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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1342388
審判番号 不服2017-16081  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-30 
確定日 2018-07-31 
事件の表示 特願2013-240766「タッチセンサ装置、電子機器、位置算出方法及び位置算出プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月19日出願公開、特開2015- 53024、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月21日(優先権主張平成24年12月21日、平成25年8月7日)の出願であって、平成29年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年10月30日に審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年8月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 本願請求項1-13、15-17に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-104102号公報
2.特開2011-053928号公報
3.特開2001-356879号公報
4.特開2012-146026号公報

理由3 この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第3 本願発明
本願請求項1-16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明16」という。)は、平成29年10月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
付随部分を有する指示体のタッチの有無及び当該指示体のタッチ位置に応じてインピーダンスが変化するタッチパネルと、
このタッチパネルにおける前記インピーダンスに基づく検出信号を一定時間ごとに出力する検出回路と、
この検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルに触れたことを示すタッチオンを判定するタッチオン判定部と、
前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルから離れたことを示すタッチオフを判定するタッチオフ判定部と、
前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を受けた前記タッチ位置である第1の検出位置を算出する第1の位置算出部と、
前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部と、
前記第1及び第2の位置算出部で算出された前記第1及び第2の検出位置の差に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置を得るための補正値を算出する補正値算出部と、
前記タッチオン判定部で前記タッチオンが判定されてから引き続き前記指示体が前記タッチパネルに触れながらスライドして前記タッチオフ判定部で前記タッチオフが判定されるまでの間、前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき前記第1の検出位置を算出しつつ、前記補正値算出部で算出された前記補正値を用いて当該第1の検出位置を補正することにより第3の検出位置を算出する第3の位置算出部と、
を備えたタッチセンサ装置。」

本願発明2-14は、概略、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明15、16は、それぞれ、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「位置算出方法」、「位置算出プログラム」の発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審付与。以下同様。)。

(1) 段落【0017】
「【0017】
本発明者が見いだしたところによると、タッチパネルの表面に指示体が接触し、タッチオン判定後、ドラッグ動作をしている間に、誤ってタッチオフ判定されてしまうことがあった。ここで、指示体とは、指や指と同等の静電容量を形成する導電性のものをいう。指示体は、タッチセンサに対して指示を入力可能なものであればいずれのものでもよく、指示体には、例えば、指(手袋を装着した指含む)、ペン等が含まれる。タッチオンとは、指示入力を目的として指示体がタッチパネルに接触している状態をいう。タッチオフとは、指示入力を目的とする指示体とタッチパネルとの接触がない状態をいう。また、ドラッグ動作とは、タッチパネルの表面に指示体を接触し、指示体をずらす動作である。この原因は、ドラッグ動作の際にユーザが無意識のうちに指示体以外の部分をタッチパネルに軽く接触させてしまうことがあり、このために指示体と透明導電層とで形成される静電容量が低下することなどによる。また、ドラッグ動作中に静電容量が変動することがあることも原因となる。」

(2) 段落【0071】(第1実施形態)
「【0071】
ここで、第1実施形態に係る発明は、タッチオフ判定に関する発明であり、本実施形態では、タッチオン判定手段については簡略的に説明する。信号取得機構102が、タッチパネル101から信号を取得し、信号算出機構105が、基準記憶機構104に記憶されたベースラインに基づいて、取得した信号の出力値を補正し、信号の出力値f[iT]とする(S102)。ここで、Tはタッチ判定の判断の周期であり、すなわちタッチセンサの動作周波数の逆数となる。例えば、タッチセンサの動作周波数が40Hzのとき、T=25msecとなる。次に、接触判定機構110は、信号の出力値f[iT]と、閾値記憶機構109に記憶されている第1閾値Th1とを比較し(S103)、信号の出力値f[iT]のほうが大きければ(f[iT]>Th1)、タッチオン判定する(S106)。なお、S103後、iを1つカウントアップする(S104、S105)。なお、i=1のときは、第1閾値Th1は初期設定として閾値記憶機構109に記憶されているものを使用する。i≧2のときは、後述のS110で第1閾値Th1が更新されていた場合には、更新した第1閾値Th1を使用する。」

