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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D06M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D06M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06M |
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管理番号 | 1342986 |
異議申立番号 | 異議2017-700862 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-08 |
確定日 | 2018-06-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6095798号発明「吸水性布帛」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6095798号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6095798号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6095798号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年11月25日(優先権主張平成25年11月25日 日本国、平成26年6月4日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月24日にその特許権の設定登録がされたものであり、その特許について、平成29年9月8日に特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年12月21日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成30年2月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、平成30年2月28日付けで申立人に訂正請求があった旨の通知を送付したが、意見書は提出されなかったものである。 第2 訂正の請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6095798号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「S元素を0.005?1wt%含有し、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維を含み、前記ポリエステル繊維の表面にn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度2?15μg/mlに相当し、n=3の環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度80μg/ml以下に相当し、かつ、JIS L0217 103 C法による洗濯30回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下である吸水性布帛。」を、 「S元素を0.005?1wt%含有し、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維を含み、前記ポリエステル繊維の表面に、下記(1): {式中、n=4である。}で表される末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度3.1?5.9μg/mlに相当し、下記(2): {式中、n=3である。}で表される環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度67μg/ml以下に相当し、JIS L0217 103 C法による洗濯30回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下であり、かつ、JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下である吸水性布帛。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7の 「前記S元素を0.005?1wt%含有するポリエステル繊維を含む布帛に、該ポリエステル繊維に対して減量率0.6?9%でアルカリ減量を施す工程、及び、40℃以上の温水を1回以上使用して水洗する工程を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の吸水性布帛の製造方法。」を、 「前記S元素を0.005?1wt%含有するポリエステル繊維を含む布帛に、該ポリエステル繊維に対して減量率0.6?9%でアルカリ減量を施す工程、及び、60℃の温水で15分間洗浄する工程を2回繰り返して水洗する工程を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の吸水性布帛の製造方法。」に訂正する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア.訂正事項1の、 (ア)「下記(1): {式中、n=4である。}で表される末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分」とする訂正は、訂正前の「末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分」を具体的に特定し、さらに限定するものであり、 (イ)「末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度3.1?5.9μg/mlに相当」とする訂正は、訂正前の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量の「2?15μg/ml」から、数値範囲を狭めて限定するものであり、 (ウ)「下記(2): {式中、n=3である。}で表される環状オリゴマー成分」とする訂正は、訂正前の「環状オリゴマー成分」を具体的に特定し、さらに限定するものであり、 (エ)「環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度67μg/ml以下に相当」とする訂正は、訂正前の環状オリゴマー成分の量の「80μg/ml以下」から、数値範囲を狭めて限定するものであり、 (オ)「JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下である」との事項を付加する訂正は、吸水性布帛の特性をさらに限定するものであるから、 訂正事項1のこれらの訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.訂正事項1は、上記(1)ア.