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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1341049
異議申立番号 異議2017-700841  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-06 
確定日 2018-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6093793号発明「水圧転写用ベースフィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6093793号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6093793号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6093793号の請求項1-請求項4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2015-52565号)は,平成27年3月16日に出願され,平成29年2月17日に特許権の設定の登録がされたものである。本件特許について,平成29年3月8日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である同年9月6日に,特許異議申立人 能條明奈から全請求項に対して特許異議の申立てがされた(異議2017-700841号)。
その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年11月27日付け:取消理由通知書
平成30年 1月29日付け:意見書(特許権者)
平成30年 1月29日付け:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。)
平成30年 3月 6日付け:意見書(特許異議申立人)
(この意見書を,「特許異議申立人意見書」という。)

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1) 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第6093793号の明細書及び特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正することを求める,というものである。

(2) 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正は,以下のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ノニオン及び/又はアニオン系界面活性剤を含有し,及び可塑剤を」と記載されているのを,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100質量部に対して可塑剤を」に訂正する。請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項4についても,同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「水溶性樹脂」と記載されているのを,「ポリビニルアルコール」に訂正する。請求項2の記載を引用して記載された請求項3及び4についても,同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
明細書の【0033】に「実施例1?10及び比較例」と記載されているのを,「参考例1?8,実施例1?2,及び比較例」に訂正する。

エ 訂正事項4
明細書の【0033】及び【0034】に「実施例1」,「実施例2」,「実施例3」,「実施例4」,「実施例5」,「実施例6」,「実施例7」,「実施例8」,「実施例9」及び「実施例10」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」,「参考例2」,「参考例3」,「参考例4」,「参考例5」,「参考例6」,「参考例7」,「参考例8」,「実施例1」及び「実施例2」に訂正する。

オ 訂正事項5
明細書の【0035】及び【0036】に「実施例1」及び「実施例2」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」及び「参考例2」に訂正する。

カ 訂正事項6
明細書の【0039】の表1に「実施例1」,「実施例2」,「実施例3」,「実施例4」,「実施例5」,「実施例6」,「実施例7」,「実施例8」,「実施例9」及び「実施例10」と記載されているのを,それぞれ「参考例1」,「参考例2」,「参考例3」,「参考例4」,「参考例5」,「参考例6」,「参考例7」,「参考例8」,「実施例1」及び「実施例2」に訂正する。

キ 訂正事項7
明細書の【0040】に「実施例1?10」及び「実施例3?5及び10」と記載されているのを,それぞれ「実施例1及び2」及び「実施例2」に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 特許法120条の5第4項について
特許請求の範囲の請求項1-請求項4の引用関係からみて,本件訂正請求は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である,〔請求項1-請求項4〕ごとにされたものである。

(2) 訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1についての,訂正事項1による訂正は,[A]「ノニオン系界面活性剤」と「アニオン系界面活性剤」が取り得る組み合わせを,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」に限定するとともに,[B]本件特許の願書に添付した明細書の【0013】の記載に基づいて,可塑剤の重量部が「ポリビニルアルコール100質量部に対して」の重量部であることを明らかにする訂正である。また,請求項1の訂正に伴い連動して訂正されることになる請求項2-請求項4についても,同様である。
したがって,訂正事項1による訂正は,[A]特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び[B]同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項2についての,訂正事項2による訂正は,訂正事項1による訂正に合わせて「水溶性樹脂」が「ポリビニルアルコール」であることを明らかにする訂正である。また,請求項2の訂正に伴い連動して訂正されることになる請求項3及び請求項4についても,同様である。
したがって,訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項3-訂正事項6について
明細書についての,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,前記訂正事項1による訂正に伴って,請求項1-請求項4に係る発明の範囲に含まれないものとなる実施例1-実施例8が,参考のためであることを明らかにするものである。
したがって,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,前記訂正事項1による訂正に伴い,発明の詳細な説明の記載が明瞭でないものとなることを避けることを目的としたものであるから,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる,「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。そして,訂正事項3-訂正事項6に係る訂正後の請求項を含む一群の請求項は,請求項1-請求項4であるところ,訂正事項3-訂正事項6による訂正は,請求項1-請求項4について行われたものである。

(5) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正(訂正事項1-訂正事項6による訂正)は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条9項において準用する同法126条4項-6項の規定に適合する。また,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定にも適合する。

第3 当合議体が通知した取消の理由について
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって,本件特許の請求項1-請求項4に係る発明(以下「本件特許発明1」-「本件特許発明4」という。)は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項4に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5?5重量部含有し,印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である,重合度1000?4000,ケン化度70?99モル%の,厚みが15?100μmであるポリビニルアルコールフィルムであり,基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための水圧転写用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール100重量部に対してアニオン系界面活性剤を0.1?5.0重量部含有する請求項1に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項3】
引張弾性率が6000MPa以下である請求項1又は2に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項4】
架橋剤を配合していない請求項1?3のいずれかに記載の水圧転写用ベースフィルム。」

2 取消の理由の概要
平成29年11月27日付けで特許権者に通知した取消の理由は,概略,[A]本件訂正請求による訂正前の請求項1,請求項2及び請求項4に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲1(特開2008-143969号公報)に記載された発明であり,また,[B]本件訂正請求による訂正前の請求項1-請求項4に係る発明は,前記甲1に基づいてその出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条の規定に違反してされたものであるから,本件特許は取り消されるべきものである,というものである。

