ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C |
---|---|
管理番号 | 1341914 |
審判番号 | 不服2017-8720 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-14 |
確定日 | 2018-07-04 |
事件の表示 | 特願2015-504583「メチル化とアルキル交換の統合を介するキシレンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日国際公開、WO2013/151710、平成27年 4月27日国内公表、特表2015-512444〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2013年3月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年4月5日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月5日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年1月31日付けで拒絶査定がされ、同年6月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月27日に審判請求書を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 本願発明 この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年1月16日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「キシレンを製造するための方法であって、 芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程と、 C_(8)及びC_(9)プラス芳香族化合物の混合物を製造するメチル化工程と、 C_(9)プラス芳香族化合物をC_(8)芳香族化合物に転換するアルキル交換工程とを含む、方法。」 なお、本願発明は、上記拒絶理由の対象となった請求項1に係る発明(願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に係る発明)において、「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程と、」という工程を加入し限定した発明である。 第3 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶の理由は、平成28年8月5日付け拒絶理由通知における理由1を含むものであり、その理由1の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。 記 引用文献1:米国特許出願公開第2009/0000988号明細書 第4 当審の判断 当審は、拒絶理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 本願発明 上記「第2」で示したとおりである。 2 刊行物 刊行物1:米国特許出願公開第2009/0000988号明細書(原審における引用文献1) 3 刊行物の記載事項 (1)刊行物1 刊行物1には、以下の事項が記載されている。刊行物の記載を訳文で示す。訳文は当審で作成した。 (1a)「請求の範囲 1. (a) パラキシレンを含む生成物を製造する反応条件で、供給原料であるパイガスとメチル化剤を触媒と接触させ、パラキシレンを製造する工程、 ここで、この生成物は、供給原料であるパイガスのパラキシレンの含有量よりも高いパラキシレンの含有量である、 (f) (a)の工程で製造された生成物からパラキシレンを分離する工程、 ここで、触媒は、120℃の温度で測定した2,2-ジメチルブタンの8kPaの圧力における2,2-ジメチルブタンの拡散パラメータが約0.1?15/秒であるモレキュラーシーブを含み、そして上記パイガスは、約1?約65重量%のベンゼン及び約5?35重量%のトルエンを含むものである、 パラキシレンを製造する方法。」(Claim 1.) (1b)「[0066]パイガスは、ガスオイル供給原料であるナフサのようなオレフィン類生成物の副生成物である。パイガスは、第一にベンゼン、トルエンのような芳香族化合物を高い割合で含み、エチルベンゼンを40重量%まで含むように炭素数8の芳香族化合物を低い割合で含む。・・・通常は、パイガスは、15?65重量%、20?60重量%又は30?50重量%のベンゼン、5?35重量%、10?25重量%又は15?25重量%のトルエン、3?10重量%又は4?9重量%の炭素数8の芳香族化合物、0.1?6重量%、0.5?3重量%又は1?1.5重量%のエチルベンゼン、2?10重量%又は5?10重量%の非芳香族化合物及び約0.1?5重量%又は0.1?5重量%、0.1?2重量%又は0.2?1重量%の不飽和非芳香族化合物を含み、任意にジオレフィンのような不飽和基を複数有する非芳香族化合物を0.001?2重量%含む。」