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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41F
管理番号 1342915
審判番号 不服2017-1697  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-06 
確定日 2018-08-09 
事件の表示 特願2014-209676「印刷またはコーティング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月19日出願公開、特開2015- 33855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成22年2月2日に出願した特願2010-21336号(以下「原出願」という。)の一部を平成26年10月14日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月22日付けで手続補正書が提出され、平成28年11月2日付けで拒絶の査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、平成29年2月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において、平成30年1月26日付けで拒絶の理由を通知したところ、これに対し、同年4月9日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成30年4月9日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「被転写体に対して、圧胴により保持されて搬送されているときに、オゾン発生領域の波長の光を必要とせずに硬化する高反応型インキまたはオゾン発生領域の波長の光を必要とせずに硬化する高反応型ニスを転写し、
光照射装置がオゾンレスランプを備えるとともに当該オゾンレスランプの光のうち熱発生領域の波長を除去した光であって波長が270nm?400nmの範囲の全域に存在する光を前記被転写体の転写面に照射することにより前記高反応型インキまたは高反応型ニスを硬化させ、
前記高反応型インキまたは高反応型ニスの転写後、裏移りを防止するためのパウダーを前記被転写体に噴射することなく排出し、
前記光照射装置が光を前記被転写体の転写面に照射するときは、前記被転写体が吸着胴によって搬送されるときであることを特徴とする印刷またはコーティング方法。」

3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願前に頒布された「特開平5-116489号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。以下、同じ。)
ア.「上述の如き接着剤15が塗布された連続シート1(図4参照)は、一旦作成ラインを切断し、別の作成ラインを使用して印刷装置13に移送され、接着剤15塗布面上に紫外線硬化インキ16を用いて隠蔽情報記入欄17(図4参照)が印刷される。なお、この印刷工程を前記接着剤塗布工程と連続的に行うことも可能である。」(段落【0018】)
イ.「続いて、連続シート1の印刷面に、紫外線照射装置14により紫外線が照射され、前記印刷による紫外線硬化インキ16が硬化して定着されることにより、葉書用シート10となる(図4参照)。この紫外線照射装置14は、オゾン発生量の少ない365nmを主波長とする紫外線を照射する高圧水銀ランプ14aを備えたもので、前記高圧水銀ランプ14aの長さは、葉書上紙片2の幅とほぼ同一長である(図4参照)。なお、オゾンが発生しない紫外線照射装置を用いれば理想的である。オゾン発生量が少ない紫外線照射装置を用いると接着剤に対して悪影響を与えることがなく、また人体に対しても害を及ぼさない。また、この紫外線照射後に各ミシン目4,5,8やマージナル孔6を加工する場合には、これらの加工予定部分に、250nm以下の波長を有するメタルハライドランプ等で紫外線を照射すれば、加工予定部分の接着剤15が酸化されて劣化し、その接着力が低下するので、ブロッキングの発生を防止することができるという利点がある。そして、図1に示すように、この葉書用シート10は印刷面(重ね合わせ面)が上になった状態でロール状に巻き取られる。」(段落【0019】)
ウ.図1から、「連続シート1に対して、印刷装置13の圧胴により保持されているときに、紫外線硬化インキ16を転写している」ことが看取できる。
エ.上記「ア.」の記載から、「印刷方法」が示されているといえる。
これらの記載事項、及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「連続シートは、印刷装置に移送され、紫外線硬化インキを用いて隠蔽情報記入欄が印刷され、続いて、連続シートの印刷面に、紫外線照射装置により紫外線が照射され、前記印刷による紫外線硬化インキが硬化して定着される印刷方法において、