3 当合議体の判断
(1) 甲1の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である前記甲1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
ガラス転移温度が15?32℃の範囲内であることを特徴とする液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項2】
ベースフィルムの水分率が3.5?5重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項3】
ベースフィルムが,ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし,可塑剤を含有してなるフィルム形成材料からなり,かつ上記可塑剤の含有量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して5重量部以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項4】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の4重量%水溶液粘度が,20℃において10?70mPa・sの範囲内であり,かつ平均ケン化度が70?98モル%の範囲内であることを特徴とする請求項3記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。
【請求項5】
ベースフィルムの厚みが,20?50μmの範囲内であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項記載の液圧転写印刷用ベースフィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液面,とりわけ水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム,およびそれを用いた液圧転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,水圧転写印刷用ベースフィルムとしては,ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とするポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記特許文献1をはじめとする従来のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いた水圧転写方法では,ベースフィルムに高精細な意匠を印刷する際にフィルムが伸びることにより,イメージ通りの印刷がしづらいと言った印刷適性の問題がある。
…(省略)…
【0005】
本発明は,このような事情に鑑みなされたもので,印刷適性に優れ,かつカール発生が抑制されて転写効率に優れ,さらに転写時の付きまわり性にも優れた液圧転写印刷用ベースフィルムおよびそれを用いた液圧転写方法の提供をその目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
…(省略)…
【発明の効果】
【0009】
このように,本発明は,ガラス転移温度が15?32℃の範囲内となる液圧転写印刷用ベースフィルムである。このため,良好な印刷適性を有し,液圧転写印刷時に,ベースフィルムを液面に浮かべてもカールの発生が抑制され,優れた生産性,さらに優れた転写時の付きまわり性を発揮するようになる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明について詳細に説明する。
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルム(以下「ベースフィルム」と称す)は,ガラス転移温度が15?32℃の範囲内であるフィルムである。
【0014】
上記ベースフィルムは,例えば,ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とし,可塑剤を含有してなるフィルム形成材料を用いてフィルム状に形成されてなる。
…(省略)…
【0016】
また,上記PVA系樹脂の4重量%水溶液の20℃における平均粘度が,10?70mPa・sの範囲であることが好ましく,15?60mPa・sの範囲であることがより好ましい。
…(省略)…
【0017】
さらに,上記PVA系樹脂の平均ケン化度が,70?98モル%の範囲であることが好ましく,より好ましくは75?96モル%の範囲である。
…(省略)…
【0018】
上記可塑剤としては,例えば,グリセリン,ジグリセリン,トリグリセリン等のグリセリン類,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパンなどがあげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0019】
上記可塑剤の含有量は,PVA系樹脂100重量部(以下「部」と略すことがある。)に対して,5部以下に設定することが好ましく,0.05?4部に設定することがより好ましい。すなわち,上記可塑剤の含有量が少なすぎると,可塑効果が低く,得られるベースフィルムの破断の原因となりやすく,含有量が多すぎると,フィルム面に意匠を印刷する際の寸法安定性が悪く,高精細な印刷が困難となる傾向がみられるからである。
【0020】
上記フィルム形成材料には,上記PVA系樹脂および可塑剤以外に,必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0021】
例えば,ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として,界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては,特に限定するものではなく,例えば,ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル,ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンラウリルアミン,ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも,剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。上記界面活性剤の含有量については,特に限定されないが,PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01?5部に設定することが好ましく,0.03?4.5部に設定することがより好ましい。すなわち,上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられるからである。
…(省略)…
【0041】
まず,上記連続方式による液圧転写方法について述べる。すなわち,上記のようにして得られたベースフィルム面に所定の意匠を印刷する。その後,上記意匠印刷面に活性剤を塗工する。そして,吸水後にベースフィルムが伸展し,意匠がぼけないように上記ベースフィルムの流れ方向に対し幅方向に1.25倍以下の規制を設けて,活性剤が塗布された意匠印刷面を上方にしてベースフィルムを液面に浮かべるとともに移動させる。移動する上記ベースフィルム上方から被転写体を押し当て,ベースフィルム面に印刷された意匠を被転写体表面に転写し固着することにより液圧転写印刷が行われる。そして,固着した後は,ベースフィルムを除去し意匠を転写した被転写体を充分に乾燥させることにより目的とする製品を得るのである。」

オ 「【実施例】
【0047】
以下,実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお,例中「%」とあるのは,断りのない限り重量基準を意味する。
【0048】
〔実施例1?4,比較例1?4〕
下記の表1に示す各成分及び澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1部を水に溶解して18%水溶液を調製した。そして,上記水溶液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させた後,85℃の熱ロール1本に7秒間接触させることによりPVA系樹脂フィルム(ベースフィルム)を作製した。
…(省略)…
【0051】
【表1】


…(省略)…
【0059】
【表2】




(2) 甲1発明
甲1には,甲1の【0001】に記載された技術分野に属する,具体的実施例(実施例1:【0048】,【0051】の表1及び【0059】の表2)として,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。なお,【0048】に記載の澱粉及び界面活性剤の分量,並びに,【0051】の表1に記載の可塑剤の分量が,ポリビニルアルコール100重量部に対するものであることは,甲1の【0019】の下線部の記載等からみて明らかである。また,用語を統一して記載した。)。
「 水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルムであって,
粘度26mPa・s,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,可塑剤としてグリセリン2重量部,澱粉5重量部,界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩1重量部を水に溶解して18%水溶液を調製し,
上記水溶液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させた後,85℃の熱ロール1本に7秒間接触させることにより作製した,
膜厚が30μm,水分率が3.7%,ガラス転移温度28℃である,
液圧転写印刷用ベースフィルム。」

(3) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 水圧転写用ベースフィルム
甲1発明は,「水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルム」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」に相当する。

イ 界面活性剤
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,「界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」を含有するものである。また,「ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」がアニオン系界面活性剤であることは,技術的にみて明らかである。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」における「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という要件のうち「アニオン系界面活性剤を含有し」という要件を満たす。

ウ 可塑剤
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,「ポリビニルアルコール100重量部」に対して「可塑剤としてグリセリン2重量部」を含有するものである。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」における,「ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5?5重量部含有し」という要件を満たす。

エ 重合度
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」における「ポリビニルアルコール」は,「粘度26mPa・s」である。ここで,ポリビニルアルコールの重合度と粘度は,重合度を粘度で代用表記しても差し支えがないほど相関度が高いものであるところ,「粘度26mPa・s」に対応する重合度は約2000である。また,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,その材料及び製造工程からみて,ポリビニルアルコールフィルムということができる。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「重合度1000?4000」「であるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。

オ ケン化度
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」における「ポリビニルアルコール」は,「ケン化度88モル%」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「ケン化度88モル%」「であるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。

カ 厚み
甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,「膜厚が30μm」である。
したがって,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,本件特許発明1の「厚みが15?100μmであるポリビニルアルコールフィルム」の要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「アニオン系界面活性剤を含有し,ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5?5重量部含有し,重合度1000?4000,ケン化度70?99モル%の,厚みが15?100μmであるポリビニルアルコールフィルムである,水圧転写用ベースフィルム。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
界面活性剤について,本件特許発明1は,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を含有するのに対して,甲1発明は,「アニオン系界面活性剤」は含有するものの,「ノニオン系界面活性剤」は含有しない点。

(相違点2)
本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」は,「印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である」のに対して,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,これが明らかではない点。

(相違点3)
本件特許発明1の「水圧転写用ベースフィルム」は,「基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための」ものであるのに対して,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」は,これが明らかではない点。

(5) 判断
29条1項3号について
本件特許発明1と甲1発明は,相違点1-相違点3において,相違する。
したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明であるということはできない。

29条2項について
事案に鑑みて,相違点1及び相違点2について検討する。
甲1発明の界面活性剤は,「ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上」(甲1の【0021】)を目的として配合されたものである。また,甲1の【0021】には,10種類以上の界面活性剤が例示されているところ,その中には,ノニオン系の界面活性剤も含まれるとともに,「これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる」と記載されている。しかしながら,「これらは…2種以上併せて用いられる」という記載は,2種以上の界面活性剤を併用することを意味する記載であり,「ノニオン系界面活性剤」と「アニオン系界面活性剤」を組み合わせて併用することを意味する記載ではない。甲1には,ノニオン系とアニオン系の界面活性剤を区別するような記載がない。加えて,甲1の【0021】には,「上記界面活性剤の含有量については,特に限定されないが,PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01?5部に設定することが好ましく,0.03?4.5部に設定することがより好ましい。すなわち,上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられるからである。」と記載されている。
したがって,[A]当業者が,何らかの理由により甲1発明の「ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩」を他のものに替えることとし,[B]その際,甲1の【0021】の「これらは…2種以上併せて用いられる」という記載に着目し,[C]そして,甲1の【0021】に列挙された界面活性剤の中から,2種以上の界面活性剤として「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を選択した場合を仮定しても,その際には,「製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性」や「フィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられること」を勘案して,界面活性剤の含有量を「PVA系樹脂と可塑剤の合計100部に対して0.01?5部」又は「0.03?4.5部」の範囲で調整すると考えるのが妥当である。そして,このように調製されてなる甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」の印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,上記相違点2に係る本件特許発明の構成を満たすものとなるかは,判らない。
すなわち,本件特許発明1の界面活性剤は,「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」(【0032】)ことを目的としたものである。そして,本件特許発明1は,この目的に合致するように界面活性剤の含有量を調整した結果として,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成(印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°であるという構成)が得られている。これに対して,甲1発明の界面活性剤は,「ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上」(【0021】)という,甲1発明の目的とは異質な目的のためのものであり,そこに「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」という技術的思想は存在しない。
そうしてみると,仮に,甲1発明において当業者が上記[A]-[C]について思い到ったとしても,その場合の液圧転写印刷用ベースフィルムの印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を満たすものになるとまでは,いうことができない。
したがって,上記相違点3について検討するまでもなく,本件特許発明1は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

