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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12N
管理番号 1340902
審判番号 不服2017-7581  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-26 
確定日 2018-06-26 
事件の表示 特願2014-521988「改善された活性を有するDNAポリメラーゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月31日国際公開、WO2013/013822、平成26年 9月 8日国内公表、特表2014-522656、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成24年7月26日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年7月28日、米国)とする出願であって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成28年 5月31日付け 拒絶理由通知
平成28年 9月 7日 意見書、手続補正書
平成28年10月 7日付け 拒絶理由通知
平成29年 1月18日 意見書、手続補正書
平成29年 1月26日付け 拒絶査定
平成29年 5月26日 審判請求書

第2 原査定の概要
原査定(平成29年1月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?13に係る発明は、以下の引用文献1、2、4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2004-508834号公報
2.米国特許出願公開第2005/0191635号明細書
4.特表2011-502467号公報

第3 本願発明
本願請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」という。)は、平成29年1月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
対照DNAポリメラーゼに比較して増加した逆転写酵素効率を有するDNAポリメラーゼであって、配列番号1に対して、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、配列番号1の522位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸が、Gであり、そして前記対照DNAポリメラーゼが、配列番号1の522位に対応する前記対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がEであること以外は、前記DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する、前記DNAポリメラーゼ。」

なお、本願発明2?13の概略は以下のとおりである。
すなわち、本願発明2?7は本願発明1を単に減縮した発明であり、本願発明10は本願発明1を用いる方法に係るものであり、本願発明11及び12は本願発明1を含むキットに係るものであり、本願発明13は本願発明1を含む反応混合物に係るものである。また、本願発明8は本願発明1のDNAポリメラーゼをコードする組み換え核酸に係るものであり、本願発明9は本願発明8の組み換え核酸を含む発現ベクターに係るものである。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、概略、以下の事項が記載されている。

(1-1)「【0030】
第8の態様において、本発明は、以下の変異(アミノ酸置換)を含むTaqポリメラーゼ変異体を提供する:D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、E520G、N583S、E694K、及びA743P。」(下線は強調のため当審で付した。以下同じ。)

(1-2)「【0092】
自己持続性配列複製(3SR)
自己持続性配列複製(3SR)はTASの変法であり、その方法では、酵素カクテル及び適切なオリゴヌクレオチドプライマーによって媒介される、逆転写酵素(RT)、ポリメラーゼ、及びヌクレアーゼの活性の連続的なラウンドによる核酸鋳型の等温増幅を行う(…)。RNA/DNAヘテロ二本鎖のRNAの酵素的分解を、熱変性の替わりに用いる。RNAaseH及びその他の酵素の全ては反応液中に添加され、全てのステップは同一温度で、さらに試薬を添加することなく行われる。このプロセスの後、42℃で1時間で10^(6)から10^(9)の増幅が達成されている。」

(1-3)「【0230】
…Taq変異体M1、M4、並びに不活性の変異体を親のプラスミドからプライマー12(Taqba2T7)及び2(TaqfoSal)を用いて増幅し、3SR反応を転写/翻訳抽出物(…)中で、逆転写酵素を外部から添加しなかったことを除いては上述のとおり行う。対照の反応では、反応混液からメチオニンを省く。37℃で3時間インキュベートした後、その反応液を上述のとおり処理し、PCRをプライマー6と12のプライマー対を用いて行って3SR反応の間に合成された産物を回収する。産物をアガロースゲル電気泳動で可視化すると、対照の反応と比較して、試験したクローンのうち、クローンM4は、正しいサイズのバンドをより濃く示した。従って、クローンM4はある程度の逆転写酵素活性を持つものと考えられる。…」

(1-4)「ミスマッチ伸長クローンM4:アミノ酸配列
(当審注:アミノ酸配列及び注は摘記せず。)
」(72頁)

(2)引用文献1に記載された発明
摘記事項(1-1)及び(1-4)からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「Taqポリメラーゼ変異体M4(D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、E520G、N583S、E694K、A743P)。」

