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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1340843
審判番号 不服2015-18573  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-14 
確定日 2018-05-31 
事件の表示 特願2013-556220号「給電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年8月8日国際公開、WO2013/114764〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年12月25日(優先権主張2012年1月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月6日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成27年10月14日に本件審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、当審において平成28年9月12日付けで拒絶理由を通知したところ、平成28年11月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成29年1月27日付けで拒絶理由を通知したところ、平成29年4月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成29年9月15日付けで最後の拒絶理由を通知したところ、平成29年11月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年11月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?請求項7は、本件補正前の
「【請求項1】
給電システムであって、
蓄電池と、
操作部と、
商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部と、
停電の間、前記蓄電池に電気的に接続されて前記操作部の設置場所を照明するように構成される照明装置と、
第1開閉器と、
第2開閉器と、
第3開閉器と、
第1変換部および第2変換部を備える電力変換部と、
前記電力変換部を制御するように構成される制御部とを備え、
前記第1変換部は、双方向DC/DCコンバータであり、
前記電力変換部は、前記第1変換部が前記蓄電池と前記第2変換部との間に接続され、前記第2変換部が前記第1変換部と前記第1および第2開閉器との間に接続されるように、前記蓄電池と前記第1および第2開閉器との間に接続され、
前記第1開閉器は、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる第1端子と前記電力変換部との間に接続され、
前記第2開閉器は、第2負荷と接続されて自立運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第2負荷に供給するために用いられる第2端子と前記電力変換部との間に接続され、
前記制御部は、前記給電システムの運転を、少なくとも、前記第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための前記系統連系運転から、前記第1開閉器をオフにして前記蓄電池を前記商用電力系統から電気的に遮断し前記第2開閉器をオンにした状態で給電を行うための前記自立運転へ切り替え、
前記操作部は、前記給電システムの運転を、少なくとも、前記系統連系運転から、前記自立運転へ前記制御部に切り替えさせるための手動操作の入力を受け付け、
前記第3開閉器は、前記第1および第2変換部の間の接続点と前記照明装置との間に接続される
ことを特徴とする給電システム。
【請求項2】
前記第2変換部は、双方向インバータであり、
前記照明装置は、前記接続点を介して前記第1変換部から供給される直流電力によって点灯する
ことを特徴とする請求項1記載の給電システム。
【請求項3】
前記給電システムは、前記系統連系運転と前記自立運転とを選択的に行うように構成され、
前記電力変換部は、前記蓄電池から電力を受けて電力変換を行うように構成され、
前記第2端子は、前記第2負荷と接続され、前記自立運転の間、前記第2負荷に前記電力変換部からの電力変換後の電力を供給するための自立端子であり、
前記第3開閉器は、前記自立端子と前記第2負荷との間の給電路とは別に設けられた、前記電力変換部から前記照明装置へ給電するための照明用給電路に挿入された照明用開閉器であり、
前記制御部は、前記給電システムの運転を、前記系統連系運転または前記自立運転に切り替えるように構成され、
前記照明用開閉器は、前記検出部が前記商用電力系統の停電を検出すると、前記照明用給電路を介して前記電力変換部が前記照明装置へ給電するように前記電力変換部と前記照明装置を電気的に接続するように構成される
ことを特徴とする請求項1または2記載の給電システム。
【請求項4】
前記検出部が前記商用電力系統の停電を検出すると、前記手動操作の操作方法を報知するように構成される報知部を更に備えることを特徴とする請求項3記載の給電システム。
【請求項5】
前記第1変換部は、前記第2変換部の側に接続される第1入出力端子と、前記蓄電池の側に接続される第2入出力端子とを含み、
前記第1変換部は、
前記第1入出力端子に供給される電力を受けて電圧変換を行い、その電圧変換後の電力を前記第2入出力端子の側に供給し、また、
前記第2入出力端子に供給される電力を受けて電圧変換を行い、その電圧変換後の電力を前記第1入出力端子の側に供給するように構成され、
前記第2変換部は、前記第1開閉器の側と前記第2開閉器の側に接続される第1入出力端子と、前記第1変換部の側に接続される第2入出力端子とを含み、
前記第2変換部は、
前記第2変換部の第1入出力端子に供給されるAC電力をDC電力に変換し、そのDC電力を前記第2変換部の第2入出力端子の側に供給し、また、
前記第2変換部の第2入出力端子に供給されるDC電力をAC電力に変換し、そのAC電力を前記第2変換部の第1入出力端子の側に供給するように構成される