(6) 本件特許発明2-本件特許発明4について
本件特許発明2-本件特許発明4は,本件特許発明1に対してさらに他の発明特定事項を加えた発明であり,いずれも,前記相違点1及び相違点2に係る構成を具備する。
したがって,本件特許発明2及び本件特許発明4は,甲1に記載された発明ということはできない。また,本件特許発明1と同一の理由により,本件特許発明2-本件特許発明4は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第4 その他の取消の理由について
1 29条1項3号(甲1)について
本件特許発明3と甲1発明は,少なくとも,前記「第3」3(4)イに記載したとおりの相違点1-相違点3において,相違する。
したがって,本件特許発明3は,甲1に記載された発明であるということはできない。

2 29条2項(甲1及び甲5-甲8)について
特許異議申立人は,本件特許発明1-本件特許発明4が,当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたことを裏付ける証拠として,以下の甲5-甲8を提出している。
甲5:著者不明,「ポバール」,[online],作成日不明,株式会社クラレ,インターネット
甲6:著者不明,「水溶性ポリマー」,株式会社シーエムシー,1992年11月30日,78-103頁
甲7:伊保内賢,他2,「ポリマーフィルムと機能薄膜」,技報堂出版株式会社,1991年4月20日,92-101,306,307頁
(当合議体注:人名の「賢」は,正しくは「又」の部分が「忠」である。)
甲8:水町浩,他1,「表面処理技術ハンドブック」,株式会社エヌ・ティー・エス,158,159頁

しかしながら,甲5-甲8には,ポリビニルアルコールの一般的な物性や本件出願時の技術水準が開示されているにすぎず,甲1発明の「液圧転写印刷用ベースフィルム」において「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を採用したときに,印刷面の表面固有抵抗値及び接触角が,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を満たすものになることを裏付けるものではない。
したがって,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,当業者が,甲1に記載された発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて,容易に発明できたものであるということはできない。

3 甲2を証拠とする取消の理由について
(1) 甲2(特開2005-60636号公報)の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度500?3000,ケン化度80?99.9モル%のポリビニルアルコール(A)からなり,水分率が1.5?4.0%であり,厚みが20?50μm,フィルムの長手方向に50℃で8.0kg/mの張力を1分間かけた時の幅収縮率が0.01?1.5%であることを特徴とする水圧転写用ベースフィルム。
…(省略)…
【請求項4】
ポリビニルアルコール(A)100重量部に対して,可塑剤(B)が0.5?10重量部および/又は澱粉類(C)が0.1?15重量部配合されていることを特徴とする請求項1又は2項記載の水圧転写用ベースフィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,凹凸のある立体面や曲面を有する成形体に高精細な意匠を付与するのに適した水圧転写用ベースフィルムに関する。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,本発明の目的とするところは,凹凸を有する非平面形状の成形体の表面に高精細な印刷パターンを転写印刷することができる水圧転写用ベースフィルムを提供し,さらにこのような水圧転写用ベースフィルムを用いた水圧転写用印刷シートの製造法を提供することにある。
…(省略)…
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
…(省略)…
【0016】
また,本発明の水圧転写用ベースフィルムには,本発明の効果を損なわない範囲であれば,水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度,水中での延展性,水中での拡散に要する時間を調節する目的で,無機塩類や界面活性剤などの添加剤を添加することができる。
…(省略)…
界面活性剤としては特に制限はないが,水圧転写用シートの水面での延展性,および印刷面の寸法安定性の観点からノニオン性界面活性剤が好適である。界面活性剤の添加量は,印刷層のベースフィルムへの密着性などの点から,PVA100重量部に対して,好ましくは5重量部以下であり,より好ましくは1重量部以下である。
…(省略)…
【実施例1】
【0032】
ドラム式製膜機を用い,重合度1750,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,グリセリン5重量部,エーテル化澱粉3重量部,および界面活性剤0.5重量部からなる30%水溶液を,Tダイから,回転する表面温度90℃のドラム上に吐出して乾燥し,水分率が2.7%のときに剥離した後,得られたPVAフィルムに対して,エンボスロール温度100℃,線圧30kg/cmの条件でエンボス加工を行い,厚みが30μmのロール状の水圧転写用ベースフィルムを得た。得られたベースフィルムの含水率は2.4%であった。」

(2) 甲2発明
甲2には,実施例1として,次の発明が記載されている(以下「甲2発明」という。)。
「 ドラム式製膜機を用い,重合度1750,ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100重量部,グリセリン5重量部,エーテル化澱粉3重量部,および界面活性剤0.5重量部からなる30%水溶液を,Tダイから,回転する表面温度90℃のドラム上に吐出して乾燥し,水分率が2.7%のときに剥離した後,得られたPVAフィルムに対して,エンボスロール温度100℃,線圧30kg/cmの条件でエンボス加工を行い得られた,
厚みが30μm,含水率が2.4%である,
ロール状の水圧転写用ベースフィルム。」

(3) 判断
事案に鑑みて判断のみを示す。
29条1項3号について
甲2発明の材料及び製造工程からみて,甲2発明の「ロール状の水圧転写用ベースフィルム」には,「界面活性剤」が含まれるといえる。
しかしながら,甲2発明における界面活性剤が,どのような種類のものかは,明らかでない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲2に記載された発明ということができない。

29条2項について
甲2の【0016】には,「界面活性剤としては特に制限はないが,水圧転写用シートの水面での延展性,および印刷面の寸法安定性の観点からノニオン性界面活性剤が好適である。」と記載されている。
そうしてみると,甲2発明の具体化を試みる当業者ならば,甲2発明の界面活性剤として,「ノニオン性界面活性剤」を採用すると考えられる。また,この点は,甲5-甲8に記載された事項を考慮しても,変わらない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲2発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

4 甲3を証拠とする取消の理由について
(1) 甲3(特開2009-160922号公報)の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液面,とりわけ水面に浮かべて使用し,フィルム面に印刷された意匠を被転写体に対して円滑に転写することのできる液圧転写印刷用ベースフィルムに関するものである。
…(省略)…
【発明の効果】
【0009】
本発明の液圧転写印刷用ベースフィルムは,フィルムの両端の特定領域におけるフィルム表面のたわみ率(T)(%)が特定範囲であるため,良好な意匠印刷適性を有し,液圧転写印刷用のベースフィルムとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
…(省略)…
【0024】
上記フィルム形成材料には,上記PVA系樹脂および可塑剤以外に,必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0025】
例えば,ベースフィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性の向上を目的として,界面活性剤を配合することができる。上記界面活性剤としては,例えば,ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル,ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート,ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンラウリルアミン,ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも,剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩,ポリオキシエチレンアルキルアミン,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0026】
上記界面活性剤の含有量については,PVA系樹脂と可塑剤の合計100重量部に対して通常0.01?5重量部であることが好ましく,0.03?4.5重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると,製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して製造困難となる傾向がみられ,逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして意匠印刷層が脱落する原因となる傾向がみられる。
…(省略)…
【実施例】
【0056】
…(省略)…
【0061】
〔実施例1〕
4%水溶液粘度26mPa・s(20℃),平均ケン化度88モル%のPVA100部に,可塑剤としてグリセリン2部,澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得た。そして,上記水分散液を用い,ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により,10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させ,PVAフィルムを得た後,フィルム両端部をスリットし,ベースフィルムを2週間連続して作製した(フィルム幅:1000mm,フィルム長さ:300m毎に巻き替え,フィルム膜厚:30μm)。なお,上記で使用した水はイオン交換水(モリブデンブルー法により測定されるケイ素含有量:0.01ppm以下)であり,ベルト表面には不純物被覆のない清面で製膜時のフィルム剥離に必要な張力は1kg/m,キャスト面の速度に対して剥離の速度が1.04倍であった。また,領域(S_(1))のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%,領域(S_(2))のフィルム表面のたわみ率(T)は1.5%,領域(S_(3))のフィルム表面のたるみ率(T)は0.5%であり,水分率は3.5%であった。」

(2) 甲3発明
甲3には,「水圧転写用ベースフィルム」(【0001】)の実施例1として,次の発明が記載されている(以下「甲3発明」という。)。
「 4%水溶液粘度26mPa・s(20℃),平均ケン化度88モル%のPVA100部に,可塑剤としてグリセリン2部,澱粉5部,界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート1.2部を水に溶解して18%水分散液を得て,
10m/minの速度で流延製膜法に従い製膜し,温度95℃の条件で乾燥させ,ポリビニルアルコールフィルムを得た後,フィルム両端部をスリットして作製した,
水分率が3.5%である,
水圧転写用ベースフィルム。」

(3) 判断
事案に鑑みて,判断のみを示す。
29条1項3号について
甲3発明の材料及び製造方法からみて,甲3発明の「水圧転写用ベースフィルム」には,界面活性剤として,「ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート」のみが含まれている。また,「ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート」は,ノニオン系の界面活性剤である。
そうしてみると,甲3発明に含まれる界面活性剤はノニオン系の界面活性剤の1種類である。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲3に記載された発明ということができない。

29条2項について
甲3には,界面活性剤に関して,甲1の【0021】と同様の記載があるにとどまる(甲3の【0025】及び【0026】)。
したがって,甲1発明の場合と同様の理由により,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲3発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

5 甲4を証拠とする取消の理由について
(1) 甲4(国際公開第2008/142835号)の記載
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された甲4には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する箇所を示す。
ア 「技術分野
[0002] 本発明は,水溶性ポリビニルアルコール系フィルムのロール状物およびその製造方法,ならびに前記ロール状物の保管方法に関する。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0008] 最近,水溶性PVAフィルムに印刷を施す際の印刷精度を向上させたり,製袋加工する際のロスを低減させるため,今まで以上にタルミ(または歪み)やシワが解消された水溶性PVAフィルムが求められるようになってきている。
…(省略)…
発明の効果
[0029] 本発明では,水溶性PVAフィルムのロール状物を製造するに際し,特定の乾燥条件で水分含有率を調整したフィルムを特定の張力で巻き取るため,柔軟で延伸性のある水溶性PVAフィルムであっても,保管時にフィルムに発生する残存応力を低減することができ,フィルムを巻きもどして使用する際に問題となるタルミやシワの発生を抑制することができる。
…(省略)…
[0050] PVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することもできる。配合することが可能な界面活性剤の種類としては,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤,カチオン系界面活性剤,両性界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては,例えば,ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型,オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型,ドデシルベンゼンスルホネート,アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては,例えば,ポリオキシエチレンオレイルエーテル,ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのアルキルエーテル型,ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型,ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型,ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型,ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型,オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型,ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては,例えば,ラウリルアミン塩酸塩などのアミン類,ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩類,ラウリルビリジニウムクロライドなどのピリジウム塩などが挙げられる。さらに,両性界面活性剤としては,N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタインなどが挙げられる。界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
[0051] 界面活性剤の配合量は,PVAに対して0.01?7重量%が好ましく,0.02?5重量%がさらに好ましい。これらの界面活性剤を配合することにより,本発明において目的とするロール状物をより好適に得ることができる。
…(省略)…
実施例
[0089] 以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
けん化度88モル%,重合度1700のPVA15重量部,グリセリン0.65重量部を含有するPVA濃度が15重量%の水溶液を,コンベアベルト上に流延し,ベルト上で120℃の熱風をあてながら5分間乾燥することにより皮膜を得,次いで,これを梨地加工(150メッシュのサンドブラスト処理)された金属ロール上を通過させて,片面をエンボス加工した後,フィルムの両端をレザー刃にて裁断して,フィルム幅(W)500mm,フィルム厚さ(M)30μm,粗面度がエンボス面0.3μm,非エンボス面0.15μm(KosakaLaboratory社製のSE1700で触針半径2μm,測定速さ0.5m/秒,カットオフ値λc=0.8で測定した)のPVAフィルム{長さ(L)1000m(余分なし)}を得,これを表面がポリエチレン加工された円筒状の紙管{紙管の外径(D)88.2mm,肉厚6mm}に,初期巻き取り張力15kgf,巻き取り速度40m/分,タッチ圧3kgf/m^(2),テーパー75%の条件で巻きつけることにより,水溶性PVAフィルムのロール状物{ロール状物の断面の直径(H)221mm}を得た。なお,前記巻き取り張力を,フィルム幅1m当りの巻き取り張力に換算すると,その値は30kgf/1m幅である。
[0090] 水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)であった。TA Instruments社製のDSC Q1000を用い,ロール状物から切り取ったフィルム片7mgをアルミパンに入れて-30℃で1分保持した後,10℃/分の昇温速度で260℃まで昇温し,示差熱分析を行ったところ,主ピークの温度は186℃であった。
…(省略)…
産業上の利用可能性
[0122] 本発明の水溶性PVAのロール状物は,タルミ(または歪み)やシワがないかまたは極めて少ないため,各種の用途,たとえば水圧転写フィルム,農薬包装用フィルム,洗剤包装用フィルムなどとして使用され,とくに水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である。」

(2) 甲4発明
甲4の[0089]には,実施例1として,「水溶性PVAフィルムのロール状物」が記載されているところ,[0122]には,「本発明の水溶性PVAのロール状物は…とくに水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である」と記載されている。そうしてみると,甲4には,次の発明が記載されている。なお,用語を統一して記載してある。
「 けん化度88モル%,重合度1700のPVA15重量部,グリセリン0.65重量部を含有するPVA濃度が15重量%の水溶液を,コンベアベルト上に流延し,ベルト上で120℃の熱風をあてながら5分間乾燥することにより皮膜を得,次いで,これを梨地加工された金属ロール上を通過させて,片面をエンボス加工した後,フィルムの両端をレザー刃にて裁断して,フィルム幅(W)500mm,フィルム厚さ(M)30μm,粗面度がエンボス面0.3μm,非エンボス面0.15μmの水溶性PVAフィルムを得,これを表面がポリエチレン加工された円筒状の紙管に,初期巻き取り張力15kgf,巻き取り速度40m/分,タッチ圧3kgf/m^(2),テーパー75%の条件で巻きつけることにより得た,
水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)である,
特に水圧転写曲面印刷用フィルムとして極めて有用である水溶性PVAのロール状物。」

(3) 判断
事案に鑑みて,判断のみを示す。
29条1項3号について
甲4発明の「水溶性PVAフィルムの組成はPVA/グリセリン/水分=93/4/3(重量%)」であり,界面活性剤を含まない。
したがって,「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し」という構成を具備する本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲4に記載された発明ということができない。

29条2項について
界面活性剤に関して,甲4の[0050]には,「PVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することもできる。配合することが可能な界面活性剤の種類としては,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤,カチオン系界面活性剤,両性界面活性剤が挙げられる」及び「界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる」と記載されている。
しかしながら,界面活性剤を配合する目的に関しては,「これらの界面活性剤を配合することにより,本発明において目的とするロール状物をより好適に得ることができる」([0051])と記載されているにとどまり,そこに「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」という技術的思想は存在しない。
そうしてみると,当業者が,甲4の[0050]の記載に着目して,[A]甲4発明のPVAフィルムを製造する際に界面活性剤を配合することとし,[B]その際,界面活性剤は2種以上を組み合わせて使用することとし,[C]さらに,2種以上の界面活性剤の中から「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤」を選択した場合を仮定したとしても,「表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とする」ことを目的として界面活性剤を配合しないからには,水圧転写曲面印刷用フィルムの印刷面の表面固有抵抗値及び接触角について,「印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり,印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である」という本件特許発明1の構成を満たすものになるとまでは,いうことができない。
また,この点は,甲5-甲8に記載された事項を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも当業者が甲4発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。