(3) 段落【0083】(第1実施形態)
「【0083】
本発明の電子機器1は、本発明のタッチセンサ装置100を備える。タッチパネル101は、絶縁性基板41上に、透明導電層などのインピーダンス面39と、インピーダンス面39の四隅に設けられる複数の電極38と、インピーダンス面39の表面を覆う保護層37と、を有する。発振器が出力する交流電圧は、前記複数の電極38を介してインピーダンス面に印加される。指示体23がタッチパネル101の表面に接触(近接)すると、指示体23とインピーダンス面39との間に静電容量25が形成される。タッチセンサ装置100の電流検出部は、複数の電極に流れる電流をそれぞれ検出する複数の電流検出回路29a?29dを有する。複数の電極38に流れる電流の総和は、指示体23とインピーダンス面39との間に形成される静電容量25に比例する。複数の電流検出回路29a?29dの各出力は、標本化(サンプリング)と離散化によって、数値に変換される。これらの数値を基に静電容量25に比例する信号(以下「信号」とする)が計算される。信号は一定の周波数30?120Hzで出力される。なお、本書にいうインピーダンス面とは、三次元的構造をも含み、例えば、表示部に対応する領域においてパターニングしていない透明導電層のことをいう。」

(4) 段落【0162】-【0187】(第6実施形態)
「【0162】
本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。図17に、本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置の概略ブロック図を示す。第3実施形態においては、所定の単位時間(第2単位時間)当たりの信号の変化の大きさ(信号の第1差分値)と第3閾値Th3とを比較し、タッチオンか否かを判断するが、第2単位時間は初期設定で決まる固定値であった。第6実施形態においては、タッチ毎の状況に応じて第2単位時間を自動的に調節する。また、外挿値を利用して掌の接近に伴う影響を考慮して指示体の位置を算出する。
【0163】
第6実施形態に係るタッチセンサ装置600は、第3実施形態の構成に加えて、さらに単位時間当たりの信号の出力値の変化の大きさを判定する変化判定機構613、外挿値を算出する外挿算出機構614、及び接触判定や指示体の位置の算出に使用する外挿値を記憶する外挿記憶機構615を備える。なお、上記実施形態のおいては表記していなかったが、図17においては、本実施形態の説明のため、差分値を記憶する差分記憶機構612及び指示体の位置を算出する位置算出機構616を図示してある。差分記憶機構612及び位置算出機構616は、本実施形態のみが有する要素ではない。
【0164】
図18に、本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置を動作させるためのプログラムを説明するためのフローチャートを示す。第6実施形態においては、パネルの四隅で取得されるチャンネル信号の出力値のひとつをfch[iT]とする。指示体の接触位置は、各チャンネル信号の出力値fch[iT]をもとに算出される。4つのチャンネル信号の出力値fch[iT]の合計値を信号の出力値f[iT]とし、信号の出力値f[iT]をもとに、タッチオン判定等を行う。フローチャートの各ステップの説明では、極力4チャンネル信号の合計値f[iT]を使用し、位置算出に関するステップのみに各チャンネルの信号の出力値fch[iT]を使用する。図40に、本実施形態を基にした実施例8における測定結果を示す。図40には、以下の説明に対応する説明が付されている。
【0165】
まず、初期設定後、接触判定機構610は、第1実施形態と同様にタッチオフ判定する(S601)。次に、i回目のタッチ判定の判断において、信号取得機構602は、信号を取得する。信号算出機構605は、第1実施形態と同様に、信号の出力値f[iT]を算出する(S602)。
【0166】
次に、差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S603)。ここで、信号の第2差分値g1[iT]は、g1[iT]=f[iT]-f[(i-1)T]で算出される。第3単位時間は、f[iT]が緩やかに変化しているか否かを判断するための区間である。例えば、第3単位時間は16ミリ秒(=1T=1*16ミリ秒)と設定することができる。
【0167】
次に、変化判定機構613は、第2差分値g1[iT]と第4閾値Th4とを比較する(S604)。ここで、第4閾値Th4は、f[iT]が緩やかに変化しているか否か、すなわち掌の接近に伴い信号変化しているか否かを判断する閾値であり、予め閾値記憶機構609に記憶させておく。第4閾値Th4は、第3閾値Th3をmax(n-m)で除算した値とする(Th4=Th3/max(n-m))。第3閾値Th3は、第3実施形態と同様にしてタッチオン判定するための閾値である。mは、指示体とタッチセンサとの接触に伴うf[iT]の急上昇を判定するiであり、nはタッチオン判定されるiである。このとき、タッチオン判定か否かを判断する第2単位時間は(n-m)Tとなる。max(n-m)は、(n-m)の上限値であり、(n-m)Tの上限値をmax{(n-m)T}とする。例えば、T=16ミリ秒とし、max(n-m)=5と設定した場合、max{(n-m)T}=5*16ミリ秒=80ミリ秒となる。第3閾値Th3を1.5pFと設定した場合、第4閾値Th4は、0.3pF(=Th3/max(n-m)=1.5pF/5)となる。
【0168】
S604において、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4以下である場合、S605でiを1つカウントアップしてから、S602に戻る。一方、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より大きい場合、iをmに代入し、f[iT]が急上昇しはじめる第1変化点をmTより1T前である時刻(m-1)Tにおけるf[(m-1)T]とする(S606)。
【0169】
次に、iを1つカウントアップし(S607)、S602同様にして、信号取得機構602は信号を取得し、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を算出する(S608)。
【0170】
次に、S603と同様にして、差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S609)。差分記憶機構612は、第2差分値g1[iT]を記憶する。

・・・(中略)・・・

【0173】
外挿値e[iT]は、fch[iT]が第1変化点を過ぎて急上昇しても、第1変化点以前の緩やかな上昇の傾向をもとに第1変化点から時刻iTまで外挿して求めることができる。外挿値をもとめる目的は、指先とパネル表面との接触に伴って、信号が急上昇している間も、指だけでなく掌もパネル表面に対して接近するので、この区間における掌の信号成分の増加を見込むことにより、より正確に掌の接近に伴う信号を推測するためである。
【0174】
次に、差分算出機構603(当審注:「611」の誤記と認める。)は、信号の出力値f[iT]と外挿値e[iT]との差を算出する。次に、接触判定機構610は、その差と第3閾値Th3と比較する(S613)。差(f[iT]-e[iT])が第3閾値Th3以下である場合、iを1つカウントアップしてから(S614)、S602に戻る。これは、タッチオン判定の閾値に達しないため、タッチオン判定をはじめからやり直すことに相当する。一方、差(f[iT]-e[iT])が第3閾値Th3より大きい場合、iをnに代入し、f[iT]が飽和しはじめる第2変化点をnTから1T前である時刻(n-1)Tとし、時刻(n-1)Tにおける信号の出力値をf[(n-1)T]とし、タッチオン判定する(S615)。

・・・(中略)・・・

【0178】
次に、閾値算出機構608は、f[iT]*αをタッチオフ判定の第1閾値Th1とし、閾値記憶機構609に記憶させる(S616)。ここで、αは、第1実施形態と同様に、タッチオフ判定の第1閾値Th1を計算するためのパラメータである。例えば、αは0.6に設定する。次に、iを1つカウントアップする(S617)。
【0179】
次に、S602と同様にして、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を取得する(S618)。
【0180】
次に、差分算出機構611は、S603と同様にして、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S619)。
【0181】
次に、接触判定機構610は、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較する(S620)。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さい場合、iを1つカウントアップしてから(S621)、S601に戻る。すなわち、タッチオフ判定され、次のタッチオン待ちとなる。一方、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、位置算出機構616は、各チャンネル信号の出力値と各チャネルの外挿値との差(fch[iT]-ech[(n-1)T])を基に、指示体の位置を算出する(S622)。ここで、ech[(n-1)T]は、指示体が指である場合、掌の信号成分に相当する。すなわち、掌の信号成分の除いた値を基に指示体の位置を算出する。
【0182】
次に、変化判定機構613は、S619で算出した第2差分値g1[iT]と0とを比較する(S623)。第2差分値g1[iT]が0以下である場合、S624を経由せずに、S625に進む。一方、第2差分値g1[iT]が0より大きい場合、f[iT]*αを新たなタッチオフ判定の第1閾値Th1とする(S624)。次に、iを1つカウントアップしてから(S625)、S618に戻る。

・・・(中略)・・・

【0187】
S613及びS622において掌の接近に伴う信号に外挿値を使用したが、第1変化点を使用してもよい。外挿値と比べて、第1変化点の算出は簡単であり、算出する過程を大幅に減らすことが可能である。」

したがって、特に、上記段落【0187】の記載によれば、「第6実施形態」のステップS613、S622等において、掌の接近に伴う信号として、時刻によって変化する「外挿値」(e[iT]、ech[iT])に替えて、一定値であって簡単に算出できる「第1変化点」(f[(m-1)T]、fch[(m-1)T])を用いる場合が想定でき、この場合に、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「指示体には、例えば、指(手袋を装着した指含む)、ペン等が含まれ、
指示体がタッチパネルの表面に接触(近接)すると、指示体とインピーダンス面との間に静電容量が形成され、
信号取得機構が、タッチパネルから信号を取得し、
信号算出機構が、基準記憶機構に記憶されたベースラインに基づいて、取得した信号の出力値を補正し、信号の出力値f[iT]とし、ここで、Tはタッチ判定の判断の周期であり、
パネルの四隅で取得されるチャンネル信号の出力値のひとつをfch[iT]とし、指示体の接触位置は、各チャンネル信号の出力値fch[iT]をもとに算出され、
4つのチャンネル信号の出力値fch[iT]の合計値を信号の出力値f[iT]とし、信号の出力値f[iT]をもとに、タッチオン判定等を行い、
i回目のタッチ判定の判断において、
信号取得機構602は、信号を取得し、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を算出し(S602)、
差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出し(S603)、
変化判定機構613は、第2差分値g1[iT]と第4閾値Th4とを比較し(S604)、
ここで、第4閾値Th4は、f[iT]が緩やかに変化しているか否か、すなわち掌の接近に伴い信号変化しているか否かを判断する閾値であり、第4閾値Th4は、第3閾値Th3をmax(n-m)で除算した値とし、第3閾値Th3は、タッチオン判定するための閾値であり、mは、指示体とタッチセンサとの接触に伴うf[iT]の急上昇を判定するiであり、nはタッチオン判定されるiであり、
S604において、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より大きい場合、iをmに代入し、f[iT]が急上昇しはじめる第1変化点をmTより1T前である時刻(m-1)Tにおけるf[(m-1)T]とし(S606)、
iを1つカウントアップし(S607)、
信号取得機構602は信号を取得し、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を算出し(S608)、
差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出し(S609)、
差分算出機構611は、信号の出力値f[iT]と「第1変化点f[(m-1)T]」との差を算出し、次に、接触判定機構610は、その差と第3閾値Th3と比較し(S613)、
差(f[iT]-「f[(m-1)T]」)が第3閾値Th3より大きい場合、iをnに代入し、f[iT]が飽和しはじめる第2変化点をnTから1T前である時刻(n-1)Tとし、時刻(n-1)Tにおける信号の出力値をf[(n-1)T]とし、タッチオン判定し(S615)、
閾値算出機構608は、f[iT]*αをタッチオフ判定の第1閾値Th1とし、閾値記憶機構609に記憶させ(S616)、
ここで、例えば、αは0.6に設定し、
iを1つカウントアップし(S617)、
信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を取得し(S618)、
差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出し(S619)、
接触判定機構610は、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較し(S620)、
信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さい場合、iを1つカウントアップしてから(S621)、S601に戻り、すなわち、タッチオフ判定され、次のタッチオン待ちとなり、
信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、位置算出機構616は、各チャンネル信号の出力値と各チャネルの「第1変化点」との差(fch[iT]-fch[(m-1)T])を基に、指示体の位置を算出し(S622)、
ここで、fch[(m-1)T]は、指示体が指である場合、掌の信号成分に相当し、すなわち、掌の信号成分の除いた値を基に指示体の位置を算出して、S618に戻る、
タッチセンサ装置。」

2.引用文献2、引用文献3について
原査定の拒絶の理由において、周知技術を例示する文献として引用された、上記引用文献2、引用文献3には、以下の記載がある。

(1) 引用文献2(段落【0033】)
「【0033】
また、信号判別部31がドラッグ信号であると判別した場合について説明する。
この場合、ドラッグ信号は、ポインタ位置決定部34に伝えられ、ポインタ位置決定部34が、ドラッグ信号に含まれるタッチ位置と、補正値記憶部33に記憶された補正値とに基づいて、ポインタ位置を求める(ステップ306)。そして、ポインタ位置記憶部32に既に記憶されたポインタ位置を、ここで求めたポインタ位置によって更新する(ステップ307)。また、ポインタ位置はポインタ位置出力部35に渡され、ポインタ位置出力部35が、このポインタ位置にポインタを移動させるポインタ移動指示を操作パネル15に出力する(ステップ308)。」

(2) 引用文献3(段落【0036】-【0042】)
「【0036】図4は、図3で表示された印Aの位置を本来あるべきペンタッチ位置Xへ操作者がカーソルキー3を用いて動かした状態を示す画面図である。図4に示すように、操作者から端末装置に対してある補正点での補正量(ずれ量)が入力された。補正したい位置(補正点)やその位置でのずれ量は入力補正情報として入力情報記憶部6で記憶される。

・・・(中略)・・・

【0041】ステップS5で補正パラメータの計算が可能であれば、次のステップS6で、中央制御部2は補正パラメータ計算部7を制御して、現在までの入力情報記憶部6に記憶された入力補正情報に基づいて補正パラメータの計算を行わせる。この計算方法についても別途詳細に後述する。また、ステップS5で補正パラメータの計算が不可能であれば、中央制御部2は、ステップS8にジャンプして再び操作者の入力操作待ちに移行する。
【0042】ステップS6で補正パラメータの計算を行った後に、中央制御部2は、ステップS7でその計算結果を位置入力情報補正部8に伝える。これにより、位置入力情報補正部8は、計算した補正パラメータに応じた表示位置に補正する。中央制御部2は、ステップS8で再び操作者の入力操作待ちに移行する。」

(3) 引用文献2、引用文献3の上記各記載から、タッチパネルでの指示位置の補正において、補正値をメモリに記憶して当該補正値を使用することは、周知技術であると認められる。

3.その他の文献について
原査定の拒絶の理由において、請求項11に対して引用された引用文献4(段落【0026】-【0032】の記載を参照。)は、タッチパネルの検出状況から、タッチパネル上の指の方向を推定して、これに基づいて位置を補正することが周知技術であることを示すために引用された文献である。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「掌」を有する「指」等である「指示体」は、本願発明1の「付随部分」を有する「指示体」に相当する。
引用発明の「タッチパネル」は、「指示体がタッチパネルの表面に接触(近接)すると、指示体とインピーダンス面との間に静電容量が形成され」ることに基づいて、「タッチオン判定」、「タッチオフ判定」、「指示体の位置」を算出するから、本願発明1の「付随部分を有する指示体のタッチの有無及び当該指示体のタッチ位置に応じてインピーダンスが変化するタッチパネル」に相当する。

イ 引用発明の「信号取得機構」と「信号算出機構」は、本願発明1の「検出回路」に相当する。
引用発明において「信号取得機構が、タッチパネルから信号を取得し、信号算出機構が、基準記憶機構に記憶されたベースラインに基づいて、取得した信号の出力値を補正し、信号の出力値f[iT]とし、ここで、Tはタッチ判定の判断の周期であ」ることは、本願発明1の「このタッチパネルにおける前記インピーダンスに基づく検出信号を一定時間ごとに出力する検出回路」に相当する

ウ 引用発明の「接触判定機構610」は、信号取得機構がタッチパネルから取得した信号に基づいて、ステップ「S615」で「タッチオン判定」をしているから、本願発明1の「この検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルに触れたことを示すタッチオンを判定するタッチオン判定部」に相当する
また、引用発明の「接触判定機構610」は、信号取得機構がタッチパネルから取得した信号に基づいて、ステップ「S601」で「タッチオフ判定」をしているから、本願発明1の「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルから離れたことを示すタッチオフを判定するタッチオフ判定部」にも相当する

エ 引用発明の「第1変化点(f[(m-1)T])」は、本願発明1の「補正値」に相当する。
引用発明の「変化判定機構613」は、ステップ「S606」で、「f[iT]が急上昇しはじめる第1変化点をmTより1T前である時刻(m-1)Tにおけるf[(m-1)T]とし」ているから、「第1変化点」を算出する手段である。
ここで、引用発明では、ステップ「S622」で「第1変化点」の値をタッチパネルの出力値から差し引くことによって、「掌の信号成分の除いた値を基に指示体の位置を算出して」いる。
よって、引用発明の「変化判定機構613」は、本願発明1の「前記第1及び第2の位置算出部で算出された前記第1及び第2の検出位置の差に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置を得るための補正値を算出する補正値算出部」と、「前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置を得るための補正値を算出する補正値算出部」である点で共通するといえる。

オ 引用発明のステップ「S622」で「第1変化点」の値をタッチパネルの出力値から差し引くことによって算出される「指示体の位置」は、本願発明1の「第3の検出位置」に相当する。
引用発明の「位置算出機構616」は、ステップ「S622」で、「信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、位置算出機構616は、各チャンネル信号の出力値と各チャネルの「第1変化点」との差(fch[iT]-fch[(m-1)T])を基に、指示体の位置を算出して、S618に戻る」という指示体の位置の算出動作を、ステップ「S615」で「タッチオン判定」されてから、ステップ「S620」で信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1よりも小さいと判断されてステップ「S601」にジャンプして「タッチオフ判定」されるまで繰り返しているから、本願発明1の「前記タッチオン判定部で前記タッチオンが判定されてから引き続き前記指示体が前記タッチパネルに触れながらスライドして前記タッチオフ判定部で前記タッチオフが判定されるまでの間、前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき前記第1の検出位置を算出しつつ、前記補正値算出部で算出された前記補正値を用いて当該第1の検出位置を補正することにより第3の検出位置を算出する第3の位置算出部」と、「前記タッチオン判定部で前記タッチオンが判定されてから引き続き前記指示体が前記タッチパネルに触れながらスライドして前記タッチオフ判定部で前記タッチオフが判定されるまでの間、前記補正値算出部で算出された前記補正値を用いて第3の検出位置を算出する第3の位置算出部」点で共通するといえる。