ことを特徴とする請求項2記載の給電システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記検出部で検出される停電の間、前記第3開閉器をオンして前記第1変換部を介して前記照明装置を前記蓄電池に電気的に接続するように構成されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の給電システム。
【請求項7】
前記第3開閉器は、前記検出部で検出される停電の間、前記制御部の指示を受けずに自動でオンして前記第1変換部を介して前記照明装置を前記蓄電池に電気的に接続するように構成されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の給電システム。」
を、本件補正後の
「【請求項1】
給電システムであって、
蓄電池と、
操作部と、
商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部と、
停電の間、前記蓄電池に電気的に接続されて前記操作部の設置場所を照明するように構成される照明装置と、
第1開閉器と、
第2開閉器と、
第3開閉器と、
第1変換部および第2変換部を備える電力変換部と、
前記電力変換部を制御するように構成される制御部とを備え、
前記第1変換部は、双方向DC/DCコンバータであり、
前記第2変換部は、AC-DC変換とDC-AC変換とを行う双方向インバータであり、
前記電力変換部は、前記第1変換部が前記蓄電池と前記第2変換部との間に接続され、前記第2変換部が前記第1変換部と前記第1および第2開閉器との間に接続されるように、前記蓄電池と前記第1および第2開閉器との間に接続され、
前記第1開閉器は、前記商用電力系統に接続される第1端子と前記電力変換部との間に接続され、
前記第2開閉器は、第2負荷と接続されて自立運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第2負荷に供給するために用いられる第2端子と前記電力変換部との間に接続され、
前記制御部は、前記給電システムの運転を、少なくとも、前記第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための系統連系運転から、前記第1開閉器をオフにして前記蓄電池を前記商用電力系統から電気的に遮断し前記第2開閉器をオンにした状態で給電を行うための前記自立運転へ切り替え、
前記系統連系運転時には、前記制御部の制御により、前記第2変換部は前記商用電力系統から供給される電力に対して前記AC-DC変換を行い、変換後の電力を前記第1変換部に出力し、前記第1変換部は前記第2変換部から出力される電力を電圧変換して前記蓄電池に出力し、
前記操作部は、前記給電システムの運転を、少なくとも、前記系統連系運転から、前記自立運転へ前記制御部に切り替えさせるための手動操作の入力を受け付け、
前記第3開閉器は、前記第1および第2変換部の間の接続点と前記照明装置との間に接続され、
前記検出部で検出される停電の間、前記第3開閉器はオンになり前記第1変換部を介して前記照明装置を前記蓄電池に電気的に接続するように構成され、
前記検出部で検出される停電の間、前記制御部は、前記第1変換部に前記蓄電池の電力を電圧変換させ前記照明装置へ供給させる
ことを特徴とする給電システム。
【請求項2】
前記照明装置は、前記接続点を介して前記第1変換部から供給される直流電力によって点灯する
ことを特徴とする請求項1記載の給電システム。
【請求項3】
前記給電システムは、前記系統連系運転と前記自立運転とを選択的に行うように構成され、
前記電力変換部は、前記蓄電池から電力を受けて電力変換を行うように構成され、
前記第2端子は、前記第2負荷と接続され、前記自立運転の間、前記第2負荷に前記電力変換部からの電力変換後の電力を供給するための自立端子であり、
前記第3開閉器は、前記自立端子と前記第2負荷との間の給電路とは別に設けられた、前記電力変換部から前記照明装置へ給電するための照明用給電路に挿入された照明用開閉器であり、
前記制御部は、前記給電システムの運転を、前記系統連系運転または前記自立運転に切り替えるように構成され、
前記照明用開閉器は、前記検出部が前記商用電力系統の停電を検出すると、前記照明用給電路を介して前記電力変換部が前記照明装置へ給電するように前記電力変換部と前記照明装置を電気的に接続するように構成される
ことを特徴とする請求項1または2記載の給電システム。
【請求項4】
前記検出部が前記商用電力系統の停電を検出すると、前記手動操作の操作方法を報知するように構成される報知部を更に備えることを特徴とする請求項3記載の給電システム。
【請求項5】
前記第1変換部は、前記第2変換部の側に接続される第1入出力端子と、前記蓄電池の側に接続される第2入出力端子とを含み、
前記第1変換部は、
前記第1入出力端子に供給される電力を受けて電圧変換を行い、その電圧変換後の電力を前記第2入出力端子の側に供給し、また、
前記第2入出力端子に供給される電力を受けて電圧変換を行い、その電圧変換後の電力を前記第1入出力端子の側に供給するように構成され、
前記第2変換部は、前記第1開閉器の側と前記第2開閉器の側に接続される第1入出力端子と、前記第1変換部の側に接続される第2入出力端子とを含み、
前記第2変換部は、
前記第2変換部の第1入出力端子に供給されるAC電力をDC電力に変換し、そのDC電力を前記第2変換部の第2入出力端子の側に供給し、また、
前記第2変換部の第2入出力端子に供給されるDC電力をAC電力に変換し、そのAC電力を前記第2変換部の第1入出力端子の側に供給するように構成される
ことを特徴とする請求項2記載の給電システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記検出部で検出される停電の間、前記第3開閉器をオンして前記第1変換部を介して前記照明装置を前記蓄電池に電気的に接続するように構成されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の給電システム。
【請求項7】
前記第3開閉器は、前記検出部で検出される停電の間、前記制御部の指示を受けずに自動でオンして前記第1変換部を介して前記照明装置を前記蓄電池に電気的に接続するように構成されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の給電システム。」
に補正された。

