び図1および2を参照すると、例えば、加工中および/またはその後の物理的損傷から光学層12、14を保護するために図1に示されたようにスタック16の少なくとも一つの表面上に非光学層18の一層以上を外皮層または複数の外皮層として形成することが可能である。加えて、あるいは別法として、より大きな機械的強度をスタックに与えるため、あるいは加工中にスタックを保護するために、図2に示したように非光学層18の一層以上を層のスタック16内に形成することが可能である。
【0074】
非光学層18は、理想的には、少なくとも対象波長領域(例えば、可視、IRまたはUV波長領域)の端から端まで、多層光学フィルム10の光学的特性の決定に大幅には関わらない。非光学層18は、複屈折性または配向性であってよく、そうでなくてもよい。一般に、非光学層18を外皮層として用いる時、少なくとも多少の表面反射がある。光の高透過率が必要とされる少なくとも一部の用途において、非光学層は、好ましくは、表面反射(例えば、真珠光)の量を減少させるために比較的低い屈折率(例えば、1.6以下、または好ましくは1.5以下)を有する。光の反射が必要とされる他の用途において、非光学層は、好ましくは、多層光学体の反射を高めるために比較的高い屈折率(例えば、少なくとも1.6、より好ましくは少なくとも1.7)を有する。
【0075】
非光学層18がスタック16内に存在する時、一般に、非光学層18に隣接した光学層12、14と組み合わせた非光学層18による光の少なくとも多少の偏光または反射がある。しかし、少なくとも場合によって、非光学層18は、スタック16内の非光学層18によって反射された光が可視光を反射する光学体に関する対象領域外の波長、例えば、赤外線領域内の波長を有することを決定する厚さを有するように選択することが可能である。非光学層18の厚さは、個々の光学層12、14の一つの厚さの少なくとも2倍、通常少なくとも4倍、多くの場合、少なくとも10倍であることが可能である。非光学層18の厚さは、特定の厚さを有する光学体10を製造するために変えることが可能である。一般に、光学層12、14によって透過、偏光および/または反射されるべき光の少なくとも一部が非光学層を通しても移動するように、非光学層18の一層以上を配置する(すなわち、光学層12、14を通して移動する光の通路、あるいは光学層12、14によって反射される光の通路に非光学層を配置する)。
【0076】
非光学層18は、第1の光学層および第2の光学層中で用いられる一切のポリマーの含むポリマーから形成される。幾つかの実施形態において、非光学層18のために選択される材料は、第2の光学層14のために選択される材料と似ているか、あるいは同じである。例えば、多層光学体の耐引裂性、耐破壊性、靱性、耐候性および耐溶剤性などの特性を付与または改善する材料を非光学層のために選択してよい。
【0077】
他の層およびコーティング
特に多層光学体の表面に沿って物理的特性または化学的特性を変えるか、あるいは改善するために、種々の機能層または機能コーティングを本発明の多層光学体に加えることが可能である。こうした層またはコーティングは、例えば、スリップ剤、低密着性裏側材料、導電性層、帯電防止コーティングまたはフィルム、バリア層、難燃剤、UV安定剤、耐摩耗性材料、光学コーティング、および/またはWO第97/01440号に記載されたようなフィルムまたはデバイスの機械的一体性または強度を改善するように設計された基板を含んでよい。この特許は本明細書に引用して援用する。例えば、WO第95/17691号、WO第99/36813号およびWO第99/36814号に記載されたように、二色性偏光フィルムを多層光学フィルム上に被覆するか、あるいは多層光学フィルムと合わせて同時押出することも可能である。これらの特許のすべては本明細書に引用して援用する。」
(オ)「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による多層光学体の第1の実施形態の概略断面図である。
【図2】 本発明による多層光学体の第2の実施形態の概略断面図である。」
(カ)「【図1】

【図2】


(キ)第1の実施形態の概略断面図を示す図1(上記(カ))からみて、非光学層18を外皮層として光学層の上下の表面上に配置し、第1の光学層12及び第2の光学層14は、非光学層18の一方の表面に近接し、非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12及び第2の光学層14が存在しないことが看取できる。また、第2の実施形態の概略断面図を示す図2(上記(カ))からみて、第1の光学層12又は第2の光学層14は、非光学層18の一方の表面に近接し、非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12又は第2の光学層14が存在することが看取できる。
(ク)上記(ア)ないし(キ)から、甲1には、第1の実施形態及び第2の実施形態として、次のa及びbの発明が記載されているものと認められる。
a 「一層以上の第1の光学層12、一層以上の第2の光学層14及び一層以上の非光学層18を含み、該非光学層18を外皮層として第1の光学層12及び第2の光学層14からなる光学層の上下の表面上に配置する、多層光学フィルムであって、
第1の光学層12及び第2の光学層14は、非光学層18の一方の表面に近接し、
非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12及び第2の光学層14が存在しない、
UV線から他のフィルムまたは物体を保護するために用いられるUV反射フィルムである、
多層光学フィルム。」(以下「甲1発明1」という。)
b 「一層以上の第1の光学層12、一層以上の第2の光学層14及び一層以上の非光学層18を含み、該非光学層18を第1の光学層12及び第2の光学層14からなる光学層間に配置する、多層光学フィルムであって、
第1の光学層12又は第2の光学層14は、非光学層18の一方の表面に近接し、
非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12又は第2の光学層14が存在し、
UV線から他のフィルムまたは物体を保護するために用いられるUV反射フィルムである、
多層光学フィルム。」(以下「甲1発明2」という。)