2 引用文献2
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、概略、次の事項が記載されている。なお、訳文は当審で作成した。

(2-1)「[0270] RT-ポリメラーゼ変異体b及びdを用いて、372bpのRT-PCR産物が検出できた。
[0271] 図6に示されるゲルのレーンは、図4におけるクローンa、b及びdに対応する3つのクローンを含んでいる。加えて、Stoffel fragment ポリメラーゼであるe、及び市販のAMV-RT(Promega)を用いて陽性対照が実施された。
[0272] 図6のレーンは以下のとおりである。
[0273] レーン1:分子量マーカー
[0274] レーン2:対照AMV-RT
[0273] レーン3:b=配列番号:22
[0273] レーン4:a=配列番号:20
[0273] レーン5:e=配列番号:26
[0273] レーン6:d=配列番号:24


(2-2)「

」(17頁右欄)

(2-3)「

」(図6)

(2-4)「<210>配列番号:22
<211>長さ:562
<212>型:PRT
<213>生物:Thermus aquaticus
<400>配列:22
(当審注:アミノ酸配列は摘記せず。)」(29?31頁)

(2)引用文献2に記載された発明
摘記事項(2-1)、(2-2)及び(2-4)からみて、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「Taqポリメラーゼ変異体b(W827R、E520G、A608T)。」

3 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。

(4-1)「【請求項1】
a) Xa1-Xa2-Xa3-Xa4-R-Xa6-Xa7-Xa8-K-L-Xa11-Xa12-T-Y-Xa15-Xa16(配列番号1);ここでXa1はI又はLであり;Xa2はL又はQであり;Xa3はQ,H又はEであり;Xa4はY,H又はFであり;Xa6はE,Q又はKであり;Xa7はI,L又はYであり;Xa8はQ,T,M,G又はL以外のアミノ酸であり;Xa11はK又はQであり;Xa12はS又はNであり;Xa15はI又はVであり;そしてXa16はE又はDであり;
b) T-G-R-L-S-S-Xb7-Xb8-P-N-L-Q-N(配列番号2);ここでXb7はS又はTであり;そしてXb8はD,E又はN以外のアミノ酸であり;そしてc) Xc1-Xc2-Xc3-Xc4-Xc5-Xc6-Xc7-D-Y-S-Q-I-E-L-R(配列番号3);ここでXc1はG,N又はDであり;Xc2はW又はHであり;Xc3はW,A,L又はVであり;Xc4はI又はL以外のアミノ酸であり;Xc5はV,F又はLであり;Xa6はS,A,V又はG以外のアミノ酸であり;そしてXc7はA又はLである
から成る群より選択されたポリメラーゼドメイン中の少なくとも1つのモチーフを含んで成るDNAポリメラーゼであって、
ここでXa8がQ,T,M,G又はLから選択されたアミノ酸であり;Xb8がD,E又はNから選択されたアミノ酸であり;そしてXc1がS,A,V又はGから選択されたアミノ酸である別の同等のDNAポリメラーゼに比較して、改善された核酸伸長速度及び/又は改善された逆転写効率を有する、DNAポリメラーゼ。」

(4-2)「【請求項4】
前記DNAポリメラーゼが次のもの:
(a) CS5 DNAポリメラーゼ;
(b) CS6 DNAポリメラーゼ;
(c) サーモトガ・マリチマ(…)DNAポリメラーゼ;
(d) サーマス・アクアティカス(…)DNAポリメラーゼ;
(e) サーマス・サーモフィルス(…)DNAポリメラーゼ;
(f) サーマス・フラブス(…)DNAポリメラーゼ;
(g) サーマス・フィリフォルミス(…)DNAポリメラーゼ;
(h) サーマス種sps17 DNAポリメラーゼ;
(i) サーマス種Z05 DNAポリメラーゼ;
(j) サーモトガ・ネオポリタナ(…)DNAポリメラーゼ;
(k) サーモトガ・アフリカヌス(…)DNAポリメラーゼ;及び
(l) サーマス・カルドフィルス(…)DNAポリメラーゼから成る群より選択されたポリメラーゼに対して少なくとも90%の配列同一性を有する、
請求項1に記載のDNAポリメラーゼ。」