(第4頁右欄第13?32行) (1c)「[0096]好ましい態様として、例えば、ナフサのスチームクラッキングにより製造されたパイガスのようなパイガス供給原料は、メチル化反応ゾーンに、例えばメタノールのようなメチル化剤と一緒に供給され、パイガスとメチル化剤の混合物は、パラキシレン、炭素数5以下の化合物、ベンゼン、トルエン及び炭素数9以上の化合物を有する生成物を製造する触媒と接触する。・・・生成物は、少なくとも炭素数5以下の化合物、ベンゼン、トルエン、又はベンゼンとトルエン、炭素数9以上の化合物及びパラキシレンの分画に分離するために更なる分離工程に移される。1つの態様としては、少なくともベンゼン、トルエン又はベンゼンとトルエンに分離された分画は、メチル化工程に再利用される。他の態様としては、メチル化工程での生成物からの炭素数9以上の化合物は、トランスアルキル化ゾーンに送られ、ここでは更にパラキシレンを製造するため、炭素数9以上の化合物とベンゼンとトルエンの供給原料がトランスアルキル化触媒と接触する。」(第7頁右欄第23?44行) (1d)「[0098]・・・トランスアルキル化反応の条件は、重質芳香族供給原料を、ベンゼン、トルエン及びキシレン、特にベンゼン及びキシレンのような炭素数6?8の芳香族化合物を実質的な量製造するのに十分である。」(第7頁右欄第56行?第8頁左欄第5行) (1e)「[0174] ・・・ 実施例 実施例1 [0175] ・・・このシミュレーションは、メチル化工程とトランスアルキル化工程との、典型的な残渣精製工程を統合した。このシミュレーションの結果は、供給原料として残渣を用いた水素化工程、スチームクラッキング工程及びメチル化工程を含む統合したシステムの1つの態様として図1に示された。残渣供給原料は、ライン1を通して水素化、スチームクラッキングユニット3に供給された。水素化工程及び/又はスチームクラッキング工程は、100部の残渣供給原料当たり22重量部のパイガスを製造するように厳密に調整された。このパイガスは、炭素数9以下の炭化水素化合物を95重量%超、優先的に含む。パイガスの計22重量部のうち約16重量部は、主として炭素数8以下の芳香族化合物である炭素数8以下の供給原料であって、パイガスの計22重量部のうち約6重量部は、主として炭素数10以上の芳香族化合物(刊行物1には、「C_(0)+aromatics」と記載がされているが、「C_(10)+aromatics」の誤記であると認める。)である炭素数9以上の供給原料である。パイガスは、残渣供給原料から製造されるので、スチームクラッキング工程からの流れからのパイガスの収率は、同様のスチームクラッキング工程の条件の下のナフサのような他の供給原料と比べて高い。同様のスチームクラッキング工程の条件下のナフサのような他の供給原料と比べて、残渣供給原料のスチームクラッキング工程から製造されたパイガスは、通常、トルエンと炭素数8の芳香族化合物を高い割合で含有する。水素化、スチームクラッキングユニット3から製造されたこのパイガスは、第一の分離ユニット7にライン5を通じて供給された。パイガスの約16重量部は、炭素数8以下の供給原料として分離されて、そして、メチル化ユニット11へライン9を通して供給された。例えばメタノールであるメチル化剤の約8重量部がメチル化ユニットにライン13を通して供給された。例えば、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物は、第二の分離ユニット17に供給された。炭素数が7以下の芳香族化合物は分離され、ライン19を通してメチル化ユニット11へ任意に再利用された。パイガス生成物からの炭素数9以上の供給原料の約6重量部は、第一の分離ユニット7で分離されて、そして、トランスアルキル化ユニット23にライン21を通じて供給された。トランスアルキル化ユニット23の生成物は、更なる分離のため第二の分離ユニット17に送られた。炭素数9以上の芳香族化合物は分離され、ライン27を通じてトランスアルキル化ユニットに任意に再利用された。軽質物は、軽質生成物として、ライン29を通じて分離ユニット17から分離された。軽質オレフィン類は、軽質オレフィン類生成物として、ライン31を通じて分離ユニット17から分離された。パラキシレンは、パラキシレン生成物として、ライン33を通して分離ユニット17から分離された。重質物は、重質生成物として、ライン35を通して分離ユニット17から分離された。」(第13頁右欄第10?63行) (1f)Fig1として以下の図が記載されている。 「 」 4 刊行物1に記載された発明 刊行物1の請求の範囲第1項には、「 (a) パラキシレンを含む生成物を製造する反応条件で、供給原料であるパイガスとメチル化剤を触媒と接触させ、パラキシレンを製造する工程、 ここで、この生成物は、供給原料であるパイガスのパラキシレンの含有量よりも高いパラキシレンの含有量である、 (f) (a)の工程で製造された生成物からパラキシレンを分離する工程、 ここで、触媒は、120℃の温度で測定した2,2-ジメチルブタンの8kPaの圧力における2,2-ジメチルブタンの拡散パラメータが約0.1?15/秒であるモレキュラーシーブを含み、そして上記パイガスは、約1?