紫外線照射装置は、オゾン発生量の少ない365nmを主波長とする紫外線を照射する高圧水銀ランプを備えたもので、人体に対しても害を及ぼさないもので、
連続シートに対して、印刷装置の圧胴により保持されているときに、紫外線硬化インキを転写している印刷方法。」
(2)引用例2
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「麻田隆志、UV照射装置の現状、印刷雑誌2007年10月号、株式会社印刷学会出版部、平成19年10月15日発行、21?25頁」(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「印刷におけるUVの利用」(21頁左欄2行)
イ.「メタルハライドランプ
・・・また、発光管の材質によりオゾンタイプとオゾンレスタイプに分けられる。・・・しかし、オゾンレスタイプではランプ発光管に特殊な石英を用いて230nm以下の短波長をカットするのでオゾンの発生を抑制できる。」(21頁右欄9?26行)
ウ.「反射板の種類
・・・コールドフィルター方式
ガラス上に金属薄膜を多層蒸着し、赤外線および可視光をカットし、UVを透過するフィルターを照射器具下面に搭載し被照射物の温度上昇を抑える方式。」(24頁左欄1?21行)
エ.図2から、「250nmの波長範囲から400nmの波長範囲までの全波長領域にわたる広範囲の波長の光を照射するオゾンレスタイプのメタルハライドランプ」が看取できる。(22頁左欄)
(3)引用例3
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「松原陽一、UV硬化技術と印刷分野への応用、印刷雑誌2006年6月号、株式会社印刷学会出版部、平成18年6月15日発行、17?23頁」(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「UV硬化技術と印刷分野への応用」(17頁2行)
イ.「UVランプに与えられる電力を100とすると実際にUVに変換されるのは約30%、可視光が10%、赤外線(IR)が40%、ロス分が20%となる。ここで問題となるのがIR成分でそのまま照射されると被照射体の温度上昇の原因となるので、できるだけ取り除きたい。」(19頁左欄4?9行)
ウ.「IR成分の除去に用いられているのが・・・IRカットフィルターである。」(19頁左欄22?23行)
(4)引用例4
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「折笠輝雄、UVインクジェット用光源の技術動向、日本印刷学会誌第45巻第6号、社団法人日本印刷学会、平成20年12月31日発行、9?17頁」(以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「UV硬化技術とインクジェット(以下IJと表す)技術の特性を組み合わせたUVIJ技術は、ドロップオンデマンド(DOD)技術の理想形として注目を浴びている。」(9頁左欄2?4行)
イ.「UV光源を分類する上で、その分類のしかたは様々である。本稿では、光開始剤励起種を生成させる観点からUV光源をポリクロマチック発光光源とモノクロマチック発光光源に大別し、それぞれについて概説する。」(13頁左欄2?5行)
ウ.「ポリクロマチック光源の発光スペクトルはUV領域のみならず、可視から赤外線領域まで含まれるため、楕円形集光リフレクターで2次焦点に集まるエネルギーは、UVスペクトル領域だけでなく、赤外領域まで照射され、熱による基材のダメージが生じる場合がある。
非照射物への熱の影響を防ぐ場合、・・・発光バルブから直接のIR光をカットするために、UVランプと非照射物の間にIRカットフィルターを配す工夫がなされている。」(15頁左欄1?11行)
(5)引用例5
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「木下忍、UV/EB硬化装置、日本印刷学会誌第40巻第3号、社団法人日本印刷学会、平成15年6月30日発行、7?16頁」(以下「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「表1に示したとおり、UV硬化技術は利用しやすいなどの特長も多く、表2に挙げたとおり身近なところの印刷に使用されている。
それに使用されるUV硬化装置はランプ、照射器、電源および冷却装置で構成される。特に装置選定には、・・・UV以外に可視光線や赤外線(IR)も同時に発光されるので、基材の温度上昇による基材変化も十分注意する必要がある。」(8頁左欄3行?右欄2行)
イ.「コールドミラーと熱線カットフィルター(必要な紫外線を透過させ可視光線及び赤外線を反射する。)を併用し、さらに低温化が必要なワークに使用する。」(11頁表4)