第5 まとめ
本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,甲1-甲4に記載された発明ということができないから,特許法29条1項3号に該当するということができない。
そして,本件特許発明1-本件特許発明4は,いずれも,当業者が,甲1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるということができず,また,甲1-甲4に記載された発明及び甲5-甲8に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるということもできないから,同法同条2項の規定により特許を受けることができないとすることもできない。
したがって,当合議体が通知した取消の理由,及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,本件特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水圧転写用ベースフィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は水圧転写印刷に使用される水圧転写用ベースフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水圧転写用フィルムは、ポリビニルアルコールをはじめとする水溶性樹脂や水膨潤性樹脂からなるフィルム面に予め印刷をしておき、これを水面に浮かべた状態にて印刷面が転写される対象である被転写体を上から押圧して、転写させるためのフィルムとして知られている。
【0003】
そして特許文献1に記載のように、そのような用途のフィルムとして、少なくとも3層のポリビニルアルコール層と少なくとも1層の多糖類及びアクリル系樹脂からなる層からなる水圧転写用多層ベースフィルムがあり、これらの層に各種の界面活性剤を任意成分として配合し得ることが知られている。
しかしながら、この水圧転写用多層ベースフィルムは少なくとも4層からなることによって、はじめて所定の効果を発揮するのであって、実施例には界面活性剤を入れた例は記載されていないように、界面活性剤を必須とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/082522号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水圧転写用ベースフィルムとして、より簡単な構造を有しながらも、高速スピード印刷においても高画質な印刷層を形成することを可能とし、その形成した印刷層を的確に被転写体に対して転写することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し、ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5?5重量部含有し、印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり、印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である、重合度1000?4000、ケン化度70?99モル%の、厚みが15?100μmであるポリビニルアルコールフィルムであり、基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための水圧転写用ベースフィルム。
2.ポリビニルアルコール100重量部に対してアニオン系界面活性剤を0.1?5.0重量部含有する1に記載の水圧転写用ベースフィルム。
3.引張弾性率が6000MPa以下である1又は2に記載の水圧転写用ベースフィルム。
4.架橋剤を配合していない1?3のいずれかに記載の水圧転写用ベースフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水圧転写用ベースフィルムを用いることで、ドット抜け又はドット滲みのない高画質な印刷層を得られ、それを用いることにより被転写体に高画質な印刷層を転写することが実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の水圧転写用ベースフィルムを構成する材料について説明する。
本発明の水圧転写用ベースフィルムには、水溶性もしくは水膨潤性を有する樹脂を用いることが好ましく、従来から水圧転写用ベースフィルムとして一般に使用されている樹脂の中から選択して用いることができる。
【0009】
(樹脂)
そのような水溶性もしくは水膨潤性を有する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
これらの樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
なお、水溶性もしくは水膨潤性を有する樹脂には、マンナン、キサンタンガム、グアーガム等のゴム成分が添加されていてもよい。用いられるポリビニルアルコールは、未変性ポリビニルアルコールであっても、あるいはポリビニルアルコールの主鎖中にエチレン、プロピレンなどのオレフィン類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、マレイン酸およびその塩またはエステル類、などのモノマーが1種類又は2種類以上共重合された変性ポリビニルアルコールであってもよい。
これらの材料のうち、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコールが好ましく、このポリビニルアルコール100重量部に上記の他の樹脂を20重量部以下の量となるようにブレンドしても良い。
【0010】
ポリビニルアルコールは、その重合度、ケン化度、変性種、及びゴム等の他の樹脂の配合量等を変えることにより、水圧転写用ベースフィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さ等を適宜調節することができる。
中でも、本発明においては、ポリビニルアルコールの重合度は1000?4000が好ましい。重合度が1000未満の場合、水圧転写をする際にフィルムの溶解が早く、十分な付きまわり性が得られない場合があり、水圧転写本来の機能を十分発揮できない恐れがある。一方、重合度が4000を越える場合には、フィルムの溶解が遅く、経済的な水圧転写速度が得られないことがある。
【0011】
また、ポリビニルアルコールの好ましいケン化度は70?99モル%であり、更に好ましくは74?90モル%である。ポリビニルアルコールのケン化度が70モル%未満の場合、水への溶解性が低下または不溶化したりして、水圧転写工程の作業性低下が著しい。
水圧転写用ベースフィルムの厚さは15?100μmが好ましく、より好ましくは20?75μmで、さらに好ましくは25?50μmである。15μm未満ではフィルムの腰が乏しく、取り扱いに支障を生じる可能性がある。また、100μmより厚いと水圧転写用ベースフィルムの膨潤に時間がかかり水圧転写作業性が低下する問題が発生する可能性がある。
そして水圧転写用ベースフィルムの印刷面の表面固有抵抗値は9.9×10^(13)Ω以下であることが必要であり、9.9×10^(13)Ωを超えると、該印刷面上に形成したインクが安定してその表面上に固定されないことがある。また該表面固有抵抗値は5.0×10^(13)Ω以下が好ましく、さらに好ましくは9.9×10^(12)Ω以下である。
さらに、該印刷面とぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角は15?50°であることが必要であり、好ましくは20?45°、より好ましくは20?35°である。
水圧転写用ベースフィルムの引張弾性率としては、6000MPa以下であり、好ましくは5000MPa以下、より好ましくは4000MPa以下である。
また、水圧転写用ベースフィルムの水分率としては、1.0?10.0重量%が好ましく、さらに好ましくは2.2?10.0重量%、より好ましくは2.2?8.0重量%で最も好ましくは2.2?5.0重量%である。
【0012】
(ノニオン系界面活性剤及び/又はアニオン系界面活性剤)
水圧転写用ベースフィルムに配合されるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類、ポリオキシアルキレンアルキルアミド類、ポリプロピレングリコールエーテル類、アセチレングリコール類、アリルフェニルエーテル類等が挙げられる。そして、これらは1種または2種以上併用して用いられる。
水圧転写用ベースフィルムに配合されるアニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、オクチルリン酸エステルカリウム塩、ラウリルリン酸エステルカリウム塩、ステアリルリン酸エステルカリウム塩、オクチルエーテルリン酸エステルカリウム塩、ドデシルリン酸エステルナトリウム塩、テトラデシルリン酸エステルナトリウム塩、ジオクチルリン酸エステルナトリウム塩、トリオクチルリン酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルリン酸エステルカリウム塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルリン酸エステルアミン塩などが挙げられる。
そしてこれらの界面活性剤も、1種または2種以上併用して用い、アニオン系界面活性剤及び/又はノニオン系界面活性剤の配合量は、水溶性を有する樹脂100重量部に対して0.1?5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.2?3.0重量部である。また、アニオン系界面活性剤を使用する場合のその配合量は、水溶性もしくは水膨潤性を有する樹脂100重量部に対して0.1?7.0重量部が好ましく、さらに好ましくは0.1?5.0重量部であり、より好ましくは0.3?1.0重量部である。
【0013】
(可塑剤)
この水圧転写用ベースフィルムには、フィルムの柔軟性を付与する目的で可塑剤を含有させることができる。使用する可塑剤の種類について特に制限はないが、グリセリン、ジグリセリン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール系可塑剤や、ソルビトール、グルコース、キシリトールなどの糖類であっても良い。中でもグリセリンが好ましい。可塑剤の添加量は、ポリビニルアルコール100重量部に対して、好ましくは0?10重量部、より好ましくは0.5?5.0重量部、さらに好ましくは1.0?4.0重量部である。可塑剤の添加量が30重量部より多いとインク受容層から可塑剤がブリードしてべたつくため好ましくない。
【0014】
その他、水圧転写用ベースフィルム同士のブロッキングを防ぐ目的で、フィルム表面の平滑性を損なわない範囲でシリカやスターチ等のフィラーをアンチブロッキング剤として添加しても良く、それら添加剤の分散性を向上する目的で界面活性剤など適宜使用しても良い。また、ブロッキング防止の目的で表面に凹凸があるドライヤーを採用しても良い。この他に、エンボス加工によりフィルム表面に凹凸模様を形成させても良い。
また、水圧転写用ベースフィルムには架橋剤を添加することができる。このときには、樹脂を架橋するものであれば特に限定されず、クエン酸三カリウム、ホウ酸、各種ホウ酸塩等の周知の架橋剤を使用することができる。但し、水圧転写時の伸展性やフィルムの付きまわり性が悪化する可能性がある点に注意して添加することが必要である。
しかし本発明では、架橋剤を添加しなくても、複雑な表面形状を持つ被転写体への伸展性や付きまわり性を実現できる。
【0015】
(基材層)
本発明の水圧転写用ベースフィルムの保存時及び印刷時等において、水圧転写用ベースフィルムを支持するために、該水圧転写用ベースフィルムに基材層を積層させることは特に必要ない。本発明の水圧転写用ベースフィルムはこのような基材層を有することなく、保存・印刷・水圧転写を行うことができる程度に十分な強度を有している。但し、保存時に汚れることを防止するために両面又は片面に被覆フィルムを積層させることはできる。
【0016】
(水圧転写用ベースフィルムの製造方法)
本発明の水圧転写用ベースフィルムを製造する方法としては、基本的に通常の水圧転写用ベースフィルムを形成する方法を採用でき、特に限定されるものではない。
中でもポリビニルアルコールを水溶性樹脂として採用し、この水溶性樹脂を含有する水溶液を溶液流延する手法が好ましく、ポリビニルアルコールの重合度によらずフィルム化することができる。例えば、溶媒(水)に溶解させた水圧転写用ベースフィルムの原料液を金属製のバンド又は金属製又は塗装ドラムへ流延し、溶媒を乾燥除去してフィルムを得る溶媒キャスト法(溶液流延法)が用いられる。この時、凹凸模様を施したバンド又はドラムを用いると、片面に凹凸模様が施されたフィルムを簡易に得ることが出来る。そこで得られた水圧転写用ベースフィルムの印刷面は、凹凸側ではない反対側の平滑面である。一方、シリカやスターチ等のフィラーをアンチブロッキング剤として添加した水圧転写用ベースフィルム組成では、平滑なバンド又はドラムを用いて溶液流延法で製膜することで、バンド又はドラム面側の平滑面が印刷面となる。
【0017】
(使用インク)
本発明の水圧転写用ベースフィルムは、その表面に印刷層を形成した後に水圧転写に使用されるものであるが、その印刷に用いられるインクとしては、公知のインクを選択して使用することができる。
そのようなインクとしては、溶剤型のインクでも良く、あるいは紫外線硬化性や電子線硬化性のエネルギー線硬化型インクでも良い。
【0018】
インクが溶剤として有機溶剤を含有する場合には、使用する溶剤として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等、あるいはこれらの混合液であるガソリン、石油、ベンジン、ミネラルスピリット、石油ナフサ等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;トリクロルエチレン、パークロルエチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等の一価のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;酪酸エステル等のエステル類;セロソルブ;ニトロ炭化水素類;ニトリル類;アミン類;その他アセタール類;酸類;フラン類等が挙げられる。これらのうち、環境等を考慮すると、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素は用いないことが好ましく、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、セロソルブ、シクロヘキサノン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールなどを用いることが、活性剤組成物との溶解性等の観点から好ましい。なお、これらの溶剤は1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
インクが水性の溶剤を有するインクである場合には、溶剤として水のみ、あるいは水と上記溶剤の中でも水溶性有機溶媒剤を選択・混合してなる混合溶剤を使用することができる。
ただし、上記のインクのなかで、水性溶剤を用いたものでも良いが、有機溶剤系のインクの方が耐水性に優れるため水圧転写に好ましい。
【0019】
インクが含有する着色剤としても、非水溶性のものが使用でき、例えば、チタン白、アンチモン白、鉛白、鉄黒、黄鉛、チタンイエロー、朱、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、パール顔料、アルミペースト等のシルバー顔料などの無機顔料;カーボンブラック(墨インク)、ベンジジンイエロー、イソインドリノンイエロー、ポリアゾレッド、キナクリドンレッド、インダスレンブルー、フタロシアニンブルー等の有機顔料等を用いることができる
【0020】
インクに含有されるビヒクルも公知のものが使用でき、例えば、アマニ油、大豆油、合成乾性油等の各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジン等の天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼイン等を挙げることができる。
【0021】
インクには、水圧転写後の使用中の安定性等を考慮して、予め必要な各種添加剤を添加しておくことも可能である。そのため、紫外線吸収剤や光安定剤を添加することが好ましく、被転写体の被転写面に転写される印刷層の耐候性を高めることができる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機系化合物や、粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム等の無機質系化合物が挙げられ、また、光安定剤としては、例えばビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤などを挙げることができる。
なお、これら紫外線吸収剤や光安定剤の含有量は、それぞれ0.5?10質量%程度である。
エネルギー線硬化型インクの場合には、顔料等の着色剤を任意に含み、かつエネルギー線の照射によって硬化する性質を備えたモノマーやオリゴマー等を含有するインクを使用することができる。
【0022】
(印刷層形成)
上記のインクを使用して印刷層を形成させる手段としては、オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷等の従来から水圧転写にて採用している印刷方法でも良いが、インクジェットのようにオンデマンド型の印刷でも良い。
