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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D |
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管理番号 | 1342340 |
審判番号 | 不服2017-8060 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-05 |
確定日 | 2018-08-03 |
事件の表示 | 特願2014-541574号「ステアリング装置のラック力を決定するための方法、及び、ステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日国際公開、WO2013/072087、平成26年12月11日国内公表、特表2014-533220号公報、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年9月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年11月15日(DE)独国特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成30年4月10日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 この出願については、平成28年3月30日付け拒絶理由通知書に記載した以下の理由によって、拒絶をすべきものである。 この出願の請求項1?5、19?21に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献6?9に記載された慣用技術、請求項6及び7に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明並びに引用文献6?9に記載された慣用技術、請求項8及び9に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明及び引用文献6?9に記載された慣用技術、請求項10?18に係る発明は、引用文献1?5に記載された発明及び引用文献6?9に記載された慣用技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2007-269251号公報 2.国際公開第2010/89172号 3.特表2010-505680号公報 4.特表2006-518302号公報 5.特開2006-7810号公報 6.特開平8-253157号公報 7.特開2009-62036号公報 8.特開2005-319971号公報 9.特開平11-6776号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないとして、補正前の請求項1?21について、以下の拒絶の理由を通知した。 1 請求項3について (1) 請求項3には、「好ましくは全ての係数(Kp 、Tv 、T1 )、が一定の値として与えられる」と記載されているが、どのような条件の時に全ての係数が一定の値として与えられる必要があるのか不明であり、請求項の記載が多義的に解されることから、明確でない。 (2) 請求項3に係る発明の「伝達関数」が、請求項1に係る発明の「比例差分伝達関数」と同一の構成であるのか否か明確でない。 2 請求項4について 請求項4には、「少なくとも1つの係数(Kp 、Tv 、T1 )」と記載されているが、請求項1または2を引用する請求項4において、何の係数であるのか明確でない。 3 請求項5について 請求項5には、「少なくとも1つの係数(Kp 、Tv 、T1 )」と記載されているが、請求項1または2を引用する請求項4を引用する請求項5において、何の係数であるのか明確でない。 4 請求項8について 請求項8における「当該測定された車輪操舵角(δRW)」の記載は、同請求項に、「測定された車輪操舵角は(δMes)」と記載されていることを考慮すると、「当該測定された車輪操舵角(δMes)」の誤記ではないか。 5 請求項9について 請求項9には、「好ましくは」と記載されているが、当該記載により、「オフセット値(O1)」が「偏揺れ率(yaw rate )」、「車速(v)」及び「セルフステアリング勾配(EG)」のいずれか又は全てに依存するのか、あるいはいずれにも依存しないのか、特許を受けようとする発明の範囲がどこまでを包含しているのか明確でなく、結果として特許を受けようとする発明が明確でない。 6 請求項12について (1) 請求項12には、「好ましくは」と記載されているが、当該記載が選択的に用いられていることにより、「モデル化された操舵角(δMod )と測定された操舵角(δMes )との比較(55)」に依存するのか、「操舵角差」に依存するのか明確でなく、結果として特許を受けようとする発明が明確でない。 (2) 請求項12における「前記ラック力(FF,FR)」の記載は、当該請求項が間接的に引用する請求項1に「ラック力(FF)」と記載され、「(FR)」で示されているものは「結果としてのラック力(FR)」であると記載されていることを考慮すると、「前記ラック力(FF)」の誤記ではないか。 7 請求項15について 請求項15における「前記ラック力(FF,FR)」の記載は、当該請求項が直接的又は間接的に引用する請求項1に「ラック力(FF)」と記載され、「(FR)」で示されているものは「結果としてのラック力(FR)」であると記載されていることを考慮すると、「前記ラック力(FF)」の誤記ではないか。 8 請求項21について 請求項21には、「前記フィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)は、請求項19乃至20に従って、形成されている」と記載されているが、「請求項19乃至20に従って、形成されている」の記載により特定される事項が明確でない。 9 請求項6,7,10,11,13,14,16?20について 上記1?8の指摘は、上記1?8において指摘したいずれかの請求項を、直接又は間接的に引用する請求項6,7,10,11,13,14,16?20についても同様である。 第4 本願発明 本願の請求項1-21に係る発明(以下「本願発明1-21」という。)は、平成30年6月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 自動車のステアリング装置(2)のための結果としてのラック力(FR)を決定するための方法(21)であって、 ラック力(FF)が、実際の車輪の操舵角(δRW)または当該操舵角(δRW)の設定値を特徴付ける操舵角度変数に依存して決定され、 前記方法(21)は、 ステアリング装置(2)の軸上の横方向力(Fyv)を特徴付ける変数を決定する工程と、 当該横方向力(Fyv)に依存して前記ラック力(FF)を決定する工程と、を備え、 前記ラック力(FF)の決定は、比例差分伝達関数を有する信号処理要素(35)によるフィルタリングを含んでおり、前記ラック力(FF)は、前記結果としてのラック力(FR)の決定に寄与する ことを特徴とする方法(21)。 【請求項2】 前記信号処理要素(35)は、PDT1要素である ことを特徴とする請求項1に記載の方法(21)。 【請求項3】 前記信号処理要素(35)の前記伝達関数の少なくとも1つの係数(Kp、Tv、T1)が一定の値として与えられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法(21)。 【請求項4】 当該方法(21)の実行中に、前記信号処理要素(35)の伝達関数の少なくとも1つの係数(Kp、Tv、T1)が変更される ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項5】 前記信号処理要素(35)の伝達関数の少なくとも1つの係数(Kp、Tv、T1)は、車速(V)に依存して、あるいは、当該車速から導出される変数に依存して、与えられる ことを特徴とする請求項4に記載の方法(21)。 【請求項6】 前記信号処理要素(35)によって決定される中間変数が、スケーリングファクタ(F(ay))によって乗算(37)される ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項7】 前記スケーリングファクタ(F(ay))は、自動車の横加速度(ay)に依存して形成される ことを特徴とする請求項6に記載の方法(21)。 【請求項8】 測定された車輪操舵角(δMes)が、当該測定された車輪操舵角(δMes)へのオフセット値(O1、O2)の付加によって変更されることによって、前記ラック力(FF)が修正される ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項9】 前記オフセット値(O1)の計算のために、モデル化された操舵角(δMod)が、偏揺れ率(yaw rate) 【数1】 、車速(v)及びセルフステアリング勾配(EG)に依存して、決定(25)され、測定された操舵角(δMes)と比較される ことを特徴とする請求項8に記載の方法(21)。 【請求項10】 モデル化された操舵角(δMod)と測定された操舵角(δMes)との比較のために、操舵角差が形成(55)される ことを特徴とする請求項9に記載の方法(21)。 【請求項11】 モデル化された操舵角(δMod)またはそれから導出される変数と操舵角差とが異なる符号である際に、自動車のオーバーステアリングが検知(57,59)される ことを特徴とする請求項10に記載の方法(21)。 【請求項12】 モデル化された操舵角(δMod)と測定された操舵角(δMes)との比較(55)に依存して、自動車のオーバーステアリングの場合のラック力の修正のための第1修正値が決定(65)され、μスプリット状態での前記ラック力(FF)の修正のための第2修正値が決定(65)され、第1修正値と第2修正値のうちの最大値がオフセット値(O1)とされる ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項13】 オーバーステアリングが検知(57、59)されているか、あるいは、オフセット値(O1)が少なくとも所定の閾値(75)以上である限り、ゼロとは異なる第1修正値が形成される ことを特徴とする請求項12に記載の方法(21)。 【請求項14】 自動車の車速(v)が少なくとも車速最小値以上である限り、ゼロとは異なるオフセット値(O1)が形成される ことを特徴とする請求項8乃至13のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項15】 前記ラック力(FF)は、修正ファクタ(Pred)との乗算(39)によって変更されることで、修正される ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項16】 前記修正ファクタ(Pred)は、自動車の横加速度(ay)に依存して計算されることを特徴とする請求項15に記載の方法(21)。 【請求項17】 前記修正ファクタ(Pred)は、自動車モデルによって決定された横加速度(ay)と測定された横加速度(ay,Mes)との横加速度差(ay,Korr)に依存して計算される ことを特徴とする請求項15に記載の方法(21)。 【請求項18】 前記修正ファクタ(Pred)は、検知あるいは測定された摩擦係数(μ)に依存して計算される ことを特徴とする請求項15乃至17のいずれかに記載の方法(21)。 【請求項19】 自動車のステアリング装置(2)のためのフィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)であって、 当該フィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)は、結果としてのラック力(FR)を、実際の車輪の操舵角(δRW)または当該操舵角(δRW)の設定値を特徴付ける操舵角度変数に依存して決定する、というように装備されており、 前記フィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)は、 ステアリング装置(2)の軸上の横方向力(Fyv)を特徴付ける変数を決定し、当該横方向力(Fyv)に依存してラック力(FF)を決定する、 というように装備されており、 前記ラック力(FF)の決定は、比例差分伝達関数を有する信号処理要素(35)によるフィルタリングを含んでおり、前記ラック力(FF)は、前記結果としてのラック力(FR)の決定に寄与する ことを特徴とするフィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)。 【請求項20】 請求項1乃至18のいずれかに記載の方法を実施するために、当該フィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)が装備されている ことを特徴とする請求項19に記載のフィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)。 【請求項21】 請求項19乃至20に記載されたフィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)を備えた自動車のステアリング装置(2)であって、 前記フィードフォワード、及び/または、フィードバック制御装置(1)は、ラック力(FF,FR)を、実際の車輪の操舵角(δRW)または当該操舵角(δRW)の設定値を特徴付ける操舵角度変数に依存して決定する、というように装備されていることを特徴とするステアリング装置(2)。」 第5 当審の判断 1 当審拒絶理由について 当審拒絶理由に対し、平成30年6月14日付けの手続補正書により、本願の請求項1?21は、上記「第4」のとおり補正された。 そして、この補正により、上記「第3」において示した拒絶の理由は解消した。 2 原査定について (1)引用文献の記載等 ア 引用文献1の記載等 引用文献1には、以下の記載等がある(下線は当審で付加した。)。 (1a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 舵取り車輪に操舵力を伝達するラック軸を有する舵取り機構に電動モータから操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、 操舵角を検出する操舵角検出手段と、 当該電動パワーステアリング装置が搭載される車両の車速を検出する車速検出手段と、 前記操舵角検出手段によって検出される操舵角および前記車速検出手段によって検出される車速に応じて、車両モデルに基づいて推定されるラック軸力推定値を生成する軸力推定値生成手段と、 この軸力推定値生成手段によって生成されるラック軸力推定値に応じて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動制御手段とを含むことを特徴とする電動パワーステアリング装置。」 (1b) 「【0011】 以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。 図1は、この発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を説明するための概念図である。この電動パワーステアリング装置は、車両の舵取り車輪W(たとえば前左右輪)を転舵させるための舵取り機構1に対して、電動モータMが発生するトルクを操舵補助力として伝達するように構成されている。舵取り機構1は、車両の左右方向に沿うラック軸2と、このラック軸2のギヤ部に噛合するピニオン3とを備えたラック・ピニオン型のものである。ピニオン3には、ステアリングシャフト4の一端が結合されており、このステアリングシャフト4の他端には、操作部材としてのステアリングホイール5が結合されている。したがって、ステアリングホイール5を回動操作することによって、この回動がステアリングシャフト4およびピニオン3を介してラック軸2に伝達され、このラック軸2の軸方向変位に変換される。 【0012】 ラック軸2の両端には、一対のタイロッド6の各一端がそれぞれ結合されている。この一対のタイロッド6の各他端は、一対のナックルアーム7の各一端に結合されている。この一対のナックルアーム7は、一対のキングピン8まわりに回動自在にそれぞれ支持されていて、一対の舵取り車輪Wがそれぞれ結合されている。この構成により、ラック軸2が軸方向に変位すると、ナックルアーム7がキングピン8まわりに回動し、これにより、舵取り車輪Wが転舵される。 【0013】 舵取り機構1に対して適切な操舵補助力を付与するために、電動モータMを制御するためのコントローラ(ECU:電子制御ユニット)10が設けられている。このコントローラ10には、ステアリングホイール5の回転角(操作角)を操舵角として検出する舵角センサ11の出力信号と、当該電動パワーステアリング装置が搭載された車両の車速を検出する車速センサ12の出力信号とが入力されるようになっている。 【0014】 図2は、コントローラ10の電気的構成を説明するためのブロック図である。コントローラ10は、マイクロコンピュータ15と、車載バッテリ13からの電力を電動モータMに供給するための駆動回路16と、電動モータMに流れる電流を検出する電流検出回路17とを含む。 マイクロコンピュータ15は、CPU(中央処理装置)およびメモリ(ROM,RAMなど)を含み、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理手段としての働きを有する。この複数の機能処理手段には、当該電動パワーステアリング装置が搭載される車両の数学モデルである車両モデルに基づいて軸力推定値を生成する軸力推定値生成部22と、目標駆動値としての目標電流値を生成するアシスト制御部23と、目標電流値と実際のモータ電流値との偏差を求める偏差演算部24と、駆動指令値を生成するPI(比例積分)制御部25と、PWM(パルス幅変調)制御信号を生成するPWM制御部26とを含む。アシスト制御部23、偏差演算部24、PI制御部25およびPWM制御部26は、軸力推定値に基づいて電動モータMを駆動制御するモータ駆動制御手段を構成している。また、偏差演算部24、PI制御部25および電流検出回路17などは、目標電流値に基づいて電動モータMを制御するフィードバック制御手段を構成している。 【0015】 軸力推定値生成部22は、舵角センサ11によって検出される操舵角θと、車速センサ12によって検出される車速Vとを入力として、軸力推定値Yを生成する。軸力推定値とは、ラック軸2に対してその軸方向に作用する力である軸力(ラック軸力)の推定値である。この軸力推定値は、たとえば、車両の右方向への軸力に対しては正の値をとり、車両の左方向への軸力に対しては負の値をとる。 【0016】 軸力推定値生成部22は、操舵角θおよび車速Vを入力として、軸力推定値Yを出力するマップの形態を有していてもよい。また、軸力推定値生成部22は、操舵角θおよび車速Vの入力を受けて、関数演算等の演算処理によって、軸力推定値Yを求め、これを出力するものであってもよい。この場合の演算処理とは、後述する車両モデルに操舵角θおよび車速Vを当てはめて、軸力推定値Yを求める処理である。軸力推定値生成部22がマップの形態を有する場合には、操舵角θおよび車速Vのさまざまな組み合わせを予め車両モデルに当てはめて軸力推定値Yを求め、これをメモリに格納しておけばよい。」 (1c) 「【0029】 【数4】 【0030】 また、ステアリングホイール5からの操舵角入力に対するタイロッド6の変位に実質的な動特性(遅れ)がないものとして、操舵系を剛体として取り扱い、操舵角θに対する前輪30(舵取り車輪W)の実舵角δ_(f)の関係は、次式(12)のとおりであるとする。 【0031】 【数5】 【0032】 図7および図8に示すように、キングピン8まわりのセルフアライニングトルクをナックルアーム7の長さ(キングピン8からのアーム長)で除した値が、タイロッド6を介してラック軸2に作用する軸力となる。タイヤ2輪分のセルフアライニングトルクを考慮すると、ラック軸2に作用する軸力Yは、次式(13)(14)で表される。式(14)は、式(11)の出力方程式と等価である。 【0033】 【数6】 【0034】 したがって、操舵角θから、前記式(12)に従って前輪30の実舵角δ_(f)を求め、これと車速Vとを用いて、前記式(10)に従って必要な計算を行うことによって、前輪横力F_(f)が求まる。これを前記式(14)に代入することによって、軸力Yを推定することができる。 むろん、車両モデルを表す数式中の定数(パラメータ)は、電動パワーステアリング装置が搭載される車両に適合するように調整される。」 (1d)引用文献1には、「操舵角θから、前記式(12)に従って前輪30の実舵角δfを求め、これと車速Vとを用いて、前記式(10)に従って必要な計算を行うことによって、前輪横力F_(f)が求まる。これを前記式(14)に代入することによって、軸力Yを推定することができる。」(摘示(1c))と記載されていることから、引用文献1には、「ラック軸力推定値Yを生成する方法」が記載されている。 以上の(1a)?(1d)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「 舵取り車輪Wに操舵力を伝達するラック軸2を有する舵取り機構1に電動モータMから操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置のためにラック軸力推定値Yを生成する方法であって、 操舵角を検出する舵角センサ11と、 当該電動パワーステアリング装置が搭載される車両の車速を検出する車速センサ12と、 前記舵角センサ11によって検出される操舵角θおよび前記車速センサ12によって検出される車速Vに応じて、前輪横力F_(f)を求め、これを用いて推定されるラック軸力推定値Yを生成する軸力推定値生成部22と、 を備え、 アシスト制御部23、偏差演算部24、PI制御部25およびPWM制御部26は、ラック軸力推定値Yに基づいて電動モータMを駆動制御する ラック軸力推定値Yを生成する方法。」 イ 引用文献6の記載 引用文献6には、以下の記載がある。 (2a) 「【0024】以下、それら第1、第2パルス信号を制御パラメータとして用いたトルクサーボ制御について説明する。トルクセンサ1からの操舵トルク信号は、位相補償フィルタ2によって検出遅れの補正やノイズの除去が行われ、加算演算部3に入力される。また、マイコン20からの第1パルス信号もバッファ21を介して加算演算部3に入力される。ここで、位相補償フィルタ2から出力された信号を信号Vtといい、第1パルス信号を信号Doffという。」 ウ 引用文献7の記載 引用文献7には、以下の記載がある。 (3a) 「【0038】 SAT1算出部140は、前輪の車輪回転速度センサから入力される車輪回転速度ω_(fl)、ω_(fr)に基づいてSAT初期推定値SATiを推定するSAT初期推定部143と、SAT初期推定部143で推定したSAT初期推定値SATiのノイズを除去するローパスフィルタ(LPF)144と、入力される車輪回転速度ω_(fl)、ω_(fr)を加算する加算部141と、車輪回転速度ω_(fl)、ω_(fr)の加算値の1/2を算出して車速相当値Vs’を算出する平均値算出部142と、平均値算出部142で算出された車速相当値Vs’に基づいてローパスフィルタ144から出力されるノイズ除去されたSAT初期推定値SAT’の位相補正を行ってSAT演算値SAT1を出力する位相補補正部145(当審注:「位相補正部145」の誤記と認められる。)とで構成されている。」 エ 引用文献8の記載 引用文献8には、以下の記載がある。 (4a) 「【0026】 [1.2 ロードノイズ抑制手段;位相補償部] 図27は、電動モータ9を制御するためのECU105の詳細な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記ECU105には、上記トルクセンサ7からのトルク信号Tsを入力する位相補償部(位相補償器)213などの各機能が含まれている この位相補償部213は、本発明におけるロードノイズ抑制手段を構成している。位相補償部213には、トルクセンサ7からのトルク検出信号が与えられ、位相補償部213によってトルク検出信号の位相が進められることにより実用周波数帯域におけるシステム全体の応答性が向上する。 また、この位相補償部213は、ロードノイズを抑制するためのフィルタ部としても機能している。すなわち、この位相補償部213は、伝達関数として、下記式の特性を持つ。 G_(C)(s)=(s^(2)+2ζ_(2)ω_(2)s+ω_(2)^(2))/(s^(2)+2ζ_(1)ω_(1)s+ω_(1)^(2)) ただし、sはラプラス演算子、ζ_(1)は補償後の減衰係数、ζ_(2)は被補償系の減衰係数、ω_(1)は補償後の自然角周波数、ω_(2)は被補償系の自然角周波数である。」 オ 引用文献9の記載 引用文献9には、以下の記載がある。 (5a) 「【0014】このようにして求めたピニオンからのラック軸力Fpとモータからのラック軸力Fmとを位相補償フィルタ11を通すことにより、Fp・Fm間の位相ずれを補正した上でのラック軸力Frが出力される。 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「車両」の「舵取り機構1」と、本願発明1の「自動車のためのステアリング装置」とは、その機能・構成から、「車両のためのステアリング装置」を限度として共通する。 イ 引用発明は、「ラック軸力推定値Yに基づいて電動モータMを駆動制御」しており、「舵取り機構1に電動モータMから操舵補助力を与え」ている。 そうすると、上記アを踏まえると、引用発明の「ラック軸力推定値Y」と本願発明1の「自動車のステアリング装置(2)のための結果としてのラック力(FR)」とは、「車両のステアリング装置のための結果としてのラック力」を限度として共通する。 ウ 上記イを踏まえると、引用発明の「舵取り車輪Wに操舵力を伝達するラック軸2を有する舵取り機構1に電動モータMから操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置のためにラック軸力推定値Yを生成する方法」は、本願発明1の「結果としてのラック力(ラック軸力推定値Y)を決定するための方法」に相当する。 エ 本願発明1の「ラック力(FF)」及び「結果としてのラック力(FR)」に関し、本願明細書には、以下の記載がある。 「【0050】 ラック力FFは、簡単な場合には、第2の乗算器39に値FIとして直接的に与えられ得る。・・・」 「【0052】 自動車モデル27が十分に正確である、特には自動車の移動状態にとって好適なラック力FRの計算のための記述の方法は、特には横加速度a_(y,Mod) を十分に正確に計算可能である。そのような標準状態では、好適には、加算器29、31によって各変数δ_(Mes) ないしa_(y,Mod) に何の値も加算されないで、乗算器39がラック力の中間値FIに値1を掛け、FI=FRである。」 上記両記載を勘案すれば、本願発明1の「ラック力(FF)」と「結果としてのラック力(FR)」は、同一の値となり得ることが記載されているといえる。 オ 引用発明の「ラック軸力推定値Y」は、「舵角センサ11によって検出される操舵角θ」「に応じて、前輪横力F_(f)を求め、これを用いて推定され」ていることから、引用発明の「ラック軸力推定値Y」は、本願発明の「実際の車輪の操舵角(δRW)」とはいえないものの、「当該操舵角(δRW)の設定値を特徴付ける操舵角度変数」といえる。 そして、上記エのとおり、本願発明1の「ラック力(FF)」と「結果としてのラック力(FR)」が同一の値として考えれば、引用発明の「ラック軸力推定値Y」は、本願発明1の「実際の車輪の操舵角(δRW)または当該操舵角(δRW)の設定値を特徴付ける操舵角度変数に依存して決定され」る「ラック力(FF)」にも相当するといえる。 カ 上記エ及びオを踏まえると、引用発明の「ラック軸力推定値Y」は、本願発明1の「ラック力(FF)」及び「結果としてのラック力(FR)」のいずれにも相当することから、引用発明は、本願発明1の「前記ラック力(FF)は、前記結果としてのラック力(FR)の決定に寄与する」構成を備えているといえる。 上記ア?カの検討を総合すると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「 車両のステアリング装置のための結果としてのラック力を決定するための方法であって、 ラック力が、実際の車輪の操舵角または当該操舵角の設定値を特徴付ける操舵角度変数に依存して決定され、 前記ラック力は、前記結果としてのラック力の決定に寄与する 方法。」 <相違点1> 「車両」について、本願発明1は「自動車」であるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。 <相違点2> 本願発明1の「方法」は、「ステアリング装置(2)の軸上の横方向力(Fyv)を特徴付ける変数を決定する工程と、当該横方向力(Fyv)に依存して前記ラック力(FF)を決定する工程と、を備え、前記ラック力(FF)の決定は、比例差分伝達関数を有する信号処理要素(35)によるフィルタリングを含んで」いる構成を備えているのに対し、引用発明の「方法」は、「前記舵角センサ11によって検出される操舵角θおよび前記車速センサ12によって検出される車速Vに応じて、前輪横力F_(f)を求め、これを用いて推定されるラック軸力推定値Yを生成」しており、「比例差分伝達関数を有する信号処理要素(35)によるフィルタリング」について特定されていない点。 (2)判断 以下、事案に鑑み相違点2について検討する。 ア 例えば、引用文献6に「位相補償フィルタ2によって検出遅れの補正やノイズの除去が行」う点(摘示(2a))、引用文献7に「位相補正部145」を設ける点(摘示(3a))、引用文献8に「位相補償部213」を「ロードノイズを抑制するためのフィルタ部」とする点(摘示(4a))、引用文献9に「位相補償フィルタ11を通すことにより、Fp・Fm間の位相ずれを補正」する点(摘示(5a))が記載されているように、制御系の定常・過渡特性、安定・応答性、ノイズの除去の観点から、演算値に対して、位相補償のフィルタリングを行うことは、慣用技術である。 イ しかし、上記相違点2に係る本願発明1の「ステアリング装置(2)の軸上の横方向力(Fyv)を特徴付ける変数を決定する工程と、当該横方向力(Fyv)に依存して前記ラック力(FF)を決定する工程」については、引用文献1には記載も示唆もされていない。 特に、引用発明の「前輪横力F_(f)」は「前輪」にかかる横力であり、本願発明1の「横方向力(Fyv)」は「ステアリング装置(2)の軸上」にかかる横力であることから、これらの横力は、異なる力である。 そうすると、上記周知技術を適用しても、上記相違点2に係る本願発明1の構成に至るものではない。 そして、本願発明1は、少なくとも上記相違点2に係る本願発明1の構成により、「運転者に快適なステアリング感覚が与えられ、ステアリング装置が運転者に自動車の移動状態について可能な限りリアルなフィードバックを与える、というような目標ステアリングトルクが生成され得るというラック力を決定する」(本願明細書【0004】)という格別の効果を奏するものである。 ウ したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献6?9に記載された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明19について (1)対比・判断 本願発明19は、実質的に本願発明1を装置の発明として特定したものということができるから、上記1で述べた理由と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 本願発明2?18、20及び21について 本願発明2?18は、本願発明1の構成を更に限定して発明を特定し、本願発明20及び21は、本願発明19の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記1及び2のとおり、本願発明1及び19が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであり、上記相違点2に関し、引用文献2?5には、記載も示唆もされていないことから、本願発明2?18、20及び21は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-07-24 |
出願番号 | 特願2014-541574(P2014-541574) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B62D)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 田々井 正吾 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
出口 昌哉 仁木 学 |
発明の名称 | ステアリング装置のラック力を決定するための方法、及び、ステアリング装置 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 伊藤 大幸 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 佐藤 泰和 |