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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1340513
審判番号 不服2017-497  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-13 
確定日 2018-05-15 
事件の表示 特願2015-528406「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日国際公開、WO2014/035117、平成27年10月 5日国内公表、特表2015-529344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年8月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年8月27日 韓国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月2日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し平成29年1月13日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年1月13日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成28年5月9日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
偏光子及び前記偏光子の少なくとも一面に配置されており、前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なっていて、前記第2表面のガラスに対する剥離力P2と第1表面のガラスに対する剥離力P1の比率P2/P1が5以上であり、且つ表面抵抗が1×10^(11)Ω/□以下である粘着剤層を含む偏光板であって、
前記粘着剤層が、アクリル重合体と、前記アクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部の帯電防止剤とを含む粘着剤組成物の層である、偏光板。」(以下、「本件補正前発明」という。)を
「 【請求項1】
偏光子及び前記偏光子の少なくとも一面に配置されており、前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なっていて、前記第2表面のガラスに対する剥離力P2と第1表面のガラスに対する剥離力P1の比率P2/P1が5以上であり、且つ表面抵抗が10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下である粘着剤層を含む偏光板であって、
前記粘着剤層が、アクリル重合体と、前記アクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部の帯電防止剤とを含む粘着剤組成物の層である、偏光板。」(以下、「本件補正後発明」という。下線部は補正箇所を示す。)と補正するものである。

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、本件補正前発明の表面抵抗について、その範囲を、「1×10^(11)Ω/□以下」から「10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下」へ減縮するものである。
願書に最初に添付した明細書の段落【0024】に、「粘着剤層の表面抵抗の下限は、特に限定されるものではなく、例えば、10^(6)Ω/□以上または10^(7)Ω/□以上である。」(下線は合議体が付与した。)と記載されており、段落【0127】の【表2】

には、実施例中最も高い表面抵抗は、実施例3の2.7×10^(9)Ω/□であることが示されている。したがって、本件補正が、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
また、本件補正は、本件補正前発明の表面抵抗の範囲を減縮するものであり、本件補正前発明と本件補正後発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるといえる。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前(の2011年9月1日)に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/105878号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。(なお、引用文献1は韓国語表記であるため摘記を省き、翻訳文として、対応する日本語出願である特表2013-520550号公報の対応箇所の記載を公表公報の段落番号と共に示した。また、下線は合議体が付与した。以下同様。)

(ア) 段落[10]?[17]
「【0008】
本発明は、アルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含み、また、硬化された状態で前記アクリル重合体を架橋された状態で有する相互浸透高分子ネットワーク(IPN:Interpenetrating Polymer Network)構造を含み、シート状で硬化された時に前記シート状の両面で相違する相違する剥離力を示す粘着剤組成物に関する。
【0009】
以下、本発明の偏光板について詳細に説明する。
【0010】
本発明の一例において、前記粘着剤組成物は、偏光板のような光学部材用粘着剤組成物であり、具体的には、偏光板を液晶パネルに付着するために使われる粘着剤組成物である。

(中略)

【0015】
前記粘着剤組成物は、特に、シート状で硬化された後にシートの両面で相違する剥離力を示す粘着剤層を形成するための用途で効果的であり、このような粘着剤層は、例えば、偏光板の構成時に偏光子の両側に形成される保護フィルムのうち少なくとも一つを省略して偏光板を構成しようとする時に効果的に適用することができる。」

(イ) 段落[67],[68]
「【0060】
図1は、本発明の例示的な粘着剤10の断面を示す図面である。図1に示したように、本発明の粘着剤は、単一層で形成された時に第1の表面10A及び第2の表面10Bを有することができ、前記第1及び第2の表面10A、10Bは、お互いに異なる剥離力を有するように設計される。
【0061】
本発明では、例えば、前記第1の表面が第2の表面に比べて低い剥離力を有することができる。また、前記第1の表面は、無アルカリガラスに対する剥離力が、5gf/25mmから100gf/25mm、好ましくは、5gf/25mmから50gf/25mm、より好ましくは、10gf/25mmから50gf/25mmである。また、前記第2の表面は、無アルカリガラスに対する剥離力が、100gf/25mm から1,000gf/25mm、好ましくは、200gf/25mmから800gf/25mm、より好ましくは、200gf/25mmから750gf/25mmである。前記剥離力は、後述する実施例で規定する方式で測定した剥離力である。第1及び第2の表面の剥離力を上述の範囲で各々制御することで、例えば、粘着剤が偏光板のような光学部材に適用された場合に、高温または高湿条件での偏光子のような機能性フィルムの収縮及び膨脹現象を効果的に抑制すると共に、液晶パネルのような被着体に対して優れた濡れ性を示すことができる。」

(ウ) 段落[85]?[89]
「【0077】
また、本発明は、偏光子、及び前記偏光子の一面に形成された前記粘着剤を含む偏光板に関するもので、一例として、前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され、相対的に剥離力の高い表面は前記偏光板を液晶パネルに付着するための粘着表面である。
【0078】
偏光板に含まれる偏光子の種類は、特別に限定されない。本発明では、例えば、ポリビニルアルコール系偏光子などのように、この分野で公知されている一般的な偏光子を使用することができる。
【0079】
また、偏光板は、前記偏光子の一面または両面に形成された保護フィルムをさらに含むことができる。
【0080】
すなわち、本発明の偏光板は、例えば、前記偏光子の両面に保護フィルムが形成され、前記保護フィルムの中で一つの保護フィルムに本発明による粘着剤が付着されている構造を有することができる。本発明の偏光板3は、場合によっては、偏光子の一面にのみ保護フィルムが形成され、他の一面には、本発明による粘着剤が直接形成されている構造を有してもよい。このように保護フィルムの中で一つの保護フィルムが省略された構造は、薄型偏光板と呼称することができる。
【0081】
いずれの場合でも粘着剤において、剥離力が相対的に低い面が偏光子側に配置されることが好ましい。このように、ガラスに対する剥離力の低い面が偏光子に付着されることで、偏光子の一面に保護フィルムが付着しない場合にも、高温または高湿条件で偏光子が収縮するか膨脹する現象を防止することができる。また、剥離力の高い面は偏光子の反対側に形成されることで、偏光板液晶表示装置などに適用された時に、優秀な耐久性を示す。」

(エ) 段落[95]?[96]
「【発明の効果】
【0087】
本発明では、両面での剥離力が相違し、厚さ方向に沿って弾性率が変化する粘着剤を効果的に提供することができる。本発明では、前記のような粘着剤を適用することで、例えば、薄い厚さで形成するとともに、光漏れを効果的に防止することができ、優秀な耐久性を示す偏光板などの光学部材を提供することができる。」

(オ) 段落[100]?[191]
「【発明を実施するための形態】
【0089】
以下、 本発明による実施例及び本発明によらない比較例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲は、下記提示された実施例により限定されるものではない。
【0090】
[製造例1.アクリル重合体(A)の製造]
窒素ガスが還流され、温度調節が容易に冷却装置を設置した1L反応器に、n-ブチルアクリレート(n-BA)79重量部、メトキシエチレングリコールアクリレート(MEA)20重量部及びヒドロキシエチルクリレート(HEA)1.0重量部を投入した。その後、溶剤としてエチルアセテート(FAc)120重量部を投入して、酸素を除去するために窒素ガスを60分間パージ(purging)した。その後、反応器の温度を60℃に維持した状態で、反応開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入して、8時間の間反応させた。反応後、エチルアセテート(EAcで希釈して、固形分濃度が15重量%であり、重量平均分子量が180万であり、分子量分布が4.5であるアクリル重合体(A)を製造した。
【0091】
[製造例2から8. アクリル重合体(B)から(H)の製造]
下記表1に示したように、単量体の組成を変更したことの以外は、製造例1と同一な方法でアクリル重合体を製造した(下記表1において、アクリル重合体(A)は製造例1で製造された重合体と同一である)。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例 1
[粘着剤層の製造]
アクリル重合体(A)100重量部、多官能性架橋剤(TDI系イソシアネート、Coronate L、ニッポンポリウレタン社製)3重量部、多官能性アクリレート(3官能性ウレタンアクリレート、Aronix M-315、DONGWOO通商製)100重量部、光開始剤であるヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irg 184、スイスチバスペシャルティケミカル社製)2重量部、トリアジン系紫外線吸収剤(Tinuvin 400、スイスチバスペシャルティケミカル社製)0.2重量部を固形分濃度が30重量%になるように溶剤に配合して粘着剤組成物を製造した。その後、製造された粘着剤組成物を離形処理されたPET(poly(ethyleneterephthalate))フィルム(厚さ:38μm、MRF-38、三菱社製)の離形処理面に乾燥後厚さが25μmになるようにコーティングして、110℃のオーブンにて3分間乾燥させた。その後、前記乾燥されたコーティング層上に離形処理されたPETフィルム(厚さ:38μm、MRF-38、三菱社製)の離形処理面を追加でラミネートして、図2に示した構造の積層体を製造し、高圧水銀ランプを使用して紫外線を照射(照度:250mw/cm^(2)、光量:300mJ/cm^(2))して2枚の離形PETフィルム20の間で粘着剤層10を形成した。以下、説明の便宜のために、粘着剤層10で紫外線が照射された側の面を第1の表面10Aと言い、その反対面を第2の表面10Bと言う。
【0094】
[偏光板の製造]
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して、ヨードで染色した後、ホウ酸(boric acid)水溶液で処理して偏光子を製造した。その後、偏光子の一面に60μm厚さのTAC(Triacetyl cellulose)フィルムを偏光子に保護フィルムを付着する用途で、通常的に使用される水系ポリビニルアルコール系接着剤で付着した。その後、前記ポリビニルアルコール系偏光子において、TACフィルムが付着されなかった面に前記と同一な水系ポリビニルアルコール系接着剤を使用して前記製造された粘着剤層の第1の表面をラミネートして偏光板を製造した。
【0095】
実施例2から7及び比較例1から5
[粘着剤組成物の製造]
組成を下記表2及び3に示したように変更したことの以外は、実施例1と同一な方式で粘着剤組成物を製造した。
【0096】
【表2】