ウ.表3から、「約230nmの波長範囲から400nmの波長範囲までの全波長領域にわたる広範囲の波長の光を照射するオゾンレスタイプのメタルハライドランプ」が看取できる。(9頁)
(6)引用例6
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「特開昭61-158451号公報」(以下「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「プリント合板、プリント配線基板あるいは新聞印刷などの印刷工程において、紫外線硬化性の塗料、インク等を塗布した基体に紫外線を照射してこの塗料、インク等を硬化させる方法がある。しかし、このような方法において、紫外線を照射する例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどの高圧放電ランプは、紫外線とともに可視光線および赤外線も照射するため、塗料、インク等や基体に熱を加えることになり、時によっては、その紫外線硬化の光化学反応を阻害したり、基体を熱損させたりすることがあり、そのため、一般に被照射面の加熱作用を除く手段が採用されている。」(1頁右欄1?13行)
(7)引用例7
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「中村裕一、UV印刷の今後、印刷雑誌2010年1月号、株式会社印刷学会出版部、平成22年1月15日発行、9?11頁」(以下「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「UV印刷の今後」(9頁2行)
イ.「LED-UV方式と比較した場合、低出力UVシステムは熱とオゾンが出てしまうため、給排気ダクト設備が必要となり、イメージ面で劣ってしまう。そこで、UVランプメーカーのアイグラフィックスとランプを共同開発し、熱およびオゾンを出さない方式を商品化した。これは、光電管で使用されているガラスの技術とフィルターの技術を組み合わせたもので、結果として、印刷紙面温度は印刷室プラス4?5℃、オゾン測定でもオゾンは検出されなかった。」(10頁右欄15?24行)
(8)引用例8
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「田中治夫、LED硬化型インキの原理と特徴、印刷雑誌2008年10月号、株式会社印刷学会出版部、平成20年10月15日発行、11?15頁」(以下「引用例8」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「LED硬化型インキの原理と特徴」(11頁2行)
イ.「UV印刷システムでは、照射装置の能力(高出力化、多灯化など)に依存するものの、周速約300m/分での高速印刷も実用となっている。」(13頁左欄16行?右欄3行)
ウ.「また、メタルハライドランプは、・・・254nmから436nmまで連続した発光スペクトル分布となり、」(13頁右欄13?17行)
(9)引用例9
同じく引用された、本願の原出願前に頒布された「特開平11-228899号公報」(以下「引用例9」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の平版および活版用印刷インキは、紫外線照射装置を備えた平版および活版印刷機を用いて印刷した場合において、該印刷面の表出面が紫外線照射により硬化し、かつ、該表出面に覆われた下層が酸化重合により硬化することを特徴とするものである。このように構成することにより、裏うつりやブロッキングを防止することができ、パウダーを散布する必要がなくなり作業環境を良化することができると共に、印刷したものを棒積みすることができるために、従来のスノコ取りに伴う作業者に掛かる作業負荷をなくすことができる。(段落【0007】)
イ.上記「ア.」の記載から、「印刷方法」が示されているといえる。
これらの記載事項、及び図示内容を総合すると、引用例9には、次の発明(以下「引用発明9」という。)が記載されているものと認められる。
「紫外線照射装置を備えた平版および活版印刷機を用いて印刷した印刷方法において、平版および活版用印刷インキは、該印刷面の表出面が紫外線照射により硬化し、かつ、該表出面に覆われた下層が酸化重合により硬化して、パウダーを散布する必要がなくなり作業環境を良化することができる印刷方法。」
(10)引用例10
本願の原出願前に頒布された「特開平9-184903号公報」(以下「引用例10」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「石英ガラスを代表とするSiO2含有率の高いガラスは、高耐熱性と高透過性を併せ持つ優れた光学材料として多岐にわたって利用されている。特に高出力ランプでは石英ガラスが管材として多用されている。しかし、そのランプの用途によって、その石英ガラスの短波長UV高透過性で却って支障を来すことがあり、その解決のために、ある特定波長から短波長のUV域を遮蔽する必要が生じる場合がある。例えば、250nm付近の透過率を下げないで、オゾン発生の原因となる200nm以下の光を極力遮蔽する必要がある場合;オゾンの発生とオゾン分解による有害な活性酸素の発生を両方抑制するために260nm以下を極力遮蔽した上で、必要な300nm以上の透過性を確保する必要がある場合などである。」(段落【0001】)