(4-3)「

」(図1)

第5 対比・判断
1 認定事実
本願明細書の【0088】からみて、本願配列番号1のアミノ酸配列で示されるポリペプチドは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼであるといえる。そして、本願明細書の【0087】に示される表1からみて、「T.種Z05」のDNAポリメラーゼ、すなわち、サーマス種Z05DNAポリメラーゼの522位のアミノ酸は、「T.アクアティクス」のDNAポリメラーゼ、すなわち、TaqDNAポリメラーゼの520位のアミノ酸に対応するといえる。そうすると、TaqDNAポリメラーゼの520位のアミノ酸は、本願配列番号1の522位のアミノ酸に対応すると認められる。
また、サーマス種Z05DNAポリメラーゼとTaqDNAポリメラーゼとは、前者に相当する本願明細書の配列番号1のアミノ酸配列(アミノ酸数834)と、後者に相当する配列番号2のアミノ酸配列(アミノ酸数832)とのCLUSTALWによる比較により(当審注:比較結果は省略)、約86%のアミノ酸配列同一性を有するものであるから、仮に、配列番号2のアミノ酸配列のうちの10か所を、対応する配列番号1のアミノ酸に置換したとしても、90%未満のアミノ酸配列同一性を有するに留まるといえる。

2 本願発明1について
(1)引用発明1との対比・判断
ア 対比
引用発明1は、変異型Taq(D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、N583S、E694K、A743P)を対照DNAポリメラーゼ(以下「対照DNAポリメラーゼ1」という。)と仮定した場合、対照DNAポリメラーゼ1に対し、E520Gの変異を加えた変異体であるといえる。
また、引用発明1はTaqDNAポリメラーゼの変異体であるから、前記1で検討したとおり、引用発明1のE520Gの変異は、本願配列番号1のE522Gの変異に対応するものといえる。
さらに、引用発明1は10か所にアミノ酸置換を有するTaqポリメラーゼ変異体であるから、仮に、これらのアミノ酸置換の全てが、対応する配列番号1のアミノ酸に置換するものであったとしても、前記1で検討したとおり、本願配列番号1とは90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さないといえる。
そうすると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点) 「DNAポリメラーゼであって、配列番号1の522位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸が、Gであり、そして対照DNAポリメラーゼが、配列番号1の522位に対応する前記対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がEであること以外は、前記DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する、前記DNAポリメラーゼ。」

(相違点1) DNAポリメラーゼが、本願発明1は「対照DNAポリメラーゼに比較して増加した逆転写酵素効率を有する」ものであるのに対し、引用発明1はその点が特定されていない点。

(相違点2) DNAポリメラーゼが、本願発明1は「配列番号1に対して、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する」ものであるのに対し、引用発明1は、配列番号1に対して、90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さないTaqポリメラーゼ変異体である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2についてみてみると、前記1で検討したとおり、本願配列番号1のアミノ酸配列で示されるポリペプチドは、サーマス種Z05DNAポリメラーゼであるといえるから、相違点2は、以下の相違点2’に換言することができるといえる。

(相違点2’) DNAポリメラーゼが、本願発明1は、サーマス種Z05DNAポリメラーゼに対して、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するものであるのに対し、引用発明1は、サーマス種Z05DNAポリメラーゼに対して、90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さない、Taqポリメラーゼ変異体である点。