イ 甲2
本件特許の優先日前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「請求の範囲
1.有意な量の紫外線を吸収しない、少なくとも第1種ポリマー物質と第2種ポリマー物質とからの紫外線反射全ポリマーフィルムであって、前記フィルムに入射する300?400nm範囲内の波長の紫外線の少なくとも30%が反射されるように充分な数の、前記第1ポリマー物質と第2ポリマー物質との交互層を含み;前記第1ポリマー物質と第2ポリマー物質とが300?400nmの波長範囲内において50%を越える平均透過率を有し;前記フィルムの個々の層の実質的に過半量が、前記ポリマー物質の反復単位の光学的厚さの合計が0.15μm?0.228μmになる範囲内の光学的厚さを有し;前記第1ポリマー物質と第2ポリマー物質とが300?400nmの波長範囲において相互から少なくとも約0.03だけ屈折率が異なる前記紫外線反射ポリマーフィルム。
2.前記個々の層が0.07μm?0.11μmの範囲内の光学的厚さを有する請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
3.前記第1ポリマー物質がポリフッ化ビニリデンであり、前記第2ポリマー物質がポリメチルメタクリレートである請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
4.前記第1ポリマー物質と第2ポリマー物質とがポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン及びポリメチルペンテン-1から成る群から選択される請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
5.少なくとも200層を含む請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
6.フィルムに入射する300?400nm範囲内の波長の紫外線の少なくとも80%が反射される請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
7.反復単位ABCBに交互層の第1種、第2種及び第3種ポリマー物質を含む請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
8.反復単位ABCに交互層の第1種、第2種及び第3種ポリマー物質を含む請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
9.透明な支持体物質と共に又は可視光線及び/又は赤外線反射体と共に積層されたか、又は同時押出しされた請求項1記載の紫外線反射ポリマーフィルム。
10.フィルムの主要外面のいずれか又は両方に保護スキン層を含む請求項1基載の紫外線反射ポリマーフィルム。」(2頁左上欄1行ないし同頁右上欄3行)
(イ)「本発明は全ポリマー紫外線反射フィルムに関し、さらに詳しくは、太陽光線の紫外線波長の実質的な部分を反射しながら、可視光線と近赤外線波長に対して実質的に透過性である反射器(reflector)に関する。
本発明は、従来用いられている反射器材料よりも低価格であり、耐候性であり、太陽光線の紫外線エネルギーの有意な量を吸収しない全ポリマー紫外線反射フィルムを提供する。
・・・略・・・
図1は本発明の二成分多層状紫外線反射フィルムの概略断面図であり、このフィルムはその両外面上に保護スキン層を含む;
・・・略・・・
図3は本発明に従って製造した多層状フィルムの予測反射率に対する波長のグラフである。
本発明は、実質的な量の紫外線を吸収しない、300?400nmの波長範囲にわたる実質的な紫外線反射力と、可視及び近赤外線に対する実質的な透過性と、幾つかの有用な製品を形成するための支持体への積層可能性とを含めた、幾つかの好ましい性質を有する、改良された多層状全ポリマー紫外線反射フィルムを提供する。異なる屈折率を有する層からの多重反射の光学的理論は、効果か個々の層厚さと物質の屈折率との両方に依存することを実証する。ラドフォード(Radford)等の”虹色同時押出し多層状プラスチックフィルムの反射力(Reflectivity of Iridescent Coextruded Multilayered Plastic Films)”,Polymer Engineering and Science 13.3.216頁(1973)を参照のこと。垂直入射(normal incidence)に対する二成分多層状フィルムの第一又は一次反射波長は下記式によって与えられる:
λ_(1)=2(n_(1)d_(1)+n_(2)d_(2))
式中、λ_(1)はナノメーターでの一次反射の波長であり、300?400nmの範囲にわたり、n_(1)とn_(2)は2種ポリマーの屈折率であり、d_(1)とd_(2)はナノメーターでの2種ポリマーの層厚さである。」(2頁左下欄3行ないし同頁右下欄18行)
(ウ)「図1は本発明による反復単位ABを有する二成分紫外線反射フィルム10を概略的に説明する。フィルム10は屈折率n_(1)を有する第1ポリマー12と、屈折率n_(2)を有する第2ポリマー14との交互層を含む。図1は、フィルムの層の実質的に全てが0.15μm?0.20μmの範囲内で変化する、反復単位の光学的厚さの合計を有する、本発明の好ましい形式を示す。好ましくは、各個別層は0.07μm?0.11μmの範囲内の光学的厚さを有する。図1はまた、他の層を引っ掻き若しくは風化作用から保護するために又は他の層をサポート(support)するために、反射体の両主要外面に配置されたポリマー(C)のスキン層18をも示す。」(3頁左上欄下から1行ないし同頁右上欄8行)
(エ)「本発明の実施に用いるポリマー物質は、それらが有さければならない性質の組合せにおいて、特有である。これらのポリマー物質は実質的な量の紫外線を吸収せず、紫外線吸収体を添加せずに紫外線による崩壊(degradation)に固有に耐える。これは、本発明の実施に用いるポリマー物質が300?400nmの範囲内で約50%を越える平均透過率を維持することを意味する。太陽の紫外線は太陽からの総エネルギーの3?4%のみを占めるに過ぎないので、ポリマーがスペクトルの紫外部の有意な量を吸収することは、そのポリマーが本発明に用いられる可能性を大きく減ずる。
一般に、個々のポリマーは可視光線に対して実質的に透過性でもなければならず、好ましくは近赤外スペクトルの波長に対しても実質的に透過性である。上述したように、ポリマーは紫外線による崩壊に耐性でなければならない。例えば、ポリスチレン及びポリ塩化ビニルのような、多くの熱可塑性ポリマーは紫外線による崩壊に耐性ではなく、安定性を改良するためにはUV吸収性化合物を混入しなければならない。しかし、UV吸収性安定剤は紫外線を吸収しないことが必要条件である本発明の状況(context)では役立たない。
・・・略・・・好ましい多層状紫外線反射フィルムは第1ポリマー物質としてのポリフッ化ビニリデンと第2ポリマー物質としてのポリメチルメタクリレートとを含む。ポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレートの両方は紫外線中で優れた安定性と耐崩壊性とを有すると同時に、好ましい形式において紫外線の非吸収体であり、反射フィルムは各外面のポリフッ化ビニリデンの比較的厚い保護スキン層と、内部のポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレートの光学活性交互層とを含む。」(3頁右上欄下から7行ないし同頁左下欄下から6行)
(オ)「本発明のフィルムの他のアウトドアー用途には、紫外線の崩壊効果から室内備え付け家具を保護するための窓又は天窓へのフィルムの貼付がある。例えば、本発明の紫外線反射フィルムは、内部椅子張り材料(upholstery)又はダッシュボードを保護するために、自動車窓ガラスに貼付するか又は含めることかできる。」(4頁右上欄14行ないし18行)
(カ)「実施例1
本発明のフィルムの紫外線反射能力を実証するために、コンピュータ・シミュレーションを実施して、二成分ポリメチルメタクリレート/ポリフッ化ビニリデン多層状フィルムの反射率特徴を予測した。このシミュレーションはキジャーオブチックス(Kidger Optics)(イングランド,サセックス)から入手可能な”Macleod Thin Film Optics”なる題名のソフトウェアプログラムを用いた。このフィルムのAB反復単位の層の光学的厚さの合計は0.15μm?0.20μmの範囲内であると推定され、個々の層は0.07μm?0.11μmの範囲内の光学的厚さを有すると推定された。可視波長において測定したときの2種ポリマーの実際の差異に基づいて、0.07の屈折率差異が推定された。
図3はそれぞれ100、200、400、650及び1300交互層を有するフィルムに関する予測反射率結果を示す。見てわかるように、多層状フィルムの層数が増加するにつれて、フィルムの予測反射率は300?400nmの波長範囲において100%反射率に近づく。このことは、本発明の多層状フィルムの強力な紫外線反射能力を実証する。」(4頁左下欄4行ないし末行)
(キ)「