(中略)

【0103】
2. 剥離力及び再剥離性の評価
実施例または比較例で製造された粘着剤層を使用して、実施例1と同一な方式で偏光板を製造するが、剥離力を測定しようとする粘着剤層の表面に沿って粘着剤層の方向を変更して偏光板を製造する。すなわち、実施例1で提示された偏光板の製造過程のうち、第1の表面の剥離力を測定しようとする場合、第2の表面を偏光子側に付着し、第2の表面の剥離力を測定しようとする場合、第1の表面を偏光子側に付着して偏光板を製造する。その後、偏光板を25mm×100mm(幅×長さ)の大きさで裁断して試片を製造する。その後、粘着剤層上にある付着された離形PETフィルムを剥離して、粘着剤層の表面をJIS Z0237の規定によって2kgのローラーを使用して無アルカリガラスに付着する。その後、粘着剤層が付着された無アルカリガラスをオートクレーブ(50℃、0.5気圧)で約20分間圧搾処理して、恒温恒湿条件(23℃、50%相対湿度)で25時間の間保管する。その後、TA装備(Texture Analyzer、イギリスステイブルマイクロシステム社製)を使用して、前記偏光板を無アルカリガラスから300mm/minの剥離速度及び180度の剥離角度で剥離しながら剥離力を測定する。また、再剥離性は下記基準で評価する。
【0104】
<再剥離性の評価基準>
○:付着1日後測定した剥離力が800N/25mm以下の場合
△:付着1日後測定した剥離力が1,000N/25mm以上の場合
×:付着1日後測定した剥離力が2,000N/25mm以上の場合
【0105】
3. 耐久性評価
実施例及び比較例で製造された偏光板を90mm×170mm(横×縦)の大きさで裁断して製造される試片を各々実施例及び比較例ごとに2枚ずつ準備した。その後、準備された2枚の試片をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm=横×縦×厚さ)の両面に各偏光板の光学吸収軸がクロスされるように付着してサンプルを製造した。前記付着時の加圧力は約5Kg/cm^(2)であり、気泡または異物が界面に発生しないようにクリーンルーム(Clean room)で作業を行った。その後、耐湿熱耐久性は、サンプルを60℃の温度及び90%の相手湿度の条件下で1,000時間の間放置した後、粘着界面での気泡または剥離の発生有無を観察して評価し、耐熱耐久性は、80℃の温度条件下で1,000時間の間サンプルを放置した後、粘着界面での気泡または剥離の発生有無を観察して評価した。耐湿熱または耐熱耐久性の測定直前に製造されたサンプルを常温で24時間の間放置して評価を進行した。評価条件は、下記のようである。
【0106】
<耐久性の評価基準>
○:気泡及び剥離発生なし
△:気泡及び/または剥離多少発生
×:気泡及び/または剥離多量発生
【0107】
4. 耐水性評価
実施例及び比較例で製造された偏光板を90mm×170mm(横×縦)の大きさで裁断した試片をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm=横×縦×厚さ)の片面に付着してサンプルを製造した。付着時の加圧力は約5Kg/cm^(2)であり、気泡または異物が界面に発生しないようにクリーンルームで作業を行った。次に、製造されたサンプルを60℃の温度の水に投入して、24時間の間放置してから取り出して気泡または剥離の発生有無を観察して、下記基準で耐水性を評価した。
【0108】
<耐水性の評価基準>
○:気泡及び剥離発生なし
△:気泡及び/または剥離多少発生
×:気泡及び/または剥離多量発生

(中略)

【0110】
6. 光透過均一性の評価
実施例及び比較例で製造した偏光板を22インチLCDモニター(LG Philips LCD社製)の両面に光学吸収軸がお互いにクロスされた状態で付着して、恒温恒湿条件(23℃、50%相対湿度)で24時間の間保管した後、80℃の温度で200時間の間放置した。その後、暗室でバックライトを利用して前記モニターに光を照射しながら光透過性の均一性を下記の基準で評価した。
【0111】
<光透過均一性の評価基準>
◎:モニターの4周辺部で光透過性の不均一現象が肉眼では判断されない場合
○:モニターの4周辺部で光透過性の不均一現象が肉眼で若干観察される場合
△:モニターの4周辺部で光透過性の不均一現象が肉眼に多少観察される場合
×:モニターの4周辺部で光透過性の不均一現象が肉眼で多量観察される場合

(中略)

【0114】
前記測定結果を下記表4及び表5に整理して記載した。
【0115】
【表4】


(中略)

【0117】
前記結果から分かるように、実施例1から7の粘着剤層は、一面に保護フィルムが形成されていない偏光子に適用された場合にも優れた物性を示した。」

(カ) 特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含み、また、硬化された状態で前記アクリル重合体を架橋された状態で有する相互浸透高分子ネットワーク構造を含み、シート状で硬化された時に前記シート状の両面で相違する剥離力を示す、粘着剤組成物。

(中略)

【請求項10】
アルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含み、また、前記アクリル重合体は、架橋された状態で相互浸透高分子ネットワーク構造に含まれており、第1の表面と前記第1の表面の反対側に存在する第2の表面を有するシート状であり、前記第1の表面と前記第2の表面での剥離力が相違する、粘着剤。

(中略)

【請求項16】
偏光子、及び前記偏光子の一面または両面に形成された請求項10に記載の粘着剤の層を含む、偏光板。
【請求項17】
液晶パネル及び前記液晶パネルの一面または両面に付着された請求項16に記載の偏光板を含む、液晶表示装置。」

イ 上記記載から、引用文献1には次の技術事項が示されている。

(ア)前記記載事項(ア)の「本発明は、アルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含み、また、硬化された状態で前記アクリル重合体を架橋された状態で有する相互浸透高分子ネットワーク(IPN:Interpenetrating Polymer Network)構造を含み、シート状で硬化された時に前記シート状の両面で相違する相違する剥離力を示す粘着剤組成物に関する。」及び「前記粘着剤組成物は、特に、シート状で硬化された後にシートの両面で相違する剥離力を示す粘着剤層を形成するための用途で効果的であり、このような粘着剤層は、例えば、偏光板の構成時に偏光子の両側に形成される保護フィルムのうち少なくとも一つを省略して偏光板を構成しようとする時に効果的に適用することができる。」との記載によれば、引用発明1には、「シートの両面で相違する剥離力を示す粘着剤層がアルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含む粘着剤組成物の層」であることが示されているといえる。

(イ)前記記載事項(ウ)には「本発明は、偏光子、及び前記偏光子の一面に形成された前記粘着剤を含む偏光板に関するもので、一例として、前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され、相対的に剥離力の高い表面は前記偏光板を液晶パネルに付着するための粘着表面である。」との記載がある。粘着剤は、第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置された「粘着剤層」を形成するものであるから、引用文献1には、「偏光子、及び偏光子の一面に形成された粘着剤層を含む偏光板」が開示されており、その「前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され」ることが示されているといえる。

ウ 以上の技術事項(ア)、(イ)に基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「偏光子、及び偏光子の一面に形成された粘着剤層を含み、前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され、シートの両面で相違する剥離力を示す粘着剤層がアルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含む粘着剤組成物の層である粘着剤層である、偏光板。」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前(の平成23年10月6日)に頒布された刊行物である特開2011-195666号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 背景技術
「【0003】
図1は、上記偏光板の1例の構成を示す斜視図である。この図で示されるように、該偏光板10は、一般的には、ポリビニルアルコール系偏光子1の両面に、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム2及び2'を貼り合わせた3層構造を有しており、そして、その片面には液晶セルなどの光学部品に貼着するための粘着剤層3が形成され、さらに、この粘着剤層3には、剥離シート4が貼着されている。また、この偏光板の該粘着剤層3と反対側の面には、通常表面保護フィルム5が設けられている。
このような偏光板を前記液晶セルに貼付する場合には、まず剥離シート4を剥がし、露出した粘着剤層3を介して液晶セルに貼付したのち、表面保護フィルム5を剥離する。
前記剥離シート4や表面保護フィルム5を剥離する場合、これらのシートやフィルム、及び偏光板はプラスチック材料により構成されているため、電気絶縁性が高く、静電気が発生する。この際に生じた静電気が残ったままの状態で液晶セルに貼合すると、液晶分子の配向に乱れが生じるおそれがある。このようにして生じた液晶分子の配向の乱れは、回復しないおそれもあり、また、回復する場合であっても液晶ディスプレイ製造工程にあっては、回復するまで次工程に進めず、製造工程の遅延をもたらす問題が指摘されている。また、静電気の存在は、埃や塵を吸引してしまうなどの問題を引き起こす。
【0004】
このような問題に対処するために、従来から剥離シートの基材に帯電防止剤を練り込むなどの対策がとられているが、このような対策だけでは充分な効果が得られず、粘着剤層にも帯電防止性能を付与することが求められている。
帯電防止性能を有する粘着剤組成物としては、界面活性剤などの帯電防止剤を配合した粘着剤組成物が知られている。このように、粘着剤組成物に界面活性剤などの帯電防止剤を配合した場合には、帯電防止性能は付与されるものの、界面活性剤と粘着剤ポリマーとの相溶性が悪いため、粘着剤層を形成した場合に経時や熱又は湿熱条件下で該界面活性剤がブリードし、被着体を汚染したり、粘着力が低下したりするなどの問題があった。」