そこで、相違点2’について、すなわち、引用発明1のTaqポリメラーゼに替えて、サーマス種Z05DNAポリメラーゼを採用することの容易想到性について以下で検討する。
まず、摘記事項(1-2)及び(1-3)からみて、引用発明1のTaqポリメラーゼ変異体M4は、ある程度の逆転写酵素活性を有するといえるものの、本願優先日当時の技術常識からみて、野生型Taqポリメラーゼもある程度の逆転写酵素活性を有するといえるから、引用文献1の記載からは、引用発明1が、野生型Taqポリメラーゼと比較して増加した逆転写酵素活性を有すると認識することはできない。
また、引用発明1は、対照DNAポリメラーゼ1に対し、E520Gの変異を加えた変異体であるものの、引用文献1の記載からでは、引用発明1が、対照DNAポリメラーゼ1と比較して増加した逆転写酵素活性を有すると認識することもできない。
そうすると、引用文献1には、「D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、E520G、N583S、E694K、A743P」という10か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることにより、変異を加える前よりも増加した逆転写酵素活性を有するTaqDNAポリメラーゼ変異体を取得することが記載されているとはいえない。
ここで、摘記事項(4-1)?(4-3)からみて、引用文献4には、種々の異なるDNAポリメラーゼが、DNAポリメラーゼドメインにおいて保存されたモチーフを有しており、該保存されたモチーフにアミノ酸変異を加えて、DNAポリメラーゼに改善された逆転写効率を付与することが記載されているといえる。また、引用文献4には、その対象として、サーマス種Z05DNAポリメラーゼが挙げられている。そうすると、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにアミノ酸変異を加えて、改善された逆転写効率を付与することは、引用文献4に示唆されているといえる。
しかし、上記のとおり、引用文献1には、「D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、E520G、N583S、E694K、A743P」という10か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることにより、変異を加える前よりも増加した逆転写酵素活性を有するTaqDNAポリメラーゼ変異体を取得することが記載されているとはいえないから、当業者が、引用文献4の示唆に基づき、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにアミノ酸変異を加えることにより、改善された逆転写効率を付与しようとする場合であっても、「D58G、R74P、A109T、L245R、R343G、G370D、E520G、N583S、E694K、A743P」という10か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることの動機づけを、引用文献1の記載から見出すことはできないといえる。
したがって、引用発明1のTaqポリメラーゼに替えて、サーマス種Z05DNAポリメラーゼを採用し、相違点2’の構成とすること、すなわち、相違点2の構成とすることを当業者が容易に想到しうるとはいえない。
そして、本願発明1は、本願明細書の実施例1?3の記載から明らかなとおり、E522Gとの変異を加えることにより、該変異を加える前よりも増加した逆転写酵素効率を付与することができるとの有利な効果を奏するものといえる。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1に引用文献4に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)引用発明2との対比・判断
ア 対比
引用発明2は、変異型Taq(W827R、A608T)を対照DNAポリメラーゼ(以下「対照DNAポリメラーゼ2」という。)と仮定した場合、対照DNAポリメラーゼ2に対し、E520Gの変異を加えた変異体であるといえる。
また、引用発明2はTaqDNAポリメラーゼの変異体であるから、前記1で検討したとおり、引用発明2のE520Gの変異は、本願配列番号1のE522Gの変異に対応するものといえる。
さらに、引用発明2は3か所にアミノ酸置換を有するTaqポリメラーゼ変異体であるから、仮に、これらのアミノ酸置換の全てが、対応する配列番号1のアミノ酸に置換するものであったとしても、前記1で検討したとおり、本願配列番号1とは90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さないといえる。
そうすると、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点) 「DNAポリメラーゼであって、配列番号1の522位に対応する前記DNAポリメラーゼのアミノ酸が、Gであり、そして対照DNAポリメラーゼが、配列番号1の522位に対応する前記対照DNAポリメラーゼのアミノ酸がEであること以外は、前記DNAポリメラーゼと同じアミノ酸配列を有する、前記DNAポリメラーゼ。」

(相違点3) DNAポリメラーゼが、本願発明1は「対照DNAポリメラーゼに比較して増加した逆転写酵素効率を有する」ものであるのに対し、引用発明2はその点が特定されていない点。

(相違点4) DNAポリメラーゼが、本願発明1は「配列番号1に対して、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する」ものであるのに対し、引用発明2は、配列番号1に対して、90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さないTaqポリメラーゼ変異体である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4についてみてみると、前記(1)イで相違点2について検討したことと同様の理由により、相違点4は、以下の相違点4’に換言することができるといえる。