約65重量%のベンゼン及び約5?35重量%のトルエンを含むものである、 パラキシレンを製造する方法。」が記載され(摘記(1a))、その具体例として、実施例1に、シミュレーションであるが、「残渣供給原料は、ライン1を通して水素化、スチームクラッキングユニット3に供給された。水素化工程及び/又はスチームクラッキング工程は、100部の残渣供給原料当たり22重量部のパイガスを製造するように厳密に調整された。このパイガスは、炭素数9以下の炭化水素化合物を95重量%超、優先的に含む。パイガスの計22重量部のうち約16重量部は、主として炭素数8以下の芳香族化合物である炭素数8以下の供給原料であって、パイガスの計22重量部のうち約6重量部は、主として炭素数10以上の芳香族化合物である炭素数9以上の供給原料である。パイガスは、残渣供給原料から製造されるので、スチームクラッキング工程からの流れからのパイガスの収率は、同様のスチームクラッキング工程の条件の下のナフサのような他の供給原料と比べて高い。同様のスチームクラッキング工程の条件下のナフサのような他の供給原料と比べて、残渣供給原料のスチームクラッキング工程から製造されたパイガスは、通常、トルエンと炭素数8の芳香族化合物を高い割合で含有する。水素化、スチームクラッキングユニット3から製造されたこのパイガスは、第一の分離ユニット7にライン5を通じて供給された。パイガスの約16重量部は、炭素数8以下の供給原料として分離されて、そして、メチル化ユニット11へライン9を通して供給された。例えばメタノールであるメチル化剤の約8重量部がメチル化ユニットにライン13を通して供給された。例えば、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物は、第二の分離ユニット17に供給された。炭素数が7以下の芳香族化合物は分離され、ライン19を通してメチル化ユニット11へ任意に再利用された。パイガス生成物からの炭素数9以上の供給原料の約6重量部は、第一の分離ユニット7で分離されて、そして、トランスアルキル化ユニット23にライン21を通じて供給された。トランスアルキル化ユニット23の生成物は、更なる分離のため第二の分離ユニット17に送られた。炭素数9以上の芳香族化合物は分離され、ライン27を通じてトランスアルキル化ユニットに任意に再利用された。軽質物は、軽質生成物として、ライン29を通じて分離ユニット17から分離された。軽質オレフィン類は、軽質オレフィン類生成物として、ライン31を通じて分離ユニット17から分離された。パラキシレンは、パラキシレン生成物として、ライン33を通して分離ユニット17から分離された。重質物は、重質生成物として、ライン35を通して分離ユニット17から分離された」ことが記載されている(摘記(1e))。 そうすると、刊行物1には、「残渣供給原料は、ライン1を通して水素化、スチームクラッキングユニット3に供給され、水素化工程及び/又はスチームクラッキング工程は、100部の残渣供給原料当たり22重量部のパイガスを製造するように厳密に調整され、このパイガスは、炭素数9以下の炭化水素化合物を95重量%超、優先的に含み、パイガスの計22重量部のうち約16重量部は、主として炭素数8以下の芳香族化合物である炭素数8以下の供給原料であって、パイガスの計22重量部のうち約6重量部は、主として炭素数10以上の芳香族化合物である炭素数9以上の供給原料であって、水素化、スチームクラッキングユニット3から製造されたこのパイガスは、第一の分離ユニット7にライン5を通じて供給され、パイガスの約16重量部は、炭素数8以下の供給原料として分離されて、メチル化ユニット11へライン9を通して供給され、メタノールであるメチル化剤の約8重量部がメチル化ユニットにライン13を通して供給され、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物は、第二の分離ユニット17に供給され、パイガス生成物からの炭素数9以上の供給原料の約6重量部は、第一の分離ユニット7で分離され、トランスアルキル化ユニット23にライン21を通じて供給され、トランスアルキル化ユニット23の生成物は、更なる分離のため第二の分離ユニット17に送られ、軽質物は、軽質生成物として、ライン29を通じて分離ユニット17から分離され、軽質オレフィン類は、軽質オレフィン類生成物として、ライン31を通じて分離ユニット17から分離され、キシレンは、パラキシレン生成物として、ライン33を通して分離ユニット17から分離され、重質物は、重質生成物として、ライン35を通して分離ユニット17から分離されたパラキシレンを製造する方法」の発明(以下「引用発明1-1」という。)が記載されていると認める。 