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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09F
管理番号 1341480
審判番号 不服2017-9618  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2018-07-09 
事件の表示 特願2015-551689「狭小な境界を有する電子デバイス用ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日国際公開、WO2014/107292、平成28年 3月10日国内公表、特表2016-507777、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年12月16日(パリ条約に基づく優先権主張 2013年1月3日、米国、2013年7月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月24日付けで翻訳文が提出され、平成28年6月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年9月28日付けで手続補正がなされたが、平成29年2月23日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成29年3月1日)、これに対し、平成29年6月30日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、平成29年8月8日付けで手続補正(方式)がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年2月23日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 :1-12
・引用文献 :1-3

<引用文献等一覧>
1.特開2012-118341号公報
2.特開2012-220635号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第01/008128号(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1-12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は、平成29年6月30日日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ディスプレイであって、
第1のポリマー層と、
前記第1のポリマー層上の有機発光材料の層と、
前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層と、
前記第1のポリマー層に取り付けられた第2のポリマー層と、
前記第1のポリマー層及び前記第2のポリマー層を貫通する少なくとも1つのマイクロビアであって、前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する前記少なくとも1つのマイクロビアと、
を含むディスプレイと、
前記少なくとも1つのマイクロビアに接続された追加の回路であって、ギャップによって前記第2のポリマー層から分離されている追加の回路と、
を備えることを特徴とする、電子デバイス。」

なお、本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2012-118341号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ形成用基板、半導体装置、電気装置に関するものである。」

「【0035】
(第1実施形態)
図1は、電気装置を構成する第1実施形態の素子基板の構成を示す平面図である。図2は、電気装置の概略構成を示す断面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態の電気光学装置(電気装置)100は、ともにフレキシブル性を有した素子基板(半導体装置)300および対向基板310と、これらの間に挟持される電気光学素子(機能素子)32とを備えて構成されている。
素子基板300は第1基板(薄膜トランジスタ形成用基板)30とその上に形成された駆動回路層24からなる。第1基板30は積層された一対の基材30A、30Bと基材30Aの基材30B側に埋め込まれた複数の電子部品10から主に構成されている。駆動回路層24は電気光学素子32を駆動する画素40毎に設けられた制御トランジスタTRcとそれを駆動する走査線駆動回路61、データ線駆動回路62、共通電源回路64から主に構成されている。電子部品10と駆動回路層24内の各回路や薄膜トランジスタを接続する接続配線22は第1基板30と駆動回路層24内に設置してある。
ここで、駆動回路層24内の各回路は駆動トランジスタTRsを用いて第1基板30上に作りこまれた、所謂内蔵ドライバである。しかしこれらの構成はこれに限らず電子部品(IC)からなる駆動ドライバ51を第1基板30中に埋め込んだ構成としてもよい。例えば第9実施形態において説明される。
【0036】
図1,2において、素子基板300と対向基板310とが重なる領域には複数の画素40がマトリクス状に配列された表示部5が形成されている。表示部5の周辺、すなわち対向基板310よりも外側に張り出した素子基板300上には、走査線駆動回路61、データ線駆動回路62及び共通電源回路64が配置されているとともに、コントローラ(制御部、制御回路)63を含む複数の電子部品10が内蔵されている。」

「【0051】
図5は、素子基板の要部を拡大して示す断面図である。
図5に示すように、素子基板300を構成する第1基板30は、ポリイミドからなる一対の基材30A,30Bが積層されてなり、下層側の基材30A側に複数の電子部品10が埋め込まれている。ここで基材30A、30Bの厚さは50μmであるが、これに限らない。
基材30Aの表面には、電子部品10の外部接続端子10aが露出しているとともに電子部品10どうしを接続する5μmのCuからなる接続配線22が設けられている。そして、複数の電子部品10(図5中においては一つのみ図示してある)、これらの外部接続端子10aと、電子部品10どうしを接続する接続配線22と、を覆うようにして、基材30A上に基材30Bが積層されている。この基材30B上には、画素40ごとに設けられた制御トランジスタTRcと、走査線駆動回路61、データ線駆動回路62および共通電源回路64を構成する駆動トランジスタTRsとが設けられている。
【0052】
具体的には、基材30Bの表面上には、制御トランジスタTRcおよび駆動トランジスタTRsに対応する各ゲート電極41e(走査線66)と、保持容量線69と、上記した各駆動回路61,62,64と電子部品10とを接続する接続配線23と、が形成されている。これら接続配線23、ゲート電極41e(走査線66)及び保持容量線69は、厚さ300nmのCuからなる。ここで、接続配線23とコンタクトホールH1とは、コンタクトホールH1の断面積よりも大きい面積で基材30Bの表面上に形成された接続端子12の表面全体を接続配線23が覆うことによって互いに接続されている。ここで、コンタクトホールH1は接続端子12の一部分(形成材料)が基材30B内に埋め込まれることによって構成される。このような接続状態により、素子基板300が湾曲された場合にも接続配線23と電子部品10との接続状態を良好に維持することができる。」