イ.「本発明者は、相当数の金属元素の有機化合物等を単一状態で、もしくは複合された状態で合成石英ガラスにコーティングして、分光透過特性、耐熱性、耐熱衝撃性などを詳細に調べた。・・・また、Nb酸化物を50WT%添加して1回コーティングした場合、250nm以下をほぼ完全に遮蔽し、かつ50%カット波長も長波長になることなく300nmであり、その上、350nmで85%の透過率を確保できる(図6参照)。しかも、可視域も全体的に透過性が高い。・・・本発明になるコーティングを施した通常の石英ガラスを管材として用いれば、高価なオゾンレス石英ガラスを用いた場合と比較して、低コストで、性能的に安定したオゾンレスHIDランプが実現することになる。」(段落【0004】)
(11)引用例11
本願の原出願前に頒布された「特開2004-9359号公報」(以下「引用例11」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「ところで画像の硬化には一般に高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等、大出力の紫外線照射ランプが用いられるが、これらは200nm以下の短波の紫外線も放射するためオゾンを発生することが知られている。オゾンは作業環境に有害なガスであるため、排気設備を設け作業環境が汚染しないようにする必要がある。」(段落【0004】)
(12)引用例12
本願の原出願前に頒布された「特開2007-331223号公報」(以下「引用例12」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「燥部14には、渡し胴25と対接する吸着胴26の上側周面に対向し、且つ、並設されるUVランプ29a,29b,29cが設けられている。即ち、UVランプ29a,29b,29cは、吸着胴26の上方からその上側周面に向けて紫外線を照射するようになっており、吸着胴26に吸着された枚葉紙Sの一方の面のインキを乾燥させるようになっている。」(段落【0016】)
イ.「反転部13には、上述したように、渡し胴25と対接する吸着胴26が設けられており、この吸着胴26の渡し胴25よりも回転方向下流側には、当該吸着胴26と対接する反転胴27が設けられている。また、反転胴27の吸着胴26よりも回転方向下流側には、当該反転胴27と対接する渡し胴28が設けられている。」(段落【0017】)
(13)引用例13
本願の原出願前に頒布された「特開2004-351654号公報」(以下「引用例13」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「また、反転装置30において、31、32及び33はそれぞれ渡し胴、反転渡し胴及び反転胴である。」(段落【0035】)
イ.「インターデッキ乾燥部51は、光源として反転装置30の反転渡し胴32の上方から紫外光を照射できるUV(紫外線)ランプ51aを設けたUV乾燥部であり、該UVランプ51aからの紫外光を第1印刷部20Xにて印刷された用紙P(印刷物)に照射することにより、該用紙Pにおける印刷インクを乾燥させるものである。」(段落【0040】)
(14)引用例14
本願の原出願前に頒布された「特開2004-209880号公報」(以下「引用例14」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.「印刷部2は、複数の印刷ユニット21(第一印刷ユニット21a?第六印刷ユニット21f)を有しており、本実施形態においては、各印刷ユニット21にて、一色のインキを用いた印刷処理が実施可能に構成されている。また、第二印刷ユニット21bと第三印刷ユニット21cとの間には、引き渡し胴22、貯え胴23、および反転胴24が設けられており、本実施形態においては、必要に応じて、片面印刷と両面印刷とが切り替え可能に構成されている。すなわち、片面印刷の場合には、第一?第六印刷ユニット21a?21fを用いて六色印刷が可能であり、両面印刷の場合には、上流側の第一および第二印刷ユニット21a,21bにて一方の面に二色印刷が行われた後、反転胴24にて印刷用紙の表裏を反転させて、下流側の第三?第六印刷ユニット21c?21fにて他方の面に四色印刷を行うことができる。」(段落【0017】)
イ.「また、この印刷部2には、貯え胴23の上方位置に、紫外線(本発明の「放射線」に相当)を照射する照射手段(本発明の「放射線照射手段」に相当)を備えた、第一乾燥装置25が設けられている。本実施形態においては、この第一乾燥装置25から照射される紫外線を適切に制御することによって、印刷用紙上のインキを効率的に乾燥(硬化)させることができる。
なお、この第一乾燥装置25の具体的な制御方法については、後述する。」(段落【0018】)

4.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「連続シート」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「被転写体」に相当し、以下同様に、「圧胴」は「圧胴」に、「紫外線照射装置」は「光照射装置」に、「印刷面」は「転写面」に、「印刷方法」は「印刷方法」に、それぞれ相当する。
また、後者における「紫外線硬化インキ」と前者における「高反応型インキ」とは、「紫外線硬化型インキ」との概念で共通する。
また、後者における「高圧水銀ランプ」と前者における「オゾンレスランプ」とは、「紫外線照射ランプ」との概念で共通する。
したがって、両者は、
「被転写体に対して、圧胴により保持されて搬送されているときに、紫外線硬化型インキを転写し、
光照射装置が紫外線照射ランプを備えるとともに当該紫外線照射ランプオゾンレスランプの光を前記被転写体の転写面に照射することにより前記紫外線硬化型インキを硬化させる、
印刷方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
紫外線硬化型インキが、本願発明においては、「オゾン発生領域の波長の光を必要とせずに硬化する高反応型インキまたはオゾン発生領域の波長の光を必要とせずに硬化する高反応型ニス」であるのに対し、引用発明1においては、紫外線硬化インキではあるが、そのようなものか明からでない点。
[相違点2]
本願発明においては、光照射装置が、「オゾンレスランプを備えるとともに当該オゾンレスランプの光のうち熱発生領域の波長を除去した光であって波長が270nm?400nmの範囲の全域に存在する光を前記被転写体の転写面に照射する」のに対し、引用発明1においては、紫外線照射装置が、オゾン発生量の少ない365nmを主波長とする紫外線を照射する高圧水銀ランプを備えたもので、人体に対しても害を及ぼさないものである点。
[相違点3]
本願発明においては、光照射装置が、「高反応型インキまたは高反応型ニスを硬化させ」るのに対し、引用発明1においては、紫外線照射装置が、紫外線硬化インキを硬化させる点。
[相違点4]
本願発明においては、「高反応型インキまたは高反応型ニスの転写後、裏移りを防止するためのパウダーを前記被転写体に噴射することなく排出し」ているのに対し、引用発明1においては、その点につき、明らかでない点。
[相違点5]
本願発明においては、「光照射装置が光を被転写体の転写面に照射するときは、前記被転写体が吸着胴によって搬送されるときである」のに対し、引用発明1においては、その点を備えていない点。

5.当審の判断
上記相違点について以下検討する。
(1)相違点2について
紫外線照射ランプを有する光照射装置を備える印刷機の印刷方法において、紫外線照射ランプによる赤外線の照射によって、被照射体が赤外線の熱によりダメージを生じることを防止するという課題を解決するために、光照射装置にカットフィルタを備えて、赤外線、すなわち熱発生領域の波長をカットすることは、周知の技術事項(例えば、上記「3.(2)?(7)」参照。以下「周知の技術事項1」という。)である。
してみると、上記周知の技術事項1には、上記相違点2に係る本願発明の「(光照射装置が、)熱発生領域の波長を除去した光を照射する」との発明特定事項を備える。
また、紫外線照射ランプを有する光照射装置を備える印刷機の印刷方法において、波長が250nm程度の波長から400nm程度の波長の範囲の全域に存在する光を照射するオゾンレスタイプのメタルハライドランプにより光を照射することは、周知の技術事項(例えば、上記「3.(2)、(5)、(8)」参照。以下「周知の技術事項2」という。)である。
してみると、上記周知の技術事項2には、上記相違点2に係る本願発明の「(光照射装置が、)オゾンレスランプを備えるとともに当該オゾンレスランプの光の波長が270nm?400nmの範囲の全域に存在する光を前記被転写体の転写面に照射する」との発明特定事項を備える。
また、引用発明1においては、「紫外線照射装置は、オゾン発生量の少ない365nmを主波長とする紫外線を照射する高圧水銀ランプを備えたもので、人体に対しても害を及ぼさないもの」と示されていることから、有害なオゾンの発生を防止を防止するという課題が示唆されているといえ、そして、紫外線照射ランプを有する光照射装置を備える印刷機において、250nm程度以下の波長で有害なオゾンが発生するため、オゾンの発生を防止を防止するという課題は、周知(例えば、「3.(2)、(7)、(10)、(11)」参照。)であり、また、上記周知の技術事項1のとおり、紫外線照射ランプによる赤外線の照射によって、被照射体が赤外線の熱によりダメージを生じることを防止するという課題は、周知であることを踏まえれば、本願発明において、これらの課題は内在する自明の課題といえる。