イ 発明を実施するための形態
「【0017】
まず、本発明の光学用粘着剤について説明する。
本発明の光学用粘着剤は、(A)以下に示す各成分を構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)反応性基含有(メタ)アクリル系モノマーを構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(C)活性エネルギー線硬化型化合物、及び(D)帯電防止剤を含有し、かつ前記(A)成分と(B)成分との含有割合が、質量比で100:1?100:50である粘着剤形成材料を架橋化させてなることを特徴とする。
【0018】
[粘着剤形成材料]
本発明の光学用粘着剤において用いられる粘着剤形成材料は、(A)下記の(a-1)成分と、(a-2)成分と、(a-3)成分とを構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)反応性基含有(メタ)アクリル系モノマーを構成単位として有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(C)活性エネルギー線硬化型化合物、(D)帯電防止剤、及び必要に応じて用いられる(E)架橋剤を含有する。なお、前記(C)活性エネルギー線硬化型化合物における活性エネルギー線とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線や電子線などを指す。
【0019】
((A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体)
当該粘着剤形成材料における(A)成分の(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(a-1)オキシアルキレン基含有(メタ)アクリル系モノマー5?90質量%と、(a-2)反応性基含有(メタ)アクリル系モノマー10質量%未満と、(a-3)(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを必須構成単位として有する。
本発明において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
本発明の光学用粘着剤を、偏光板などの光学部材を被着体に積層する際に用いられる、表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下程度の帯電防止性能を有すると共に、良好な粘着力と再剥離性及び耐光漏れ性と耐久性を備え、かつ帯電防止剤のブリード防止性(非析出性)をも兼ね備えた粘着剤とするためには、(A)成分の(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、前記の(a-1)成分と、(a-2)成分と、(a-3)成分とを必須構成単位とすることを要する。」

ウ 「【0034】
((D)帯電防止剤)
当該粘着剤形成材料においては、得られる光学用粘着剤に、表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下程度の帯電防止性能を付与するために、(D)成分として帯電防止剤が用いられる。
この帯電防止剤としては特に制限はなく、従来光学用粘着剤に帯電防止性能を付与するために使用されている公知の帯電防止剤の中から、適宜選択して用いることができる。例えばイオン性化合物を含むものを用いることができる。

(中略)

【0044】
当該粘着剤形成材料における(D)成分である帯電防止剤の含有量は、帯電防止剤の種類にもよるが、得られる光学用粘着剤に、表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下程度の帯電防止性能を付与し、かつ該帯電防止剤のブリード防止性や析出防止性の観点から、前述した(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計100質量部に対して、通常0.1?10質量部程度、好ましくは0.5?5質量部、より好ましくは0.5?3質量部である。」

エ 実施例
「【0063】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた光学用粘着剤の性能、粘着剤層付き偏光板の性能を、以下に示す要領で求めた。
<粘着剤層付き偏光板の性能>
(1)粘着力(無アルカリガラスに対する粘着力)
粘着剤層付き偏光板を23℃、相対湿度50%RHの条件下7日間放置する。その後、裁断装置[荻野製作所(株)製、「スーパーカッター」]を用いて、得られた粘着剤層付き偏光板を幅25mm×長さ100mmの大きさに裁断して、測定サンプルとした。
次いで、得られた測定サンプルから剥離フィルムを剥離した後、無アルカリガラス[コーニング(株)製、「イーグルXG」]に貼合した。
次いで、測定サンプルが貼合された無アルカリガラスを、オートクレーブ[栗原製作所(株)製]に投入し、0.5MPa、50℃、20分の条件で加圧した後、23℃、相対湿度50%RHの条件下に、1日及び21日の間、放置した。
次いで、測定サンプルにつき、引っ張り試験機[オリエンテック(株)製、「テンシロン」]を用いて、下記条件にて、粘着力を測定した。
剥離速度:300mm/分
剥離角度:180°
貼付21日経過後の粘着力が、30N/25mm以下であれば、通常リワーク性があると判断できる。さらに、20N/25mm以下であれば、リワーク性に優れており、15N/25mm以下であれば、特に好ましいといえる。
【0064】
(2)表面抵抗率
粘着剤層付き偏光板を縦横50mmに裁断し、測定試料とした。該測定試料は、23℃、相対湿度50%RHの条件下で24時間調湿後、剥離フィルムを剥がし、JIS K 6911に準拠して露出した粘着剤層の表面を、[三菱化学社製、「ハイレスタ UP MCP-HT450」]にて、印加電圧100Vで測定し、表面抵抗率を求めた。
表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下であれば、帯電防止性能が良好である。
【0065】
(3)帯電防止剤の非析出性
粘着剤層付き偏光板の粘着剤層上の剥離フィルムを剥がし、露出した粘着剤層側をガラス板に貼付することにより測定試料を得た。
該測定試料は、60℃、RH90%の湿熱条件下、24時間放置し、その後、23℃、相対湿度50%RHの湿熱条件まで冷却して、ガラス越しに目視にて下記基準で評価を行った。
○:無色透明のもの
△:ごく僅かにくもっているもの
×:全面に凝集物が見られるもの
【0066】
(4)剥離力
剥離フィルム[リンテック(株)製、「SP-PET3811」、厚さ38μm]が設けられた粘着剤層付き偏光板を、幅25mm×長さ100mmの大きさに裁断した。裁断した粘着剤層付き偏光板は、23℃、相対湿度50%RHの条件下7日間放置した(シーズニング処理)。次に、シーズニング処理終了後の粘着剤層付き偏光板の偏光板面に強粘着力の粘着剤を積層し、ガラス基板に固定し、その後、以下の条件で剥離力を測定した(剥離力α)。
剥離速度:300mm/分
剥離角度:180°
一方、前記シーズニング処理終了後の粘着剤層付き偏光板について、70℃、21日間放置した。その後、同様に粘着剤層付き偏光板をガラス基板に固定し、剥離力を測定した(剥離力β)。
「剥離力β-剥離力α」を算出することにより重剥離化の程度を評価した。
重剥離化防止性の観点から、「剥離力β-剥離力α」の値が、30mN/25mm以下であることが好ましく、20mN/25mm以下であればさらに好ましく、10mN/25mm以下であれば特に好ましい。
【0067】
(5)耐光漏れ性
粘着剤層付き偏光板(ディスコティック液晶層付き)を、裁断装置[荻野精機製作所製、スーパーカッター「PN1-600」]により、233mm×309mmサイズに調整したのち、無アルカリガラス[コーニング社製、「1737」]に貼合後、栗原製作所製オートクレーブにて、0.5MPa、50℃、20分間の条件で加圧した。なお、上記貼合は、無アルカリガラスの表裏に、粘着剤層付き偏光板を偏光軸がクロスニコル状態になるように行った。この状態で80℃、200時間放置した。その後、23℃、相対湿度50%RHの環境下に2時間放置して、同環境下で、以下に示す方法で光漏れ防止性を評価した。
[大塚電子社製、「MCPD-2000」]を用い、図2に示す各領域の明度を測定し、明度差ΔL^(*)を、式
ΔL^(*)=[(b+c+d+e)/4]-a
(ただし、a、b、c、d及びeは、それぞれA領域、B領域、C領域、D領域及びE領域のあらかじめ定められた測定点(各領域の中央部1箇所)における明度である。)で求め、光漏れ性とし、下記判定基準で耐光漏れ性を評価した。
◎:ΔL^(*)<1.0
○:1.0≦ΔL^(*)≦2.0
×:ΔL^(*)>2.0
【0068】
(6)粘着剤層付き偏光板の耐久性(15インチサイズ)
粘着剤層付き偏光板を、裁断装置[荻野精機製作所社製、スーパーカッター「PN1-600」]により、233mm×309mmサイズに調整したのち、無アルカリガラス[コーニング社製、「1737」]に貼合後、栗原製作所社製オートクレーブにて、0.5MPa、50℃、20分間の条件で加圧した。その後、下記の各耐久条件の環境下に投入し、200時間後に、10倍率ルーペを用いて観察を行い、以下の判定基準で耐久性を評価した。
○:端部から0.3mm以上の位置に欠点(浮き、ハガレ、発泡等)が全くない。
△:端部から0.3?0.7mmの位置に欠点がある。端部から0.7mmを超える位置には欠点はない。
×:端部から0.7mm以上の位置に欠点がある。
<耐久条件>
60℃・相対湿度90%RH環境、80℃ドライ環境
-35℃?70℃の各30分のヒートショック試験、200サイクル
【0069】
実施例1?9及び比較例1?6
第1表に示す組成(固形分換算)の粘着剤形成材料を調製し、さらに溶媒としてトルエンを加えて固形分を20質量%に調整した塗工液を得た。該塗工液を用いて、剥離フィルムとしての厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム[リンテック社製、「SP-PET3811」]の剥離層上に、乾燥後の厚さが20μmになるように、ナイフ式塗工機で塗布したのち、90℃で1分間乾燥処理して粘着剤形成材料層を形成した。
次いで、ディスコティック液晶層(視野角拡大機能層)付偏光フィルムからなる偏光板を、粘着剤形成材料層とディスコティック液晶層が接するように貼合した。貼合してから30分後に剥離フィルム側から、紫外線(UV)を下記の条件で照射し、粘着剤層付き偏光板を作製した。粘着剤層の厚さは25μmであった。
<UV照射条件>
・フュージョン社製無電極ランプ Hバルブ使用
・照度600mW/cm^(2)、光量150mJ/cm^(2)
UV照度・光量計は、[アイグラフィックス社製、「UVPF-36」]を使用した。
粘着剤の性能、粘着剤層付き偏光板の性能及び帯電防止剤の非析出性の評価結果を第2表に示す。
また、実施例1の前記粘着剤形成材料層を前記偏光板と貼合する代わりに別のポリエチレンテレフタレート製剥離フィルム[リンテック社製、「SP-PET3801」]と貼合した。
その後、偏光板に貼合した場合と同様の条件にて紫外線を照射することにより、剥離フィルム/粘着剤層/剥離フィルムという構成の光学用粘着シートを得た。
次いで、剥離フィルム[リンテック社製、「SP-PET3801」]を剥がし、露出した粘着剤層表面及び前記偏光板の粘着剤層と貼合する側の表面をコロナ処理した後、これらを貼合することにより粘着剤層付き偏光板を得た。
得られた粘着剤層付き偏光板は、実施例1の粘着剤層付き偏光板と同様の性能を有していた。
【0070】
【表1】