したがって、本願発明1と、引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「付随部分を有する指示体のタッチの有無及び当該指示体のタッチ位置に応じてインピーダンスが変化するタッチパネルと、
このタッチパネルにおける前記インピーダンスに基づく検出信号を一定時間ごとに出力する検出回路と、
この検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルに触れたことを示すタッチオンを判定するタッチオン判定部と、
前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記指示体が前記タッチパネルから離れたことを示すタッチオフを判定するタッチオフ判定部と、
前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置を得るための補正値を算出する補正値算出部と、
前記タッチオン判定部で前記タッチオンが判定されてから引き続き前記指示体が前記タッチパネルに触れながらスライドして前記タッチオフ判定部で前記タッチオフが判定されるまでの間、前記補正値算出部で算出された前記補正値を用いて、第3の検出位置を算出する第3の位置算出部と、
を備えたタッチセンサ装置。」

[相違点1]
本願発明1では、「補正値」の算出で用いられる「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を受けた前記タッチ位置である第1の検出位置を算出する第1の位置算出部」を備えるのに対して、引用発明では、位置算出動作としては、本願発明1の「第3の検出位置」算出動作に対応するステップ「S622」のみであって、「前記付随部分の影響を受けた前記タッチ位置である第1の検出位置を算出する第1の位置算出部」がない点。

[相違点2]
本願発明1では、「補正値」の算出で用いられる「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部」を備えるのに対して、引用発明では、位置算出動作としては、本願発明1の「第3の検出位置」算出動作に対応するステップ「S622」のみであって、「前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部」がない点。

[相違点3]
「補正値」の算出に関して、本願発明1では、「前記第1及び第2の位置算出部で算出された前記第1及び第2の検出位置の差に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置を得るための補正値を算出する補正値算出部」を備えるのに対して、引用発明では、「変化判定機構613」が、ステップ「S606」で、補正値を「第1変化点(f[(m-1)T])」として算出するものであって、「第1及び第2の検出位置の差に基づき」補正値を算出していない点。

[相違点4]
「補正値」に基づく「第3の位置」の算出に関して、本願発明1では、「前記タッチオン判定部で前記タッチオンが判定されてから引き続き前記指示体が前記タッチパネルに触れながらスライドして前記タッチオフ判定部で前記タッチオフが判定されるまでの間、前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき前記第1の検出位置を算出しつつ、前記補正値算出部で算出された前記補正値を用いて当該第1の検出位置を補正することにより第3の検出位置を算出する第3の位置算出部」を備えるのに対して、引用発明では、「第1の検出位置」は算出しておらず、また、「当該第1の検出位置を補正することにより」第3の検出位置を算出していない点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記[相違点2]について、先に検討すると、本願発明1の[相違点2]に係る、「補正値」の算出で用いられる「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部」を備えるという構成は、上記引用文献1-4には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。

したがって、上記[相違点1]、[相違点3]、[相違点4]について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献1-4に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-16について
本願発明2-14は、概略、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明15、16は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「位置算出方法」、「位置算出プログラム」の発明であって、本願発明1の上記[相違点2]の「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部」という構成と実質的に同一の構成を備えるものである。
よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-16も、当業者であっても、引用発明、引用文献1-4に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1.「理由1」について
本願発明1-16は、「前記検出回路から出力された前記検出信号に基づき、前記付随部分の影響を除いた前記タッチ位置である第2の検出位置を算出する第2の位置算出部」という事項を有しており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

2.「理由3」について
審判請求時の補正により、理由3の実施可能要件の指摘に対応する「請求項14」が削除されており、原査定の理由3を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2013-240766(P2013-240766)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 536- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼瀬 健太郎  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
発明の名称 タッチセンサ装置、電子機器、位置算出方法及び位置算出プログラム  
代理人 高橋 勇  

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