したがって、本願発明と周知の技術事項1、及び2とは、共に印刷方法という技術分野に属し、上記のとおり、共通の課題を有するものであるから、本願発明において、引用発明1に周知の技術事項1、及び2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本願発明において、オゾンの発生を防止するため、及び被照射体が赤外線の熱によりダメージを生じることを防止するために、オゾンレスランプの光の波長の下限、及び上限をどの程度とするかは、当業者が本件特許発明1を実施する際に適宜定めるべき設計的事項であるところ、本願明細書をみても、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項である「270nm」を波長の下限とした点、及び「400nm」を波長の上限とした点に格別の臨界的意義があるものではない。
よって、本願発明において、引用発明1に上記周知の技術事項1、及び2を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(2)相違点1、及び3について
上記周知の技術事項2のとおりであるから、上記周知の技術事項2の印刷方法に使用する紫外線硬化型インキは、当然、オゾン発生領域の波長の光を必要とせずに硬化する高反応型インキということになる。
また引用発明1の紫外線硬化インキは、紫外線照射装置より照射されるオゾン発生量の少ない365nmを主波長とする紫外線によって硬化するから、「高反応型インキ」と推認し得る。
したがって、本願発明において、引用発明1に上記周知の技術事項2を適用して、上記相違点1、及び3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(3)相違点4について
引用発明9は、上記「3.(9)」のとおりであって、引用発明9における「紫外線照射装置」は、その構造、機能、作用等からみて、本願発明における「光照射装置」に相当し、以下同様に、「パウダー」は「パウダー」に、「印刷方法」は「印刷方法」に、それぞれ相当する。
また、引用発明9における「平版および活版用印刷インキ」と本願発明における「高反応型インキ」とは、「紫外線硬化型インキ」との概念で共通する。
してみると、引用発明9は、相違点4係る本願発明の発明特定事項である「(紫外線硬化型インキの)転写後、裏移りを防止するためのパウダーを前記被転写体に噴射することなく排出し」点を備えている。
また、引用例1には、連続シートに対して、紫外線硬化インキの転写後、裏移りを防止するためのパウダーを前記被転写体に噴射することなく排出するとの記載や示唆がないことから、引用発明1は、相違点4係る本願発明の発明特定事項を備えるものと推認し得る。
したがって、引用発明1において、引用発明9を踏まえれば、相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(4)相違点5について
一般に紫外線硬化型インキを被転写体に転写して、光照射装置により紫外線硬化型インキを硬化させる印刷方法において、前記光照射装置が光を前記被転写体の転写面に照射するときは、前記被転写体が吸着胴によって搬送されるときである印刷方法は、周知の技術事項(例えば、上記「3.(12)?(14)」参照。以下「周知の技術事項3」という。)である。
また本願発明と周知の技術事項3とは、共に印刷方法という技術分野に属し、光照射装置により紫外線硬化型インキを硬化させるとの共通の機能を有するものであるから、本願発明において、引用発明1に周知の技術事項3を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本願発明において、引用発明1に上記周知の技術事項3を適用して、上記相違点5に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明1、及び9、並び周知の技術事項1?3にから当業者が予測し得る範囲内のものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、及び9、並び周知の技術事項1?3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-28 
結審通知日 2018-06-05 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2014-209676(P2014-209676)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
発明の名称 印刷またはコーティング方法  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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