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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1341631
審判番号 不服2017-4878  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-06 
確定日 2018-06-21 
事件の表示 特願2012-285105「電力融通システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 7日出願公開、特開2014-128167〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年12月27日に特許出願したものであって、平成28年8月30日付け拒絶理由通知に対して同年11月1日付けで手続補正がなされたが、平成29年1月4日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年4月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成28年11月1日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
住宅に設置されている複数の家電機器と、
複数の前記家電機器と通信可能に接続され、運転中の前記家電機器の消費電力の合計値である総消費電力を取得するとともに、当該総消費電力が予め定められている上限目標値以下となるように前記家電機器の運転状態を制御する電力融通処理を行う電力制御装置と、を備え、
前記電力制御装置は、前記電力融通処理において前記総消費電力が前記上限目標値を超えると判定すると、前記家電機器のうち調理を行う調理機器については現在の出力で運転可能な状態を維持し、運転中の前記家電機器のうち調理を行わない非調理機器を相対的に消費電力が低くなる低電力モードとすることで、当該調理機器への電力供給を優先することを特徴とする電力融通システム。」


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-75015号公報(以下、「引用例1」という。)には、「家電機器デマンド制御システム」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付与した。

ア.「【0008】
実施の形態1.
図1(a)(b)は、本発明の実施の形態1に係る家電機器デマンドシステムの構成を示したブロック図である。
家電機器デマンドシステムは、コントローラ100と家電機器200とから構成されている。コントローラ100は、例えばマイコン等からなる演算手段101やメモリ102を内蔵しており、家電機器200の消費電力を計測する電力量センサ110の出力が供給される。家電機器200としては、この例では、エアコン1(子供部屋)201、エアコン(書斎)202、IHクッキングヒータ203、及びコンセント204に接続された家電機器205をデマンド制御の対象としている。そして、エアコン1(子供部屋)201、エアコン2(書斎)202、IHクッキングヒータ203及びコンセント204には、デマンド優先度設定手段213がそれぞれ設けられている。ユーザーがデマンド優先度設定手段213の設定をすることにより各家電機器の優先度が設定される。そして、図1(a)に示されるように、その優先度は例えば優先度通知手段(図示せず。但し、図3、図4参照)によりコントローラ100に送信される。なお、上記のコントローラ100と家電機器200とは、例えばECHONET(Energy Conservation and Homecare Network )等によるホームネットワークによって接続されているものとする。このことは後述の実施の形態においても同様である。
【0009】
コントローラ100の演算手段101は、家電機器200から優先度が送信されてくると、それを受信してメモリ102に格納する。その際には、例えば図2に示されるように、例えば優先度の高い順(即ち、電力抑制対象とする順位の高い順)にソートして格納する。コントローラ100の演算手段101は、電力量センサ110の出力を取り込んで、その消費電力量が所定の基準電力を超えていた場合には、図1(b)に示されるようにデマンド制御を行う。このデマンド制御とは、基幹ブレーカの切断を防ぐために消費電力のピーク値を抑制し、或いは省エネのために電力抑制のための優先順位を特定し、その優先順位の情報に基づいて家電機器の電力の抑制又は停止順位を動的に変更する制御である。この例では図2のデマンド優先度の高い家電機器に対して停止又は出力を低減させるための制御命令を家電機器200側に送信する。家電機器200はその制御命令に従って制御し、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になる。」

イ.「【0018】
図7は、デマンド制御の対象機器がエアコン201である場合のコントローラ100によるデマンド制御(S17、S18)の処理の例を示したフローチャートである。
(a)コントローラ100の演算手段101は、エアコンの運転モードが冷房であるかどうかを判定し(S21)、冷房であると判定した場合には設定温度を上げる(S22)。つまり、演算手段101は通信アダプタ210に設定温度を上げるデマンド制御コマンドを送信し、通信アダプタ210はそのコマンドを受信すると、そのコマンドに対応した制御信号をエアコン201に送信する。エアコン201はその制御信号に基づいて設定温度を上げて運転する。」

ウ.「【0024】
以上のように、エアコンのデマンド制御を要約すると、(1)運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げる、(2)運転モードが暖房の場合には徐々に温度を下げることより実現し、温度を変えても電力超過が解決しない場合(冷房の場合)には運転モードを「送風」に変える。それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をする。」

エ.「【0028】
実施の形態3.
上記の実施の形態1、2においては、家電機器200側において設定された優先順位に基づいてデマンド制御を実行する例について説明したが、実施の形態3は、機種による優先順位を予め決めておいて、その機種の優先度と各機器のデマンド優先度設定手段213による優先度とを組み合わせてデマンド制御の順位を決定するようにしたものであり、その処理の詳細を図9のフローチャートに基づいて説明する。
【0029】
図9は、コントローラ100の演算手段101の処理過程を示したフローチャートである。
演算手段101は、予め与えられた機種間の優先順位により対象機器を選択する(S51)。そして、デマンド優先度設定手段213により設定された機器間の優先順位により対象機器を選択する(S52)。そして、対象機器に対してデマンド制御を実行する(S53)。このデマンド制御は、図7及び図8に記載された制御内容と基本的には同様な制御内容になる。そして、演算手段101は、電力超過の問題が解決したかどうかを判定する(S54)。
演算手段101は、電力超過の問題が解決した場合には処理を終了するが、解決していない場合には、デマンド制御の対象機器の全てについての制御が終了したかどうかを判定し(S55)、終了していない場合には、処理(S52)に戻って次の優先順位の対象機器を選択し、処理(S53、S54)を繰り返す。また、上記の判定(S55)で対象機種の機器を全て制御したと判定した場合には、処理(S51)に戻って、次に優先順位が高い対象機種を選択し、 処理(S52、S53、S54)を繰り返す。
【0030】
例えば、エアコンとIHクッキングヒータとでは例えばエアコンの優先度がIHクッキングヒータよりも低く設定されている場合には、デマンド優先度設定手段213による優先度の設定が、例えば、エアコン201の優先度が「5」、エアコン202の優先度が「8」、IHクッキングヒータ203の優先度が「7」に設定されていたとしても、まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御されることになる。」

上記アないしエ、図1、図2、図7および図9から、引用例1の「家電機器デマンドシステム」には以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、家電機器デマンドシステムは、エアコン1(子供部屋)201、エアコン2(書斎)202、IHクッキングヒータ203などの家電機器200と、コントローラ100とを備えるものである。

・上記アによれば、コントローラ100と家電機器200とは、ホームネットワークによって接続されているものである。

・上記ア、図1、図2によれば、コントローラ100は、電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を取り込んで、その消費電力量が所定の基準電力を超えていた場合には、デマンド制御を行うものであり、デマンド制御とは、デマンド優先度の高い家電機器に対して停止又は出力を低減させるための制御命令を家電機器200側に送信し、家電機器200はその制御命令に従って制御し、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるものである。
つまり、コントローラ100は、電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を取り込むともに、家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた場合には、デマンド制御により、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理を行うものである。

・上記イ、ウ、図7によれば、エアコンのデマンド制御は、運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げ、運転モードが暖房の場合には徐々に温度を下げ、温度を変えても電力超過が解決しない場合(冷房の場合)には運転モードを「送風」に変え、それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をするものである。

・上記エ、図9によれば、コントローラ100は、予め与えられた機種間の優先順位により対象機器を選択し、デマンド優先度設定手段213により設定された機器間の優先順位により対象機器を選択し(S52)、対象機器に対してデマンド制御を実行し(S53)、電力超過の問題が解決したかどうかを判定し(S54)、電力超過の問題が解決した場合には処理を終了し、解決していない場合には、デマンド制御の対象機器の全てについての制御が終了したかどうかを判定し、終了していない場合には、次の優先順位の対象機器を選択し、デマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)を繰り返し、対象機種の機器を全て制御したと判定した場合には、次に優先順位が高い対象機種を選択し、機器間の優先順位による対象機器の選択(S52)とデマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)をくり返すものであり、
エアコンの優先度がIHクッキングヒータよりも低く設定されている場合には、デマンド優先度設定手段213による優先度の設定が、エアコン201の優先度が「5」、エアコン202の優先度が「8」、IHクッキングヒータ203の優先度が「7」に設定されていたとしても、まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御されるものである。

そうすると、上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、図9の実施の形態3に関して、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「エアコン1(子供部屋)201、エアコン2(書斎)202、IHクッキングヒータ203などの家電機器200と、
家電機器200とホームネットワークによって接続され、電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を取り込むとともに、家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた場合には、デマンド制御により、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理を行うコントローラ100と、を備え、
コントローラ100は、予め与えられた機種間の優先順位により対象機器を選択し、デマンド優先度設定手段213により設定された機器間の優先順位により対象機器を選択し(S52)、対象機器に対してデマンド制御を実行し(S53)、電力超過の問題が解決したかどうかを判定し(S54)、電力超過の問題が解決した場合には処理を終了し、解決していない場合には、デマンド制御の対象機器の全てについての制御が終了したかどうかを判定し、終了していない場合には、次の優先順位の対象機器を選択し、デマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)を繰り返し、対象機種の機器を全て制御したと判定した場合には、次に優先順位が高い対象機種を選択し、機器間の優先順位による対象機器の選択(S52)とデマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)をくり返し、
エアコンの優先度がIHクッキングヒータよりも低く設定されている場合には、デマンド優先度設定手段213による優先度の設定が、エアコン201の優先度が「5」、エアコン202の優先度が「8」、IHクッキングヒータ203の優先度が「7」に設定されていたとしても、まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御され、
エアコンのデマンド制御は、運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げ、運転モードが暖房の場合には徐々に温度を下げ、温度を変えても電力超過が解決しない場合(冷房の場合)には運転モードを「送風」に変え、それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をする家電機器デマンドシステム。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「エアコン1(子供部屋)201、エアコン2(書斎)202、IHクッキングヒータ203などの家電機器200」は、子供部屋や書斎を有する場所である住宅に設けられるものであるから、本願発明の「住宅に設置されている複数の家電機器」に相当する。

b.引用発明の「所定の基準電力」は、基準となる値であるから、特に明記されていない限り、予め定められている値であると解するのが自然である。また、引用発明の「所定の基準電力」について、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理が行われるものであるから、引用発明の「所定の基準電力」は上限目標値であるといえる。よって、引用発明の「所定の基準電力」は、本願発明の「予め定められている上限目標値」に相当する。
また、引用発明の「電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力」は、所定の基準電力と比較されるものであり、家電機器200を制御することで、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下とされるものであるから、個々の家電機器200の消費電力ではなく、運転中の家電機器200の消費電力の合計値である総消費電力であると解するのが自然である。よって、引用発明の「電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力」は、本願発明の「運転中の前記家電機器の消費電力の合計値である総消費電力」に相当する。
さらに、引用発明の「電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を取り込むとともに、家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた場合には、デマンド制御により、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理」は、家電機器200の消費電力を変更する処理であるから、本願発明の「電力融通処理」であるといえる。
そして、引用発明の「電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を・・・全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理を行うコントローラ100」は、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、電力を制御する処理を行うものであるから、本願発明の「電力制御装置」であるといえる。
また、引用発明の「コントローラ100」は、家電機器200とホームネットワークによって接続されるものであるから、複数の家電機器と通信可能に接続されるものである。
したがって、引用発明の「家電機器200とホームネットワークによって接続され、電力量センサ110が計測した家電機器200の消費電力を取り込むとともに、家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた場合には、デマンド制御により、全体として、家電機器200の消費電力が所定の基準電力以下になるように、家電機器200を制御する処理を行うコントローラ100」は、本願発明の「複数の前記家電機器と通信可能に接続され、運転中の前記家電機器の消費電力の合計値である総消費電力を取得するとともに、当該総消費電力が予め定められている上限目標値以下となるように前記家電機器の運転状態を制御する電力融通処理を行う電力制御装置」に相当する。

c.引用発明の「エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され」ることについて、エアコン202、エアコン201は、デマンド制御が実行される時点では運転中であると解するのが自然であり、引用発明の「エアコン202、エアコン201」は、本願発明の「運転中の前記家電機器のうち調理を行わない非調理機器」に相当する。
また、引用発明の「エアコンのデマンド制御は、運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げ、運転モードが暖房の場合には徐々に温度を下げ、温度を変えても電力超過が解決しない場合(冷房の場合)には運転モードを「送風」に変え、それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をする」ことは、冷房の場合に温度を上げた状態や、暖房の場合に温度を下げた状態や、運転モードを「送風」に変えた状態や、電源をオフにした状態は、それぞれ、変更前の状態より消費電力が低くなる状態であるから、相対的に消費電力が低くなる低電力モードとするものである。
したがって、引用発明の「エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され」ること及び「エアコンのデマンド制御は、運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げ、運転モードが暖房の場合には徐々に温度を下げ、温度を変えても電力超過が解決しない場合(冷房の場合)には運転モードを「送風」に変え、それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をする」ことは、本願発明の「運転中の前記家電機器のうち調理を行わない非調理機器を相対的に消費電力が低くなる低電力モードとすること」に相当する。

d.引用発明の「IHクッキングヒータ203」は、本願発明の「前記家電機器のうち調理を行う調理機器」に相当する。
また、引用発明の「コントローラ100は、予め与えられた機種間の優先順位により対象機器を選択し、デマンド優先度設定手段213により設定された機器間の優先順位により対象機器を選択し(S52)、対象機器に対してデマンド制御を実行し(S53)、電力超過の問題が解決したかどうかを判定し(S54)、電力超過の問題が解決した場合には処理を終了し、解決していない場合には、デマンド制御の対象機器の全てについての制御が終了したかどうかを判定し、終了していない場合には、次の優先順位の対象機器を選択し、デマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)を繰り返し、対象機種の機器を全て制御したと判定した場合には、次に優先順位が高い対象機種を選択し、機器間の優先順位による対象機器の選択(S52)とデマンド制御の実行(S53)と電力超過の問題が解決したかどうかの判定(S54)をくり返」す処理は、電力超過の問題を解決するために行われるものであるから、当該処理の開始時点において、電力超過の問題が生じていると解するのが自然である。また、電力超過の問題が生じた場合には、デマンド制御が実行され、引用発明においてデマンド制御は、「家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた場合」に行われるものであるから、引用発明の「電力超過」とは、家電機器200の消費電力が所定の基準電力を超えていた状態であると解するのが自然である。
さらに、引用発明の「エアコンの優先度がIHクッキングヒータよりも低く設定されている場合には、デマンド優先度設定手段213による優先度の設定が、エアコン201の優先度が「5」、エアコン202の優先度が「8」、IHクッキングヒータ203の優先度が「7」に設定されていたとしても、まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御され」ることは、IHクッキングヒータ203よりも先に、エアコン202、エアコン201のデマンド制御が実行されることになるため、IHクッキングヒータ203の電力供給を優先しているといえる。
したがって、引用発明の「コントローラ100は、予め与えられた機種間の優先順位により対象機器を選択し、・・・まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御され」ることは、本願発明の「前記電力制御装置は、前記電力融通処理において前記総消費電力が前記上限目標値を超えると判定すると、運転中の前記家電機器のうち調理を行わない非調理機器を相対的に消費電力が低くなる低電力モードとすることで、当該調理機器への電力供給を優先する」ことに相当する。
ただし、電力融通処理において総消費電力が上限目標値を超えると判定された場合に調理機器への電力供給を優先することについて、本願発明は、「前記家電機器のうち調理を行う調理機器については現在の出力で運転可能な状態を維持」するのに対し、引用発明では、その旨の特定はされていない。

e.引用発明の「家電機器デマンドシステム」は、本願発明の「電力融通システム」に相当する。

上記aないしeから、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、以下の点で一応相違している。

<一致点>
住宅に設置されている複数の家電機器と、
複数の前記家電機器と通信可能に接続され、運転中の前記家電機器の消費電力の合計値である総消費電力を取得するとともに、当該総消費電力が予め定められている上限目標値以下となるように前記家電機器の運転状態を制御する電力融通処理を行う電力制御装置と、を備え、
前記電力制御装置は、前記電力融通処理において前記総消費電力が前記上限目標値を超えると判定すると、運転中の前記家電機器のうち調理を行わない非調理機器を相対的に消費電力が低くなる低電力モードとすることで、前記家電機器のうち調理を行う調理機器への電力供給を優先することを特徴とする電力融通システム。

<相違点>
電力融通処理において総消費電力が上限目標値を超えると判定する場合に調理機器への電力供給を優先することについて、本願発明は、「前記家電機器のうち調理を行う調理機器については現在の出力で運転可能な状態を維持」するのに対し、引用発明では、その旨の特定はされていない。


5.判断
そこで、上記相違点について検討する。

引用発明の「エアコンの優先度がIHクッキングヒータよりも低く設定されている場合には、デマンド優先度設定手段213による優先度の設定が、エアコン201の優先度が「5」、エアコン202の優先度が「8」、IHクッキングヒータ203の優先度が「7」に設定されていたとしても、まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御され」及び「対象機器に対してデマンド制御を実行し(S53)、電力超過の問題が解決したかどうかを判定し(S54)、電力超過の問題が解決した場合には処理を終了」することは、「まず、エアコンがエアコン202、エアコン201の順序でデマンド制御が実行され、次に、IHクッキングヒータ203がデマンド制御」する過程において、エアコン202、エアコン201を対象機器とするデマンド制御により、電力超過の問題が解決した場合には、IHクッキングヒータ203のデマンド制御は行われないこととなるため、IHクッキングヒータ203をデマンド制御しようとするのは、エアコン202、エアコン201を対象機器とするデマンド制御により、電力超過の問題が解決しなかった場合である。
そして、引用発明において、「エアコンのデマンド制御は、運転モードが冷房の場合には徐々に温度を上げ、・・・それでも電力超過問題が解決しない場合には電源をオフにする、という処理をする」ものであるから、エアコン202、エアコン201を対象機器とするデマンド制御により、電力超過の問題が解決しない場合には、エアコン202やエアコン202の電源をオフにするものである。
したがって、エアコン202、エアコン201を対象機器とするデマンド制御により、電力超過の問題が解決せずに、IHクッキングヒータ203をデマンド制御しようとする時点において、エアコン202やエアコン202の電源はオフであり、IHクッキングヒータ203のみが動作していると解するのが自然である。
ところで、通常、単独の家電機器を動作させた場合に、運転中の家電機器の消費電力の合計値である総消費電力が上限目標値を超えることはないため、引用発明において、家電機器200のうち、IHクッキングヒータ203のみが動作するのであれば、運転中の家電機器の消費電力の合計値である総消費電力としての家電機器200の消費電力は、上限目標値としての所定の基準電力を超えることはなく、電力超過の問題は発生しない。
してみると、エアコン202やエアコン202の電源がオフであり、IHクッキングヒータ203のみが動作している時点では、電力超過の問題は解決しており、実際には、IHクッキングヒータ203のデマンド制御は行われないと解するのが自然である。
したがって、引用発明において、実際には、IHクッキングヒータ203のデマンド制御は行われず、IHクッキングヒータ203は現在の状態を維持することとなり、IHクッキングヒータ203は現在の出力で運転可能な状態を維持しているといえる。
そうすると、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

よって、本願発明は、引用発明と同一である。


6.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-20 
結審通知日 2018-04-24 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2012-285105(P2012-285105)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 翔平  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 森川 幸俊
東 昌秋
発明の名称 電力融通システム  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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