(相違点4’) DNAポリメラーゼが、本願発明1は、サーマス種Z05DNAポリメラーゼに対して、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するものであるのに対し、引用発明2は、サーマス種Z05DNAポリメラーゼに対して、90%未満のアミノ酸配列同一性しか有さない、Taqポリメラーゼ変異体である点。

そこで、相違点4’について、すなわち、引用発明2のTaqポリメラーゼに替えて、サーマス種Z05DNAポリメラーゼを採用することの容易想到性について以下で検討する。

まず、摘記事項(2-1)からみて、引用発明2のTaqポリメラーゼ変異bは、RT-PCR産物が検出できる程度の逆転写酵素活性を有するといえるものの、摘記事項(2-3)のレーン3に何らかのバンドが強く出ているとは認識できないから、その活性の程度が高いとまでは認識できず、また、本願優先日当時の技術常識からみて、野生型Taqポリメラーゼもある程度の逆転写酵素活性を有するといえるから、引用文献2の記載からは、引用発明2が、野生型Taqポリメラーゼと比較して増加した逆転写酵素活性を有すると認識することはできない。
さらに、引用発明2は、対照DNAポリメラーゼ2に対し、E520Gの変異を加えた変異体であるものの、引用文献2の記載からでは、引用発明2が、対照DNAポリメラーゼ2と比較して増加した逆転写酵素活性を有すると認識することもできない。
そうすると、引用文献2には、「W827R、E520G、A608T」という3か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることにより、変異を加える前よりも増加した逆転写酵素活性を有するTaqDNAポリメラーゼ変異体を取得することが記載されているとはいえない。
ここで、前記(1)イで検討したとおり、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにアミノ酸変異を加えて、改善された逆転写効率を付与することは、引用文献4に示唆されているといえるものの、上記のとおり、引用文献2には、「W827R、E520G、A608T」という3か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることにより、変異を加える前よりも増加した逆転写酵素活性を有するTaqDNAポリメラーゼ変異体を取得することが記載されているとはいえないから、当業者が、引用文献4の示唆に基づき、サーマス種Z05DNAポリメラーゼにアミノ酸変異を加えることにより、改善された逆転写効率を付与しようとする場合であっても、「W827R、E520G、A608T」という3か所の変異を加えることや、「E520G」という1か所の変異を加えることの動機づけを、引用文献2の記載から見出すことはできないといえる。
したがって、引用発明2のTaqポリメラーゼに替えて、サーマス種Z05DNAポリメラーゼを採用し、相違点4’の構成とすること、すなわち、相違点4の構成とすることを当業者が容易に想到しうるとはいえない。
そして、前記(1)イで検討したとおり、本願発明1は、E522Gとの変異を加えることにより、該変異を加える前よりも、増加した逆転写酵素効率を付与することができるとの有利な効果を奏するものといえる。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2に引用文献4に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)小括
以上からみて、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び2並びに引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明2?7について
本願発明2?7は本願発明1を単に減縮した発明であって、いずれも本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同一の理由により、当業者であっても、引用発明1及び2並びに引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明8及び9について
本願発明8は本願発明1のDNAポリメラーゼをコードする組み換え核酸に係るものであって、また、本願発明9は本願発明8の組み換え核酸を含む発現ベクターに係るものであって、いずれも本願発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び2並びに引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明10?13について
本願発明10は本願発明1を用いる方法に係るものであって、また、本願発明11及び12は本願発明1を含むキットに係るものであって、さらに、本願発明13は本願発明1を含む反応混合物に係るものであって、いずれも本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同一の理由により、当業者であっても、引用発明1及び2並びに引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?13は、当業者が、引用文献1、2、4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-13 
出願番号 特願2014-521988(P2014-521988)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮岡 真衣  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 小暮 道明
松浦 安紀子
発明の名称 改善された活性を有するDNAポリメラーゼ  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 津田 英直  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 青木 篤  

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