「【0060】
図6は、上記した素子基板を備えた電気光学装置の一実施形態である電気泳動表示装置の概略構成を示す部分断面図である。
図6に示すように、電気泳動表示装置(電気装置)101は、素子基板300と対向基板310との間に、電気光学素子(表示素子)32として用いられる電気泳動素子32Aを挟持した構成を備えている。電気光学素子32の周囲にはアクリルからなるシール材65でシールしてある。電気光学素子(電気泳動素子)32は、複数のマイクロカプセル20を配列してなる。そして、マイクロカプセル20内に保持され、互いに異なる極性に帯電した白と黒の粒子が、画素電極35と対向電極37との間に印加される電圧に基づいて移動することにより表示が行われる。ここで電気光学素子(電気泳動素子)32としてマイクロカプセル以外の仕切りや仕切りを用いない電気泳動素子32Aや着色した粒子を用いた電気泳動素子32Aを用いても良い。また、液晶やエレクトロクロミック材料のような他の電気光学素子を用いても良い。
【0061】
本実施形態では、素子基板300及び対向基板310を構成する第1基板30及び第2基板31の材料として、フレキシブル性を有するポリイミド材料が用いることが可能である。第2基板31は視認側の基板になるため透明である事が必要である。このため透明ポリイミド材料または他の透明材料を用いる。
【0062】
一般的に、フレキシブル性を有する材料は有機材料であり、リジッドな無機材料よりも熱膨張係数が約1桁程度大きく、熱伝導係数が1桁程度小さい。このため、素子基板が発熱すると熱が溜まりやすく基板が伸びる。このため、電気光学装置に反りが発生する。さらに、この状態で電気光学装置を湾曲させて使用すると、別の不具合も発生する。例えば、電子部品と接続配線との接続不良や各種配線の断線等である。
【0063】
従来の構成では、例えば、エレクトロルミネッセンスを用いた電気光学装置では、発熱が大きいため熱拡散器を具備した無機材料からなる基板を用いている。この点で、フレキシブル性または有機材料を主体とした材料を用いた素子基板には、発熱が少ない電気光学材料を用いることが好ましい。発熱が少ない材料とは、表示を行っているときに電流や電圧をなるべく流さない材料である。最も好適なのは、メモリー性を有する材料を用いた電気光学装置であり、一度電圧を印加するとその後に電圧を印加しなくても表示を保持することが可能である。具体的には、電気泳動材料、エレクトロクロミック材料である。この次に好適なのは電流ではなく電圧の印加で駆動する材料を用いるものであり、液晶材料やエレクトロウェッティングが挙げられる。
一方、最も好ましくないのは電流で駆動するもので、エレクトロルミネッセンスである。」

「【0118】
(第11実施形態)
図26は、電気光学装置を構成する第11実施形態の素子基板の概略構成を示す部分断面図である。
図26に示すように、本実施形態の素子基板311にはガラスからなる耐湿性基板78が設けられている。この耐湿性基板78は、厚さ20μmにまで薄厚化したガラス基板からなるもので、第1基板30の裏面30b(基材30Aの裏面)上に貼り合わされている。このように、少なくとも素子基板311の裏面側に耐湿性基板78を設けることによって、電気光学素子に対する耐湿性を高めることができるので、湿度等の侵入によって、リーク電流が増加して消費電力が増えてしまうのを防止することができる。これにより、良好な表示を長期的に行えるようになり、信頼性が高まる。
ここで、耐湿性基板78は上記した各実施形態の素子基板にも適用できる。
なお、この耐湿性基板78を対向基板310の外面側に設けてもよい。この場合、視認側となるので透明性を有していることが必要である。」