また、刊行物1には、パイガス供給原料をメチル化する際の態様の1つとして、「メチル化工程での生成物からの炭素数9以上の化合物は、トランスアルキル化ゾーンに送られ、ここでは更にパラキシレンを製造するため、炭素数9以上の化合物とベンゼンとトルエンの供給原料がトランスアルキル化触媒と接触する」ことが記載されている(摘記(1c))から、上記「引用発明1-1」に更にパラキシレンを製造するための工程を付加した以下の「残渣供給原料は、ライン1を通して水素化、スチームクラッキングユニット3に供給され、水素化工程及び/又はスチームクラッキング工程は、100部の残渣供給原料当たり22重量部のパイガスを製造するように厳密に調整され、このパイガスは、炭素数9以下の炭化水素化合物を95重量%超、優先的に含み、パイガスの計22重量部のうち約16重量部は、主として炭素数8以下の芳香族化合物である炭素数8以下の供給原料であって、パイガスの計22重量部のうち約6重量部は、主として炭素数10以上の芳香族化合物である炭素数9以上の供給原料であって、水素化、スチームクラッキングユニット3から製造されたこのパイガスは、第一の分離ユニット7にライン5を通じて供給され、パイガスの約16重量部は、炭素数8以下の供給原料として分離されて、メチル化ユニット11へライン9を通して供給され、メタノールであるメチル化剤の約8重量部がメチル化ユニットにライン13を通して供給され、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物は、第二の分離ユニット17に供給され、パイガス生成物からの炭素数9以上の供給原料の約6重量部は、第一の分離ユニット7で分離され、トランスアルキル化ユニット23にライン21を通じて供給され、トランスアルキル化ユニット23の生成物は、更なる分離のため第二の分離ユニット17に送られ、軽質物は、軽質生成物として、ライン29を通じて分離ユニット17から分離され、軽質オレフィン類は、軽質オレフィン類生成物として、ライン31を通じて分離ユニット17から分離され、キシレンは、パラキシレン生成物として、ライン33を通して分離ユニット17から分離され、重質物は、重質生成物として、ライン35を通して分離ユニット17から分離されたパラキシレンを製造する方法であって、メチル化工程での生成物からの炭素数9以上の化合物は、トランスアルキル化ゾーンに送られ、炭素数9以上の化合物とベンゼンとトルエンの供給原料がトランスアルキル化触媒と接触することにより更にパラキシレンを製造する方法」の発明(以下「引用発明1-2」という)が記載されていると認める。(「引用発明1-1」と「引用発明1-2」を合わせて「引用発明」ともいう。) 5 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比するに当たり、まず、本願発明の「芳香族化合物」の技術的意味を確認するが、「芳香族化合物」は、化学大辞典8縮刷版(化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社、1989年8月15日 縮刷版第32刷発行)の第599頁左欄「芳香物化合物」の項目における、「分子内にベンゼン環を含む有機化合物をいう。」という記載に従い、その技術的意味であると解する。また、同様に「芳香族炭化水素」は、化学大辞典8縮刷版(同上)の第601頁右欄「芳香族炭化水素」の項目における、「芳香族化合物の母体となる炭化水素であって、ベンゼン環を含む炭化水素をいう。」という記載に従い、その技術的意味であると解する。 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比するが、まず、引用発明1-1と対比する。 引用発明1-1の「パラキシレン」は、キシレンの異性体の1つであるから、本願発明の「キシレン」に相当する。 また、引用発明1-1の「パイガスの約16重量部は、炭素数8以下の供給原料として分離されて、メチル化ユニット11へライン9を通して供給され、メタノールであるメチル化剤の約8重量部がメチル化ユニットにライン13を通して供給され、エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物」が生成することは、炭素数8以下の供給原料がメチル化剤とともにメチル化ユニットに供給され、生成物が生成するから、引用発明1-1の「供給原料」を「メチル化ユニット」へ「供給」して「生成物」を生成することは、本願発明の「メチル化工程」に相当する。 そして、引用発明1-1において、メチル化ユニットに供給した後に生成する「エチレン及びプロピレンなどの軽質オレフィン類、パラキシレン、軽質物や重質物を含むメチル化ユニット11の生成物」のうちのパラキシレンは、炭素数8の芳香族化合物であることは明らかであるから、本願発明のメチル化工程で製造する「C_(8)芳香族化合物」に相当する。さらに、この生成物のうちの重質物は、沸点が高い化合物群を表しているといえるところ、段落[0096]には、「生成物は、少なくとも炭素数5以下の化合物、ベンゼン、トルエン、又はベンゼンとトルエン、炭素数9以上の化合物及びパラキシレン」であることが記載されており(摘記(1c))、このうち、この沸点が高い化合物群に対応する物質は、炭素数9以上の化合物であることは明らかである。