2.補正の適否
2-1.新規事項
本件補正後の請求項1には、「前記商用電力系統に接続される第1端子」と記載されているから、第1端子は第1負荷と接続されていなくても良いことになる。
そこで、本件補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、第1端子に関して、
「第1実施形態に係る給電システム1は、図1に示すように、蓄電池92、電力変換部2、第1端子31、第1開閉器32、第2端子33、第2開閉器34、検出部4、操作部5、第3開閉器6および制御部7を含む。電力変換部2は、蓄電池92から電力を受けて電力変換を行うように構成される。第1端子(連系用端子)31は、(少なくとも1つの)第1負荷93と接続され、系統連系運転の間、第1負荷93に電力変換部2からの電力変換後の電力を供給するのに使用される。第1開閉器(連系用開閉器)32は、電力変換部2と第1端子31との間を電気的に開閉するように構成される。」(【0015】)
「本実施形態において、電力変換部2は、第1端子31、第1開閉器32、第2端子33、第2開閉器34、検出部4、操作部5、第3開閉器6および制御部7の全部または一部と共に、充放電パワーコンディショナを構成する。」(【0016】)
「第1開閉器32は、第1端子31に電気的に接続される第1端と、電力変換部2(第1入出力端子221)に電気的に接続される第2端とを含み、第1端子31と電力変換部2との間に設けられている。この第1開閉器32は、制御部7の指示に従って、通常時にオンになって第1端子31と電力変換部2との間を電気的に接続し、停電時にオフになって第1端子31と電力変換部2との間を電気的に遮断するように構成される。通常時とは、商用電力系統95が商用電力を供給している時をいう。停電時とは、商用電力系統95が商用電力の供給を停止している時をいう。」(【0023】)
と記載され、図1、3に、【0015】の記載に対応した構成が記載されているのみで、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において電力変換部からの電力を第1負荷に供給するために用いられる第1端子は記載はあるものの、第1負荷と接続されない第1端子は、記載も示唆もない。

したがって、本件補正後の請求項1に記載された「前記商用電力系統に接続される第1端子」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

2-2.目的用件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。

(1)特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の限縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正前後で、請求項数は共に7であり、請求項1-7は共に給電システムに係る発明であり、従属項の引用形式は共に同じであるから、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応するものとして検討する。

ア.本件補正前の請求項1は、第1端子が「第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる第1端子」であるので、第1端子が、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において電力変換部からの電力を第1負荷に供給するために用いられている。
本件補正後の請求項1は、「前記商用電力系統に接続される第1端子」であるので、第1端子が、商用電力系統に接続されるものであるが、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられると特定されるものではない。
そうすると、本件補正前の請求項1記載の第1端子を特定する事項のうちの「第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる」ことが削除されているから、補正は特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当せず、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の限縮」に該当しない。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限縮を目的とする補正とは認められない。

イ.本件補正前の請求項1は系統連系運転に関し「系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給する」、「給電システムの運転を、少なくとも、前記第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための前記系統連系運転」であるので、系統連系運転は、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行うためのもので、電力変換部からの電力を第1負荷に供給するものである。
本件補正後の請求項1は系統連系運転に関し「給電システムの運転を、少なくとも、前記第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための系統連系運転」、「前記系統連系運転時には、前記制御部の制御により、前記第2変換部は前記商用電力系統から供給される電力に対して前記AC-DC変換を行い、変換後の電力を前記第1変換部に出力し、前記第1変換部は前記第2変換部から出力される電力を電圧変換して前記蓄電池に出力」であるので、系統連系運転は、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行うためのもので、かつ、系統連系運転時に、商用電力系統から供給される電力を変換して蓄電池に出力するものである。
そうすると、本件補正前の請求項1記載の系統連系運転を特定する事項のうちの「電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給する」が削除され、商用電力系統から供給される電力を変換して蓄電池に出力するものが系統連系運転に追加されているから、本件補正は特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当せず、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の限縮」に該当しない。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限縮を目的とする補正とは認められない。

(2)次に、特許法第17条の2第5項第4号の「明瞭でない記載の釈明」に該当するかについて検討する。
請求人は、平成29年11月20日付けで意見書において「補正は、商用電力系統の停電を検出する構成を明瞭にするためのものです。」旨主張しているが、本件補正前の請求項1の「第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる第1端子」、「第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための前記系統連系運転」で特定される構成は明りょうであり、かつ、第1端子の「第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる」との条件を削除することは、発明特定事項を変更するものであって、「記載の釈明」(「釈明」とは、「(1)ときあかすこと。(2)誤解や非難などに対して事情を説明して了解を求めること。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])ではないので、本件補正が明瞭でない記載の釈明を目的としたものとは認められない。

(3)また、本件補正が、請求項の削除及び誤記の訂正を目的としたものでないことも明らかである。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由II]
上記のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号、第2号について
(1)本件補正後の請求項1に「前記系統連系運転時には、前記制御部の制御により、前記第2変換部は前記商用電力系統から供給される電力に対して前記AC-DC変換を行い、変換後の電力を前記第1変換部に出力し、前記第1変換部は前記第2変換部から出力される電力を電圧変換して前記蓄電池に出力し」と記載されており、商用電力系統から供給される電力を蓄電池に出力するものとなるが、「前記系統連系運転」は、「前記第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し」「給電を行うための系統連系運転」であって、蓄電池から商用電力系統側に給電するものであるから、電力供給の方向が逆方向であって、相矛盾するものであるので「系統連系運転」が不明である。
また、「前記商用電力系統から供給される電力に対して前記AC-DC変換を行い、変換後の電力を前記第1変換部に出力し、前記第1変換部は前記第2変換部から出力される電力を電圧変換して前記蓄電池に出力」する動作は、系統連系運転の一般的な意味(「発電設備を電力会社の送電線や配電線に接続して運用すること」)と、相反するものであるので、「系統連系運転」が不明である。

(2)本件補正後の請求項1に「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」と記載されているが、「第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための系統連系運転」であるので、給電システムは、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行う系統連系運転を行うものである。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、検出部は、商用電力系統に接続される第1端子と電力変換部との間に接続された第1開閉器と、第1負荷との間に設けられたものとして記載されている。
発明の詳細な説明に記載された検出部で検出される電圧は、「系統連系運転の間、第1負荷93に電力変換部2からの電力変換後の電力を供給する」(【0015】)電圧でもあって、商用電力系統が停電しても、電力変換部からの供給電圧が存在するので、商用電力系統が停電となっても停電と判別することはできない。
そうすると、請求項1の「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」は、発明の詳細な説明の記載を参照しても、なぜ商用電力系統の停電を検出することができるのか不明である。

(3)本件補正後の請求項1の「給電システム」は、「【0004】本発明の目的は、商用電力系統の停電時に系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作の入力を明るい状態の中でユーザが行うことが可能な給電システムを提供することにある。」ものであって、「停電の間、前記蓄電池に電気的に接続されて前記操作部の設置場所を照明するように構成される照明装置」が、「第3開閉器は、前記第1および第2変換部の間の接続点と前記照明装置との間に接続され」る構成で動作することによって、発明の目的を達成するものであるが、「停電を検出」は当該動作の前提となるものであり、停電を検出する構成が不明である請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の目的を達成することができないものであって、発明の詳細な説明に記載した発明といえない。

(4)上記(2)(3)に記載したように、給電システムは、発明の詳細な説明に記載された検出部で停電を検出することができず、発明の目的を達成することもできないものであるので、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に記載されたものでない。

[請求人の主張について]
請求人は意見書において、「系統連系運転時には、蓄電池は商用電力系統及び第1負荷に電力を供給せず、商用電力系統から供給される電力により充電されます。したがって・・・検出部4が商用電力系統95の停電を検出することが可能となります。」旨の主張を行っている。
しかし、本件補正後の請求項1には、「第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための系統連系運転」と記載されているので、系統連系運転時に蓄電池は商用電力系統及び第1負荷に電力を供給しないものではなく、請求人の上記主張は採用できない。

2.むすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に記載した発明といえず、明確でないので、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.特許請求の範囲
平成29年11月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲は、平成29年4月3日付けの手続補正書で補正された、前記「第2[理由I]1.」に本件補正前として記載したとおりのものである。

第4 当審拒絶理由
1.平成29年9月15日付け当審の最後の拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「本件出願は、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。

1.請求項1に「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」と記載されているが、請求項1記載の発明における商用電力系統の停電を検出する構成が不明である。
(1)請求項1には、「第1開閉器は、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる」、「第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための前記系統連系運転」と記載されているので、請求項1記載の給電システムは、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行い、当該電力を第1負荷に供給する系統連系運転を行うものである。
(2)本願明細書の【発明の詳細な説明】には、請求項1の「給電システム」の実施形態として【図1】【図3】が示されており、請求項1の「検出部」(4)は、「系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる第1端子と前記電力変換部との間に接続され」た「第1開閉器」(32)と、「第1負荷」(93)との間に設けられたものとして記載されている。
そして、【図1】【図3】に記載された実施形態の検出部(4)で検出される系統電圧は、系統連系運転の間において電力変換部(2)から第1負荷に供給する電圧でもあって、商用電力系統が停電しても、電力変換部(2)からの供給電圧が存在するものであるので、「【0025】検出部4は・・商用電力系統95が商用電力を供給している通常時と、商用電力系統95が商用電力の供給を停止している停電時とを判別するように構成される。・・商用電力系統95が商用電力の供給を停止している停電時では、第1給電路96の系統電圧は0Vである。したがって、検出部4は、系統電圧が所定電圧範囲内であるか、所定電圧範囲の下限値未満であるかによって、それぞれ通常時と停電時とを判別する」動作をなし得るものとはならない。
そうすると、請求項1の「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」は、発明の詳細な説明の記載を参照しても、「商用電力系統の停電を検出する」構成が不明である。
(3)さらに、請求項1の「給電システム」は、「【0004】本発明の目的は、商用電力系統の停電時に系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作の入力を明るい状態の中でユーザが行うことが可能な給電システムを提供することにある。」ものであって、「停電の間、前記蓄電池に電気的に接続されて前記操作部の設置場所を照明するように構成される照明装置」が、「第3開閉器は、前記第1および第2変換部の間の接続点と前記照明装置との間に接続される」構成で動作することによって、発明の目的を達成するものであるが、「停電を検出」は当該動作の前提となるものであるので、停電を検出する構成が不明であることによって、本願発明の目的を達成する構成自体が不明確でもある。
(4)なお、本願明細書の【発明の詳細な説明】に記載された「第1実施形態」「第2実施形態」の給電システムは、「【0026】・・商用電力系統95の停電を検出した場合、検出部4は、商用電力系統95の停電を検出したことを示す停電情報を検出信号として制御部7に供給する。」「【0029】・・第2給電路98は、第1変換部21と第2変換部22との間すなわちDCリンク部に接続されている。これにより、検出部4により商用電力系統95の停電が検出された際に、照明装置91は、第1変換部21から直流電力を受けて点灯し、操作部5の設置場所を照明する。」「【0030】制御部7は、検出部4からの検出信号に応じて、給電システム1の運転を、系統連系運転または自立運転に切り替えるための運転切替部として機能する。制御部7は、検出部4により商用電力系統95の停電が検出されて検出部4から停電情報を受け取ると、第2変換部22のスイッチング素子(図示せず)に対してゲートブロックを行い、第1開閉器32をオンからオフにすることによって、系統連系運転を停止する。その後、操作部5がユーザの手動操作の入力を受け付けると、制御部7は、その入力に応じて、第2変換部22のスイッチング素子へのゲートブロックを解除し、第2開閉器34をオフからオンにすることによって、自立運転を可能にする。」「【0038】・・検出部4が商用電力系統95の停電を検出した場合(S1の「YES」)、第3開閉器6がオフからオンに切り替わり(S2)、照明装置91が点灯する(S3)。・・【0039】以上説明した本実施形態の給電システム1によれば、商用電力系統95の停電が発生した際に、第3開閉器6が電力変換部2と照明装置91との間を電気的に接続することによって、照明装置91に操作部5の設置場所を照明させることができる。これにより、例えば夜間に商用電力系統95の停電が発生した場合であっても、ユーザは、系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作を明るい状態の中で行うことができる。」ものとされているが、「第1実施形態」「第2実施形態」の給電システムは、
(a)上記(1)の蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行い、電力を第1負荷に供給する系統連系運転時においては、上記(2)記載の様に商用電力系統の停電を検出することができるものでなく、また、
(b)「【0019】蓄電池92は、・・電力変換部2を介して商用電力系統95の商用電力から得られる直流電力によって充電される。」期間においては、電力変換部(2)は「【0020】電力変換部2は、蓄電池92の充電の間、制御部7の指示に従って、商用電力系統95側からの交流電力を直流電力に変換するように構成される。」動作を行っており、商用電力系統(95)の停電と同時に「第1および第2変換部の間の接続点」の電圧も消滅するものであるので、蓄電池の充電期間においては、「【0038】・・第3開閉器6がオフからオンに切り替わ」ったとしても、「照明装置91が点灯する(S3)」ことが出来ないものであり、
(c)結局、蓄電池の電力を第1負荷に供給する系統連系運転時、及び、商用電力系統からの電力による蓄電池充電時の何れにも、「商用電力系統の停電時に系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作の入力を明るい状態の中でユーザが行うことが可能な給電システムを提供する」目的は達成されない。」


第5 当審の最後の拒絶理由についての判断
1.請求項1に「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」と記載されているが、「第1開閉器は、第1負荷と接続されて系統連系運転の間において前記電力変換部からの電力を前記第1負荷に供給するために用いられる」、「第1開閉器をオンにして前記蓄電池を前記商用電力系統に電気的に接続し前記第2開閉器をオフにした状態で給電を行うための前記系統連系運転」であるので、給電システムは、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行う系統連系運転を行うものである。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、検出部は、商用電力系統に接続される第1端子と電力変換部との間に接続された第1開閉器と、第1負荷との間に設けられたものとして記載されている。
発明の詳細な説明に記載された検出部で検出される電圧は、系統連系運転の間、第1負荷93に電力変換部2からの電力変換後の電力を供給する」(【0015】)電圧でもあって、商用電力系統が停電しても、電力変換部からの供給電圧が存在するので、商用電力系統が停電となっても停電と判別することはできない。
そうすると、請求項1の「商用電力系統に接続されている給電路に印加されている系統電圧が所定電圧範囲の下限値未満であるとき、前記商用電力系統の停電を検出するように構成される検出部」は、発明の詳細な説明の記載を参照しても、なぜ商用電力系統の停電を検出することができるのか不明である。

2.請求項1の「給電システム」は、「【0004】本発明の目的は、商用電力系統の停電時に系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作の入力を明るい状態の中でユーザが行うことが可能な給電システムを提供することにある。」ものであって、「停電の間、前記蓄電池に電気的に接続されて前記操作部の設置場所を照明するように構成される照明装置」が、「第3開閉器は、前記第1および第2変換部の間の接続点と前記照明装置との間に接続され」る構成で動作することによって、発明の目的を達成するものであるが、「停電を検出」は当該動作の前提となるものであり、停電を検出する構成が不明である請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の目的を達成することができないものであって、発明の詳細な説明に記載した発明といえない。

3.上記1.2.に記載したように、発明の詳細な説明に記載された検出部(4)で停電を検出することができず、発明の目的を達成することもできないものであるので、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に記載されたものでない。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された給電システムは、
(a)上記1.に記載したように、蓄電池を商用電力系統に電気的に接続し給電を行い、電力を第1負荷に供給する系統連系運転時において、商用電力系統の停電を検出することができるものでなく、また、
(b)蓄電池92が、「電力変換部2を介して商用電力系統95の商用電力から得られる直流電力によって充電される。」(【0019】)期間においては、電力変換部は「蓄電池92の充電の間、制御部7の指示に従って、商用電力系統95側からの交流電力を直流電力に変換するように構成され」(【0020】)ており、商用電力系統の停電と同時に「第1および第2変換部の間の接続点」の電圧も消滅するものであるので、蓄電池の充電期間においては、「第3開閉器6がオフからオンに切り替わ」(【0038】)ったとしても、「照明装置91が点灯する(S3)」ことが出来ないものであり、
蓄電池の電力を第1負荷に供給する系統連系運転時、及び、商用電力系統からの電力による蓄電池充電時の何れにも、「商用電力系統の停電時に系統連系運転から自立運転へ切り替えるための手動操作の入力を明るい状態の中でユーザが行うことが可能な給電システムを提供する」目的は達成されず、本願発明の詳細な説明の記載は、発明を当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明に記載した発明といえず、明確でないので、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願は拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-28 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-17 
出願番号 特願2013-556220(P2013-556220)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 575- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 嘉紀田中 寛人高橋 優斗  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 遠藤 尊志
中川 真一
発明の名称 給電システム  
代理人 坂口 武  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
代理人 西川 惠清  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 北出 英敏  

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