引用文献1の図6には、接続配線23と電子部品10とを接続するコンタクトホールH1が、対向基板310及び周囲をアクリルからなるシール材65でシールされた電気泳動素子32Aよりも外側に配置されることが記載されている。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電気光学装置(電気装置)100は、ともにフレキシブル性を有した素子基板(半導体装置)300および対向基板310と、これらの間に挟持される電気光学素子(機能素子)32とを備えて構成され、素子基板300は第1基板30とその上に形成された駆動回路層24からなり、第1基板30は積層された一対の基材30A、30Bから主に構成され(段落【0035】より。以下同様。)、
素子基板300と対向基板310とが重なる領域には複数の画素40がマトリクス状に配列された表示部5が形成され、表示部5の周辺、すなわち対向基板310よりも外側に張り出した素子基板300上には、コントローラ(制御部、制御回路)63を含む複数の電子部品10が内蔵され(【0036】)、
基材30Bの表面上には、電子部品10と接続する接続配線23が形成され、接続配線23とコンタクトホールH1とは互いに接続され、コンタクトホールH1は接続端子12の一部分(形成材料)が基材30B内に埋め込まれることによって構成され、このような接続状態により、接続配線23と電子部品10との接続状態を良好に維持し(【0052】)、
電気光学装置の一実施形態である電気泳動表示装置では、電気泳動表示装置(電気装置)101は、素子基板300と対向基板310との間に、電気光学素子(表示素子)32として用いられる電気泳動素子32Aを挟持した構成を備え、電気光学素子32の周囲にはアクリルからなるシール材65でシールしてあり(【0060】)、
素子基板300及び対向基板310を構成する第1基板30及び第2基板31の材料として、フレキシブル性を有するポリイミド材料が用いることが可能であり、第2基板31は視認側の基板になるため透明であり(【0061】)、
接続配線23と電子部品10とを接続するコンタクトホールH1は、対向基板310及び、周囲をアクリルからなるシール材65でシールされた電気泳動素子32Aよりも外側に配置される(図6より)、
電気光学装置(電気装置)100(【0035】)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開2012-220635号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0030】
配線基板21は、上記のように基板11aの裏面と対向するように配置されて表示パネル10(端子15)に接続されている。配線基板21は、例えばフレキシブル配線基板であり、フレキシブルなフィルム基材の裏面に配線パターンとしての例えばCu(銅)箔が形成され、ドライバIC22が実装されている(COF(Chip on film))。配線基板21には中継基板23が接続され、ドライバIC22以外からの信号を更に供給することが可能な構成となっている。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3(国際公開第01/008128号)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「第2の基板20における第1の基板10とは反対側の面で、導電体60が導電部材40に電気的に接続されている。 なお、導電体60は、第1の基板10に形成された配線14に電気的に接続された導電部材40と、第2の基板20に形成された配線24に電気的に接続された導電部材40と、の両方に接続してもよい。
導電体60は、基板(例えばフレキシブル基板)62に形成された配線パターンである。導電体60 (及び基板62) は、第2の基板20における第1の基板10とは反対側に配置されている。導電体6 0及び基板62によって配線基板(例えばフレキシブル配線基板)が構成される。配線基板には集積回路チップ(例えば半導体チップ)60が実装されており、導電体60に集積回路チップ64が電気的に接続されている。集積回路チップ64には、液晶パネルの駆動回路が組み込まれている。集積回路チッ プ64は、第2の基板20における第1の基板10とは反対側に配置されている。さらに、集積回路チップ64は、光による誤作動を防ぐために、遮光膜66によって覆つてもよい。」(第11頁第13?25行)」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明における「電気光学装置(電気装置)100」は、「複数の画素40がマトリクス状に配列された表示部5が形成され」ているから、本願発明1における「ディスプレイ」に相当する。