【0071】
[注]
1)MEA:2-(メトキシ)エチルアクリレート
2)ECA:エチルカルビトールアクリレート
3)HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
4)BA:アクリル酸ブチル
5)AA:アクリル酸
6)M-315:トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート[東亜合成社製、商品名]
なお、(a-1)、(a-2)、(a-3)及びその他の欄の数値は、(A)アクリル酸エステル共重合体中の各成分(構成単位)の含有量(質量%)を示し、(b-1)及び(b-2)欄の数値は、(B)アクリル酸エステル共重合体中の各成分(構成単位)の含有量(質量%)を示す。
また、アクリル酸エステル共重合体(A)及び(B)の重量平均分子量(Mw)は、いずれも140万のものを使用した。測定条件は以下の通りである。
<GPC測定条件>
GPC測定装置:東ソー(株)社製、「HLC-8020」
GPCカラム(以下の順に通過):東ソー(株)社製
TSK guard column 「HXL-H」
TSK gel 「GMHXL」(×2)
TSK gel 「G2000HXL」
測定溶媒:テトラヒドロフラン
検量線 :ポリスチレン
測定温度:40℃
【0072】
【表2】

【0073】
[注]
7)光重合開始剤:ベンゾフェノンと1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとの質量比1:1の混合物[チバスペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア500」]
8)TDI:トリレンジイソシアネート:トリメチロールプロパン=3:1(モル比)の付加物
9)KBM-403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン[信越化学(株)製、商品名]
10)PyPF_(6):1-オクチル-4-メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート
11)KFSI:カリウムビス(ジフルオロスルホニル)イミド
12)LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
13)テトラグライム:テトラエチレングリコールジメチルエーテル
【0074】
【表3】

【0075】
[注]
14)WV:ディスコティック液晶層付き偏光板」

(3)引用文献3
本願優先権主張の日前(の平成24年7月12日)に頒布された刊行物である特開2012-131963号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 背景技術
「【0007】
したがって、FPD等に使用される光学フィルムには、電子部品と同様に、適度な表面抵抗値が要求される。
このような要求に対して、従来から、偏光フィルム等の光学フィルムに帯電防止処理を行い、表面抵抗値を調節して、帯電防止特性を改善する試みが提案されている。この帯電防止処理された光学フィルムは、帯電防止特性に若干の改善が見られるものの、依然として、十分な帯電防止効果を発揮するには至らなかった。そのため、さらなる帯電防止特性を改善するには、光学フィルムと液晶セルなどの被着体とを接着するための粘着剤組成物(光学フィルム用粘着剤組成物)も適度な表面抵抗値(1.0×10^(8)?9.9×10^(9)Ω/□)を有することが要求される。」

イ 発明を実施するための形態
「【0028】
以下、本発明についてさらに具体的に説明する。
本発明に係る光学フィルム用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」と称する場合がある。)は、所定のモノマー成分から構成され、重量平均分子量が100万以上であるアクリル系ポリマー(A)と、イオン性化合物(B)と、架橋剤(C)とを含み、かつ、架橋後のゲル分率が60重量%以上であることを特徴とする。また、粘着剤組成物の各種物性を改良するため、該粘着剤組成物には、必要に応じて、他の成分が含まれていてもよい。」

ウ 「【0066】
また、本発明の粘着剤組成物は、イオン性化合物(B)を含む。イオン性化合物(B)としては、アニオンとカチオンとからなる、25℃で液体状、または固体状のイオン性化合物が挙げられ、具体的には、アルカリ金属塩、イオン性液体(25℃で液体状)、界面活性剤等が挙げられる。
【0067】
上記アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンと、アニオンとからなる化合物が挙げられ、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、塩素酸カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、LiBr、LiI、LiBF_(4)、LiPF_(6)、LiSCN、酢酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、LiCF_(3)SO_(3)、Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N、Li(CF_(3)SO_(2))IN、Li(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)N、Li(C_(2)F_(5)SO_(2))IN、Li(CF_(3)SO_(2))_(3)C等が挙げられる。

(中略)

【0074】
このなかでも、アルカリ金属塩が好ましく、特に過塩素酸リチウムが好ましく用いられる。
本発明の粘着剤組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、0.01?20重量部であることが好ましく、0.1?10重量部であることがより好ましい。」

エ 実施例
「【0085】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(i)粘着剤組成物の原料
各実施例および比較例の粘着型偏光フィルム1?11に使用された粘着剤組成物1?11を構成する各成分の種類は下記の通りであり、成分比率は表1に示す。なお、表中、数値は固形分(不揮発分)換算の重量部を示す。
(A)アクリル系ポリマーのモノマー成分
(a1)成分:n-ブチルアクリレート(BA)
(a2)成分
(a2)-1:エチルアクリレート(EA)
(a2)-2:t-ブチルアクリレート(tBA)
(a2´)成分:メチルアクリレート(MA)
(なお、エチルアクリレート、t-ブチルアクリレートのアクリロイル基の-O-を介して結合するアルキル基において、該アルキル基の炭素全数は、それぞれ2、4であり、最長直鎖の炭素数は、それぞれ2、3である。一方、メチルアクリレートのアクリロイル基の-O-を介して結合するアルキル基において、該アルキル基の炭素全数は1であり、最長直鎖の炭素数は1である。)
(a3)成分
(a3)-1:エトキシジエチレングリコールアクリレート(EDA)
(a3)-2:メトキシエチルアクリレート(MEA)
(a4)成分:2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)
(a5)成分:アクリル酸(AA)
(B)イオン性化合物
(B)-1:過塩素酸リチウム
(C)架橋剤
(C)-1 キシリレンジイソシアネートのトリメチルプロパン付加物(三井化学ポリウレタン(株)製、商品名「タケネートD-110N」):)
【0086】
(2)各物性評価の評価条件および基準
<耐久性試験(85℃)>
(評価方法)
粘着型偏光フィルム(310×385mm)から、ポリエステルフィルムを剥離して、粘着型偏光フィルムを粘着剤層面で、19インチサイズの無アルカリ処理ガラスに貼り合わせた。次いで、85℃の雰囲気下で500時間、さらに、23℃、50%RH(相対湿度)の雰囲気下で2時間放置した。その後、目視により粘着型偏光フィルムの発泡等の外観変化を観察し、以下の4段階の評価基準に基づいて評価した。
【0087】
(評価基準)
○:ほとんど発泡などの外観変化がない。
△:若干、発泡などの外観変化があることが分かる。
×:明らかに、発泡などの外観変化があることが分かる。
【0088】
<耐久性試験(60℃/95%RH(相対湿度))>
(評価方法)
粘着型偏光フィルム(310×385mm)から、ポリエステルフィルムを剥離して、粘着型偏光フィルムを粘着剤層面で、19インチサイズの無アルカリ処理ガラスに貼り合わせた。次いで、60℃、95%RH(相対湿度)の雰囲気下で500時間、さらに、23℃、50%RH(相対湿度)の雰囲気下で2時間放置した。その後、目視により粘着型偏光フィルムの剥がれ、発泡等の外観変化を観察し、以下の4段階の評価基準に基づいて評価した。
【0089】
(評価基準)
○:全く剥がれ、発泡などの外観変化がない。
△:若干、剥がれ、発泡などの外観変化があることが分かる。
×:明らかに、剥がれ、発泡などの外観変化があることが分かる。
【0090】
<粘着力試験>
粘着型偏光フィルムを25mm幅に裁断した後、ポリエステルフィルムを剥離し、試験片を粘着剤層面でガラス板の片面に貼付けた。次いで、23℃の乾燥雰囲気の貼着条件で2時間放置した後、貼付した粘着型偏光フィルムを、ガラス板から、引き剥がし速度300mm/minで180°方向に剥離したときの粘着力(単位:g/25mm)を測定した。
【0091】
<帯電防止性試験>
(評価方法)
粘着型偏光フィルムを90mm×90mmに裁断して試験片を作製し、該試験片の剥離処理されたポリエステルフィルムを一気にひきはがし、下記測定器の電極に粘着剤面を貼りつけた。貼り付けてから1分経過後の表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
なお、FPD等に使用される偏光フィルム用粘着剤組成物において、表面抵抗値が1.0×10^(8)?9.9×10^(9)Ω/□の範囲にあることが好ましい。
【0092】
〈ゲル分率〉
粘着型偏光フィルムから粘着剤を乾燥重量で0.1g(乾燥重量(1))をサンプル瓶に採取し、酢酸エチル30ccを加えて24時間振とうした後、該サンプル瓶の内容物を200メッシュのステンレス製金網でろ別し、金網上の残留物を100℃で2時間乾燥して乾燥重量(乾燥重量(2))を測定し、次式[2]により求めた。
ゲル分率(%)=(乾燥重量(2)/乾燥重量(1))×100・・・・[2]
【0093】
(3)実施例および比較例
(3)-1 実施例1
下記表1に示される配合比率となるように、n-ブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA)、エトキシジエチレングリコールアクリレート(EDA)、メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)、アクリル酸(AA)を反応容器に入れ混合してモノマー混合物を調製し、このモノマー混合物の量に対して等倍質量の酢酸エチルを加え、さらにモノマー混合物の量に対して1/2000倍質量のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を該反応容器に加え、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。
【0094】
その後、窒素雰囲気中で攪拌しながら、この反応容器を65℃に昇温させ、6時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、アクリル系ポリマー溶液1(アクリル系ポリマー濃度:20質量%)を得た。この溶液に含まれるアクリル系ポリマー(アクリル系ポリマー1)の重量平均分子量は120万であった(下記表2に示す。)
【0095】
次いで、下記表2に示されるように、アクリル系ポリマー1 100重量部に対し、過塩素酸リチウム有効成分 0.5重量部(ポリエチレングリコール溶解 10%溶液)と、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加体 0.5重量部とを添加し、これを混合して、粘着剤組成物1を得た。粘着剤組成物1の架橋後のゲル分率を、「(2)各物性評価の評価条件および基準」の「ゲル分率」に準拠して、測定したところ、該ゲル分率は71%であった(下記表3に示す。)。
【0096】
得られた粘着剤組成物1を、剥離処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚さが25μmになるように塗工し、乾燥炉内で80℃、2分間乾燥させた後、該ポリエステルフィルムの粘着剤層面を偏光フィルムに貼り合わせて、23℃、湿度65%の条件で7日間熟成させて粘着型偏光フィルム1を得た。
次いで、上記の「(2)各物性評価の評価条件および基準」に準拠して、粘着型偏光フィルム1の物性を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0097】
(3)-2 実施例2?3、比較例1?8
下記表2に示されるモノマー成分と配合比率で、実施例1と同様にして、アクリル系ポリマー2?10を含むアクリル系ポリマー溶液2?10を調製し、表3に示される成分と配合比率で、実施例1と同様にして、粘着剤組成物(粘着剤組成物2?11)を調製した。
【0098】
さらに、表4に示されるように、粘着剤組成物2?10を用いて、実施例1と同様にして、粘着型偏光フィルム(粘着型偏光フィルム2?11)を製造した。得られたアクリル系ポリマー2?10の分子量、粘着剤組成物2?11の架橋後のゲル分率、および粘着型偏光フィルムの物性を、上記の「(2)各物性評価の評価条件および基準」に準拠して、評価した。結果は表4に示す。

(中略)

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

表4から明らかなように、本発明の粘着剤組成物(粘着剤組成物1?3)を使用して製造された粘着型偏光フィルム(粘着型偏光フィルム1?3)では、適度な粘着力が維持されるとともに、表面抵抗値が1.0×10^(8)?9.9×10^(9)Ω/□の範囲内であることから、良好な帯電防止性が発揮されることが確認できた。さらには、乾熱条件(85℃)および湿熱条件60℃/95%RH)の両条件においても、偏光フィルムに貼着された粘着フィルム1?3では、剥がれや発泡などの外観変化が全くない結果が得られた(評価「○」)。すなわち、粘着型偏光フィルム1?3では、高温条件および高温高湿条件において、非常に優れた耐久性が発揮されることが確認できた。」

(4)引用文献4
本願優先権主張の日前(の平成23年12月15日)に頒布された刊行物である特開2011-252948号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 技術分野
「【0001】
本発明は、光学フィルムの少なくとも片面に帯電防止層および帯電防止機能を有する粘着剤層が積層されている帯電防止性粘着型光学フィルムに関する。さらには、本発明は前記帯電防止性粘着型光学フィルムを用いた液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。前記光学フィルムとしては、偏光板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、さらにはこれらが積層されているものなどが挙げられる。」

イ 発明を実施するための形態
「【0080】
前記粘着剤層の表面抵抗値は、1×10^(7)?1×10^(11)Ω/□の範囲に設計される。表面抵抗値が、1×10^(7)Ω/□よりも低い場合には、現実的には多量の導電物質(イオン性液体)の添加が必要であり、耐久性、光学特性の低下を招く。一方、表面抵抗値が、1×10^(11)Ω/□よりも大きい場合には、帯電防止効果が乏しくなる。表面抵抗値は、導電物質の選択や、添加量によって適宜に調整される。」

ウ 「【実施例】
【0085】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中、部および%は重量基準である。
【0086】
実施例1
(帯電防止剤の調製)
ポリチオフェン系導電性ポリマーの水分散液(AGFA社製,商品名オルガコンLBS,固形分12%)を31.3部、バインダー成分としてオキサゾリン基含有ポリマー((株)日本触媒製,商品名WS700,固形分濃度25%)を4.5部、水197.4部、およびイソプロピルアルコール65.8部を混合して、帯電防止性塗布液を調製した。
【0087】
(帯電防止層の形成)
偏光板(日東電工(株)製,商品名VEG-DU)の片面に、マイヤーバーによりメモリ#3で、上記帯電防止性塗布液を塗布した後、40℃で1分間乾燥して、偏光板の片面に帯電防止層を形成した。帯電防止層の厚みは、電子顕微鏡写真の結果から30nmであった。
【0088】
(アクリル系水分散液の調製)
容器に、原料としてアクリル酸ブチル100部、アクリル酸5部、2-ヒドロキシエチルモノ[ポリ(プロピレンオキシド)メタクリレート]リン酸エステル(プロピレンオキシドの平均重合度5.0)30部、および3-メタクリロイルオキシプロピル-トリエトキシシラン(信越化学工業(株)製,KBM-503)0.3部を加えて混合し、モノマー混合物を得た。次いで、上記割合で調製したモノマー混合物600部に対して、反応性乳化剤としてアクアロンHS-10(第一工業製薬(株)製)13部、イオン交換水360部を加え、ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製)を用い、3分間、7000rpmで攪拌し、モノマーエマルションを調製した。
【0089】
次に、冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートおよび攪拌羽根を備えた反応容器に、上記で調製したモノマーエマルションのうちの200部およびイオン交換水350部を仕込み、次いで、反応容器を十分窒素置換した後、過硫酸アンモニウム0.1部を添加して、60℃で1時間重合した(初期重合)。次いで、残りのモノマーエマルションを、反応容器に3時間かけて滴下し、その後、3時間重合した(中間重合)。さらにその後、窒素置換しながら、65℃で5時間重合し(最終重合)、固形分濃度45%のアクリル系水分散液(エマルション)を得た。次いで、上記アクリル系水分散液を室温まで冷却した後、これに、濃度10%のアンモニア水を30部添加し、さらに蒸留水を加えて、固形分38%に調整した。アクリル系水分散液(エマルション)中の(メタ)アクリル系ポリマーの平均粒子径は0.09μmであった。
【0090】
(水分散型アクリル系粘着剤の調製)
上記固形分38%に調整したアクリル系水分散液に、当該水分散液中の(メタ)アクリル系ポリマー(固形分)100部に対して、イオン性液体として、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム-エチルサルフェート(アルドリッチ社製,EMIMETSO_(4))を3部加えて、よく混合して、水分散型アクリル系粘着剤を調製した。
【0091】
(帯電防止性粘着型光学フィルムの作成)
上記水分散型アクリル系粘着剤を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、離型フィルム(三菱化学ポリエステル(株)製,ダイアホイルMRF-38,ポリエチレンテレフタレート基材)上にアプリケーターにより塗布した後、熱風循環式オーブンにより120℃で15分間乾燥して、帯電防止性粘着剤層を形成した。当該帯電防止性粘着剤層を、上記帯電防止層を形成した偏光板の帯電防止層に貼り合せて、帯電防止性粘着型偏光板を作成した。

(中略)