(ク)「



ウ 甲3
本件特許の優先日前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である甲3には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
1.少なくとも第1および第2の異種ポリマー物質の全ポリマーコールドミラーにおいて、該ミラーが、前記ポリマーコールドミラーに入射する380ないし680nmの波長のピーク反射可視光の少なくとも50パーセントを反射させ、680ないし2000nmの赤外光の少なくとも50パーセントを透過または吸収させるように前記第1および第2ポリマー物質の十分な数の交互層を含むことを特徴とするポリマーコールドミラー。
2.前記ポリマーコールドミラーに入射する300ないし380nmの紫外光の少なくとも50パーセントを反射させることを特徴とする請求項1のポリマーコールドミラー。
3.前記ポリマーコールドミラーに入射する300ないし380nmの紫外光の少なくとも50パーセントを吸収させることを特徴とする請求項1のポリマーコールドミラー。
4.前記ポリマー層の1つが紫外光吸収染料または顔料を含有することを特徴とする請求項3のポリマーコールドミラー。
5.前記ミラーの個々の層の実質的な過半量は、前記ポリマー物質の繰返し単位の光学的厚さの合計が190nmないし340nmであるような範囲の光学的厚さを有し、さらに前記ポリマー物質が380ないし680nmの波長範囲において相互に少なくとも0.03だけ屈折率が異なることを特徴とする請求項1のポリマーコールドミラー。
6.前記第1ポリマー物質がポリスチレンで、前記第2ポリマー物質がポリエチレンであることを特徴とする請求項1のポリマーコールドミラー。
7.前記第1ポリマー物質がポリカーボネートで、前記第2ポリマー物質がポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1のポリマーコールドミフー。」(2頁1行ないし下から4行)
(イ)「この発明は、コールドミラー、より詳細には、可視波長領域の光を反射させる一方、赤外波長領域の光のかなりの部分を透過させ、さらにスペクトルの紫外領域の光を反射、透過または吸収するように意図することができる全ポリマーコールドミラーに関する。
医療処置、飾り窓の陳列、劇場の照明や他の用途の照明設備をつくる場合に、照らされる物体に及ぼす赤外光または紫外光の有害な影響から1つの問題が生じる。赤外線を出す光源は、好ましくなく、また損傷を与えられることが多い加熱を照射物体に生じる場合がある。たとえば、ルビーや真珠のようなある種の宝石はかなりの含水量がある。もしも、宝石を照らすのに用いた光からの赤外線加熱によって、水分が失われるならば、該宝石は光沢を消失する。
紫外線を出す光源も、照射物体に損傷を与えることがある。たとえば、紫外線は、博物館や美術館に陳列された油絵やつづれ織りの色の減退の一因となりうる要素であることが判明している。小売店の一般的な商品の陳列も紫外線による損傷を受けやすいであろう。さらに、光源からの紫外線と赤外線との組合せは照射物体のさらに急速な劣化を生じることがある。
この問題に対処するために、可視波長の光を反射させ、一方、さらに長波長の赤外線またはさらに長波長の紫外線を透過させるコールドミラー(冷光ミラーともいう)が開発された。コールドミラーは、光源からの可視光を照射物体上で反射させ、一方、赤外線を、ミラーを透過させて、物体から遠ざけるように配置される。これによって照射物体の加熱や考えられる損傷は最小になる。コールドミラーは、プロジェクターのランプ、スタジオや劇場の照明、芸術品陳列、ショーウィンドーならびに警備や医療用に現在広く用いられている。」(5頁3行ないし下から5行)
(ウ)「したがって、安価に容易に製造でき、かつ光の可視波長を反射させ、一方赤外波長を透過させるコールドミラーに対する要望は業界では依然として存在する。また、複雑な形状に成形および/または曲げることができるコールドミラー、自立して、支持するためのガラスや金属基体を必要としないコールドミラー、ならびに種々の他の基体に積層することができるコールドミラーに対する要望も存在する。さらに、光の紫外波長を反射または吸収させるように意図することができるコールドミラーに対する要望も存在する。
この発明は、従来用いられていたコールドミラーよりもつくるのにコストがはるかに安く、また自立シートまたはポリマーもしくは非ポリマー基体に積層されるフィルムとして成形可能な全ポリマーコールドミラーを提供することによってさきの要望を満足させる。さらに、この発明のコールドミラーは種々の複雑な形状に成形、造形または曲げることができる。「ポリマーコールドミラー」とは、ミラーに当る可視光のかなりの部分を反射させ、一方赤外光のかなりの部分を透過させる異種ポリマーの多重層を含む物体を意味する。」(8頁2行ないし15行)
(エ)「この発明の1つの態様では、ミラーに入射する300ないし380nmの波長の紫外光の少なくとも50パーセントもまた反射される。この発明の別の態様では、ミラーに入射する300ないし380nmの波長の紫外光の少なくとも50パーセントが吸収される。紫外線を吸収させる種々の手段を用いることができる。市販ポリマーの多くはすでにUV吸収添加剤を含有している。さらに、この後者の態様では、外層かまたは1つ以上の内層のいずれかに紫外線吸収染料または顔料を与えることができる。該染料または顔料はミラーにブロンズ色、銅色、金色や他の色のような金属的外観を付与することができる。もしくはコールドミラーからの紫外波長の反射を、前記波長における反射を選択的に抑える層の厚さと屈折率との組合せを用いることによって抑えることができる。」(9頁11行ないし20行)
(オ)「図1は、この発明による繰返し単位がABの2成分系全ポリマーコールドミラー10を概略示す。ミラー10は屈折率がn_(1)の第1ポリマー(A)12および屈折率がn_(2)の第2ポリマー(B)14の交互層を含んでいる。図1は、ミラーの実質的にすべての層が、繰返し単位の光学的厚さの合計が190nmから340nmに及ぶような光学的厚さを有するこの発明の好ましい形態を示す。図1は、また、ミラーの両主外表面に配設されて、他の層をスクラッチや風化より保護し、他層の支持体となり、または支持基体に積層する場合の接着層として働くポリマー(C)のスキン層18を示す。スキン層のポリマーは両面で同一であっても異なってもよい。さらにスキン層ポリマーの屈折率n_(3)は内層AおよびBと同一であっても異ってもよい。
選択したポリマーは380ないし680nmの波長において少なくとも0.03の屈折率不整合があるのが好ましい。好ましいポリマーコールドミラーは、第1ポリマー物質としてポリスチレンを、第2ポリマー物質としてポリエチレンを含有する。一般に、個々のポリマーは近赤外スペクトルの波長(680ないし2000nm)を実質的に透過させなければならない。
紫外波長の反射が望ましくない場合には、外部スキン層の一方または両方もしくは1つ以上の内部層中に紫外線吸収染料を存在させるのが好ましい。紫外線吸収染料は、また、後適用のコーティングまたは層中に存在させることもできる。多くの熱可塑性ポリマーはその中に紫外線吸収化合物を含有して、安定性を高めている。」(14頁10行ないし15頁1行)
(カ)「【図1】



エ 甲4
本件特許の優先日前に頒布され上記取消理由通知で引用された刊行物である甲4には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置で用いるのに適した反射偏光子であって、
第1および第2のポリマー層を交互に含む多層光学フィルムであって、前記第1および第2のポリマー層は、第1の偏光状態の光を実質的に反射するように十分に異なる面内X軸に沿った屈折率を有し、かつ前記第1および第2のポリマー層は、第2の偏光状態の光を実質的に伝えるように十分に適合した面内Y軸に沿った屈折率を有し、前記X軸およびY軸は直交しており、前記第1および第2のポリマー層の少なくとも1つは、ナフタレート官能性を含む多層光学フィルムと、
前記多層光学フィルムの両側に配置され、それぞれが第1および第2の接着層によって前記多層光学フィルムに付着され、かつ、光透過性である、第1および第2の支持層と、を備え、前記第1および第2のポリマー層、前記第1および第2の支持層、ならびに前記第1および第2の接着層の少なくとも1つは、紫外線を吸収し、可視光を通す紫外線吸収材を含み、前記反射偏光子は、第2の偏光状態の法線入射光で、410nmで少なくとも95%、および380nmで最大25%の内部透過率を有する反射偏光子。
【請求項2】
前記第1および第2のポリマー層の少なくとも1つが前記紫外線吸収材を含み、前記紫外線吸収材は、前記第1および第2の支持層または前記第1および第2の接着層に存在しない請求項1に記載の反射偏光子。
【請求項3】
前記第1および第2の支持層の少なくとも1つが前記紫外線吸収材を含み、前記紫外線吸収材は、前記第1および第2のポリマー層または前記第1および第2の接着層に存在しない請求項1に記載の反射偏光子。
・・・略・・・」
(イ)「【0007】
液晶テレビ内部の動作環境は、他の表示装置と比較して相当に過酷になっている。一例として、液晶テレビはダイレクトリット方式の表示装置であり、エッジリット方式の装置におけるライトガイドの紫外線吸収度から恩恵を受けない。このように、液晶テレビのキャビティは光源から有害な紫外線照射により攻撃され、紫外線照射を吸収するキャビティ内部のあらゆる構成要素が劣化する。液晶テレビはまた、他のダイレクトリット方式の表示装置と比較して、より高い明るさとより長い製品寿命とを有することが見込まれており、これらの要求を満たすために、非常に高い強度を有する光源が使用される。その結果、大部分の他の表示装置の内部温度が30?45℃であるのに比べて、液晶テレビの内部温度は65?85℃に達する。さらに、特に365nmで、液晶テレビ用に製造された高輝度光源は紫外線領域において顕著なピークを有し、通常、費用に関する理由のために、光源上の紫外線吸収コーティングは製造業者によって省かれている。
【0008】
反射偏光子のような多層光学フィルムが、表示装置(例えば液晶テレビ)に使用される。多層光学フィルムは、通常、ポリマーがナフタレート官能性を有する構成要素に由来するポリマー層を交互に含み、実施例は、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびナフタレン・ジカルボン酸(co-PEN)を基にしたコポリマーまたはブレンドを含む。ナフタレート官能性の存在は、経時的に黄色度が増すことから分かるように、前述の過酷な運転条件の下で反射偏光子を急速に劣化させる。360?400nmの紫外線照射は、特に、PEN含有ポリマーの吸収スペクトルをもたらす損傷となり得る。この照射はディフューザプレートに使用するアクリレート、スチレンまたはポリカーボネートのような代表的なポリマーにより伝達されるが、PENによって吸収され、劣化を引き起こす。
【0009】
したがって、PEN含有多層光学フィルムの劣化を防止することが望ましい。1つの解決策は、1つ以上の紫外線吸収材を多層光学フィルムに組み込むことである。しかし、大抵の紫外線吸収材の存在が表示装置の表示パネルで望ましくない黄色度を付与するため、この解決策の実行は困難である。」
(ウ)「【0020】
図2Aは、多層光学フィルム1の片側に配置される支持層2を有する典型的な反射偏光子2aの概略断面図を示し、図2Bは多層光学フィルム1の両側に配置される支持層2を示す。どちらの図においても、1つ又は複数の支持層は多層光学フィルム1上へ、個別のコーティング操作において押出またはコーティングされてもよく、それらは別個のフィルム、箔、半剛性または剛性の基板として多層光学フィルムに積層されてもよい。有用な支持層の例としては、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、金属またはガラスを含む。1つの実施例において、1つ又は複数の支持層は、ポリカーボネートまたはポリエステルを含む。
・・・略・・・
【0027】
特に、第1および第2のポリマー層の少なくとも1つは紫外線吸収材を含んでもよく、紫外線吸収材は第1および第2の支持層または第1および第2の接着層に存在しない。あるいは、第1および第2の支持層の少なくとも1つは紫外線吸収材を含んでもよく、該紫外線吸収材は第1および第2のポリマー層または第1および第2の接着層に存在しない。他の選択肢は、第1および第2の接着層の少なくとも1つに紫外線吸収材を含めることであり、紫外線吸収材は、第1および第2のポリマー層または第1および第2の支持体層に存在しない。さらに別の選択肢は、第1の支持体層および第1の接着層の少なくとも1つに紫外線吸収材を含めることであり、紫外線吸収材は、第1および第2のポリマー層、第2の支持層または第2の接着層に存在しない。第1および第2のポリマー層以外の4つの層は、紫外線吸収材を含んでもよい。紫外線吸収材が存在する場合は、表皮層の片面または両面に紫外線吸収材を含んでもよい。紫外線吸収材が存在する場合、支持層にコーティングされた外層の片面または両面に紫外線吸収材を含んでもよい。」