イ 本願発明1における「第1のポリマー層」は、本願明細書の「ポリマー層48」に対応する層であって、「薄膜トランジスタ電極54」(本願明細書の段落【0026】参照。)と、該層の「上の(又は中に組み込まれた)導電トレース51などの信号経路」(本願明細書段落【0030】参照。)を有するものである。
この点を踏まえると、引用発明の(電気光学装置の一実施形態である)電気泳動表示装置において「素子基板300及び対向基板310を構成する第1基板30及び第2基板31の材料として、フレキシブル性を有するポリイミド材料が用い」た場合には、引用発明の「素子基板300」における、「第1基板30」の「基材30B」及び「その上に形成された駆動回路層24」は「ポリイミド材料」で形成されることになるから、本願発明1における「第1のポリマー層」に相当するといえる。

ウ 引用発明における「電気泳動素子32A」は、「素子基板300と対向基板310との間」に「挟持」されるから、引用文献1の図6のとおり、「駆動回路層24」の上に設けられる層である。
よって、引用発明における「基材30B」及び「その上に形成された駆動回路層24」の上の、「電気泳動素子32A」と、本願発明1における「前記第1のポリマー層上の有機発光材料の層」とは、「前記第1のポリマー層上の表示材料層」の点で共通する。

エ 引用発明における「コントローラ(制御部、制御回路)63を含む複数の電子部品10」は、「基材30Bの表面上」の「接続配線23」と「コンタクトホールH1」で「互いに接続され」ているから、本願発明1における「前記少なくとも1つのマイクロビアに接続された追加の回路」に相当する。

オ 引用発明における「コンタクトホールH1」は、「接続端子12の一部分(形成材料)が基材30B内に埋め込まれることによって構成され」、「接続配線23と電子部品10とを接続するコンタクトホールH1は、対向基板310及び、周囲をアクリルからなるシール材65でシールされた電気泳動素子32Aよりも外側に配置される」から、本願発明1における「前記第1のポリマー層及び前記第2のポリマー層を貫通する少なくとも1つのマイクロビアであって、前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する前記少なくとも1つのマイクロビア」とは、「前記第1のポリマー層の少なくとも一部を貫通する少なくとも1つのマイクロビアであって、前記第1のポリマー層上の表示材料層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する前記少なくとも1つのマイクロビア」の点で共通する。

カ 引用発明における「電気光学装置(電気装置)100」が、本願発明1における「電子デバイス」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「ディスプレイであって、
第1のポリマー層と、
前記第1のポリマー層上の表示材料層と、
少なくとも前記第1のポリマー層の少なくとも一部を貫通する少なくとも1つのマイクロビアであって、前記第1のポリマー層上の表示材料層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する前記少なくとも1つのマイクロビアと、
を含むディスプレイと、
前記少なくとも1つのマイクロビアに接続された追加の回路と、
を備えることを特徴とする、電子デバイス。」

(相違点1)
本願発明1では、前記第1のポリマー層上の表示材料層が「有機発光材料の層」であって、しかも、「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」を含み、少なくとも1つのマイクロビアは、「前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する」のに対し、
引用発明では、表示材料層が、「周囲」を「アクリルからなるシール材65でシール」した「電気泳動素子32A」であって、その「視認側」の対向基板310として「フレキシブル性を有するポリイミド材料が用いることが可能であ」ること、及び、「コンタクトホールH1は、対向基板310及び、周囲をアクリルからなるシール材65でシールされた電気泳動素子32Aよりも外側に配置される」ことが示されているものの、表示材料層が、「有機発光材料の層」であって「カプセル化層」を含むことも、コンタクトホールH1が「カプセル化層」によって覆われていない「基材30B」及び「その上に形成された駆動回路層24」の部分に存在することも、示されていない点。

