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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01D
管理番号 1342643
審判番号 不服2017-10960  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-24 
確定日 2018-08-17 
事件の表示 特願2013- 90126「複合半透膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-240781、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月23日の出願(国内優先権主張平成24年4月25日)であって、平成28年10月6日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年12月1日付けで手続補正がされ、平成29年4月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年7月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年4月16日付けで平成29年7月24日の手続補正についての補正の却下の決定がされると同時に拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成30年6月11日付けで手続補正がされたものである。
なお、平成29年2月6日付けで刊行物等提出書が提出されている。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年4月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3、5-8に係る発明は、以下の引用文献A-Cに記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平05-317667号公報
B.特開2011-056433号公報
C.国際公開第2010/126113号

なお、引用文献Cは、周知の課題が記載された文献として、査定時に初めて引用されたものである。

第3 当審拒絶の理由の概要
当審拒絶理由通知に記載された理由の概要は次のとおりである。

補正の却下の決定がされたので、平成28年12月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された発明を対象とする。
(理由1-1)
本願請求項1、6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
(理由1-2)
本願請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
(理由2-1)
本願請求項5に係る発明は、以下の引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2-2)
本願請求項7,8に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平05-317667号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.特開2006-130497号公報(当審において新たに引用した文献 :平成29年2月6日付け刊行物等提出書で引用された刊行物1と同じ)

第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成30年6月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-6は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
スキン層を多孔性支持体の表面に形成してなる水処理用複合半透膜の製造方法において、スキン層を多孔性支持体の表面に形成する前に、多孔性支持体の表面に付着している最大幅が50nm以上の微粒子である異物を除去する異物除去工程を含み、
前記異物除去工程は、多孔性支持体表面への液体吹き付け処理、多孔性支持体表面でのワイパー、スキージ又はブラシの接触移動処理、多孔性支持体表面への気体吹き付け処理、又はこれらの2種以上の組み合わせにより行い、
前記スキン層は、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを重合してなるポリアミド系樹脂を含むものであり、多官能アミン成分を含むアミン水溶液を多孔性支持体の表面に接触させる前に、前記異物除去工程を行うことを特徴とする水処理用複合半透膜の製造方法。
【請求項2】
前記異物除去工程は、液体吹き付け処理をした後、接触移動処理又は気体吹き付け処理を行う工程である請求項1記載の水処理用複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
前記異物除去工程は、気体吹き付け処理をした後、接触移動処理を行う工程である請求項1記載の水処理用複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
前記異物除去工程は、多孔性支持体の両側表面に付着している異物を除去する工程である請求項1?3のいずれかに記載の水処理用複合半透膜の製造方法。
【請求項5】
前記異物除去工程は、アミン水溶液を多孔性支持体の表面に接触させる前、60秒以内に行う請求項1?4のいずれかに記載の水処理用複合半透膜の製造方法。
【請求項6】
前記多官能アミン成分が、脂環式多官能アミンである請求項1?5のいずれかに記載の水処理用複合半透膜の製造方法。」

第5 引用文献等

1.引用文献1(拒絶査定時の引用文献Aに同じ)について
平成30年4月16日付けの当審拒絶理由通知において引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 多孔性ポリスルホン支持膜に多官能性アミンと多官能性アシルハライドを界面重縮合させて形成される架橋ポリアミドからなる活性層を被覆してなる逆浸透法用複合膜を製造する際に、あらかじめ該多孔性ポリスルホン支持膜をポリスルホンの溶媒を5?50重量%含有する50?100℃の水溶液に浸漬して処理することを特徴とする逆浸透法用複合膜の製造方法。」
「【0022】 実施例1
縦30cm、横20cmの大きさのポリエステル繊維からなるタフタ(縦糸、横糸とも150デニ-ルのマルチフィラメント糸、織密度縦90本/インチ、横67本/インチ、厚さ160μm)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホン(Amoco社製Udel P-3500)の15重量%N,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと略す。)溶液を150μmの厚みで室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜(以下FR-PS支持膜と略す。)を作製した。このFR-PS支持膜を90℃の10重量%のDMFを含有する水溶液中に2分間浸漬して処理した。処理したFR-PS支持膜は純水中に入れて10分間放置することにより冷却するとともにDMFを洗浄除去した。」
「【0023】
FR-PS支持膜を1重量%の1,3,5-トリアミノベンゼンと1重量%のm-フェニレンジアミンを含んだ水溶液中に室温下(20℃)で1分間浸漬した。該支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、0.05重量%のテレフタル酸クロライドと0.05重量%のトリメシン酸クロライドを含んだ1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン溶液を支持膜表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に支持膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、風乾で1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンを除去した。最後に0.2重量%の炭酸ナトリウム水溶液に5分間浸漬して複合膜を得た。」
「【0024】
このようにして得られた複合膜をpH6.5に調製した3.5%合成海水を原水とし、56Kg/cm^(2) 、25℃の条件下で逆浸透テストした結果、排除率99.2%、透水速度1.30m^(3) /m^(2) ・日の膜性能であった。」

したがって、上記引用文献1には、逆浸透法用複合膜の製造方法の実施例1として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「1重量%の1,3,5-トリアミノベンゼンと1重量%のm-フェニレンジアミンを含んだ水溶液中に浸漬した後、0.05重量%のテレフタル酸クロライドと0.05重量%のトリメシン酸クロライドを含んだ1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン溶液を塗布し界面縮重合させて形成する膜を、ポリエステル繊維からなるタフタ上にポリスルホンの15重量%DMF溶液をキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって作製した繊維補強ポリスルホン支持膜の表面に形成してなる海水処理用複合逆浸透膜の製造方法であって、前記界面縮重合させて形成する膜を繊維補強ポリスルホン支持膜の表面に形成する前に、繊維補強ポリスルホン支持膜を90℃の10重量%のDMFを含有する水溶液中に2分間浸漬して処理するとともに、純水中に入れて10分間放置することにより冷却しDMFを洗浄除去する海水処理用逆浸透法用複合膜の製造方法。」

2.引用文献2について
平成30年4月16日付けの当審拒絶理由通知において引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリアミド系スキン層と、これを支持する多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜の製造方法において、
多孔性支持体を移動させながら、該多孔性支持体上に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを塗布して水溶液被覆層を形成する工程A、
前記水溶液被覆層を0.2?15秒間多孔性支持体上に保持して、多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを浸透させる工程B、
多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを保持させながら、前記水溶液被覆層を除去する工程C、及び
工程C後、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布し、該有機溶液bと前記水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する工程Dを含み、かつ
連続的に複合逆浸透膜を作製することを特徴とする複合逆浸透膜の製造方法。」
「【0001】
本発明は、多孔性支持体表面にポリアミド系スキン層が形成された複合逆浸透の製造方法に関する。詳しくは、海水やかん水の脱塩、超純水の製造、医薬品や食品工業における有価物の濃縮、染色排水や雷着塗料排水等の工業排水の処理などに用いられる水透過性能及び塩阻止性能に優れた複合逆浸透膜を効率よく連続して製造する方法に関する。」
「【0048】
水溶液被覆層の除去手段は、水溶液被覆層を多孔性支持体上から実質的に完全に除去できる手段であれば特に制限されないが、例えば、ゴムブレードワイパー、エアーナイフ、吸着スポンジロール、ポリエチレン製やポリエステル製などのプラスチックプレートワイパー、真空吸液ロール、及びウレタンゴム製などのスキージが挙げられる。特に、ゴムブレードワイパー又はエアーナイフにより除去することが好ましい。
【0049】
ゴムブレードワイパーの材質としては、例えば、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、及びウレタンゴムなどが挙げられるが、耐摩耗性と耐薬品性の面でニトリルゴム又はフッ素ゴムが好適に用いられる。
【0050】
エアーナイフを使用する場合、水溶液被覆層を多孔性支持体表面から実質的に完全に除去するためには、多孔性支持体がロールで支持された部分にエアーナイフを近接させて、30?150m/秒の速度で空気を吹き付ける必要がある。エアーナイフと多孔性支持体表面との距離は、1?5mmが好ましく、さらに好ましくは1?2mmである。空気の代わりに窒素ガスのような不活性ガスを吹き付けてもよい。
【0051】
本発明において、「水溶液被覆層を実質的に完全に除去する」とは、水溶液被覆層を除去した多孔性支持体表面を指で触って湿り気を感じる程度であり、ティッシュペーパーのような吸液紙で多孔性支持体表面を軽く拭いても吸液紙が濡れない状態まで水溶液被覆層を除去することを意味する。
【0052】
上記除去工程Cの直後に、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布する。そして、該有機溶液bと、多孔性支持体表面の微孔内に含浸状態で存在する水溶液a及び多孔性支持体表面に吸着している水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する。」

したがって、上記引用文献2には、複合逆浸透膜の製造方法として、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ポリアミド系スキン層を、多孔性支持体の表面に形成してなる水透過性能に優れた複合逆浸透膜の製造方法であって、多孔性支持体の微孔内に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを保持させながら、ワイパー、スキージ又は気体吹き付け処理により水溶液被覆層を除去する工程Cを行った後、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布し、有機溶液bと水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する水透過性能に優れた複合逆浸透膜の製造方法。」

3.引用文献B,Cについて
原査定の理由に引用された引用文献Bには、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ゼオライト膜素体の表面を洗浄する装置であって、前記ゼオライト膜素体を回転自在に支持するチェーンコロと、前記チェーンコロを所要の間隔で取り付けて複数の前記ゼオライト膜素体を移送可能な移送体と、前記移送体によって移送される前記ゼオライト膜素体を前記移送方向と交差する方向の両側から挟んで洗浄可能な位置に設けた回転ブラシとを備えたことを特徴とするゼオライト膜洗浄装置。」
「【0005】
そこで、従来は、ブラシ支持体とブラシ毛を有する回転ブラシを回転させ、ブラシ毛をゼオライト膜素体に接触させてその接触箇所に洗浄水を供給するとともに、回転ブラシとゼオライト膜素体との接触箇所を次々と変えることによりゼオライト膜素体を洗浄する洗浄装置を使用し、ゼオライト膜の形成後にその外表面に付着している付着物の洗浄を行っていた(例えば特許文献2)。また、作業者が流水と洗浄ブラシを使用して、人手によるブラッシングをする場合もあった。
【0006】
しかしながら、従来の洗浄装置は、ゼオライト膜素体を1本ずつ洗浄するものであったため、大量に生産されたゼオライト膜素体を連続的に洗浄することが出来ないという問題があった。」
「【0012】
本発明では、チェーンコロ上に夫々横置きした複数のゼオライト膜素体を移送体によって移送する間に、回転ブラシがゼオライト膜素体を上下方向の両側から挟んで洗浄するので、複数のゼオライト膜素体の全面を一度に連続的に洗浄することができる。」

原査定の理由に引用された引用文献Cには、次の事項が記載されている。
「【0003】
このポリアミド系複合膜の支持体としては、コストと特性とのバランスよりポリエステル製不織布が最も良く用いられ、この上に形成される多孔質素材としてはポリスルホンが最も一般的に用いられている。ポリアミド複合膜の工業的製造方法としては、まず、ポリスルホンを溶媒に溶かした製膜溶液を支持体上に流延し、水で凝固、脱溶媒させるいわゆる湿式製膜法によって多孔質層を形成させ、次いでこのポリスルホン多孔質層上に多官能アミン水溶液と多官能酸クロライドを塗布し界面重合させることによりポリアミドスキン層を形成させ、キュア・乾燥させることにより連続的に製造されている。」
「【0005】
即ち、多孔質層製膜時には、製膜溶液が過剰に滲みだすいわゆる裏抜けやピンホールなどの欠陥が生じないような適度な密度や通気性及びそれらの均一性、並びに表面平滑性が必要である。例えば、支持体密度が低すぎたり斑がある場合、支持体表面に起毛や異物などの突起物がある場合、あるいは表面の凹凸が大きい場合には、多孔質層にピンホールやクレーター状の窪み、「Cut&Slit」といわれる刃物で切り裂いたような欠陥、あるいは支持体表面と多孔質層の界面に潜在的欠陥である気泡が多数発生する恐れがある。これらの欠陥又は潜在的欠陥が多孔質層に生じた場合、ポリアミドスキン層製膜時に塗布されたアミン水溶液が多孔質層の表面層付近に均一に保持されずにスキン層欠陥が生じたり、緻密なスキン層が形成されない場合がある。また見掛け上均一なスキン層が形成されていても加圧下で使用時にスキン層が破れ、脱塩性能が著しく低下することがある。」

第6 当審拒絶の理由についての判断

1.本願発明1と引用発明1との対比・判断について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明1における「界面縮重合させて形成する膜」、「繊維補強ポリスルホン支持膜」、及び「海水処理用逆浸透法用複合膜」は、それぞれ、本願発明1における「スキン層」、「多孔性支持体」、及び「水処理用複合半透膜」に相当する。
また、引用発明1における「1重量%の1,3,5-トリアミノベンゼンと1重量%のm-フェニレンジアミンを含んだ水溶液中に浸漬した後、0.05重量%のテレフタル酸クロライドと0.05重量%のトリメシン酸クロライドを含んだ1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン溶液を塗布し界面縮重合させて形成する膜」は、本願発明1における「多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを重合してなるポリアミド系樹脂を含むもの」に相当する。
さらに、引用発明1における「90℃の10重量%のDMFを含有する水溶液中に2分間浸漬して処理するとともに、純水中に入れて10分間放置することにより冷却しDMFを洗浄除去する工程を含む」は、「1重量%の1,3,5-トリアミノベンゼンと1重量%のm-フェニレンジアミンを含んだ水溶液中に浸漬」する前に行われていて、ポリエステル繊維からなるタフタ上にポリスルホンの15重量%DMF溶液をキャストした後に純水中へ浸漬した際に、繊維上でポリスルホンが凝固(ゲル化)して形成された多孔性支持体である繊維補強ポリスルホン支持膜上に必然的に存在し膜にならずに最大幅が50nm以上の微粒子状に凝固したポリスルホンも、少なくとも一部が溶解して除去されるものと認められることから、本願発明1における「スキン層を多孔性支持体の表面に形成する前に、多孔性支持体の表面に付着している最大幅が50nm以上の微粒子である異物を除去する異物除去工程を含む」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の相違点1があるがその余の点では一致するといえる。

(相違点1)
本願発明1は「異物除去工程は、多孔性支持体表面への液体吹き付け処理、多孔性支持体表面でのワイパー、スキージ又はブラシの接触移動処理、多孔性支持体表面への気体吹き付け処理、又はこれらの2種以上の組み合わせにより行」うという構成を備えるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点1についての判断
上記相違点1について検討するに、上記引用文献Cによれば、多孔質層製膜時に、支持体表面に起毛や異物などの突起物がある場合、あるいは表面の凹凸が大きい場合には、多孔質層にピンホールやクレーター状の窪み、その他の欠陥が多数発生する恐れがあって、これらの欠陥等が多孔質層に生じた場合、ポリアミドスキン層製膜時にスキン層欠陥が生じたり、緻密なスキン層が形成されない場合があったりすることについては周知の課題であると認められる。また、異物等の除去の必要性があった場合には、上記引用文献2の【0048】の記載等に基づく異物除去あるいは上記引用文献Bの記載に基づくブラシ洗浄等に想到することに特に困難性は見いだせないといえる。
しかしながら、引用発明1の「繊維補強ポリスルホン支持膜」表面における異物除去の課題については見いだすことができない。即ち、引用文献Cに係る異物などの突起物の存在がその表面に想定されている支持体は、摘記した段落【0003】の記載からみて多孔質層の支持体となるべきポリエステル不織布等であり、このことは、「異物」とともに「起毛」が併記されていることからも明らかである。他方、引用発明1における「繊維補強ポリスルホン支持膜」は、その上に界面縮重合膜が形成されることから、引用文献Cに記載された「多孔質層」に相当するものであるが、引用文献Cには「多孔質層」表面の異物除去の課題については言及が無い。
してみれば、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に導き出せるとはいえない。

2.本願発明1と引用発明2との対比・判断について
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明2における「水透過性能に優れた複合逆浸透膜」は本願発明1における「水処理用複合半透膜」に相当する。

本願発明1と引用発明2との間には、少なくとも次の相違点2がある。

(相違点2)
本願発明1は「スキン層は、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを重合してなるポリアミド系樹脂を含むものであり、多官能アミン成分を含むアミン水溶液を多孔性支持体の表面に接触させる前に、異物除去工程を行う」のに対し、引用発明2は「多孔性支持体の微孔内に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを保持させながら、ワイパー、スキージ又は気体吹き付け処理により水溶液被覆層を除去する工程Cを行」う点。

(2)相違点2についての判断
上記相違点2について検討するに、引用発明2において、除去する水溶液被覆層自体が多官能アミン成分を含むアミン水溶液aから生成するものであるから、除去する工程を「多官能アミン成分を含むアミン水溶液を多孔性支持体の表面に接触させる前」に行うこととする動機付けを見いだすことはできない。
してみれば、引用発明2において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に導き出せるとはいえない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1,2に記載された発明ではないし、引用文献B,Cに記載された技術的事項を考慮しても、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.本願発明2?6について
本願発明2?6は、いずれも本願発明1の発明特定事項をすべて含み、そこに技術的限定を付したものであるから、本願発明1と同様、引用文献1,2に記載された発明ではないし、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第7 原査定の理由についての判断
原査定における引用文献A-C(引用文献Aは当審拒絶理由における引用文献1に同じ)に記載された発明との対比・判断については、上記したとおりであり、本願発明1-6は、原査定における引用文献A-Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第8 刊行物等提出書についての検討
平成29年2月6日付けで提出された刊行物等提出書において主たる引用文献とされている刊行物1は上記引用文献2に同じであり、そこに記載された発明との対比・判断については上記したとおりである。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-07 
出願番号 特願2013-90126(P2013-90126)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (B01D)
P 1 8・ 121- WY (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河野 隆一朗  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 菊地 則義
豊永 茂弘
発明の名称 複合半透膜の製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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