【0107】
各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルムについて下記評価を行なった。結果を表1に示す。
【0108】
<帯電防止効果>
各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルムを、100mm×100mmの大きさに切断して、液晶パネルに貼り付けた。その液晶パネルを、10000cdの輝度を持つバックライト上に置き、静電気発生装置であるESDGガン(SANKI社製,ESD-8012A)を用いて5kvの静電気を発生させることで液晶の配向乱れを生じさせた。その配向不良の回復時間(秒)を、瞬間マルチ測光検出器(大塚電子(株)製,MCD-3000)を用いて測定した。静電気の発生は、1回および連続で5回印加後の状態を評価した。
【0109】
<表面抵抗値>
表面抵抗測定器(三菱化学(株)製,Hiresta MCP-HT450)を用いて、印加電圧500Vで、各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルム粘着剤層面の表面抵抗値を測定した。
【0110】
<透過率>
各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルムをスライドガラスに貼り付けて、光透過率を積分球式分光透過率測定器((株)村上色彩技術研究所製,DOT-3)を用いて、単体透過率として評価した。
【0111】
<耐久性>
各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルムを、230mm×310mmの大きさに切断し、これを、無アルカリガラス板(コーニング#1737,コーニング社製)にラミネータで貼着した後、50℃、0.5MPaのオートクレーブ中に20分間放置した。初期状態を確認した後、耐久性試験として、加熱下(80℃)、および、加湿下(60℃/90%RH)に、それぞれ500時間投入した。耐久性試験後の粘着剤層の発泡、剥がれの状態を下記の基準で目視観察により確認した。
○:耐久性試験後に発泡・ハガレなし。
△:耐久性試験後に僅かに発泡、または/およびハガレが生じたがフィルム端部から3mm以内に留まっていた。
△:耐久性試験後に発泡、または/およびハガレが、フィルム端部から3mmを超えて内部に発生していた。
【0112】
<密着性>
各例で得られた帯電防止性粘着型光学フィルムを、25mm幅×50mm長さに切断した。これの粘着剤層面と50μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム表面にインジウム-酸化錫を蒸着ざせた蒸着フィルムの蒸着面とが接するように貼り合わせた後、20分間以上、23℃/60%RHの環境下に放置した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端部を手で剥離し、粘着剤がポリエチレンテレフタレートフィルム側に付着しているのを確認してから、引張試験機((株)島津製作所製,オートグラフAG-1)を用いて、180°剥離、引張速度300mm/minにて室温雰囲気下(25℃)にて、帯電防止層と粘着剤層との密着性(N/25mm)を測定した。かかる密着性(N/25mm)は、15N/25mm以上、さらには18N/25mm以上であるのが好ましい。
【0113】
<粒度分布>
各例の水分散液に係る水分散型アクリル系粘着剤(エマルション)中の(メタ)アクリル系ポリマーの平均粒子径は、ベックマンコールター社製LS13320により測定した。
【0114】
【表1】

【0115】
表1中、
イオン性液体1:1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム-エチルサルフェート、
イオン性液体2:1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート、
イオン性液体3:グリシジルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、
イオン性液体4:1-ブチル-3-メチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、を示す」

(5)引用文献5
本願優先権主張の日前(の2006年12月28日)に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/137559号(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 技術分野
「[0001] 本発明は、帯電防止粘着剤、及び前記帯電防止粘着剤から形成される粘着剤層を担持する光学部材用保護フィルムに関する。詳しくは、本発明は、被着体表面を所定の期間、機械的及び電気的に保護するための表面保護フィルムに好適な粘着剤に関する。より詳しくは、本発明の粘着剤は、液晶パネル、プラズマディスプレイ、偏光板、CRT(ブラウン管)等の光学部品の表面保護用粘着フィルム形成に好適に用いられる。」

イ 課題を解決するための手段
「[0013] 本発明者は鋭意検討の結果、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系共重合体(A)、イオン化合物(B)、硬化剤(C)及び酸化防止剤(D)を含有させることにより、主剤の貯蔵安定性が良好で、且つ、適度な導電性を有する帯電防止粘着剤が得られることを見出し、本発明を完成した。」

ウ 発明を実施するための最良の形態
「[0049] 本発明に用いるイオン化合物(B)としては、常温で液状又は固体状である任意のイオン化合物を挙げることができる。ここで、常温とは、25℃のことである。また、本発明に用いるイオン化合物(B)としては、アルカリ金属の無機塩又はアルカリ金属の有機塩を挙げることができる。更に、いわゆる界面活性剤や、その他に塩化アンモニウム、 塩化アルミニウム、塩化銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸アンモ-ゥム等が挙げられる。これらは単独で又は複数を併用することができ、アルカリ金属塩、液状イオン化合物、固体状イオン化合物が好ましく、アルカリ金属塩、液状イオン化合物がより好ましい。

(中略)

[0061] また、イオン化合物(B)の含有量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、又はアクリル系共重合体(E)を併用する場合には両者共重合体の合計100重量部に対して、0.1?50重量部であることが好ましい。更に好ましくは1?30重量部である。0.1重量部未満では十分なイオン導電性が得られず、50重量部よりも多くイオン化合物(B)を含有しても導電性向上の効果がほとんど期待できなくなり、更に粘着物性の低下、及び樹脂との相溶性の低下により塗膜の白化が起こりやすくなるので好ましくない。」

エ 実施例
「[0098] [実施例1]
合成例1で得られたアクリル樹脂溶液の固形分40gに対して、過塩素酸リチウム3g、「アデカスタブAO?80」(酸化防止剤:3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフィエニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]-ウンデカン;旭電化株式会社製)0.2g、硬化剤としてトリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体37%酢酸エチル溶液10gを配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を剥離紙に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を積層し、この状態で室温で2日間経過させ、試験用粘着テープを得た。
該粘着テープを用いて、以下に示す方法に従って、粘着力、表面抵抗値、再剥離性、透明性の評価を行った。更に、粘着剤の主剤の貯蔵安定性を評価した。
[0099] <粘着力 >
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を厚さ2mmのガラス板に23℃?50%RHにて貼着し、JIS Z?0237に準じてロール圧着した。圧着から24時間経過後、ショッパー型剥離試験器にて剥離強度180度ピール、引っ張り速度300mm/分;単位g/25mm幅)を測定した。
[0100] <表面抵抗値 >
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層表面の表面抵抗値を、表面抵抗値測定装置 (三菱化学株式会社製)を用いて測定した(Ω/口)。
[0101] <再剥離性 >
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層をガラス板に貼着した後、60℃?95%RHの条件下に24時間に亘つて放置し、23℃?50%RHに冷却した後、ガラス板から剥離し、ガラス板への糊残り性を目視で評価した。具体的には、剥離後の状態を以下の4段階で評価した。
被着体への糊移行の全くないもの ◎
ごくわずかにあるもの 〇
部分的にあるもの △
完全に移行しているもの ×
[0102] <透明性 >
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層をガラス板に貼着した後、60℃?95%RHの条件下に24時間に亘つて放置し、23℃?50%RHに冷却した後、目視で評価した。
無色透明なもの ◎
ごく僅か曇っているもの 〇
白濁、凝集物が見られるもの △
透明でないもの ×
[0103] <主剤の貯蔵安定性 >
粘着剤の主剤(配合成分の内、硬化剤を添加していないもの。)を密閉容器に入れ、50℃のオーブン中で1ヶ月経時後の粘度の上昇率を測定した。
粘度の上昇率が10%未満 ◎
粘度の上昇率が10%以上20%未満 〇
粘度の上昇率が20%以上50%未満 △
粘度の上昇率が50%以上又はゲル化 ×

(中略)

[0130][表2]


(中略)

[0132] 以上のように本発明の帯電防止粘着剤は、主剤の貯蔵安定性、表面抵抗値(導電性)、透明性、再剥離性に優れていることが分かる。」

(6)引用文献6
本願優先権主張の日前(の平成22年7月22日)に頒布された刊行物である特表2010-525098号公報(以下、「引用文献6」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系粘着剤組成物に関し、より詳しくは、(a)アクリル系共重合体100重量部;(b)帯電防止剤0.001?30重量部;及び(c)腐食防止剤0.01?10重量部を含み、光学的に透明であり、耐久信頼性を変化させることなく、金属面に接触しても腐食の発生がないと同時に、帯電防止性能に優れたアクリル系粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化産業への進入につれて、静電気は、多くの電子部品において様々な問題を引き起こしている。一般的に、静電気は二つの異なる物体を摩擦させる時、発生する摩擦帯電、また互いに密着された物体が落ちる時、発生する剥離帯電などがある。上記静電気は、塵埃などの異物吸入、ディバイスの静電破壊、測定機器の誤作動、又は火災などを引き起こし得る。また、現代の電磁装置は静電気の放出により一時的又は永久損傷を受ける傾向も非常に高い。
【0003】
例えば、液晶表示装置製造時、液晶セルに偏光板を付着するために粘着剤層から離型フィルムを剥離するとき静電気が発生する。このように発生された静電気は液晶表示装置内部の液晶配向に影響を与えて不具合を誘発する。
【0004】
また、偏光板が高速で製造されるため、偏光板保護フィルム剥離時、既存の工程では発生しなかった静電気によるTFT IC素子の破壊現象が起こり、液晶表示パネルの不具合を誘発する。
【0005】
上記のような静電気発生を抑制するために、偏光板の外面に帯電防止層を形成する方法があるが、その効果が小さく、静電気発生を基本的に防止し得ない問題点があった。従って、静電気発生を根本的に抑制するためには、粘着剤に帯電防止性能を付与することが必要とされた。
【0006】
粘着剤に帯電防止性能を付与するために、粘着剤内部にイオン性帯電防止剤を添加する場合、静電気防止性能には優れるが、金属面に接触するとき腐食する問題点を有していた。もちろん、帯電防止性が求められる粘着剤は、静電気が発生し易い絶縁製剤品に主に使用されているが、部分的に金属面に接触する可能性を排除することができないため、帯電防止性と同時に耐腐食性を要求する用途において有用である。例えば、偏光板用保護フィルム応用の場合、保護フィルムの粘着剤が接触した偏光板外面をベゼルと呼ばれる金属製で固定するが、使用中に腐食によりベゼルが変質する問題があった。
【0007】
粘着剤に帯電防止機能を付与するためには、導電性金属粉末や炭素粒子などの物質を添加する方法、又は界面活性剤のようなイオン性物質を接着剤に添加する方法などがある。しかし、上記導電性金属粉末や炭素粒子を添加する場合、帯電防止性を表すためには、多量の導電性金属粉末や炭素粒子を使用しなければならなく、これにより、透明性が低下するという問題があった。また、界面活性剤を添加する場合には、湿度の影響を受けやすく、粘着剤表面への移行によって接着性が低下する問題があった。
【0008】
接着剤に帯電防止性能を付与するための方法として、特許文献1には粘着剤内部にエチレンオキシド変性フタル酸ジオクチル系の可塑剤を添加して柔軟性を持たせ、静電気発生を抑制する方法が開示されている。また、特許文献2は水酸基を有するイオン導電性ポリマーを添加して帯電防止性能を付与しようとした。
【0009】
しかし、上記方法は偏光板表面への転写問題が発生し、粘着物性とレオロジー物性が変わり、腐食防止を制御することができないという問題があった。
【0010】
一方、金属層を腐食させない粘着剤を作るためのいくつの方法が提案された。特許文献3にはカルボキシル基含有共重合性粘着剤成分を用いない方法だけが開示されている。
【0011】
従って、光学的に透明であり、耐久信頼性を変化させることなく、金属面と接触しても腐食の発生がないと同時に、帯電防止性能に優れた粘着剤に対する研究が切実に求められる実状である。」

イ 「【0032】
(b)帯電防止剤
本発明で使用される上記帯電防止剤は、粘着剤と相溶性に優れ、透明性及び耐久信頼性に影響を与えることなく、イオンの解離を通して静電気防止を抑制しうるイオン性帯電防止剤であればいずれも使用可能である。
【0033】
上記帯電防止剤は、アクリル系共重合体100重量部に対して、0.001?30重量部で含まれることが好ましい。その含量が0.001重量部未満の場合には帯電防止性能が低下するという問題があり、30重量部を超えると凝集力低下によって耐久信頼性が劣るという問題がある。」

ウ 「【0098】
実施例1
(アクリル系共重合体の製造)
窒素ガスが還流され、温度調節が容易な冷却装置付き1Lの反応器に、n-ブチルアクリレート(BA)94.9重量部、アクリル酸(AA)4.5重量部、及びヒドロキシエチルメタアクリレート(2-HEMA)0.6重量部からなる単量体混合物を投入した後、溶剤として酢酸エチル(EAc)100重量部を投入した。その後、酸素を除去するために窒素ガスを1時間パージした後、62℃で保持した。上記混合物を均一にした後、反応開始剤として酢酸エチルに50%濃度で希釈したアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入し、8時間反応してアクリル系共重合体を製造した。
【0099】
(配合過程)
上記製造したアクリル系共重合体100重量部、架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)0.5重量部、帯電防止剤のリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(A-1)5.2重量部と腐食防止剤の2-メルカプトベンゾチアゾール(B-1)8.0重量部を投入し、適正の濃度で希釈し、均一に混合した後、離型紙にコートして乾燥した後、25μmの均一な粘着層を製造した。
【0100】
(積層過程)
上記製造した粘着層を膜厚185μmヨード系偏光板に粘着加工した。
【0101】
実施例2?4及び比較例1?4
上記実施例1で、下記表1に示される成分と組成比を使用したことを除いては、上記実施例1と同様にして偏光板を製造した。この時、表1の単位は重量部である。
上記実施例1?4及び比較例1?4で製造した偏光板を利用して、下記の方法で耐久信頼性、表面抵抗、腐食発生有を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0102】
(A)耐久信頼性
上記実施例1?4及び比較例1?4で製造した偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)の両面に、光学吸収軸がクロスされた状態で付着させた。この時、気泡又は異物が生成されるのを防ぐために、5kg/cm^(2)の圧力を加えた。この試片らの耐湿熱特性を把握するために、60℃の温度と90%の相対湿度下で1000時間放置した後、気泡や剥離の発生を観察した。上記試片の状態を評価する直前に、室温で24時間放置した後、確認した。
評価基準は,
○:気泡や剥離現象がない
△:気泡や剥離現象がややある
×:気泡や剥離現象がある
【0103】
(B)表面抵抗
上記実施例1?4及び比較例1?4で製造した偏光板から離型フィルムを除去した後、粘着面議表面抵抗を測定した。この時、表面抵抗は23℃の温度と50%の相対湿度下で500Vの電圧を1分間印加した後、測定された値を観察した。この時、表面抵抗が10^(13)Ω/□以上の場合、通常帯電防止性能がないと見なした。
【0104】
(C)腐食防止性
上記実施例1?4及び比較例1?4で製造した偏光板を50×50mmで切断し、金属(銅、アルミニウムなど)面に付着する。その後、測定サンプルを60℃の温度と90%の相対湿度下で1000時間放置した後、腐食程度を観察した。
評価基準は,
○:腐食未発生により金属面の変色無し
△:若干の腐食発生により金属面の部分変色
×:腐食発生により金属面の変色
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
上記表2で示されるように、本発明に係る帯電防止剤及び腐食防止剤を含有するアクリル系接着剤組成物が適用された実施例1?4の偏光板は比較例1?4と比較して、腐食の発生がなく、耐久信頼性に優れ、且つ帯電防止性能に優れていることがわかった。」

4 対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「偏光子」は、本件補正後発明と同様に「偏光板」を構成するものであるから、本件補正後発明の「偏光子」に相当する。

(2)引用発明の「粘着剤層」は、「偏光子の一面に形成」されるものである。したがって、引用発明の「粘着剤層」は、本件補正後発明の「前記偏光子の少なくとも一面に配置されており」とする要件を満たしている。
また、引用発明の「粘着剤層」は、「前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され」るものである。したがって、引用発明の「粘着剤層」は、本件補正後発明の「前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なってい」るとする要件を満たしている。
以上より、引用発明の「偏光子、及び偏光子の一面に形成された粘着剤層を含み、前記粘着剤層の第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置され」た「粘着剤層」と、本件補正後発明の「前記偏光子の少なくとも一面に配置されており、前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なっていて、前記第2表面のガラスに対する剥離力P2と第1表面のガラスに対する剥離力P1の比率P2/P1が5以上であり、且つ表面抵抗が10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下である粘着剤層」とは、「前記偏光子の少なくとも一面に配置されており、前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なっている粘着剤層」である点で共通する。

(3)引用発明の「偏光板」は、本件補正後発明と同様に、「偏光子」及び「粘着剤層」を含んで構成されるものであるから、本件補正後発明の「偏光板」に相当する。

(4)引用発明の「シートの両面で相違する剥離力を示す粘着剤層がアルキレンオキシド基を有するアクリル重合体及び紫外線吸収剤を含む粘着剤組成物の層」であることと、と本件補正後発明の「前記粘着剤層が、アクリル重合体と、前記アクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部の帯電防止剤とを含む粘着剤組成物の層」であることとは、「前記粘着剤層が、アクリル重合体を含む粘着剤組成物の層」である点で共通する。

以上より、本件補正後発明と引用発明とは、
「偏光子及び前記偏光子の少なくとも一面に配置されており、前記偏光子側の表面である第1表面とその反対側の表面である第2表面のガラスに対する剥離力が互いに異なっている粘着剤層を含む偏光板であって、
前記粘着剤層が、アクリル重合体を含む粘着剤組成物の層である、偏光板。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
[相違点1]本件補正後発明は、第2表面のガラスに対する剥離力P2と第1表面のガラスに対する剥離力P1の比率P2/P1が5以上であるのに対し、引用発明は、第1の表面と第2の表面のうち相対的に剥離力の低い表面が前記偏光子側に配置されるものの、第2の表面のガラスに対する剥離力と第1の表面のガラスに対する剥離力の比率を特定していない点。
[相違点2]本願補正後発明は表面抵抗が10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下であり、粘着剤組成物がアクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部の帯電防止剤を含むのに対し、引用発明は表面抵抗の範囲を限定しておらず、粘着剤組成物が帯電防止剤を含むとされていない点。

5 判断
(1)[相違点1]について
引用文献1の記載事項(オ)の表4には、実施例1?7として、低い剥離力を示す面におけるガラスに対する剥離力と高い剥離力を示す面におけるガラスに対する剥離力が記載されており、その値に基づくと、低い剥離力を示す面のガラスに対する剥離力と高い剥離力を示す面のガラスに対する剥離力の比率は、以下のとおりである。

高い剥離力 低い剥離力 剥離力の比
[gf/25mm] [gf/25mm] 高/低
実施例1 500 / 25 = 20.0
実施例2 650 / 35 = 18.6
実施例3 400 / 20 = 20.0
実施例4 350 / 18 = 19.4
実施例5 335 / 14 = 23.9
実施例6 365 / 15 = 17.7
実施例7 520 / 25 = 20.8

引用発明に包含される上記実施例における剥離力の比率は、いずれも、低い剥離力を示す面のガラスに対する剥離力と高い剥離力を示す面のガラスに対する剥離力の比率が5以上である。
したがって、上記[相違点1]は実質的な相違点とはいえない。

(2)[相違点2]について
偏光板の粘着剤層が優れた帯電防止性を有するようにするために、粘着剤層を形成する粘着剤組成物に帯電防止剤を含有させることは、周知技術である。例えば、引用文献2の記載事項アには、背景技術として「該偏光板10は、一般的には、ポリビニルアルコール系偏光子1の両面に、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム2及び2'を貼り合わせた3層構造を有しており、そして、その片面には液晶セルなどの光学部品に貼着するための粘着剤層3が形成され」ること、「帯電防止性能を有する粘着剤組成物としては、界面活性剤などの帯電防止剤を配合した粘着剤組成物が知られている」ことが記載されており、記載事項イに「表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下程度の帯電防止性能」とすることも記載されている。引用文献3の記載事項アには、背景技術として、「偏光フィルム等の光学フィルムに帯電防止処理を行い、表面抵抗値を調節して、帯電防止特性を改善する試みが提案されている」こと、「さらなる帯電防止特性を改善するには、光学フィルムと液晶セルなどの被着体とを接着するための粘着剤組成物(光学フィルム用粘着剤組成物)も適度な表面抵抗値(1.0×10^(8)?9.9×10^(9)Ω/□)を有することが要求される」ことが記載されている。引用文献4には、記載事項アに記載されるように「偏光板」などの「帯電防止機能を有する粘着剤層が積層されている帯電防止性粘着型光学フィルム」に関する技術分野において、記載事項イに「前記粘着剤層の表面抵抗値は、1×10^(7)?1×10^(11)Ω/□の範囲に設計される。表面抵抗値が、1×10^(7)Ω/□よりも低い場合には、現実的には多量の導電物質(イオン性液体)の添加が必要であり、耐久性、光学特性の低下を招く。一方、表面抵抗値が、1×10^(11)Ω/□よりも大きい場合には、帯電防止効果が乏しくなる。表面抵抗値は、導電物質の選択や、添加量によって適宜に調整される」ことが記載されており、導電物質は表面抵抗値を調整して帯電防止効果を生じさせるものであるから、帯電防止剤に該当するものである。引用文献5には、記載事項アに記載されるように、偏光板等の光学部品の表面保護用粘着フィルム形成に好適に用いられる帯電防止粘着剤において、記載事項イに記載されるようにイオン化合物(B)等を含有させることにより、適度な導電性を有する帯電防止粘着剤が得られることが記載されており、イオン化合物は帯電防止剤に該当するものである。引用文献6には、記載事項アにおいて、背景技術として、「液晶セルに偏光板を付着するために粘着剤層から離型フィルムを剥離するとき静電気が発生する」こと、「粘着剤に帯電防止機能を付与するためには、導電性金属粉末や炭素粒子などの物質を添加する方法、又は界面活性剤のようなイオン性物質を接着剤に添加する方法などがある」ことが記載されている。以上のとおり、偏光板の粘着剤層が優れた帯電防止性を有するようにすること、そのために粘着剤層を形成する粘着剤組成物に帯電防止剤を含有させることは、本件出願の優先権主張の日前において広く知られていることであるから、周知技術であると認められる。引用発明の粘着剤層は、前記3(1)ア(ア)の段落【0010】における「偏光板を液晶パネルに付着するために使われる粘着剤組成物である。」との記載によれば、偏光板を液晶パネルに付着するために使われるものであるところ、引用発明においても、粘着剤層の製造において利用した離型PETフィルム20を剥がす際に静電気が発生して帯電する恐れがあることは、当業者に自明である。したがって、引用発明において、偏光板における上記周知技術に基づいて、引用発明においても優れた帯電防止性を有するものとするため、粘着剤組成物に帯電防止剤を含有させることは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、表面抵抗の数値範囲についてみると、上記のとおり、表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下等の必要とする帯電防止性能が得られ、且つ、粘着性能の低下による耐久信頼性が低下しない範囲に収まるように、当業者が適宜設定しうるものであるが、例えば引用文献3の記載事項エの表4における実施例1は、表面抵抗値が2.4×10^(9)Ω/□であることが示されており、引用文献4の記載事項ウの表1における実施例1は、表面抵抗値が3.9×10^(8)Ω/□であることが示されており、引用文献5の記載事項エの表2における実施例2,3,8?16,18?23や、引用文献6の記載事項ウの表2における実施例1など、表面抵抗値が10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下の範囲とした事例も多数知られている。したがって、引用発明においても、表面抵抗値の数値範囲を10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下の範囲とすることは、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
また、帯電防止剤のアクリル重合体に対する含量についてみると、引用文献2の記載事項ウには、帯電防止剤の含有量について「帯電防止剤の種類にもよるが、得られる光学用粘着剤に、表面抵抗率が5×10^(10)Ω/□以下程度の帯電防止性能を付与し、かつ該帯電防止剤のブリード防止性や析出防止性の観点から、前述した(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計100質量部に対して、通常0.1?10質量部程度、好ましくは0.5?5質量部、より好ましくは0.5?3質量部である」と記載されており、引用文献3の記載事項ウにも、アクリル系ポリマー(A)と、イオン性化合物(B)を含む粘着剤組成物において、「(A)成分100重量部に対して、0.01?20重量部であることが好ましく、0.1?10重量部であることがより好ましい」と記載されている。さらに、引用文献5の記載事項ウには、「イオン化合物(B)の含有量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、又はアクリル系共重合体(E)を併用する場合には両者共重合体の合計100重量部に対して、0.1?50重量部であることが好ましい。更に好ましくは1?30重量部である。0.1重量部未満では十分なイオン導電性が得られず、50重量部よりも多くイオン化合物(B)を含有しても導電性向上の効果がほとんど期待できなくなり、更に粘着物性の低下、及び樹脂との相溶性の低下により塗膜の白化が起こりやすくなるので好ましくない。」と記載されており、引用文献6の記載事項イにも「上記帯電防止剤は、アクリル系共重合体100重量部に対して、0.001?30重量部で含まれることが好ましい。その含量が0.001重量部未満の場合には帯電防止性能が低下するという問題があり、30重量部を超えると凝集力低下によって耐久信頼性が劣るという問題がある。」と記載されている。以上のとおり、帯電防止剤のアクリル重合体に対する含量は、必要とする帯電防止性能が得られる量を下限値とし帯電防止剤の析出や白化などにより粘着性能の低下による耐久信頼性が低下する量を上限値とする範囲に収まるように、帯電防止剤の種類等に応じて当業者が適宜最適化すべきものである。そして、例えば、引用文献2の記載事項エには、実施例1?9として、いずれも(A)アクリル酸エステル共重合体を100質量部、(B)アクリル酸エステル共重合体を10質量部含み、帯電防止剤を2.00?3.00質量部含む粘着剤形成材料を用いて粘着剤形成材料層を形成したことが記載されている。これらの実施例のアクリル重合体100重量部に対する帯電防止剤の含有量は、1.8?2.7重量部となる。また、引用文献3の記載事項エに、実施例1として、アクリル系ポリマー1 100重量部に対し、過塩素酸リチウム有効成分 0.5重量部等を添加し、これを混合して、粘着剤組成物1を得たことが記載されており、アクリル重合体100重量部に対して0.5重量部の帯電防止剤を含んだ実施例が開示されている。さらに、引用文献4の記載事項ウには、実施例1として、(メタ)アクリル系ポリマー(固形分)100部に対して、イオン性液体を3部加えて、水分散型アクリル系粘着剤を調製したことが記載されており、引用文献6の記載事項ウには、実施例1として、アクリル系共重合体100重量部に対して、帯電防止剤のリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(A-1)5.2重量部等を投入し、混合した後、粘着層を製造したことが記載されている。以上のとおり、アクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部の帯電防止剤を含めた事例も数多く知られているから、引用発明において粘着剤組成物に帯電防止剤を含めるにあたり、その含有量をアクリル重合体100重量部に対して0.1重量部?10重量部とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)本件補正後発明の効果について
本件出願の明細書の段落【0098】の「本発明では、薄くて且つ軽くて、耐久性、耐水性、作業性及び光漏洩抑制能など偏光板で要求される諸物性を満足させながらも、帯電防止能を有する偏光板とそれを含む液晶表示装置を提供することができる。」との記載によれば、本件補正後発明の効果は、偏光板で要求される諸物性を満足させながらも、帯電防止能を有する偏光板を提供することといえる。一方、引用文献1の記載事項(エ)に基づけば、引用発明は「薄い厚さで形成するとともに、光漏れを効果的に防止することができ、優秀な耐久性を示す偏光板などの光学部材を提供することができる」というものであり偏光板で要求される諸物性を満足させるものといえる。そして、偏光板において粘着剤組成物が帯電防止剤を含むことにより優れた帯電防止性を備えるものは、上記のとおり周知技術である。そして、本件補正後発明が特定する表面抵抗の数値範囲及び帯電防止剤の含量の数値範囲の内外において予想を超える効果の差異が生じるとする根拠も見いだせない。そうすると、本件補正発明の効果は、従来知られていた効果を足し合わせたものに過ぎず、格別なものということはできない。

よって、本件補正後発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正後発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年5月9日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その内の請求項1に係る発明は、前記第2の1に「本件補正前発明」として記載したとおりのものである。

2 引用刊行物の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載及び引用文献に記載された発明は、前記第2の3に記載したとおりである。

3 対比・判断
本件補正前発明は、本件補正後発明における表面抵抗について、その範囲を、「10^(6)Ω/□以上及び2.7×10^(9)Ω/□以下」から「1×10^(11)Ω/□以下」へ拡げたものに相当する。
そうすると、本件補正前発明の構成要件をすべて含み、さらに表面抵抗の範囲を減縮したものに相当する本件補正後発明が、前記第2の5に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正前発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正前発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-08 
結審通知日 2017-12-11 
審決日 2017-12-22 
出願番号 特願2015-528406(P2015-528406)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
発明の名称 偏光板  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  

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