(相違点2)
本願発明1では、「前記第1のポリマー層に取り付けられた第2のポリマー層」を含み、追加の回路は「ギャップによって前記第2のポリマー層から分離され」、「少なくとも1つのマイクロビア」は、「前記第1のポリマー層及び前記第2のポリマー層」を貫通するのに対し、引用発明では、「コントローラ(制御部、制御回路)63を含む複数の電子部品10」(本願発明1でいう「追加の回路」に相当する。)は、コンタクトホールH1によって基材30Bの表面上の接続配線23に接続されているものの、本願発明1でいう「第2のポリマー層」を備えておらず、したがって、「コントローラ(制御部、制御回路)63を含む複数の電子部品10」を「ギャップによって前記第2のポリマー層から分離」することも、コンタクトホールH1が基材30Bだけでなく、「その上に形成された駆動回路層24」と本願発明1でいう「前記第2のポリマー層」とを貫通することも示されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について検討する。
引用文献1には、電気光学材料として「エレクトロルミネッセンス」が例示されているものの、引用文献1の段落【0063】には、「従来の構成では、例えば、エレクトロルミネッセンスを用いた電気光学装置では、発熱が大きいため熱拡散器を具備した無機材料からなる基板を用いている。この点で、フレキシブル性または有機材料を主体とした材料を用いた素子基板には、発熱が少ない電気光学材料を用いることが好ましい。発熱が少ない材料とは、表示を行っているときに電流や電圧をなるべく流さない材料である。・・・一方、最も好ましくないのは電流で駆動するもので、エレクトロルミネッセンスである。」(下線は、強調のため、当審で付与した。)と記載されているから、引用発明における電気光学装置(電気装置)100の電気光学材料を、「電気泳動素子32A」に代え、「有機発光材料の層」であって、しかも、「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」を含むものとすることは、当業者に動機付けられないことである。

イ なお、引用文献1の段落【0118】には、「(第11実施形態)」として「ガラスからなる耐湿性基板78」を「対向基板310の外面側に設けてもよい。」旨の記載もあるが、「ガラスからなる耐湿性基板78」を対向基板310の外面側に設けただけでは、本願発明1における「カプセル化層」に相当するとまではいえず、また、該「ガラスからなる耐湿性基板78」は「リーク電流が増加して消費電力が増えてしまうのを防止する」(引用文献1の段落【0118】参照。)ためのものであるから、該「ガラスからなる耐湿性基板78」を、電流で駆動する「エレクトロルミネッセンス」に用いることも、「ア」で述べたとおり、当業者に動機付けられないことである。

ウ また、上記相違点1に係る本願発明1の構成(前記第1のポリマー層上の表示材料層が「有機発光材料の層」であって、しかも、「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」を含み、少なくとも1つのマイクロビアは、「前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する」)は、引用文献2、引用文献3に記載されておらず、また、周知技術であるともいえない。

エ したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

2.本願発明2-12について
本願発明2も、本願発明1における、前記第1のポリマー層上の表示材料層が「有機発光材料の層」であって、しかも、「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」を含み、少なくとも1つのマイクロビアは、「前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する」構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

第6 前置報告書で引用された引用文献について
平成29年10月11日付けの前置報告書では、新たに、特開2001-092381号公報(以下、引用文献4という。)が引用された。
引用文献4には、「マトリクス状に形成された有機EL画素の陽極および陰極の取り出し電極を、ビア(貫通孔)を介して、多層基板裏面の取り出し電極に電気的に接続し(段落【0012】、【0015】より。以下、同様。)、これらの取り出し電極と駆動ICとをバンプ接続した(【0015】)有機ELディスプレイ(【0011】)において、多層基板1の表面にキャップ13を接着し、有機膜を湿度より保護すること(【0014】)」が記載されているものと認められる。
本願明細書の段落【0027】に「カプセル化層50は、水及び酸素がディスプレイ14中の有機発光材料に到達することを防止することによって、環境暴露から有機発光材料46を保護する。」と記載されていることから、本願発明1における「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」と、引用文献4に記載された「キャップ」とは、機能的には類似する点があるとしても、「層」と「キャップ」とでは、両者の外観形状及び構造が著しく異なることは明らかであるから、引用文献4に記載された「有機膜を湿度より保護する」「キャップ」を、本願発明1における「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」に相当するものとすることはできない。

第7 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1-12について、上記引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年6月30日付けの手続補正により補正された請求項1-12は、第1のポリマー層上の表示材料層が「有機発光材料の層」であって、しかも、「前記有機発光材料の層の上方に形成されたカプセル化層」を含み、少なくとも1つのマイクロビアは、「前記カプセル化層によって覆われていない前記第1のポリマー層の部分に存在する」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-12は、上記引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1-12は、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-21 
出願番号 特願2015-551689(P2015-551689)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南川 泰裕  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 清水 稔
▲うし▼田 真悟
発明の名称 狭小な境界を有する電子デバイス用ディスプレイ  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 岩崎 吉信  
代理人 大塚 文昭  

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