印刷パターンとしては、木目模様、大理石模様、幾何学模様、象形模様、抽象模様、文字など任意のパターンがあげられる。
【0023】
(活性剤)
活性剤は、必要に応じて、水圧転写用ベースフィルム表面に塗布することで、適度に印刷部分の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる(活性化させる)ものであり、被転写体に印刷層が転写されるまでその状態を維持することができるものである。該表面への塗布は水圧転写用ベースフィルムを水面に浮かべた後に行ってもよく、浮かべる前でも良い。
水圧転写用ベースフィルムを水面に浮かべた後に活性剤を塗布して印刷面を活性化する場合には、水圧転写用ベースフィルムに対して活性剤を噴霧する手段を採用でき、水圧転写用ベースフィルムを水面に浮かべる前に活性剤を塗布する場合には、例えば水圧転写用ベースフィルムを巻いたローラからフィルムを繰り出しながら、ロールコータや噴霧等の公知の手段により塗布することができる。
本発明で用いる活性剤は、アルコール類、ケトン類、可塑剤及び沸点170℃以上のエステル類からなるものである。
【0024】
アルコール類としては、エチルアルコール(沸点78℃)、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、tert-ブチルアルコール(沸点84℃)、n-プロピルアルコール(沸点97℃)、2-ブチルアルコール(沸点99℃)などの沸点70?100℃の低沸点アルコール、イソブチルアルコール(沸点108℃)、n-ブチルアルコール(沸点117℃)などの沸点100超?130℃の高沸点アルコールなどが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちイソプロピルアルコール、及びイソブチルアルコールが好ましい。また、低沸点アルコールと高沸点アルコールとを併用することが好ましく、特にイソプロピルアルコールとイソブチルアルコールとの組み合わせが好ましく、また、その配合の質量比は1:7?1:1が好ましく、1:6.5?1:2がより好ましい。
【0025】
ケトン類としては、メチルエチルケトン(沸点80℃)、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)、ジブチルケトン(沸点187℃)、及びジイソブチルケトン(沸点168℃)などの沸点200℃以下のものが好ましく挙げられ、なかでもジイソブチルケトンが好ましい。
【0026】
可塑剤としては、フタル酸エステルが好ましく挙げられる。可塑剤は、印刷層のインクを軟化させる機能を活性剤に付与するためのものである。
フタル酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどのフタル酸ジエステルが好ましく挙げられる。これらのうちフタル酸ジメチル及びフタル酸ジブチルがより好ましく、なかでもフタル酸ジメチルが活性状態を安定化させ、適度に他の溶剤と共に蒸発する点から好ましい。
【0027】
また、沸点170℃以上のエステル類としては、シュウ酸ジブチル(沸点246℃)や、メトキシブチルアセテート(沸点172℃)などのアセテート系エステル、ブチルカルビトールアセテート(沸点247℃)などのグリコールエーテルアセテート系エステルなどが挙げられる。なかでも、シュウ酸ジブチルが好ましい。
【0028】
本発明の水圧転写用ベースフィルムを使用する際に用いる活性剤のアルコール類の含有量は、60?90質量%が好ましく、65?80質量%がより好ましい。エステル類の含有量は、0?15質量%が好ましく、5?12質量%がより好ましい。ケトン類の含有量は、1?20質量%が好ましく、5?12質量%がより好ましい。また、可塑剤の含有量は、1?20質量%であり、インクの一部の溶解が早すぎるという問題がなく、印刷された文字や絵柄が流れる、あるいは歪むといったことがないことから、3?18質量%が好ましい。
【0029】
本発明で用いる活性剤には、脂肪族炭化水素、エーテル類を含有することができる。
脂肪族炭化水素としては、ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、オクタン、イソオクタンなどが挙げられ、これらのうちヘプタンが好ましい。
エーテル類としては、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが挙げられ、このうちブチルセロソルブが好ましい。
【0030】
また、本発明で用いる活性剤には、例えば下記の樹脂を溶剤に対して1?20質量%程度添加することができる。この樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレンやポリスチレン誘導体等のスチレン系重合体;ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル重合体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸又はフマル酸等の不飽和カルボン酸類のエステル誘導体の重合体;同ニトリル誘導体又は同酸アミド誘導体の重合体;上記の不飽和カルボン酸類の酸アミド誘導体のN-メチロール誘導体及び同N-アルキルメチロールエーテル誘導体、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、2-ヒドロキシエチル-(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、エチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート等の単量体の、単独又は共重合体等からなる熱可塑性樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノール系樹脂;メラミン系樹脂;尿素樹脂;エポキシ系樹脂;フタル酸ジアリル系樹脂;ケイ素樹脂;ポリウレタン系樹脂等の熱硬化性樹脂又はそれらの変性樹脂若しくは初期縮合物、あるいは天然樹脂、ロジン及びその誘導体、天然又は合成ゴム、石油樹脂、セルロースアセテートブチレート(CAB)、硝化綿(ニトロセルロース)等のセルロース系樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。
【0031】
(水圧転写工程)
本発明の水圧転写用ベースフィルムには、広く使用されている水圧転写用装置を使用することができ、また被転写体も、水圧転写により模様等が形成される物体でよく、従来と同様の立体形状であればよい。該被転写体の材質も特に制限されるものではなく、樹脂、金属、木材等の任意の材質のものでよい。
画像印刷が済んだ水圧転写用ベースフィルムの印刷層が上になるように水面に浮かべて、該水圧転写用ベースフィルムが十分な水分を含み膨潤して柔らかくなった頃に、活性化された水面上の水圧転写用ベースフィルムを被転写体により水中に押し下げる。
その結果、溶解及び/又は膨潤した水圧転写用ベースフィルムが水圧により付きまわりながら被転写体に密着され、印刷層が転写されることになる。水中より取り出した被転写物を多量の水で洗い流すことで、表面に残存する水圧転写用ベースフィルムが除去され、被転写体への印刷層の転写が完了することとなる。
さらに、被転写体表面を乾燥した後に、必要に応じて噴霧等の手段によってトップコート層を形成させることができる。
【0032】
(本発明による効果)
本発明の印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり、印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である水圧転写用ベースフィルムを用いると、ドット抜けや滲みのない印刷層を形成できる。また、ノニオン系界面活性剤及び/又はアニオン系界面活性剤を含有させることにより、表面固有抵抗及び接触角を適切な範囲とすることが容易になると共に、さらにドット抜けの発生を防止できる。また、引張弾性率6000Mpa以下の水圧転写用ベースフィルムを用いると、フィルム硬さの適正化により、さらにドット抜けの無い印刷層を形成できる。
よって、これらを満たす水圧転写用ベースフィルムを用いることで、ドット抜け又はドット滲みのない高画質な印刷層を得られ、それを用いることにより被転写体に対して高画質な印刷層の転写を実現できる。
【実施例】
【0033】
以下の参考例1?8、実施例1?2、及び比較例1?6を行い、その結果を表1に示す。
<参考例1>
重合度2400、平均ケン化度88モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール100重量部に、可塑剤としてグリセリン3.5重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンオレイルエーテル0.5重量部、及び水を加え、樹脂組成物の水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み30μm、含水率3.4重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例2>
重合度1800、平均ケン化度90モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール100重量部に、可塑剤としてグリセリン2.5重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.1重量部、及び水を加え、樹脂組成物の水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.5重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例3>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、0.3重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.3重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例4>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、0.5重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.4重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例5>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、1.0重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.5重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例6>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、5.0重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.4重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
【0034】
<参考例7>
含水率2.5重量%の水圧転写用ベースフィルムとした以外は、参考例4と同様にして水圧転写用ベースフィルムを得た。
<参考例8>
含水率7.2重量%の水圧転写用ベースフィルムとした以外は、参考例4と同様にして水圧転写用ベースフィルムを得た。
<実施例1>
重合度2000、平均ケン化度88モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール100重量部に、可塑剤としてグリセリン2.5重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンオレイルエーテル0.3重量部、ジエチルヘキシルスルホコハク酸0.1重量部及び水を加え、樹脂組成物の水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み30μm、含水率3.4重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<実施例2>
重合度2400、平均ケン化度88モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール100重量部に、可塑剤としてグリセリン1.3重量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンオレイルエーテル0.6重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル0.3重量部及び水を加え、樹脂組成物の水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み37μm、含水率3.6重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
【0035】
<比較例1>
可塑剤としてグリセリンを2.5重量部、界面活性剤としてオレイルアミン酢酸塩0.5重量部とした以外は、参考例1と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.3重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<比較例2>
可塑剤としてグリセリンを2.5重量部、界面活性剤としてラウリルベタイン0.5重量部とした以外は、参考例1と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.3重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<比較例3>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、0.05重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.6重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<比較例4>
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量を、8.0重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.5重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
<比較例5>
可塑剤を無添加とし、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルの含有量0.05重量部とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.3重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
【0036】
<比較例6>
界面活性剤を無添加とした以外は、参考例2と同様にして水溶液を得た。
この水溶液を、凹凸模様を施したドラム上に溶液流延法で成形し、厚み35μm、含水率3.4重量%の水圧転写用ベースフィルムを得た。
【0037】
<フィルム含水率>
水圧転写用ベースフィルムの含水率を、カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業社製:AQV-2200S)を用いて測定した。
<表面固有抵抗>
水圧転写用ベースフィルムの印刷面を、ULTRA HIGH RESISTANCE METER(エーディーシー社製:8340A)、及びレジスティビティ・チャンバ(エーディーシー社製:12702A)を用いて測定した。
耐圧:1.5kV、1分間
表面固有抵抗={π(D+d)÷(D-d)}×Rs
π:円周率=3.14
D:ガード電極内径=7cm ※JIS-K6911準拠
d:主電極直径=5cm ※JIS-K6911準拠
Rs:表面抵抗測定値
<接触角>
水圧転写用ベースフィルムの印刷面を、接触角計(協和界面科学社製:DM-501)を用いて、液滴法にて測定した。
試験液:ぬれ張力試験用混合液 73.0mN/m
液量:2μl
測定タイミング:着液1秒後
<引張弾性率> 水圧転写用ベースフィルムを、引張試験機(島津製作所社製:AGS-1kN)を用いて測定した。
試験片:幅15mm×長さ150mm
チャック間距離:100mm
引張速度:300mm/分
【0038】
<グラビア印刷条件>
インクはサカタインクス社製サピリア墨を、溶剤として酢酸エチルを用い、オリフィス直径3mのザーンカップで20秒の粘度のものを用いた。
グラビア版としては、版深28μm、線数175線のものを用い、印刷濃度30%で印刷を施した。
印刷条件は、印刷スピード50m/分、乾燥温度45℃、印圧は200kgとした。
<インクのドット安定性>
水圧転写用ベースフィルムの印刷面上の50mm×50mm内のインクのドット抜け、あるいはドット滲みの数をカウントした。
ドット抜け、或いはドット滲みの数が0?49個の場合・・・◎
ドット抜け、或いはドット滲みの数が50?299個の場合・・・○
ドット抜け、或いはドット滲みの数が300?999個の場合・・・△
ドット抜け、或いはドット滲みの数が1000個以上の場合・・・×
◎、○であれば印刷安定性が優れる。
【0039】
【表1】