そして、メチル化工程に原料として供給するパイガスは芳香族化合物であるベンゼン、トルエン及び炭素数8の芳香族化合物を含んでおり、これらの化合物がメチル化工程においてメチル化されるのであるから、メチル化工程により生成される炭素数9以上の化合物は、炭素数9以上の芳香族化合物であるといえる。そうすると、生成物のうち重質物が、「C_(9)プラス芳香族化合物」に相当するといえる。よって、引用発明1-1において「メチル化工程」により「C_(8)芳香族化合物」及び「C_(9)プラス芳香族化合物」が製造されるといえ、このことは、本願発明の「C_(8)及びC_(9)プラス芳香族化合物の混合物を製造するメチル化工程」に相当する。 加えて、引用発明1-1の「パイガス生成物からの炭素数9以上の供給原料の約6重量部は、第一の分離ユニット7で分離され、トランスアルキル化ユニット23にライン21を通じて供給され」ることは、本願発明の「アルキル交換工程」に相当し、アルキル交換工程に供給する炭素数9以上の供給原料は、芳香族化合物であるとの特定はないが、段落[0098]に、トランスアルキル化反応の原料は重質芳香族原料である旨の記載がされている(摘記(1d))ことから、炭素数9以上の芳香族化合物であるといえる。そうすると、引用発明1-1の「炭素数9以上の供給原料」は、本願発明の「C_(9)プラス芳香族化合物」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明1-1とでは、 「キシレンを製造するための方法であって、 C_(8)及びC_(9)プラス芳香族化合物の混合物を製造するメチル化工程と、 C_(9)プラス芳香族化合物を転換するアルキル交換工程とを含む、方法」である点で一致し、次の点で一応相違する。 (相違点1)C_(9)プラス芳香族化合物をアルキル交換工程において転換して生成する化合物が、本願発明では、「C_(8)芳香族化合物」としているのに対して、引用発明1-1では具体的な化合物が明らかでない点 (相違点2)本願発明では、「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」を含むとしているのに対して、引用発明1-1では、芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程を含むことが明らかでない点 (2)判断 そこで、これら一応の相違点が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 ア 相違点1について 引用発明1-1は、炭素数9以上の供給原料をトランスアルキル化ユニットに供給し、トランスアルキル化により、キシレンを含む炭素数8の芳香族化合物をも製造するものである(摘記(1d)参照)から、引用発明1-1において、C_(9)プラス芳香族化合物をアルキル交換工程において転換して生成する化合物が、C_(8)芳香族化合物であることは明らかであるといえる。 そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について 引用発明1-1において、メチル化工程に供給する炭素数8以下の供給原料は、パイガスを第1の分離ユニット7により分離した炭素数8以下の供給原料であり、炭素数8以下の供給原料は、メチル化工程により芳香族化合物であるパラキシレンが製造されているから、炭素数8以下の芳香族化合物を含むことは明らかである。また、アルキル交換工程に供給する炭素数9以上の供給原料は、パイガスを第1の分離ユニット7により分離した炭素数9以上の供給原料であり、アルキル交換工程により芳香族化合物であるベンゼン、トルエン、キシレン等が製造されている(摘記(1d)参照)から、炭素数9以上の芳香族化合物を含むことは明らかである。 上記したように、第1の分離ユニットを通して得られたそれぞれの供給原料は芳香族化合物を含んでいるから、引用発明1-1において、パイガスを第1の分離ユニットに通してそれぞれの供給原料を得て、これらをメチル化工程又はアルキル交換工程に供給することは、本願発明の「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」に相当するといえる。 以上のとおりであるので、引用発明1-1において、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。 (3)小括 したがって、上記相違点1及び2は、実質的な相違点とはいえない。 6 本願発明における「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」についての予備的検討 上記5で検討したとおり、本願発明は引用発明1-1との対比において、実質的に相違するものではないが、本願発明の実施態様として記載された「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」についても、念のため検討しておく。 