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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1341566
審判番号 不服2017-6539  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-08 
確定日 2018-06-18 
事件の表示 特願2013- 44224「焼結軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-217493〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本件出願は、平成25年3月6日(優先権主張 平成24年3月13日)の出願であって、平成28年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年2月3日付け(発送日 平成29年2月7日)で拒絶査定され、これに対し、同年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正されたものである。

第2 平成29年5月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年5月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成29年5月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の下記(1)に示す記載を下記(2)に示す記載へと補正することを含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
3?12質量%のアルミニウムおよび0.05?0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受であって、前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物に対して、黒鉛が添付されており、前記焼結軸受が、原料粉末に添加した焼結助剤によりアルミニウム-銅合金が焼結された組織を有し、かつ前記焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくし、前記焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔がその他の外表面の気孔より大きいことを特徴とする焼結軸受。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線は出願人が付したものである。)
「【請求項1】
3?12質量%のアルミニウムおよび0.05?0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受であって、前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、焼結助剤としての1?4質量%の珪素および0.5?2質量%の錫、並びに1?5質量%の黒鉛が添付されており、前記焼結軸受が、原料粉末に添加した前記焼結助剤によりアルミニウム-銅合金が焼結された組織を有し、かつ前記焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくし、前記焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔がその他の外表面の気孔より大きいことを特徴とする焼結軸受。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「焼結助剤」について限定を付加するものであり、かつ、その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。したがって、本件補正における特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用文献
ア 引用文献1及び引用発明
原査定の拒絶理由に引用された、本件の優先日前に頒布された特開2009-7650号公報(以下、「引用文献1」という。)には、焼結アルミニウム含有銅合金用混合粉末及びその製造方法に関し、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(ア)「【0030】
〔実施例4〕
(成形性および焼結性に対するP,Si,Snの3元素添加の影響)
前記実施例1によるA-3の熱処理温度550℃とした50質量%Al-Cu部分拡散合金粉末、実施例2のB-2によるCu被覆50質量%Al粉末、実施例3で用いたのと同じ50質量%Al-Cu合金粉末、Cu粉末、Al粉末および焼結促進効果を得ることを目的とした何れも粒度-74μmの15質量%P-Cu合金粉末、Fe-75Si合金粉末とSn粉末を用意した。各粉末を表4に示された割合に配合した合計100質量%に対して、さらに0.5質量%のステアリン酸亜鉛粉末を潤滑剤として添加後、混合してD-1?19の各混合粉末をそれぞれ作成した。この混合粉末各3.00gを円柱形状の断面積が100mm2とした金型に充填し、300MPaで成形して得られた圧粉体の圧粉密度試験後、圧粉体をステンレス製ボートに載せて、水素と窒素混合ガス(H_(2):N_(2)=3:1)気流中にて、6質量%Al配合としたD-1?14は890℃で、10質量%AlとしたD-15?19は900℃で30分間加熱し、得られた焼結体の焼結密度および硬さ試験を実施し、それぞれの結果と焼結密度を圧粉密度で除した値を表4に示した。また、D-1?19の各混合粉末4.00gを外形14mm、内径7mmの円筒形状となる金型に充填し、400MPaで成形して得られた圧粉体を前記と同じ焼結条件下でD-1?14は890℃で、D-15?19は900℃で30分間加熱し、得られた円筒形状焼結体の圧環強度試験を行い表4に併せてその結果を示した。
さらに、D-1、D-3、D-4、D-5、D-6およびD-8の各混合粉末を圧粉密度試験と同条件で成形した圧粉体を作成し、それぞれ100?200mgの小片に加工後、窒素雰囲気中での示差熱分析試験を行いその結果を図12に示した。」

(イ)「【0032】
(1)Sn添加による圧粉密度への影響
表4のD-1?8に50質量%Al-Cu部分拡散合金粉末をAl源としたCu-6質量%Al混合粉末へのP、Si、およびSnの各添加組合せによる圧粉密度試験結果が示されているが、Sn添加効果をD-1と7、D-2と8、D-5と6、D-3と4でそれぞれ比較すると、何れも図6に示すようにSnを添加したD-7,8,6,4で圧粉密度が上昇し、軟質なSn添加による圧粉密度上昇効果は明確であり、比重の小さいSi成分添加に伴う圧粉密度低下を補うものである。
【0033】
(2)P,Si,Snの3成分添加による焼結体特性への影響
表4に示すD-1?8の890℃での焼結密度試験結果から、P,Si,Snの3成分を添加したD-4で顕著に焼結時の密度上昇が確認される。焼結密度を圧粉密度で除した対圧粉密度比を示す図7では、その比が1.0以下にあるSnのみ添加したD-7では焼結膨張し、また他の1或いは2成分いずれの組合せによる添加においてもその比は1.03以下で焼結による密度の顕著な上昇効果はなく、3成分添加のD-4のみにその比が1.15と大きな上昇が確認され、相乗効果による焼結促進が図られたことは明白である。一方焼結体の圧環強度は高焼結密度の得られたP,Si,Snの3成分を添加したD-4が図8で示されるように、他と水準の異なる高い値を示す。硬さ試験においてはSi成分を添加したD-3,4,5,および6は他の添加されていないものと先の図8で比較すると、顕著に硬さの上昇が認められ、効果は明確である。」

(ウ)「【0036】
本焼結Al含有Cu合金用混合粉末は、高強度、耐磨耗、耐熱、耐食性の要求される高荷重軸受や化学、食品工業用機械部品等に焼結合金として実用可能である。」

(エ)段落【0031】の【表4】の記号「D-4」の段には、「混合粉末の組成(質量%)」の「Al」、「Cu」、「P」、「Si」、「Sn」及び「Fe」の欄に、それぞれ「6.0」、「94.0」、「0.2」、「3.0」、「1.0」及び「1.0」と記載され、「焼結体」の「圧環強度(MPa)」の欄に「594」と記載され、「焼結体」の「硬さ(HRF)」の欄に「67」と記載されている。

(オ)段落【0031】の【表4】の記号「D-1」?「D-3」及び「D-5」?「D-8」の段の、「焼結体」の「圧環強度(MPa)」及び「焼結体」の欄の数値は、「D-4」の段の数値より小さいと認められる。

(カ)上記記載事項(イ)の「焼結体の圧環強度は高焼結密度の得られたP,Si,Snの3成分を添加したD-4が図8で示されるように、他と水準の異なる高い値を示す。」(段落【0033】参照。)との記載並びに上記記載事項(エ)及び(オ)から、上記記載事項(ウ)の「高荷重軸受」(段落【0036】参照)は、上記【表4】のD-4の段のAl、Cu、P、Si、Sn及びFeの組成(質量%)及び、質量を分けて測定できない不可避不純物からなる混合粉末を焼結した、焼結Al含有Cu合金の組織によって実用可能なものと認められる。

上記記載事項、及び認定事項を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「94.0質量%のCu及び6.0質量%のAlに、さらに1.0質量%のFe並びに高焼結密度を得るための成分として、0.2質量%のP、3.0質量%のSi及び1.0質量%のSnを添加した混合粉末を焼結した高荷重軸受けであって、前記混合粉末を焼結した高荷重軸受が、前記混合粉末に添加した前記高焼結密度を得るための成分により焼結Al含有Cu合金の組織を有する前記混合粉末を焼結した高荷重軸受。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された、本件の優先日前に頒布された特開平11-182551号公報(以下、「引用文献2」という。)には、動圧型多孔質含油軸受に関し、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0012】油の循環量を制御するための手段として、表面開孔率の調整、油の動粘度の調整が挙げられる。しかし、表面開孔率の調整では油の流れに対する抵抗が小さいため、循環量調整に限界がある。また、油の動粘度の調整を過度に行うと、トルク上昇の要因となる。従って、これらの手段では不充分となる場合がある。
【0013】そこで、本発明では、多孔質の軸受本体を、密度比α(%)が75≦α<85の部分を主体として構成すると共に、傾斜状の動圧溝が形成された軸受面の表面から所定深さまでの表層部分の密度比α(%)を85≦α≦95とし、軸受面における表層部分の細孔を介して、保有した油を軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させる構成とすることによって、上記課題を解決した。ここで、密度比α(%)は下記式で表されるものである。
【0014】密度比α(%)=(ρ1/ρ0)×100
ρ1:多孔質体の密度
ρ0:その多孔質体に細孔が無いと仮定した場合の密度
図4は、多孔質体における密度比α(%)と細孔率(単位体積内に占める細孔の体積割合)(%)との関係を示している。細孔率は密度比αに線形比例し、密度比αが大きくなるに従って細孔率は低下する。例えば、密度比α=75%で細孔率は約25、%、密度比α=80%で細孔率は約20%、密度比α=85%で細孔率は約15%、密度比α=90%で細孔率は約10%、密度比α=95%で細孔率は約5%になる。細孔率は、外表面においては、表面開孔率(外表面の単位面積内に占める表面開孔の面積割合)とほぼ同じになる。
【0015】本発明では、少なくとも軸受面における表層部分の密度比αを85≦α≦95の範囲内に設定してるため、油が上記表層部分の細孔を通過する際の抵抗が適度に大きくなり、軸受本体から軸受隙間への油の滲み出し、軸受隙間から軸受本体への油の戻りが適切量に調整される。そのため、動圧溝による動圧油膜の形成作用が高められ、軸受剛性(軸受負荷容量)が向上すると同時に、油の適切な循環が確保され、軸受寿命が向上する。表層部分の密度比αが85%未満であると、油の流れに対する抵抗が小さくなりすぎて、動圧抜けが起こり、充分な動圧効果が期待できない。逆に、表層部分の密度比αが95%を超えると、油の流れに対する抵抗が大きくなりすぎて、油の適切な循環が阻害される。本発明の構成は、軸受面の表面から所定深さまでの表層部分の細孔によって油の流れに抵抗を与えるので、表面開孔率を調整する構成に比べて、油の滲み出し・戻り量の調整効果が高い。
【0016】軸受本体の表層部分よりも内部側部分の密度比α(%)を75≦α<85の範囲内としたのは次の理由による。すなわち、内部側部分の密度比αが75%未満であると、細孔率が大きくなりすぎ、軸受面を成形する際、動圧溝の形状を精度良く仕上げることができない。逆に、内部側部分の密度比αが85%以上であると、細孔率が小さくなりすぎ、油の保有量が減少する。従って、軸受面の成形精度を確保すると同時に、軸受本体の油保有量を確保する観点から、内部側部分の密度比α(%)を75≦α<85の範囲内とした。」

(イ)「【0026】図3は、軸受本体1aの縦断面における密度分布を模式的に示している。軸受本体1aは、その外表面から平均深さtまでの表層部分1a1の密度が高く、表層部分1a1より内部側の内部側部分1a2の密度が低くなっている。表層部分1a1の密度は密度比α(%)に換算して85≦α≦95の範囲内であり、内部側部分1a2の密度は密度比α(%)に換算して75≦α<85の範囲内である。軸受本体1aの軸受面1bの内径寸法D1(動圧溝1cの形成領域以外の領域を基準とする。)はφ3mm、外径寸法D2はφ6mm、動圧溝1cの深さhは2?4μmである。軸受面1bにおける表層部分1a1の平均深さtは、軸受面1bの内径寸法D1に対して1/60≦t/D1≦1/15の範囲内であり、この実施形態では内径寸法D1の1/60で50μmである。軸受本体1aの外周面、両端面における表層部分1a1の平均深さtも概ね軸受面1bのそれと同程度であり、この実施形態では50μm程度である。図面では、動圧溝1cの深さh、表層部分1a1の平均深さtがかなり誇張して図示されている。また、深さhと平均深さtの寸法比も実際とは異なる比率で図示されている。尚、軸受本体1aの外周面や両端面の表層部分1a1は軸受本体1aの内部に保有された油が外周面や端面から外部に流失することを防止するために形成されるものであり、その密度(密度比α)や平均深さtは軸受面1bの表層部分1a1に比べて多少ラフに管理しても良い。例えば、密度比αは100%近く(細孔が殆ど無い状態)にしても良いし、平均深さtは軸受面1bの表層部分1a1よりも大きくても良いし小さくても良い。また、外周面や両端面の表層部分1a1はなくても良い。
【0027】上記のような軸受本体1aは、銅又は鉄、あるいはその両者を主成分とする金属粉を圧粉成形し、さらに焼成して得られた図6に示すような円筒形状の焼結合金素材1’に対して、例えばサイジング→回転サイジング→軸受面成形加工を施して製造することができる。焼結合金素材1’の密度比α(%)は75≦α<85の範囲内に設定される。」

上記記載事項から、引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「焼成後にサイジングして製造された動圧型多孔質含油軸受において、油が軸受面1bの表層部分1a1の細孔を通過する際の抵抗を適度に大きくし、軸受本体1aから軸受隙間への油の滲み出し、軸受隙間から軸受本体1aへの油の戻りを適切量に調整するために、表層部分1a1より内部側の内部側部分1a2の細孔率を約25%以下かつ約15%以上とし、前記動圧型多孔質含油軸受の外表面のうち、軸受面1bにおける表層部分1a1の細孔率を約15%以下かつ約5%以上とし、軸受本体1aの内部に保有された油が外周面や端面から外部に流失することを防止するために、前記動圧型多孔質含油軸受の外表面のうち、外周面及び両端面の表層部分1a1の細孔が殆ど無い状態とした、動圧型多孔質含油軸受。」

ウ 引用文献3
原査定の拒絶理由に引用された、本件の優先日前に頒布された特開2009-114486号公報(以下、「引用文献3」という。)には、焼結助剤及び焼結用アルミニウム含有銅系合金粉末並びに該焼結用アルミニウム含有銅系合金粉末を焼結してなる焼結体に関し、以下の事項が記載されている。
「【0027】
本発明の焼結用アルミニウム含有銅系合金粉末に対しては、フッ化カルシウム以外の無機系固体潤滑剤(以下、単に「無機系固体潤滑剤」という)を添加してもよい。なお、この無機系固体潤滑剤は、黒鉛又は二硫化モリブデンのいずれか一方又は双方からなるものであることが好ましい。無機系固体潤滑剤を添加することにより、金属粉末間に無機系固体潤滑剤が不純物として点在することになり、焼結による金属粉末間の結合が妨げられて
焼結体の硬度や圧環強度などの機械的特性は低下するものの焼結体の表面に固体潤滑剤が存在した状態となり、その固体潤滑剤によって他物体との接触・摺動時に生じる焼結体表面の劣化を抑制できるため、軸受けなどの製品において効果をもたらす。なお、無機系固体潤滑剤の添加量は、0.5?10質量%が好ましく、より高い硬度、圧環強度及び耐摩耗性を有する焼結体を得るためには0.5?5質量%であることが好ましい。無機系固体潤滑剤の添加量が0.5質量%に満たないと、焼結体の表面に潤滑剤として作用するのに十分な固体潤滑剤が存在しなくなり、添加量が10質量%を超えると、焼結体の硬度や圧環強度が著しく低下して製品価値がなくなる。」

上記記載事項から、引用文献3には、次の技術的事項(以下、「引用文献3に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「固体潤滑剤によって他物体との接触・摺動時に生じる焼結体表面の劣化を抑制するために、0.5?5質量%の固体潤滑剤の黒鉛が添加された焼結用アルミニウム含有銅系合金粉末を焼結した軸受け。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「Cu」は、本件補正発明の「銅」に相当し、以下同様に、「Al」は「アルミニウム」に、「P」は「燐」に、「Si」は「珪素」に、「Sn」は「錫」に、「混合粉末を焼結した高荷重軸受」は「焼結軸受」に、「添加」されることは「添付」されることに、「焼結Al含有Cu合金の組織」は「原料粉末に添加した前記焼結助剤によりアルミニウム-銅合金が焼結された組織」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「混合粉末」から「Si」及び「Sn」を除いた部分は、本件補正発明の「原料粉末」に相当し、引用発明の「高焼結密度を得るための成分」のうち「Si」及び「Sn」は、本件補正発明の「焼結助剤」に相当する。
そして、引用発明の「混合粉末」から、Al、P、Sn、Siを除いた残部のCuとFeのうち、「94.0質量%のCu」が主成分であるといえる。
また、引用発明の「混合粉末」から「Si」及び「Sn」を除いた部分に、Cu、Al、Fe等の粉末原料から分離して質量を測定できない不可避不純物が含まれることは技術常識であるといえる。
さらに、引用発明において、「94.0質量%のCu」、「6.0質量%のAl」「1.0質量%のFe」及び「0.2質量%のP」並びにCu、Al、Fe等の粉末原料に由来する不可避不純物の質量の総和は「101.2%」と認められるが、この「101.2%」に対して「6.0質量%のAl」は、本件補正発明の「前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%」に対して「3?12質量%のアルミニウム」に相当し、以下同様に、前記「101.2%」に対して「0.2質量%のP」は前記「100%」に対して「0.05?0.5質量%の燐」に、前記「101.2%」に対して「3.0質量%のSi」は前記「100%」に対して「1?4質量%の珪素 」に、前記「101.2%」に対して「1.0質量%のSn」は前記「100%」に対して「0.5?2質量%の錫」にそれぞれ相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明は、
「3?12質量%のアルミニウムおよび0.05?0.5質量%の燐を含有し、残部の主成分を銅とし、不可避不純物を含んだ焼結軸受であって、前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、焼結助剤としての1?4質量%の珪素および0.5?2質量%の錫が添付されており、前記焼結軸受が、原料粉末に添加した前記焼結助剤によりアルミニウム-銅合金が焼結された組織を有する焼結軸受。」
で一致し、以下の相違点1及び相違点2で相違する。

[相違点1]
本件補正発明は「前記アルミニウム、燐、残部の主成分を銅とする原料粉末および不可避不純物の合計100質量%に対して、」「1?5質量%の黒鉛が添付されて」いるのに対して、引用発明は、黒鉛が添加されていない点。

[相違点2]
本件補正発明は「前記焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくし、前記焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔がその他の外表面の気孔より大きい」のに対して、引用発明は、このような構成を有しない点。

(5)当審の判断
まず、相違点1について検討する。

引用文献3に記載された技術的事項の「0.5?5質量%の固体潤滑剤の黒鉛」の「0.5?5質量%」は、固体潤滑剤の黒鉛を除いた99.5%?95%の合金粉末に対する質量%であるが、固体潤滑剤の黒鉛を除いた100%の合金粉末に対する質量%に換算し、小数第1位を四捨五入すると「1?5質量%」となるから、上記相違点1に係る本件補正発明の「1?5質量%の黒鉛」と重なる。
そして、引用発明の混合粉末を焼結した高荷重軸受は、焼結体表面を有する軸受けの一種であると認められるから、引用文献3に記載された軸受けと同様に、「他物体との接触・摺動時に生じる焼結体表面の劣化を抑制する」という課題を内在するものといえる。
そうであれば、この課題を解決するために、上記引用文献3に記載された技術的事項を引用発明に適用し、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

次に、相違点2について検討する。

引用文献2に記載された技術的事項において、焼成後にサイジングして製造したことに注目すれば、細孔率の大小関係は、細孔の大小関係に一致すると認められる。
そうすると、引用文献2に記載された技術的事項からは、表層部分1a1の細孔は、表層部分1a1より内部側の内部側部分1a2の細孔より小さく、軸受面1bにおける細孔は、外周面や両端面の細孔より大きいことが把握できる。
ここで、本件補正発明と引用文献2に記載された技術的事項を対比すると、引用文献2に記載された技術的事項の「焼成後にサイジング加工した動圧型多孔質含油軸受」は、本件補正発明の「焼結軸受」に相当し、以下同様に、「表層部分1a1」は「表層部」に、「細孔」は「気孔」に、「表層部分1a1より内部側の内部側部分1a2」は「内部」に、「軸受面1b」は「軸受面」に、「前記動圧型多孔質含油軸受の外表面のうち、外周面及び両端面」は「その他の外表面」に、それぞれ相当すると認められるから、引用文献2に記載された技術的事項を本件補正発明の用語を用いて表せば、「焼結軸受の表層部の気孔を内部の気孔より小さくし、前記焼結軸受の外表面のうち、軸受面の気孔がその他の外表面の気孔より大きい」となり、引用文献2に記載された技術的事項は、上記相違点2に係る本件補正発明の構成に相当する。

そして、焼結合金製の軸受は、含油軸受として使用されることが普通であるが、含油軸受は、静圧発生用の外部ポンプを必要としない動圧型の軸受として採用される例が多いことから、引用発明の混合粉末を焼結した高荷重軸受は、動圧型の含油軸受として採用され得ることは、当業者であれば容易に想定できる。
また、引用文献2に記載された技術的事項の「油が軸受面1bの表層部分1a1の細孔を通過する際の抵抗を適度に大きくし、軸受本体から軸受隙間への油の滲み出し、軸受隙間から軸受本体への油の戻りを適切量に調整する」こと及び「軸受本体1aの内部に保有された油が外周面や端面から外部に流失することを防止する」ことは、動圧型の含油軸受に共通する課題であると認められるから、この課題は、引用発明が内在する課題であるといえる。
そうすると、動圧型の含油軸受に共通する上記課題を解決するために、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用し、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

そして、本件補正発明による効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項から、当業者が予測できる程度のものと認められる。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の内容
平成29年5月8日付けの手続補正が上記のように却下されたので、本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、平成28年8月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載したとおりである。

2 引用発明及び引用文献2及び3の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1の記載事項及び記載された引用発明並びに引用文献2及び3の記載事項及び記載された技術的事項は、前記第2[理由]3(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本件補正発明は、前記第2[理由]2で検討したように、本願発明の発明特定事項を限定したものに相当する。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由]3(5)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のことから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-24 
結審通知日 2018-04-25 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2013-44224(P2013-44224)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 焼結軸受  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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