【0040】
上記表1に示される実施例1及び2によって明らかなように、本発明に沿った水圧転写用ベースフィルムによれば、印刷層のインクの抜けや滲みが発生することがなかったか、又は少なかった。特に実施例2によると良好な結果が得られた。
これに対して、本発明の水圧転写用ベースフィルムではない比較例1?6のベースフィルムを使用すると、印刷層のインクの抜けや滲みが発生した。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し、ポリビニルアルコール100重量部に対して可塑剤を0.5?5重量部含有し、印刷面の表面固有抵抗値が9.9×10^(13)Ω以下であり、印刷面のぬれ張力試験用混合液73.0mN/mとの接触角が15?50°である、重合度1000?4000、ケン化度70?99モル%の、厚みが15?100μmであるポリビニルアルコールフィルムであり、基材層を積層することなくグラビア印刷により印刷されるための水圧転写用ベースフィルム。
【請求項2】
ポリビニルアルコール100重量部に対してアニオン系界面活性剤を0.1?5.0重量部含有する請求項1に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項3】
引張弾性率が6000MPa以下である請求項1又は2に記載の水圧転写用ベースフィルム。
【請求項4】
架橋剤を配合していない請求項1?3のいずれかに記載の水圧転写用ベースフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-06 
出願番号 特願2015-52565(P2015-52565)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 樋口 信宏
清水 康司
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6093793号(P6093793)
権利者 株式会社アイセロ
発明の名称 水圧転写用ベースフィルム  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  

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