で述べたように、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.訂正事項1は、 (ア)式(1)の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の【0011】に「ここで、末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分は、例えば、以下の式(1)・・・・で表されるn=3?10程度のものであることができる。」とあり、式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分については、【0016】に「本実施形態の布帛は、n=4の末端カルボン酸直鎖オリゴマーの量は、内部標準換算濃度2?15μg/ml相当であることが好ましく、3?10μg/ml相当であることがより好ましい。」と記載されており、 (イ)その式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の内部標準濃度換算値について、【0063】の【表2】に、実施例4では「3.1」、実施例6では「5.9」であり、実施例1?3、5では、それらの間の値であることが記載されており、 (ウ)式(2)でn=3の環状オリゴマー成分については、【0016】に「・・・・例えば、以下の式(2)・・・・で表される環状オリゴマーは、吸水性がなく、むしろ吸水性を阻害する。式(2)に示される環状オリゴマーの量についても・・・・その代表的成分をn=3とすると、n=3の環状オリゴマーの量は、内部標準換算濃度80μg/mL以下相当であることが好ましく、70μg/mL以下相当であることがより好ましい。」と記載されており、 (エ)その式(2)でn=3の環状オリゴマー成分の内部標準濃度換算値について、【0063】の【表2】に、実施例4では「67」であり、実施例1?3、5、6では、その値よりも下の値であることが記載されており、 (オ)【0033】には、「・・・・本実施形態の布帛は、該洗濯回数50回、100回後も吸水性を保持することができ、50回、100回後も吸水性が5秒以下となるのがさらに好ましい。洗濯時の洗剤は中性洗剤、弱アルカリ性洗剤等通常の洗剤が好適に用いられる。」と記載され、その洗濯100回後の吸水性について、【0051】に実施例1では「1秒未満」、【0054】に実施例4では「2秒」、【0056】に実施例6では「1秒」であることが記載されているから、 訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア.訂正事項2の、「60℃の温水で15分間洗浄する工程を2回繰り返して水洗する工程」とする訂正は、訂正前の「40℃以上の温水を1回以上使用して水洗する工程」の、温水の温度、洗浄時間及び洗浄回数を具体的に特定し、さらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.訂正事項2は、上記(2)ア.で述べたように、訂正前の請求項7の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ.本件特許明細書の【0030】に「通常、アルカリ処理の後には酸で中和し、水洗するが、本発明においては特定のオリゴマー除去処理を行うことが非常に重要である。特定のオリゴマー除去処理により、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去することができる。オリゴマー除去の方法はいくつか挙げられる。たとえばオリゴマー除去剤を使用する方法や水洗を強化する方法などである。このうち、アルカリ処理後の水洗を強化する方法が、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去し、吸水性に寄与するn=4?10の末端カルボン酸の直鎖オリゴマーが除去されにくいことから特に好ましい。水洗の条件としては、例えば、10?30分間を2回以上行うことが好ましい。2回以上とは一度水を排水し、水を入れ替えることを2回以上行うことを意味する。40℃?60℃の温水を1回以上使用することがさらに好ましい。尚、中和時の酸には揮発性の酢酸等が好適に用いられる。設備によってはアルカリ溶液を回収し、その後に中和し、水洗を強化してもよい。」と記載され、【0063】の【表2】には、実施例1?6が水洗条件Aで洗浄され、その洗浄条件Aは「注水後60℃まで昇温し、15分間洗浄する。排水後、再度注水して、60℃まで昇温し、15分間洗浄する。」と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2?7は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち本件発明1は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 S元素を0.005?1wt%含有し、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維を含み、前記ポリエステル繊維の表面に、下記(1): {式中、n=4である。}で表される末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度3.1?5.9μg/mlに相当し、下記(2): {式中、n=3である。}で表される環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度67μg/ml以下に相当し、JIS L0217 103 C法による洗濯30回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下であり、かつ、JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下である吸水性布帛。」 2.取消理由の概要 本件発明1?7に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、申立人が主張した申立理由は、すべて採用した。 以下、甲第1号証?甲第9号証を、甲1?甲9という。 理由1)本件発明1?7は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2)本件発明1?7は、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1?甲9に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 [理由1、理由2] 甲1:特開2014-101599号公報 甲2:下村光一郎他、「接触ばっ気処理法の産業排水への適応性の検討(第2報)」、横浜市郊外研究所報第8号、1983年、127?131頁 甲3:林茂助編集、「染色加工講座4-精練・漂白および浸染1-」、初版6刷発行、共立出版株式会社、昭和43年6月25日、32?33頁 甲4:公益財団法人岐阜県産業経済振興センター、平成25年度戦略的基盤技術高度化支援事業「高機能・高感性な超極細繊維製品を省エネルギーで実現する割繊・染色一体加工技術の開発」研究開発成果等報告書概要版、平成26年3月、1?35頁 甲5:特開平11-12925号公報 甲6:特開平10-317276号公報 甲7:特開2005-89891号公報 甲8:特開2002-115175号公報 甲9:特開2005-264378号公報 本件特許に係る出願は、本件発明1の「n=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量」及び「n=3の環状オリゴマー成分の量」に係る事項が、優先権主張に係る出願(特願2013-243248号、特願2014-116251号)に記載されたものではないため、本件発明1?7は、優先権主張に係る出願に記載された発明であるとはいえず、優先権主張に伴う効果は認められない。 一方、甲1の実施例1?5の吸水性布帛は、「JIS L0217 103 C法」による洗濯30回後の「JIS L1907 滴下法」により評価した吸水性が、いずれも「2秒」又は「1秒」であり、そのような性能を発揮することからすれば、本件発明1?7の「n=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量」及び「n=3の環状オリゴマー成分の量」を満たすものといえる。 よって、本件発明1?7は、甲1に記載された発明である。 また、仮に相違するとしても、その相違点は、甲2?甲9に記載の周知技術を踏まえれば、当業者にとって容易に想到することができるものであり、本件発明1?7は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [理由3] 請求項1には、「S元素を0.005?1wt%含有し、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維を含み、該ポリエステル繊維の表面にn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度2?15μg/mlに相当し、n=3の環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度80μg/ml以下に相当し、」と記載されているが、「n=4」回や「n=3」回繰り返す、重合単位が「エチレンテレフタレート」に限られるのか不明であり、「n=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分」、「n=3の環状オリゴマー成分」が何を示すのか不明である。 3.当審の判断 (1)理由3(特許法第36条第6項第2号)に係る取消理由についての判断 事案に鑑み、まず理由3について検討すると、請求項1の「n=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分」及び「n=3の環状オリゴマー成分」については、本件訂正請求が認められることにより、それぞれ、上記式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分であり、上記式(2)でn=3の環状オリゴマー成分であることが明確となったから、本件発明1の「n=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分」及び「n=3の環状オリゴマー成分」が何を示すのか不明であるということはない。 よって、本件発明1?7に係る請求項の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。 (2)理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)に係る取消理由についての判断 ア.甲1(特に、請求項1、【0027】の実施例1)には、以下の甲1発明が記載されている。 「84dtex/36fのナトリウムイソフタル酸ジメチル- 5 -スルホン酸を2モル%含有するポリエステル丸型断面糸の加工糸と84dtex/72fのポリエステル丸型断面加工糸からなる生機を、液流染色機にて精練、水洗した後に、プレセットを行い、その後、液流染色機にてアルカリ処理を施し、中和、水洗し、その後、染色、水洗を行い、ピンテンターにて、しわが取れる程度に伸長し、ファイナルセットを行って得た、目付145g/m^(2)、厚み0.66mmの編地であって、この編地のJIS L0217 付表1の103法とJIS L1096 F-2中温ワッシャー法での洗濯30回後の吸水性は、それぞれ、2秒と7秒である、吸水性布帛。」 イ.本件発明1と甲1発明を対比すると、 本件発明1の吸水性布帛が、上記式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が内部標準換算濃度3.1?5.9μg/mlに相当し、上記(2)でn=3の環状オリゴマー成分の量が内部標準換算濃度67μg/ml以下に相当し、JIS L0217 103 C法による洗濯30回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下であり、かつ、JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下であるのに対し、 甲1発明の吸水性布帛が、JIS L0217 付表1の103法とJIS L1096 F-2中温ワッシャー法での洗濯30回後の吸水性は、それぞれ、2秒と7秒であるものの、上記式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量と、上記(2)でn=3の環状オリゴマー成分の量については特定されていない点で、少なくとも相違する。 ウ.この相違点について検討する。 (ア)本件特許明細書の【0030】には「通常、アルカリ処理の後には酸で中和し、水洗するが、本発明においては特定のオリゴマー除去処理を行うことが非常に重要である。特定のオリゴマー除去処理により、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去することができる。・・・・このうち、アルカリ処理後の水洗を強化する方法が、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去し、吸水性に寄与するn=4?10の末端カルボン酸の直鎖オリゴマーが除去されにくいことから特に好ましい。水洗の条件としては、例えば、10?30分間を2回以上行うことが好ましい。2回以上とは一度水を排水し、水を入れ替えることを2回以上行うことを意味する。40℃?60℃の温水を1回以上使用することがさらに好ましい。」と記載されている。 また、本件特許明細書中の実施例及び参考例の記載(【0063】の【表2】)において、「注水後60℃まで昇温し、15分間洗浄する。排水後、再度注水して、60℃まで昇温し、15分間洗浄する」という「水洗条件A」により洗浄した場合には、上記式(1)でn=4の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量と、上記式(2)でn=3の環状オリゴマー成分の量が、それぞれ、実施例1では「4.5」と「53」、実施例4では「3.1」と「67」、実施例6では「5.9」と「52」であるのに対し、「注水後20℃の条件で15分間洗浄する」という「水洗条件B」の場合には、参考例7で「2.5」と「135」とされている。さらに、「JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性」についても、「水洗条件A」により洗浄した場合には、実施例1(【0051】)では「1秒未満」、実施例4(【0054】)では「2秒」、実施例6(【0056】)では「1秒」であるのに対し、「水洗条件B」により洗浄した場合には、参考例7(【0057】)で「10秒」とされている。 本件特許明細書のこれらの記載からすると、アルカリ処理後に特定の水洗条件により洗浄することで、吸水性に寄与するn=4?10の末端カルボン酸の直鎖オリゴマーを残しつつ、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去することができ、要求される洗濯耐久性を備えることができるものと理解できる。 (イ)一方、甲1発明の吸水性布帛は、「アルカリ処理を施し、中和、水洗」するものであるが、その「水洗」について、甲1には、上記の「水洗条件A」の洗浄を施すとは記載されていないし、アルカリ処理後の水洗条件に着目することにより、吸水性に寄与するn=4?10の末端カルボン酸の直鎖オリゴマーを残しつつ、吸水性を阻害する環状オリゴマーを除去することができ、洗濯を重ねた後も吸水性を保持できることを示唆する記載はない。 (ウ)そうすると、甲1発明の吸水性布帛は、上記の「水洗条件A」の洗浄を施したものとはいえないし、アルカリ処理後の水洗条件に着目して洗浄を施したものでもないから、そのような甲1発明の吸水性布帛が、上記相違点に係る構成を備えるものとはいえず、本件発明1と甲1発明との間の上記相違点は、実質的なものである。 よって、本件発明1は甲1発明ではない。 エ.そして、甲1発明は、「吸水加工を施さない場合においても半永久的に吸水する布帛」(甲1の【0005】)を得ることを課題にして、「特定のポリエステル糸を含む布帛に特定のアルカリ処理を施すことにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った」(同【0006】)ものであり、上記ウ.で述べたように、甲1には、洗濯を重ねた後も吸水性を保持するために、水洗条件に着目する旨の記載も示唆もないから、甲2?甲9に、さまざまなアルカリ処理後の水洗条件が記載されているとしても、水洗条件について着目するものではない甲1発明において、あえて水洗条件として甲2?甲9のものを採用しようとする動機付けがない。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲9に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ.本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記のとおり、本件発明1は甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2?甲9に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?7についても、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2?甲9に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 カ.よって、本件発明1?7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 S元素を0.005?1wt%含有し、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステル繊維を含み、前記ポリエステル繊維の表面に、下記(1): {式中、n=4である。}で表される末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度3.1?5.9μg/mlに相当し、下記(2): {式中、n=3である。}で表される環状オリゴマー成分の量が、内部標準換算濃度67μg/ml以下に相当し、JIS L0217 103 C法による洗濯30回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下であり、かつ、JIS L0217 付表1の103 C法による洗濯100回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以下である吸水性布帛。 【請求項2】 JIS L0217 103 C法による洗濯1回後のJIS L1907 滴下法による吸水性が5秒以内である、請求項1に記載の吸水性布帛。 【請求項3】 前記S元素を0.005?1wt%含有するポリエステル繊維が、エステル形成性スルホン酸塩化合物を0.5?5モル%含有するポリエステル繊維である、請求項1または2に記載の吸水性布帛。 【請求項4】 前記エステル形成性スルホン酸塩化合物が、金属スルホネート基含有イソフタル酸である、請求項3に記載の吸水性布帛。 【請求項5】 前記S元素を0.005?1wt%含有するポリエステル繊維の表面100μm^(2)内に長さ0.5?5μmのピットが0.1?30個形成されている、請求項1?4のいずれか1項に記載の吸水性布帛。 【請求項6】 前記末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分のうち、n=8の末端カルボン酸の直鎖オリゴマー成分の、内部標準に対するピーク強度比が0.005?0.100である、請求項1?5のいずれか1項に記載の吸水性布帛。 【請求項7】 前記S元素を0.005?1wt%含有するポリエステル繊維を含む布帛に、該ポリエステル繊維に対して減量率0.6?9%でアルカリ減量を施す工程、及び、60℃の温水で15分間洗浄する工程を2回繰り返して水洗する工程を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の吸水性布帛の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-06-20 |
出願番号 | 特願2015-549225(P2015-549225) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M) P 1 651・ 113- YAA (D06M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 蓮井 雅之 |
登録日 | 2017-02-24 |
登録番号 | 特許第6095798号(P6095798) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 吸水性布帛 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 三間 俊介 |