(2)対比
ア 本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1の「第1の光学層12」及び「第2の光学層14」は、それぞれ本件発明1の「第1光学層」及び「第2光学層」に相当する。また、甲1発明の「多層光学フィルム」は、本件発明1の「多層光学フィルム」に相当する。
(イ)甲1発明1は、一層以上の「第1の光学層12」(本件発明1の「第1光学層」に相当。以下「」に続く()内の用語は対応する本件発明1の用語を表す。)、一層以上の第2の光学層14(第2光学層)及び一層以上の非光学層18を含むUV反射フィルムである。そして、甲1の【0074】に記載されているように、甲1発明1において、「非光学層18」は、少なくとも対象波長領域(例えば、可視、IRまたはUV波長領域)の端から端まで、多層光学フィルム10の光学的特性の決定に大幅には関わらないのであるから、「第1の光学層12及び第2の光学層14」(第1光学層及び第2光学層)は、入射UV光を反射していることは技術常識からみて明らかである。また、甲1発明1の「第1の光学層12及び第2の光学層14」(第1光学層及び第2光学層)は層であるから、主とする表面、すなわち主表面を有することは明らかである。そうすると、甲1発明1の「多層光学フィルム」(多層光学フィルム)は、本件発明1の「主表面を有し、入射UV光を反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層」「を含み」との構成を備えることは明らかである。
(ウ)甲1発明1の「非光学層18」は、層であるから、主とする2つの表面、すなわち第1主表面及び第2主表面を有することは明らかである。また、甲1発明1において、「第1の光学層12及び第2の光学層14」(第1光学層及び第2光学層)は、「非光学層18」の第1主表面に近接し、「非光学層18」の第2主表面に近接する別の「第1の光学層12及び第2の光学層14」(第1光学層及び第2光学層)が存在しない。さらに、甲1発明1の「非光学層18」は、「第1の光学層12」及び「第2の光学層14」でない第3の層といえるから、本件発明1の「第3光学層」と、「第3の層」である点で共通する。そうすると、甲1発明1の「多層光学フィルム」(多層光学フィルム)と、本件発明1の「多層光学フィルム」とは、「複数の第1及び第2光学層の主表面が、第3の層の第1主表面に近接し、並びに前記第3の層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在しない」点で一致する。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、本件発明1と甲1発明1とは、
「主表面を有し、入射UV光を反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有する第3の層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が、前記第3の層の前記第1主表面に近接し、並びに前記第3の層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在しない、多層光学フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1-1
本件発明1では、「第1及び第2光学層が、少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する」のに対し、
甲1発明1では、第1の光学層12及び第2の光学層14が、入射UV光を如何なる波長範囲でどの程度反射するのかが不明である点。

・相違点1-2
「第3の層」が、
本件発明1では、「少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収する」「光学層」であるのに対し、
甲1発明1では、入射UV光を吸収する光学層といえるのかどうかが不明である点。

・相違点1-3
本件発明1では、「第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む」のに対し、
甲1発明1では、第1の光学層12及び第2の光学層14の少なくとも1つがUV吸収材を含むのかどうかが明らかでない点。

イ 本件発明2と甲1発明2とを対比する。
(ア)本件発明2は、本件発明1の「第3光学層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在しない」との構成に換えて、「第3光学層の第2主表面に近接する、第2の複数の第1及び第2光学層が存在する」との構成を備える点で本件発明1と主に相違する。また、甲1発明2は、甲1発明1の「非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12及び第2の光学層14が存在しない」との構成に換えて、「非光学層18の他方の表面に近接する別の第1の光学層12又は第2の光学層14が存在し」との構成を備える点のみで甲1発明1と相違する。そうすると、上記アで示した事項は、本件発明2と甲1発明2との対比にそのまま援用することができる。
(イ)上記ア(ア)ないし(ウ)で示した事項を踏まえて、さらに検討すると、甲1発明2において、「非光学層18」の第2主表面に近接する別の「第1の光学層12及び第2の光学層14」(第1光学層及び第2光学層)が存在する。そうすると、甲1発明2の「多層光学フィルム」(多層光学フィルム)と、本件発明2の「多層光学フィルム」とは、「複数の第1及び第2光学層の主表面が、第3の層の第1主表面に近接し、並びに前記第3の層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在する」点で一致する。
(ウ)本件発明2と甲1発明2とは、
「主表面を有し、入射UV光を反射する、第1の複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有する、第3の層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が前記第3の層の前記第1主表面に近接し、並びに主表面を有し、入射UV光を反射し、前記第3の層の前記第2主表面に近接する、第2の複数の第1及び第2光学層が存在する、多層光学フィルム。」で一致し、上記相違点1-1ないし1-3と同様な相違点(以下、それぞれ「相違点2-1」ないし「相違点2-3」という。)で相違する。

ウ 本件発明3と甲1発明1とを対比する。
(ア)本件発明3は、「複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第2主表面に近接する、第4光学層と、を含む」との構成を備える点で本件発明1と主に相違する。そうすると、上記アで示した事項は、本件発明3と甲1発明1との対比にそのまま援用することができる。
(イ)上記ア(ア)ないし(ウ)で示した事項を踏まえて、さらに検討すると、甲1発明1において、非光学層18は、外皮層として「第1の光学層12及び第2の光学層14」からなる光学層の上下の表面上に配置されるものであるところ、甲1発明1は、前記「第3の層」に加えて「第4の層」を備えているといえる。そうすると、甲1発明1の「多層光学フィルム」(多層光学フィルム)と、本件発明3の「多層光学フィルム」とは、「複数の少なくとも第1及び第2光学層の第2主表面に近接する、第4の層」「を含む」点で一致する。
(ウ)本件発明3と甲1発明1とは、
「相対する第1及び第2主表面を有し、入射UV光を反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、主表面を有し、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第1主表面に近接する、第3の層と、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第2主表面に近接する、第4の層と、を含む、多層光学フィルム。」で一致し、上記相違点1-1ないし1-3と同様な点(以下、それぞれ「相違点3-1」ないし「相違点3-3」という。)に加え、以下の点でさらに相違する。

・相違点3-4
「第4の層」が、
本件発明3では、「少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収する」「光学層」であるのに対し、
甲1発明1では、入射UV光を吸収する光学層といえるのかどうかが不明である点。

(3)本件発明1についての判断
ア 相違点1-1について
(ア)甲1には、具体的なUV反射特性が明示されていないが、UV線から他のフィルムまたは物体を保護するために、UV領域のうち、具体的に如何なる波長範囲で入射光を何%反射させるのかは当業者が必要に応じ適宜決定し得ることであり、UV反射フィルムにおいて、UV線から物体等を保護するために、300?400nmの範囲内の少なくとも30nmの波長範囲にわたって入射UV光の50%以上を反射させることは周知(以下「周知技術1」という。例.甲2(請求の範囲6項、FIG-3の200層ないし1300層を有するフィルムの反射率を参照。)、甲3(請求の範囲2項参照。))である。
(イ)また、甲1の【0025】(上記(1)ア(イ))に「多層光学体は、特定の波長を有する直角入射光の最適反射を達成するために個々に変調されている層対または層組を含むことが可能である」等と記載されているように、求められるUV反射特性に応じて多層光学体の各光学層の光学厚さを設定することにより最適反射を達成し得ることは技術常識である。
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、甲1発明1において、複数の第1及び第2の光学層が、少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射するようになすこと、すなわち、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得たことである。

イ 相違点1-2について
(ア)多層光学フィルムに関し、甲3には、コールドミラーの両主外表面に配設されるスキン層に関し、「紫外波長の反射が望ましくない場合には、外部スキン層の一方または両方もしくは1つ以上の内部層中に紫外線吸収染料を存在させるのが好ましい。紫外線吸収染料は、また、後適用のコーティングまたは層中に存在させることもできる。」(上記(1)ウ(オ))と記載されている。当該記載より、甲3には、コールドミラーの外部スキン層に紫外線吸収染料を含有させるか、あるいは、コールドミラーの表面に紫外線吸収材料を含有するコーティングを適用させることが示唆されていると解される。また、甲4には「【0020】 図2Aは、多層光学フィルム1の片側に配置される支持層2を有する典型的な反射偏光子2aの概略断面図を示し、図2Bは多層光学フィルム1の両側に配置される支持層2を示す。・・・【0027】・・・第1および第2の支持層の少なくとも1つは紫外線吸収材を含んでもよく、・・・」(上記(1)エ(ウ))と記載されている。要するに、甲3及び甲4には、反射フィルムの両面に紫外線吸収材を含有させた層を配置したことが記載されている。
(イ)甲1の【0074】(上記(1)ア(エ))の「非光学層18は、理想的には、少なくとも対象波長領域(例えば、可視、IRまたはUV波長領域)の端から端まで、多層光学フィルム10の光学的特性の決定に大幅には関わらない。」の記載より、甲1発明1において、非光学層に上記(ア)のような紫外線吸収剤を配合させることに阻害要因があるようにも解される。しかしながら、甲1の【0077】(上記(1)ア(エ))の記載からみて、非光学層以外の「他の層およびコーティング」を加え、当該「他の層およびコーティング」が多層光学フィルムの光学的特性の決定に関わることも可能であり、また、甲1の【0074】(上記(1)ア(エ))の「非光学層18は、複屈折性または配向性であってよく」の記載からみても、必ずしも、非光学層が多層光学フィルムの光学的特性の決定に関わることを全く排除したとはいえない。そうすると、当該多層光学フィルムは、物体をUV線から保護するものであり、一方の面から入射したUV線を他方の面から可能な限り出射させないようにすることを目的としているのであるから、UV線を吸収することにより、当該目的が阻害されるものではない。してみると、甲1発明1の非光学層に紫外線吸収剤を配合させることに阻害要因があるとまではいえない。
(ウ)甲1、甲3及び甲4はいずれも多層反射フィルムという技術分野で共通するとともに、対象物のUVによる劣化防止という課題を解決する点でも共通し、上記(イ)のように、甲1発明1の非光学層に紫外線吸収剤を適用することに阻害要因がないから、UV線から他のフィルムまたは物体を保護するという目的に鑑み、甲1発明1の非光学層に紫外線吸収剤を適用することは当業者が適宜なし得たことである。そして、吸収剤を配合して紫外光を吸収する際に、300?400nmの波長範囲において少なくとも30nmの波長範囲にわたって少なくとも50%のUV光を吸収することは周知(以下「周知技術2」という。例.甲3の「ミラーに入射する300ないし380nmの波長の紫外光の少なくとも50パーセントが吸収される。」(9頁13ないし14行)との記載参照。)であるから、甲1発明1において、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成となすことは当業者が甲3、甲4の記載事項及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

ウ 相違点1-3について
(ア)甲1には、第1の光学層について、【0041】(上記(1)ア(ウ))に「PENを用いて製造される光学体のためのUV保護コーティングまたはUV保護添加剤は、一般に、(青光の吸収に起因して)光学体に黄色がかった色を与えうる可視範囲に広がるであろう」と、【0042】(上記(1)ア(ウ))に「PETは320nmの光を吸収し、テールは370nmに広がる。従って、UV保護コーティングまたはUV保護添加剤は可視範囲に広がる必要はないであろう。」とそれぞれ記載されている。これらの記載からみて、PENを用いた第1の光学層にしろ、PETを用いた第1の光学層にしろ、UV光の反射に寄与する第1光学層は、UV保護コーティングまたはUV保護添加剤を含むことを前提にして、UV光(例えば「320nmの光」)を吸収しているものと認められる。この点、甲3の「市販ポリマーの多くはすでにUV吸収添加剤を含有している。・・・外層かまたは1つ以上の内層のいずれかに紫外線吸収染料または顔料を与えることができる。」(上記(1)ウ(エ))との記載からも明らかである。
(イ)上記(ア)からみて、甲1には、第1の光学層12及び第2の光学層14のうち、少なくとも第1の光学層12にUV保護添加剤(UV吸収添加剤)を含有させることの示唆があり、甲1発明1の第1の光学層12及び第2の光学層14にUV吸収添加剤を含有させることの阻害要因は見出せない。そして、甲1発明1の多層光学フィルムは、上記イ(イ)でも説示したとおり、物体をUV線から保護するものであり、一方の面から入射したUV線を他方の面から可能な限り出射させないようにすることや、フィルム自体をUV劣化から保護することを目的としているものである。そうすると、甲1発明1において、UV吸収添加剤を含ませる層はどの層であってもよいのであるから、第1の光学層12及び第2の光学層14の少なくとも一方にUV吸収添加剤を含有させるか、又は、第1の光学層12及び第2の光学層14の少なくとも一方の層として、UV吸収添加剤をすでに含有したポリマーを採用し、相違点1-3に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が甲3の記載事項の基づいて適宜なし得たことである。

エ 本件発明1の奏する効果は、甲1発明1の奏する効果、甲3、甲4の記載事項の奏する効果、周知技術1及び2の奏する効果から予測することができた程度のものである。

オ 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1、甲3、甲4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(2)本件発明2についての判断
上記(1)のとおり、甲1発明1において、上記相違点1-1ないし1-3に係る本件発明1の構成となすことは当業者が甲3、甲4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことであるから、同様に、甲1発明2において、上記相違点2-1ないし2-3に係る本件発明2の構成となすことも当業者が甲3、甲4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

(3)本件発明3についての判断
上記(1)のとおり、甲1発明1において、上記相違点1-1ないし1-3に係る本件発明1の構成となすことは当業者が甲3、甲4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことであり、特に上記(1)イ(ウ)のように、甲1発明1の非光学層に紫外線吸収剤を適用することは当業者が適宜なし得たことであるから、甲1発明1の第4の層に対応する非光学層に紫外線吸収剤を適用することは当業者が適宜なし得たことである。してみると、甲1発明1において、上記相違点3-1ないし3-4に係る本件発明3の構成となすことも当業者が甲3、甲4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明、甲3、4の記載事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1ないし3の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1ないし3の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収する、第3光学層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が、前記第3光学層の前記第1主表面に近接し、並びに前記第3光学層の第2主表面に近接する別の多層光学フィルムが存在せず、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。
【請求項2】
主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、第1の複数の少なくとも第1及び第2光学層と、第1及び第2の概ね相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で吸収する、第3光学層と、を含み、前記複数の第1及び第2光学層の前記主表面が前記第3光学層の前記第1主表面に近接し、並びに主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射し、前記第3光学層の前記第2主表面に近接する、第2の複数の第1及び第2光学層が存在し、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。
【請求項3】
相対する第1及び第2主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を合計で反射する、複数の少なくとも第1及び第2光学層と、主表面を有し、かつ少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収し、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第1主表面に近接する、第3光学層と、少なくとも300ナノメートル?400ナノメートルの波長範囲において少なくとも30ナノメートルの波長範囲にわたって少なくとも50パーセントの入射UV光を吸収し、前記複数の少なくとも第1及び第2光学層の前記第2主表面に近接する、第4光学層と、を含み、前記第1又は第2光学層の少なくとも1つがUV吸収剤を含む、多層光学フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-27 
出願番号 特願2012-539952(P2012-539952)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 濱野 隆本田 博幸  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 佐藤 秀樹
鉄 豊郎
登録日 2016-05-27 
登録番号 特許第5940980号(P5940980)
権利者 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
発明の名称 多層光学フィルム  
代理人 青木 篤  
代理人 河原 肇  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 高橋 正俊  
代理人 高橋 正俊  
代理人 石田 敬  
代理人 河原 肇  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