発明の詳細な説明の段落【0010】には、「他の実施態様において、アルキル交換工程で使用されるメチル化芳香族炭化水素に富んだ分画は、供給物ストリームからの芳香族化合物分画のメチル化から誘導される。」と記載されているところ、この記載からみて、上記工程の実施態様として、「メチル化工程により製造されたC_(9)プラス芳香族化合物を、アルキル交換工程に供給することにより、芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」が挙げられているといえる。 そこで、本願発明の「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」について、実施態様である「メチル化工程により製造されたC_(9)プラス芳香族化合物を、アルキル交換工程に供給することにより、芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」であると解して、引用発明1-2と対比して、念のため以下に検討する。 (1)対比 上記4で述べたように、引用発明1-2は、引用発明1-1に、更にパラキシレンを製造するための工程を付加した発明である。本願発明と引用発明1-2とを対比すると、上記5(1)で示した相違点1及び2’(相違点2’は相違点2と同じ内容であるが、「相違点2’」と表記した。)で両者は一応相違し、上記5(2)アで示したとおり相違点1は実質的な相違点ではない。 そこで、相違点2’について、本願発明の「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」を、上記で述べた実施態様であると解して、以下に検討する。 (2)相違点2’についての判断 引用発明1-2において、更にパラキシレンを製造するための工程は、メチル化工程での生成物からの炭素数9以上の化合物をトランスアルキル化ゾーンに送り、更にパラキシレンを製造することであり、引用発明1-2において、メチル化工程での生成物である炭素数9以上の化合物は、上記5(1)で述べたように、炭素数9以上の芳香族化合物であるといえる。 そうすると、引用発明1-2は、メチル化工程で製造された生成物からの炭素数9以上の芳香族化合物をアルキル交換工程に供給しており、このことにより、明らかに芳香族炭化水素に富んだ供給物を提供しているといえるから、引用発明1-2において、メチル化工程での生成物からの炭素数9以上の化合物を、トランスアルキル化ゾーンに送ることは、メチル化工程により製造されたC_(9)プラス芳香族化合物をアルキル交換工程に供給することにより、芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程に相当するということができる。 よって、本願発明の「芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」について、その実施態様である「メチル化工程により製造されたC_(9)プラス芳香族化合物を、アルキル交換工程に供給することにより、芳香族炭化水素に富んだ供給物の提供の工程」と解したとしても、引用発明1-2との対比において、相違点2’は実質的な相違点であるとはいえない。 7 審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書において、刊行物1は、芳香族炭化水素に富んだ供給物を提供するように供給物を分画することは教示しない旨を主張する(審判請求書の手続補正書(方式)第2頁第39?40行)。 しかしながら、上記5(2)イで述べたように、引用発明は、パイガスを第一の分離ユニットに通して得られた芳香族炭化水素である炭素数8以下の供給原料をメチル化工程に供給し、また、パイガスを第一の分離ユニットに通して得られた芳香族炭化水素である炭素数9以上の供給原料をアルキル交換工程に供給しており、これらは、芳香族炭化水素に富んだ供給物を提供するように供給物を分画することに相当する。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 8 まとめ したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その他の請求項について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-31 |
結審通知日 | 2018-02-06 |
審決日 | 2018-02-19 |
出願番号 | 特願2015-504583(P2015-504583) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C07C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村守 宏文、緒形 友美、井上 典之 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 佐藤 健史 |
発明の名称 | メチル化とアルキル交換の統合を介するキシレンの製造方法 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |