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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1340169 |
異議申立番号 | 異議2018-700153 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-23 |
確定日 | 2018-05-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6184611号発明「高分子圧電フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6184611号の請求項1?13に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6184611号の請求項1?13に係る特許についての出願は,平成27年10月16日を国際出願日(国内優先権主張 平成26年11月14日)とする出願であって,平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ,その後,平成29年8月23日に特許公報が発行され,その特許に対し,平成30年2月23日に特許異議申立人鈴野幹夫により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件特許発明 特許第6184611号の請求項1?13に係る特許発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含み, DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり, マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5?15.0であり, インライン膜厚計で測定される,フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形において,下記ピークAの個数がフィルム幅1000mm当たり20個以下である,高分子圧電フィルム。 ピークA:ピーク高さが1.5μm以上,かつ,ピーク傾きが0.000035以上 【請求項2】 前記インライン膜厚計で測定される,前記フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形において,下記ピークBの個数がフィルム幅1000mm当たり12個以下である請求項1に記載の高分子圧電フィルム。 ピークB:ピーク高さが1.5μm以上,かつ,ピーク傾きが0.00008以上 【請求項3】 可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり,且つ25℃において応力-電荷法で測定した圧電定数d14が1pC/N以上である請求項1または請求項2に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項4】 可視光線に対する内部ヘイズが13%以下である請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項5】 前記ヘリカルキラル高分子(A)が,下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【化1】 【請求項6】 前記ヘリカルキラル高分子(A)の含有量が80質量%以上である請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項7】 前記規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40?700である請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項8】 可視光線に対する内部ヘイズが1.0%以下である請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項9】 カルボジイミド基,エポキシ基,及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤(B)を,前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部?10質量部含む請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項10】 前記ピークAの個数がフィルム幅1000mm当たり15個以下である請求項1?請求項9のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項11】 前記ピークAの個数がフィルム幅1000mm当たり10個以下である請求項1?請求項10のいずれか1項に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項12】 前記ピークBの個数がフィルム幅1000mm当たり10個以下である請求項2に記載の高分子圧電フィルム。 【請求項13】 前記ピークBの個数がフィルム幅1000mm当たり8個以下である請求項2に記載の高分子圧電フィルム。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人鈴野幹夫は,証拠として特開2014-27055号公報(以下,「甲第1号証」という。),国際公開第2012/026494号(以下,「甲第2号証」という。),国際公開第2013/054918号(以下,「甲第3号証」という。),特開2014-86703号公報(以下,「甲第4号証」という。),特開2014-93487号公報(以下,「甲第5号証」という。),静電気学会講演論文集2011,第35回静電気学会全国大会,pp.273-278(以下,「甲第6号証」という。),国際公開第2014/168188号(以下,「甲第7号証」という。),国際公開第2014/119577号(以下,「甲第8号証」という。)を提出し,請求項1?13に係る特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1?13に係る特許を取り消すべきものである旨主張し,また,請求項1?13に係る特許は,特許法第36条第6項1号に違反してされたものであるから,請求項1?13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 4 甲第1?8号証の記載事項 (1)甲第1号証には,「重量平均分子量(Mw)が12万であるポリL-乳酸を含み(甲第1号証の段落【0061】参照),所定の製造条件によって製造された(同段落【0023】?【0029】及び【0063】参照),7μmの厚みを有し厚み斑が8%である単層フィルム(同段落【0063】及び表1参照)。」の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。 (2)甲第2号証ないし甲第5号証には,ポリ乳酸系高分子の圧電フィルムの分野において,結晶化度,規格化分子配向MORc及び内部ヘイズを有する圧電フィルムに関する技術的事項,甲第6号証には,圧電フィルムの圧電率とフィルムの積層数の関係に関する技術的事項,甲第7,8号証には,安定化材として用いられるカルボジイミド化合物の重量平均分子量に関する技術的事項が記載されている。 5 判断 (1)第29条第1項第3号及び同条第2項についての判断 ア 請求項1に係る特許発明について 請求項1に係る特許発明と甲1発明とを対比すると,甲1発明には,「インライン膜厚計で測定される,フィルムの幅方向の位置とフィルムの厚みとの関係を示す波形において,下記ピークAの個数がフィルム幅1000mm当たり20個以下である高分子圧電フィルム: ピークA:ピーク高さが1.5μm以上,かつ,ピーク傾きが0.000035以上」という点が記載されていない点で相違する。そして、当該相違点について,甲第2号証ないし甲第8号証には記載されていない。 他方,特許異議申立人は,請求項1に係る特許発明の製造方法と,甲1発明の製造方法を対比して,両者は製造方法の条件が同一であるか非常に類似していることを理由に請求項1に係る特許発明は,製造された物として甲1発明とは同一であるか,仮に相違点があったとしても甲1発明および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであると主張する。 しかしながら,当該主張は,以下の理由により成り立たない。 第1の理由は,甲1発明の「単層フィルム」は,20層の積層をした積層フィルムという構成により請求項1に係る特許発明の「高分子圧電ファイルム」として機能することが看過されている点である。甲第1号証の段落【0064】及び表1において積層数20という記載から,甲1発明の単層フィルムは,当該単層フィルムを20層積層して初めて圧電体フィルムとして利用される旨が記載されている。にもかかわらず,甲1発明として「単層フィルム」の厚み及び形状を対象として,請求項1に係る特許の「高分子圧電フィルム」とを対比している。したがって,当該主張は,対比すべき対象の選択に誤りがあり,採用することはできない。 第2の理由は,請求項1に係る特許発明はフィルム厚み方向の形状について「厚みのピークの高さと傾き」という要素に着目してフィルム形状を特定しているのに対して,甲1発明では,フィルムの厚み全体の平均的な情報である厚み斑という要素に着目してフィルム形状を特定している相違点を有し,当該相違点の評価を誤っている点である。 当該相違点について,特許異議申立人は,甲第1号証において,厚みが7μm,厚み斑が8%とすると,最大値と最小値の差は0.56μmであることから,1.5μm以上のピークは存在しない,また,甲第1号証の段落【0033】には,2μm又は3μmのフィルムを用いた場合の記載があり,その場合には技術常識を考慮して1.5μm以上の厚みのピークは存在し得ないことから,厚みのピーク値をフィルムの形状の評価に用いることはその前提が誤っていると主張する。 しかし,膜厚については,前述した第1の理由に記したように請求項1に係る特許発明と比較対象となるのは甲1発明のフィルムが20層積層されたフィルムであるから,対象を異にしたフィルムを前提にした当該主張は失当である。 また,請求項1に係る特許発明が厚みのピーク値をフィルムの形状の評価に用いる点については下記の記載内容から技術的意義があるものと認められる。まず,本件特許明細書の段落【0016】には,「厚みムラを改善するために,例えば,厚みムラを表す一つの指標である,厚みの標準偏差や,最大厚みと最小厚みとの差を平均厚みで除した割合(以下,厚みR%ともいう)の数値を小さくするようにフィルムを製造しても,外観上の問題を改善することは十分ではなかった。さらに,本発明者らによる検討によれば,圧電性のバラつきを十分に抑えることは困難であった。 厚みの標準偏差や厚みR%は,フィルムの厚み全体の平均的な情報であり,これらの数値を単に低く抑えるのみでは,外観上の問題や圧電性のバラつきを低減することは困難であることから,うねりは,フィルムの急激な厚みの変化に起因していると推測される。」と記載し,厚みムラを改善するために,「フィルムの厚み全体の平均的な情報」に基づいた解決策では十分な解決手段が得られず,「フィルムの急激な厚みの変化」に着目することが明記されている。続けて,同段落【0017】には,「そこで,本発明者らは鋭意検討した結果,うねりの発生や,圧電性のバラつきを発生させると考えられる,急激な厚みの変化を抑えるために,厚みのピークの高さと,そのピークの傾きに着目した。そして,厚みのピークが特定の条件になるように,フィルムを製造することで,高分子圧電フィルムの厚みムラが減少し,外観上の問題が改善され,圧電性のバラつきが低減された高分子圧電フィルムが得られることを見出し,本発明を完成させるに至った。」と記載し,フィルムの急激な厚みの変化の情報として「厚みのピークの高さと,そのピークの傾き」に着目することが明記されている。 さらに,実施例として,本件明細書の【表2】には,厚み斑と読み替えられる厚みのばらつきR%という値を測定した上で,その値が小さくても(前記【表2】中の比較例1),圧電定数のばらつきσが小さくならない結果を表示した上で,「厚みのピークの高さと傾き」という要素に着目し,この要素を一定の条件に制御することで圧電定数のばらつきσが改善される効果を示している(前記【表2】中の実施例1?3)。 以上の記載から,請求項1に係る特許発明において,圧電性のバラツキの改善という観点から,厚みのピークの高さとそのピークの傾きをフィルムの形状の評価に用いることに技術的意義は認められる。 したがって,特許異議申立人の主張は,前記第1及び第2の理由により,成り立たない。 よって,請求項1に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また,甲第1?8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 請求項2?13に係る特許発明について 請求項2?13に係る特許発明は,請求項1を直接間接に引用し,請求項1に係る特許発明を更に減縮したものであるから,前記請求項1に係る特許発明についての判断と同様の理由により,甲第1号証に記載された発明ではなく,また,前記甲第1?8号証に記載された発明から当業者が容易に発明し得るものではない。 ウ 小活 以上のとおり,請求項1?13に係る特許発明は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また,甲第1?8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)第36条第6項第1号について 特許異議申立人は,請求項1?13に係る特許発明は,総厚みを全く規定せずに凸部の高さ(及びその傾き)及びその個数のみを特定するしているが,それだけでは厚みムラの大小は議論することができないことから,出願時の技術常識に照らしても,請求項1?13に係る特許発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合に該当するので,第36条第6項第1号に違反して特許されたものと主張する。 前記主張は,厚みムラを低減することにより圧電性のバラツキ等を改善する技術に対して,当該技術を適用する前提として厚みムラの大小の特定が必須であるのに,この特定が不十分であるという主張である。 しかし,本件請求項1?13に係る特許発明は, 前記(1)ア及びイ,特に前記(1)アの「第2の理由」で検討したように,厚みムラを改善するために,「フィルムの厚み全体の平均的な情報」に基づいた解決策では十分な解決手段が得られず,「フィルムの急激な厚みの変化」に着目している点に技術的特徴を有する。 そうすると,厚みムラの特定の要否は,「フィルムの急激な厚みの変化」に着目している以上,本件請求項1?13に係る特許発明において必須な要件とは認められず,その結果,必然的に厚みムラの特定に必要な総厚みについても必須な要件とは認められない。 したがって,特許異議申立人の前記主張は理由がない。 6 むすび したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-05-07 |
出願番号 | 特願2016-558942(P2016-558942) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L) P 1 651・ 113- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮本 博司 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
大嶋 洋一 加藤 浩一 |
登録日 | 2017-08-04 |
登録番号 | 特許第6184611号(P6184611) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 高分子圧電フィルム |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |